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2010年4月 7日 (水)

電磁波の放射(4)(点電荷による電磁波1)

 「電磁波の放射」の続きです。

 今回は点電荷(point charge)による電磁波の放射です。

 まず,点電荷の軌道(orbital)が予め与えられていると仮定して,それを(t)と記述します。

 

 点電荷の全電荷(charge)をeとすると全空間にそれだけしか存在しない場合の電荷密度はρe(,)=eδ3((t)),電流密度はe(,)=ed(t)δ3((t))です。

 

 ただし,d(t)≡d(t)/dtです。

これを,通常の真空中の電磁ポテンシャルである一般的な遅延ポテンシャル(retarded potential)の表式:φ(,t)={1/(4πε0)}∫d3e(',t')/|'|,および(,t)=0/(4π)}∫d3'e(',t')/|'|;t'≡t-|'|/cに代入します。

すると,φ(,t)={e/(4πε0)}∫d33('-(t'))/|'|,(,t)={μe0/(4π)}∫d3'd(t')δ3('-(t'))/|'|;t'=t-||/cです。

これの空間積分を実行することで,例えばスカラーポテンシャル:φ(,t)はφ(,t)={e/(4πε0)}{1/|(t')|};t'=t-|'|/cになると考えがちですが,これは明らかに間違いです。

何故なら,空間積分を行なう前の被積分関数のデルタ関数はδ3('-(t'))=δ3('-(t-|'|/c))であり,の引数:t'=t-|'|/cの中に空間積分の変数'を含んでいるからです。

 そこで,計算の余計な複雑化を避けるために上記表現を得る前,つまり時間積分∫dt'を行なう前の表現式:μ(,t)=Ainμ(,t)+∫d3'∫-∞tdt'{1/(4π|'|)}δ(t-t'-|'|/c)μ(',t')まで戻ります。

 すなわち,φ(,t)={e/(4πε0)}∫d3'∫-∞tdt'δ(t-t'-|'|/c)δ3('-(t'))/|'|,(,t)={eμ0/(4π)}∫d3'∫-∞tdt'δ(t-t'-|'|/c)d(t')δ3('-(t'))/|'|を出発点にします。

 こうすれば空間積分∫d3'は直ちに実行できて,φ(,t)={e/(4πε0)}-∞tdt'δ(t-t'-|(t')|/c)/|(t')|,(,t)={μe0/(4π)}∫d3'∫-∞tdt'δ(t-t'-|(t')|/c)d(t')/|(t')|となります。

 続いて行なうべき時間積分-∞tdt'は,空間積分の実行よりやや面倒です。そのためf(t')≡t'+|(t')|/cと定義すると,上記の電磁ポテンシャルの時間積分表式は-∞tdt'g(t')δ(t-f(t'))なる形です。

 上の最後の形の積分でy=f(t')と変数を置換します。y=f(t')がt'について,t'=f-1(y)≡h(y)のように解けるなら,dt'=(dh/dy)dyです。

 

 すると,∫dt'g(t')δ(t-(t'))=∫g(h(y))(dh/dy)δ(t-)dy=g(h(t)){dh(t)/dt}と書けます。

 それ故,y=f(t')=tを満たすt'をt0'と書けばt=f(t0'), or t0'=h(t)です。

 

 そこでdh(t)/dt=dt0'/dt={df(t0')/dt0'}-1ですから,∫dt'g(t')δ(t-(t'))=g(h(t)){dh(t)/dt}=g(t0'){df(t0')/dt0'}-1なる表現を得ます。

 f(t0')=t0'+|(t0')|/cなので,df(t0')/dt0'=1-(1/c)[{d(t0')/dt0'}{(t0')}]/|(t0')|です。

さらに,簡単のために(0')≡{(t0')}/|(t0')|,α(0')≡df(t0')/dt0'と置きます。

 

この(0')は,物理的には時刻t=f(t0')=t0'+|(t0')|/cにで受信する電磁波の発信時刻0'における荷電粒子の位置(t0')から受信点に向かう単位ベクトルを表わしています。

 一方,α(0')=df(t0')/dt0'の具体的な形は,α(0')=1-(1/c){d(t0')/dt0'}{(t0')}/|(t0')|=1-{d(t0')(0')}/c;d(t0')≡(t0')/dt0'です。

 したがって,結局φ(,t)=g(t0'){df(t0')/dt0'}-1{e/(4πε0)}{α(0')-1/|(0')|}={e/(4πε0)}[|(0')|-d(t0'){(0')}/c]-1,

 

 および,(,t)={eμ0/(4π)}(d(t0')/[|(0')|-d(t0'){(0')}/c])を得ます。

ただし,0'は位置における受信時刻tに対して,t0'=t-|(t0')|/cの解として得られる発信時刻です。

得られたφ(,t),(,t)の最終表式は,運動する点電荷によって生じる電磁ポテンシャルの一般表式ですが,これらは発見者の名を取ってリエナール・ウィーヘルトのポテンシャル(Lie’nard-Wiechert potential)と呼ばれます。

実際に観測される電場,磁場は,=-∇φ-∂/∂t,=∇×により電磁ポテンシャル:φ,から得られるので,運動する点電荷によって生じる電場,磁場はリエナール・ウィーヘルトのポテンシャルφ,やtによる微分を取れば得ることができます。

しかし,による微分を行うには0'=t-|(t0')|/cの中のについての微分も実行する必要があります。これは,またまたかなり面倒な課題です。

そこで,上記リエナール・ウィーヘルトのポテンシャルの導出が無駄なようにも見えますが,再び表式φ(,t)={e/(4πε0)}∫d3'∫-∞tdt'δ(t-t'-|'|/c)δ3('-(t'))/|'|,

 

(,t)={eμ0/(4π)}∫d3'∫-∞tdt'δ(t-t'-|'|/c)d(t')δ3('-(t'))/|'|に戻ります。

 この表現では,に関する微分は全て被積分関数の中の引数R≡|'|を通してのみ行なえばいいことがわかります。

 

 そして,∂R/∂x=(x-x')/R etc.ですから,∇={(')/R}(∂/∂R)=(∂/∂R),ただし≡(')/|'|=/R,'です。

よって,∇φ(,t)={e/(4πε0)}-∞tdt'∫d33('-(t'))(∂/∂R){δ(t-t'-R/c)/R}です。

 さらに,(t')≡(t'),R(t')≡|(t')|,(t')≡(t')/R(t')と置きます。そして,特にt'=0'のとき(0')は前に定義した(0')に一致します。

φ(,t)={e/(4πε0)}-∞tdt'[-(t')δ(t-t'-R(t')/c)/R2(t')+(t'){∂δ(t-t'-R(t')/c)/∂R(t')}/R(t')]です。

 一方,∂(,t)/∂t=0e/(4π)}-∞tdt'∫d3'[{d(t')δ3('-(t'))/R}{δ(t-t'-R/c)/∂t}={-μ0/(4π)}-∞tdt'[d(t'){∂δ(t-t'-R(t')/c)/∂R(t')}/R(t')]です。

 故に,(,t)={e/(4πε0)}-∞tdt'[(t')δ(t-t'-R(t')/c)/R2(t')-{(t')-d(t')/c}{∂δ(t-t'-R(t')/c)/∂R(t')}/R(t')]です。

 -∞tdt'積分を実行すると右辺第1項は{e/(4πε0)}[(t0')/{R2(t0')α(t0')}]です。

一方,第2項は{-e/(4πε0)}∫dy[(dh/dy){(t')-d(t')/c}{∂δ(t-y)/∂y}/R(t')]={e/(4πε0)}∫dyδ(t-y)(∂/∂y)[(dh/dy){(t')-d(t')/c}/R(t')]={e/(4πε0)}(∂/∂t)[(dh(t)/dt){(t0')-d(t0')/c}/R(t0')]です。

したがって,∂/∂t=α(t0')-1(∂/∂t0'),かつdh(t)/dt=α(t0')-1より(,t)={e/(4πε0)}((t0')/{R2(t0')α(t0')}+{cα(t0')}-1(∂/∂t0')[{(t0')-d(t0')/c}/{R(t0')α(t0')}])が得られます。

一方,(,t)=∇×(,t)={eμ0/(4π)}-∞tdt'∫d33('-(t')){×d(t')}(∂/∂R){δ(t-t'-R/c)/R}={eμ0/(4π)}-∞tdt'[{(t')×d(t')}{-δ(t-t'-R(t')/c)/R2(t')+{∂δ(t-t'-R(t')/c)/∂R(t')}/R(t')]です。

結局,(,t)={eμ0/(4π)}({d(t0')×(t0')}/{R2(t0')α(t0')}+{cα(t0')}-1(∂/∂t0')[{d(t0')×(t0')}/{R(t0')α(t0')}])を得ます。

 ダブリますが見易いように要約すると,(,t) ={e/(4πε0)}((t0')/{R2(t0')α(t0’)}+{cα(t0')}-1(∂/∂t0')[{(t0')-d(t0')/c}/{R(t0')α(t0')}]),

 

 (,t)={eμ0/(4π)}({d(t0')×(t0')}/{R2(t0')α(t0')}+{cα(t0')}-1(∂/∂t0')[{d(t0')×(t0')}/{R(t0')α(t0')}])です。

これらの表現式において(∂/∂t0')の項をさらに具体的に書き下すためd(t0')/dt0'を計算します。

(t0')/dt0'=(d/dt0')[{(t0')}/R(t0')]]=-d(t0')/R(t0')-[{(t0')}/2(t0')]・{d(t0')/dt0'}=[-d(t0')(t0'){(t0')d(t0')}]/(t0')です。

 ここで,×(×d)=(nzd)-d(nn)=-d(nzd)を用いると,(t0')/dt0'=(t0')×{(t0')×d(t0')}/(t0')を得ます。

 したがって,電場については(,t) ={e/(4πε0)}[(t0')/{R2(t0')α(t0')}+{cα(t0')}-1(t0')(∂/∂t0'){R-1(t0')α-1(t0')}-d(t0')]/{cR2(t0')α2(t0')}-{c2α(t0')}-1(∂/∂t0'){d(t0')-1(t0')α-1(t0')}]となります。

同様な手順ですが,磁場については最終式だけ書きます。

 

すなわち,(,t)={eμ0/(4π)}([d(t0')/{R2(t0')α2(t0')}+{cα(t0')}-1(∂/∂t0'){d(t0')R-1(t0')α-1(t0')}]×(t0'))です。

これらによると,点電荷による電磁場でも(,t)=-c-1(,t)×(t0')なる関係式が成立していることがわかります。よって,(,t)がわかれば自動的に(,t)がわかることになります。

そこで,さらに(,t)について残りの(∂/∂t0')を実行します。

 

d(t0')/dt0'=2d(t0'),およびd{R(t0')α(t0')}/dt0'=d(t0')2/c-(t0')d(t0')-R(t0'){(t0')2d(t0')}/cを用いて計算します。

本質的ではないので詳細を省略しますが,長い計算の後に(,t)={e/(4πε0)}({(t0')-β(t0')}{1-β2(t0')}/{R2(t0')α3(t0')}+-1(t0')×[{(t0')-β(t0')}×βd(t0')]/{R(t0')α3(t0')})を得ます。

 

ただし,β(t0')≡d(t0')/cです。

これから,磁場は(,t)=-c-1(,t)×(t0')={μ0ec/(4π)}({β(t0')×(t0')}{1-β2(t0')}/{R2(t0')α3(t0')}+[{(t0')×β(t0')}{(t0')βd(t0')}+{βd(t0')×(t0')}{1-(t0')β(t0')}]/{cR(t0')α3(t0')})となります。

(,t),(,t)の右辺第1項はR→ ∞でO(R-2)のオーダーなので,=(×)/μ0にはO(R-4)の寄与しかしないため,全方向合計では4πR2S=O(R-2)→ 0となり遠方(波動帯)には寄与しません。

 

これらの項は,βd/cのみつまり粒子の速度dのみを含んでおり,βd2d/cによる加速度2dの項を含んでいません。

 一方,(,t),(,t)の右辺第2項はR→ ∞でO(R-1)のオーダーなので,=(×)/μ0にO(R-2)の寄与をし,全方向合計では4πR2S=O(1)で放射電磁波の遠方への伝播(波動帯)に寄与します。

 

 そして,これらの項には全てβd2d/cによる加速度2dが因子として含まれています。

 

 それ故,例えば加速度2dがゼロの等速直線運動の電荷から放射される電磁波であれば,電磁場は点電荷の近傍にのみ存在して,かなり遠方にあるアンテナでも受信可能な信号電波(波動帯電磁波)として利用することができないことがわかります。

途中ですが今日はここまでにします。

参考文献:砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店),ジャクソン 著(西田 稔 訳)「電磁気学(上),(下)」(吉岡書店)

 

PS:4/7早朝に巨人の木村拓也コーチ(37)が亡くなられたという速報がありました。まだ若いのに神に愛されたのでしょうか?。。 合掌

 

 ふと掛川にいる友人の千春先生(歯科医)のことを思い出しました。

 

 十年以上も前,自分の母親のために勉強して健康になるための本を出版した直後に本人が突然クモ膜下出血で倒れられましたけれど復活なさっていると聞いています。

 

 ただ,後遺症からか記憶が数時間程度しか持たないらしいとのことなので私などはとっくに忘れられているでしょうね。

 

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