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2010年4月17日 (土)

原子核のγ崩壊とメスバウアー効果(1)

 原子核のγ崩壊についての記事は私自身の古典電磁気学の復習のために意図していた時期よりも2ヶ月も遅れました。やっと本題に入れます。

 ちなみにα崩壊の話なら,2006年10/4,10/5の記事「原子核のα崩壊の理論(Ⅰ)」,「原子核のα崩壊の理論(Ⅱ)」があります。

 さて,原子核:ZANの励起状態|i>≡|Iiπii>がγ線を放出して終状態|f>≡|Ifπff>へ転移(transit)するとします。

ただし,Mは"核スピンのz軸成分=磁気量子数"です。また,放出γ線のエネルギーをEγ≡hcω=hcc||とします。cは光速,はγ線の波数ベクトルです。hc≡h/(2π)で,hはPlanck定数です。

一定のスピンの偏極(polarization):(Mi-Mf)を持つ"γ線の量子=光子(photon)"が単位時間に波数ベクトルの周りの微小立体角dΩに放出される確率をu(Mi,Mf)dΩとすると,摂動論からこれはよい近似でu(Mi,Mf)dΩ=(2π/c)|<f|Hγ'|i>|2(dn/dEγ)dΩと表わされます。

ここにHγ'は,"電磁場(γ線)と核の相互作用=電磁相互作用"のハミルトニアン(Hamiltonian)です。これは具体的にはHγ'=∫jeμ(,t)μ(,t)3=∫ρe(,t)φ(,t)3-∫e(,t)(,t)3で与えられます。

ただしeμ(cρe,e)=(cρee),μ(φ/c,)です。ρe(,t)は電荷密度,e (,t)は電流密度です。

を時刻tに位置にある電荷の速度とすると,伝導電流が存在しないときにはe(,t)=ρe(,t)と書くことができます。

時刻tでの全電荷をq(t)=∫ρe(,t)3とします。また,"全偏極=電気双極子(electric dipole)"を(t)=∫ρe(,t)3で,磁気双極子(magnetic dipole)をμ(t)=(1/2)∫×e(,t)3で表わします。

また,電気四重極子(electric quadrapole)をQij(t)=∫ρe(,t)(3ij-δij2)3とします。磁気四重極子は通常速度では電気のそれに比べて無視できる量なので詳細な表現は割愛します。

元々,双極子,四重極子etc.の多重極展開(multi-pole expansion)はラプラス方程式(Laplace eq.)やポアソン方程式(Poisson eq.)に従う静電場,または静磁場に適用されたものです。

 

すなわち,静電場,または静磁場をそれぞれ点電荷の球対称なクーロン電場(Coulomb field)とその微分,または双極子電流によるアンペール(Amprere')やビオ・サバール(Biot-Savart)の磁場とその微分を与える動径関数と球面調和関数(spherical harmonics)の積で表わされる項の和で表現するものです。

静電場,静磁場を与える一般的な電磁ポテンシャルはφ()={1/(4πε0)}∫d3'[ρe(')/|'|],()=0/(4π)}∫d3'[e(')/|'|]です。

この電磁ポテンシャルφ(),()の4成分のうちの1つをψ()と書けば,これはラプラス方程式∇2ψ()=0 を満たします。

 

ただし,∇2はラプラス演算子(Laplacian)で,∇2≡∂2/∂x2+∂2/∂y2+∂2/∂z2で定義される微分演算子です。

ラプラス演算子を極座標で書くと,∇2(∂/∂r){r2(∂/∂r)}-(2/hc2)/r2と書けます。ただしは軌道角運動量:L≡r××(-ihc∇)です。

軌道角運動量の成分の極座標表示は,x=-ihc(y∂/∂z-z∂/∂y)=-ihc{-sinφ(∂/∂θ)-cosθsin-1θcosφ(∂/∂φ)},Ly=-ihc(z∂/∂x-x∂/∂z)=-ihc{cosφ(∂/∂θ)-cosθsin-1θsinφ(∂/∂φ)},Lz=-ihc(x∂/∂y-y∂/∂x)=-ihc(∂/∂φ)です。

故に,2=hc2[sin-1θ(∂/∂θ)sinθ(∂/∂θ)+sin-2θ(∂2/∂φ2)]となるためにラプラス演算子が∇2=r-2(∂/∂r){r2(∂/∂r)}-(2/hc2)/r2と表わされるわけです。

そこで.ラプラス方程式の一般解はψ()=Σl=0Σm=-lll(r)Ylm(Ω)なる多重極展開として表現できます。

lm(Ω)=Ylm(θ,φ)は球面調和関数です。これは軌道角運動量の固有値方程式:2lm(Ω) =l(l+1)hc2lm(Ω),およびLzlm(Ω)=mhclm(Ω)を満たします。

一方,動径関数Rl(r)は常微分方程式:{d2/dr2+(2/r)d/dr-l(l+1)/r2}Rl(r)=0 の解です。

 

l(r)に対するこの2階方程式の独立な解としてrl,r-(l+1)を採用すれば,ラプラス方程式の一般解の1表現:ψ()=Σl=0Σm=-ll[All+Bl-(l+1)]Ylm(Ω)を得ます。

静電磁場ではなく"共変ゲージ=ローレンツゲージ(Lorenz gauge)":∇+c-2(∂φ/∂t)=0 を満たす一般の時間に依存する場の電磁ポテンシャルφ,を遅延ポテンシャル(retarded- potential)で表わすと,φ(,t)={1/(4πε0)}∫d3'[ρe(',t')/|'|],(,t)=0/(4π)}∫d3'[e(',t')/|'|];t'≡t-|'|/cと書けます。

これらを見ると,電荷分布ρe(,t),電流密度e(,t)の時間tへの依存性を除けば電磁ポテンシャルは静場のクーロン電場やアンペール磁場のそれに一致する形をしています。

しかし,静電場,静磁場のポテンシャルφ(),()がラプラス方程式:∇2φ()=0,∇2()=0 の解であるのに対し,一般の場は"時間に依存する波動方程式=ダランベール(D'Alembert)の方程式":□φ(,t)=0,□(,t)=0 の解です。

ただし,□はダランベール演算子(D'Alembertian)と呼ばれる微分演算子で,□≡c-2(∂2/∂t2)-∇2で定義されます。

遅延ポテンシャルはローレンツゲージ∇+c-2(∂φ/∂t)=0 を満たしていて,かつ=-∇φ-∂/∂t,=∇×によって電場,磁場を与えます。

もしも,場が時間tによらない静電場,静磁場なら∂φ/∂t=0,/∂t=0 なのでローレンツゲージ∇+c-2(∂φ/∂t)=0 はクーロンゲージ∇0 に帰着します。

 

また,=-∇φ-∂/∂t,=∇×静場の場合の電場,磁場の表現=-∇φ,=∇×に帰着します。

さて,静場でない一般的な場の時間依存部分を変数分離してφ(,t)=∫φ^(,ω)exp(-iωt)dω,(,t)=∫^(,ω)exp(-iωt)dωとフーリエ(Fourier)積分で表現してみます。

すると,φ^(),^()はヘルムホルツ方程式(Helmholtz eq.)の解です。すなわち,φ^(),^()の4成分の任意の1つをψ(,ω)と書けば,これは方程式(∇2+k2)ψ(,ω)=0 を満たします。ただしk=ω/cです。

特に,複素表現で場の時間依存性が因子:exp(-iωt)のみに比例する場合,つまり角振動数ωが一定の単色平面波の場合を仮定すれば,電磁ポテンシャルはφ(,t)=φ^()exp(-iωt),(,t)=^()exp(-iωt)と書けます

このときのφ^(),^()の4成分のうちの任意の1つψ()ももちろんヘルムホルツ方程式(∇2+k2)ψ()=0 を満たします。

それ故,静場のラプラス方程式∇2ψ()=0 の一般解と同じく,ヘルムホルツ方程式の一般解もψ()=Σl=0Σm=-lll(r)Ylm(Ω)と多重極展開されます。

動径関数Rl(r)は静場では{d2/dr2+(2/r)d/dr-l(l+1)/r2}Rl(r)=0 を満たすのに対し,一般の場では{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}Rl(r)=0 を満たします。

そこで,ヘルムホルツ方程式の一般解としてψ()=Σl=0Σm=-ll[Aljl(kr)+Bll(kr)]Ylm(Ω)なる展開式を得ます。ただしjl(x),nl(x)は球面ベッセル関数(spherical Bessel function)です。

このjl(x),nl(x)はベッセル関数Jl+1/2(x),Nl+1/2(x)からjl(x)≡{π/(2x)}1/2l+1/2(x),nl(x)≡{π/(2x)}1/2l+1/2(x)で定義されます。

これらは,jl(x)=(-x)l{(1/x)d/dx}l(sinx/x),nl(x)=-(-x)l{(1/x)d/dx}l(cosx/x)なる表現を持ちますからx=0 の近傍ではjl(x)→{xl/(2l+1)!!}[1-x2/{2(2l+1)}+..],nl(x)→-(2l-1)!!/xl+1と近似できます。

記号(2l+1)!!は,(2l+1)!!≡(2l+1)(2l-1)(2l-3)..5・3・1,(2l-1)!!≡(2l-1)(2l-31)(2l-5)..5・3・1です。

原子核から放射される個々のγ線は単一の角振動数ωを持つことを想定して,φ(,t)=φ^()exp(-iωt),(,t)=^()exp(-iωt)なる形の単色波を仮定した場合,ローレンツ条件:∇+c-2(∂φ/∂t)=0 は∇^iωc-2φ^=0に帰着します。

また,電場,磁場の表現:=-∇φ-∂/∂t,=∇×^=-∇φ^+iω^,^=∇×^に帰着します

変動の少ない電荷や電流から放射された電磁波であれば,φ(,t),(,t)の形は平面波exp{i(kr-ωt)}に近いと考えられます。そこでローレンツ条件^iωc-2φ^=0 はさらにkA^-ωc-2φ^~ 0 と近似されます。

したがって,^とφ^の大きさを比較すると,k=||=ω/cよりk|^|~ωc-2|φ^|なのでオーダー的には|^|~|φ^|/cです。

以上から,原子核の中心=0 に集中した電荷の時間変動が激しくない:∂ρ/∂t~ 0,ω/c<<1と見なせる場合は,φ,の1成分ψ()の展開:ψ()=Σl=0Σm=-ll[Almjl(kr)+Blml(kr)]Ylm(θ,φ)を静場の展開:ψ()=Σl=0Σm=-ll[Alml+Blm-(l+1)]Ylm(θ,φ)で近似してよいと考えられます。

つまり,電荷の変動が激しくない場合の近似は,jl(kr)を(kr)l/(2l+1)!!で,nl(kr)を(kr)-(l+1)(2l-1)!!で置き換える近似に相当しています。

こうした近似が有効な場合,電磁相互作用Hγ'=∫ρe(,t)φ(,t)3-∫e(,t)(,t)3多重極展開は,次のようなによるテイラー(Tayler)展開と同等であると思われます。

まず,φ()のテイラー展開:φ()=φ(0)+∇φ^+(1/2)Σijij(ijφ)+..=φ(0)-rE(0)-(1/2)Σijij(ij)+..より∫ρe()φ()3∫ρe()φ(0)3[∫ρe()3](0)-(1/2)Σij[∫ρe()(ij)3](ij)+..=qφ(0)-PE(0)-(1/6)Σijijij(1/2)∇∫ρe()r23..を得ます。

しかし,電荷qが中心に集中している原子核ならρe()~qδ3()ですから,=ρe(0)/ε0=qδ3(0)/ε0,∫ρe()r23=qδ3()r230 より(1/2)∇∫ρe()r23~q2{rδ3()}230 となります。

結局,∫ρe()φ()3qφ(0)-PE(0)-(1/6)Σijijij..なる展開式が得られます。

一方,-∫e(,t)(,t)3は-∫e()()3=-Σk∫jek(){k(0)+xjjk(1/2)Σijij(ijk)+..}3[∫e()3](0)Σk[jek(iiik]3..と表わすことができです。

右辺第1項は全空間の総電流がゼロであること:∫e()30 からゼロです。

  

実は,電荷密度の変動がゼロ:∂ρe/∂t=0 と近似できるときには電荷の保存の方程式がe()=0 なので∇{ke()}=Σii{kei()}=ek()です。そこで,常に∫ek()d3=0 (k=1,2,3)が成立します。

そして,右辺第2項Σk[jek(iiik]3を評価するため公式:[×(∇×)]kΣijΣlmεkijiεjlmlmΣilm[(δklδim-δkmδil)ilm]=Σi[Aikiiik]=(k)-(∇)Bk,または-Σi(Aiik)=[×(∇×)]k(k)を用います。

この最後の式:-Σi(Aiik)=[×(∇×)]k(k)において,()|→0で置き換えると-Σi(xiik)=[×(∇×)]k(k)を得ます。

∇×ですから,これは-Σi(xiik)=(×)k(k)です。さらにe()との積和:Σkek()を取るとΣkek(i(xiik)=e()(×)-Σkek()(k)=-[×e()]Σkek(i(xiki)です。

ところが,定常e()=0 の場合,∇{jke()}=Σii{jkei()}=kei()+kek()により,∫{kei()+iek()}d3=0 ですからΣkΣi[ik∫{xiek()+kei()}d3]=0 となります。

以上から,Σk[jek(i(xiki)]d3=-Σk[jek(i(xiik)]d3です。

 

それ故,-2Σk[jek(i(xiik)]d3=-[×e()3](0)なる等式を得ます。

そこで,磁気双極子モーメントμの環状電流による積分表現μ=(1/2)∫{×e()}3から,-Σk[jek(i(xiik)]d3=-μ(0)と書けることがわかります。

結局,-∫e()()3=-μ(0)+..なる展開を得ます。

磁気四重極子は電気四重極子に比べ無視できる量ですから,静電磁場に近い微小変動の原子核との電磁相互作用を示す摂動Hγ'は,Hγ'= ∫jμe()μ()3=∫ρe()φ()3-∫e()()3qφ(0)-PE(0)μ(0)-(1/6)Σijijij..なる展開で表現されることがわかります。

今日はここで終わります。(つづく)

八木浩輔著「原子核物理学」(朝倉書店),八木浩輔 著「原子核と放射」(朝倉書店),砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店),ジャクソン著(西田 稔 訳)「電磁気学(上),(下)」(吉岡書店) 

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