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2010年4月

2010年4月30日 (金)

散乱の伝播関数の理論(2)(Lippman-Schwinger-2)

散乱の伝播関数の理論の続きです。

 

まず,前回の最後の部分を再掲します。

 

(※以下再掲記事(少し修正)です。)

 

T≡S-1とすると,Tの行列要素はTba≡-2πiδ(Ea-Eb)ba;

ba≡<Φb1Ψa(+)>=<Ψa(-)1Φb>と表現できます。

 

これは,Ea=Ebのエネルギーが等しい状態だけで定義される関連行列要素による等価な表現です。

 

この結果,遷移確率を与える公式:

ba2[δ(Ea-Eb)]2|ba |2 が得られます。

 

 (再掲終わり※)

 

 さて,前回の続きです。

 

 [δ(Ea-Eb)]2のうち,1つの因子δ(Ea-Eb)を時間積分:

δ(Ea-Eb)=(2πhc)-1-∞exp{i(Ea-Eb)t/hc}

exp(-ε|t|)dt (ε→+0) と解釈します。

 

これと,もう1つのδ(Ea-Eb)因子により,Ea=Ebを代入すると,

[δ(Ea-Eb)]2=(2πhc)-1δ(Ea-Eb)∫-∞dtです。

 

故にWba=(2π/hc)δ(Ea-Eb)|ba |2-∞dt を得ます。

 

この式は,遷移が系の2つの成分の等エネルギー状態の間でのみ生じ,

遷移確率の強さは相互作用が有効に効く全時間に比例することを示し

ています。

 

ε→+0 の理想的極限では,後者(=全時間:∫-∞dt)は無限大に発散してしまいます。

 

しかし,この表現:Wba=(2π/hc)δ(Ea-Eb)|ba |2-∞dtは,

単位時間に遷移確率がwba=(2π/hc)δ(Ea-Eb)|ba |2の率で増

加すると解釈できます。

 

上の結果式のより納得できる導出法は,最初に状態aにあった系が時刻tに状態bに見出される確率の単位時間当たりの増加率(遷移速度 or 遷移率)を文字通りに表現する式:wba=(∂/∂t)|<Φb+(t)Φa>|2を評価することです。

 

|<Φb+(t)Φa>|2=<Φb+(t)Φa*<Φb+(t)Φa

=<U+(t)Φab><Φb+(t)Φa>ですから,

 

ba=<{∂U+(t)/∂t}Φab ><Φb+(t)Φa

+<U+(t)Φab><Φb{∂U+(t)/∂t}Φa>です。

 

右辺第2項は第1項の複素共役(c.c)です。

 

これは運動方程式ihc∂U+(t)/∂t=1(t)U+(t)によって,

ba=(i/hc)<1(t)U+(t)Φab ><Φb+(t)Φa

+(c.c) となります。(※ c.cは複素共役 complex conjugate の略)

 

そして,<1(t)U+(t)Φab

=<exp(i0t)1exp(-i0t/hc)U+(t)Φab

=<Φbexp(i0t/hc)1exp(-i0t/hc)U+(t)Φa*

 

=exp(-iEbt/hc)<Φb1exp(-i0t/hc)U+(t)Φa*

=<1exp{i(Eb0)t/hc}U+(t)Φab

=<exp{i(Eb0)t/hc}U+(t)Φa1Φb> です。

 

一方,<Φb+(t)Φa>に,

+(t)=1-(i/hc)∫-∞tdt'1(t')U+(t')

=1-(i/hc)∫-∞tdt'exp(i0t'/hc)1exp(-i0t'/hc)

+(t') を代入します。

 

b≠aなら,<Φb+(t)Φa

=(-i/hc)∫-∞tdt'<Φbexp(i0t'/hc)1exp(-i0t'/hc)

+(t')Φa

=(-i/hc)∫-∞tdt'<Φb1exp{i(Eb0)t'/hc}

+(t')Φaとなります。

 

それ故,wba=(i/hc)<1(t)U+(t)Φab ><Φb+(t)Φa

+(c.c)=(1/hc2)∫-∞tdt'<exp{i(Eb0)t/hc}U+(t)Φa

1Φb<Φb1exp{i(Eb0)t'/hc}U+(t')Φa>+(c.c)

なる式を得ます。

 

ところで,

Ψa(+)(E)≡∫-∞dtexp{i(E-0)t/hc}exp(-ε|t|/hc)

+(t)Φa,および,Ψa(±)(E)≡2πhcδ(E-Eaa(±)より,

 

Ψa(+)(E)=∫-∞dtexp{i(E-0)t/hc}exp(-ε|t|/hc)

+(t)Φa=2πhcδ(E-Eaa(+) が成立します。

 

これは,exp(-i0t/hc)U+(t)Φa=exp(iEat/hca(+)なることを意味します。

 

そして,また我々の理想定常状態のSchroedinger表示の状態ベクトルになっています。

 

代入すると,wba=(1/hc2)∫-∞tdt'<exp{i(Eb0)t/hc}

+(t)Φa1Φb><Φb1exp{i(Eb0)t'/hc}U+(t')Φa

+(c.c)=(1/hc2)∫-∞tdt' exp{i(Ea-Eb)(t-t')/hc}

<Ψa(+)1Φb><Φb1Ψa(+)>+(c.c) となります。

 

すなわち,

ba=(1/hc2)|ba|2-∞tdt'exp{i(Ea-Eb)(t-t')/hc}

+(c.c)=(2π/hc)|ba|2δ(Ea-Eb) が導かれました。

 

そして,演算子Tの一般的性質:TT=-(T+T)から始状態からの全遷移速度に対する簡単な表現が得られます。

 

すなわち,TT=-(T+T)を行列要素で書くと,

Σbba*bc=-(Tac+Tca*)です。

 

これにTba=-2πiδ(Ea-Eb)baを代入すると,

2Σbδ(Ea-Eb)ba*δ(Eb-Ec)bc

=2πiδ(Ea-Ec)(acca*) を得ます。

 

 

特に,c=aとすると両辺のδ(Ea-Ec)は相殺されて,

2Σbδ(Ea-Eb)|ba|2δ=-4πIm(aa),

つまりΣbba=-(2/hc)Im(aa)が得られます。

 

(※訳注:↑これは光学定理です。)

 

この公式の左辺は総和の中にb=aが含まれているため,正確には状態aからの全遷移率ではありません。

 

しかし,こうした総和には単一の状態は寄与しません。

一般に状態のグループが要求されます。

 

こうしたタイプの関係式は,散乱媒質を通過する平面波の強度の減衰が元の波とその伝播方向に散乱される第二の波の間の破壊的干渉によって説明されるという波動理論において典型的なものです。

 

baに対する定常表現によって,方程式:

Ψa(±)=Φa+{1/(E±iε-0)}1Ψa(±)の変分定式化が

得られます。

 

すなわち,

 

T'ba=-(i/hc)∫-∞dt

[<exp{i(Ea0)t/hc}U-(t)Φb|1Φa

+<Φb|1exp{i(Eb0)t/hc}U+(t)Φa>]

 

+(i/hc)∫-∞dt

<exp(-i0t/hc)U-(t)Φb|1exp(-i0t/hc)U+(t)Φa

+(i/hc)2-∞dt∫-∞dt'

<exp(-i0t/hc)U-(t)Φb|1exp{(-i0(t-t')/hc)

1exp(-i0t'/hc)U+(t)Φa

 

なる作用を想定します。

 

 そして,exp(-i0t/hc)U±(t)Φa=exp(iEat/hca(±)

 なる仮定に従う定常状態の族に限定して考えます。

 

 積分を実行すると,'ba=<Ψb(-)1Φa>+<Φb1Ψa(+)

-<Ψb(-)1Ψa(+)>+<Ψb(-)1{1/(E+iε-0)}1Ψa(+)

が得られます。

 

 ただし,Eは状態aとbの共通のエネルギーです。

 

 δ'ba=<δΨb(-)1a+{1/(E+iε-0)}1Ψa(+)-Ψa(+)]>

 +<[Φb+{1/(E-iε-0)}1Ψb(-)-Ψb(-)]1δΨa(+)

 ですから,

δ'baがゼロになるという停留条件より,

 Ψa(±)=Φa+{1/(E±iε-0)}1Ψa(±) を得ます。

 

 

 さらに,このときの'baの停留値は,

 ba≡<Φb1Ψa(+)>=<Ψa(-)1Φb> に一致します。

 

 

 同様に,Hermite演算子Kについても,Kba=2πδ(Ea-Ec)ba;

ba≡<Φb1Ψa(1)>=<Ψa(1)1Φb> と書けます。

 

ただし,時間に依存しないベクトルΨa(1)は,

exp(-i0t/hc)V(t)Φa=exp(iEat/hca(1)なる関係を

満たす定常状態であり,方程式:Ψa(1)=Φa+P{1/(E-0)}1Ψa(1)

に従います。

 

と同様に,の変分定式化の作用は,

'ba=<Ψb(1)1Φa>+<Φb1Ψa(1)>-<Ψb(1)1Ψa(+)

+<Ψb(1)1P{1/(E-0)}1Ψa(+)

で与えられます。

 

そして,T=S-1;S=V(∞)/V(-∞)=(1-iK/2)/(1+iK/2)よりT=-iK/(1+iK/2),つまり,T+iKT/2=-iKです。

 

この等式の行列要素にTba≡-2πiδ(Ea-Eb)ba,

ba=2πδ(Ea-Eb)baを代入します。

 

2πiδ(Ea-Eb)ba+2π2Σcδ(Eb-Ec)bcδ(Ea-Ec)ca

=-2πiδ(Ea-Eb)baですから,等エネルギー状態に限定して,

ba+πiΣcbcδ(Ec-E)cabaを得ます。

 

ただし,Eはaとbの共通エネルギーです。

 

 この方程式を解く効果的な方法は,固有値方程式:

 Σabaδ(Ea-E)faAAbAを満たすの固有関数を見出す

 ことです。

 

はHermite行列なので固有値Aは実数で,固有関数faAは次のように直交規格化できます。ΣaaA*δ(Ea-E)faB=δABです。

 

これを使うと,の行列要素はba=ΣAbAAaA*と表わせます。

 

それ故,A+πiAAA orAA/(1+πiA)として,

ba=ΣAbAAaA*とおけば,

式:ba+πiΣcbcδ(Ec-E)caba が満たされます。

 

このことからいえるのは,の関数で同じ固有関数を持ち,その固有値がの固有値から決まるということだけです。

 

そこで,A=-(1/π)sinδAexp(iδA)となるようの固有値を

A≡-(1/π)tanδAとして,角度δAを導入した表現が便利です。

 

遷移速度wbaをこうした表現を使って表わせば

ba{2/(πhc)}ΣAsinδAexp(iδA)fbAaA* |2δ(Ea-E)

となります。

 

またbba=-(2/hc)Im(aa)より,状態aからの全遷移速度は

Σbba={2/(πhc)}ΣAsin2δA|faA|2と表わされます。

 

最後にこの全遷移速度の同じエネルギーを持つ全ての始状態にわたる総和はΣb,abaδ(Ea-E)={2/(πhc)}|ΣAsin2δAです。

 

これらの結果は中心力場による粒子の散乱の伝統的位相のずれ

(phase shift)の解析で得られる馴染み深い式の一般化です。

 

中心力場での散乱では,の固有関数は対称性の考慮,すなわち始状態

aと終状態bを定義する伝播ベクトルa,bの同時の回転の下での

baの不変性から明らかです。

 

aAは"aの向きを決定する角度の関数=球面関数":faA=CYlm(a) (A=l,m)であると推論されます。

 

そして,の固有値Aは球面調和関数の次数,すなわちδA≡δlにのみ依存します。

 

定数Cは直交規格化条件aaA*δ(Ea-E)faB=δAB,今の中心力散乱のケースでは|C|2∫Ylm()Yl'm'()ρdΩ=δll'δmm'によって定めることができます。

 

ただし,ρdΩは立体角dΩの内部運動に関わるエネルギー値域当たりの状態数です。

 

これは等エネルギー状態にわたる総和の重み因子として生じます。

 

つまり,ρdΩは因子δ(Ea-E)によって制限される全ての状態にわたる総和を書き換えたものです。

 

空間の単位体積を想定してρを陽に表わすと,

ρ=p2dp/{(2πhc)3dE}=(8π3c)-1(k2/v)です。

 

2番目の式ではpを波数kと粒子の速さvで表現しています。

 

そこで,|C|2∫Ylm()Yl'm'()ρdΩ=δll'δmm'と規格化されるためには|C|2=1/ρ=8π3cv/k2が要求されます。

 

 

そして,次には粒子がa方向から方向bのまわりの立体角dΩに

散乱される単位時間当たりの確率wを遷移速度の式:

ba={2/(πhc)}|ΣAsinδAexp(iδA)fbAaA* |2δ(Ea-E)

から計算します。

 

単純な置換から,w={2/(πhc)}|Σl,msinδlexp(iδl)|C|2

lm(b)Ylm (a) *|2ρdΩが得られます。

 

このwを入射粒子の流束を示すvで割り|C|2=1/ρとすることにより

極角θ方向に散乱される微分断面積のよく知られた表現:

dσ(θ)=(1/k2)|Σl(2l+1)sinδlexp(iδl)Pl(cosθ)|2dΩ

を得ます。

 

ここで,球面調和関数についての定理:

Σm=-lllm(b)Ylm (a)*|={(2l+1)/(4π)}Pl(cosθ)

を用いました。

 

θはabのなす角,Pl(cosθ)はcosθのl次のLegendre多項式

です。

 

全散乱断面積σもΣbba{2/(πhc)}ΣAsin2δA|faA|2に対応して,

σ={2/(πhcv)}Σl,msin2δl|C|2|Ylm (a)|2

=(4π/k2l(2l+1)sin2δlとなります。

 

ここでは公式:Σm=-ll|Ylm (a)|2=(2l+1)/(4π)を用いました。

 

全断面積の式:σ=(4π/k2l(2l+1)sin2δlは,入射aの大きさ

kだけに依存して方向に依らないので,

 

Σb,abaδ(Ea-E)={2/(πhc)}|ΣAsin2δAと同等な結果も

直ちに得られます。

 

 

この節の最後に,中心力場による散乱の一般的性格を持つような問題:

の固有関数がその対称性から決まり,基本的問題は固有値A,or

相角δAを得ることであるような問題の変分定式化を考察します。

 

この目的のため,表現:ba=ΣAbAAaA*の逆が,

Σb,abB*δ(Eb-E)baaAδ(Ea-E)=AδABで与えられること

に着目します。

 

状態ベクトルA≡ΣaΦaaAδ(Ea-E),および,

ΨA(1)≡ΣaΨa(1)aAδ(Ea-E)を導入して,先に与えた

'ba=<Ψb(1)1Φa>+<Φb1Ψa(1)>-<Ψb(1)1Ψa(1)

+<Ψb(1)1P{1/(E-0)}1Ψa(1)> に代入します。

 

すると,'AδAB=-(1/π)tanδ'AδAB

=<ΨB(1)1ΦA>+<ΦB1ΨA(1)>-<ΨB(1)1ΨA(1)

+<ΨB(1)1P{1/(E-0)}1ΨA(1)> となります。

 

ΦAはより正確にはΦA,Eと書かれるべきで,これは,

<ΦA,EΦB,E'>=ΣaaA*δ(Ea-E)faBδ(Ea-E')

=δ(E-E')ΣaaA*δ(Ea-E)faB

=δABδ(E-E')を満たします。

 

そこでA=ΣaΦaaAδ(Ea-E),および,

ΨA(1)=ΣaΨa(1)aAδ(Ea-E)の逆は,

Φa=ΣAaA*ΦA,およびΨa(1)=ΣAaA*ΨA(1)となって,

の固有関数で展開できます。

 

ちょっと時間がないので,今日はここで終わります。

 

参考文献:「新編物理学選集32(素粒子理論)」(1961,第2版)

(日本物理学会編 )

 

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2010年4月28日 (水)

散乱の伝播関数の理論(1)(Lippman-Schwinger-1)

電磁波の放射,散乱の古典論を述べてきたついでに,散乱問題の量子論での扱いも示しておきます。

 

紹介しようと思うのは,いわゆる伝播関数の理論(propageter theory),あるいはGreen関数による方法です。

 

これは,Born(ボルン)級数やLippman-Schwinger方程式の摂動展開にFeynman-diagramを組み合わせるようなものです。

 

量子波の伝播や散乱問題については,Betheの"Intermediate Quantum Mechaniocs"やJ.J.Sakurai(桜井純)の"Advanced Quantum Mechanics",またはSchiffの教科書「量子力学(下)(邦訳:Quantum Mechanics)」にもそうした崩芽の記述があったと記憶しています。

 

こうした,初期の中間的量子力学(intermediate quantum-mechanics)において,伝播関数を用いた方法はFeymanの経路積分の考え方をも内包しているようです。

 

私の所持している本では,Schiff(シッフ)や上記J.J.Sakurai著の"Advanced Quantum Mechanics"などに上記のような第2量子化の理論(QED,場の量子論)への橋渡しのような量子論的扱いがあります。

 

まず,日本物理学会編集の「新編物理学選集32(素粒子理論)」に載っているものから紹介します。

 

これは,私が大学院修士課程に入学した年(1974年)に1年先輩のHさんから頂いたものです。

 

当時,素粒子論に関して右も左もわからない状態でしたが,"まず,これを読め"と先輩に頂いたのがこの論文集でした。

 

彼には,既に読み終わったからとLandauの「相対論的量子力学Ⅰ」(東京図書)も貰って,まだ大事に持っています。

 

両方とも裏表紙に名前が書いてあります。

 

なぜ,親切にして頂いたのか?タダで貰ったのか?は,よくわかりませんが,最近2年続けて関西に行った際に探し出してお会いしました。

 

(※ひょっとしたら,谷川研究室の他の2人の私の1年先輩TさんとMさんは東大と京大の出身ですが,Hさんは富山大出身でしたので同じ地方国立のS大から来た私に親しみを持たれたのかも知れません。)

  

当時も日本語の専門書はまだ安い方でしたが,洋書は1ドルが360円の時代ですから,日本円では今よりもかなり高価でした。

 

しかも,トピックが専門的であればあるほど日本語の参考文献などは,ほとんどなかった時代ですね。

 

洋書を1冊程度輪講をするにしても,市販の本は貧乏学生には高値の花だったため,普通は図書室にあった本を青焼きコピーしてそれをファイルして使っていたのが常でした。

 

普通,理論物理などの理論分野では,取り合えず本と論文など文献さえあればいいので,ある程度独学可能な素養と頭があれば,別に大学に属する必要などないのですが。。。

 

しかし,当時は(今も?)ほとんどの専門文献が揃っていて,それらを容易に参照できる環境は,附属の図書室を持つ大学の研究室など研究施設に限られていたので,やはり大学に属するという選択が最善でした。

 

(いや,まだ,普通に前途があった若い時代でしたし,何か学びたい,と思えば大学や大学院に入る以外の選択を思い付くのは不可能でした。)

 

(↑うーん,また回顧録になってるな。。)

 

まず,有名な散乱の「Lippmann-Schwinger方程式」を与えた論文:

B.A.Lippmann Julian Schwinger "Variational Principles for Scattering Process.I" Phys.Lev,Vol.29(3)(1950)

を紹介します。

 

これは,何と私が生まれた年に提出された論文です。

 

※ 以下は,本文を私が日本語に翻訳したものです。

 

 (表題):時間に依存する散乱理論

 

 問題とする系のHamiltonianを独立な2つの部分,非摂動部分0と摂動部分(相互作用エネルギー)1の和で表現します。

 

1による効果のみを記述したいので,Schoedinger方程式:

ihc{∂Ψ(t)/∂t}=(01)Ψ(t)から,0に関わる時間依存性を除くのが便利です。

 

そのため,ユニタリ変換(unitary transformation):

Ψ(t)≡exp(-i0t/hcI(t) を実行します。

 

こうすれば,方程式は,

ihc{∂ψI(t)/∂t}1(t)ψI(t),I(t)

=exp(i0t/hc)1exp(-i0t/hc)

となります。 

(※(訳注):↑これは相互作用表示ですね。)

 

 

この表示で,初期の相互作用していない部分は状態ベクトルψI(-∞)で表わされ,やがては終状態のベクトルψI(+∞)に向かいます。

 

時間発展のユニタリ変換をψI(t)=U+(t)ψI(-∞)で定義します。

++(t)U+(t)=1です。

 

特に,ψI(∞)=SψI(-∞),S=U+(∞)とします。

Sを散乱演算子(scattering operator:衝突演算子)と呼びます。

 

+(t)はU+(-∞)=1なる境界条件を満たす微分方程式:

ihc{∂U+(t)/∂t}=1(t)U+(t)の解です。

 

ψI(t)をψI(t)=U-(t)ψI(∞)によってψI(∞)に結びつける別のユニタリ演算子:U-(t)を導入することも有益です。

 

ψI(t)=U-(t)ψI(∞)=U-(t)SψI(-∞)=U+(t)ψI(-∞)ですから,U+(t)=U-(t)Sなる関係があります。

 

こちらのU-(t)も方程式:ihc{∂U-(t)/∂t}=1(t)U-(t)の解ですが,これは境界条件U-(∞)=1を満たします。

 

 

ihc{∂U+(t)/∂t}=1(t)U+(t)を積分方程式で書くと,

+(t)=1-(i/hc)∫-∞t1(t')U+(t')dt'

=1-(i/hc)∫-∞θ(t-t')1(t')U+(t')dt'

です。

 

ただし,θ(τ)はHeavisideの関数(step function;階段関数)です。

τ>0 ならθ(τ)=1,τ<0 ならθ(τ)=0 なる関数です。

 

同様に,U-(t)=1+(i/hc)∫t1(t')U-(t')dt'

=1+(i/hc)∫-∞1(t')U-(t')θ(t'-t)dt'

です。

 

 

したがって,S=1-(i/hc)∫-∞1(t)U+(t)dt,

-1=1+(i/hc)∫-∞1(t)U-(t)dt です。

 

±(t)に対する微分方程式,積分方程式は,それと等価なある作用が停留値をとる基本方程式を与える変分原理(Variational Principle)で置き換えることができるはずです。

 

さらに,このときに取る作用の停留値が正に散乱演算子Sであることがわかります。

 

 

したがって,Sの停留表現を与えることでSを構成する上での誤差が最小化されるため,問題の変分定式化は近似計算を生み出します。

 

これを示すため,最初に,S'

≡U(∞)-∫-∞-+(t){∂/∂t+(i/hc)1(t)}U+(t)dt

とおき,これを独立なU+(t),U-(t)の汎関数(作用)と考えます。

 

そして,U+(-∞)=1という拘束の下での変分問題,つまり任意の独立なδU+,δU-に対するS'の変分δS'がゼロになるための条件を求める問題を考えます。

 

まず,δS'=δU+(∞)

-∫-∞δU-+(t)[{∂/∂t+(i/hc)1(t)}U+(t)]dt

-∫-∞-+(t)[{∂/∂t+(i/hc)1(t)}δU+(t)]dt

と書けます。

 

右辺最後の項は,

-∫-∞-+(t)[{∂/∂t+(i/hc)1(t)}]δU+(t)dt

=-[U-+(t)δU+(t)]-∞+∫-∞[{∂/∂t

+(i/hc)1(t)}U-(t)]+δU+(t)dt

 

=-U-+(∞)δU+(∞)

+∫-∞[{∂/∂t+(i/hc)1(t)}U-(t)]+δU(t)dt

と変形されます。

 

そこで,δS'={1-U-+(∞)}δU+(∞)-∫-∞δU-+(t)[{∂/∂t

+(i/hc)1(t)}U+(t)]dt

+∫-∞[{∂/∂t+(i/hc)1(t)}U-(t)]+δU+(t)dt

なる式が得られます。

 

独立な任意のδU+,δU-に対してδS'=0 が満たされるためには,

運動方程式:{∂/∂t+(i/hc)1(t)}U+(t)=0,

{∂/∂t+(i/hc)1(t)}U-(t)=0 が成立し,境界条件:

-+(∞)=1が満たされることが必要十分です。

 

そして,このときのS'の停留値はS'=U+(∞)ですが,右辺のU+(∞)は散乱演算子Sそのものなので,S'min=Sなることが結論されます。

 

S'≡U+(∞)-∫-∞-+(t){∂/∂t+(i/hc)1(t)}U+(t)dtを対称化して,

 

S"≡(1/2){U+(∞)+U-+(∞)}

-∫-∞[(1/2)U-+(t){∂U+(t)/∂t}

-(1/2)]{∂U-+(t)/∂t}U+(t)

+(i/hc)U-+(t)1(t)U+(t)]dt

を作ります。

 

そして,これの拘束条件をU+(-∞)=U-(∞)=1とします。

 

S"の停留条件からも同じ運動方程式が得られS"の停留値は散乱演算子Sです。(※詳細は省略)

 

直接,積分方程式に導くための作用を考え,

 

S^≡1-(i/hc)∫-∞[U-+(t)1(t)+1(t)U+(t)]dt

+(i/hc)∫-∞-+(t)1(t)U+(t)]dt

+(i/hc)2-∞-∞-+(t)1(t)

θ(t-t')1(t')U+(t')dtdt'

 

と定義します。

 

実際,

δS^=(i/hc)∫-∞dtδU-+(t)1(t)[U+(t)-1

+(i/hc)∫-∞θ(t-t')1(t')U+(t')dt']

+(i/hc)∫-∞dt[U-(t)-1-(i/hc)∫-∞dt'

1(t')U-(t')θ(t'-t)]+1(t)δU+(t)=0

から,求める積分方程式が得られ,

 

しかも停留値は散乱演算子Sに一致します。

 

 

このS^に対する変分原理は,S',S"のそれらとは異なり,U+,U-にも相互作用演算子1を含む積分にも何の拘束条件を要求しません。

 

後者の性質はU+とU-への適切な近似が,現実の相互作用過程の間だけ要求されることを意味します。

 

 さらに,同じ近似演算子U+とU-を用いるとき,第二の型の変分原理の方が第一の型のそれより正確な結果を生み出します。

 

 すなわち,簡単ですが粗い近似U+(t)=U-(t)=1を,

 S'=U+(∞)-∫-∞-+(t){∂/∂t+(i/hc)1(t)}U+(t)dt

 

 

 または, 

 S^=1-(i/hc)∫-∞[U-+(t)1(t)+1(t)U+(t)]dt

+(i/hc)∫-∞-+(t)1(t)U+(t)]dt

+(i/hc)2-∞-∞-+(t)1(t)θ(t-t')1(t')

+(t')dtdt' に代入します。

 

 前者からは,S~ 1-(i/hc)∫-∞1(t)dtを得ます。

 

 これは第1Born近似と同等です。

 

 一方,後者からは,

 S~ 1-(i/hc)∫-∞1(t)dt

+(i/hc)2-∞-∞1(t)θ(t-t')1(t')dtdt'

 を得ます。こちらは第2Born近似と同等です。

 

これらのSに対する近似表現は,以下に論じる変分原理の欠点を示しています。すなわち,不正確なSではユニタリ性(unitarity:確率の保存)が保証されません。

 

例えば,S~ 1-(i/hc)∫-∞1(t)dtからは,

+S~ 1+(1/hc)2(∫-∞1(t)dt)2≠1

を得ます。

 

この欠陥に対処する理論の修正版は,U+(t)とU-(t)を

V(t)≡2U+(t)/(1+S)=2U-(t)/(1+S-1)で置き換える

ことで得られます。

 

 

こうすれば,V(-∞)=2/(1+S),V(∞)=2S/(1+S)ですから,

(1/2){V(∞)+V(-∞)}=1で,V(∞)=V+(-∞)です。

 

そこで,KをHermite演算子,つまりK+=Kとして,

V(∞)=1-iK/2,V(∞)=1+iK/2と置くことができます。

Kはいわゆる反応演算子(reaction operator)です。

 

S=V(∞)/V(-∞)に注意すれば,S=(1-iK/2)/(1+iK/2)

となり,ユニタリなSをHermite演算子で表現できます。

 

 

そして,このHermite性が保証されているKに対して変分原理を適用してみます。

 

演算子(作用素)K'を,

K'≡(i/2)∫-∞{V+(t)(dV/dt)-(dV+/dt)V(t)}dt

+(i/hc)∫-∞+(t)1(t)V(t)dt

+(i/2)[{V(∞)-V(-∞)}-{V+(∞)-V+(-∞)}]

で定義します。

 

これは,任意のV(t)について明らかにHemiteな表現です。

 

+(t),V(t)の小変分に対するK'への効果はδK'=(※略)

となります。

 

そして,δK'=0 という条件から,

{-ihc∂/∂t+1(t)}V(t)=0 が得られます。

 

このときK'は先に定義したKに一致します。

 

(t)の満たす積分方程式は,{-ihc∂/∂t+1(t)}V(t)=0

を-∞からtまで積分して,

V(t)=V(-∞)-(i/hc)∫-∞t1(t')V(t')dt'

となります。

 

一方,∞からtまで積分すれば,

V(t)=V(∞)+(i/hc)∫t1(t')V(t')dt' です。

 

 

これらを辺々加えて2で割ると,変分原理からも得られる条件

(1/2){V(∞)+V(-∞)}=1から,

V(t)=1-{i/(2hc)}∫-∞ε(t-t')1(t')V(t')dt'

を得ます。

 

ただし,ε(t)は符号関数でt>0 ならε(t)=1,t<0 なら

ε(t)=-1です。

 

 

 逆に,この積分方程式からV(t)が時間発展の微分方程式

(Schoedinger方程式)と境界条件に従うことが演繹的に導かれます。

 

 また,K=i{V(∞)-V(-∞)}

=(1/hc)∫-∞1(t')V(t')dt'なる式も導かれます。

 

 このKに対する上記積分方程式は,直接,

 K"≡(1/hc)∫-∞{1(t)V(t)+V+(t)1(t)}dt

 -{i/(2hc)}∫-∞dt∫-∞dt'

 [V+(t)1(t)ε(t-t')1(t’)V(t')]

 なる作用の変分原理δK"=0 から得られます。

 

 (※↑これの証明も省略します。)

 

ここまで展開してきた抽象理論は系を始状態と終状態を記述する部分に分ける固有関数Φaを導入すればより明確になります。

 

SΦaは始状態Φa(※訳注:相互作用表示)から出現する終状態なので,

系が特に状態Φbに見出される確率はWba=|<ΦbSΦa>|2=|Sba|2

で与えられます。(Sba≡<ΦbSΦa>です。)

 

 相互作用過程で生成される状態変化を推進する作用素:T≡S-1を導入すれば,僅かに便利になります。

 

 Sのユニタリ性:S+S=1 は,T+T=-(T+T+)を意味します。

 

 そして,系が始状態と異なる終状態Φbに見出される確率:Wbaは,

b≠aならWba=|<ΦbTΦa>|2=|Tba|2と書けます。

 

 先の積分方程式:S=1-(i/hc)∫-∞1(t)U+(t)dtによれば,

T=S-1=-(i/hc)∫-∞1(t)U(t)dtです。

 

 そこで,Tba=<ΦbTΦa

=-(i/hc)∫-∞dt<Φb1(t)U+(t)Φa

=-(i/hc)∫-∞dt<Φbexp(i0t/hc)1exp(-i0t/hc)

+(t)Φa>を得ます。

 

 系が2つの成分へと明確に分離されることに関わって運動量状態の重ね合わせ(波束)には空間の局所性が要求されるため,Φb0の正確な固有関数とは成り得ないことに着目すべきです。

 

しかし,そのまま0Φb=EbΦbを満たす0の固有関数を導入し,系の成分分離から生じる相互作用の停止をt→±∞での相互作用の強さの断熱減衰によってシミュレートすれば同等な記述が可能です。

 

この断熱減衰は任意の微小なε>0 による因子exp(-ε|t|/hc)の挿入で表現できます。

 

 したがって,

ba=<ΦbTΦa=-(i/hc)∫-∞dt<Φbexp(i0t/hc)

1exp(-i0t/hc)+(t)Φa>の物理的に正しい表現は,

ba=-(i/hc)<Φb1Ψa(+)(Eb)>となります。

 

 ここに,Ψa(+)(E)

≡∫-∞dtexp{i(E-0)t/hc}exp(-ε|t|/hc)U+(t)Φa

です。

 

同様に,S-11+(i/hc)∫-∞1(t)U-(t)dtですが,

-1=S+=(1+T)+=1+T+なので,

+=(i/hc)∫-∞1(t)U-(t)dtと書けます。

 

それ故,Tba=-(i/hc)<Ψa(-)(Eb)1Φb>と書けます。

 

ただし,Ψa(-)(E)

≡∫-∞dtexp{i(E-0)t/hc}exp(-ε|t|/hc)U-(t)Φa

です。

 

Ψa(+)(E),およびΨa(-)(E)を決定する方程式は,

+(t)=1-(i/hc)∫-∞θ(t-t')1(t')U+(t')dt',

およびU-(t)=1+(i/hc)∫-∞1(t')U-(t')θ(t'-t)dt'

から得られます。

 

 すなわち,積分方程式:Ψa(+)(E)

=∫-∞dtexp{i(E-Ea)t/hc}exp(-ε|t|)Φa

-(i/hc)∫0dτexp{i(E-0)τ/hc}exp(-ετ/hc)

1Ψa(+)(E),

 

 および, 

 Ψa(-)(E)

=∫-∞dtexp{i(E-Ea)t/hc}exp(-ε|t|)Φa

+(i/hc)∫0dτexp{-i(E-0)τ/hc}exp(-ετ/hc)

1Ψa(-)(E)です。

 

 ここでτ=|t-t'|とおきました。

 

 

 さて,-(i/hc)∫0dτexp{i(E-0)τ/hc}exp(-ετ/hc)

=1/(E+iε-0)=(E-0-iε)/{(E-0)2+ε2}

=P{1/(E-0)}-iπδ(E-0),および,

 

 (i/hc)∫0dτexp{-i(E-0)τ/hc}exp(-ετ/hc)

=1/(E-iε-0)=(E-0+iε)/{(E-0)2+ε2}

=P{1/(E-0)}+iπδ(E-0)

なる公式が成立します。

 

 両表現の最後の式はε→+0 の極限での次の積分の実部と虚部が取る値の記号的表現です。

 

すなわち,limε→+0-∞{xf(x)/(x2+ε2)}dx

=P∫-∞{f(x)/x}dx,および,

limε→+0(1/π)∫-∞{εf(x)/(x2+ε2)}dx=f(0)です。

 

f(x)はxの任意関数でPは積分の主値(principal value)です。

 

(※訳注:これについては,2009年7/4のブログ記事

コーシーの主値(主値積分)」を参照してください。)

 

 これを用いると,積分方程式は記号的に,

 

 Ψa(+)(E)=2πhcδ(E-Eaa

+{1/(E+iε-0)}1Ψa(+)(E),および, 

 Ψa(-)(E)=2πhcδ(E-Eaa

+{1/(E-iε-0)}1Ψa(-)(E)

 

と書けます。

 

Ψa(±)(E)≡2πhcδ(E-Eaa(±)と書けば,方程式は,

Ψa(±)=Φa+{1/(E±iε-0)}1Ψa(±) に帰着します。

 

 

これらの方程式の表現はエネルギーEに小さい正の虚部iεか

負の虚部(-iε)のいずれを加えるかによって,

 

散乱体から出る波(outgoing wave)か,散乱体に向かって入る波

(incoming wave)か,を自動的に選択する散乱問題の時間に依存

しない定式化を与えます。

 

演算子(作用素)Tの行列要素はTba≡-2πiδ(Ea-Eb)ba;

ba≡<Φb1Ψa(+)>=<Ψa(-)1Φb>と表現できます。

 

これは,Ea=Ebのエネルギーが等しい状態だけで定義される関連行列要素による等価な表現です。

 

結果として遷移確率の公式:

ba=4π2[δ(Ea-Eb)]2|ba |2

が得られます。

 

長いので,ここでちょっとお休みします。

 

参考文献:「新編物理学選集32(素粒子理論)」(1961,第2版)

(日本物理学会編 )

ブックオフオンライン 

iconオンライン書店 boople.com(ブープル) 

この歳になっても,先輩は先輩で,またしてもオゴってもらいました。

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2010年4月25日 (日)

原子核のγ崩壊とメスバウアー効果(3)

 原子核のγ崩壊とメスバウアー効果の続きです。 

 非斉次方程式:{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}FElm(kr)=-KE(r),{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}FMlm(kr)=-KM(r)を解くためにグリ-ン関数(Green function)の方法を用います。

{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}gl(+)(r,r')=-r-2δ(r-r')を満たす関数:gl(+)(r,r')を方程式の左辺の微分作用素(演算子)のグリーン関数といいます。

 

この関数が得られれば,FE,Mlm(kr)=∫0r'2l(+)(r,r')KE,M(r')dr'なる式が{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}FE,Mlm(kr)=-KE,M(r)を満たします。

グリ-ン関数もFMlm(kr),FMlm(kr)と同じ境界条件を満たすべきという物理的要請から,gl(+)(r,r')は(ⅰ)r=0 (波源)近傍で有限で(ⅱ)r→ ∞(遠方)で外向き球面波になるという条件を満たします。

 

l(+)(r,r')の添字の記号(+)は外向き球面波を意味します。

方程式:{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}gl(+)(r,r')=-r-2δ(r-r')はr≠r'では斉次式d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}gl(+)(r,r')=0 になります。

この斉次方程式の条件(ⅰ)を満たす解はjl(kr)で(ⅱ)を満たす解はhl(1)(kr)で与えられることは既にわかっています。

 

そこで,gl(+)(r,r')はr,r'について対称な関数であるとすればr<r'ではgl(+)(r,r')=Ajl(kr)hl(1)(kr'),r>r'ではgl(+)(r,r')=Ajl(kr')hl(1)(kr)と書けます。

Aを決めるため,まず{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}gl(+)(r,r')=-r-2δ(r-r')を{d/dr(r2d/dr)+k22-l(l+1)}gl(+)(r,r')=-δ(r-r')と変形してr∈[r'-ε,r'+ε]の区間で積分し,最後にε→ +0 とします。

これから,[r2dgl(+)(r,r')/dr]r'-εr'+ε=-1です。代入するとAk{jl(kr)hl(1)'(kr)-jl'(kr)hl(1)(kr)}=-1/r2を得ます。

 

ただし,jl'(kr)≡djl(kr)/d(kr)=k-1djl(kr)/drであり,hl(1)'(kr)≡dhl(1)(kr)/d(kr)=k-1dhl(1)(kr)/drです。

 ところで,2階斉次線形常微分方程式d2y/dz2+p(z)dy/dz+q(z)y=0 においては,その異なる2つの解y=y1,y2について1次独立性と関わるロンスキー行列式(Wronskian)と呼ばれる特別な式表現:W[y1,y2]≡y1(dy2/dz)-(dy1/dz)y2=y12d(y2/y1)があります。

これは,1階線形微分方程式dW[y1,y2]/dz=y1(d22/dz2)-(d21/dz2)y2=-p(z)W[y1,y2]を満たすので,W[y1,y2]=W[y1,y2]z0exp{-∫z0zp(u)du}なる一般形を持ちます。B=W[y1,y2]z0は単なる積分定数です。

そして,上記の定数Aを決定するための式:Ak{jl(kr)hl(1)'(kr)-jl'(kr)hl(1)(kr)}=-1/r2は,W[jl,hl(1)]=k{jl(kr)hl(1)'(kr)-jl'(kr)hl(1)(kr)}なのでAW[jl,hl(1)]=-1/r2と表わされます。

ところで,今の球ベッセル方程式ではrの1階微分の係数が2/rですからW[jl,hl(1)]=W[jl,hl(1)]r0exp{-2∫r0rdr/r}=Br-2(Bは定数)です。

そして,r~ 0 ではjl(kr)~(kr)l/(2l+1)!!,djl(kr)/dr~kl(kr)l-1/(2l+1)!!,hl(1)(kr)}~inl(kr)~-i(2l-1)!!(kr)-(l+1),dhl(1)(kr)/dr=ik(l+1)(2l-1)!!,(kr)l-1/(2l+1)!!より,W[jl,hl(1)]=ik(kr)-2です。

したがって,AW[jl,hl(1)]=Aik(kr)-2=-1/r2によってA=ikを得ます。故に,gl(+)(r,r')=ikjl(kr)hl(1)(kr')(r<r'),gl(+)(r,r')=ikjl(kr')hl(1)(kr)(r>r')です。

 これでグリーン関数gl(+)(r,r')の具体形が得られ,原子核の中心近傍にある放射源の外側r>r'ではgl(+)(r,r')=ikjl(kr')hl(1)(kr)であることがわかりました。

そして,前に書いたようにFE,Mlm(kr)はグリーン関数gl(+)(r,r')によってFE,Mlm(kr)=∫0r'2l(+)(r,r')KE,M(r')dr'と表わされます。

 

故に,r>r'ではFE,Mlm(kr)=ikhl(1)(kr)∫0r’2l(kr')KE,M(r')dr'です。

これを中心の放射源の外でFElm()→AElmElm(1)l(1)(kr),FMlm()→AMlmMlm(1)l(1)(kr)となるという境界条件と比較すれば,aElm≡AElmElm(1)=ik∫02l(kr)KE(r)dr=-iμ0lm(Ω)*l(kr){∇×e()}d,およびaMlm≡AMlmMlm(1)=-μ0ck2lm(Ω)*l(kr){∇×()}dです。

 

さらに,定義によってlm(Ω)≡hc-1lm(Ω)/{l(l+1)}1/2なのでlm(Ω)*=hc-1*lm(Ω)*/{l(l+1)}1/2です。

 

∇×e(),∇×()はr→ ∞で1/r2より急激にゼロになるため,のエルミート性から,aElm=-iμ0khc-1{l(l+1)}-1/2l(kr)Ylm(Ω)*{∇×e()}d,aMlm=-μ0ck2c-1{l(l+1)}-1/2l(kr)Ylm(Ω)*{∇×()}dと書けます。

 

ところで,ベクトル解析から公式:hc-1(∇×)=i(×)(∇×)=i(r∂/∂r)∇i2が成立します。

 

そこで,e(),またはa=()としたこの表現を代入すればaElm=-μ0{l(l+1)}-1/2l(kr)Ylm(Ω)*{(r∂/∂r)∇e()-2e()}d,aMlm=-iμ0ck2c-1{l(l+1)}-1/2l(kr)Ylm(Ω)*{(r∂/∂r)∇()2()}dを得ます。

さらに,∇2,i(r∂/∂r)はエルミート演算子であり左側の関数に作用するようにできます。そして∇2{l(kr)Ylm(Ω)*}=-2l(kr)Ylm(Ω)*,eickρeです。

 

また,∇=0 ですが,磁性体の中では∇≠0 なのでは一般にはゼロとは限りません。(2008年5/3の記事「電場と電束密度,磁場と磁束密度(4)」参照)

したがって,aElm=iμ0ck2{l(l+1)}-1/2lm(Ω)*e()/∂r{rl(kr)}+ic-1{rje()}jl(kr)]d,aMlm=iμ0ck2{l(l+1)}-1/2l(kr)Ylm(Ω)*[()/∂r{rl(kr)}-k2{rM()}jl(kr)]dと書けます。

ここまでは何の近似もしていません。 

ここで,電磁波のソース(source)が半径Rの原子核の場合を考えると,電磁波の波長λに対してR/λ=kR<<1の長波長近似が成立してr≦Rではjl(kr)~ (kr)l/(2l+1)!!です。それ故,(/∂r){rl(kr)}~ (l+1)(kr)l/(2l+1)!!です。

故に,Qlm∫rllm(Ω)*e()+{ik/c(l+1)}{rje()}]dと置けばE波の係数はaElm=iμ0ckl+2/(2l+1)!!}{(l+1)/l}1/2lmと書けます。

 

また,M波ではMlm≡-∫rllm(Ω)*[()-{k2/(l+1)}{rM()}]dと置けばaMlm={iμ0ckl+2/(2l+1)!!}{(l+1)/l}1/2lmを得ます。

しかし,オーダー的に{k/c(l+1)}(rje)~k/c(l+1)}r(kcrρ)=(kr)2ρ/(l+1)なのでρe()+{ik/c(l+1)}{rje()}の第2項は無視できてQlm∫rllm(Ω)*ρe()dと近似されます。

 

同様に,Mlm=-∫rllm(Ω)*()dとできます。 

これまでの一連の電磁波放射の記事と同じく,Qlmを電気多極モ-メント,Mlmを磁気多極モーメントと呼びます。

 さて,電磁放射の強度分布を求めるには遠方領域(波動帯)において"単位時間に単位面積を通過するエネルギー=ポインティングベクトル(Poyntung vector)":(,t)≡(,t)×(,t)を求める必要があります。

電磁放射では遠方領域は真空なので(,t)=(,t)/μ0ですから(,t)≡(,t)×(,t)/μ0です。そして複素表現で(,t)=()exp(iωt),(,t)=()exp(iωt)です。

実数表現では(,t)={(*()/μ0}cos2ωtですが,観測に掛かるのはこれのサイクル平均<()>であり,cos2ωtに代わる因子は1/2となるので<()>={(*()}/(2μ0)です。

 これまでの考察から,ソースの外部領域では(r)=Σl=1Σm=-ll{Elm()+Nlm()}=Σl=1Σm=-ll[aElml(1)(kr)lm(Ω)-{i/(ck)}aMlm∇×{hl(1)(kr)lm(Ω)}]です。

 

 また,()=Σl=1Σm=-ll{Elm()+Mlm()}=Σl=1Σm=-ll[(i/k)aElm∇×{hl(1)(kr)lm(Ω)}+aMlml(1)(kr)lm(Ω)]です。

 そして,を計算するにはE,Mlm,E,Mlmの遠方のr→ ∞での挙動を把握すれば十分です。そしてハンケル関数ではr→∞での漸近式がhl(1)(kr)→(-i)l+1exp(ikr)/(kr)です。

したがって,電気2l極放射(E波)ではElm()→ aElm(-i)l+1exp(ikr)/(kr)lm(Ω),Elm()→ (i/k)Elm(-i)l+1∇×{exp(ikr)/(kr)lm(Ω)}であり,

 

磁気2l極放射(M波)ではMlm()→ aMlm(-i)l+1exp(ikr)/(kr)lm(Ω),Mlm()→ {-i/(ck)}Mlm(-i)l+1∇×{exp(ikr)/(kr)lm(Ω)}です。

 そして,∇×{exp(ikr)/(kr)lm(Ω)}=∇{exp(ikr)/(kr)}×lm(Ω)+{exp(ikr)/(kr)}{∇×lm(Ω)}=ik{exp(ikr)/(kr)}{r×lm(Ω)}+O(1/(kr)2です。r/rです。

 そこで,電気2l極放射ではElm()~ -Elm(-i)l+1{exp(ikr)/(kr)}{r×lm(Ω)}=cElm(r,磁気2l極放射ではMlm()~ c-1Mlm(-i)l+1{exp(ikr)/(kr)}{r×lm(Ω)}=c-1r×Mlm()を得ます。

 以上をまとめると,遠方領域で(r)={exp(ikr)/(kr)}Σl=1Σm=-ll(-i)l+1[aElmlm(Ω)+c-1Mlm{r×lm(Ω)}],()=c(rなる具体的な漸近表現を得ます。

 そこで,|(r)|=-1|()|であって,,はこの順に右手直交系を作ります。

 

 したがって,ベクトル()=μ0-1(()は方向を向いていて,これのサイクル平均には因子1/2が掛かって<()>=(2cμ0)-1|()|2r={c/(2μ0)}|()|2rです。

 結局,Ω=(θ,φ)のまわりの微小立体角dΩに単位時間に放射される電磁エネルギーをdUとすれば,dU=|<()>|r2dΩ={c/(2μ0)}|()|22dΩ={c/(2μ02)}|Σl=1Σm=-ll(-i)l+1[aElmlm(Ω)+c-1Mlm{r×lm(Ω)}]|2dΩです。

もしも,γ線放射が純粋な電気(l,m)放射なら,dUElm={c/(2μ02)}|aElm|2|lm(Ω)|2dΩであり,純粋な磁気(l,m)放射なら,dUMlm={1/(2μ0ck2)}|aMlm|2|lm(Ω)|2dΩです。

 

これによれば,同じ(l,m)極放射であれば,その放射エネルギー密度は電気型,磁気型を問わず同じ強度角度分布|lm(Ω)|2を有することがわかります。

 故に,γ線強度の角度分布の測定だけでは放射が電気多極放射か磁気多極放射かを判断することはできません。しかし,放射波の偏極(polarization) or 偏光を調べれば両者を区別できます。

 

 すなわち,電気多極放射ならその偏光はlm(Ω)に平行であり,磁気多重極放射なら偏光はr×lm(Ω)に平行です。

さて,Zlm(Ω)≡|lm(Ω)|2と置けば,角度分布はdUElm/dΩ={c/(2μ0)}Zlm(Ω)|aElm|2/k2,dUMlm/dΩ={1/(2cμ0)}Zlm(Ω)|aMm|2/k2です。

 

具体的にはlm(Ω)≡hc-1lm(Ω)/{l(l+1)}1/2でありYlm(Ω)=(-1)m{(2l+1)/(4π)}1/2{(l-m)!/(l+m)!}1/2lm(cosθ)exp(imφ)です。

 

ただし,Pl(z)はルジャンドル多項式(Legendre polynomial):Pl(z)≡(2ll!)-1(dl/dzl)(z2-1)lであり,Plm(z)はルジャンドル陪多項式:Plm(z)≡(dl/dzl)(z2-1)m/2{dml(z)/dzm}(|m|≦l)です。

そして,hc-1x=-i{-sinφ(∂/∂θ)-cosθsin-1θcosφ(∂/∂φ)},hc-1y=-i{cosφ(∂/∂θ)-cosθsin-1θsinφ(∂/∂φ)},hc-1z=-i(∂/∂φ)です。

 そこで,例えばl=1のP波なら,10(Ω)=2-1/2c-110={3/(8π)}1/2(sinθsinφ,sinθcosφ,0)よりZ10(Ω)=|lm(Ω)|2={3/(8π)}sin2θであり,Z1±1(Ω)=|1±1 (Ω)|2={3/(16π)}(1+cos2θ)です。

同様に,l=2のD波ならZ20(Ω)={15/(8π)}sin2θcos2θ,Z2±1(Ω)={5/(16π)}(1-5cos2θ+4 cos4θ),Z2±2(Ω)={5/(16π)}(1-5cos2θ+4 cos4θ)です。

 いずれにしても,あらゆる方向に放射される(l,m)波の総和:UE,MlmはdUE,Mlm/dΩを全立体角で積分すれば得られます。

 

 dΩ積分を実行して規格化直交条件∫(lm(Ω)*l'm'(Ω))dΩ=δll'δmm'を用いることにより放射がE波ならUElm=∫dUElm={c/(2μ0)}|aElm|2/k2,M波ならUMlm=∫dUMlm={1/(2cμ0)}|aMlm|2/k2を得ます。

一般には全ての(l,m)型のE波,M波の総和として,dU/dΩ={c/(2μ02)}|Σl=1Σm=-ll(-i)l+1[aElmlm(Ω)+c-1Nlm{r×lm(Ω)}]|2より,U=∫dU={c/(2μ0)}Σl=1Σm=-ll(|aElm|2+c-2|aMlm|2)/k2です。

この式に,先に求めたaElmiμ0ckl+2/(2l+1)!!}{(l+1)/l}1/2lm;電気多極放射:Qlm∫rllm(Ω)*ρe()d,aMlm={iμ0ckl+2/(2l+1)!!}{(l+1)/l}1/2lm;磁気多極放射;Mlm=-∫rllm(Ω)*()dの表現を組み合わせます。

 

ところで,空間反転→ -,つまり(r,θ,φ)→(r,π-θ,π+φ)なる変換に対して球面調和関数はlm(θ-π,π+φ)=(-1)llm(θ,φ)なる性質を持ち符号が(-1)lだけ変わります。

 

これを関数lm(Ω)=lm(θ,φ)は(-1)lのパリティ(parity:偶奇性)を持つといいます。また明らかにrlのパリティは正です。

 

電荷ρe()はスカラーなのでパリテイは正です。∇では()がパリティ正の軸性ベクトル,∇がパリティ負の極性ベクトルのため,∇のパリテイは負です。

  

以上から,Qlm∫rllm(Ω)*ρe()dのパリティは(-1)l,Mlm=-∫rllm(Ω)*()dのパリティは(-1)l+1です。

  

さて,原子核の多極モーメントの幾つかの低次の具体的表現を求めてみると次のようになります。

 

電気多極では,Q00=(4π)-1/2∫ρe()d=(4π)-1/2q(qは核の総電荷),Q10={3/(4π)}11/2∫rρe()cosθd={3/(4π)}11/2∫zρe()d(∫zρe()dは電気双極子モーメント)etc.です。

 

磁気多極では,M00=-(4π)-1/2∫∇()d=-(4π)-1/2()dS=0,M10=-{3/(4π)}11/2∫z∇()d=-{3/(4π)}11/2∫Mz()detc.です。

 これまでは古典論でしたが,原子核が量子論的状態|Ψ>にある場合の量子論での話に移行するには,単に古典論での多極モーメントlm,Mlmを,それらに対応する線形演算子lm,lmの期待値<Ψ|lm|Ψ>,<Ψ|lm|Ψ>で置きかえれば十分です。

 

 例えば,Ml0を得るなら,Ψ()=<|Ψ>を波動関数としてMl0=<Ψ|l0|Ψ>=∫Ψ*()l0Ψ()dを計算します。

 

 ところで,Ml0=∫Ψ*()l0Ψ()dで|Ψ*Ψ|=|Ψ|2のパリティ(parity:偶奇性=空間反転の固有値)は正ですから,l0のパリティはMl0のそれと同じ(-1)l+1です。

 

 もしも,l0のパリテイが負なら,それは∫Ψ*(-)l0(-)Ψ(-)dr=-∫Ψ*()l0()Ψ()dを意味します。

 

 ところが,左辺は元が右手系なら単に空間軸が反対の左手系に移行しただけです。

 

 つまり,この積分は'=-と変数置換しただけなので,これば∫Ψ*(-)l0(-)Ψ(-)dr=-∫'Ψ*(')l0(')Ψ(')d'と書けます。

 

 ただし,の積分領域とそれに対応する積分変数'の積分領域の違いを強調するため,'の積分記号を∫'と書いて区別表記しました。

 

 一般に,座標積分変数の反転x'=-xに対しては,∫-∞dx=-∫-∞dx'=∫-∞dx'なので積分値の符号は代わりません。

 

 従って,積分区間の変更:∫→∫'のため,∫Ψ*(-)l0(-)Ψ(-)dr=∫Ψ*()l0()Ψ()dを得ます。

 

 以上から,l0のパリテイが負なら∫Ψ*()l0()Ψ()dr=-∫Ψ*()l0()Ψ()dが成立するため,∫Ψ*()l0()Ψ()dはゼロになります。

 

 すぐ上で書いたように,l0のパリテイはl0と同じ(-1)l+1ですから原子核のlが偶数(l=0,2,4,..)の全ての磁気2l極モーメントの値はゼロとなります。

 

 同様にl0のパリテイはl0と同じ(-1)lですから原子核のlが奇数(l=1,3,5,..)の全ての電気2l極モーメントの値はゼロとなります。

 

 原子核では,"電気双極子(electric dipole)=電気分極ベクトル"()が存在しないのもこの結果の一例であると考えられます。

 

 また,角運動量の合成則から核スピンがIの状態では,l>(2I)の次数の電磁2l極モーメントは存在しません。そこで,特にI=1/2の状態では電気四重極モーメントはゼロです。

 

 つまり,核スピンがの状態では相互作用中の電磁場の角運動量:L=cに対して角運動量の保存則からが成立します。

 

 一方,角運動量の理論から21が成立するとき,l||の取り得る値はl=-|12|,-|12|+1,..,I1+I2で,lの取り得る最大値はI1+I2です。

 

 そこで,12ならlの取り得る最大値が 2Iなのでl>(2I)の次数の電磁2l極モーメントは存在しないのです。

 

 特にI=1/2ならlの取り得る最大値が1なので,l=2の電気四重極モーメントも存在しませんね。

  

 切りがいいので今日はここで終わりにします。(つづく)

参考文献:八木浩輔著「原子核と放射」(朝倉書店),八木浩輔 著「原子核物理学」(朝倉書店),砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店),ジャクソン著(西田 稔 訳)「電磁気学」

 

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2010年4月22日 (木)

原子核のγ崩壊とメスバウアー効果(2)

原子核のγ崩壊とメスバウアー効果の続きです。

 

いきなり本題に入ります。

電磁波を与える真空中のマクウェル方程式(Maxwell eq.)は線型なので,電場と磁場の任意の解,は電気的波(E波=TM波;transverse magnetic wave)と磁気的波(M波=TE波;transverse electric wave)に分解できます。

すなわち,,EM,EM,(ⅰ)E波=TM波:EEr=Er,BEr=0 (or rEErE,rBE=0 )(ⅱ)M波=TE波:EMr=0,BMr=Br (or rEM=0,rBMrB)の和に分解されます。

 

(例えば2009年11/7の記事「光(電磁波)の散乱(4)」参照)

一方,前記事で述べたように電磁ポテンシャルφ(,t)=φ^()exp(-iωt),(,t)=^()exp(-iωt)の空間部分:φ^(),^()の任意の1成分ψ()はヘルムホルツ方程式(Helmholtz eq.):(∇2+k2)ψ()=0 の解です。

 

すなわち,ψ()=ψ(r,θ,φ)は[r-2(∂/∂r){r2(∂/∂r)}+k2-(2/hc2)/r2]ψ()=0 を満たします。

そこで,動径関数(radial fuction)因子をflm(kr)とすると,ψ()は独立な変数分離解の和としてψ()=Σl=0Σm=-lllm(kr)lm(Ω)と多重極(multi-pole)に展開できます。

lm(Ω)=Ylm(θ,φ)は球面調和関数(spherical harmonics)です。これは軌道角運動量の固有値方程式:2lm(Ω) =hc2l(l+1),Lzlm(Ω)=mYlm(Ω)を満たします。

そこで,φ(,t),A(,t)の空間微分,時間微分の線形和である=-∇φ-∂/∂t,=∇×も多重極展開できるはずです。

先出の2009年11/7の記事光(電磁波)の散乱(4)でも,M.Born,E.Wolf著(草川徹)「光学の原理」(東海大学出版会)などを参考にして球状散乱体によるレーリー(Raileigh)散乱,ミイ(Mie)散乱の境界条件を満たすE,E,M,Mの具体的な展開形を与えましたが,ここでは別の一般的方法で多重極展開の具体形を得たいと思います。

まず,マクスウェル方程式(Maxwell eq.):∇=ρe,0,∇×/∂t,∇×/∂t+e,および連続方程式:e=-∂ρe/∂tにおいて,,,,の時間依存性がexp(-iωt)のみである角振動数ωの単色波の形式を考えます。

ただし,以下では混乱は生じないと思われるので,例えば電場(,t)=^()exp(-iωt)の空間部分^()も,(,t)と同じく(),あるいは単にと表わすことにします。

そして,振動数がωの単色波では上記のマクスウェルの方程式系と連続方程式は=ρe,0,∇×,∇×=-iωe,およびe=-∂ρe/∂tに帰着します。

特に"ρee0 のとき=真空中"では,この方程式系は0,0,∇×,∇×=-0ε0ω=-iωc-2です。

これらの式から,真空中の,を具体的に得るには(∇2+k2)=0,および∇=0 を解いて(ic/k)∇×,=--1∇×とすればよいことがわかります。

そこで,まず後の便宜のためベクトルヘルムホルツ方程式:(∇2+k2)=0 の一般解()を,動径関数を球面ハンケル(Hankel)関数hl(ν)(x)(ν=1,2)の線形結合とする展開式:()=Σl=0Σm=-ll[lm(1)l(1)(kr)+lm(2)l(1)(kr)]Ylm(Ω)で表現します。

球面ハンケル関数hl(1)(x),hl(2)(x)というのはヘルムホルツ動径方程式のjl(x),nl(x)とは異なる選択の独立解:hl(1)(x)=jl(x)+inl(x),hl(2)(x)=jl(x)-inl(x)です。

さて,()の多重極展開の表現式を∇0 に代入するとΣl,m{lm(ν)l(ν)(kr)Ylm(Ω)}0 (ν=1,2)を得ます。

ここで,右辺の∇に公式:∇=(/r)(∂/∂r)-{i/(c2)}(×)を用います。

 一応,この公式を証明しておきます。

(証明):=(-ic)(×∇)より,(×)i/(-ic)ijkjk)/(-ic)=εijkεklmjlmilδjm-δimδjl)xjlm=xijj-xjji=xi(∇)-r2iです。

 

 つまり,(×)/(-ic)=()-r2∇なので,∇=(/r)(∂/∂r)-{i/(c2)}(×)を得ます。(証明終わり)

あるいは,別の極座標を用いた証明もあります。

(別証明):∇=r(∂/∂r)+θ-1(∂/∂θ)+φ-1sin-1θ(∂/∂φ)であり,r/r,r×r=0,r×θφ,r×φ=-θですから,=(-ic)(×∇)=(-ic){-θsin-1θ(∂/∂φ)r-1(∂/∂θ)+φ(∂/∂θ)}です。

さらに,×=(-ic){θ(∂/∂θ) +φsin-1θ(∂/∂φ)}が得られます。

そこで,この極座標表現からも公式:∇=(/r)(∂/∂r)-{i/(c2)}(×)を導くことができました。(証明終わり)

さらに,F(r)をrだけの微分可能な任意関数とすれば,{/(-ihc)}F(r)=(-i)(×∇)F(r)=(-i/r)(×)(dF/dr)=0,つまり(r)=0 です。そこではrだけの関数を素通りします。

以上から,式:∇0 or Σl,m{lm(ν)l(ν)(kr)Ylm(Ω)}0 はΣl[{dhl(ν)(kr)/dr}Σm{lm(ν)lm(Ω)}-c-1-1l(ν)(kr)×{Σmlm(ν)lm(Ω)}]=0 を意味します。

もしも,()=Σl=0Σm=-ll[lm(1)l(1)(kr)+lm(2)l(1)(kr)]Ylm(Ω)がTM波(E波):EであればrBE=0より,Σm=-ll[lm(ν)l(ν)(kr)Ylm(Ω)=0 ですから,[×{Σmlm(ν)lm(Ω)}]=0 を得ます。

Σm=-ll[lm(ν)l(ν)(kr)Ylm(Ω)=0,かつ[×{Σmlm(ν)lm(Ω)}]=0 が常に成立するためにはElm(ν)を定係数として,Σmlm(ν)lm(Ω)=c-1ΣmElm(ν)lm(Ω)と書ければ十分です。

この表現を採用してE()=Σl=0Σm=-llΣνlm(ν)l(ν)(kr)Ylm(Ω)に代入すると,E()=Σl=0Σm=-llΣνElm(ν)l(ν)(kr)c-1lm(Ω)を得ます。

そして,(ic/k)(∇×)より,E()=(ic/k)Σl=0Σm=-llΣνElm(ν)l(ν)(kr){∇×c-1lm(Ω)}です。

同様にrEM0 よりM()=Σl=0Σm=-llΣνMlm(ν)l(ν)(kr)c-1lm(Ω)です。

 

そこで,=--1∇×からM()=-i(ck)-1∇×M()={i/(ck)}Σl=0Σm=-llΣνΣm=-llMlm(ν)l(ν)(kr){∇×c-1lm(Ω)}を得ます。

ここで,∫(lm(Ω)*l'm'(Ω))dΩ=δll'δmm'と直交規格化されたベクトル球面調和関数:lm(Ω)をlm(Ω)≡hc-1lm(Ω)/{l(l+1)}1/2(i){×∇lm(Ω)}/{l(l+1)}1/2で定義して導入します。

また,fE,Mlm(kr)≡E,Mlm(1)l(1)(kr)+CE,Mlm(2)l(2)(kr),E,Mlm(ν)≡{l(l+1)}1/2E,Mlm(ν)と置きます。

すると場は()=E()+M()=Σl=1Σm=-ll[AElmElm(kr)lm(Ω)-AMlm{i/(ck)}{∇×{fMlm()lm(Ω)}},()=E()+M()=Σl=1Σm=-ll[AElm(i/k){∇×{fElm()lm(Ω)}+AMlmMlm(kr)lm(Ω)}と表わすことができます。

これで,真空中の磁場()と電場()の多重極展開の具体的な形が得られました。

 

右辺の級数和:Σl=0をl=1から始まるΣl=1に書き換えたのはl=0 (球対称なs波)なら,(r)=0 のためlm(Ω)=hc-1lm(Ω)}/{l(l+1)}1/2が存在しないからです。

次に,原子核の中心=0 付近の限られた領域を考えると,ここは真空ではなくρe(,t)=ρe()exp(-iωt),e(,t)=e()exp(-iωt)なる振動電荷,振動電流が存在します。

 

そして,物質の電磁気学の現象論からεを核の誘電率,μを核の透磁率として=ε=ε0,μ-1μ0-1と書けます。

ただし,実際には非負電荷のみから成る原子核では電気分極:はゼロですからε=ε0,=ε0です。核磁気モーメントの方は存在して(,t)=()exp(-iωt)と書けます。

そこで,先に与えた単色波のマクスウェル方程式:=ρe,0,∇×,∇×=-iωe,連続方程式:eρeに,=ε0,μ0-1を代入してρee0 の真空のときと同じく,を消去してみます。

=ρe/ε0,0,∇×,∇×(μ0)=-iε0μ0ω+μ0e=-ic-2ω+μ0e,eiωρeですね。

そして∇=ρe/ε0eiωρeから,∇{i/(ε0ω)e}=0 となりρeを消去できます。

 

つまり,'を'≡i/(ε0ω)eで定義すれば∇'=0 です。さらに,∇×(μ0)=-ic-2ω+μ0e'を用いると∇×(μ0)=-ic-2ω'と書き直せます。

そして,発散(divergence)がゼロの,'については,∇×(∇×)=∇(∇)-∇2=-∇2,∇×(∇×)=∇(∇')-∇2'=-∇2'が成り立ちます。

 故に,∇×(μ0)=-ic-2ω'より∇×{∇×(μ0)}=-ic-2ω∇×'=ic-2ω∇×+μ0∇×eですが,∇×なので(2+k2)=-μ0{∇×e+∇×(∇×)}を得ます。

また,∇×より∇×{'-i/(ε0ω)e}ですから∇×{∇×{'-i/(ε0ω)e}}=iω∇×です。

 

故に,∇×(μ0)=-ic-2ω'+μ0∇×を用いて-∇2'-i/(ε0ω)∇×(∇×e)=k2'+iμ0ω∇×となります。

 以上から,(2+k2)'=-iμ0-1{∇×(∇×e)+2∇×}が得られます。

並べて書くと,(2+k2)=-μ0{∇×e+∇×(∇×)},(2+k2)'=-iμ0-1{k2∇×∇×(∇×e)}です。

 

式が過剰となりますから整合性が必要ですが,これらと∇0,∇'0,∇×=-ic-2ω'μ0∇×,および∇×'=iω+i/(ε0ω)∇×eを組み合わせます。

真空のときと同様,EM,''E'Mと分割して,E0,rBE0,および'M0,'M0 を同時に満たすE,'MとしてE()=Σl=1Σm=-llElm(kr)lm(Ω),'M()=Σl=1Σm=-llMlm(kr)lm(Ω)なる展開形が想定されます。

前と同じく,M=-iω-1∇×'MとしてみるとEMiω-1∇×'+k-2μ0∇×eから,E=-iω-1∇×'E-2μ0∇×eとなることが必要です。

また,'E(ic/k)∇×Eとしてみると''E'Mick-1∇×-icμ0-1∇×から,'Mick-1∇×Micμ0-1∇×となることが必要です。

これで辻褄が合うなら,E()=Σl=1Σm=-llElm(kr)lm(Ω),および'M()=Σl=1Σm=-llMlm(kr)lm(Ω)から,動径関数FE,Mlm(kr)だけが真空中のfE,Mlm(kr)と異なるという形で原子核中心領域の磁場,電場の空間部分が次のように表わされます。

すなわち,()=E()+M()=Σl=1Σm=-ll[FElm(kr)lm(Ω)-{i/(ck)}{∇×{FMlm(kr)lm(Ω)}},()=E()+M()=Σl=1Σm=-ll[(i/k){∇×{FElm(kr)lm(Ω)}+FMlm(kr)lm(Ω)}です。

問題はこれで全ての辻褄が合うかどうか?です。

 

まず,E=-iω-1∇×'E-2μ0∇×e'E(ic/k)∇×Eから,E=-k-22E-2μ0∇×eなので,(2+k2)E=μ0∇×eです。

 

同様に,'E=-k-22'Eic-3μ0∇×(∇×e)により,(2+k2)'E=iμ0ck-1∇×(∇×e)です。

また,'Mick-1∇×Micμ0-1∇×,M=-iω-1∇×'Mから'M=-k-22'Micμ0-1∇×により,(2+k2)'Miμ0ck∇×です。

 

同様に,M=-k-22M-2μ0∇×(∇×)により,(2+k2)M=μ0∇×(∇×)が得られます。

これらを通して,()=E()+M(),()='E()+'M()は,確かにそれぞれ,方程式:(2+k2)=-μ0{∇×e+∇×(∇×)},(2+k2)'=-iμ0ck-1{∇×(∇×e)+2∇×}を満たしています

そして,与えた多重極の展開形式は,確かに∇E,M'E,M0,およびE'M0 を満たします。

E=-iω-1∇×'E-2μ0∇×e,'Mick-1∇×Micμ0-1∇×,E=0,rE'M=0 によ{∇×('E+iμ0-1e)}=0,{∇×(Nμ0)}=0 が要求されます。

 

しかし,これはEM,'E'Mの上記分割が妥当でその他全ての式を満たす解であれば,当然,M,'Eが満たすべき条件です。言うなればトートロジーですね。

 

さて,今得たのは電荷密度,電流密度,磁気モーメントが全て存在する内部領域における解ですがこれらはその境界で領域の外の解に滑らかに接続するはずです。

 

そして,この境界条件はFElm(kr)→AElmElm(1)l(1)(kr),FMlm(kr)→AMlmMlm(1)l(1)(kr)で与えられます。

ここで,r→ ∞での球ハンケル関数の挙動はhl(1)(kr)→(-i)l+1exp(ikr)/(kr),hl(2)(kr)→il+1exp(-ikr)/(kr)ですから,原子核中心付近から放射される波には外向き成分しかないとして領域の外の真空中での動径関数fE,Nlm(kr)≡E,Nlm(1)l(1)(kr)+CE,Nlm(2)l(2)(kr)でhl(2)(kr)の係数CE,Nlm(2)を全てゼロと置きました。

動径関数:FElm(kr)を具体的に解くために,E()=Σl=1Σm=-llElm(kr)lm(Ω)を(2+k2)=-μ0∇×eに代入します。

  

すると,[r-2(∂/∂r){r2(∂/∂r)}+k2-(2/hc2)/r2]E()=Σl=1Σm=-ll{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}FElm(kr)lm(Ω)=-μ0∇×eです。

 この方程式の両辺の左からl'm'(Ω)*を掛けてdΩ積分し規格化直交条件を用いると,{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}FElm(kr)=-μ0lm(Ω)* {∇×e()}dΩ≡-KE(r)です。

 同様に,'M()=Σl=1Σm=-llMlm(kr)lm(Ω)を(2+k2)E'M=-iμ0ck∇×に代入します。

 

 すると,[r-2(∂/∂r){r2(∂/∂r)}+k2-(2/hc2)/r2]E'M()=Σl=1Σm=-ll{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}FMlm(kr)lm(Ω)=-iμ0ck∇×です。

これも左からl'm'(Ω)*を掛けてdΩ積分し規格化直交条件を用いると,{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}FMlm(kr)=-iμ0cklm(Ω)*{∇×()}dΩ≡-KM(r)を得ます。

今日はここで終わります。

いやあ,今回も細かい計算を始めると寝食も忘れてしまいます。こういう習性だけは,体力も精神力も落ちて老眼鏡が不可欠な今も昔と変わりませんね。

 

この関係の記事を後回しにしていたのは自分の計算に納得できず,いくら検算しても合わないような問題点があったからです。

 

そしてまだ終わっていません。テーマは古いのですがね。

  

ただ,別に締め切りも無くて暇があるだけが救いです。

 

ま,いくら心血を注いでも一銭にもなりませんがね。あ,でも自己満足を得られるからそれで十分かぁ。。。

ゼロからでなく色々と参考書もあるのですが,一度つまずくと細かい式については専門の本も100%は信用できませんから大変かな。。

八木浩輔著「原子核物理学」(朝倉書店),八木浩輔 著「原子核と放射」(朝倉書店),砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店),ジャクソン著(西田 稔 訳)「電磁気学」 

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甲斐智美女流二段がマイナビ新女王に!!

 将棋ニュースです。(友人のTKさんからの情報を少し脚色)

 「マイナビ女子オープン」http://mynavi-open.jp/ で甲斐智美女流二段が矢内理絵子女王(女流四段)との五番勝負3連勝で新女王になりました。

 (第3局は4月19日東京将棋会館) 

      ←甲斐智美女流二段;メガネが似合ってる。

 鉄のスカートと呼ばれていた?矢内理絵子さん4年ぶり無冠です。

 羽生善治名人と挑戦者三浦弘行八段の名人戦七番勝負第2局が4月20,21日に岩手の遠野で行われ,93手で先手羽生の2連勝です。

 このまま終わってしまうのでは?。。。第3局は5月6日千葉県野田市で。。

 http://mainichi.jp/enta/shougi/news/20100422k0000m040061000c.html

 

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2010年4月20日 (火)

アクセス数新記録

 何なんだろうなぁ?昨日は初めて一日のアクセス数が1000を超えて1552でした。訪問者数は1474ですから訪問回数は平均1回で,ほとんどは"いちげんさん"なんでしょうけど。。

 何故か13時から14時に1224人,1230アクセス,それ以外は300アクセスくらいですからイツモと同じなんだけど。。。

 きっと,何かの検索ワードで大当たりしたんでしょうけどね。。。理由がわからないと少し気持ち悪い。。イヤ,ある意味気持ちいいのですが。。

(明男さんのコメントによれば,X-JAPANのTOSHIさんのニュースのためらしいです。やはり芸能人の名前の効果はすごいですね。)

PS:自分ではプライドなんか持っていない。あるとしてもそれは"プライドなんかないぞ。"というプライドくらいかな?と思っていましたが。。。

 どうもその"プライドなんかない。"というプライドというのが"何様のつもりなんだ?"とか"何の根拠も無いのにえらくプライドの高い野郎だな"と見えるらしいですね。。。イヤこういうフラストレイション?はむずかしいものです。。。

PS2:基地移転問題か?そりゃ,こういうものは人も漁獲資源などもなく人里から離れた無人島でもなければ普通,誰だって反対するのが当然でしょう。

 ん?関空は埋立地か?

 もうヤンキーは不要だから全員国に帰れば。。。?

 思えば40年前,地元の大多数の農民の反対にも関わらず成田新空港建設の土地を強制収用するという強制代執行への反対を支援して現地で土地座り込みをしたりしたものでした。

 当時の大多数の国民の世論は政府と千葉県を支持していて反対者は犯罪人扱いだったなあ。。懐かしい。。。

 まあ,強制執行のおかげで今の成田空港ができたのですが。。。

 元々火山灰だらけの不毛な関東シラス台地を苦労して開墾し,米はできないけれど落花生,イモなどができるようにしたと聞いていた農地(命?)を「公共の利益」(←誰の利益じゃ?)のために奪われたのですね。

 最後に,土地収用を強制的に執行された頃には反対派は少数化していましたが,それはヤン場ダム?などと同じく説明会と称する地上げ活動,買収によるもので当初は大多数が建設反対でした。

 (2006年5/15の記事 「学生運動の時代(回想) 」参照)

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2010年4月17日 (土)

原子核のγ崩壊とメスバウアー効果(1)

 原子核のγ崩壊についての記事は私自身の古典電磁気学の復習のために意図していた時期よりも2ヶ月も遅れました。やっと本題に入れます。

 ちなみにα崩壊の話なら,2006年10/4,10/5の記事「原子核のα崩壊の理論(Ⅰ)」,「原子核のα崩壊の理論(Ⅱ)」があります。

 さて,原子核:ZANの励起状態|i>≡|Iiπii>がγ線を放出して終状態|f>≡|Ifπff>へ転移(transit)するとします。

ただし,Mは"核スピンのz軸成分=磁気量子数"です。また,放出γ線のエネルギーをEγ≡hcω=hcc||とします。cは光速,はγ線の波数ベクトルです。hc≡h/(2π)で,hはPlanck定数です。

一定のスピンの偏極(polarization):(Mi-Mf)を持つ"γ線の量子=光子(photon)"が単位時間に波数ベクトルの周りの微小立体角dΩに放出される確率をu(Mi,Mf)dΩとすると,摂動論からこれはよい近似でu(Mi,Mf)dΩ=(2π/c)|<f|Hγ'|i>|2(dn/dEγ)dΩと表わされます。

ここにHγ'は,"電磁場(γ線)と核の相互作用=電磁相互作用"のハミルトニアン(Hamiltonian)です。これは具体的にはHγ'=∫jeμ(,t)μ(,t)3=∫ρe(,t)φ(,t)3-∫e(,t)(,t)3で与えられます。

ただしeμ(cρe,e)=(cρee),μ(φ/c,)です。ρe(,t)は電荷密度,e (,t)は電流密度です。

を時刻tに位置にある電荷の速度とすると,伝導電流が存在しないときにはe(,t)=ρe(,t)と書くことができます。

時刻tでの全電荷をq(t)=∫ρe(,t)3とします。また,"全偏極=電気双極子(electric dipole)"を(t)=∫ρe(,t)3で,磁気双極子(magnetic dipole)をμ(t)=(1/2)∫×e(,t)3で表わします。

また,電気四重極子(electric quadrapole)をQij(t)=∫ρe(,t)(3ij-δij2)3とします。磁気四重極子は通常速度では電気のそれに比べて無視できる量なので詳細な表現は割愛します。

元々,双極子,四重極子etc.の多重極展開(multi-pole expansion)はラプラス方程式(Laplace eq.)やポアソン方程式(Poisson eq.)に従う静電場,または静磁場に適用されたものです。

 

すなわち,静電場,または静磁場をそれぞれ点電荷の球対称なクーロン電場(Coulomb field)とその微分,または双極子電流によるアンペール(Amprere')やビオ・サバール(Biot-Savart)の磁場とその微分を与える動径関数と球面調和関数(spherical harmonics)の積で表わされる項の和で表現するものです。

静電場,静磁場を与える一般的な電磁ポテンシャルはφ()={1/(4πε0)}∫d3'[ρe(')/|'|],()=0/(4π)}∫d3'[e(')/|'|]です。

この電磁ポテンシャルφ(),()の4成分のうちの1つをψ()と書けば,これはラプラス方程式∇2ψ()=0 を満たします。

 

ただし,∇2はラプラス演算子(Laplacian)で,∇2≡∂2/∂x2+∂2/∂y2+∂2/∂z2で定義される微分演算子です。

ラプラス演算子を極座標で書くと,∇2(∂/∂r){r2(∂/∂r)}-(2/hc2)/r2と書けます。ただしは軌道角運動量:L≡r××(-ihc∇)です。

軌道角運動量の成分の極座標表示は,x=-ihc(y∂/∂z-z∂/∂y)=-ihc{-sinφ(∂/∂θ)-cosθsin-1θcosφ(∂/∂φ)},Ly=-ihc(z∂/∂x-x∂/∂z)=-ihc{cosφ(∂/∂θ)-cosθsin-1θsinφ(∂/∂φ)},Lz=-ihc(x∂/∂y-y∂/∂x)=-ihc(∂/∂φ)です。

故に,2=hc2[sin-1θ(∂/∂θ)sinθ(∂/∂θ)+sin-2θ(∂2/∂φ2)]となるためにラプラス演算子が∇2=r-2(∂/∂r){r2(∂/∂r)}-(2/hc2)/r2と表わされるわけです。

そこで.ラプラス方程式の一般解はψ()=Σl=0Σm=-lll(r)Ylm(Ω)なる多重極展開として表現できます。

lm(Ω)=Ylm(θ,φ)は球面調和関数です。これは軌道角運動量の固有値方程式:2lm(Ω) =l(l+1)hc2lm(Ω),およびLzlm(Ω)=mhclm(Ω)を満たします。

一方,動径関数Rl(r)は常微分方程式:{d2/dr2+(2/r)d/dr-l(l+1)/r2}Rl(r)=0 の解です。

 

l(r)に対するこの2階方程式の独立な解としてrl,r-(l+1)を採用すれば,ラプラス方程式の一般解の1表現:ψ()=Σl=0Σm=-ll[All+Bl-(l+1)]Ylm(Ω)を得ます。

静電磁場ではなく"共変ゲージ=ローレンツゲージ(Lorenz gauge)":∇+c-2(∂φ/∂t)=0 を満たす一般の時間に依存する場の電磁ポテンシャルφ,を遅延ポテンシャル(retarded- potential)で表わすと,φ(,t)={1/(4πε0)}∫d3'[ρe(',t')/|'|],(,t)=0/(4π)}∫d3'[e(',t')/|'|];t'≡t-|'|/cと書けます。

これらを見ると,電荷分布ρe(,t),電流密度e(,t)の時間tへの依存性を除けば電磁ポテンシャルは静場のクーロン電場やアンペール磁場のそれに一致する形をしています。

しかし,静電場,静磁場のポテンシャルφ(),()がラプラス方程式:∇2φ()=0,∇2()=0 の解であるのに対し,一般の場は"時間に依存する波動方程式=ダランベール(D'Alembert)の方程式":□φ(,t)=0,□(,t)=0 の解です。

ただし,□はダランベール演算子(D'Alembertian)と呼ばれる微分演算子で,□≡c-2(∂2/∂t2)-∇2で定義されます。

遅延ポテンシャルはローレンツゲージ∇+c-2(∂φ/∂t)=0 を満たしていて,かつ=-∇φ-∂/∂t,=∇×によって電場,磁場を与えます。

もしも,場が時間tによらない静電場,静磁場なら∂φ/∂t=0,/∂t=0 なのでローレンツゲージ∇+c-2(∂φ/∂t)=0 はクーロンゲージ∇0 に帰着します。

 

また,=-∇φ-∂/∂t,=∇×静場の場合の電場,磁場の表現=-∇φ,=∇×に帰着します。

さて,静場でない一般的な場の時間依存部分を変数分離してφ(,t)=∫φ^(,ω)exp(-iωt)dω,(,t)=∫^(,ω)exp(-iωt)dωとフーリエ(Fourier)積分で表現してみます。

すると,φ^(),^()はヘルムホルツ方程式(Helmholtz eq.)の解です。すなわち,φ^(),^()の4成分の任意の1つをψ(,ω)と書けば,これは方程式(∇2+k2)ψ(,ω)=0 を満たします。ただしk=ω/cです。

特に,複素表現で場の時間依存性が因子:exp(-iωt)のみに比例する場合,つまり角振動数ωが一定の単色平面波の場合を仮定すれば,電磁ポテンシャルはφ(,t)=φ^()exp(-iωt),(,t)=^()exp(-iωt)と書けます

このときのφ^(),^()の4成分のうちの任意の1つψ()ももちろんヘルムホルツ方程式(∇2+k2)ψ()=0 を満たします。

それ故,静場のラプラス方程式∇2ψ()=0 の一般解と同じく,ヘルムホルツ方程式の一般解もψ()=Σl=0Σm=-lll(r)Ylm(Ω)と多重極展開されます。

動径関数Rl(r)は静場では{d2/dr2+(2/r)d/dr-l(l+1)/r2}Rl(r)=0 を満たすのに対し,一般の場では{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}Rl(r)=0 を満たします。

そこで,ヘルムホルツ方程式の一般解としてψ()=Σl=0Σm=-ll[Aljl(kr)+Bll(kr)]Ylm(Ω)なる展開式を得ます。ただしjl(x),nl(x)は球面ベッセル関数(spherical Bessel function)です。

このjl(x),nl(x)はベッセル関数Jl+1/2(x),Nl+1/2(x)からjl(x)≡{π/(2x)}1/2l+1/2(x),nl(x)≡{π/(2x)}1/2l+1/2(x)で定義されます。

これらは,jl(x)=(-x)l{(1/x)d/dx}l(sinx/x),nl(x)=-(-x)l{(1/x)d/dx}l(cosx/x)なる表現を持ちますからx=0 の近傍ではjl(x)→{xl/(2l+1)!!}[1-x2/{2(2l+1)}+..],nl(x)→-(2l-1)!!/xl+1と近似できます。

記号(2l+1)!!は,(2l+1)!!≡(2l+1)(2l-1)(2l-3)..5・3・1,(2l-1)!!≡(2l-1)(2l-31)(2l-5)..5・3・1です。

原子核から放射される個々のγ線は単一の角振動数ωを持つことを想定して,φ(,t)=φ^()exp(-iωt),(,t)=^()exp(-iωt)なる形の単色波を仮定した場合,ローレンツ条件:∇+c-2(∂φ/∂t)=0 は∇^iωc-2φ^=0に帰着します。

また,電場,磁場の表現:=-∇φ-∂/∂t,=∇×^=-∇φ^+iω^,^=∇×^に帰着します

変動の少ない電荷や電流から放射された電磁波であれば,φ(,t),(,t)の形は平面波exp{i(kr-ωt)}に近いと考えられます。そこでローレンツ条件^iωc-2φ^=0 はさらにkA^-ωc-2φ^~ 0 と近似されます。

したがって,^とφ^の大きさを比較すると,k=||=ω/cよりk|^|~ωc-2|φ^|なのでオーダー的には|^|~|φ^|/cです。

以上から,原子核の中心=0 に集中した電荷の時間変動が激しくない:∂ρ/∂t~ 0,ω/c<<1と見なせる場合は,φ,の1成分ψ()の展開:ψ()=Σl=0Σm=-ll[Almjl(kr)+Blml(kr)]Ylm(θ,φ)を静場の展開:ψ()=Σl=0Σm=-ll[Alml+Blm-(l+1)]Ylm(θ,φ)で近似してよいと考えられます。

つまり,電荷の変動が激しくない場合の近似は,jl(kr)を(kr)l/(2l+1)!!で,nl(kr)を(kr)-(l+1)(2l-1)!!で置き換える近似に相当しています。

こうした近似が有効な場合,電磁相互作用Hγ'=∫ρe(,t)φ(,t)3-∫e(,t)(,t)3多重極展開は,次のようなによるテイラー(Tayler)展開と同等であると思われます。

まず,φ()のテイラー展開:φ()=φ(0)+∇φ^+(1/2)Σijij(ijφ)+..=φ(0)-rE(0)-(1/2)Σijij(ij)+..より∫ρe()φ()3∫ρe()φ(0)3[∫ρe()3](0)-(1/2)Σij[∫ρe()(ij)3](ij)+..=qφ(0)-PE(0)-(1/6)Σijijij(1/2)∇∫ρe()r23..を得ます。

しかし,電荷qが中心に集中している原子核ならρe()~qδ3()ですから,=ρe(0)/ε0=qδ3(0)/ε0,∫ρe()r23=qδ3()r230 より(1/2)∇∫ρe()r23~q2{rδ3()}230 となります。

結局,∫ρe()φ()3qφ(0)-PE(0)-(1/6)Σijijij..なる展開式が得られます。

一方,-∫e(,t)(,t)3は-∫e()()3=-Σk∫jek(){k(0)+xjjk(1/2)Σijij(ijk)+..}3[∫e()3](0)Σk[jek(iiik]3..と表わすことができです。

右辺第1項は全空間の総電流がゼロであること:∫e()30 からゼロです。

  

実は,電荷密度の変動がゼロ:∂ρe/∂t=0 と近似できるときには電荷の保存の方程式がe()=0 なので∇{ke()}=Σii{kei()}=ek()です。そこで,常に∫ek()d3=0 (k=1,2,3)が成立します。

そして,右辺第2項Σk[jek(iiik]3を評価するため公式:[×(∇×)]kΣijΣlmεkijiεjlmlmΣilm[(δklδim-δkmδil)ilm]=Σi[Aikiiik]=(k)-(∇)Bk,または-Σi(Aiik)=[×(∇×)]k(k)を用います。

この最後の式:-Σi(Aiik)=[×(∇×)]k(k)において,()|→0で置き換えると-Σi(xiik)=[×(∇×)]k(k)を得ます。

∇×ですから,これは-Σi(xiik)=(×)k(k)です。さらにe()との積和:Σkek()を取るとΣkek(i(xiik)=e()(×)-Σkek()(k)=-[×e()]Σkek(i(xiki)です。

ところが,定常e()=0 の場合,∇{jke()}=Σii{jkei()}=kei()+kek()により,∫{kei()+iek()}d3=0 ですからΣkΣi[ik∫{xiek()+kei()}d3]=0 となります。

以上から,Σk[jek(i(xiki)]d3=-Σk[jek(i(xiik)]d3です。

 

それ故,-2Σk[jek(i(xiik)]d3=-[×e()3](0)なる等式を得ます。

そこで,磁気双極子モーメントμの環状電流による積分表現μ=(1/2)∫{×e()}3から,-Σk[jek(i(xiik)]d3=-μ(0)と書けることがわかります。

結局,-∫e()()3=-μ(0)+..なる展開を得ます。

磁気四重極子は電気四重極子に比べ無視できる量ですから,静電磁場に近い微小変動の原子核との電磁相互作用を示す摂動Hγ'は,Hγ'= ∫jμe()μ()3=∫ρe()φ()3-∫e()()3qφ(0)-PE(0)μ(0)-(1/6)Σijijij..なる展開で表現されることがわかります。

今日はここで終わります。(つづく)

八木浩輔著「原子核物理学」(朝倉書店),八木浩輔 著「原子核と放射」(朝倉書店),砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店),ジャクソン著(西田 稔 訳)「電磁気学(上),(下)」(吉岡書店) 

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マシントラブル

 単なるお知らせですが,昨日昼頃,PC作業中に個人的に急停電(単に電流超過)のためマシントラブルで復旧に今朝までかかり,昨日中にと思っていた原稿のアップができませんでした。

 PCが複数台あればどうってことはないのですが。。最高で4台あったのが今やデスクトップ1つです。(まだジャンクの2台捨ててないけど)

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2010年4月13日 (火)

電磁波の放射(7)(点電荷による電磁波4:場の反作用)

 電磁波の放射(点電荷による電磁波)」の続きです。最後に放射の反作用について記述して古典論を終わります。 

 点電荷が加速されていると,それは電磁波を放射します。そこで,外部からの補償が無ければ放射に伴なって点電荷自身の力学的エネルギーが減少します。

 

 この作用を電磁波の放射の反作用(reaction)といいます。

 こうした反作用は電荷の運動に対する減衰力として運動方程式に反映されます。以下,減衰力をエネルギーの保存則に従って導きます。

「電磁波の放射(5)」ではβ(t)=v(t)/c<<1のとき,つまり点電荷の速さv(t)=zd(t)が光速度cに比べて小さいときには単位加速時間当たりの放射エネルギーがdW/d={e2/(16π2ε0)}∫dΩ[(t)×{(t)×βd(t)}]2={e2/(6πε03)}d(t)2 (Larmorの公式)で与えられることを見ました。

 仮に点電荷は周期運動をしていて,ある2つの時刻t1,t2において(t1)=(t2)=0 を満たすとします。

 そして,t∈[t1,t2]において減衰力(t)が存在するとすれば,エネルギー保存則から,この時間の間に(t)が点電荷になす仕事は同じ時間の放射による点電荷のエネルギー減衰量に等しいはずです。

すなわち,∫t1t2(t)(t)dt=-{e2/(6πε0)}∫t1t2d(t)2dt=-{e2/(6πε03)}{[d(t)(t)]t1t2-∫t1t22d(t)d(t)dt}={e2/(6πε03)}∫t1t22d(t)(t)dtです。

 

つまり,∫t1t2[(t)-{e2/(6πε03)}2d(t)](t)dt=0 が成立します。

したがって,(t)={e2/(6π2ε03)}2d(t)と置けばエネルギーの均衡が保たれることになります。

この減衰力の表式を(t)=(2/3){e2/(4πε0c)}{hc/(mc2)}m2d(t)と書けば,特に点電荷が電子の場合には微細構造定数:α≡e2/(4πε0c)}~ 1/137により(t)=(2/3)α{hc/(mc2)}m2d(t)となって簡明な表現になります。

電子の場合には,上記のd/dt=m2d(t)の係数はT0=(2/3)α{hc/(mc2)}~ (2/3)(1/137)10-21秒 ~ 10-23秒程度です。これは非常に小さい値です。

(t)=T0(d/dt)ですが,この周期運動で加速度が変化をする時間の長さをT≡t2-t1と置けば,一般にT>>T0と考えられますから,(t)~(T0/T)[d/dt]t1t2=(T0/T){(t2)-p(t1)}となって減衰力(t)はきわめて小さいことがわかります。

 巨視的物体の場合には,質量mはさらに大きいため,T0(2/3)α{hc/(mc2)}は電子の場合よりさらに小さいので電磁波の放射の反作用は無視できると考えられます。

 以上から,v<<cなら質量がm,電荷がeの1個の点電荷が外力によって加速され電磁波を放射しながら運動するときの運動方程式は,m{d2(t)/dt2}=((t))+{e2/(6π2ε03)}{d3(t)/dt3}で与えられることがわかります。

 微分方程式の本質的性格は係数がいかに小さくても最高階の微分を含む項によって決定付けられます。 

そこで,この加速度の時間微分をも含む微分方程式は,"ある時刻に位置と速度が与えられると以後の軌道が決まる。"という因果性に従うニュートンの方程式から予想される以外の解を持つ可能性があります。

実際,例えば方程式:m{d2(t)/dt2}=((t))+{e2/(6π2ε03)}{d3(t)/dt3}で外力がない場合:=0 の場合を考えるとm{d2(t)/dt2}={e2/(6π2ε03)}{d3(t)/dt3},またはmd(t)=T0{m2d(t)}です。

電子が力を受けず自由運動をするケースですから,加速度が恒等的にゼロ:d(t)=d2(t)/dt2 ≡0 なる解も可能なはずです。実際,このときには2d(t)=d3(t)/dt3≡0 より減衰力も(t)≡0 となって確かに解になっています。

 一方,md(t)=T0{m2d(t)}より2d(t)=d(t)/T0なので,素直に積分するとd(t)=d(0)exp(t/T0)なる解を得ます。この解は外力がゼロなのに,tが大きくなると加速度dが際限なく増大するという内容です。

 物理的に考えると,これは明らかに不合理です。なぜ,こうした解が得られたかの理由について,すぐ気付くことは外力がゼロのときのこの解では運動が周期的で,時刻t1≠t2(t1)=(t2)=0 であるという条件が満たされてないことです。

 そこで,これの解決のため電子の非周期運動も包括した対象電子を含む電荷群と電磁場が共存する現実的な系で考察します。

電磁場の基本方程式はマクスウェルの方程式系:∇×(,t)+∂(,t)=0,∇(,t)=0,および∇×(,t)-∂(,t)=0(,t)+Σk≠0k(,t),∇(,t)=ρ0(,t)+Σk≠0ρk(,t)です。ただし0,=ε0です。

 ただし,ρ0,0を考察対象の電子の電荷密度,電流密度とし,それ以外の電荷(帯電体)の電荷密度,電流密度ρk,k(k≠0)と区別しました。

 

 また,電子は極めて小さいけれど大きさは有限であり,特に半径がa0の剛体球であると仮定します。

 一方,電子自体の運動方程式は,後の便宜上電子の質量m,軌道に下添字 0 を付けると,m0{d20(t)/dt2}=∫d30(,t)(,t)+0(,t)×(,t)}と表わされます。

これら微分方程式系では,電磁場の基本方程式における"物理量=場の量"も電子の運動方程式における物理量も全て未知量です。 

 対象とする電子の電荷,電流ρ0,0が作る電磁場0,0の自分自身へ及ぼす力(自己力:self-force)というものを考察するために,(,t)=0(,t)+1(,t),(,t)=0(,t)+1(,t)のように全体の場を分離します。

マクスウェルの方程式の線形性から,これらの場が従う微分方程式も∇×0(,t)+∂0(,t)=0,∇0(,t)=0,∇×0(,t)-∂0(,t)=0(,t),∇0(,t)=ρ0(,t),

  

および,∇×1(,t)+∂1(,t)=0,∇1(,t)=0,∇×1(,t)-∂1(,t)=Σk≠0k(,t),∇1(,t)=Σk≠0ρk(,t)と分離できます。

 

一方,電子の運動方程式も分離されて,m0{d20(t)/dt2}=01と書けます。

 

ただし,0=∫d30(,t)0(,t)+0(,t)×0(,t)},および1=∫d30(,t)1(,t)+0(,t)×1(,t)}です。この0が自己力を表現しています。

 自己電磁場の方程式部分を形式的に解けば0(,t)={1/(4πε0)}∫d3'{ρ0(',t')/|'|,0(,t)={μ0/(4π)}∫d3'{0(',t')/|'|;t'≡t-|'|/cです。

 これを0=∫d30(,t)0(,t)+0(,t)×0(,t)}に代入します。ただし電子の速度0の大きさは光速cに比べて十分小さいとして0の1次の項だけを考えることにします。

0(,t)が0に比例するので,00に比例します。したがって,0=∇×00に比例しますから0(,t)×0(,t)は0の2次の量となるため,磁場の関係する項の寄与を無視します。

 すると,運動方程式は,m0{d20(t)/dt2}=1+∫d3ρ0(,t)0(,t)=1-∫d3ρ0(,t){∇φ0(,t)+∂0(,t)/∂t}=1-{1/(4πε0)}∫d3ρ0(,t)[∇∫d3'{ρ0(',t')/|'|+c-2(∂/∂t)∫d3'{0(',t')/|'|}となります。

 右辺の2つの空間積分∫d3,∫d3'はいずれも微小半径a0の球状電子の内部が積分範囲ですから,寄与する発信時刻t'=t-|'|/cはt'=t-a0/c程度であり,電子内の各点で発信時刻t'の関数で示されている量はtのまわりにテイラー(Taylor)展開できます。

 すなわち0(',t-R/c)=Σn=0[(-R/c)n{∂nρ0(‘,t)/∂tn}/n!],0(',t-R/c)=Σn=0[(-R/c)n{∂n0(',t)/∂tn}/n!];',R≡||です。

これを0の表現式に代入すると,電子の運動方程式はm0{d20(t)/dt2}=1-{1/(4πε0)}Σn=0[(-1)n/(cn!){∫d330(,t)[{∂nρ0(',t)/∂tn}{∇(R/c)n-1}+c-2(R/c)n-1{∂n+10(',t)/∂tn+1}]となります。

このうちスカラーポテンシャルφ0からの寄与の一部を考えます。 

右辺のn=0 の項は-{1/(4πε0)}∫d33'[ρ0(,t)ρ0(',t)∇(R-1)]={1/(4πε0)}∫d33'[ρ0(,t)ρ0(',t)(')/|'|3]ですが,被積分関数が,'の交換について反対称なのでこの項は消えます。

また,n=1の項も∇R-2≡0 より,やはり消えます。

そこで,φ0からの寄与の項では添字をn→n+2とシフトして,0=-{1/(4πε0)}Σn=0[(-1)n/(cn+2n!){∫d33'[Rn-1ρ0(,t)(∂n+1/∂tn+1){0(',t)+{∂ρ0(',t)/∂t}∇(Rn+1)/{(n+1)(n+2)Rn-1}と書きます。

右辺の項の∫d3'積分の因子は∫d3'[Rn-10(',t)+{∂ρ0(',t)/∂t}∇(Rn+1)/(n+1)(n+2)]=∫d3'[Rn-10(',t)-∇0(',t)Rn∇R/(n+2)]です。

 

さらに変形して,∫d3'[Rn-10(',t)+{0(',t)∇}Rn-1/(n+2)]=∫d3'Rn-1[{(n+1)/(n+2)}0(',t)-{(n-1)/(n+2){0(',t)}/R2}を得ます。

 今は電子を微小な剛体球としているので,0(',t)=ρ0(',t)0(t)と書けます。

そこで,上記積分結果のベクトルでその第i成分はΣj=13∫d3'Rn-1ρ0(',t)v0j(t)[{(n+1)/(n+2)}δij-{(n-1)/(n+2)}Rij/R2]と表わされます。

さらに,∫d3積分を実行すると対称性からRijを(1/3)R2δijと置いてよいので,(2/3)v0i(t)∫d3'Rn-1ρ0(',t)です。

 

これをベクトル表現で書けば,(2/3)0(t)∫d3'Rn-1ρ0(',t)となります。

 

それ故,0=-{1/(4πε0)}Σn=0[(-1)n/(cn+2n!)(2/3)∫d33'[Rn-1ρ0(,t)(∂n+1/∂tn+1){ρ0(',t)0(t)}]です。

右辺の時間微分で電荷密度ρ0(',t)の時間微分は∂ρ0(',t)/∂t=-∇0(',t)であり,電流密度は0(',t)=ρ0(',t)0(t)ですから,積ρ0(',t)0(t)は0(t)の2次以上になるため省略します。

すると,0=-{1/(4πε0)}Σn=0[(-1)n/(cn+2n!)(2/3)∫d33'{ρ0(,t)Rn-1ρ0(',t)}{dn+10(t)/dtn+1}です。

この右辺の級数の最初の数項を評価します。

 

まず,n=0 の項0(0)0(0)=-{1/(4πε02)}(2/3)∫d33'{ρ0(,t)ρ0(',t)/|'|}0d(t)です。

ここで電子の自己エネルギーW=∫ρ0φdVはW≡{1/(4πε02)}(1/2)∫d330(,t)ρ0(',t)/|'|=e2/(4πε00)で定義されますから,0(0)はこれを用いて0(0)=-{4W/(3c2)}0d(t)と表現できます。

次にn=1のときは,0(1)={1/(4πε03)}Σn=0[(2/3)∫d330(,t)ρ0(',t)02d(t)={e2/(6πε03)}02d(t)ですが,これは先に周期運動を仮定して求めた減衰力に一致しています。

n≧2に対しては,0(n)=-{1/(4πε03)}[(-1)n/(cn+2n!)(2/3)<a0n-10(n+1)(t)です。ただし,<a0n-1>≡∫d330(,t)|'|n-1ρ0(',t)です。

 

これらは電子の内部構造には無関係な量です。

こうして,自己力の作用の下での電子の運動方程式がm00d(t)=1-{4W/(3c2)}0d(t)+{e2/(6πε03)}02d(t)+..となることがわかりました。

 

これは,me≡{4W/(3c2)}=(4/3){e2/(4πε020)}と置くと(m0+me)0 d(t)=1+{e2/(6πε03)}02d(t)+..と書けます。

e{4W/(3c2)}=(4/3){e2/(4πε020)}は電子がそのまわりに静電場を作ることに基づく電磁的質量と解釈されます。しかし実は係数4/3の存在は特殊相対論の要求と矛盾します。

 

これについては,2008年12/20の記事「運動物質内の相対論(7)(電子の古典模型)」に詳細に書きましたが,このシリーズの(1)~(6)の続きなので順に参照する必要があるかもしれません。

 

その問題はさておき,運動方程式の(m0+me)0 d(t)=1+{e2/(6πε03)}02d(t)+..なる形は力学的質量m0に対し現実に観測される電子の電荷がm≡(m0+me)であると考えることができます。

 

量子電磁力学のくりこみ(renormarization)では,m0を裸の質量(bare-mass),meを着物の質量(mass of dress),mを着物を着た質量(dressed-mass)と呼びます。

得られた電子の運動方程式:(m0+me)0d(t)=1+{e2/(6πε03)}02d(t)+..は周期運動,非周期運動に関わらず成立します。

 

そこで,この方程式表現でも1=0 のときの解として,先の不合理解:d(t)=d(0)exp(t/T0)の存在を免れません。

しかし,この運動方程式は0,0d,02d..がこれらの2乗が無視できるほど小さいと仮定したときに成立する近似方程式であることを思い出します。不合理解:d(t)=d(0)exp(t/T0)はこうした条件を満足しないため,物理的には許されないはずです。

これまでの議論では電子は半径がa0の剛体球としましたが,そもそも剛体球という概念はローレンツ不変(Lorentz invariant)ではないので,a0が有限である限り,n≧2の<a0n-1>の因子を含む運動方程式m00d(t)=1-{4W/(3c2)}W0d(t)+{e2/(6πε03)}02d(t)+..を相対論的に共変な方程式に拡張することはできません。

そこで,共変性のためa0→ 0 とすると,n≧2 の<a0n-1>≡∫d330(,t)|'|n-1ρ0(',t)は全てゼロになり消えるため,電子の方程式は,(m0+me)0d(t)=1+{e2/(6πε03)}02d(t)となります。

しかし,e={4W/(3c2)}=(4/3){e2/(4πε020)}なので,a0→ 0とするとW→ ∞,かつme→ ∞となってしまいます。

 

それ故,a0→ 0 とした相対論的に共変な理論では自己エネルギーWの発散を免れることはできません。逆に自己エネルギーを有限にしようとすれば相対論と矛盾します。

 

こうした困難は量子論にも受け継がれ,摂動の収束性と相俟って理論の最大の難点となっています。

 

関連記事として2006年12/21の「電子の自己エネルギーとディラックの海」,2008年5/8の「自己力と自己エネルギー」も参照して下さい。

 

この記事をもって電磁波放射の古典論のシリーズを終わります。

参考文献:砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店) ),ジャクソン 著(西田 稔 訳)「電磁気学(上),(下)」(吉岡書店) 

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2010年4月12日 (月)

電磁波の放射(6)(点電荷による電磁波3:散乱)

「電磁波の放射(点電荷による電磁波)」の続きです。

 γ崩壊に利するために電磁場の多重極展開を復習するという初期の目的からは既にかなり逸脱しました。そのついでに点電荷による電磁波(光)の古典的散乱も記述しておきます。

点電荷が電磁波を放射しながら加速度運動をしているとき,系の外部から別の電磁波が入射して点電荷を加速し電磁波の放射を促す場合を想定してみます。

 

これは点電荷による電磁波の散乱(scattering),あるいは電磁波と点電荷の衝突(collision)とみなすことができます。

 外力の作用の下にある点電荷に平面波in,inが入射するときの点電荷の運動方程式は,m(d2(t)/dt2)=((t))+e[in((t),t)+(t)×in((t),t)]で与えられます。

 

 ただし,(t)≡d(t)/dt=d(t)です。

 in,inは自由電磁波なので,|in|=|in|/cです。そこで,点電荷の速さvがcに比べて小さい場合を想定しているので,電気力einに比べて磁場による力e×inを無視します。

 また,入射電磁波による強制振動で生じる点電荷の位置の変化は入射波の波長に比べごく小さいと仮定して,in((t),t)の引数の(t)を電荷の平均的位置0で置き換える近似をするとin((t),t)~ in(0,t)=ε0exp{i(kz0-ωt)}です。

 

 ただしεは"電磁波の偏り=偏光"を示す単位べくトルです。

 これらの近似の結果,点電荷の運動方程式はm(d2(t)/dt2)=((t))+eε0exp{i(kz0-ωt)}と簡単になります。

一方,既に示したように点電荷による放射率Pの正確な式は,P=dW/d={e2/(16π2ε0)}∫dΩ((t)×[{(t)-β(t)}×βd(t)])2/{1-()β(t)}5 (β(t)≡(t)/c)です。

この式から,β<<1のときのラーモア(Larmor)の公式を得た際に,途中計算で得た平均放射率Pの非相対論的近似式はP=d<W>/d={e2/(32π2ε0)}∫dΩ|(t)×{(t)×βd(t)}|2でした。

そこで,今のv<<cという仮定の下で,単位時間に単位立体角の中に放射される平均エネルギーはdP/dΩ={e2/(32π2ε03)}|(t)×{(t)×d(t)}|2で与えられます。

 

d(t)=d(t)/dt=2d(t)(加速度)です。

一方,単位面積当たりに入射する入射波の平均強度(=単位時間に単位面積を通過する入射エネルギー)は,明らかに<Sin>=E02/(2μ0)=ε0cE02/2です。

そして,散乱における微分断面積(differetial cross section)dσ/dΩは,"(単位時間,単位立体角当たりを通過する散乱波のエネルギー)=(散乱強度(insistency of scattering))"dP/dΩの入射波の平均強度<Sin>に対する比で定義されます。

 

すなわち,dσ/dΩ≡(dP/dΩ)/<Sinです。

 

この定義式にdP/dΩ={e2/(32π2ε03)}|(t)×{(t)×d(t)}|2,および<Sin>=E02/(2μ0)=ε0cE02/2を代入すると,散乱の微分断面積の式dσ/dΩ=[e2/{(4πε02)202}]|(t)×{(t)×d(t)}|2が得られます。

 さて,上記の最終の表現式に基づいて幾つかのケースの散乱について断面積を計算してみます。

(1)トムソン(Thomson)散乱:

 

 これは自由電子による電磁波の散乱です。Thomsonの頭文字Tを取ってトムソン散乱の微分断面積をdσT/dΩと書くことにします。

この散乱は,電子に対する運動方程式:m(d2(t)/dt2)=((t))+eε0exp{i(kz0-ωt)}で外力((t))がゼロでm(d2(t)/dt2)=eε0exp{i(kz0-ωt)}と書ける場合です。

 

ただし,この場合mは電子の質量,eは電子の電荷でe<0です。 

これから直ちに,加速度としてd(t)=2d(t)=d2(t)/dt2ε(eE0/m)exp{i(kz0-ωt)}を得ます。

 

代入すると,|(t)×{(t)×d(t)|2=(e202/m2)|(t)×{(t)×ε}|2です。(t)は点電荷の位置(t)から観測点の位置Ω=(θ,φ)までの方向単位ベクトルです。

 

この(t)と電磁波の電場の偏り(偏光)εのなす角をΘとすれば,|(t)×{(t)×ε}|2=sin2Θなので,dσT/dΩ={e2/(4πε0mc2)}2sin2Θとなります。

そして,入射電磁波の運動方向を極軸に取れば,成分表示で(t)=(sinθcosφ,sinθsinφ,cosθ)です。また,進行方向に垂直なxy面内で偏りεの偏角をψとすると,ε=(cosψ,sinψ,0)です。

 

故に,cosΘ=nε=sinθcos(φ-ψ)と書けます。

 

そこで,sin2Θ=1-sin2θcos2(φ-ψ)ですから,dσT/dΩ={e2/(4πε0mc2)}2{1-sin2θcos2(φ-ψ)}を得ます。

 

入射平面波が偏光性の光ではなく偏ってない普通の場合なら,この因子{1-sin2θcos2(φ-ψ)}をψについて平均したもの:<1-sin2θcos2(φ-ψ)>=(2π)-10{1-sin2θcos2(φ-ψ)}dψ=(1+cos2θ)/2 で置き換える必要があります。

 以上から,トムソン散乱の微分断面積としてdσT/dΩ=[e2/{2(4πε0mc2)}]2(1+cos2θ)を得ます。そして,すぐ前の表現dσT/dΩ={e2/(4πε0mc2)}2sin2Θの形からこの電磁波の放射も電気双極子によるものであるとわかります。

微分断面積(dσ/dΩ)を全立体角にわたって積分したσtot≡∫(dσ/dΩ)dΩを散乱の全断面積,または総断面積(total cross section)といいます。

トムソン散乱の微分断面積(dσT/dΩ)についてこの立体角積分を実行すると,散乱の全断面積としてσT=(8π/3){e2/(4πε0mc2)}2が得られます。

古典論のモデルでは,2/(4πε00)~ mc2なる等置から電子を半径a0 ~ e2/(4πε0mc2)~ 2.8×10-13cmの剛体球と考えて,全断面積はσT 6.7×10-15cm2と評価されます。

 さらに,このσTは微細構造定数(fine-structure constant):α=e2/(4πε0cc) ~ 1/137を用いてσT=(8α2/3)π{hc/(mc)}2と表現すれば,トムソンの公式に量子論的解釈を与えることもできます。

 

 αを使えばトムソンの微分断面積もdσT/dΩ={α2c2/(2m22)}(1+cos2θ)と表わせます。

 量子論では,電子波の拡がり(半径)は大体コンプトン(Compton)波長:hc/(mc)(hc≡h/(2π))です。そこで電子雲の面積は大体π{hc/(mc)}2です。

 

 トムソン散乱では,標的の電子雲が半透明なため,そのうちの(8α2/3)~(8/3)(1/137)2だけが電磁波の散乱に寄与すると解釈されます。

 上記では,入射電磁波の波長が大きく(エネルギーが小さく)電子は強制振動を受けても束縛電子のように入射波の波長に比べ電荷の位置はほとんど変動しないという仮定の下での散乱を考察しました。

しかし,もしも入射波の波長が小さくてX線やγ線くらいになると,こうしたトムソン散乱の仮定は成立しなくなり,いわゆるコンプトン散乱(Compton scattering=自由衝突)になります。

 コンプトン散乱の微分断面積は"クライン・仁科(Klein-Nishna)の公式"dσ/dΩ={α2c2/(4m22)}(k'/k)2{k'/k+k/k'+4(εε')2-2}に従います。

 

 そして,これを入射光子の偏りについて平均し散乱光子の偏りについて和を取ると,dσ/dΩ={α2c2/(2m22)}(k'/k)2{k'/k+k/k'-2sin2θ}となります。

ただし,(,ε),および(',ε')は,それぞれ入射光子,および散乱光子の波数と偏りの組です。

 

光子衝突前の電子の始運動量をpiμ,衝突後の終運動量をpfμとすると,衝突前後での4元運動量の保存式:piμ+hcμ=pfμ+hck'μが満たされます。

そこで,k=||=2π/λ,k'=|'|=2π/λ'はいわゆるコンプトン条件:k'=k/{1+(k/m)(1-cosθ)}=k/{1+(2k/m)sin2(θ/2)}(自然単位)を満たします。

低エネルギーの極限:k→ 0 ではk'/k~ 1 (弾性散乱)ですから,dσ/dΩ~ {α2c2/(2m22)}(2-sin2θ)となってトムソン散乱の微分断面積の公式:dσT/dΩ={α2c2/(2m22)}(1+cosin2θ)に一致します。この極限をトムソン極限(Thomson limit)といいます。

(2)レーリ-(Rayleigh)散乱:

電子が振動数f0=ω0/(2π)の弾性力(elastic force)により束縛されている場合:つまり近似的運動方程式:m(d2(t)/dt2)=((t))+eε0exp{i(kz0-ωt)}で外力が((t))=-mω02(t)の場合を考えます。

 

この散乱の断面積はσRと書くことにします。

このときの電子の運動方程式は,m(d2(t)/dt2)+mω02(t)((t))=eε0exp{i(kz0-ωt)}です。

 

右辺の入射電磁波により誘起される電子の強制振動を求めたいので,(t)=exp(-iωt)(ωが一定の単色波)の形の特解を仮定して考察すれば十分です。

これを上記の運動方程式のに代入するとm02-ω2)=eε0exp(ikz0)を得ます。したがって,解は(t)=ε[eE0/{m(ω02-ω2)}]exp{i(kz0-ωt)}です。

 

そこで,電子の加速度としてd(t)=2d(t)=d2(t)/dt2ε[-eω20/{m(ω02-ω2)}]exp{i(kz0-ωt)}を得ます。

このd(t)=ε[-eω20/{m(ω02-ω2)}]exp{i(kz0-ωt)}を先のトムソン散乱でのd(t)=2d(t)=d2(t)/dt2ε(eE0/m)exp{i(kz0-ωt)}と比較します。

 

今の場合,微分断面積は因子|d(t)|2が単純にトムソン散乱の同じ因子のω4/(ω02-ω2)2倍である以外トムソン散乱の微分断面積と全く同じです。

 したがって,dσR/dΩ=(dσT/dΩ){ω4/(ω02-ω2)2},σR=σT4/(ω02-ω2)2}です。また,電磁波の放射もトムソン散乱と同じく電気双極子によるものと考えることができます。

特に入射波の角振動数ωが小さくて,ω0>>ωのときにはσR ~ σT404)=σT044)となって散乱断面積は入射波の波長λの4乗に反比例します。

この全断面積σR はω02≡{e2/(4πmε0)}-3とすれば,以前の2009年10/20の雲(水滴)による光のミイ(Mie)散乱の考察の記事「光(電磁波)の散乱(2)で得たレイリー散乱の全断面積に一致します。

 

つまり,部分波展開σ=(4π/k2)Σ(2l+1)sin2δlでのl=1の主要なP波項σ=(8π/3)k46 ∝k46 ∝a64に一致します。ただしk=ω/cです。

レイリー散乱は角運動量l=1の電気双極子放射項ですから,今の問題のω0>>ωの場合の束縛力による電気双極子放射が"散乱球の半径aが波長に比べて小さい(a<<λ)場合の散乱=レイリー散乱"の模型になっていると考えられます。そこで,これもレイリー散乱と呼びます。

2009年11/7の記事「光(電磁波)の散乱(4)」によれば,電子ではなく空気分子のような誘電体球による散乱の全断面積は,電子によるそれ:σ=σT404)=(8π/3)k46に屈折因子の入ったσ=σT |(εr-1)/(εr+2)|2404)=(8π/3)k46|(εr-1)/(εr+2)|2です。

 

ただし,εrは比誘電率でεr≡ε^/ε0=n^2です。(n^は屈折率)

 ところで,一般に散乱断面積には次のような意味があります。

 例えば気体なら,単位体積中にN個の気体分子がある場合,分子1個の散乱の全断面積がσなら,重ね合あわせにより厚さΔzの気体中を進むときに失われるエネルギー流の割合がNσΔzに等しい:ΔI/I=-NσΔzという意味を持ちます。

そこで,γ≡Nσと置けばγ>0 であって,I=I0exp(-γz)と書けます。この定数γを吸収係数(absorption coefficient),または減衰係数(attenuation coefficient)と呼びます。

散乱というのは全方向的にはエネルギーが失われるわけではないですが,ある一方向に進むビームのほとんどが散乱体によって方向を変えられるため,方向性を持つビームとしては実質的に減衰します。

 

そして,空気分子によるレイリー散乱では,εr≡n^2における屈折率がn^~1なので,(εr-1)/(εr+2)=(n^2-1)/(n^2+2) ~ 2(n^-1)/3と近似していいです。

また,(4πa3/3)N=1より,a6=9/(16π22)ですから,σR=(8π/3)k46|(εr-1)/(εr+2)|2が成立します。これから,減衰係数γについてγ=NσR ~{2k4/(3πN)}|n^-1|2なる評価式が得られます。

 

なお,繰り返しになりますが念のためk=ω/c=2π/λです。

空の色の話は既にレイリーをはじめ多くの人により文献や資料で示されていることで,いまさらという感じですが一応述べておきます。

 

散乱の減衰係数γが振動数の4乗4に比例,または波長の4乗:λ4に反比例することから,明らかに可視光域では相対的に赤色光は散乱されず紫色光が最もよく散乱されます。

そこで,入射光線の方向から離れたところで受ける光は太陽光線のエネルギー分布の中で青色の高振動数成分が最大の割合になります。

 

一方,透過光線の方はエネルギー分布の中で赤色光の割合が増えるので赤く見えますが,全体としての強度は距離と共に減衰します。

さらに定量評価を試みます。

 

可視光線(λ=4100~6500Å)での空気の屈折率n^はn^-1=2.78×10-4で与えられます。そして標準状態の空気分子の個数密度はN=2.69×1019cm-3ですから,減衰距離Λ≡γ-1(光強度Iが1/eになる距離)の典型的な値は,紫色光(λ=4100Å)でΛ=30km,緑色光(λ=5200Å)で77km,赤色光(λ=6500Å)で188kmです。

そして,重力との静力学平衡で密度が高度と共に指数関数的に変化する等温大気の模型を用いて大気の頂上と地表との相対的強度比を太陽が天頂にあるとき(南中時)と日の出,日の入りの場合に評価しました。

 

すると,太陽が天頂にあるときの強度比は赤色光,緑色光,紫色光の順に0.96,0.90,0.76ですが,同じ比率値は日の出,日の入りのときには0.21,0.024,0.000065です。

今日はここまでにします。

参考文献:砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店),ジャクソン 著(西田 稔 訳)「電磁気学(上),(下)」(吉岡書店)

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2010年4月10日 (土)

今日は復活記念日!!

 大したことではないけれど,今日4月10日は第2の誕生日のような日です。

 丁度3周年ですね。

 2007年4月10日は順天堂大学病院手術室で死に掛けていた心臓を体から取り出して朝8時から10時間以上のバイパス手術。。動脈血管を新しい血管で7本つなぎ,肥大した心臓を小さくしぼったらしい。。終わったのはその日の夜で何とか私の命が再生した日です。

 私にとってはまだ忘れられないある意味特別な記念日です。

 それから12日後の4月22日には退院したのですが,当分は肋骨も骨折状態で日常生活もママ成りませんでしたね。

 今は57歳になったばかりだったその頃より何故か10キロ以上も太り体重も元に戻りましたが,何か精神状態が元に戻らないような感覚です

 思えば,球界のキムタクは昨日が告別式だったらしいですね。まだ,私より20歳以上も若いのに。。。。。。

 まあ,死という側面だけなら有名人の死も無名な人の死もその重さに違いはないとは思いますが。。。

 若くしての自殺や意思に反して他人に奪われる不幸な?死もあります。

 また,35歳から84歳まで49年間もの冤罪(恐らく?)で死刑囚として死と隣合わせにいるという方もいるらしいですね。。。拘束され無駄な時間を余儀なくされたことを思えば。。。。

PS:渡辺直美。。また太ったようですね!!

 ところで,募金・贖罪?のバナー

 「Happy Birthday for Children」(生まれた子が1歳の誕生日を迎えられるように。。)のキャンペーンを張りました。よろしく。。

PS2:やはり政治は密室でやるに限るのか?

 情報開示だとかで,政権交代でいままでは隠していたスキャンダルも政策論争も何もかもガラス張りにしたとたん,一億総政治家,総評論家になって言いたい放題のカンカンガクガク。。。内幕が丸見えなら支持率も下がるし。。

 まだ,60年近くも続いた前政権を引き継いで1年も経たず,やっと予算が通ったくらいで実質的には何もやってない段階で,もうやめろやめろの大合唱?セッカチ過ぎないか?やってしまってからでは遅い?大きなお世話?。。

 結局,喜んでるのはマスコミとかそれで金になる輩くらいか。。。。

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2010年4月 9日 (金)

電磁波の放射(5)(点電荷による電磁波2)

「電磁波の放射(点電荷による電磁波)」の続きです。

 例として,まず等速度運動中の点電荷による電磁場を考察します。

 

 加速度がゼロ:βd2d/c=0 のため,この場合の電場,磁場は先に求めた点電荷による場の強さの最終表式において,右辺第1項のみで表わされます。

すなわち(,t)={e/(4πε0)}({(t0')-β(t0')}{1-β2(t0')}/{R2(t0')α3(t0')},(,t)={μ0ec/(4π)}{β(t0')×(t0')}{1-β2(t0')}/{R2(t0')α3(t0')}です。

しかし,ここではリエナール・ウィーヘルトのポテンシャル(Lie'nard-Wiechert potential):φ(,t)={e/(4πε0)}[|(0')|-d(t0'){(0')}/c]-1,(,t)={eμ0/(4π)}(d(t0')/[|(0')|-d(t0'){(0')}/c])から,直接これらを求めてみます。

等速度運動をする点電荷の軌道(t)の詳細ですが,今の場合は電荷eを持つ点粒子が時刻t=0 に原点Oにあってx軸の正の向きに一定速度=(v,0,0)で運動しているとします。

そして,任意時刻tにおける点P(x,y,z)(位置ベクトル:=(x,y,z))における場の強さを求めます。

 

この点電荷が時刻tには点Aにあるとすると,tにおいてPに生じる電磁場は点Aにある電荷によるのではなくてtよりも過去の時刻0'に別の点A0'にあった電荷を出発点とする電磁波によるものです。

点Pからx軸に下ろした垂線の足をB(x,0,0)(x> 0)とします。するとxはt=0 に原点Oからx軸に沿って出発した点電荷が点Bに達する時刻t0とx=vt0なる関係にあります。

また,ここでは一般性を失うことなく受信時刻tはt0>t>t0'を満たすと仮定します。

このとき,A0'P=R(t0')=c(t-t0'),A0'B=X(t0')=v(t0-t0')です。また,b≡BPと置くとb=(y2+z2)1/2でありR(t0')={X2(t0')+b2}1/2です。

等式:c(t-t0')={v2(t0-t0')2+b2}1/2からt0'に関する2次方程式:(c2-v2)t0'2-2(c2t-v20)t0'+c22-v202-b2=0 を得ます。

 

これと,条件t0>t>t0'によりt0'が0'=[(c2t-v20)-{(c22)(t0-t)2+(c2-v2)b2}1/2]/(c2-v2)と解けます。

これからR(t0')=c(t-t0')=c[v2(t0-t)+{(c22)(t0-t)2+(c2-v2)b2}1/2]/(c2-v2),X(t0')=v(t0-t0')=v[c2(t0-t)+{(c22)(t0-t)2+(c2-v2)b2}1/2]/(c2-v2)です。

φ(,t)={e/(4πε0)}[1/{R(t0')(t0')/c}]={e/(4πε0)}[1/{R(t0')(t0')/c}],(,t)={eμ0/(4π)}[/{R(t0')(t0')/c}]ですから,まず,φ(,t)={e/(4πε0)}[1/{v2(t0-t)2+(1-v2/c2)b2}1/2]を得ます。

さらに,vt0=x,b=(y2+z2)1/2を代入するとφ(,t)={1/(4πε0)}[e/{(x-vt)2+(1-v2/c2)(y2+z2)}1/2]です。同様に,(,t)=0/(4π)}[e/{(x-vt)2+(1-v2/c2)(y2+z2)}1/2]と書けます。

*(t)≡R(t0')(t0')/c={(x-vt)2+(1-v2/c2)(y2+z2)}1/2と置けば,もっと簡単な形になってφ(,t)=e/(4πε0*),かつ(,t)=μ0/(4π*)と表現されます。

後の便宜のために,γ≡(1-v2/c2)-1/2と置いて*(t)≡(Rx*(t),Ry*(t),Rz*(t))=(x-vt,y/γ,z/γ)なるベクトルを設定するとR*(t)=|*(t)|です。

そして,電磁ポテンシャル:φ(,t)=/(4πε0*),(,t)=μ0/(4π*)やtで微分することで,E=-∇φ-∂/∂t,=∇×により,場の強さ,を得ることができます。

これらの微分は全てR*を通してのみ出現します。そして∂R*/∂t=-v(x-vt)/R*,∂R*/∂x=(x-vt)/R*,∂R*/∂y=(1-v2/c2)y/R*,∂R*/∂z=(1-v2/c2)z/R*です。

これらを用いた計算の詳細を全て省略して結果だけ書くと,電場は(,t)={1/(4πε0)}{e(1-v2/c2)(t)/*3}です。ただし(t)≡(x-vt,y,z)となります。

 

そして,磁場は(,t)=-{μ0/(4π)}{e×∇(1/*)}={×(,t)}/c2です。

(,t)=(1-v2/c2)(t)/*3)は,ベクトル*(t)を用いると(,t)={1/(4πε0)}[e(1-v2/c2)-1/2(t)/{x*2(t)/(1-v2/c2)+Ry*2(t)+Rz*2(t)}3/2],または(,t)={1/(4πε0)}[eγ(t)/{γ2x*2(t)+Ry*2(t)+Rz*2(t)}3/2]と書けます。

 

磁場は,(,t)={×(,t)}/c2です。ここでの話ではこれの具体的形を書き下す必要はありません。

電場をもっとわかりやすく表現すれば,(,t)=eγ-2(t)/[(4πε0){(x-vt)2γ-2(y2+z2)}3/2],(t)≡(x-vt,y,z)となります。

 

そこでv→cならγ=(1-v2/c2)-1/2→ ∞ (γ-1→ 0)より,(,t)→ 0 です。すなわち,点電荷が高速に運動する極限では電場はゼロに近づきます。

  

※(閑話):重力場に関連して電場に類似した考察をしてみます。

 

ニュートンの万有引力の法則:=-GMm/R3と特殊相対論を組み合わせてみると,静止質量がMの太陽付近を静止質量はmですが太陽に対して大きい相対速度vを持った宇宙船が通過する場合,宇宙船から見た太陽の相対論的質量はγMです。

 

また,逆に太陽静止系から見ると宇宙船の相対論的質量はγmです。そこで,いずれにしても単純に静止質量を相対論的質量に置き換えると万有引力=-GMm/R3'=-GγMm/R3に変わります。

 

質量とエネルギーの等価性,および慣性質量と重力質量の等価原理に従って実際激しい分子運動のために高温になった物体の静止質量は熱エネルギーの分だけ大きくなって秤で重さを測ると重くなっています。

 

そして,増加分の熱エネルギーは元々分子の運動エネルギーです。

 

地球上での重さというのは地球が物体に及ぼす"重力=引力"に他ならないですから,相対速度が大きくなれば引力'~γとなって重くなるというのは見当違いではないでしょう。

 

しかし,太陽と宇宙船の相対速度はほとんどゼロなのに,それを見ている観測者が大きな相対速度vで運動している場合,観測者にとって太陽と宇宙船双方の相対論的質量がγM,γmとなるため単純代入で万有引力が"=-Gγ2Mm/R3と莫大になるというのは賛同できません。

 

ここで先に求めた電場の表式に着目すると,等速度運動の点電荷による電場は(,t)=eγ-2(t)/[(4πε0){(x-vt)2γ-2(y2+z2)}3/2]です。 

  

これはv=0 の静電場0に対して~γ-20のような形で小さくなっています。

 

この電場の表式のアナロジーで重力も~γ-20のように因子γ-2で小さくなるのなら,この因子と先に書いた質量増加による"=-Gγ2Mm/R3~γ20の増加因子γ2が丁度相殺して準拠系に大して依存しない0という結果を得ます。

 

電荷は静止質量と同じく座標変換の不変量(4次元スカラー)ですが,相対論ではエネルギーと質量は等価であり,重力は静止質量だけでなく全体のエネルギー="相対論的質量=(静止質量+運動エネルギー/c2)"に比例するはずですから,電場における常識とは違います。

 

そもそも"静止質量=静止エネルギー/c2"は座標系には無関係なスカラーですが運動エネルギーを含む全エネルギーは座標系の取り方次第で際限もなく増加しますから重力の扱いというのは困ったもんです。

  

磁場に相当する磁気的重力というものがあるかも知れず,それはどういうもので系の運動と共に増加するのでしょうか?

 

かつては慣性力の反作用とか,マッハ原理に関連した記事で一般相対論に基づきHenry,Thiringの回転系による重力も計算したましたが。。

 

2006年6/30の「慣性力の反作用」,および2007年の一連の記事:2/18の「一般相対論の基礎と回転系」2/19の 「回転系の計量(メトリック)」2/21の「遠心力,コリオリ力の相対性(マッハ原理?)」を参照

 

(閑話終わり)※

 

点電荷に固定して共に運動する座標系,つまり"点電荷が静止していると見える座標系=電荷の静止系"では0,かつγ=1ですから,電場はCoulomb静電場:(,t)=e/(4πε03)に一致します。

 

そして,0 により磁場はゼロ:(,t)={×(,t)}/c2=0 ですから電磁場は静止した点電荷による純粋な静電場です。

しかし,点電荷に対して速度-で慣性運動をする座標系に移ると,その系では点電荷は速度で運動するためvが大きくなるにつれて電場は減少し,逆にvが大きくなるため磁場は(,t)={×(,t)}/c2に従って次第に増加すると思われます。

元々静止電荷の静電場のみであったのに,観測者が点電荷の系に対して運動すると共に静止電荷は"運動電荷=電流"に転化し,ゼロであった磁場が発生して増加していくという描像が具体的に示されました。

 

これは,磁場と電場が実は同根の作用で磁場は単に電場の相対論的効果であることを示唆する現象の1つです。

 

この関連については,2006年4/10の記事「重力場(ファインマン)」や2008年5/27の記事「電磁気学と相対論(5)(真空中の電磁気学4:補遺)」も参照してください。

さて,既に述べたように等速度運動をする点電荷から生成される"電磁場のエネルギー流束=Poyntingベクトル":=(×)/μ0 ~O(R-4)によって点電荷を中心とする半径Rの球内から外部空間へと飛散するエネルギー総量は,4πR2O(R-4)~O(R-2)と評価されます。

そこで,球の半径Rを十分大きく取れば等速度運動の電荷から飛散するエネルギー総量はゼロであること,例えば電荷が加速度運動を全くしない定常電流のコイルにより生成される磁場のようなものによってエネルギーが散逸して失われることはないということがわかります。

 

(導線では,"電気抵抗による散逸=ジュール(Joule)熱"が存在して電源の起電力と相殺しますがこれは物性と関わる別の話です。)

しかし,電荷が加速度運動している場合にはそれによって生成される電磁波のエネルぎー流束のオーダーはO(R-2)の波動帯に与するため,運動に伴って電荷の持っていたエネルギーが失われてゆきます。

そこで,次には点電荷がゼロでない加速度βd2d/cを持って運動する場合を考えます。点電荷が加速されることによって電磁波を放射する現象は制動放射,または制動輻射(Bremsstrahlung)といわれます。

さて,前の記事で与えた一般的な点電荷による電場(,t),磁場(,t)の陽な表式のそれぞれで加速度因子βd2d/cを持ち,R-1(t0')に比例した大きさを持っていて波動帯に寄与する右辺第2項に着目します。

すなわち,波動帯では,(,t)={e/(4πε0)}[{(t0')-β(t0’)}{(t0')βd(t0')}-βd(t0'){1-(t0')βd(t0')}]={e/(4πε0)}((t0')×[{(t0')-β(t0')}×βd(t0')]/{R(t0')α3(t0')}),かつ(,t)=-c-1(,t)×(t0')={(t0’)×(,t)}/cです。

(,t)は(,t),(t0')に垂直ですから(t0')(,t)=0 であり,波動帯では点電荷による電磁場は自由電磁波と同じ性質を持っています。

そして,ポインテイング・ベクトルは×=(×)/μ0={×(×)}/(μ0c)=2/(μ0c)です。

そこで,時刻0'に点電荷から放射された電磁波が時刻tに点で測定されるとき,単位時間に単位面積を通過するエネルギー流は(,t)=(,t)2(t0')/(μ0c)={e/(4πε0)}2{1/(μ03)}{(t0')/{R2(t0')α6(t0')}((t0')×[{(t0')-β(t0')}×βd(t0')])2となります。

ただし,電場の複素表現を使用する場合はサイクル平均が<(,t)2>=|(,t)|2/2となるため<(,t)>=|(,t)|2(t0')/(2μ0c)です。

ここで注意すべきことは(,t),または(,t)>は観測点における時間tに関する単位時間当たりの通過エネルギー量であり,時間t0'に関する点(t0')におけるそれではないということです。

 点電荷は運動しているため,仮に発信時刻t0'がT1からT2の(T2-T1)の間だけ電荷が加速されたとすると,t0'=t-|(t0')|/c, or t=t0'+|(t0’)|/cなる関係によって,(T1,T2)に放射される電磁波は観測点ではt1=T1+|(T1)|/cからt2=T2+|(T2)|/cの間の(t1,t2)に観測されます。

 つまり,で受信する時間t2-t1={T2+|(T2)|/c}-{T1+|(T1)|/c}は一般に対応する点電荷の加速時間(T2-T1)とは異なっています。いわゆるドプラー効果(Doppler effect)ですね。

 そこで,t0'∈(T1,T2)に放射された電磁波を点で受ける際の単位面積当たりの総エネルギー量EはE=∫t1t2(,t)(0)dtで与えられます。

 

 これはE=T1T2{(,t)(0')}(dt/dt0')dt0'と書けますから,発信点(t0')での時間t0'に関するエネルギー放射率の式:dE/d0'={(,t)(0')}(dt/dt0')={(,t)(0')(t0')が得られました。

 そこで,点電荷自身が単位加速時間に放射する全エネルギーdW/d0'は上記dE/d0'を半径R(t0')の球面上で積分した式dW/d0'=∫(,t)(0')(t0')2(t0')dΩで与えられます。

dΩは点における面積要素dSを点電荷から見た立体角です。

既に前に定義した概念なのでさらりと流していますが,半径R(t0')の球面というのは時刻tにおいて|(0')|=c(t-t0')を満たす全ての点の集まりであることなども思い出す必要があります。

dW/d0'=∫(,t)(0')(t0')2(t0')dΩに(,t)={e/(4πε0)}2{1/(μ03)}{(t0')/{R2(t0')α6(t0')}((t0')×[{(t0')-β(t0')}×βd(t0')])2を代入しt0'をtと書き換えると次のようになります。

 すなわち,dW/d={e2/(16π2ε0)}∫dΩ((t)×[{(t)-β(t)}×βd(t)])2/{1-()β(t)}5です。ここで,α(t)=1-()β(t)なる陽な等式を用いました。これは正確な式です。

 もしも,β(t)<<1,つまり点電荷の速さv(t)=zd(t)が光速度cに比べてごく小さいときには,()=(t)/R(t)と加速度βd(t)=2d(t)/cのなす角をθとすれば次のようになります。

 

 dW/dt~{e2/(16π2ε0)}∫dΩ((t)×[{(t)-β(t)}×βd(t)])2{e2/(16π2ε0)}∫dΩ[sin2θ{βd(t)}2]です。

dΩ積分を実行するとdW/dt~ {e2/(6πε03)}{d(t)}2を得ます。この放射率の非相対論的近似式をラーモアの公式,またはラーマーの公式(Larmor's formula)といいます。

 この非相対論的近似での放射の角分布:Δ(dW/dt)/ΔΩはsin2θに比例するので,これはl=1の電気双極子放射に相当しています。

 単位時間当たりの全平均放射エネルギーPは,複素表現では<(,t)>=|(,t)|2(t0')/(2μ0c)ですから,P=d<W>/dt={e2/(12πε03)}|d(t)|2と表わされます。

 例えば質量がmの点電荷eがz方向に調和振動をしている場合には,運動方程式mz2d=-mω02zより,z(t)=aexp(-iω0t),vd(t)=-aω02exp(-iω0t)です。

 

 そこで,ラーモアの公式からこの調和振動子の単位時間当たりの平均放射エネルギーはP=d<W>/dt={e2/(12πε03)}a2ω04で与えられることがわかります。

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