散乱の伝播関数の理論(12)(応用1-2)
散乱の伝播関数の理論の続きです。
ついでに陽電子のCoulomb散乱を手短かに書いておきます。
§7.3 Coulomb Scattering of Positrons(陽電子のCoulomb散乱)
Coulombポテンシャルによる陽電子の散乱に対する遷移行列要素の
計算は電子の散乱のそれに同様です。
まず,Sfi=ie∫d4xψf~(x)A(x)Ψi(x)(f≠i);
A(x)≡γμAμ(x)です。
ただしe<0 は前と同じく電子の電荷です。
この場合,入射状態:Ψi(x)は,未来にあって時間的に後退して運動
する(過去に向かって伝播する)4元運動量:-pfを持った負エネル
ギー電子と解釈します。(※負エネルギー電子の抜けた空孔は未来
へ伝播)
よって.最低次のΨi(x)を示す自由平面波は,
ψi(x)≡{m/(EfV)}1/2v(pf,sf)exp(+ipfx)
であるとします。
同様に,出て行く方の状態は過去へ伝播する負エネルギー状態です
から,ψf(x)≡{m/(EiV)}1/2v(pi,si)exp(+ipix)です。
これは散乱前には,運動量:piのとスピン偏極:siを持っていた
"入射陽電子=空孔(Hole)"を表わしています。
Coulombポテンシャル:A0(x)=A0(x)=-Ze/(4πε0|r|),
A(x)=0 を代入すると,
最低次では,
Sfi={-iZe2/(4πε0V)}{m2/(EiEf)}1/2
v~(pi,si)γ0v(pf,sf)∫d4x[exp{i(pf-pi)x}/|r|]
なる式を得ます。
これから,Sfi={-iZe2m/(ε0V)}(EiEf)-1/2
[v~(pi,si)γ0v(pf,sf)/|q|2]2πδ(Ef-Ei)
です。
荷電共役不変性(charge conjugation invariance:
粒子-反粒子対称性)から,このオーダーでは計算は電子に対する
ものと,ほぼ同様です。
すなわち,最低次では,
Sfi ~ +ie∫d4xψci~(x)A(x)ψcf(x)
=-ie∫d4xψfT(x)C^-1A(x)C^ψi~T(x)
=+ie∫d4xψf~(x)A(x)ψi(x);
ψc(x)=Cγ0ψ+(x)です。
そして,今採用しているBjorken-DrellのテキストのJガンマ行列の
表示では,C=iγ2γ0=-C-1=-CTです。
そこで,この近似での陽電子の散乱の微分断面積は,
dσ/dΩ=(4Z2α2m2/|q|4)|v~(pi,si)γ0v(pf,sf)|2
です。
さらに終状態のスピンで総和し,始状態スピンで平均すると,
dσ/dΩ=(2Z2α2m2/|q|4)Σ±sf,±si|
v~(pi,si)γ0v(pf,sf)|2
={Z2α2/(2|q|4)Tr[γ0(pf-m)γ0(pi-m)]
です。
結局,陽電子散乱は電子散乱の式:
dσ/dΩ={Z2α2/(2|q|4)Tr[γ0(pi+m)γ0(pf+m)]
でmを-mにしたものに一致します。
したがって,散乱の微分断面積は電子と全く同じで,
dσ/dΩ={Z2α2/(4E2|q|4)}{1-β2sin2(θ/2)}
={Z2α2/(4|p|2β22sin4(θ/2))}{1-β2sin2(θ/2)}
です。
最低次での散乱は静電Coulombポテンシャルが引力であるか斥力
であるかには無関係であることがわかります。
ところが,上図7.2の電子の散乱diagramsのように,もしも左の1次
(最低次)のdiagramに加えて,右の2次のdiagramの寄与をも考慮し
たときには,
Sfi への1次の項が電荷に比例するのに対し,2次の項は電荷の
2乗に比例するため,1次の項に対する2次の項の相対的符号は,
電子と陽電子では反対になります。
そして,各々の散乱の微分断面積は,
R=|Sfi|2Vd3pf/{(2π)3T}に比例しますが,その因子:
|Sfi|2のSfi は1次の寄与と2次の寄与の和として出現する
ため,高次近似まで考慮すると,"結果が,引力であるか斥力で
あるかに無関係"という命題は正しくありません。
※(注12-2):Sfi電子=(-i)(eA+e2B)=-ie(A+eB),
Sfi陽電子=(-i){-eA+(-e)2B}=ie(A-eB)(e<0)
であれば,|Sfi|2=Sfi*Sfiなので2次まで考慮すると一致
しません。
S行列のユニタリ性の議論からも,SfiはSfi=δfi+iTfi,
Tfi はHermite(実数)なる形と推論されます。(注12-1終わり)※
しかし,任意のFeynman-diagramの寄与の計算おいて,電子と陽電子
の間でpi⇔-pf とすればいいという簡単な置換ルールがあります。
これは,ここまで展開してきた伝播関数理論と密接に結びついて
います。
今日はここまでにします。
参考文献: J.D.Bjorken & S.D.Drell"Relativistic Quantum Mechanics"(McGrawHill)
PS:今日(6/15)も夜は手話講習会に行ってきました。
手話は,ただ聴いて(見て)いるだけでは身に付かないので,毎回教室
の生徒全員が順に皆の前であいさつ,自分の名前とか家族構成,生年
月日,出身地,身長などを身振り,手振りでやらされるのですが。。
私は,何故か人一倍覚えが悪くて仕草も滑稽で下手なせいなのか?
このごろは順番がまわって出る直前から,かなり失笑が湧いて。。
イヤ楽しいですネ,笑われるのは。。。
(休み時間に大笑いしたコに謝られました??)
別に笑いを取ろうとしているのでなく,手話なのでシャベルわけ
でもなく,恐らく天然らしいのですがネ。。
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