電磁波の放射(5)(点電荷による電磁波2)
「電磁波の放射(点電荷による電磁波)」の続きです。
例として,まず等速度運動中の点電荷による電磁場を考察します。
加速度がゼロ:βd=z2d/c=0 のため,この場合の電場E,磁場Bは先に求めた点電荷による場の強さの最終表式において,右辺第1項のみで表わされます。
すなわちE(r,t)={e/(4πε0)}({n(t0')-β(t0')}{1-β2(t0')}/{R2(t0')α3(t0')},B(r,t)={μ0ec/(4π)}{β(t0')×n(t0')}{1-β2(t0')}/{R2(t0')α3(t0')}です。
しかし,ここではリエナール・ウィーヘルトのポテンシャル(Lie'nard-Wiechert potential):φ(r,t)={e/(4πε0)}[|r-z(t0')|-zd(t0'){r-z(t0')}/c]-1,A(r,t)={eμ0/(4π)}(zd(t0')/[|r-z(t0')|-zd(t0'){r-z(t0')}/c])から,直接これらを求めてみます。
等速度運動をする点電荷の軌道z(t)の詳細ですが,今の場合は電荷eを持つ点粒子が時刻t=0 に原点Oにあってx軸の正の向きに一定速度v=(v,0,0)で運動しているとします。
そして,任意時刻tにおける点P(x,y,z)(位置ベクトル:r=(x,y,z))における場の強さを求めます。
この点電荷が時刻tには点Aにあるとすると,tにおいてPに生じる電磁場は点Aにある電荷によるのではなくてtよりも過去の時刻t0'に別の点A0'にあった電荷を出発点とする電磁波によるものです。
点Pからx軸に下ろした垂線の足をB(x,0,0)(x> 0)とします。するとxはt=0 に原点Oからx軸に沿って出発した点電荷が点Bに達する時刻t0とx=vt0なる関係にあります。
また,ここでは一般性を失うことなく受信時刻tはt0>t>t0'を満たすと仮定します。
このとき,A0'P=R(t0')=c(t-t0'),A0'B=X(t0')=v(t0-t0')です。また,b≡BPと置くとb=(y2+z2)1/2でありR(t0')={X2(t0')+b2}1/2です。
等式:c(t-t0')={v2(t0-t0')2+b2}1/2からt0'に関する2次方程式:(c2-v2)t0'2-2(c2t-v2t0)t0'+c2t2-v2t02-b2=0 を得ます。
これと,条件t0>t>t0'によりt0'がt0'=[(c2t-v2t0)-{(c2v2)(t0-t)2+(c2-v2)b2}1/2]/(c2-v2)と解けます。
これからR(t0')=c(t-t0')=c[v2(t0-t)+{(c2v2)(t0-t)2+(c2-v2)b2}1/2]/(c2-v2),X(t0')=v(t0-t0')=v[c2(t0-t)+{(c2v2)(t0-t)2+(c2-v2)b2}1/2]/(c2-v2)です。
φ(r,t)={e/(4πε0)}[1/{R(t0')-vR(t0')/c}]={e/(4πε0)}[1/{R(t0')-vX(t0')/c}],A(r,t)={eμ0/(4π)}[v/{R(t0')-vX(t0')/c}]ですから,まず,φ(r,t)={e/(4πε0)}[1/{v2(t0-t)2+(1-v2/c2)b2}1/2]を得ます。
さらに,vt0=x,b=(y2+z2)1/2を代入するとφ(r,t)={1/(4πε0)}[e/{(x-vt)2+(1-v2/c2)(y2+z2)}1/2]です。同様に,A(r,t)={μ0/(4π)}[ev/{(x-vt)2+(1-v2/c2)(y2+z2)}1/2]と書けます。
R*(t)≡R(t0')-vX(t0')/c={(x-vt)2+(1-v2/c2)(y2+z2)}1/2と置けば,もっと簡単な形になってφ(r,t)=e/(4πε0R*),かつA(r,t)=μ0ev/(4πR*)と表現されます。
後の便宜のために,γ≡(1-v2/c2)-1/2と置いてR*(t)≡(Rx*(t),Ry*(t),Rz*(t))=(x-vt,y/γ,z/γ)なるベクトルを設定するとR*(t)=|R*(t)|です。
そして,電磁ポテンシャル:φ(r,t)=e/(4πε0R*),A(r,t)=μ0ev/(4πR*)をrやtで微分することで,E=-∇φ-∂A/∂t,B=∇×Aにより,場の強さE,Bを得ることができます。
これらの微分は全てR*を通してのみ出現します。そして∂R*/∂t=-v(x-vt)/R*,∂R*/∂x=(x-vt)/R*,∂R*/∂y=(1-v2/c2)y/R*,∂R*/∂z=(1-v2/c2)z/R*です。
これらを用いた計算の詳細を全て省略して結果だけ書くと,電場はE(r,t)={1/(4πε0)}{e(1-v2/c2)R(t)/R*3}です。ただしR(t)≡(x-vt,y,z)となります。
そして,磁場はB(r,t)=-{μ0/(4π)}{ev×∇(1/R*)}={v×E(r,t)}/c2です。
E(r,t)=e(1-v2/c2)R(t)/R*3)は,ベクトルR*(t)を用いるとE(r,t)={1/(4πε0)}[e(1-v2/c2)-1/2R(t)/{Rx*2(t)/(1-v2/c2)+Ry*2(t)+Rz*2(t)}3/2],またはE(r,t)={1/(4πε0)}[eγR(t)/{γ2Rx*2(t)+Ry*2(t)+Rz*2(t)}3/2]と書けます。
磁場は,B(r,t)={v×E(r,t)}/c2です。ここでの話ではこれの具体的形を書き下す必要はありません。
電場Eをもっとわかりやすく表現すれば,E(r,t)=eγ-2R(t)/[(4πε0){(x-vt)2+γ-2(y2+z2)}3/2],R(t)≡(x-vt,y,z)となります。
そこでv→cならγ=(1-v2/c2)-1/2→ ∞ (γ-1→ 0)より,E(r,t)→ 0 です。すなわち,点電荷が高速に運動する極限では電場はゼロに近づきます。
※(閑話):重力場に関連して電場に類似した考察をしてみます。
ニュートンの万有引力の法則:F=-GMmR/R3と特殊相対論を組み合わせてみると,静止質量がMの太陽付近を静止質量はmですが太陽に対して大きい相対速度vを持った宇宙船が通過する場合,宇宙船から見た太陽の相対論的質量はγMです。
また,逆に太陽静止系から見ると宇宙船の相対論的質量はγmです。そこで,いずれにしても単純に静止質量を相対論的質量に置き換えると万有引力F=-GMmR/R3はF'=-GγMmR/R3に変わります。
質量とエネルギーの等価性,および慣性質量と重力質量の等価原理に従って実際激しい分子運動のために高温になった物体の静止質量は熱エネルギーの分だけ大きくなって秤で重さを測ると重くなっています。
そして,増加分の熱エネルギーは元々分子の運動エネルギーです。
地球上での重さというのは地球が物体に及ぼす"重力=引力"に他ならないですから,相対速度が大きくなれば引力FがF'~γFとなって重くなるというのは見当違いではないでしょう。
しかし,太陽と宇宙船の相対速度はほとんどゼロなのに,それを見ている観測者が大きな相対速度vで運動している場合,観測者にとって太陽と宇宙船双方の相対論的質量がγM,γmとなるため単純代入で万有引力がF"=-Gγ2MmR/R3と莫大になるというのは賛同できません。
ここで先に求めた電場の表式に着目すると,等速度運動の点電荷による電場はE(r,t)=eγ-2R(t)/[(4πε0){(x-vt)2+γ-2(y2+z2)}3/2]です。
これはv=0 の静電場E0に対してE~γ-2E0のような形で小さくなっています。
この電場の表式のアナロジーで重力もF~γ-2F0のように因子γ-2で小さくなるのなら,この因子と先に書いた質量増加によるF"=-Gγ2MmR/R3~γ2F0の増加因子γ2が丁度相殺して準拠系に大して依存しないF~F0という結果を得ます。
電荷は静止質量と同じく座標変換の不変量(4次元スカラー)ですが,相対論ではエネルギーと質量は等価であり,重力は静止質量だけでなく全体のエネルギー="相対論的質量=(静止質量+運動エネルギー/c2)"に比例するはずですから,電場における常識とは違います。
そもそも"静止質量=静止エネルギー/c2"は座標系には無関係なスカラーですが運動エネルギーを含む全エネルギーは座標系の取り方次第で際限もなく増加しますから重力の扱いというのは困ったもんです。
磁場に相当する磁気的重力というものがあるかも知れず,それはどういうもので系の運動と共に増加するのでしょうか?
かつては慣性力の反作用とか,マッハ原理に関連した記事で一般相対論に基づきHenry,Thiringの回転系による重力も計算したましたが。。
2006年6/30の「慣性力の反作用」,および2007年の一連の記事:2/18の「一般相対論の基礎と回転系」2/19の 「回転系の計量(メトリック)」2/21の「遠心力,コリオリ力の相対性(マッハ原理?)」を参照
(閑話終わり)※
点電荷に固定して共に運動する座標系,つまり"点電荷が静止していると見える座標系=電荷の静止系"ではv=0,かつγ=1ですから,電場EはCoulomb静電場:E(r,t)=eR/(4πε0R3)に一致します。
そして,v=0 により磁場Bはゼロ:B(r,t)={v×E(r,t)}/c2=0 ですから電磁場は静止した点電荷による純粋な静電場です。
しかし,点電荷に対して速度-vで慣性運動をする座標系に移ると,その系では点電荷は速度vで運動するためvが大きくなるにつれて電場は減少し,逆にvが大きくなるため磁場はB(r,t)={v×E(r,t)}/c2に従って次第に増加すると思われます。
元々静止電荷の静電場のみであったのに,観測者が点電荷の系に対して運動すると共に静止電荷は"運動電荷=電流"に転化し,ゼロであった磁場が発生して増加していくという描像が具体的に示されました。
これは,磁場と電場が実は同根の作用で磁場は単に電場の相対論的効果であることを示唆する現象の1つです。
この関連については,2006年4/10の記事「重力場(ファインマン)」や2008年5/27の記事「電磁気学と相対論(5)(真空中の電磁気学4:補遺)」も参照してください。
さて,既に述べたように等速度運動をする点電荷から生成される"電磁場のエネルギー流束=Poyntingベクトル":S=(E×B)/μ0 ~O(R-4)によって点電荷を中心とする半径Rの球内から外部空間へと飛散するエネルギー総量は,4πR2O(R-4)~O(R-2)と評価されます。
そこで,球の半径Rを十分大きく取れば等速度運動の電荷から飛散するエネルギー総量はゼロであること,例えば電荷が加速度運動を全くしない定常電流のコイルにより生成される磁場のようなものによってエネルギーが散逸して失われることはないということがわかります。
(導線では,"電気抵抗による散逸=ジュール(Joule)熱"が存在して電源の起電力と相殺しますがこれは物性と関わる別の話です。)
しかし,電荷が加速度運動している場合にはそれによって生成される電磁波のエネルぎー流束SのオーダーはO(R-2)の波動帯に与するため,運動に伴って電荷の持っていたエネルギーが失われてゆきます。
そこで,次には点電荷がゼロでない加速度βd=z2d/cを持って運動する場合を考えます。点電荷が加速されることによって電磁波を放射する現象は制動放射,または制動輻射(Bremsstrahlung)といわれます。
さて,前の記事で与えた一般的な点電荷による電場E(r,t),磁場B(r,t)の陽な表式のそれぞれで加速度因子βd=z2d/cを持ち,R-1(t0')に比例した大きさを持っていて波動帯に寄与する右辺第2項に着目します。
すなわち,波動帯では,E(r,t)={e/(4πε0c)}[{n(t0')-β(t0’)}{n(t0')βd(t0')}-βd(t0'){1-n(t0')βd(t0')}]={e/(4πε0c)}(n(t0')×[{n(t0')-β(t0')}×βd(t0')]/{R(t0')α3(t0')}),かつB(r,t)=-c-1E(r,t)×n(t0')={n(t0’)×E(r,t)}/cです。
B(r,t)はE(r,t),n(t0')に垂直ですからn(t0')E(r,t)=0 であり,波動帯では点電荷による電磁場は自由電磁波と同じ性質を持っています。
そして,ポインテイング・ベクトルはS≡E×H=(E×B)/μ0={E×(n×E)}/(μ0c)=E2n/(μ0c)です。
そこで,時刻t0'に点電荷から放射された電磁波が時刻tに点rで測定されるとき,単位時間に単位面積を通過するエネルギー流はS(r,t)=E(r,t)2n(t0')/(μ0c)={e/(4πε0)}2{1/(μ0c3)}{n(t0')/{R2(t0')α6(t0')}(n(t0')×[{n(t0')-β(t0')}×βd(t0')])2となります。
ただし,電場の複素表現を使用する場合はサイクル平均が<E(r,t)2>=|E(r,t)|2/2となるため<S(r,t)>=|E(r,t)|2n(t0')/(2μ0c)です。
ここで注意すべきことはS(r,t),または<S(r,t)>は観測点rにおける時間tに関する単位時間当たりの通過エネルギー量であり,時間t0'に関する点z(t0')におけるそれではないということです。
点電荷は運動しているため,仮に発信時刻t0'がT1からT2の(T2-T1)の間だけ電荷が加速されたとすると,t0'=t-|r-z(t0')|/c, or t=t0'+|r-z(t0’)|/cなる関係によって,(T1,T2)に放射される電磁波は観測点rではt1=T1+|r-z(T1)|/cからt2=T2+|r-z(T2)|/cの間の(t1,t2)に観測されます。
つまり,rで受信する時間t2-t1={T2+|r-z(T2)|/c}-{T1+|r-z(T1)|/c}は一般に対応する点電荷の加速時間(T2-T1)とは異なっています。いわゆるドプラー効果(Doppler effect)ですね。
そこで,t0'∈(T1,T2)に放射された電磁波を点rで受ける際の単位面積当たりの総エネルギー量EはE=∫t1t2S(r,t)n(t0’)dtで与えられます。
これはE=∫T1T2{S(r,t)n(t0')}(dt/dt0')dt0'と書けますから,発信点z(t0')での時間t0'に関するエネルギー放射率の式:dE/dt0'={S(r,t)n(t0')}(dt/dt0')={S(r,t)n(t0')}α(t0')が得られました。
そこで,点電荷自身が単位加速時間に放射する全エネルギーdW/dt0'は上記dE/dt0'を半径R(t0')の球面上で積分した式dW/dt0'=∫S(r,t)n(t0')}α(t0')R2(t0')dΩで与えられます。
dΩは点rにおける面積要素dSを点電荷から見た立体角です。
既に前に定義した概念なのでさらりと流していますが,半径R(t0')の球面というのは時刻tにおいて|r-z(t0')|=c(t-t0')を満たす全ての点rの集まりであることなども思い出す必要があります。
dW/dt0'=∫S(r,t)n(t0')}α(t0')R2(t0')dΩにS(r,t)={e/(4πε0)}2{1/(μ0c3)}{n(t0')/{R2(t0')α6(t0')}(n(t0')×[{n(t0')-β(t0')}×βd(t0')])2を代入しt0'をtと書き換えると次のようになります。
すなわち,dW/dt={e2/(16π2ε0c)}∫dΩ(n(t)×[{n(t)-β(t)}×βd(t)])2/{1-n(t)β(t)}5です。ここで,α(t)=1-n(t)β(t)なる陽な等式を用いました。これは正確な式です。
もしも,β(t)<<1,つまり点電荷の速さv(t)=zd(t)が光速度cに比べてごく小さいときには,n(t)=R(t)/R(t)と加速度βd(t)=z2d(t)/cのなす角をθとすれば次のようになります。
dW/dt~{e2/(16π2ε0c)}∫dΩ(n(t)×[{n(t)-β(t)}×βd(t)])2={e2/(16π2ε0c)}∫dΩ[sin2θ{βd(t)}2]です。
dΩ積分を実行するとdW/dt~ {e2/(6πε0c3)}{vd(t)}2を得ます。この放射率の非相対論的近似式をラーモアの公式,またはラーマーの公式(Larmor's formula)といいます。
この非相対論的近似での放射の角分布:Δ(dW/dt)/ΔΩはsin2θに比例するので,これはl=1の電気双極子放射に相当しています。
単位時間当たりの全平均放射エネルギーPは,複素表現では<S(r,t)>=|E(r,t)|2n(t0')/(2μ0c)ですから,P=d<W>/dt={e2/(12πε0c3)}|vd(t)|2と表わされます。
例えば質量がmの点電荷eがz方向に調和振動をしている場合には,運動方程式mz2d=-mω02zより,z(t)=aexp(-iω0t),vd(t)=-aω02exp(-iω0t)です。
そこで,ラーモアの公式からこの調和振動子の単位時間当たりの平均放射エネルギーはP=d<W>/dt={e2/(12πε0c3)}a2ω04で与えられることがわかります。
次に,正確な相対論的式で特にβとβdが平行なときにはn×{(n-β)}×βd}=n×(n×βd)となるため,dW/dt={e2vd(t)2/(16π2ε0c3)}∫dΩ[sin2θ/{1-v(t)cosθ/c}5]です。
そこで,β=v/c→ 1 に近づくにつれて放射の角分布は点電荷の進行方向に鋭く偏ってきます。(β=1ではθ=0で最大)
1911年ラザフォード(Rutherford)は放射性元素から出るα線の原子による散乱実験を行なうに及んで,太陽系型の原子模型を提案し実験結果によく合致する結果を得ました。
(実はこのラザフォード模型は1904年に長岡半太郎が提案した長岡模型と同じ型の模型です。)
しかし,これまでに示したことから原子核のまわりを回転する電子は加速度を有するため,電磁波を放射して次第にエネルギーを失なうので電子は速やかに原子核に落ち込んでしまい,この古典論の模型では原子は安定に存在することが不可能です。
以下では,水素原子のラザフォード模型において電子が原子核に落ち込むまでの時間を評価計算します。
ケプラー(Kepler)の法則に従う一般の楕円軌道を円軌道で特殊化しても結果には無関係なので,簡単のため電子は原子核のまわりを等速円運動しているします。そして電子の回転半径をr,速さをv,回転角速度をωとします。このときv=rωです。
電子の運動方程式はmrω2=e2/(4πε0r2)ですから加速度はvd=rω2=e2/(4πε0mr2)です。電子の持つエネルギーはW=(1/2)mv2-e2/(4πε0r)=-e2/(8πε0r)です。
そこでdW/dt={e2/(8πε0r2)}(dr/dt)です。
一方,ラーモアの公式dW/dt={e2/(6πε0c3)}{vd(t)}でWが減衰するという意味で,(-)符号を取って-dW/dt={e2/(6πε0c3)}{vd(t)}2とした公式に,vd=e2/(4πε0mr2)を代入します。
すると,dW/dt=-{e2/(6πε0c3)}{e2/(4πε0mr2)}2が得られます。
dW/dtの2つの表現を等置すれば{e2/(8πε0r2)}(dr/dt)=-{e2/(6πε0c3)}{e2/(4πε0mr2)}2です。これから,dt=-{3/(4e4)}{(4πε0)2m2c3r2}drなる関係式を得ます。
したがって,t=0 に電子がr=aの円周上を回転運動していたとして原子核のあるr=0 に落ち込むまでの時間をτとすると,τ=∫0τdt=-(3/4){e2/(4πε0)}-2m2c3∫a0r2dr=(1/4){e2/(4πε0)}-2m2c3a3となります。
ボーア(Bohr)の前期量子論の原子模型では水素原子の最小半径はhをPlanck定数,hc≡h/(2π)としてボ-ア半径aB=hc2/{me2/(4πε0)}={e2/(4πε0hcc)}–1{hc/(mc)}で与えられます。
このaBを式:τ=(1/4){e2/(4πε0)}-2m2c3a3の半径aに代入すると,τ=(1/4){e2/(4πε0hcc)}–5{hc/(mc2)}=(1/4)α-5hc/(mc2)となります。
ただしα≡e2/(4πε0hcc)~ 1/137は,微細構造定数(fine-structure constant)と呼ばれる無次元(無単位)の定数です。
これを用いるとボーア半径もaB=α-1hc/(mc)~137hc/(mc)と簡単な形で表わされます。
一方,hc/(mc)はコンプトン(Compton)波長と呼ばれる長さの次元を持つ量で量子論では質量がmの粒子の大きさの大体の目安です。
そこで,今の電子の場合のhc/(mc2)は光が電子を横断するに要する大体の時間であると解釈されます。
mを電子の質量としたコンプトン波長はhc/(mc)~10-11cmでありhc/(mc2)~10-21秒ですから,電子が原子核に落ちこむまでの時間はτ~ 1375×10-21秒 ~ 4.8×10-11秒と評価されます。
すなわち,古典論では電子はほとんど瞬時に原子核に吸い込まれ原子として安定に存在することは不可能です。
これと関連して,地球のまわりを回る月などが重力波を放射して地球に落ち込まない理由についての簡単な考察などを2006年6/28の記事「重力波」に書いています。興味がお有りなら参照してください。
余談ですが,かつて,2006年4/10の記事「重力場(ファインマン)」やその関連記事で以下のようなファインマンによる?考察を書いたことを思い出しました。それはかなり重要な示唆です。
電場,磁場が線形な作用であって全体の場は多くの電荷による場の重ね合わせで表現できるのに対して重力場は本質的に非線形で全体の重力場が多くの星などの重力源による重力場の"重ね合わせ=単純和"にならないのは何故かということでした。
つまり,電磁場の実体は電荷を持つ粒子場を媒介する"電磁波=光子"ですがこれ自身は電荷を持たず電気的に中性なので2次の電磁場の源とは成り得ない故に場の線形性が保たれているわけです。
これに反して,重力は昔から万有引力と呼ばれているように,エネルギーさえ持っていればそれは必ず重力源になるため力を媒介する"重力波=重力子等"もそれ自身2次の重力源となってさらに3次,4次の重力源を放射するために非線形であるという考察を連想しました。
(弱い重力近似である非相対論のニュートンの万有引力の法則だけを考えるのなら電磁場と同じく線形なのですが。。)
余談も入りましたが今日はここまでにします。
参考文献:砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店)
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