散乱の伝播関数の理論(3)(Lippman-Schwinger-3)
今日は朝から「散乱の伝播関数の理論」の続き草稿を書いていましたが
何か知り合いが競馬で大当たりしたと聞いたのでオゴってもらうことにして
急遽トンヅラします。(20時)
アヤカリたいなあ。。こちとら馬券を買う金もないので。。。
と思ったけれど。。。。
私的にはまだ早い時間だし,別に私のお金というわけではないので
,途中までの原稿をアップしておきます。
(PS:やっぱホラだった。3連単90万の2000円買いでカスっただけ。。
まったくぅ。一月遅れてるぞ。エイプリルフール。。
別の友達には昔800万を取った奴もいたけど,奴はバカだから,その
全額をまたぶっこんでスッてしまったらしい。。。)
さて散乱の伝播関数の理論の続きです。
第Ⅲ節:束縛陽子による中性子の散乱
(Neutron scattering by bound proton)
前節までの変分法の応用として別に用意された分子の中の束縛陽子
による遅い中性子の散乱を考察します。
全系の重心運動量をゼロと仮定すれば,非摂動Hamiltonian:
H0は中性子の相対運動と分子の重心運動を記述する部分,
および,その他に内部分子運動のHamiltonian部分:Hmの2つ
の部分で構成されます。
すなわち,H0=pn2/(2μ)+Hmです。
μは中性子相対運動の換算質量でμ≡AM/(A+1),
Aは単位がM(中性子質量)の分子量です。
摂動H1は中性子・陽子の相互作用:H1=V(rn-rp)です。
これは一般に中性子,陽子のSpin演算子:σn,σpにも依存します。
この問題の簡単な特徴を述べるなら,長距離で弱い分子的力とは
対照的な短距離の強い核力ということになります。
先に考察した散乱のT行列要素の作用関数:
T'ba=<Ψb(-)H1Φa>+<ΦbH1Ψa(+)>-<Ψb(-)H1Ψa(+)>
+<Ψb(-)H1{1/(E+iε-H0)}H1Ψa(+)>の変分原理が要求する
のは,陽子に関する分子的力が無視できる核力領域内のみの状態を
記述する波動関数の情報です。
これの基本となる問題は,相対運動のエネルギーがゼロの1中性子
の1自由陽子による散乱です。
まず,この単純な散乱の性質を考えます。
重心静止系での1中性子と1自由陽子に対する非摂動Hamiltonian
は,H~0=p2/Mで与えられます。
ただし,pは粒子の相対運動量です。
一時的にspin座標を省略すれば,非摂動の状態ベクトルΦaを表わす
波動関数φは相対運動エネルギーがゼロの極限では単なる定数です。
この定数は単位体積ごとに1に取ることができます。
状態ベクトルΨa(+)やΨa(-)を表わす波動関数をψ(r)とします。
ゼロエネルギーの極限では,出て行く波と入ってくる波の区別は
存在しません。
そこで,散乱は必然的に等方的で,Tbaも単なる定数です。
この定数をtと書くことにします。
先に与えたTの定義式:Tba≡<ΦbH1Ψa(+)>=<Ψa(-)H1Φb>
によればt=<φVψ>=∫V(r)ψ(r)drと考えられます。
ψ(r)は積分方程式:Ψa(±)=Φa+{1/(E±iε-H0)}H1Ψa(±)
に対応して,積分方程式:ψ+(1/H~0)Vψ=φに従います。
tとSを結ぶ位相のずれ(phase shift)δAは,
Tba=ΣAfbATAfaA*;TA=-(1/π)sinδAexp(iδA)
から得られます。
これは,今の場合t=-|f|2ka/πです。
何故なら,ゼロエネルギー極限:k→0 では,sinδ →δ(=ka)
となるからです。
これによって散乱振幅:aを定義して導入します。
定数fは直交規格化条件:ΣafaA*δ(Ea-E)faB=δAB
において,δ(Ea-E)をρdΩで置き換えて∫dΩ=4π
より,|f|24πρ=1なる式から決まります。
先に見たように,ρ=p2dp/{(2πhc)3dE}
=(8π3hc)-1(k2/v)ですから,
4πρ=k2/(2π2hcv)です。
さらに相対運動量と相対速度の関係:hck=Mv/2から,
4πρ=Mk/(4π2hc2)です。
したがって,結局t=-|f|2ka/π=-4πhc2a/Mを得ます。
もしも中性子・陽子相互作用がspin依存なら,tをspin量子数に
ついての行列で置き換える必要があります。
このspin行列の固有関数はスピン角運動量の三重項(triplet;
角運動量=1)と一重項(singlet;角運動量=0)状態のそれで
与えられます。
これと関連してtの固有値は三重項と一重項の散乱振幅に対応
して,t1,0=-4πhc2a1,0/Mと書けます。
Tba=ΣAfbATAfaA*によれば,行列tは固有値に対応する射影
演算子の行列要素の係数を持つ固有値の線形結合です。
そして,既によく知られているように,spinの三重項と一重項の
射影演算子は,P1=(3+σnσp)/2,P0=(1-σnσp)/2です。
それ故,spin依存相互作用を含む場合には,t=a1P1+a0P0
=(1/2){(3a1+a0)+(a1-a0)σnσp} とすれば十分です。
次に,束縛陽子による中性子の散乱を記述するTbaの近似的ですが
高精度の評価式を求めようと思います。
この目的のため,元の
T'ba=<Ψb(-)H1Φa>+<ΦbH1Ψa(+)>-<Ψb(-)H1Ψa(+)>
+<Ψb(-)H1{1/(E+iε-H0)}H1Ψa(+)>を,
T'ba=<Ψb(-)VΦa>+<ΦbVΨa(+)>-<Ψb(-)VΨa(+)>
-<Ψb(-)V{1/(1/H~0)VΨa(+)>
+<Ψb(-)V{1/(E+iε-H0)}+1/H~0}VΨa(+)>
と書き直します。
spin依存相互作用を扱う際にはspin関数を隠すために,Tba自身を
spin演算子とみなすのが便利です。
さて,導入さるべき最初の近似は状態ベクトル:Φaを表わす
波動関数:つまりΦa(rn,r)に関するものです。
ただしrnは分子の重心を原点とする中性子の座標,rは陽子の
座標rpを含む内部分子座標のセットです。
中性子と分子の独立な運動を記述する波動関数をΦa(rn,r)
=exp(ikarn)χa(r)なる形で導入します。
ここで,χa(r)は分子運動の波動関数です。
ところが,T'ba=<Ψb(-)VΦa>+<ΦbVΨa(+)>
-<Ψb(-)VΨa(+)>-<Ψb(-)V{1/(1/H~0)VΨa(+)>
+<Ψb(-)V{1/(E+iε-H0)}+1/H~0}VΨa(+)>
において,
Φa(rn,r)は常に短距離の核力ポテンシャルV(rn-rp)が
掛けられた形でしか出現しません。
そこで,Φa(rn,r)をFa(r)≡Φa(rp,r)で置き換える近似を
行ないます。
そして,この近似で生じる誤差は,r0を核力のレンジの限界として,
(kr0)2のオーダーです。
※(訳注):何故なら,Taylor展開により,Φa(rn,r)
=Φa(rp,r)+O(|rn-rp|)ですが,
これと対の,V(rn-rp)~Aexp(-r0–1|rn-rp|)/|rn-rp|
(湯川ポテンシャル)~ 1/|rn-rp|。。。
今,対象としている遅い中性子に対する分子束縛の影響は,大体(kr0)2≦10-6です。
そこで,この置換の誤差を補償する補正を入れる必要はありません。
第二の近似はT'baの表式の右辺の他の項と比較して小さい最後の項
<Ψb(-)V{1/(E+iε-H0)+1/H~0}VΨa(+)>
に対するものです。
この項が他の項と比べて小さいのは,核力相互作用の間,中性子と陽子の実質的に等しい運動エネルギーと比較して分子のエネルギーは無視できるからです。
最初からこの項を無視すれば,T'baは,
T"ba=<Ψb(-)VFa>+<FbVΨa(+)>-<Ψb(-)VΨa(+)>
-<Ψb(-)V(1/H~0)VΨa(+)>と読めます。
そして,T"baが停留値を取る条件は,Ψa(±)+(1/H~0)VΨa(±)
=Fa(r)です。
これを自由陽子の散乱の積分方程式
ψ+(1/H~0)Vψ=1と比較すると明らかに,
Ψa(±)=ψ(rn-rp)Fa(r)です。
このときT"baの停留値は正確な,Tba=<ΦbVΨa(+)>
=<Ψa(-)VΦb>の近似式:Tba~ <FbVΨa(+)>
=<FbVψFa>=t∫Fb*(r)Fa(r)dr になります。
ただし,t=∫V(r)ψ(r)drを用いました。
※(訳注):何故なら,<FbVψFa>
=∫Fb*(r)V(rn-rp)ψ(rn-rp)Fa(r)drndr
=t∫Fb*(r)Fa(r)drだからです。(注終わり※)
Fa(r)=exp(ikarp)χa(r),Fb(r)=exp(ikbrp)χb(r),
およびt=-4πhc2a/Mを代入した結果式:
Tba~ -(4πhc2a/M)∫exp{i(ka-kb)rp}χb*(r)χa(r)dr
はFermi近似です。
一方,T'baの右辺最後の項:
<Ψb(-)V{1/(E+iε-H0)+1/H~0}VΨa(+)>
を復活させます。
この項は,波動関数を使うと,∫Ψb(-)*(rn,r)V(rn-rp)
<rn,r|1/(E+iε-H0)
+1/H~0}V(rn'-rp')Ψa(+)(rn',r')drndrdrn'dr'
と書けます。
そして,再び分子の特性長さと比較して核力Vの短距離性を利用
した近似を導入します。
すなわち,
∫Ψb(-)*(rn,r)V(rn-rp)K(+)(r,r')V(rn'-rp')
Ψa(+)(rn',r')drndrdrn'dr';
K(±)(r,r')≡<rp,r|1/(E±iε-H0)+1/H~0|rp',r'>
とします。
T'baの停留条件は,Ψa(±)+(1/H~0)VΨa(±)=Fa(r)
+∫K(+)(r,r')V(rn'-rp')Ψa(±)(rn',r')drn'dr'
となります。
t=∫V(r)ψ(r)dr,および,ψ+(1/H~0)Vψ=1から,
Ψa(±)=ψ(rn-rp)Ga(±)(r)と書けば,Ga(±)(r)は積分方程式
Ga(±)(r)-t∫K(+)(r,r')Ga(±)(r')dr'=Fa(r)
に従います。
これはBreitによって得られた積分方程式の一般化になっています。
このとき,T'baの停留近似値は,Tba~ <FbVΨa(+)>
=t∫Fb*(r)Ga(+)(r)dr になります。
さらに,Ga(+)(r)に対する積分方程式:
Ga(±)(r)-t∫K(+)(r,r')Ga(±)(r')dr'=Fa(r)
は逐次代入法で解くことができます。
すなわち,Ga(+)(r)=Fa(r)+t∫K(+)(r,r')Fa(r')dr'
+t2∫K(+)(r,r')K(+)(r',r")Fa(r")dr'dr" +..
です。
これは,lを分子の特性長さとすると,明らかに(a/l)のベキ級数展開です。
ただし,a/l~ 10-3なので級数は急激に収束します。
そこで先のFermi近似への補正の精密な評価を得るには,Fa(r)の他に,その次の項1つを取れば十分です。
したがって,Tba~t∫Fb*(r)Fa(r)dr
+t2∫K(+)(r,r')Fa(r')drdr'なる新たな近似表式
を得ます。
そして,K(+)(r,r')を具体的に作るには,
<rn,r|1/(E+iε-H0)|rn',r'>
=ΣcΦc(rn,r){1/(E+iε-Ec}Φc*(rn',r')
=Σγ∫dk(2π)-3exp(ikrn)χγ(r)/{E+iε-hc2k2/(2μ)
-Wγ}exp(-ikrn')χγ*(r') とします。
2番目の式では,分子プラス自由中性子の系の状態全てにわたる総和が分子と中性子の個々独立に陽に実行できます。
(1/H~0)の対応する行列要素を評価するためには,演算子は中性子と陽子の相対運動を参照する必要があります。
そこで,<rn,r|1/H~0|rn',r'>
=∫dk(2π)-3exp{ik(rn-rp)}{M/(hc2k2)}
exp{-ik(rn'-rp')}δ((rn+rp)/2
-(rn'+rp')/2)δ(s-s')です。
ただし,sはrpを除く内部分子座標のセットの総称です。
実際に興味があるのは,rn→rp,rn'→rp'の場合ですが,この極限ではδ((rn+rp)/2-(rn'+rp')/2)はδ(rp-rp')になります。
そして分子固有関数の完全性を用いると,
δ(rp-rp')δ(s-s')=δ(r-r')
=Σγχγ(r)χγ*(r)です。
こうして,K(±)(r,r')
=<rp,r|1/(E±iε-H0)+1/H~0|rp',r'>
=Σγ∫dk(2π)-3exp(ikrn)χγ(r)[1/{E+iε-hc2k2/(2μ)
-Wγ}+M/(hc2k2)]exp(-ikrn')χγ*(r')を得ます。
これはさらにK(±)(r,r')
=(M/hc2)Σγ∫dk(2π)-3exp{ik(rp-rp')}
{(2μ/M)/(kγ2+iη-k2)+1/k2}χγ(r)χγ*(r')
と変形できます。
ここに,kγ2≡(2μ/hc2)/(E-Wγ),η≡2με/hc2です。
(※(訳注):非相対論の湯川相互作用の伝播関数そのものですね。。)
この表式には,よく知られた積分公式;
∫dk(2π)-3exp{ik(rp-rp')}/(k2-kγ2-iη)
=exp(ikγ|rp-rp'|)/(4π|rp-rp'|),
∫dk(2π)-3exp{ik(rp-rp')}/k2
=1/(4π|rp-rp'|)が含まれています。
ただし,Wγ<Eなら,kγ=+{(2μ/hc2)/(E-Wγ)}1/2,
Wγ>Eなら,kγ=+i{(2μ/hc2)/(Wγ-E)}1/2です。
エネルギー的に可能な分子状態γの励起であるかどうかに従って球面波として減衰伝播する様を示しているわけです。
最後に,上記積分式を代入すると,
K(±)(r,r')=-{M/(4πhc2)}Σγχγ(r)χγ*(r')
{exp(ikγ|rp-rp'|)-1}/(4π|rp-rp'|) となります。
そして,Tba~ -(4πhc2a/M)[∫Fb*(r)Fa(r)dr
+Σγ∫Fb*(r)χγ(r)χγ*(r')(2μ/M)
{exp(ikγ|rp-rp'|)-1}Fa(r)/(4π|rp-rp'|)drdr']
です。
比:(2μ/M)は,自由陽子のときの1から無限に重い分子に束縛
された陽子に当てはまる2までの範囲の値を取ります。
こうした状況での我々の結果は,Breitのそれと一致します。
特に内部分子運動が全くなくてkγ=kとなる自由陽子の場合
には,Tba=t'=-(4πhc2/M)a(1+ika)です。
これは前のt=-|f|2ka/πの正確なバージョン:
TA=-(1/π)sinδAexp(iδA)より,
t=-(1/π)|f|2sinδexp(iδ)
=-(4πhc2/M)(1/k)tanδ/(1-itanδ)
から,
δを(ka)で置き換えて,低エネルギー極限を取り,因子:
1/(1-itanδ)だけは,1+ikaとしてikaを残した式です。
この後者の因子のikaの効果は,今対象としているエネルギー領域
での遷移においては無視できますが,
一般の保存定理:4π2Σbδ(Eb-Ea)|Tba|2=4πIm(Taa)の
成立に必要です。
実際,-(1/π)Im(Taa)=Σc|Tca|2δ(E-Ea)なる正確な等式
の右辺のTcaにFermi近似から計算される,
4πρ|t|2=4hc2ka2/Mを代入し,左辺に,
-(1/π)Im(t')=(4hc2/M)ka2を代入すると確かに等式が
成立します。
※これでLippmann-Schwinger equationの論文は終わりです。
この項目の次はSchiffとBjiorken-DrellのMechanicsにしようかな?
未定です。
参考文献:「新編物理学選集32(素粒子理論)」(1961,第2版)
(日本物理学会編)
PS: 上海万博の騒動を笑うなかれ。。
昭和30年代の昔,,貧乏な我が家での,たまの好き焼きで,僅かな肉の取り
合いをしたのが懐かしい。。
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