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2010年4月13日 (火)

電磁波の放射(7)(点電荷による電磁波4:場の反作用)

 電磁波の放射(点電荷による電磁波)」の続きです。最後に放射の反作用について記述して古典論を終わります。 

 点電荷が加速されていると,それは電磁波を放射します。そこで,外部からの補償が無ければ放射に伴なって点電荷自身の力学的エネルギーが減少します。

 

 この作用を電磁波の放射の反作用(reaction)といいます。

 こうした反作用は電荷の運動に対する減衰力として運動方程式に反映されます。以下,減衰力をエネルギーの保存則に従って導きます。

「電磁波の放射(5)」ではβ(t)=v(t)/c<<1のとき,つまり点電荷の速さv(t)=zd(t)が光速度cに比べて小さいときには単位加速時間当たりの放射エネルギーがdW/d={e2/(16π2ε0)}∫dΩ[(t)×{(t)×βd(t)}]2={e2/(6πε03)}d(t)2 (Larmorの公式)で与えられることを見ました。

 仮に点電荷は周期運動をしていて,ある2つの時刻t1,t2において(t1)=(t2)=0 を満たすとします。

 そして,t∈[t1,t2]において減衰力(t)が存在するとすれば,エネルギー保存則から,この時間の間に(t)が点電荷になす仕事は同じ時間の放射による点電荷のエネルギー減衰量に等しいはずです。

すなわち,∫t1t2(t)(t)dt=-{e2/(6πε0)}∫t1t2d(t)2dt=-{e2/(6πε03)}{[d(t)(t)]t1t2-∫t1t22d(t)d(t)dt}={e2/(6πε03)}∫t1t22d(t)(t)dtです。

 

つまり,∫t1t2[(t)-{e2/(6πε03)}2d(t)](t)dt=0 が成立します。

したがって,(t)={e2/(6π2ε03)}2d(t)と置けばエネルギーの均衡が保たれることになります。

この減衰力の表式を(t)=(2/3){e2/(4πε0c)}{hc/(mc2)}m2d(t)と書けば,特に点電荷が電子の場合には微細構造定数:α≡e2/(4πε0c)}~ 1/137により(t)=(2/3)α{hc/(mc2)}m2d(t)となって簡明な表現になります。

電子の場合には,上記のd/dt=m2d(t)の係数はT0=(2/3)α{hc/(mc2)}~ (2/3)(1/137)10-21秒 ~ 10-23秒程度です。これは非常に小さい値です。

(t)=T0(d/dt)ですが,この周期運動で加速度が変化をする時間の長さをT≡t2-t1と置けば,一般にT>>T0と考えられますから,(t)~(T0/T)[d/dt]t1t2=(T0/T){(t2)-p(t1)}となって減衰力(t)はきわめて小さいことがわかります。

 巨視的物体の場合には,質量mはさらに大きいため,T0(2/3)α{hc/(mc2)}は電子の場合よりさらに小さいので電磁波の放射の反作用は無視できると考えられます。

 以上から,v<<cなら質量がm,電荷がeの1個の点電荷が外力によって加速され電磁波を放射しながら運動するときの運動方程式は,m{d2(t)/dt2}=((t))+{e2/(6π2ε03)}{d3(t)/dt3}で与えられることがわかります。

 微分方程式の本質的性格は係数がいかに小さくても最高階の微分を含む項によって決定付けられます。 

そこで,この加速度の時間微分をも含む微分方程式は,"ある時刻に位置と速度が与えられると以後の軌道が決まる。"という因果性に従うニュートンの方程式から予想される以外の解を持つ可能性があります。

実際,例えば方程式:m{d2(t)/dt2}=((t))+{e2/(6π2ε03)}{d3(t)/dt3}で外力がない場合:=0 の場合を考えるとm{d2(t)/dt2}={e2/(6π2ε03)}{d3(t)/dt3},またはmd(t)=T0{m2d(t)}です。

電子が力を受けず自由運動をするケースですから,加速度が恒等的にゼロ:d(t)=d2(t)/dt2 ≡0 なる解も可能なはずです。実際,このときには2d(t)=d3(t)/dt3≡0 より減衰力も(t)≡0 となって確かに解になっています。

 一方,md(t)=T0{m2d(t)}より2d(t)=d(t)/T0なので,素直に積分するとd(t)=d(0)exp(t/T0)なる解を得ます。この解は外力がゼロなのに,tが大きくなると加速度dが際限なく増大するという内容です。

 物理的に考えると,これは明らかに不合理です。なぜ,こうした解が得られたかの理由について,すぐ気付くことは外力がゼロのときのこの解では運動が周期的で,時刻t1≠t2(t1)=(t2)=0 であるという条件が満たされてないことです。

 そこで,これの解決のため電子の非周期運動も包括した対象電子を含む電荷群と電磁場が共存する現実的な系で考察します。

電磁場の基本方程式はマクスウェルの方程式系:∇×(,t)+∂(,t)=0,∇(,t)=0,および∇×(,t)-∂(,t)=0(,t)+Σk≠0k(,t),∇(,t)=ρ0(,t)+Σk≠0ρk(,t)です。ただし0,=ε0です。

 ただし,ρ0,0を考察対象の電子の電荷密度,電流密度とし,それ以外の電荷(帯電体)の電荷密度,電流密度ρk,k(k≠0)と区別しました。

 

 また,電子は極めて小さいけれど大きさは有限であり,特に半径がa0の剛体球であると仮定します。

 一方,電子自体の運動方程式は,後の便宜上電子の質量m,軌道に下添字 0 を付けると,m0{d20(t)/dt2}=∫d30(,t)(,t)+0(,t)×(,t)}と表わされます。

これら微分方程式系では,電磁場の基本方程式における"物理量=場の量"も電子の運動方程式における物理量も全て未知量です。 

 対象とする電子の電荷,電流ρ0,0が作る電磁場0,0の自分自身へ及ぼす力(自己力:self-force)というものを考察するために,(,t)=0(,t)+1(,t),(,t)=0(,t)+1(,t)のように全体の場を分離します。

マクスウェルの方程式の線形性から,これらの場が従う微分方程式も∇×0(,t)+∂0(,t)=0,∇0(,t)=0,∇×0(,t)-∂0(,t)=0(,t),∇0(,t)=ρ0(,t),

  

および,∇×1(,t)+∂1(,t)=0,∇1(,t)=0,∇×1(,t)-∂1(,t)=Σk≠0k(,t),∇1(,t)=Σk≠0ρk(,t)と分離できます。

 

一方,電子の運動方程式も分離されて,m0{d20(t)/dt2}=01と書けます。

 

ただし,0=∫d30(,t)0(,t)+0(,t)×0(,t)},および1=∫d30(,t)1(,t)+0(,t)×1(,t)}です。この0が自己力を表現しています。

 自己電磁場の方程式部分を形式的に解けば0(,t)={1/(4πε0)}∫d3'{ρ0(',t')/|'|,0(,t)={μ0/(4π)}∫d3'{0(',t')/|'|;t'≡t-|'|/cです。

 これを0=∫d30(,t)0(,t)+0(,t)×0(,t)}に代入します。ただし電子の速度0の大きさは光速cに比べて十分小さいとして0の1次の項だけを考えることにします。

0(,t)が0に比例するので,00に比例します。したがって,0=∇×00に比例しますから0(,t)×0(,t)は0の2次の量となるため,磁場の関係する項の寄与を無視します。

 すると,運動方程式は,m0{d20(t)/dt2}=1+∫d3ρ0(,t)0(,t)=1-∫d3ρ0(,t){∇φ0(,t)+∂0(,t)/∂t}=1-{1/(4πε0)}∫d3ρ0(,t)[∇∫d3'{ρ0(',t')/|'|+c-2(∂/∂t)∫d3'{0(',t')/|'|}となります。

 右辺の2つの空間積分∫d3,∫d3'はいずれも微小半径a0の球状電子の内部が積分範囲ですから,寄与する発信時刻t'=t-|'|/cはt'=t-a0/c程度であり,電子内の各点で発信時刻t'の関数で示されている量はtのまわりにテイラー(Taylor)展開できます。

 すなわち0(',t-R/c)=Σn=0[(-R/c)n{∂nρ0(‘,t)/∂tn}/n!],0(',t-R/c)=Σn=0[(-R/c)n{∂n0(',t)/∂tn}/n!];',R≡||です。

これを0の表現式に代入すると,電子の運動方程式はm0{d20(t)/dt2}=1-{1/(4πε0)}Σn=0[(-1)n/(cn!){∫d330(,t)[{∂nρ0(',t)/∂tn}{∇(R/c)n-1}+c-2(R/c)n-1{∂n+10(',t)/∂tn+1}]となります。

このうちスカラーポテンシャルφ0からの寄与の一部を考えます。 

右辺のn=0 の項は-{1/(4πε0)}∫d33'[ρ0(,t)ρ0(',t)∇(R-1)]={1/(4πε0)}∫d33'[ρ0(,t)ρ0(',t)(')/|'|3]ですが,被積分関数が,'の交換について反対称なのでこの項は消えます。

また,n=1の項も∇R-2≡0 より,やはり消えます。

そこで,φ0からの寄与の項では添字をn→n+2とシフトして,0=-{1/(4πε0)}Σn=0[(-1)n/(cn+2n!){∫d33'[Rn-1ρ0(,t)(∂n+1/∂tn+1){0(',t)+{∂ρ0(',t)/∂t}∇(Rn+1)/{(n+1)(n+2)Rn-1}と書きます。

右辺の項の∫d3'積分の因子は∫d3'[Rn-10(',t)+{∂ρ0(',t)/∂t}∇(Rn+1)/(n+1)(n+2)]=∫d3'[Rn-10(',t)-∇0(',t)Rn∇R/(n+2)]です。

 

さらに変形して,∫d3'[Rn-10(',t)+{0(',t)∇}Rn-1/(n+2)]=∫d3'Rn-1[{(n+1)/(n+2)}0(',t)-{(n-1)/(n+2){0(',t)}/R2}を得ます。

 今は電子を微小な剛体球としているので,0(',t)=ρ0(',t)0(t)と書けます。

そこで,上記積分結果のベクトルでその第i成分はΣj=13∫d3'Rn-1ρ0(',t)v0j(t)[{(n+1)/(n+2)}δij-{(n-1)/(n+2)}Rij/R2]と表わされます。

さらに,∫d3積分を実行すると対称性からRijを(1/3)R2δijと置いてよいので,(2/3)v0i(t)∫d3'Rn-1ρ0(',t)です。

 

これをベクトル表現で書けば,(2/3)0(t)∫d3'Rn-1ρ0(',t)となります。

 

それ故,0=-{1/(4πε0)}Σn=0[(-1)n/(cn+2n!)(2/3)∫d33'[Rn-1ρ0(,t)(∂n+1/∂tn+1){ρ0(',t)0(t)}]です。

右辺の時間微分で電荷密度ρ0(',t)の時間微分は∂ρ0(',t)/∂t=-∇0(',t)であり,電流密度は0(',t)=ρ0(',t)0(t)ですから,積ρ0(',t)0(t)は0(t)の2次以上になるため省略します。

すると,0=-{1/(4πε0)}Σn=0[(-1)n/(cn+2n!)(2/3)∫d33'{ρ0(,t)Rn-1ρ0(',t)}{dn+10(t)/dtn+1}です。

この右辺の級数の最初の数項を評価します。

 

まず,n=0 の項0(0)0(0)=-{1/(4πε02)}(2/3)∫d33'{ρ0(,t)ρ0(',t)/|'|}0d(t)です。

ここで電子の自己エネルギーW=∫ρ0φdVはW≡{1/(4πε02)}(1/2)∫d330(,t)ρ0(',t)/|'|=e2/(4πε00)で定義されますから,0(0)はこれを用いて0(0)=-{4W/(3c2)}0d(t)と表現できます。

次にn=1のときは,0(1)={1/(4πε03)}Σn=0[(2/3)∫d330(,t)ρ0(',t)02d(t)={e2/(6πε03)}02d(t)ですが,これは先に周期運動を仮定して求めた減衰力に一致しています。

n≧2に対しては,0(n)=-{1/(4πε03)}[(-1)n/(cn+2n!)(2/3)<a0n-10(n+1)(t)です。ただし,<a0n-1>≡∫d330(,t)|'|n-1ρ0(',t)です。

 

これらは電子の内部構造には無関係な量です。

こうして,自己力の作用の下での電子の運動方程式がm00d(t)=1-{4W/(3c2)}0d(t)+{e2/(6πε03)}02d(t)+..となることがわかりました。

 

これは,me≡{4W/(3c2)}=(4/3){e2/(4πε020)}と置くと(m0+me)0 d(t)=1+{e2/(6πε03)}02d(t)+..と書けます。

e{4W/(3c2)}=(4/3){e2/(4πε020)}は電子がそのまわりに静電場を作ることに基づく電磁的質量と解釈されます。しかし実は係数4/3の存在は特殊相対論の要求と矛盾します。

 

これについては,2008年12/20の記事「運動物質内の相対論(7)(電子の古典模型)」に詳細に書きましたが,このシリーズの(1)~(6)の続きなので順に参照する必要があるかもしれません。

 

その問題はさておき,運動方程式の(m0+me)0 d(t)=1+{e2/(6πε03)}02d(t)+..なる形は力学的質量m0に対し現実に観測される電子の電荷がm≡(m0+me)であると考えることができます。

 

量子電磁力学のくりこみ(renormarization)では,m0を裸の質量(bare-mass),meを着物の質量(mass of dress),mを着物を着た質量(dressed-mass)と呼びます。

得られた電子の運動方程式:(m0+me)0d(t)=1+{e2/(6πε03)}02d(t)+..は周期運動,非周期運動に関わらず成立します。

 

そこで,この方程式表現でも1=0 のときの解として,先の不合理解:d(t)=d(0)exp(t/T0)の存在を免れません。

しかし,この運動方程式は0,0d,02d..がこれらの2乗が無視できるほど小さいと仮定したときに成立する近似方程式であることを思い出します。不合理解:d(t)=d(0)exp(t/T0)はこうした条件を満足しないため,物理的には許されないはずです。

これまでの議論では電子は半径がa0の剛体球としましたが,そもそも剛体球という概念はローレンツ不変(Lorentz invariant)ではないので,a0が有限である限り,n≧2の<a0n-1>の因子を含む運動方程式m00d(t)=1-{4W/(3c2)}W0d(t)+{e2/(6πε03)}02d(t)+..を相対論的に共変な方程式に拡張することはできません。

そこで,共変性のためa0→ 0 とすると,n≧2 の<a0n-1>≡∫d330(,t)|'|n-1ρ0(',t)は全てゼロになり消えるため,電子の方程式は,(m0+me)0d(t)=1+{e2/(6πε03)}02d(t)となります。

しかし,e={4W/(3c2)}=(4/3){e2/(4πε020)}なので,a0→ 0とするとW→ ∞,かつme→ ∞となってしまいます。

 

それ故,a0→ 0 とした相対論的に共変な理論では自己エネルギーWの発散を免れることはできません。逆に自己エネルギーを有限にしようとすれば相対論と矛盾します。

 

こうした困難は量子論にも受け継がれ,摂動の収束性と相俟って理論の最大の難点となっています。

 

関連記事として2006年12/21の「電子の自己エネルギーとディラックの海」,2008年5/8の「自己力と自己エネルギー」も参照して下さい。

 

この記事をもって電磁波放射の古典論のシリーズを終わります。

参考文献:砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店) ),ジャクソン 著(西田 稔 訳)「電磁気学(上),(下)」(吉岡書店) 

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