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2010年6月20日 (日)

散乱の伝播関数の理論(14)(応用2-2)

 散乱の伝播関数の理論(13)の残りです。

 

 まず,前回の最後の部分を再掲します。

 

散乱断面積は.

dσ=m22/{(pii)-m22}1/2|fi|2(2π)4

δ4(Pf-Pi+pf-pi)(2π)-3(d3f/Ef)(2π)-3(d3f/Epf)

と書けます。

 

右辺の個々の因子は非常に一般的な要因によるものです。

 

そして規格化に用いた箱の体積Vは結局相殺して消えてしまい

ました。 

 

この特殊例だけでなく以後に出現する計算例でも同じなので,以下

では基本的にこうした因子の現われる理由の詳細をいちいち挙げる

ことは省略します。

 

さて,前回の続きです。

 

今は正面衝突する散乱を想定していますが,もしもビームが同一

直線上にあるとは限らない状況なら,単位時間当たりの遷移事象

の数Nを直接考えるのが便利です。

 

すなわち,単位時間当たりにに全運動量空間へと散乱される事象

総数は,dN/dt=∫d3ρe(,t)ρp(,t)

∫m22/(Eipi)|fi|2(2π)4δ4(Pf-Pi+pf-pi)

(2π)-3(d3f/Ef)(2π)-3(d3f/Epf)

なる表現で与えられます。

 

ちょっと脇へそれましたが,また散乱実験の話に戻ります。

 

当面の散乱問題では,入射ビームは同一直線上にあるので,断面積は

dσ=m22/{(pii)-m22}1/2|fi|2(2π)4

δ4(Pf-Pi+pf-pi)(2π)-3(d3f/Ef)(2π)-3(d3f/Epf)

で与えられます。

 

前に定義した不変振幅は,

fi≡[u~(pf,sfμu(pi,si)]{e2ε0-1/(q2+iε)}

[u~(Pf,Sfμu(Pi,Si)]ですが,

 

spinを特定しない実験の非偏極断面の積を求めるため,この不変

振幅において,終状態粒子のspin状態についての総和を初期-spin

で平均します。

 

すなわち,非偏極不変振幅は,

|fi|2=1/4Σsf,siΣSf,Si|[u~(pf,sfμu(pi,si)]

{e2/(q2+iε)}[u~(Pf,Sfμu(Pi,Si)]|2

となります。

 

これは,結局,

|fi|2=[e4/{64m2202)2}]

Tr(f+m)γμ(i+m)γνTr(f+M)γμ(i+M)γν

と書けます。

 

(注14-1):(証明):

 |[u~(pf,sfμu(pi,si)][u~(Pf,Sfμu(Pi,Si)]|2

 =[u~(pf,sfμu(pi,si)][u~(Pf,Sfμu(Pi,Si)]

 [u~(Pi,Siν~u(Pf,Sf)][u~(pi,siν~u(pf,sf)],

 

 そしてγν~=γνν~=γν です。

 

 6/14の記事「散乱の伝播関数の理論(11)(応用1-1)

 と同様な方法で,

 

 Σ±sf,±si[u~(pf,sfμu(pi,si)]

 [u~(pi,siνu(pf,sf)]

 =Σ±sf,±siΣα,βΣλ,σ[u~α(pf,sfμαββ(pi,si)]

 [u+λ(pi,siνλσσ(pf,sf)]

 =[Σα,σμ(i+m)γν}ασ(i+m)σα]/(4m2)

 =Tr(f+m)γμ(i+m)γν/(4m2)

 

 を得ます。

 

 同様に,Σ±sf,±si[u~(Pf,Sfμu(Pi,Si)]

 [u~(Pi,Siνu(Pf,Sf)]

 =Tr(f+M)γμ(i+M)γν/(4M2)です。(証明終わり)

 

(注14-1終わり)※

 

 そして,Tr(f+m)γμ(i+m)γν

 =Tr(fγμiγν)+m2Tr(γμγν)

 =4[pfμiν+pfνiμ-gμν(pfi-m2)] です。

 

 同様に,Tr(f+M)γμ(i+M)γν

 =4[P+P-gμν(Pfi-M2)] です。

 

 以上から,|fi|2=[e4/{4m2202)2}]

 [pfμiν+pfνiμ-gμν(pfi-m2)]

 [P+P-gμν(Pfi-M2)]

 

 =[e4/{2m22(q2)2}][(Pff)(Pii)+(Pfi)(Pif)

 -m2(Pfi)-M2(pfi)+2M22]

 を得ます。

 

これを,dσ=m22/{(pii)-m22}1/2|fi|2(2π)4

δ4(Pf-Pi+pf-pi)(2π)-33f/Ef(2π)-3(d3f/Epf)

に代入すれば,微分断面積が具体的に得られます。

 

さて,有用な結果を得るために,初期陽子が静止している実験室系を

準拠系としてdσを評価計算します。

 

つまり,Pi=(M,0),pi=(E,),pf=(E',')

とします。

 

初期の標的陽子を原点として,極角θのまわりの微小立体角dΩ'

出現する散乱電子に対する微分断面積を求めるために,dσに

対し位相空間積分を実行します。

 

まず,(d3f/Epf)積分において,

公式:d3/(2E)=∫0dp0δ(p2-m2)d3

=∫-∞4θ(p0)δ(p2-m2);E=(2+m2)1/2

を使用し,

 

3f/Efをd3'/E'=p'2dp'dΩ'/E'=p'dE'dΩ'

と書きます。ただしp'≡|'|です。

 

すると,dσ=m22/{(pii)2-m22}1/2|fi|2(2π)4

δ4(Pf-Pi+pf-pi)(2π)-3(d3f/Ef)(2π)-3(d3f/Epf)

=2(2π)-22M(E2-m2)-1/2p'dE'dΩ'd4f

|fi|2θ(Pf04(Pf-Pi+pf-pi)δ(Pf2-M2)

となります。

 

そこで,dσ/dΩ={m2M/(2π2||)}

∫dE'p'|fi|2(Pf=Pi+p-p')θ(M+E-E')

δ((M+E-E')2-(')2-M2)

={m2M/(2π2p)}∫mM+EdE'p'|fi|2(Pf=Pi+p-p')

δ(-2(M+E)E'+2ME+2m2+2pp')

を得ます。ただし,p≡||です。

 

結局,dσ/dΩ={m2Mp'/(4π2p)}|fi|2(Pf=Pi+p-p')

{M+E+d('/dE')}-1

={m2Mp'/(4π2p)}|fi|2(Pf=Pi+p-p')

(M+E+pE'cosθ/p')-1 を得ます。

 

ただし,δ関数因子δ(-2(M+E)E'+2ME+2m2+2pp')

によってE'(M+E)-pp'=ME+m2 なる拘束があります。

 

|fi|2=[e4/{2m2202)2}]

[(Pff)(Pii)+(Pfi)(Pif)-m2(Pfi)

-M2(pfi)+2M22] の変形を考えます。

 

f=Pi+pi-pfを代入すると,

(Pff)(Pii)+(Pfi)(Pif)-m2(Pfi)

-M2(pfi)+2M22

={(Pif)+(pif)-m2}(Pii)

+{(Pii)+m2-(pif)}(Pif)-m2{M2+(Pii)-(Pif)}

-M2(pfi)+2M22) です。

 

故に,|fi|2=[e4/{2m2202)2}]

[2(Pif)(Pii)+(pif){(Pii)-(Pif)-M2}

+2m2{(Pif)-(Pii)}+M22]

を得ます。

 

微細構造定数(structure constant)α≡e2/(4πε0)~1/137による

表現を用いると,

 

|fi|2=[8π2α2/{m22(q2)2}]

[2(Pif)(Pii)+(pif){(Pii)-(Pif)-M2}

+2m2{(Pif)-(Pii)}+M22] です。

 

特に,今の実験室系:Pi(M,0),pi=(E,),pf=(E',')

の場合なら,

 

2(Pif)(Pii)+(pif){(Pii)-(Pif)-M2}

+2m2{(Pif)-(Pii)}+M22

=2M2EE'-M(E'-E+M)(EE'-pp')

+Mm2{2(E'-E)+M} です。

 

さらに,陽子の質量Mに比較して電子質量mは小さいので,Mの項と

比べてmを因子とする極端に小さいオーダーの項を無視します。

 

すると,mに比べてE,Eが大きいときには,p~E,p'~E'

より,EE'-pp'=EE'(1-ββ'cosθ) ~ EE'(1-cosθ)

=2EE'sin2(θ/2) と書けます。

 

故に,2M2EE'-M(E'-E+M)(EE'-pp')

+Mm2{2(E'-E)+M}

~ 2M2EE'+M(E-E'-M)(EE'-pp')

 

~ M2EE'[2+(1-cosθ){(E-E')/M-1}

=2M2EE'[cos2(θ/2)-{q2/(2M)}sin2(θ/2)]

です。

 

ここで,2=(pf-pi)2=(p'-p)2

=2m2-2(EE'-pp')~-2(EE'-pp')

=-2EE'(1-ββ'cosθ) ~ -2EE'(1-cosθ)

=-4EE'sin2(θ/2),および,

 

保存則E'(M+E)-pp'=ME+m2から,

M(E-E')~EE'-pp'=-q2/2 を用いました。

 

たがって,|fi|2=[8π2α2/{m22(q2)2}]

[2(Pif)(Pii)+(pif){(Pii)-(Pif)-M2}

+2m2{(Pif)-(Pii)}+M22]から,

 

|fi|2=[π2α2/{m2EE'sin4(θ/2)}]

[cos2(θ/2)-{q2/(2M)}sin2(θ/2)]

が得られました。  

 

保存則E'(M+E)-pp'=ME+m2から,E'を評価します。

 

E'(M+E)-EE'cosθ~ MEより,

E'~ E/{1+E(1-cosθ)/M}

=E/|1+(2E/M)sin2(θ/2)} です。

 

そこで,dσ/dΩ

={m2Mp'/(4π2p)}|fi|2/(M+E+pE'cosθ/p')の分母は,

 

E/Mの2次以上を無視して,

M+E+Ecosθ/|1+E(1-cosθ)/M}

=(M+E)/|1+E(1-cosθ)/M}+E

~ M/|1+(2E/M)sin2(θ/2)} と近似できます。

 

したがって,

dσ/dΩ={m2Mp'/(4π2p)}|fi|2/(M+E+pE'cosθ/p')

は,dσ/dΩ={m2/(4π2)}|fi|2/|1+(2E/M)sin2(θ/2)}

と書けます。

 

結局,最終形は,

dσ/dΩ

=(α2/4E2)[cos2(θ/2)-{q2/(2M)}sin2(θ/2)]/[sin4(θ/2)

{1+(2E/M)sin2(θ/2)}]

です。

 

/M<<1の遅い電子(運動エネルギーが小さい電子)では,

(E/M)を1と比較して無視し,E'~Eとすることで,

微分断面積:

dσ/dΩ={m2Mp'/(4π2p)}|fi|2/(M+E+pE'cosθ/p')

はdσ/dΩ~{m2/(4π2)}|fi|2

と近似されます。

 

このときは,陽子の反跳が無視され,

散乱の伝播関数の理論(11)(応用1-1)」で詳述した,

 

電子のCoulomb散乱のMott散乱の公式:

dσ/dΩ={α2/(2||4)(8Eif-4pif+4m2)

={α22/(4||4)}{1-β2sin2(θ/2)}

={α2/(4||2β2sin4(θ/2)}{1-β2sin2(θ/2)}

に帰着します。(詳細は省略します。)

 

短いですが,今日はここまでにします。

 

参考文献: J.D.Bjorken & S.D.Drell“Relativistic Quantum Mechanics”(McGraw-Hill)

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