散乱の伝播関数の理論(1)(Lippman-Schwinger-1)
電磁波の放射,散乱の古典論を述べてきたついでに,散乱問題の量子論での扱いも示しておきます。
紹介しようと思うのは,いわゆる伝播関数の理論(propageter theory),あるいはGreen関数による方法です。
これは,Born(ボルン)級数やLippman-Schwinger方程式の摂動展開にFeynman-diagramを組み合わせるようなものです。
量子波の伝播や散乱問題については,Betheの"Intermediate Quantum Mechaniocs"やJ.J.Sakurai(桜井純)の"Advanced Quantum Mechanics",またはSchiffの教科書「量子力学(下)(邦訳:Quantum Mechanics)」にもそうした崩芽の記述があったと記憶しています。
こうした,初期の中間的量子力学(intermediate quantum-mechanics)において,伝播関数を用いた方法はFeymanの経路積分の考え方をも内包しているようです。
私の所持している本では,Schiff(シッフ)や上記J.J.Sakurai著の"Advanced Quantum Mechanics"などに上記のような第2量子化の理論(QED,場の量子論)への橋渡しのような量子論的扱いがあります。
まず,日本物理学会編集の「新編物理学選集32(素粒子理論)」に載っているものから紹介します。
これは,私が大学院修士課程に入学した年(1974年)に1年先輩のHさんから頂いたものです。
当時,素粒子論に関して右も左もわからない状態でしたが,"まず,これを読め"と先輩に頂いたのがこの論文集でした。
彼には,既に読み終わったからとLandauの「相対論的量子力学Ⅰ」(東京図書)も貰って,まだ大事に持っています。
両方とも裏表紙に名前が書いてあります。
なぜ,親切にして頂いたのか?タダで貰ったのか?は,よくわかりませんが,最近2年続けて関西に行った際に探し出してお会いしました。
(※ひょっとしたら,谷川研究室の他の2人の私の1年先輩TさんとMさんは東大と京大の出身ですが,Hさんは富山大出身でしたので同じ地方国立のS大から来た私に親しみを持たれたのかも知れません。)
当時も日本語の専門書はまだ安い方でしたが,洋書は1ドルが360円の時代ですから,日本円では今よりもかなり高価でした。
しかも,トピックが専門的であればあるほど日本語の参考文献などは,ほとんどなかった時代ですね。
洋書を1冊程度輪講をするにしても,市販の本は貧乏学生には高値の花だったため,普通は図書室にあった本を青焼きコピーしてそれをファイルして使っていたのが常でした。
普通,理論物理などの理論分野では,取り合えず本と論文など文献さえあればいいので,ある程度独学可能な素養と頭があれば,別に大学に属する必要などないのですが。。。
しかし,当時は(今も?)ほとんどの専門文献が揃っていて,それらを容易に参照できる環境は,附属の図書室を持つ大学の研究室など研究施設に限られていたので,やはり大学に属するという選択が最善でした。
(いや,まだ,普通に前途があった若い時代でしたし,何か学びたい,と思えば大学や大学院に入る以外の選択を思い付くのは不可能でした。)
(↑うーん,また回顧録になってるな。。)
まず,有名な散乱の「Lippmann-Schwinger方程式」を与えた論文:
B.A.Lippmann Julian Schwinger "Variational Principles for Scattering Process.I" Phys.Lev,Vol.29(3)(1950)
を紹介します。
これは,何と私が生まれた年に提出された論文です。
※ 以下は,本文を私が日本語に翻訳したものです。
(表題):時間に依存する散乱理論
問題とする系のHamiltonianを独立な2つの部分,非摂動部分H0と摂動部分(相互作用エネルギー)H1の和で表現します。
H1による効果のみを記述したいので,Schoedinger方程式:
ihc{∂Ψ(t)/∂t}=(H0+H1)Ψ(t)から,H0に関わる時間依存性を除くのが便利です。
そのため,ユニタリ変換(unitary transformation):
Ψ(t)≡exp(-iH0t/hc)ψI(t) を実行します。
こうすれば,方程式は,
ihc{∂ψI(t)/∂t}=H1(t)ψI(t),HI(t)
=exp(iH0t/hc)H1exp(-iH0t/hc)
となります。
(※(訳注):↑これは相互作用表示ですね。)
この表示で,初期の相互作用していない部分は状態ベクトルψI(-∞)で表わされ,やがては終状態のベクトルψI(+∞)に向かいます。
時間発展のユニタリ変換をψI(t)=U+(t)ψI(-∞)で定義します。
U++(t)U+(t)=1です。
特に,ψI(∞)=SψI(-∞),S=U+(∞)とします。
Sを散乱演算子(scattering operator:衝突演算子)と呼びます。
U+(t)はU+(-∞)=1なる境界条件を満たす微分方程式:
ihc{∂U+(t)/∂t}=H1(t)U+(t)の解です。
ψI(t)をψI(t)=U-(t)ψI(∞)によってψI(∞)に結びつける別のユニタリ演算子:U-(t)を導入することも有益です。
ψI(t)=U-(t)ψI(∞)=U-(t)SψI(-∞)=U+(t)ψI(-∞)ですから,U+(t)=U-(t)Sなる関係があります。
こちらのU-(t)も方程式:ihc{∂U-(t)/∂t}=H1(t)U-(t)の解ですが,これは境界条件U-(∞)=1を満たします。
ihc{∂U+(t)/∂t}=H1(t)U+(t)を積分方程式で書くと,
U+(t)=1-(i/hc)∫-∞tH1(t')U+(t')dt'
=1-(i/hc)∫-∞∞θ(t-t')H1(t')U+(t')dt'
です。
ただし,θ(τ)はHeavisideの関数(step function;階段関数)です。
τ>0 ならθ(τ)=1,τ<0 ならθ(τ)=0 なる関数です。
同様に,U-(t)=1+(i/hc)∫t∞H1(t')U-(t')dt'
=1+(i/hc)∫-∞∞H1(t')U-(t')θ(t'-t)dt'
です。
したがって,S=1-(i/hc)∫-∞∞H1(t)U+(t)dt,
S-1=1+(i/hc)∫-∞∞H1(t)U-(t)dt です。
U±(t)に対する微分方程式,積分方程式は,それと等価なある作用が停留値をとる基本方程式を与える変分原理(Variational Principle)で置き換えることができるはずです。
さらに,このときに取る作用の停留値が正に散乱演算子Sであることがわかります。
したがって,Sの停留表現を与えることでSを構成する上での誤差が最小化されるため,問題の変分定式化は近似計算を生み出します。
これを示すため,最初に,S'
≡U+(∞)-∫-∞∞U-+(t){∂/∂t+(i/hc)H1(t)}U+(t)dt
とおき,これを独立なU+(t),U-(t)の汎関数(作用)と考えます。
そして,U+(-∞)=1という拘束の下での変分問題,つまり任意の独立なδU+,δU-に対するS'の変分δS'がゼロになるための条件を求める問題を考えます。
まず,δS'=δU+(∞)
-∫-∞∞δU-+(t)[{∂/∂t+(i/hc)H1(t)}U+(t)]dt
-∫-∞∞U-+(t)[{∂/∂t+(i/hc)H1(t)}δU+(t)]dt
と書けます。
右辺最後の項は,
-∫-∞∞U-+(t)[{∂/∂t+(i/hc)H1(t)}]δU+(t)dt
=-[U-+(t)δU+(t)]-∞∞+∫-∞∞[{∂/∂t
+(i/hc)H1(t)}U-(t)]+δU+(t)dt
=-U-+(∞)δU+(∞)
+∫-∞∞[{∂/∂t+(i/hc)H1(t)}U-(t)]+δU+(t)dt
と変形されます。
そこで,δS'={1-U-+(∞)}δU+(∞)-∫-∞∞δU-+(t)[{∂/∂t
+(i/hc)H1(t)}U+(t)]dt
+∫-∞∞[{∂/∂t+(i/hc)H1(t)}U-(t)]+δU+(t)dt
なる式が得られます。
独立な任意のδU+,δU-に対してδS'=0 が満たされるためには,
運動方程式:{∂/∂t+(i/hc)H1(t)}U+(t)=0,
{∂/∂t+(i/hc)H1(t)}U-(t)=0 が成立し,境界条件:
U-+(∞)=1が満たされることが必要十分です。
そして,このときのS'の停留値はS'=U+(∞)ですが,右辺のU+(∞)は散乱演算子Sそのものなので,S'min=Sなることが結論されます。
S'≡U+(∞)-∫-∞∞U-+(t){∂/∂t+(i/hc)H1(t)}U+(t)dtを対称化して,
S"≡(1/2){U+(∞)+U-+(∞)}
-∫-∞∞[(1/2)U-+(t){∂U+(t)/∂t}
-(1/2)]{∂U-+(t)/∂t}U+(t)
+(i/hc)U-+(t)H1(t)U+(t)]dt
を作ります。
そして,これの拘束条件をU+(-∞)=U-(∞)=1とします。
S"の停留条件からも同じ運動方程式が得られS"の停留値は散乱演算子Sです。(※詳細は省略)
直接,積分方程式に導くための作用を考え,
S^≡1-(i/hc)∫-∞∞[U-+(t)H1(t)+H1(t)U+(t)]dt
+(i/hc)∫-∞∞U-+(t)H1(t)U+(t)]dt
+(i/hc)2∫-∞∞∫-∞∞U-+(t)H1(t)
θ(t-t')H1(t')U+(t')dtdt'
と定義します。
実際,
δS^=(i/hc)∫-∞∞dtδU-+(t)H1(t)[U+(t)-1
+(i/hc)∫-∞∞θ(t-t')H1(t')U+(t')dt']
+(i/hc)∫-∞∞dt[U-(t)-1-(i/hc)∫-∞∞dt'
H1(t')U-(t')θ(t'-t)]+H1(t)δU+(t)=0
から,求める積分方程式が得られ,
しかも停留値は散乱演算子Sに一致します。
このS^に対する変分原理は,S',S"のそれらとは異なり,U+,U-にも相互作用演算子H1を含む積分にも何の拘束条件を要求しません。
後者の性質はU+とU-への適切な近似が,現実の相互作用過程の間だけ要求されることを意味します。
さらに,同じ近似演算子U+とU-を用いるとき,第二の型の変分原理の方が第一の型のそれより正確な結果を生み出します。
すなわち,簡単ですが粗い近似U+(t)=U-(t)=1を,
S'=U+(∞)-∫-∞∞U-+(t){∂/∂t+(i/hc)H1(t)}U+(t)dt
または,
S^=1-(i/hc)∫-∞∞[U-+(t)H1(t)+H1(t)U+(t)]dt
+(i/hc)∫-∞∞U-+(t)H1(t)U+(t)]dt
+(i/hc)2∫-∞∞∫-∞∞U-+(t)H1(t)θ(t-t')H1(t')
U+(t')dtdt' に代入します。
前者からは,S~ 1-(i/hc)∫-∞∞H1(t)dtを得ます。
これは第1Born近似と同等です。
一方,後者からは,
S~ 1-(i/hc)∫-∞∞H1(t)dt
+(i/hc)2∫-∞∞∫-∞∞H1(t)θ(t-t')H1(t')dtdt'
を得ます。こちらは第2Born近似と同等です。
これらのSに対する近似表現は,以下に論じる変分原理の欠点を示しています。すなわち,不正確なSではユニタリ性(unitarity:確率の保存)が保証されません。
例えば,S~ 1-(i/hc)∫-∞∞H1(t)dtからは,
S+S~ 1+(1/hc)2(∫-∞∞H1(t)dt)2≠1
を得ます。
この欠陥に対処する理論の修正版は,U+(t)とU-(t)を
V(t)≡2U+(t)/(1+S)=2U-(t)/(1+S-1)で置き換える
ことで得られます。
こうすれば,V(-∞)=2/(1+S),V(∞)=2S/(1+S)ですから,
(1/2){V(∞)+V(-∞)}=1で,V(∞)=V+(-∞)です。
そこで,KをHermite演算子,つまりK+=Kとして,
V(∞)=1-iK/2,V(∞)=1+iK/2と置くことができます。
Kはいわゆる反応演算子(reaction operator)です。
S=V(∞)/V(-∞)に注意すれば,S=(1-iK/2)/(1+iK/2)
となり,ユニタリなSをHermite演算子で表現できます。
そして,このHermite性が保証されているKに対して変分原理を適用してみます。
演算子(作用素)K'を,
K'≡(i/2)∫-∞∞{V+(t)(dV/dt)-(dV+/dt)V(t)}dt
+(i/hc)∫-∞∞V+(t)H1(t)V(t)dt
+(i/2)[{V(∞)-V(-∞)}-{V+(∞)-V+(-∞)}]
で定義します。
これは,任意のV(t)について明らかにHemiteな表現です。
V+(t),V(t)の小変分に対するK'への効果はδK'=(※略)
となります。
そして,δK'=0 という条件から,
{-ihc∂/∂t+H1(t)}V(t)=0 が得られます。
このときK'は先に定義したKに一致します。
V(t)の満たす積分方程式は,{-ihc∂/∂t+H1(t)}V(t)=0
を-∞からtまで積分して,
V(t)=V(-∞)-(i/hc)∫-∞tH1(t')V(t')dt'
となります。
一方,∞からtまで積分すれば,
V(t)=V(∞)+(i/hc)∫t∞H1(t')V(t')dt' です。
これらを辺々加えて2で割ると,変分原理からも得られる条件
(1/2){V(∞)+V(-∞)}=1から,
V(t)=1-{i/(2hc)}∫-∞∞ε(t-t')H1(t')V(t')dt'
を得ます。
ただし,ε(t)は符号関数でt>0 ならε(t)=1,t<0 なら
ε(t)=-1です。
逆に,この積分方程式からV(t)が時間発展の微分方程式
(Schoedinger方程式)と境界条件に従うことが演繹的に導かれます。
また,K=i{V(∞)-V(-∞)}
=(1/hc)∫-∞∞H1(t')V(t')dt'なる式も導かれます。
このKに対する上記積分方程式は,直接,
K"≡(1/hc)∫-∞∞{H1(t)V(t)+V+(t)H1(t)}dt
-{i/(2hc)}∫-∞∞dt∫-∞∞dt'
[V+(t)H1(t)ε(t-t')H1(t’)V(t')]
なる作用の変分原理δK"=0 から得られます。
(※↑これの証明も省略します。)
ここまで展開してきた抽象理論は系を始状態と終状態を記述する部分に分ける固有関数Φaを導入すればより明確になります。
SΦaは始状態Φa(※訳注:相互作用表示)から出現する終状態なので,
系が特に状態Φbに見出される確率はWba=|<ΦbSΦa>|2=|Sba|2
で与えられます。(Sba≡<ΦbSΦa>です。)
相互作用過程で生成される状態変化を推進する作用素:T≡S-1を導入すれば,僅かに便利になります。
Sのユニタリ性:S+S=1 は,T+T=-(T+T+)を意味します。
そして,系が始状態と異なる終状態Φbに見出される確率:Wbaは,
b≠aならWba=|<ΦbTΦa>|2=|Tba|2と書けます。
先の積分方程式:S=1-(i/hc)∫-∞∞H1(t)U+(t)dtによれば,
T=S-1=-(i/hc)∫-∞∞H1(t)U+(t)dtです。
そこで,Tba=<ΦbTΦa>
=-(i/hc)∫-∞∞dt<ΦbH1(t)U+(t)Φa>
=-(i/hc)∫-∞∞dt<Φbexp(iH0t/hc)H1exp(-iH0t/hc)
U+(t)Φa>を得ます。
系が2つの成分へと明確に分離されることに関わって運動量状態の重ね合わせ(波束)には空間の局所性が要求されるため,ΦbはH0の正確な固有関数とは成り得ないことに着目すべきです。
しかし,そのままH0Φb=EbΦbを満たすH0の固有関数を導入し,系の成分分離から生じる相互作用の停止をt→±∞での相互作用の強さの断熱減衰によってシミュレートすれば同等な記述が可能です。
この断熱減衰は任意の微小なε>0 による因子exp(-ε|t|/hc)の挿入で表現できます。
したがって,
Tba=<ΦbTΦa>=-(i/hc)∫-∞∞dt<Φbexp(iH0t/hc)
H1exp(-iH0t/hc)U+(t)Φa>の物理的に正しい表現は,
Tba=-(i/hc)<ΦbH1Ψa(+)(Eb)>となります。
ここに,Ψa(+)(E)
≡∫-∞∞dtexp{i(E-H0)t/hc}exp(-ε|t|/hc)U+(t)Φa
です。
同様に,S-1=1+(i/hc)∫-∞∞H1(t)U-(t)dtですが,
S-1=S+=(1+T)+=1+T+なので,
T+=(i/hc)∫-∞∞H1(t)U-(t)dtと書けます。
それ故,Tba=-(i/hc)<Ψa(-)(Eb)H1Φb>と書けます。
ただし,Ψa(-)(E)
≡∫-∞∞dtexp{i(E-H0)t/hc}exp(-ε|t|/hc)U-(t)Φa
です。
Ψa(+)(E),およびΨa(-)(E)を決定する方程式は,
U+(t)=1-(i/hc)∫-∞∞θ(t-t')H1(t')U+(t')dt',
およびU-(t)=1+(i/hc)∫-∞∞H1(t')U-(t')θ(t'-t)dt'
から得られます。
すなわち,積分方程式:Ψa(+)(E)
=∫-∞∞dtexp{i(E-Ea)t/hc}exp(-ε|t|)Φa
-(i/hc)∫0∞dτexp{i(E-H0)τ/hc}exp(-ετ/hc)
H1Ψa(+)(E),
および,
Ψa(-)(E)
=∫-∞∞dtexp{i(E-Ea)t/hc}exp(-ε|t|)Φa
+(i/hc)∫0∞dτexp{-i(E-H0)τ/hc}exp(-ετ/hc)
H1Ψa(-)(E)です。
ここでτ=|t-t'|とおきました。
さて,-(i/hc)∫0∞dτexp{i(E-H0)τ/hc}exp(-ετ/hc)
=1/(E+iε-H0)=(E-H0-iε)/{(E-H0)2+ε2}
=P{1/(E-H0)}-iπδ(E-H0),および,
(i/hc)∫0∞dτexp{-i(E-H0)τ/hc}exp(-ετ/hc)
=1/(E-iε-H0)=(E-H0+iε)/{(E-H0)2+ε2}
=P{1/(E-H0)}+iπδ(E-H0)
なる公式が成立します。
両表現の最後の式はε→+0 の極限での次の積分の実部と虚部が取る値の記号的表現です。
すなわち,limε→+0∫-∞∞{xf(x)/(x2+ε2)}dx
=P∫-∞∞{f(x)/x}dx,および,
limε→+0(1/π)∫-∞∞{εf(x)/(x2+ε2)}dx=f(0)です。
f(x)はxの任意関数でPは積分の主値(principal value)です。
(※訳注:これについては,2009年7/4のブログ記事
「コーシーの主値(主値積分)」を参照してください。)
これを用いると,積分方程式は記号的に,
Ψa(+)(E)=2πhcδ(E-Ea)Φa
+{1/(E+iε-H0)}H1Ψa(+)(E),および,
Ψa(-)(E)=2πhcδ(E-Ea)Φa
+{1/(E-iε-H0)}H1Ψa(-)(E)
と書けます。
Ψa(±)(E)≡2πhcδ(E-Ea)Ψa(±)と書けば,方程式は,
Ψa(±)=Φa+{1/(E±iε-H0)}H1Ψa(±) に帰着します。
これらの方程式の表現はエネルギーEに小さい正の虚部iεか
負の虚部(-iε)のいずれを加えるかによって,
散乱体から出る波(outgoing wave)か,散乱体に向かって入る波
(incoming wave)か,を自動的に選択する散乱問題の時間に依存
しない定式化を与えます。
演算子(作用素)Tの行列要素はTba≡-2πiδ(Ea-Eb)Tba;
Tba≡<ΦbH1Ψa(+)>=<Ψa(-)H1Φb>と表現できます。
これは,Ea=Ebのエネルギーが等しい状態だけで定義される関連行列要素Tによる等価な表現です。
結果として遷移確率の公式:
Wba=4π2[δ(Ea-Eb)]2|Tba |2
が得られます。
長いので,ここでちょっとお休みします。
参考文献:「新編物理学選集32(素粒子理論)」(1961,第2版)
(日本物理学会編 )
この歳になっても,先輩は先輩で,またしてもオゴってもらいました。
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