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2010年4月12日 (月)

電磁波の放射(6)(点電荷による電磁波3:散乱)

「電磁波の放射(点電荷による電磁波)」の続きです。

 γ崩壊に利するために電磁場の多重極展開を復習するという初期の目的からは既にかなり逸脱しました。そのついでに点電荷による電磁波(光)の古典的散乱も記述しておきます。

点電荷が電磁波を放射しながら加速度運動をしているとき,系の外部から別の電磁波が入射して点電荷を加速し電磁波の放射を促す場合を想定してみます。

 

これは点電荷による電磁波の散乱(scattering),あるいは電磁波と点電荷の衝突(collision)とみなすことができます。

 外力の作用の下にある点電荷に平面波in,inが入射するときの点電荷の運動方程式は,m(d2(t)/dt2)=((t))+e[in((t),t)+(t)×in((t),t)]で与えられます。

 

 ただし,(t)≡d(t)/dt=d(t)です。

 in,inは自由電磁波なので,|in|=|in|/cです。そこで,点電荷の速さvがcに比べて小さい場合を想定しているので,電気力einに比べて磁場による力e×inを無視します。

 また,入射電磁波による強制振動で生じる点電荷の位置の変化は入射波の波長に比べごく小さいと仮定して,in((t),t)の引数の(t)を電荷の平均的位置0で置き換える近似をするとin((t),t)~ in(0,t)=ε0exp{i(kz0-ωt)}です。

 

 ただしεは"電磁波の偏り=偏光"を示す単位べくトルです。

 これらの近似の結果,点電荷の運動方程式はm(d2(t)/dt2)=((t))+eε0exp{i(kz0-ωt)}と簡単になります。

一方,既に示したように点電荷による放射率Pの正確な式は,P=dW/d={e2/(16π2ε0)}∫dΩ((t)×[{(t)-β(t)}×βd(t)])2/{1-()β(t)}5 (β(t)≡(t)/c)です。

この式から,β<<1のときのラーモア(Larmor)の公式を得た際に,途中計算で得た平均放射率Pの非相対論的近似式はP=d<W>/d={e2/(32π2ε0)}∫dΩ|(t)×{(t)×βd(t)}|2でした。

そこで,今のv<<cという仮定の下で,単位時間に単位立体角の中に放射される平均エネルギーはdP/dΩ={e2/(32π2ε03)}|(t)×{(t)×d(t)}|2で与えられます。

 

d(t)=d(t)/dt=2d(t)(加速度)です。

一方,単位面積当たりに入射する入射波の平均強度(=単位時間に単位面積を通過する入射エネルギー)は,明らかに<Sin>=E02/(2μ0)=ε0cE02/2です。

そして,散乱における微分断面積(differetial cross section)dσ/dΩは,"(単位時間,単位立体角当たりを通過する散乱波のエネルギー)=(散乱強度(insistency of scattering))"dP/dΩの入射波の平均強度<Sin>に対する比で定義されます。

 

すなわち,dσ/dΩ≡(dP/dΩ)/<Sinです。

 

この定義式にdP/dΩ={e2/(32π2ε03)}|(t)×{(t)×d(t)}|2,および<Sin>=E02/(2μ0)=ε0cE02/2を代入すると,散乱の微分断面積の式dσ/dΩ=[e2/{(4πε02)202}]|(t)×{(t)×d(t)}|2が得られます。

 さて,上記の最終の表現式に基づいて幾つかのケースの散乱について断面積を計算してみます。

(1)トムソン(Thomson)散乱:

 

 これは自由電子による電磁波の散乱です。Thomsonの頭文字Tを取ってトムソン散乱の微分断面積をdσT/dΩと書くことにします。

この散乱は,電子に対する運動方程式:m(d2(t)/dt2)=((t))+eε0exp{i(kz0-ωt)}で外力((t))がゼロでm(d2(t)/dt2)=eε0exp{i(kz0-ωt)}と書ける場合です。

 

ただし,この場合mは電子の質量,eは電子の電荷でe<0です。 

これから直ちに,加速度としてd(t)=2d(t)=d2(t)/dt2ε(eE0/m)exp{i(kz0-ωt)}を得ます。

 

代入すると,|(t)×{(t)×d(t)|2=(e202/m2)|(t)×{(t)×ε}|2です。(t)は点電荷の位置(t)から観測点の位置Ω=(θ,φ)までの方向単位ベクトルです。

 

この(t)と電磁波の電場の偏り(偏光)εのなす角をΘとすれば,|(t)×{(t)×ε}|2=sin2Θなので,dσT/dΩ={e2/(4πε0mc2)}2sin2Θとなります。

そして,入射電磁波の運動方向を極軸に取れば,成分表示で(t)=(sinθcosφ,sinθsinφ,cosθ)です。また,進行方向に垂直なxy面内で偏りεの偏角をψとすると,ε=(cosψ,sinψ,0)です。

 

故に,cosΘ=nε=sinθcos(φ-ψ)と書けます。

 

そこで,sin2Θ=1-sin2θcos2(φ-ψ)ですから,dσT/dΩ={e2/(4πε0mc2)}2{1-sin2θcos2(φ-ψ)}を得ます。

 

入射平面波が偏光性の光ではなく偏ってない普通の場合なら,この因子{1-sin2θcos2(φ-ψ)}をψについて平均したもの:<1-sin2θcos2(φ-ψ)>=(2π)-10{1-sin2θcos2(φ-ψ)}dψ=(1+cos2θ)/2 で置き換える必要があります。

 以上から,トムソン散乱の微分断面積としてdσT/dΩ=[e2/{2(4πε0mc2)}]2(1+cos2θ)を得ます。そして,すぐ前の表現dσT/dΩ={e2/(4πε0mc2)}2sin2Θの形からこの電磁波の放射も電気双極子によるものであるとわかります。

微分断面積(dσ/dΩ)を全立体角にわたって積分したσtot≡∫(dσ/dΩ)dΩを散乱の全断面積,または総断面積(total cross section)といいます。

トムソン散乱の微分断面積(dσT/dΩ)についてこの立体角積分を実行すると,散乱の全断面積としてσT=(8π/3){e2/(4πε0mc2)}2が得られます。

古典論のモデルでは,2/(4πε00)~ mc2なる等置から電子を半径a0 ~ e2/(4πε0mc2)~ 2.8×10-13cmの剛体球と考えて,全断面積はσT 6.7×10-15cm2と評価されます。

 さらに,このσTは微細構造定数(fine-structure constant):α=e2/(4πε0cc) ~ 1/137を用いてσT=(8α2/3)π{hc/(mc)}2と表現すれば,トムソンの公式に量子論的解釈を与えることもできます。

 

 αを使えばトムソンの微分断面積もdσT/dΩ={α2c2/(2m22)}(1+cos2θ)と表わせます。

 量子論では,電子波の拡がり(半径)は大体コンプトン(Compton)波長:hc/(mc)(hc≡h/(2π))です。そこで電子雲の面積は大体π{hc/(mc)}2です。

 

 トムソン散乱では,標的の電子雲が半透明なため,そのうちの(8α2/3)~(8/3)(1/137)2だけが電磁波の散乱に寄与すると解釈されます。

 上記では,入射電磁波の波長が大きく(エネルギーが小さく)電子は強制振動を受けても束縛電子のように入射波の波長に比べ電荷の位置はほとんど変動しないという仮定の下での散乱を考察しました。

しかし,もしも入射波の波長が小さくてX線やγ線くらいになると,こうしたトムソン散乱の仮定は成立しなくなり,いわゆるコンプトン散乱(Compton scattering=自由衝突)になります。

 コンプトン散乱の微分断面積は"クライン・仁科(Klein-Nishna)の公式"dσ/dΩ={α2c2/(4m22)}(k'/k)2{k'/k+k/k'+4(εε')2-2}に従います。

 

 そして,これを入射光子の偏りについて平均し散乱光子の偏りについて和を取ると,dσ/dΩ={α2c2/(2m22)}(k'/k)2{k'/k+k/k'-2sin2θ}となります。

ただし,(,ε),および(',ε')は,それぞれ入射光子,および散乱光子の波数と偏りの組です。

 

光子衝突前の電子の始運動量をpiμ,衝突後の終運動量をpfμとすると,衝突前後での4元運動量の保存式:piμ+hcμ=pfμ+hck'μが満たされます。

そこで,k=||=2π/λ,k'=|'|=2π/λ'はいわゆるコンプトン条件:k'=k/{1+(k/m)(1-cosθ)}=k/{1+(2k/m)sin2(θ/2)}(自然単位)を満たします。

低エネルギーの極限:k→ 0 ではk'/k~ 1 (弾性散乱)ですから,dσ/dΩ~ {α2c2/(2m22)}(2-sin2θ)となってトムソン散乱の微分断面積の公式:dσT/dΩ={α2c2/(2m22)}(1+cosin2θ)に一致します。この極限をトムソン極限(Thomson limit)といいます。

(2)レーリ-(Rayleigh)散乱:

電子が振動数f0=ω0/(2π)の弾性力(elastic force)により束縛されている場合:つまり近似的運動方程式:m(d2(t)/dt2)=((t))+eε0exp{i(kz0-ωt)}で外力が((t))=-mω02(t)の場合を考えます。

 

この散乱の断面積はσRと書くことにします。

このときの電子の運動方程式は,m(d2(t)/dt2)+mω02(t)((t))=eε0exp{i(kz0-ωt)}です。

 

右辺の入射電磁波により誘起される電子の強制振動を求めたいので,(t)=exp(-iωt)(ωが一定の単色波)の形の特解を仮定して考察すれば十分です。

これを上記の運動方程式のに代入するとm02-ω2)=eε0exp(ikz0)を得ます。したがって,解は(t)=ε[eE0/{m(ω02-ω2)}]exp{i(kz0-ωt)}です。

 

そこで,電子の加速度としてd(t)=2d(t)=d2(t)/dt2ε[-eω20/{m(ω02-ω2)}]exp{i(kz0-ωt)}を得ます。

このd(t)=ε[-eω20/{m(ω02-ω2)}]exp{i(kz0-ωt)}を先のトムソン散乱でのd(t)=2d(t)=d2(t)/dt2ε(eE0/m)exp{i(kz0-ωt)}と比較します。

 

今の場合,微分断面積は因子|d(t)|2が単純にトムソン散乱の同じ因子のω4/(ω02-ω2)2倍である以外トムソン散乱の微分断面積と全く同じです。

 したがって,dσR/dΩ=(dσT/dΩ){ω4/(ω02-ω2)2},σR=σT4/(ω02-ω2)2}です。また,電磁波の放射もトムソン散乱と同じく電気双極子によるものと考えることができます。

特に入射波の角振動数ωが小さくて,ω0>>ωのときにはσR ~ σT404)=σT044)となって散乱断面積は入射波の波長λの4乗に反比例します。

この全断面積σR はω02≡{e2/(4πmε0)}-3とすれば,以前の2009年10/20の雲(水滴)による光のミイ(Mie)散乱の考察の記事「光(電磁波)の散乱(2)で得たレイリー散乱の全断面積に一致します。

 

つまり,部分波展開σ=(4π/k2)Σ(2l+1)sin2δlでのl=1の主要なP波項σ=(8π/3)k46 ∝k46 ∝a64に一致します。ただしk=ω/cです。

レイリー散乱は角運動量l=1の電気双極子放射項ですから,今の問題のω0>>ωの場合の束縛力による電気双極子放射が"散乱球の半径aが波長に比べて小さい(a<<λ)場合の散乱=レイリー散乱"の模型になっていると考えられます。そこで,これもレイリー散乱と呼びます。

2009年11/7の記事「光(電磁波)の散乱(4)」によれば,電子ではなく空気分子のような誘電体球による散乱の全断面積は,電子によるそれ:σ=σT404)=(8π/3)k46に屈折因子の入ったσ=σT |(εr-1)/(εr+2)|2404)=(8π/3)k46|(εr-1)/(εr+2)|2です。

 

ただし,εrは比誘電率でεr≡ε^/ε0=n^2です。(n^は屈折率)

 ところで,一般に散乱断面積には次のような意味があります。

 例えば気体なら,単位体積中にN個の気体分子がある場合,分子1個の散乱の全断面積がσなら,重ね合あわせにより厚さΔzの気体中を進むときに失われるエネルギー流の割合がNσΔzに等しい:ΔI/I=-NσΔzという意味を持ちます。

そこで,γ≡Nσと置けばγ>0 であって,I=I0exp(-γz)と書けます。この定数γを吸収係数(absorption coefficient),または減衰係数(attenuation coefficient)と呼びます。

散乱というのは全方向的にはエネルギーが失われるわけではないですが,ある一方向に進むビームのほとんどが散乱体によって方向を変えられるため,方向性を持つビームとしては実質的に減衰します。

 

そして,空気分子によるレイリー散乱では,εr≡n^2における屈折率がn^~1なので,(εr-1)/(εr+2)=(n^2-1)/(n^2+2) ~ 2(n^-1)/3と近似していいです。

また,(4πa3/3)N=1より,a6=9/(16π22)ですから,σR=(8π/3)k46|(εr-1)/(εr+2)|2が成立します。これから,減衰係数γについてγ=NσR ~{2k4/(3πN)}|n^-1|2なる評価式が得られます。

 

なお,繰り返しになりますが念のためk=ω/c=2π/λです。

空の色の話は既にレイリーをはじめ多くの人により文献や資料で示されていることで,いまさらという感じですが一応述べておきます。

 

散乱の減衰係数γが振動数の4乗4に比例,または波長の4乗:λ4に反比例することから,明らかに可視光域では相対的に赤色光は散乱されず紫色光が最もよく散乱されます。

そこで,入射光線の方向から離れたところで受ける光は太陽光線のエネルギー分布の中で青色の高振動数成分が最大の割合になります。

 

一方,透過光線の方はエネルギー分布の中で赤色光の割合が増えるので赤く見えますが,全体としての強度は距離と共に減衰します。

さらに定量評価を試みます。

 

可視光線(λ=4100~6500Å)での空気の屈折率n^はn^-1=2.78×10-4で与えられます。そして標準状態の空気分子の個数密度はN=2.69×1019cm-3ですから,減衰距離Λ≡γ-1(光強度Iが1/eになる距離)の典型的な値は,紫色光(λ=4100Å)でΛ=30km,緑色光(λ=5200Å)で77km,赤色光(λ=6500Å)で188kmです。

そして,重力との静力学平衡で密度が高度と共に指数関数的に変化する等温大気の模型を用いて大気の頂上と地表との相対的強度比を太陽が天頂にあるとき(南中時)と日の出,日の入りの場合に評価しました。

 

すると,太陽が天頂にあるときの強度比は赤色光,緑色光,紫色光の順に0.96,0.90,0.76ですが,同じ比率値は日の出,日の入りのときには0.21,0.024,0.000065です。

今日はここまでにします。

参考文献:砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店),ジャクソン 著(西田 稔 訳)「電磁気学(上),(下)」(吉岡書店)

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