散乱の伝播関数の理論(7)(Bjorken-Drell-2)
散乱の伝播関数の理論の続きです。
Bjorken & Drellの"Relativistic Quantum Mechanics"
のテキストの伝播関数理論の内容紹介の続きです。
§6.4 The Propegator in Positron Theory
(陽電子理論の伝播関数)
非相対論の伝播関数(propagator)による展開を一般化して
相対論的電子論に適用します。
出発点はx0で発生してxへと伝播する粒子波に対する確率振幅
としての非相対論的な伝播関数:G(x;x0)の描像で与えられます。
この振幅は,G(x;x0)=G0(x;x0)
+∫d4x1G0(x;x1)V(x1)G0(x1;x0)
+∫∫d4x1d4x2G0(x;x1)V(x1)G0(x1;x2)V(x2)
G0(x2;x0)+..
なる式で与えられているように,振幅の和であって,そのn番目
の項は下の図6.4のdiagramに対応する因子の積です。
この図6.4に示した散乱過程では,各線分はxi-1で生じxiまで自由に伝播する
部分の振幅G0(xi;xi-1)を表わしています。
粒子波は,相互作用頂点(vertex):xiで単位時空体積当たり
V(xi)の確率振幅で散乱され,それから新しい波が
G0(xi+1;xi)なる振幅で次の頂点xi+1まで時間の前方(未来)
に伝播します。
そこでこの振幅は相互作用が生じることが可能な全時空
のxiにわたって総和されます。
i番目の相互作用頂点がxiまで伝播してきた粒子を
消滅させ,そこで粒子を生成してさらにti+1>tiなるxi+1まで
伝播すると表現することもできます。
相対論的な Diracの空孔理論でも保持しつづけるべきは,
こうした描像です。
Hamiltonian定式化が時間のみを強調しているのに対し,
この描像は,散乱過程において全時空的な視野を強調して
いるため,相対論にも適合します。
(※例えば,伝統的なHeisenberg表示では時間座標だけを
特別視していますが,状態ベクトルが時間座標にも空間座標
にも依らないような表示の方がより共変的です。※)
ここでの目的は非相対論的伝播関数の理論のアナロジーに
よってDiracの空孔理論における散乱過程を計算できる法則
を作ることです。
しかし対生成(対創生)の存在はそれも説明しなければ
ならないのですが,事態をより複雑にします。
この状況を実際に扱うにおいて採用すべき基本法則は,単に
伝播関数に関する計算の指示がFermi粒子の場合,
Dirac方程式の力学での空孔理論で論じた陽電子の理論と無矛盾
であるべきということだけです。
(※今のところ,場の量子論以前の歴史的なDirac空孔理論の段階
を想定して論じています。※)
取り合えず,厳密さを犠牲にして直観的議論に傾倒します。
陽電子の理論において記述すべき典型的な過程の描像を
見てみます。
図6.5:陽電子理論での時空diagramの例
図6.5のFenman diagram:(a)は頂点(vertex)1で作用
するポテンシャルによる電子-陽電子対の生成(創生)
(pair production)を示していて,その後それぞれ
x1,x2に伝播します。
図6.5(b)は1つの電子e-がx1で発生してx2で終わるまで
の経路を示しています。
この道筋に沿っては頂点1で作用するポテンシャルに
よって1つの電子-陽電子対が発生します。
この対のうちの陽電子は点3で場の初期電子と対消滅
(pair-annihilate)します。
もう一方の片割れの電子は点2まで伝播して.そこで
ポテンシャルによって破壊されると同時に電子が生成されて
x2でまで伝播します。
図6.5(c)は頂点1で電子-陽電子対が生成されて点3まで
伝播し,そこで破壊消滅されることを示しています。
こうしたdiagramから次のようなことを見ます。
例えば,非相対論における頂点1で生成されて1から点2
に伝播し点2で破壊される電子に対する振幅だけでなく,
生成され伝播し破壊消滅される陽電子の振幅も必要です。
もしも,この振幅がわかれば図6.5(a),(b),(c)に図示
されているタイプの各過程と,確率振幅を結び付ける計算
が可能となります。
そして任意の個々の過程に対してこれに寄与できる介在する
経路の全てにわたって和を取るか,積分することにより全振幅
を形成する試みが可能となります。
このように,電子の散乱事象に対しては図6.4と6.5(b)に
示される両方のタイプの経路が生じます。
(※取り合えずは)Diracの空孔理論に従って陽電子の振幅を
決める必要があります。
1つの陽電子の存在は,電子で満たされた海からの1つの
負エネルギー電子の欠損を意味するので,図6.5における
頂点3での陽電子の消滅はそこでの負エネルギー電子の生成
と同等であると見ることができます。
このことは頂点1で陽電子を生成し頂点3で消滅する振幅
が頂点3で負エネルギー電子を生成し頂点1で消滅する
振幅と関連付けられることを示唆します。
そこで,図6.5のdiagramは正エネルギーを持って未来に伝播
する電子と負エネルギーを持って"過去に"伝播する電子と
解釈されるでしょう。
Diagram:6.5(a)は点1での対生成を記述しています。
これは負エネルギー電子がx2で生じて点1まで過去に伝播し,
そこで破壊され,代わりに創生された正エネルギー電子がx1
まで未来に伝播する描像と解釈できます。
散乱過程では点3まで伝播する電子は,図6.4のように
ポテンシャルによって時空の未来方向に散乱されて正エネルギー
を持って伝播するか?,図6.5(b)のように負エネルギーを持って
点1の方へと過去に"散乱されるか?という随意性を持っています。
時間について前方(未来),または後方(過去)にジグザグに進む
電子の経路に加え,図6.5(c)に示されているように閉じた
ループを描く可能性もあります。
これは空孔理論では,点1でのポテンシャルの作用が Diracの
負エネルギー電子の海の中の1つの電子を1つの正エネルギー
状態へと散乱すると解釈します。
そして,点3ではそれは逆に海の中へと散乱し返されます。
伝播関数の言葉では,点1で生成された電子が未来の点3
で過去に散乱されて点1で消滅するということになります。
こうした過程,あるいは解釈を常識的に見て不合理だとして
無視することはできません。
実際,定式化はこれを要求しているし,後述するように実験
結果もその存在を支持しています。
さて,我々のプログラムの第一段階として,電子と陽電
子の伝播を記述するGreen関数を作ります。
相対論的量子力学の Dirac理論と,すぐ前に論じた非相対論
の伝播関数(prpopagator)の議論に習ってこのプログラムを
実行します。
電子(Fermi粒子)の相対論的伝播関数SF'(x;x0)は,
非相対論での伝播関数G(x;x0)の定義式:
{i(∂/∂t)-H(x)}G(x;x0)=δ4(x-x0)
のアナロジーで,
Σλ=14[γμ{i∂/∂xμ-eAμ(x)}-m]αλ
SF'λβ(x;x0)=δαβδ4(x-x0) を満足すると
定義されます。
ここで,陽に書いたように,電子の伝播関数はγμの次数
に対応して, 4×4行列です。
上式は,行列記法では,添字を省いて,
[iγμ(∂/∂xμ)-eγμAμ(x)-m]SF'(x;x0)
=δ4(x-x0) と簡単になります。
非相対論の式:{i(∂/∂t)-H(x)}G(x;x0)=δ4(x-x0)との
もう1つ大きな違いは,因子[iγμ(∂/∂xμ)-eγμAμ(x)-m]
が相対論的に共変な演算子となるように,{i(∂/∂t)-H(x)}にγ0
を掛けた演算子に相当していることです。
自由電子の伝播関数を非相対論粒子のG0(x;x0)の代わりに,
SF(x;x0)と書けば,これは行列記法で,
[iγμ(∂/∂xμ)-m]SF(x;x0)=δ4(x-x0)
を満足します。
自由伝播関数:SF(x;x0)はこれを運動量空間にFourier変換すれば
得られます。
非相対論のG0(x;x0)のケースと同様,SF(x;x0)は(x-x0)
だけの関数ですから,
SF(x;x0)=SF(x-x0)
=(2π)-4∫d4pexp{-ip(x-x0)}SF(p) とおきます。
※(注):pμ=(E,p)の正エネルギー電子なら,
exp{-ip(x-x0)}=exp{-ipμ(x-x0)μ}
=exp{-iE(t-t0)+ip(r-r0)} です。
pμ=(-E,-p)の負エネルギー電子なら
exp{-ip(x-x0)}=exp{-ipμ(x-x0)μ}
=exp{iE(t-t0)-ip(r-r0)}です。(注終わり)※
このFourier運動量表示を,
[iγμ(∂/∂xμ)-m]SF(x;x0)=δ4(x-x0)の左辺に
代入すると,(γμpμ-m)SF(p)=1を得ます。
右辺の1は4×4単位行列です。
これは,Σλ=14[γμpμ-m]αλSFλβ(p)=δαβを意味して
います。
そこで,p2≠m2ならSF(p)=1/(γμpμ-m)
≡(γμpμ-m)-1=(γμpμ+m)/(p2-m2)です。
(※(注):何故なら,(γμpμ-m)(γνpν+m)
=γμγνpμpν+m(γμpμ-γνpν)-m2
=1/2(γμγν+γνγμ)-m2
=gμνpμpν-m2=p2-m2だからです。※)
p2=m2の分母の特異性,つまりp0軸上の特異点:
p0=±(p2+m2)1/2=±Eをどのように処理するか?という
ことが伝播関数を一意的に定義するための条件になります。
非相対論での特異点に対する扱いを思い出すと,この問題に
対する答は,
SF(x-x0)=(2π)-4∫d4p[exp{-ip(x-x0)}SF(p)];
SF(p)=1/(γμpμ-m)(p2≠m2)の右辺を積分する際に,
SF(x-x0)に課せられる境界条件から得られるはずです。
Green関数:SF(x-x0)に与えられる解釈は,"SF(x-x0)
は,点x0にある単位波源がxに生成する波を表わす。"
ということです。
そうした局所化された点源のFourier成分は電子のCompton波長の逆数:m=1/λcよりも大きい多くの運動量pを含んでいます。
※(注):電子のCompton波長はλc=hc/(mc)で,1/λc=mc/hc,
またはp=hc/λc=mcですが,Bjorkenテキストで一貫して
採用しているhc=c=1の自然単位では,p=1/λc=mです。
(注終わり)※
そこで,p≧mなるpの存在から,電子と同様,陽電子もこの
波源x0で生成されると予期されます。
運動量がpμ=(E,p)(E>0)の正エネルギー陽電子に対応
する運動量-pμ=(-E,-p)の負エネルギー電子は運動量
がp=|p|~mのオーダーに到達すれば
(※ Dirac seaからジャンプして空孔(陽電子)を作ることが可能
になるので),振幅が評価できるオーダーになります。
しかし,理論の必要な物理的要請は,x0から未来に向かって伝播
する波は正エネルギー電子と正エネルギー陽電子のFourier成分
のみから成ることです。
正エネルギー電子と正エネルギー陽電子は時間的に正の振動数
の因子exp(-iEt)を持つ波動関数で表現されるので,
SF(x-x0)は未来:x0>x00(t>t0)において正振動数成分
のみ含むことができます。
※(注):例えば,pμ=(E,p)(E>0),
ψ(+)(x)=u(p,s)exp(-ipx)と.
ψc(+)(x)=C{v^(p,s)}Texp(-ipx)がそれぞれ電子と
陽電子の(規格化されていない)波動関数です。
上添字(+)は波動関数(spinor)の正エネルギー(正振動数)
部分,下添字cは荷電共役された波動関数を表わしています。
また,Cは荷電共役(charge conjugation:粒子⇔反粒子)
演算子(このテキストのγ行列の選択ではC=iγ2γ0です。)
u(p,s)は正エネルギー電子の4元スピノル,v(p,s)は
負エネルギー電子の4元スピノルです。
そして,v^(p,s)≡v+(p,s)γ0で{v^(p,s)}Tは
行ベクトルv^(p,s)を転置して列の4元スピノルに戻した
ものです。 (注終わり)※
さて,SF(x-x0)に課せられる境界条件が満たされるように
するため,Fourier4元運動量の積分∫d4p=∫dp0d3pの
うち,複素p0 -平面の閉じた外周(contour)に沿う∫dp0の
積分を実行します。
まず,t>t0に対する∫dp0の複素平面上の周回経路C+は
実軸の積分路∫-∞∞dp0の他には下半平面遠方で閉じている
とします。
ただし,C+は内部に正振動数の極p0=ωp=+(p2+m2)1/2
のみを含み,もう1つの極p0=-ωp=-(p2+m2)1/2を
避けて,積分路(-∞,∞)部分を極の近傍では僅かに曲げた
経路;(-∞,∞)+に変えておきます。
t>t0における伝播関数を,外周C+を用いて,
改めて,SF(x-x0)
≡∫d3p(2π)-3[exp{ip(r-r0)}×∫C+dp0(2π)-1
exp{-ip0(t-t0)}{(γμpμ+m)}/(p2-m2)]と定義します。
すると,Cauchyの留数定理から,SF(x-x0)
=-i∫d3p(2π)-3[exp{ip(r-r0)-iE(t-t0)}
{γE-γp+m)/(2E)}(t>t0);E=ωp
が得られます。
C+=(-∞,∞)++C1と書いて,C1が半径がRの
下半円周を時計まわりに回る経路とすれば,
∫d3p(2π)-3[exp{ip(r-r0)}
∫C1dp0(2π)-1exp{-ip0(t-t0)}{(γμpμ+m)}
/(p2-m2)]はR→∞の極限でゼロに収束します。
(証明は簡単なので略)
したがって,t>t0なら.SF(x-x0)
=-i∫d3p(2π)-3[exp{ip(r-r0)-iE(t-t0)}
{(γ0E-γp+m)/(2E)})} (E=ωp)
=∫d3p(2π)-3[exp{ip(r-r0)}∫+-∞∞dp0(2π)-1
exp{-ip0(t-t0)}{(γμpμ+m)}/(p2-m2)]
です。
同様に,t<t0では∫dp0の積分路を
C-≡(-∞,∞)++C2として積分を実行します。
C2は半径がR=∞の上半円周を反時計まわりに回る
経路です。
そこで,t<t0なら,SF(x-x0)
=-i∫d3p(2π)-3[exp{ip(r-r0)+iE(t-t0)}
{(-γ0E-γp+m)/(2E)} (E=ωp)
=∫d3p(2π)-3[exp{ip(r-r0)}∫--∞∞dp0(2π)-1
exp{-ip0(t-t0)}{(γμpμ+m)}/(p2-m2)]
と書けます。
※(注3):t>t0,t<t0のいずれでも,これらのSF(x-x0)
は確かに(iγμ∂μ-m)SF(x-x0)=0 を満足するので,
(iγμ∂μ-m)SF(x-x0)=δ4(x-x0)と矛盾しません。
また,t=t0 なら,(t-t0)に関する不連続性が存在すると
考えられるので,
(iγμ∂μ-m)SF(x-x0)
=δ3(r-r0)
limt→t0∫-∞∞dp0(2π)-1exp{-ip0(t-t0)}
です。
したがって,これらのSF(x-x0)の表現は確かに,
(iγμ∂μ-m)SF(x-x0)=δ4(x-x0)=δ4(x-x0)
を満たす解となっています。(注3終わり)※
さて,負エネルギー(負振動数)の波は非相対論では無かった
のですが,ここでは不可避です。
本節の前の方の論議から,過去に伝播する負エネルギー電子
の波は未来に伝播する正エネルギー陽電子の波と解釈できる
ので上記の外周積分による伝播関数の定義は好都合です。
他方,遠方で消えるような外周積分路の他の選択では,
負エネルギー波を未来に伝播させるか,または正エネルギー波
を過去に伝播させる境界条件に対応します。
要約します。
正エネルギー波を未来に,負エネルギー波を過去に伝播させる
経路選択:C+=(-∞,∞)++C1 (t>t0),
C-=(-∞,∞)++C2 (t<t0)において,
C1,C2,の積分を無視することから,電子(陽電子)伝播関数
の次のようなFourier運動量積分表現を得ました。
SF(x-x0)
=∫d3p(2π)-3[exp{ip(r-r0)}
∫±-∞∞dp0(2π)-1exp{-ip0(t-t0)}{(γμpμ+m)
/(p2-m2)} です。
こうした,外周C±の選択は,結局,
SF(p)=1/(γμpμ-m)=(γμpμ+m)/(p2-m2)の
分母に微小な正の虚部を付け加えて,
SF(p)=(γμpμ+m)/(p2-m2+iε)とする,
あるいはm2をm2-iεとして積分後にε→+0 の極限を取る
と解釈できます。
こうすれば,結局,
SF(x-x0)=∫d4p(2π)-4exp{-ip(x-x0)}
{(γμpμ+m)/(p2-m2+iε)}
=∫d4p(2π)-4exp{-ip(x-x0)}/(γμpμ-m+iε)
となります。
※(注4):m2をm2-iεとして積分後にε→+0 の極限を取る
のは,p0< 0 では極をp0=-(p2+m2)1/2+iδに,p0> 0
では極をp0=(p2+m2)1/2-iδに平行移動して,積分路
(-∞,∞)±を実軸(-∞,∞)に戻してδ→+0 の極限を取る
ことに相当します。
すなわち,{p0+(p2+m2)1/2-iδ}{p0-(p2+m2)1/2+iδ}
=(p0)2-p2-m2)+2iδ(p2+m2)1/2=p2-m2+iε;
ε≡2δ(p2+m2)1/2です。 (注4終わり)※
ここで,まだまだ,途中なのですが私的な補足事項を書いて
今日の記事を終わりにします。
※(補足1)西島和彦 著「相対論的量子力学」(培風館)より
(Feyman-Stuekerberg理論)
空孔理論では4元運動量がpiの陽電子が4元運動量pfの
状態に散乱された場合,これは負エネルギー状態の-piの孔
が埋まって新たに-pfの孔ができたことになります。
この事象の方向,または順序を考えると,陽電子のpi→pf
なる散乱が,元々孔を埋めていた負エネルギー電子の
(-pf)→(-pi)なる散乱を意味すると思われます。
したがって,既に述べたように陽電子が未来に進むと
負エネルギー電子が過去に進むという見方ができます。
このFeynmanによる見方を正当に定式化するために,
「Stuekerberg(シュティッケルベルク)の因果律」という
仮説を導入します。
Stuekerbergの因果律は元々は場の量子論の言葉で書かれています。
すなわち,ある粒子がp1なる運動量で入射し,外場によって散乱
されてp2なる運動量で出ていったとします。
これは,場の理論の言葉では,"相互作用の結果,運動量p1の
粒子が消滅して運動量p2の粒子が生成された。"といいます。
そして,Stuekerbergの因果律は,"ある粒子の消滅は必ずその粒子
の生成の後で起こる。"というものです。
そして,粒子(実在)というものを次のように定義します。
正エネルギーの電子と正エネルギー陽電子は実在の粒子で
あるが,負エネルギーの海を埋め尽くしている電子は観測
にかからないので,これらは粒子(実在)ではない。
(補足1終わり)※
※(補足2):時間発展のGreen関数=伝播関数(propagator):
G(x;x0)=G(r,t;r0,t0)は,時刻t0にr0にあった
波が時刻tにrにある遷移振幅を表わすものです。
すなわち,便宜上係数iを加えた伝播関数は
iG(x;x0)=<x|x0>=<r,t|r0,t0>なる振幅
を意味します。
|Ψ>を任意の状態とすると,|r0,t0>が完全系で
∫d3r0|r0,t0><r0,t0|=1を満たすなら,1を間に挟んで,
<r,t|Ψ>=∫d3r0<r,t|r0,t0><r0,t0|Ψ>,
または,<x|Ψ>=∫d3r0<x|x0><x0|Ψ>
と表現できます。
これは,<x|Ψ>=<r,t|Ψ>を時間tに依存する
波動関数:ψ(x)=ψ(r,t)と考えて,式:
iG(x;x0)=iG(r,t;r0,t0)=<r,t|r0,t0>
を用いると,
ψ(r,t) =i∫d3r0G(r,t;r0,t0)ψ(r0,t0),
またはψ(x) =i∫d3r0G(x;x0)ψ(x0)
と書けます。
場の量子論では,真空を|0>とし粒子場をψ^(x)=ψ^(r,t)
とすると,|x>=ψ^+(x)|0>ですから,
iG(x;x0)=<x|x0>=<0|ψ^(x)ψ^+(x0)|0>
です。
そこで,例えば|Φ>が粒子場ψ^に対応する1粒子状態なら
波動関数は,φ(x)≡<x|Φ>=<0|ψ^(x)|Φ>
となります。
特に,運動量がpの1粒子状態を|p>と書くとスカラー場
なら波動関数は,φp(x)≡<x|p>
=<0|ψ^(x)|p>=cexp(-ipx) です。
1粒子状態というのは全宇宙にただ1つ単独粒子があること
を意味しますから,相互作用する相手が全く無いので何も前提
を述べなくても自由粒子に決まっています。(Newtonの第一法則)
1粒子状態は,高々自由粒子の重ね合わせの純粋状態に
過ぎませんが,場の理論というのは裸の粒子が自分自身
との相互作用で衣を着ることもあるので単細胞の私には
ついていけないところもありますネ。
(例えばcexp(-ipx)の規格化定数cが∞になったりします。)
(※まあ,実際に我々が状態を考える対象は宇宙全体ではなく,
実験室の中とそれ以外を分離して実験室の中だけの部分系を想定
して,そこでの真空とか1粒子状態とかを考察するのですが,
理想的には宇宙全体を1状態と考えるべきでしょう。)
ところで,通常の非相対論では波はt<t0の過去には伝播
できないのでt<t0なら<x|x0>=0 です。(ただし
"光=電磁波"には過去に伝播する先進波が有りますが,
元々光は相対論的存在です。)
そこで,非相対論的電子では,
iG(x;x0)=θ(t-t0)<0|ψ^(x)ψ^+(x0)|0>ですが,
相対論的電子では粒子場ψ^(x)は電子を消滅させ陽電子
を生成します。
一方,ψ^+(x)は電子を生成し陽電子を消滅させます。
つまり,電子(陽電子)の場はb^+,b^を電子の生成消滅演算子,
d^+,d^を陽電子の生成消滅演算子として.
ψ^(x)=Σs=±∫d3p(2π)-3/2(m/Ep)1/2
[b^(p,s)u(p,s)exp(-ipx)+d^+(p,s)v(p,s)
exp(ipx)]のように表現されます。
故に,ψ^+(x)
=Σs=±∫d3p(2π)-3/2(m/Ep)1/2[b^+(p,s)u^(p,s)
exp(ipx)+d^(p,s)v^(p,s)exp(-ipx)]
です。
場の量子論の定式化では,b^|0>=d^|0>=0 ですから,
真空:|0>を負エネルギー電子の海であると考える必要はなく,
Dirac空孔理論のような仮説は不要となります。
しかも,場の量子論の定式化ではPauliの排他原理が成立しない
ため空孔理論の適用外であった Bose粒子の場も粒子,反粒子が
共存する理論の構成が可能です。
電子に戻ると,ψ^+(x)|0>は電子だけを生成し,ψ^(x)|0>
は陽電子だけを生成しますから,<0|ψ^(x)ψ^+(x0)|0>は
電子のみの振幅であり,他方<0|ψ^+(x0)ψ^(x)|0>
は陽電子のみの振幅です。
(※元々,量子論の演算子積の順序には蓋然性があります。
例えば,xp,px,(xp+px)/2は古典論では同じ量ですが
量子論ではこれらはそれぞれ異なる量です。)
そこで,電子の場合は伝播関数:G(x;x0)をSF'(x;x0)と書けば,
iSF'(x;x0)=θ(t-t0)<0|ψ^(x)ψ^+(x0)|0>
-θ(t0-t)<0|ψ^+(x0)ψ^(x)|0> と書けます。
時間順序積(T積:T-product)を,T(ψ^(x)ψ^+(x0))
≡θ(t-t0)ψ^(x)ψ^+(x0)-θ(t0-t)ψ^+(x0)ψ^(x)
で定義すれば,iSF'(x;x0)=<0|T(ψ^(x)ψ^+(x0))|0>
とも書けます。
第2項に符号(-)があるのは,電子がFermi統計に従うためで
Bose粒子のT積なら第2項の符号(-)は不要です。
(PS:ψ^(x)はスピノルですから本当は,
<0|T(ψα^(x)ψβ^+(x0))|0>etc.と書くべきでした。)
参考文献:J.D.Bjorken & S.D.Drell
"Relativistic Quantum Mechanics",
"Relativistic Quantum Fields"(McGraw-Hill),
西島和彦 著「相対論的量子力学」(培風館)
PS:せっかくの神様がくれた?休息期間なのに無駄に過ごしている
バカ野郎だな。オレは。。
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