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2010年5月30日 (日)

散乱の伝播関数の理論(8)

散乱の伝播関数の理論の続きです。

 

すぐ後で必要となるので,自由粒子のDirac方程式:

(μμ-m)Ψ(x)=0 の一般解Ψ(x)の導出過程を

復習します。

 

2行2列のPauliのスピン行列をσ=(σ123)とします。

また,同じく2×2行列ですが単位行列を2とします。

 です。

 

 Pauli行列の主要な性質として,交換関係:[σij]

 ≡σiσj-σjσi=2iεijkσk,および,

 反交換関係:{σij}≡σiσj+σjσi=2δij

 が成立する,ということがあります。

 

 ただし,[A,B]≡AB-BA,{A,B}≡AB+BAです。

 

 4行4列の行列:βを2つの2×2対角細胞が2,-2

 非対角細胞が02の対角細胞型行列とします。

 

また,4行4列の行列ベクトル:α=(α123)を対角成分

02で,2つの非対角成分が共にσ=(σ123)である行列

とします。

 

容易にわかるように,{αij}=αiαj+αjαi=2δij,

i,β}=αiβ+βαi=0,β2=1です。

 

そこで,γ0≡β,γ≡βα,or (γ123)≡(βα1,βα2,βα3)

なる表示を採用すると,これらの{γμ}μ=0,1,2,3は確かにDirac行列

が満たすべき条件:{γμν}=2gμνを満足します。

  

 

ただし,Minkowski計量(metric)としては,g00=1,g0i=0,

ij=-δijを採用しています。

 

Dirac方程式(μμ-m)Ψ(x)=0 の解である波動関数

(Dirac-spinor):Ψ(x)は4行1列の縦ベクトルです。

 

(※ 余談ですが,世界がd次元のMinkowski時空なら,その時空で

Dirac-spinor(スピノール)は,2成分-spinorの(d/2)個の直積

(=tensot:テンソル)で与えられるため,その次数は,2d/2 です。)

 

このDirac方程式の変数分離解をΨ(x)=w()exp(-ipx)と

書けば,w()も4元spinorで,方程式:(γμμ-m)w()=0

を満足します。

 

粒子の4元運動量は自然単位でpμ=(E,)ですが,特に粒子と

共に運動していて,粒子が静止している(=0)と見える"運動座

標系=静止系"S0では,pμ=(E,)=p0μ≡(±m,0)です。

 

(↑ ※0μ=(±m,0)として,負の静止エネルギー:E=-mの解

も捨てず,率直に独立解として採用するのがミソです。)

 

このS0系での変数分離解は,p0μ=(±m,0)の±に応じて,

Ψ0(x)=(0)exp(-imt),または,Ψ0(x)=(0)exp(imt)

です。

 

そこで,(μμ-m)Ψ(x)=0;Ψ(x)=w()exp(-ipx)

による(γμμ-m)w()=0 は,p00=mならγ0w(0)=w(0),

00=-mならγ0w(0)=-w(0) です。

 

したがって,静止系での変数分離解Ψ0(x)は,γ0±(0)=±w±(0)

(複号同順)を満たすγ0の2つの独立な固有ベクトルw±(0)を用いて

 

Ψ0(x)=w+(0)exp(-imt),および,

Ψ0(x)=w(0)exp(imt) と表わされます。

 

γ0の固有ベクトルw±(0)のうち,固有値+1の固有ベクトル:

+(0)は,t(1,0,0,0),t(0,1,0,0)の1次結合で与えられます。

 

また,固有値が-1の固有ベクトルw(-)(0)は,t(0,0,1,0),

t(0,0,0,1)の1次結合です。

 

そこで,独立な4つを改めて,w(1)(0)≡t(1,0,0,0),

(2)(0)≡t(0,1,0,0),w(3)(0)≡t(0,0,1,0),

(4)(0)≡t(0,0,1,0) と定義します。

 

すると,静止系での4つの独立解は,

ψ0(r)(x)=w(r)(0)exp(-iεrmt)(r=1,2,3,4)

で与えられることになります。

 

ただし,符号関数εrは,εr≡1 (r=1,2),εr≡-1 (r=3,4)

で定義されます。

 

したがって,静止系での自由粒子の一般解Ψ0(x)は,Ψ0(r)(x)の

1次結合で表わせます。

 

一方,Lorentz変換(4次元回転):x'μ=aμνν,

または略記法でx'=axに伴なう波動関数のLorentz回転:

 

Ψ'α(x')=Ψ'α(ax)≡Sαβ(a)Ψβ(x) (成分表記)

 

または,Ψ'(x')=Ψ'(ax)=S(a)Ψ(x) (行列表記)

 

を考えます

 

x'=ax より,その逆変換:-1対しx=a-1x'ですから,

Ψ'(x')=S(a)Ψ(a-1x'),つまり,

Ψ'(x)=S(a)Ψ(a-1x)です。

 

他方,Ψ(x)=S(a-1)Ψ'(ax),Ψ(x)=S-1(a)Ψ'(ax)より,

S(a-1)=S-1(a)なる関係が成立することがわかります。

 

また,∂/∂xμ(∂x'ν/∂xμ)(∂/∂x'ν)ですから,

x'ν=aνμμより.∂μνμ∂'νです。

 

そこで,Dirac方程式:(μμ-m)Ψ(x)=0 にx=a-1x',

および,Ψ(x)=S-1(a)Ψ'(x')を代入して,左からS(a)を

掛けると,[iS(a)γμ-1(a)νμ∂'ν-m]Ψ'(x')=0

を得ます。

 

それ故,νμS(a)γμ-1(a)=γν,つまり,

νμγμ=S-1(a)γνS(a)であれば,

上式は(ν∂'ν-m)Ψ'(x')=0 となって,

方程式が相対論的に共変(covariant)になります。

 

特に,μνμν+Δωμν;Δωνμ=-Δωμνと書けて,

Δωμν微小の場合の微小Lorents変換を考えます。

 

これに対する4×4変換行列S(a)をΔωμνの1次まで展開して

1次係数行列を,-(i/4)σμνと表現すれば,

S(a)=1-(i/4)σμνΔωμν+O(Δω2) です。

 

今のところ,σμνは未知の4次行列ですが,以下でそれを具体的に

決定します。

 

(Δω2)が無視できる無限小変換では,

S(a)=1-(i/4)σμνΔωμν,

-1(a)=1+(i/4)σμνΔωμνより,

 

μνγν=S-1(a)γμS(a)は,

Δωμνγν=-(i/4)Δωαβμσαβ-σαβγμ)

となります。

 

ここで,Δωμνγν=gμαΔωανγν

=gμαΔωαββνγν=gμαΔωαβγβ

=gμβΔωβαγαにより,

 

Δωμνγν=(1/2)(gμαΔωαβγβ+gμβΔωβαγα)

=(1/2)Δωαβ(gμαΔγβ-gμβγα) を得ます。

 

故に,(1/2)Δωαβ(gμαΔγβ-gμβγα)

=-(i/4)Δωαβμσαβ-σαβγμ)ですから,

2i(gμαΔγβ-gμβγα)=[γμαβ] です。

 

結局,無限小変換では,S(a)=1-(i/4)σμνΔωμν;

σμν=(i/2)[γμν]であることがわかります。

 

さて,無限小ではなく一般の有限なLorentz変換を上記の無限小

変換を継続的に無限回反復した結果として評価するため,Δωμν

をΔωμν≡Δω(In)μνと表現します。

 

ただし,Δωは軸:のまわりの無限小Lorentz回転の回転角を表わす

無限小パラメータとし,Inはこの軸についての単位Lorentz回転を

示す4×4行列とします。

 

(注):3次元空間の回転なら,例えばz軸の回りのxy平面上の

 角度φの回転なら,

 x'=xcosφ-ysinφ,y'=xsinφ+ycosφ,z'=z

 です。

 

これはφが無限小回転角:Δφなら,

x'=x-yΔφ,y'=xΔφ+y,z'=zですから,

 

行列形では,t(x',y',z')=t(x,y,z)+Δφt(―y,x,0)

={1+Δφ(Iz)}t(x,y,z) と書けます。

 

これによって,3次元の場合の対応する3×3行列Izを定義します。

 

ただし,t(x,y,z)は行ベクトル(x,y,z)の転置(transport)

である縦ベクトルを意味します。

 

同様に,x軸,y軸のまわりの回転に対する3×3行列Ix,Iy

定義できます。(注終わり)※

 

さて,Δωμν=Δω(In)μν,Δω≡ω/Nとして,

Δω回転のN回の反復でωになる変換を考えます。

 

刻みNが無限大の極限では,

μν=lim N→∞ Πn=1N{1+(ω/N)In}μν

={exp(ωIn)}μν,またはxμ=aμνν

={exp(ωIn)}μνν

が得られます。

 

そして,これに伴なうspinorの変換は,

S(a)αβ={1-(i/4)Δω(σμνnμν)}αβより,

Δωが一般の有限の角度ωなら,

 

S(a)αβ=exp{-(i/4)ω(σμνnμν)}αβ

= exp{-(1/8)ω[γμν]Inμν}αβ  です。

 

特に,x軸に沿って無限小の速度Δv=Δβ=Δωで運動する

座標系への無限小変換は,

x'0=x0-Δβx1,x'1=x1-Δβx0

です。

 

そこで,Lorentz変換:μνμν+Δωμν;Δωνμ=-Δωμν

では,Δω01=Δω10=-Δβ以外の全てのΔωμνはゼロです。

 

この場合,有限変換ではx'μ={exp(ωIn)}μννであり,

x'0=x0coshω-x1sinhω,x'1=x1coshω-x0sinhω,

x'2=x2,x'3=x3 と書けます。

 

これに対応するLorentz変換は相対速度がv=β=tanhωの変換

です。

 

このとき,coshω=1/(1-β2)1/2,sinhω=β/(1-β2)1/2です。

 

よって,確かに無限小変換ではΔβ=Δωを満たしています。

 

さて,spinorの無限小変換はΔω01=-Δω10=Δω=Δβなので,

S(a)=1-(i/4)σμνΔωμνは,S(a)=1-(iΔω/2)σ01で,

σ01=(i/2)[γ01]=iγ0γ1=-iγ0γ1=-iβ2α1=-iα1

です。

 

それ故,S(a)=1-Δωα1/2です。

 

有限変換では,(α1)2=1ですからS(a)=exp(-ωα1/2)

=cosh(ω/2)-α1sinh(ω/2)です。

 

そして,系Sで粒子が速度v=βで運動することは,粒子に対して

静止しているS0系に対し系Sが相対速度-v=-βで運動する

ことに同等です

 

したがって,静止系S0でpμ(m,0)の正エネルギー粒子がS0

対して相対速度-v=-βで運動するS系では,

 

x'0=x0coshω-x1sinhω,x'1=x1coshω-x0sinhω,

x'2=x2,x'3=x3 に対応して,

 

μ=(E,)なる表示で,E=mcoshω,p1=-msinhω,

2=p3=0 なので,β=-tanhω=p/Eです。

 

ただし,p=||=p1です。

 

故に,tanhω=-p/Eにより,tanh(ω/2)=-p/(E+m),

cosh(ω/2)={(E+m)/(2m)}1/2を得ます。

 

一方,静止系S0でpμ(-m,0)の負エネルギー粒子がS0に対し

相対速度-βで運動するS系では,

 

μ=(-E,-)(E>0)なるエネルギー表示で,

tanh(ω/2)=p/(-E+m)=-p/(E-m),

cosh(ω/2)={(E-m)/(2m)}1/2 です。

 

以上から,自由粒子波動関数の4つの独立な解は,

Ψ(r)(x)=w(r)()exp(-iεrpx),

(r)()=S(a)w(r)(0)

={cosh(ω/2)-α1sinh(ω/2)}w(r)(0)

であり,

 

(1)(0)≡t(1,0,0,0),w(2)(0)≡t(0,1,0,0),

(3)(0)≡t(0,0,1,0),w(4)(0)≡t(0,0,1,0)

 

であることがわかりました。

 

Pending・・・

 

(参考文献):J.D.Bjorken & S.D.Drell "Relativistic Quantum Mechanics" (McGraw-Hill)

 

(後記):この記事がPendingになっているのを,長期間,

うっかりして忘れていました。続きは別記事にします。

 

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