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2010年4月30日 (金)

散乱の伝播関数の理論(2)(Lippman-Schwinger-2)

散乱の伝播関数の理論の続きです。

 

まず,前回の最後の部分を再掲します。

 

(※以下再掲記事(少し修正)です。)

 

T≡S-1とすると,Tの行列要素はTba≡-2πiδ(Ea-Eb)ba;

ba≡<Φb1Ψa(+)>=<Ψa(-)1Φb>と表現できます。

 

これは,Ea=Ebのエネルギーが等しい状態だけで定義される関連行列要素による等価な表現です。

 

この結果,遷移確率を与える公式:

ba2[δ(Ea-Eb)]2|ba |2 が得られます。

 

 (再掲終わり※)

 

 さて,前回の続きです。

 

 [δ(Ea-Eb)]2のうち,1つの因子δ(Ea-Eb)を時間積分:

δ(Ea-Eb)=(2πhc)-1-∞exp{i(Ea-Eb)t/hc}

exp(-ε|t|)dt (ε→+0) と解釈します。

 

これと,もう1つのδ(Ea-Eb)因子により,Ea=Ebを代入すると,

[δ(Ea-Eb)]2=(2πhc)-1δ(Ea-Eb)∫-∞dtです。

 

故にWba=(2π/hc)δ(Ea-Eb)|ba |2-∞dt を得ます。

 

この式は,遷移が系の2つの成分の等エネルギー状態の間でのみ生じ,

遷移確率の強さは相互作用が有効に効く全時間に比例することを示し

ています。

 

ε→+0 の理想的極限では,後者(=全時間:∫-∞dt)は無限大に発散してしまいます。

 

しかし,この表現:Wba=(2π/hc)δ(Ea-Eb)|ba |2-∞dtは,

単位時間に遷移確率がwba=(2π/hc)δ(Ea-Eb)|ba |2の率で増

加すると解釈できます。

 

上の結果式のより納得できる導出法は,最初に状態aにあった系が時刻tに状態bに見出される確率の単位時間当たりの増加率(遷移速度 or 遷移率)を文字通りに表現する式:wba=(∂/∂t)|<Φb+(t)Φa>|2を評価することです。

 

|<Φb+(t)Φa>|2=<Φb+(t)Φa*<Φb+(t)Φa

=<U+(t)Φab><Φb+(t)Φa>ですから,

 

ba=<{∂U+(t)/∂t}Φab ><Φb+(t)Φa

+<U+(t)Φab><Φb{∂U+(t)/∂t}Φa>です。

 

右辺第2項は第1項の複素共役(c.c)です。

 

これは運動方程式ihc∂U+(t)/∂t=1(t)U+(t)によって,

ba=(i/hc)<1(t)U+(t)Φab ><Φb+(t)Φa

+(c.c) となります。(※ c.cは複素共役 complex conjugate の略)

 

そして,<1(t)U+(t)Φab

=<exp(i0t)1exp(-i0t/hc)U+(t)Φab

=<Φbexp(i0t/hc)1exp(-i0t/hc)U+(t)Φa*

 

=exp(-iEbt/hc)<Φb1exp(-i0t/hc)U+(t)Φa*

=<1exp{i(Eb0)t/hc}U+(t)Φab

=<exp{i(Eb0)t/hc}U+(t)Φa1Φb> です。

 

一方,<Φb+(t)Φa>に,

+(t)=1-(i/hc)∫-∞tdt'1(t')U+(t')

=1-(i/hc)∫-∞tdt'exp(i0t'/hc)1exp(-i0t'/hc)

+(t') を代入します。

 

b≠aなら,<Φb+(t)Φa

=(-i/hc)∫-∞tdt'<Φbexp(i0t'/hc)1exp(-i0t'/hc)

+(t')Φa

=(-i/hc)∫-∞tdt'<Φb1exp{i(Eb0)t'/hc}

+(t')Φaとなります。

 

それ故,wba=(i/hc)<1(t)U+(t)Φab ><Φb+(t)Φa

+(c.c)=(1/hc2)∫-∞tdt'<exp{i(Eb0)t/hc}U+(t)Φa

1Φb<Φb1exp{i(Eb0)t'/hc}U+(t')Φa>+(c.c)

なる式を得ます。

 

ところで,

Ψa(+)(E)≡∫-∞dtexp{i(E-0)t/hc}exp(-ε|t|/hc)

+(t)Φa,および,Ψa(±)(E)≡2πhcδ(E-Eaa(±)より,

 

Ψa(+)(E)=∫-∞dtexp{i(E-0)t/hc}exp(-ε|t|/hc)

+(t)Φa=2πhcδ(E-Eaa(+) が成立します。

 

これは,exp(-i0t/hc)U+(t)Φa=exp(iEat/hca(+)なることを意味します。

 

そして,また我々の理想定常状態のSchroedinger表示の状態ベクトルになっています。

 

代入すると,wba=(1/hc2)∫-∞tdt'<exp{i(Eb0)t/hc}

+(t)Φa1Φb><Φb1exp{i(Eb0)t'/hc}U+(t')Φa

+(c.c)=(1/hc2)∫-∞tdt' exp{i(Ea-Eb)(t-t')/hc}

<Ψa(+)1Φb><Φb1Ψa(+)>+(c.c) となります。

 

すなわち,

ba=(1/hc2)|ba|2-∞tdt'exp{i(Ea-Eb)(t-t')/hc}

+(c.c)=(2π/hc)|ba|2δ(Ea-Eb) が導かれました。

 

そして,演算子Tの一般的性質:TT=-(T+T)から始状態からの全遷移速度に対する簡単な表現が得られます。

 

すなわち,TT=-(T+T)を行列要素で書くと,

Σbba*bc=-(Tac+Tca*)です。

 

これにTba=-2πiδ(Ea-Eb)baを代入すると,

2Σbδ(Ea-Eb)ba*δ(Eb-Ec)bc

=2πiδ(Ea-Ec)(acca*) を得ます。

 

 

特に,c=aとすると両辺のδ(Ea-Ec)は相殺されて,

2Σbδ(Ea-Eb)|ba|2δ=-4πIm(aa),

つまりΣbba=-(2/hc)Im(aa)が得られます。

 

(※訳注:↑これは光学定理です。)

 

この公式の左辺は総和の中にb=aが含まれているため,正確には状態aからの全遷移率ではありません。

 

しかし,こうした総和には単一の状態は寄与しません。

一般に状態のグループが要求されます。

 

こうしたタイプの関係式は,散乱媒質を通過する平面波の強度の減衰が元の波とその伝播方向に散乱される第二の波の間の破壊的干渉によって説明されるという波動理論において典型的なものです。

 

baに対する定常表現によって,方程式:

Ψa(±)=Φa+{1/(E±iε-0)}1Ψa(±)の変分定式化が

得られます。

 

すなわち,

 

T'ba=-(i/hc)∫-∞dt

[<exp{i(Ea0)t/hc}U-(t)Φb|1Φa

+<Φb|1exp{i(Eb0)t/hc}U+(t)Φa>]

 

+(i/hc)∫-∞dt

<exp(-i0t/hc)U-(t)Φb|1exp(-i0t/hc)U+(t)Φa

+(i/hc)2-∞dt∫-∞dt'

<exp(-i0t/hc)U-(t)Φb|1exp{(-i0(t-t')/hc)

1exp(-i0t'/hc)U+(t)Φa

 

なる作用を想定します。

 

 そして,exp(-i0t/hc)U±(t)Φa=exp(iEat/hca(±)

 なる仮定に従う定常状態の族に限定して考えます。

 

 積分を実行すると,'ba=<Ψb(-)1Φa>+<Φb1Ψa(+)

-<Ψb(-)1Ψa(+)>+<Ψb(-)1{1/(E+iε-0)}1Ψa(+)

が得られます。

 

 ただし,Eは状態aとbの共通のエネルギーです。

 

 δ'ba=<δΨb(-)1a+{1/(E+iε-0)}1Ψa(+)-Ψa(+)]>

 +<[Φb+{1/(E-iε-0)}1Ψb(-)-Ψb(-)]1δΨa(+)

 ですから,

δ'baがゼロになるという停留条件より,

 Ψa(±)=Φa+{1/(E±iε-0)}1Ψa(±) を得ます。

 

 

 さらに,このときの'baの停留値は,

 ba≡<Φb1Ψa(+)>=<Ψa(-)1Φb> に一致します。

 

 

 同様に,Hermite演算子Kについても,Kba=2πδ(Ea-Ec)ba;

ba≡<Φb1Ψa(1)>=<Ψa(1)1Φb> と書けます。

 

ただし,時間に依存しないベクトルΨa(1)は,

exp(-i0t/hc)V(t)Φa=exp(iEat/hca(1)なる関係を

満たす定常状態であり,方程式:Ψa(1)=Φa+P{1/(E-0)}1Ψa(1)

に従います。

 

と同様に,の変分定式化の作用は,

'ba=<Ψb(1)1Φa>+<Φb1Ψa(1)>-<Ψb(1)1Ψa(+)

+<Ψb(1)1P{1/(E-0)}1Ψa(+)

で与えられます。

 

そして,T=S-1;S=V(∞)/V(-∞)=(1-iK/2)/(1+iK/2)よりT=-iK/(1+iK/2),つまり,T+iKT/2=-iKです。

 

この等式の行列要素にTba≡-2πiδ(Ea-Eb)ba,

ba=2πδ(Ea-Eb)baを代入します。

 

2πiδ(Ea-Eb)ba+2π2Σcδ(Eb-Ec)bcδ(Ea-Ec)ca

=-2πiδ(Ea-Eb)baですから,等エネルギー状態に限定して,

ba+πiΣcbcδ(Ec-E)cabaを得ます。

 

ただし,Eはaとbの共通エネルギーです。

 

 この方程式を解く効果的な方法は,固有値方程式:

 Σabaδ(Ea-E)faAAbAを満たすの固有関数を見出す

 ことです。

 

はHermite行列なので固有値Aは実数で,固有関数faAは次のように直交規格化できます。ΣaaA*δ(Ea-E)faB=δABです。

 

これを使うと,の行列要素はba=ΣAbAAaA*と表わせます。

 

それ故,A+πiAAA orAA/(1+πiA)として,

ba=ΣAbAAaA*とおけば,

式:ba+πiΣcbcδ(Ec-E)caba が満たされます。

 

このことからいえるのは,の関数で同じ固有関数を持ち,その固有値がの固有値から決まるということだけです。

 

そこで,A=-(1/π)sinδAexp(iδA)となるようの固有値を

A≡-(1/π)tanδAとして,角度δAを導入した表現が便利です。

 

遷移速度wbaをこうした表現を使って表わせば

ba{2/(πhc)}ΣAsinδAexp(iδA)fbAaA* |2δ(Ea-E)

となります。

 

またbba=-(2/hc)Im(aa)より,状態aからの全遷移速度は

Σbba={2/(πhc)}ΣAsin2δA|faA|2と表わされます。

 

最後にこの全遷移速度の同じエネルギーを持つ全ての始状態にわたる総和はΣb,abaδ(Ea-E)={2/(πhc)}|ΣAsin2δAです。

 

これらの結果は中心力場による粒子の散乱の伝統的位相のずれ

(phase shift)の解析で得られる馴染み深い式の一般化です。

 

中心力場での散乱では,の固有関数は対称性の考慮,すなわち始状態

aと終状態bを定義する伝播ベクトルa,bの同時の回転の下での

baの不変性から明らかです。

 

aAは"aの向きを決定する角度の関数=球面関数":faA=CYlm(a) (A=l,m)であると推論されます。

 

そして,の固有値Aは球面調和関数の次数,すなわちδA≡δlにのみ依存します。

 

定数Cは直交規格化条件aaA*δ(Ea-E)faB=δAB,今の中心力散乱のケースでは|C|2∫Ylm()Yl'm'()ρdΩ=δll'δmm'によって定めることができます。

 

ただし,ρdΩは立体角dΩの内部運動に関わるエネルギー値域当たりの状態数です。

 

これは等エネルギー状態にわたる総和の重み因子として生じます。

 

つまり,ρdΩは因子δ(Ea-E)によって制限される全ての状態にわたる総和を書き換えたものです。

 

空間の単位体積を想定してρを陽に表わすと,

ρ=p2dp/{(2πhc)3dE}=(8π3c)-1(k2/v)です。

 

2番目の式ではpを波数kと粒子の速さvで表現しています。

 

そこで,|C|2∫Ylm()Yl'm'()ρdΩ=δll'δmm'と規格化されるためには|C|2=1/ρ=8π3cv/k2が要求されます。

 

 

そして,次には粒子がa方向から方向bのまわりの立体角dΩに

散乱される単位時間当たりの確率wを遷移速度の式:

ba={2/(πhc)}|ΣAsinδAexp(iδA)fbAaA* |2δ(Ea-E)

から計算します。

 

単純な置換から,w={2/(πhc)}|Σl,msinδlexp(iδl)|C|2

lm(b)Ylm (a) *|2ρdΩが得られます。

 

このwを入射粒子の流束を示すvで割り|C|2=1/ρとすることにより

極角θ方向に散乱される微分断面積のよく知られた表現:

dσ(θ)=(1/k2)|Σl(2l+1)sinδlexp(iδl)Pl(cosθ)|2dΩ

を得ます。

 

ここで,球面調和関数についての定理:

Σm=-lllm(b)Ylm (a)*|={(2l+1)/(4π)}Pl(cosθ)

を用いました。

 

θはabのなす角,Pl(cosθ)はcosθのl次のLegendre多項式

です。

 

全散乱断面積σもΣbba{2/(πhc)}ΣAsin2δA|faA|2に対応して,

σ={2/(πhcv)}Σl,msin2δl|C|2|Ylm (a)|2

=(4π/k2l(2l+1)sin2δlとなります。

 

ここでは公式:Σm=-ll|Ylm (a)|2=(2l+1)/(4π)を用いました。

 

全断面積の式:σ=(4π/k2l(2l+1)sin2δlは,入射aの大きさ

kだけに依存して方向に依らないので,

 

Σb,abaδ(Ea-E)={2/(πhc)}|ΣAsin2δAと同等な結果も

直ちに得られます。

 

 

この節の最後に,中心力場による散乱の一般的性格を持つような問題:

の固有関数がその対称性から決まり,基本的問題は固有値A,or

相角δAを得ることであるような問題の変分定式化を考察します。

 

この目的のため,表現:ba=ΣAbAAaA*の逆が,

Σb,abB*δ(Eb-E)baaAδ(Ea-E)=AδABで与えられること

に着目します。

 

状態ベクトルA≡ΣaΦaaAδ(Ea-E),および,

ΨA(1)≡ΣaΨa(1)aAδ(Ea-E)を導入して,先に与えた

'ba=<Ψb(1)1Φa>+<Φb1Ψa(1)>-<Ψb(1)1Ψa(1)

+<Ψb(1)1P{1/(E-0)}1Ψa(1)> に代入します。

 

すると,'AδAB=-(1/π)tanδ'AδAB

=<ΨB(1)1ΦA>+<ΦB1ΨA(1)>-<ΨB(1)1ΨA(1)

+<ΨB(1)1P{1/(E-0)}1ΨA(1)> となります。

 

ΦAはより正確にはΦA,Eと書かれるべきで,これは,

<ΦA,EΦB,E'>=ΣaaA*δ(Ea-E)faBδ(Ea-E')

=δ(E-E')ΣaaA*δ(Ea-E)faB

=δABδ(E-E')を満たします。

 

そこでA=ΣaΦaaAδ(Ea-E),および,

ΨA(1)=ΣaΨa(1)aAδ(Ea-E)の逆は,

Φa=ΣAaA*ΦA,およびΨa(1)=ΣAaA*ΨA(1)となって,

の固有関数で展開できます。

 

ちょっと時間がないので,今日はここで終わります。

 

参考文献:「新編物理学選集32(素粒子理論)」(1961,第2版)

(日本物理学会編 )

 

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