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2010年5月15日 (土)

原子核のγ崩壊とメスバウアー効果(5)

原子核のγ崩壊とメスバウアー効果の続きです。 

ここまで展開してきた電磁放射の古典論と量子論の対応原理に基づく方法による結果と量子論の長波長の摂動近似で成立するFermiの黄金律の整合性を示すという面倒な課題は先送りにして,取り合えず古典論と量子論の対応原理に基づいて当面の課題を処理します。

さて,これまでの論議で原子核のγ崩壊の遷移速度(transition rate)w,つまりエネルギー準位の高い核の励起準位(exciting level):|i>から,"低エネルギー状態=主として基底準位(ground level)":|f>へのγ線放射を伴う遷移の確率wは次式で与えられることを見ました。

すなわち,単位時間に電気(l,m)極のγ線を放射して核が状態遷移をする確率は,wElm=UElm/(hcω)=(2π/hc){1/(2πε0)}{(l+1)/l}k2l+1/{(2l+1)!!}2]<f|lm|i>2で与えられます。

 

また,単位時間に磁気(l,m)極のγ線を放射して状態遷移をする確率は,wMlm=UMlm/(hcω)=(2π/hc){μ0/(2π)}{(l+1)/l}(k2l+1/{(2l+1)!!}2)|<f|lm|i>|2です。

ここに,<f|lm|i>=∫rllm(Ω)*ρe()dであり<f|lm|i>=-∫rllm(Ω)*()dです。

対応原理(correspondence principle)からi()=<|i>,Ψf()=<|f>を原子核全体を位置の1粒子と見た始状態,終状態の波動関数とすれば,ρe()=ZeΨf*(i(),()={ehc/(2M)}Ψf*(){Σa=1Aμaσai()です。

また,a=-ihcaですが,これはa=1,2,..,Aの個々の核子の位置をaをとしたときの核子aの運動量を示すものです。

 

さらに,e>0 は陽子の電荷,Mは核子の質量です。

σaは核子aに対するPauli行列,μaは磁気回転比(gyromagnetic ratio)です。なお,後者はaが陽子pならμp~ 2.7928,中性子nならμn~ -1.9132です。 

遷移速度wE,Mlmの陽な表式に基づいて,その大きさを評価します。

 

まず,核子の質量はMc2~103MeVであり核子のスピン磁気モーメントの大きさは|μa|~2です。また,核半径をRとすると|∇|~1/Rですが,質量数がAの原子核では,R~(01/3)です。(0は核子半径)

 

そこで,特に平均的な質量数:A~125の場合,単位時間の磁気的放射の電気的放射の率に対する比を評価すると,(wMlm/wElm)=c-2|<f|lm|i>/<f|lm|i>|2~{c-1{hca|/(MR)}2~{2hcc/(Mc201/3)}2~ 4×10-4となります。

故に,同じ,(l,m)型の放射なら電気放射(E型)の放射確率が磁気放射(M型)の放射確率より4桁も大きいことがわかります。 

次に,原子核の|i>→ |f>のγ線放射の崩壊において許される遷移の型について考えます。 

そのため,始状態:|i>のスピンとそのz成分,パリティをそれぞれIi,Miiと表記し,終状態:|f>の対応する値をそれぞれIf,Mffと表記します。

ここで,放射γ線はE型,またはM型単独のそれであって多極度は(l,m)と仮定します。このとき,γ崩壊の遷移速度wE,Mlmがゼロでないための条件を遷移の選択則(selection rule)といいます。

まず,電磁相互作用での角運動量保存則から,if,Mi=m+Mfです。

 

そこで,ifなる制約からはlについての1つの選択則:|Ii-If|≦l≦(Ii+If)を得ます。さらに,Mi=m+Mfもmに対する選択則を与えます。

これまで見てきたように,l=0 のγ線放射は存在しないので,Ii=If=0 の場合にはγ線遷移は完全に禁止されます。

摂動近似であるFermiの黄金律u(Mi,Mf)dΩ=(2π/c)|<f|γ'|i>|2(dn/dEγ)dΩが近似的に成立するような長波長(λ>>R, or ω<<c/R)のγ線の領域を想定します。

 

この領域では,電磁相互作用γ'の多重極展開で角運動量が小さい順に項の寄与が大きいため,l=|Ii-If|,|Ii-If|+1,..,(Ii+If)のうちlの小さいγ線放射に関わる遷移がより顕著に出現します。

一方,パリティによる選択則を考えます。

 

E型放射ではlmのパリティが(-1)l,M型放射ではlmのパリティが(-1)l+1であり,電磁相互作用γ'ではパリティが保存すべきです。

 

このことから,放射による遷移行列要素がゼロにならないためには,E型放射ではπi=(-1)lπf,M型放射ではπi=(-1)l+1πfなることが必要です。

これらの選択則から,例えばiπi=4+ →Ifπf=2+の遷移では,|Ii-If|=2≦lが必要なため,許される多極放射はE2,E4,E6,..;M3,M5,..となります。

しかし,一般にγ崩壊では長波長近似がきわめて有効ですから,例えばA=125の原子核からのhcω=2MeV程度のγ線放射では,波長がλ~ 100fm=10-13m程度なので(wE4/wE2)~ 4×10-9と評価されます。

したがって,E2(電気双極子)に比べてE4(電気四重極子)を無視する近似はきわめて正当であることがわかります。それ故,Iiπi=4+ →Ifπf=2+のγ遷移では高々E2とM3の放射を考えれば十分です。

次に,励起状態にある原子核がγ線を放出して崩壊する代わりに核外の原子のK,L,M..殻の軌道電子を放出して崩壊する過程があります。

 

これはγ線の内部転換(internal conversion)と呼ばれます。

内部転換は,原子核から放射されたγ線が核外の軌道電子に吸収されて電子が放出されるという2次過程ではなく,原子核と核外電子とのCoulomb相互作用により原子核エネルギーが直接軌道電子に与えられて電子が放出される現象です。

したがって,γ線放出と内部転換は独立な競合する過程です。

 

そこで,同じ|i>→|f>の遷移においてγ線放出の確率をwγ,内部転換の確率をweとすると,トータルのγ崩壊の確率:wはw=wγ+weで与えられます。

内部転換係数αをα≡we/wγで定義すると,w=(1+α)wγです。

 

αはK,L,M,..電子による部分の総和であり,Lはさらに個殻(subshell)L1,L2,L3,..に分かれるので,α=αK+αL+αM+..=αK+ΣiαLi+ΣiαMi+..です。

 

各殻から放出される平均電子数をNK,NL1,..とし,これと競合するγ線の平均数をNγとすると,αK=NK/NγL1=NL1/Nγ,..です。そして,Nα≡NK+ΣiLi+ΣiMi+..とするとα=Nα/Nγです。

内部転換電子の運動エネルギーをEα,軌道電子の統合エネルギーをBx(x=K,L1,L2,..,競合するγ線のエネルギーをhcωとすると,Eα=hcω-Bxです。

 

xは別の方法から得られるので,Eαを精密に測定すればγ線のエネルギーhcωを高精度で求めることができます。

さて,核と1個の核外電子とのCoulomb相互作用はe'=-Σp=1Z{e2/(4πε0|ep|)}で与えられます。ここでe,pはそれぞれ核外電子,核内陽子の位置ベクトルです。

 

ルジャンドル関数による母関数展開の公式:1/|'|=1/(r2+r'2-2rr'cosω)1/2=Σl=0(rl/r'l+1)Pl(cosω)=4πΣl,m(2l+1)-1(rl/r'l+1)Ylm*(Ω')Ylm(Ω) (r<r'),4πΣl,m(2l+1)-1(r'l/rl+1)Ylm*(Ω')Ylm(Ω) (r>r')を用います。

 

これからre>rpならe'=-Σp=1ZΣl,m(2l+1)-1(e20)(rpl/rel+1)Ylm*p)Ylme)です。

 

これの行列要素:<f|e'|i>は明らかにΣp=1Zpllm*p)を含むことから,これは電気多極放射の行列要素:<f|lm|i>∫rpllmp)*ρe(p)d3pを因子に持つことがわかります。

 

そのため,Coulomb相互作用e'は電気2l極遷移を引き起こします。 

内部転換係数αが原子番号Z,γ線エネルギーhcω,多極指数lに如何に依存するかを見るために簡単なモデルを考えます。

 

まず,核外電子としてK電子のみがある場合を想定します。

 

簡単のため放出電子の運動エネルギーは対象のK電子の結合エネルギーが無視できるほど大きく,しかし非相対論近似が有効な程度には小さいとします。

 

また,原子番号Zはあまり大きくなくてCoulomb力によるひずみが無視できて放出電子の波動関数は平面波で近似可能とします。

 

そして,始状態|i>,終状態|f>を|原子核>|核外電子>のように書いて,|i>≡|Ii>|ei>,|f>≡|If>|ef>と定義します。

このとき,核外K電子の始状態の座標表示は,水素様電子の近似として,|ei>=(πa3)-1/2exp(-re/a),a≡aB/Z,aB≡4πε0c2/(me2)(Bohr半径)と書けます。

 

また,終状態は平面波近似で|ef>=V-1/2exp(iee)です。

 

一方,原子核の状態|Ii>,|If>は前に書いたようにΨi(p),Ψf(p)で表現します。

すると,内部転換確率weのFermi黄金律による評価式はK殻に2個の電子があるため,we=2(2π/hc)∫|<f|e'|i>|2(dnf/dEe)dΩと書けます。

 

ただし,dnf/dEeは|ef>=V-1/2exp(iee)で与えられる電子運動量e=hceに相当する立体角:Ω方向の終状態:|ef>の単位エネルギー準位当たりの状態数(状態密度)です。

 

仮に,一辺がLの立方体領域(V=L3)の箱に閉じ込められている以外自由な電子が,周期的境界条件を満たすとすればeの取り得る値はe=(2n1π/L,2n2π/L,2n3π/L)です。

 

(※周期的境界条件の採用で一般性を失うことなく状態密度を求めることが可能です。)

 

そこで,f≡(n1,n2,n3)と置けばe=(2π/L)fですから,de=(2π/L)dfです。

 

つまり,ke空間の体積要素ke2dkeに,{V/(8π3)}ke2dke個の状態が存在することがわかります。

 

そして,Ee=hc2e2/(2me)なのでdEe=(hc2e/me)dkeよりdnf/dEe=meeV/(8π3c2)を得ます。

  

一方,<f|e'|i>=<If;ef|e'|i;ei>=-(πa3V)-1/2Σl,(2l+1)-1(e/ε0)[eΣp=1Z∫rpllm*pf*(pi(p)d3p]∫exp(-re/a)exp(iee)re-l-1lme)d3eです。

  

右辺の[]の因子:eΣp=1Z∫rpllm*pf*(pi(p)d3p<f|lm|i>=∫rpllmp)*ρe(p)d3pに一致します。

  

また,最後の積分で展開公式:exp(iee)=4πΣl,(-i)ll(kee)Ylm(Ω)lme)*を代入します。

  

すると,∫exp(-re/a)exp(iee)re-l-1lme)d3e=4πi-llm(Ω)∫0exp(-re/a)jl(kee)re-l+1dreです。

 

変数置換により∫0exp(-re/a)jl(kee)re-l+1dre=kel-20exp{-x/(kea)}jl(x)x-l+1dx=el-2lです。

  

ea>>1と仮定しているので,積分記号の中でexp{-x/(kea)}~1 と近似すれば,Jl0l(x)x-l+1dxとなり,Jlは近似的にkeに依存しない定数と見なせます。

 

故に<f|e'|i>=-4π1/2(a3V)-1/2Σl,(2l+1)-1(e/ε0)kel-2l<f|lm|i>です。

  

最後に,これとdnf/dEe=meeV/(8π3c2)をwe=2(2π/hc)∫|<f|e'|i>|2(dnf/dEe)dΩに代入して,dΩ積分を実行します。

  

結局,we~ {8e2e/(πε02c33)}Σl,{Jl2e2l-3/(2l+1)2}|<f|lm|i>|2を得ます。

 

|Ii>→|If>の遷移では最小軌道角運動量l=|Ii-If|に対応する遷移がほとんどなので,このlに限って考えます。

 

前に得た式から,wγ(l)=ΣlmE=(2π/hc){1/(2πε0)}{(l+1)/l}k2l+1/{(2l+1)!!}2]Σ|<f|lm|i>|2です。

 

一方,今の結果からwe(l)~ {8e2e/(πε02c33)}{Jl2e2l-3/(2l+1)2}Σ|<f|lm|i>|2です。

 

 内部転換係数:α(l)=we(l)/wγ(l)においては,分子と分母でΣ|<f|lm|i>|2が相殺して消えるため,α(l)は核の波動関数Ψifに依存しないことがわかります。
 
 そして,Jl0l(x)x-l+1dx=[jl-1(x)x-l+1]0={(2l-1)!!}-1なのでK電子の内部転換係数はαK(l)~{(l+1)/l}16e2e/(ε0c23)}ke2l-3/k2l+1です。

さらに,a=aB/Z,aB≡4πε0c2/(me2),hc2e2/(2me)~hcω=hcckより,αK(l)~{(l+1)/l}16Z3/(ε0B4)}ke2l-3)/k2l+1と書けます。

 

結局,αK(l)~{(l+1)/l}3α4{2me2/(hcω)}l+5/2なる表式を得ました。α≡e2/(4πε0cc)は微細構造定数(fine structure constant)で,α~1/137です。

 

この式によれば,αK(l)はZ3に比例し,γ線のエネルギーhcωの増加と共に(hcω)l+5/2に反比例して減少します。

 

したがって,lが大きいほどαK(l)が大きく,Zの大きい重い核ほど内部転換確率が増大します。

 

しかし,上式はkea>>1の場合の近似式でありaはZに反比例するのでZが大きいとこの近似式は使えないので注意が必要です。

 

そして,また,電子は固有の磁気モーメントを持つので磁気相互作用と関わる内部転換も起きるはずです。

 

さらに,γ線エネルギーが電子2個の質量を超えると内部電子対生成という現象も生じて,その効果がγ線放射を卓越するようになります。

 

最後に本題のメスバウアー効果です。

原子や分子による光の共鳴吸収現象についてはよく知られていますが,同じ"光=電磁波"でもγ線の原子核による共鳴吸収は通常は不可能です。

すなわち,初め静止していた1個の自由な原子核からのγ線放射を考えます。 

放射されるγ線量子のエネルギーをhcωとすると,運動量の保存により放射の際,この原子核は大きさがp=hcω/cの運動量の反跳(recoil)を受けるはずです。

 

この反跳運動のエネルギーをERとすると,ER=p2/(2AM)=(hcω)2/(2AMc2)です。

そこで,遷移する原子核のエネルギー準位の差をΔE≡Ef-Eiとするとhcω=ΔE-ERであって,厳密にはhcωとΔE=Ef-Eiは等しい値ではなくて,大きさERの誤差が有ります。

 

また,逆に基底状態の核がγ線を吸収して同じ励起準位になるときにはエネルギー保存はhcω=ΔE+ERを意味します。

例えば,励起核:57e*を考えると半減期はT=9.8×10-8secです。τを平均寿命とすると,1/2=exp(-T/τ),or T=τln2より"崩壊幅(decay width)=エネルギー準位のゆらぎ(fluctuation)"Γは不確定性原理:τΓ~hcにより,Γ=hc/τ=hcln2/T=4.7×10-9eVです。

57e*においては,放射γ線のエネルギーがhcω=14.4keVならER=(hcω)2/(2AMc2)~ 2×10-3eVです。

 

故に,この場合はエネルギー準位の不確定性ΓがERよりもはるかに小さいです。これはhcω=14.4keVのように"高エネルギーの電磁波=γ線"の特徴です。

したがって,Γ=4.7×10-9eV<2ER=4×10-3eVにより,励起核:57Fe*から放出された14.4keVのγ線を安定した基底状態の57Fe核に照射して再び57Fe*に励起するという共鳴吸収過程は不可能なはずです。

しかし,これは気体分子を構成する場合のように原子核がほぼ自由の場合です。

 

もしも,核が固体の格子を構成するような場合なら,非常に強いバネのような束縛力が存在して剛体近似が可能となり,反跳エネルギーはER=(hcω)2/(2NAMc2)と評価されます。ただし,Nは結晶中の原子数という巨大な数です。

 

例えば1辺が10μm=10-5mの立方体結晶で原子間距離が1Å=10-8m程度ならN~ 1015ですから,2ER~ 4×10-18eVとなります。

 

この2ERはエネルギーの曖昧さ:Γ=4.7×10-9eVよりもはるかに小さいため,57Feを再び57Fe*に励起する共鳴吸収が可能となります。

(※光の自由電子によるコンプトン散乱と束縛電子によるトムソン散乱の違いのようなものですね。)

実際の固体では,核は格子点のまわりに束縛されて振動しています。

 

固体のデバイ温度(Deby temperature)をΘDとすると,格子振動(フォノン:phonon)の最高振動数はωD≡kBΘD/hcです。

 

Rが限界値:hcωD=kBΘDを超えると"反跳無し(non-recoiling)"に相当する共鳴吸収は起こらないと考えられます。

そこで,"反跳無し"で共鳴吸収が起こる確率をPとすると,PはER/(hcωD)=ER/(kBΘD)が小さいほど増大すると予想されます。

また,温度Tが低いほど熱振動は小さいため,"反跳無し"の剛体に近くなるはずなので,温度Tが低いほどPは増大するはずです。

実際に量子力学的計算を実行すると,P=exp[-3ER/(2kBΘD){1+4(T/ΘD)20ΘD/Txdx/(exp(x)-1)}=exp[-3ER/(2kBΘD){1+(2/3)(πT/ΘD)2}](T<<ΘD)です。

このような"反跳無し"γ線の放出,吸収の現象は1958年にメスバウアー(Mössbauer)によって発見されたため,メスバウアー効果(Mössbauer effect)と呼ばれています。 

このメスバウアー効果を利用すると,きわめて高い精度でエネルギーの値を測定できます。

 

先の57Fe*の場合には,Γ/E=4.7×10-9eV/14.4keV~10-13ですから,γ線のエネルギーEの相対誤差ΔE/Eは精度10-13で測定されます。

このエネルギー測定は,共鳴エネルギーの前後にエネルギーをずらして共鳴吸収のγ線の連続的エネルギーに対する吸収カウントをプロットする共鳴曲線を描くことでなされます。

 

これには,光のドプラー効果(Doppler effect)を利用します。 

γ線源が速さvで動いているとき,その方向に出たγ線の振動数ωe(v)はドプラー効果によってωe(v)=ωe(0)(1+v/c)となるため,速さvと共にそのエネルギーは(v/c)hcωe(0)だけ増加します。

そこで,vをゼロから正または負の向きに連続的に変えていけば単色のγ線源から共鳴エネルギーの前後にエネルギーを連続的にずらすことができます。 

γ線源として,ステンレススチール(常磁性体)の57Fe*を用いれば,この物質では,57Feは平均して核外電子から磁場を受けないので,1/2-基底状態:57Feから3/2-励起状態:57Fe*はそれぞれ縮退しています。 

一方,吸収体には金属鉄を用いると,これは強磁性体なので核の位置に核外電子スピンによる磁場が存在するため,57Feの基底状態と14.4keVの励起状態57Fe*は共にゼーマン効果(=磁場によるエネルギー準位の分裂)を起こします。

 

(2008年4/5,4/9の記事「磁場の中の原子(ゼーマン効果)(1)」,「磁場の中の原子(ゼーマン効果)(2)」参照)

1/2-から3/2-へのM1転移(γ線吸収)における磁気量子数の変化は,ΔM=i-Mfm=0,±1ですから,1/2-基底状態:57Feのゼーマン分裂したMi±1/2から3/2-励起状態:57Fe*のゼーマン分裂したMf±3/2への6本の転移(γ線吸収)が観測されるはずです。

実際,縦軸にγ線吸収のカウント,横軸にドプラー連続エネルギー(v/c)hcωeの吸収曲線をプロットすると,上記に対応する6つの吸収ピークが見られます。

 

これらの相対位置から,ゼーマン分岐のエネルギー:ΔEg(基底状態),およびΔEe(励起状態)を求めることができます。

一方,基底状態と励起状態の磁気モーメントのg因子をgg,geとすればΔEg=ggμsH,ΔEe=geμsHですから,上記の共鳴吸収曲線の観測結果から得られるΔEg,ΔEeの比からgg,geの比がわかります。

さらに基底準位のg値であるgは別の方法でわかるので,これから励起準位のg値:ge,および磁場の強さHがわかります。(つづく)

参考文献:八木浩輔 著「原子核と放射」(朝倉書店),八木浩輔 著「原子核物理学」(朝倉書店)

 

PS:ここは掲示板ではなく個人的ブログであり,しかも反応が小さくて指摘のしがいがないという私の性格もありますが,ミスプリや,文章や式の単純ミスがあっても,ほとんど重箱の隅的コメントはないようです。

 

 そこで,ときどき自主的に読み返してメンテナンスをするという自浄作用?を発揮しています。

  

 書き始めた当初の頃はそうしたコメントも結構あって,私は別にイヤじゃないのですがネ。。 

  

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コメント

参考文献ってか写しただけじゃん

投稿: へっ | 2015年1月23日 (金) 17時12分

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