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2010年6月 2日 (水)

磁性の古典論

 科学記事についてはちょっと一息入れます。

 

とはいっても,避けては通れない歴史的話題です。

詳しく勉強したことがなくて得意とはいえない分野の話です。

 

さて,電場と磁場(磁束密度),および,その中を速度

運動する電荷qがある系では,電荷qがまわりの電場,磁場

によって受ける力は,=q(×)です。

電場がない特別な場合を考えると,受ける力は単に

"磁気力=Lorentzの力":=q×です。

 

そこで,ある物体の微小体積ΔVの中にこの電荷qを持つ

nΔV個のキャリア(carrier)があって,この中では電荷の

運動速度が一定なら,ΔVが全体として受ける力Δは,

Δ=nq(×)ΔVです。

nは電荷がqのキャリアの数密度を意味しますから,

(nq)電荷密度,(nq)は電流密度:を表わすため,

結局,この磁気力は,Δ(×)ΔVと書けます。

もしも,ΔVが断面積S,長さΔlの導線ならΔV=SΔl

ですから,ΔV=SΔlとなります。

 

導線の微小な断面積Sの上では電流密度の大きさも向きも

一様なら,この導線を流れる電流(※導線の任意断面を単位時間

に通過する全電荷)は,=∫SdS=Sで与えられます。

結局=(×)ΔV=(×)SΔl=(×)Δl

です。

ここで注目すべきことの1つは,キャリアの電荷qの符号

の正負を決めてないことです。

 

つまり,受ける磁気力Δは電流の向きには依存しますが,

電流の源である電荷の符号の正負には依存しません。

 

したがって,磁力の向きを測ることだけから電流のキャリア電荷

の符号は決定できませんね。

 

(※PS:ちなみに,ホール効果(Hall effect)を測定すればキャリア

が正か負かの符号を決定できるはずです。)

さて,ある微小回路(circuit)C上を流れる定常電流が存在

して,これが外部磁場の影響を受けている場合を想定します。

特にCの内部が面積Aの平面領域を構成すると仮定してこの

平面上Cの内側に原点Oを取り,をC上の点の位置ベクトル

としてにおける電流を()と表記すれば,ループ電流に

働く力は,∫C=∫C{(}dsです。

ただしds=|d|です。

ところが,電流()は大きさIが一定で向きは線素の向き

と同じですから,()ds=Idと書けます。

 

故に,d=I(d×)-I(×d)であり,合力は

=∫C=-I∫C(×d)です。

さらに,電流が流れているループCが微小でC上では外部磁場

が一定と見なせるなら,

回路に働く合力:Fは,=-I×∫C=0 です。

しかし,微小回路Cは面積Aを囲むループであって完全な点では

ないので,回路に働く力:=∫Cはゼロでも,"トルク(torque)

=力のモーメント":τ=∫C×dは偶力のような形で存在して

ゼロでない可能性があります。

 実際,磁場が存在するときに,電流がIの微小回路Cでは,

 τ=∫C×d=-I∫C×(×d)です。

 公式:×(×)=(AC)-(AB)より,

×(×d)=()-(rB)dですが,

=0ですから,τ=I∫C(rB)dr を得ます。

ところで,に依らない場合,

d{(rB)}(rB)+()

なる式が成立します。

 

これと,恒等式:(×=(rB)-()

を辺々加え合わせると,

d{(rB)}+(×=2(rB)r です。

この式の左辺:{(rB)}をC上で積分するとゼロですから,

これを利用すると,∫C(rB)d=(1/2)∫C(×

を得ます。

 

故に,τ=I∫C(rB)d(I/2)∫C(×

が得られます。

他方,微小な環状電流の磁気双極子モーメントは,

μ=(I/2)[∫C(×d)]=IAですから,結局C全体

トルクとして,τ=I∫C(rB)dμ×

なる表現を得ます。

ところで,対象としている系が単一の質点であれば,その運動

エネルギーTは,T=(1/2)m22/(2m) だけです。


 しかし,系が質点系,または大きさのある物体の場合には,

一般には全体として角運動量(古典的には軌道角運動量)を

持って回転していて重心運動のエネルギー:2/(2m)の他

に回転エネルギーがあります。

軸が一定で,そのまわりの慣性モーメントがIMの場合,回転角

をθとすると,トータルの運動エネルギーは,

T=(1/2)m2+(1/2)IM(dθ/dt)2

2/(2m)+2/(2IM)です。

 

ただし,は系の重心運動量で=m;は重心の運動速度

です。

また,は系の角運動量で回転軸の単位ベクトルを

すると,=IM(dθ/dt)です。

 すると,系の運動を支配する基本方程式系は,d/dt=,

および,d/dt=τです。

 

 特に,保存力の場合には,位置エネルギーU=U(,θ)が

存在して,=-∇U,τθ-∂U/∂θと書けます。

 

ただし,τθτのθ方向(回転の接線方向)の成分,

重心位置です。

そこで,dT/dt=(d/dt){2/(2m)+2/(2IM)}

=(d/dt)(/m)+(d/dt)(/IM)

(d/dt)+τθ(dθ/dt)

=-∇U(d/dt)-(∂U/∂θ)(dθ/dt)

=-dU/dtです。

 

 これによって,力学的エネルギーの保存則:

d(T+U)/dt=0 が実現されます。

今の微小回路Cと磁場だけが存在する系のように,がゼロ

ときには,トルクτθ-∂U/∂θを満たすトルクτのみが

存在します。

トルクτμ×のθ成分:τθはθが増加するのを妨げる向き

に働くので,τθμBsinθ=-dU/dθより,

位置エネルギーUは積分定数を除いて,

U=μB∫sinθdθ=-μBcosθ=-μB

を得ます。

一方,中心にある核のまわりを電子が周回しているという

原子の古典模型を想定して原子中の電子の運動をその軌道

ループC上を流れる電流と同定することを考えます。

簡単のため,原子は電子が1個だけの水素様電子を想定して,

この電子の軌道Cは核を中心とする半径a,角速度ω

等速円運動とします。

 

すると,回転の速さvはv=aωであり回転の周期は

T=2π/ω=2πa/vです。

環状回路Cを周期Tで電荷:-e(e>0)の電子が周回するとき

の電流(=回路C上の任意の点を単位時間に通過する平均電荷量)

=-e/T=-eω/()で,

磁気モーメントは,μ(I/2)∫C(×d)です。

一方,周回電子の位置ベクトルをとすると,

"角運動量=軌道角運動量"は,

×=m×=m×(/dt) です。

 

そして,T=0Tdt=mC(×d)2mμ/

ですから,結局,μ(I/2m)です

こうして,電子の磁気モーメントμとその軌道角運動量

よく知られた比例関係:

μ={/(2m)}={-e/(2m)}

を得ました。

さらに,水素様原子という特殊系でなく重ね合わせの原理が

成立するとして一般の多電子原子でもこの関係は保持される

と考えられます。

 

巨視的個数の原子から成る物体系でトータルN個の電子の

各々の磁気モーメントと軌道角運動量の総和を考えます。

 

物体内の各々の電子の角運動量,磁気モ-メントを,それぞれ

j,μj{-e/(2m)}jとすると,全系の"磁化ベクトル

=磁気双極子の総和"は=Σj=1Nμjですから,

{-e/(2m)}Σj=1Njです。
 

この電子系の総位置エネルギーはU=-MBと書けます。

ところで,ファインマン物理学の第Ⅳ巻「

電磁波と物性」(岩波書店)の"物質の磁性"の章の中では,

"古典物理では物質の磁性を説明できないこと"をほとんど文章

だけで説明しています。

 

これは,昔初めて読んだ頃の私には,とても奇妙でわかりにくい

という印象がありました。

これについては,以後もとても気になっていたのですが,後に

「ボーア-ファン・リューエンの定理

(Bohr-Van・Leeuwen's theorem)」と呼ばれる統計力学の定理

の説明であることを知りました。

いや,実は定理の詳しい名称は現在は覚えてなかったのですが,

今はネット検索があるので便利な時代ですね。

この定理は,熱力学や統計力学関連のことなら何でも載って

いる百科全書的な演習書:久保亮五 著「熱学 統計力学」

(裳華房)に,ほとんど目立たぬ程度にさらりと載っています。

 

これが紹介されているのは,この本の第6章

「カノニカル分布の応用」の演習問題[C]の問題[27]です。

[27]:古典力学,古典統計にしたがう体系では磁化率は厳密に

ゼロであることを証明せよ。(Bohr-Van・Leeuwenの定理)

(※ヒント:磁場を導くベクトル・ポテンシャルをとすると,磁場

がある場合の荷電粒子系のHamiltonianは,

=Σj=1N{1/(2mj)}{j+e(j)}2+U(1,..,N)

と書かれる。)

これの解答もちゃんと載っていました。

分配関数Z=∫..∫exp{-/(kBT)}d31..d3N

31..d3N  ,は,Hamiltonianが磁場が無い場合の

=Σj=1N[j2+/(2mj)+U(1,..,N)]でも,磁場がある

場合の=Σj=1N[{j+e(j)}2/(2mj)+U(1,..,N)]

でも同じになります。

これは,運動量積分d31..d3N 積分範囲が全運動量空間

なので,結果としてこの部分は磁場に無関係な(2πmkBT)N/2

になるからです。

Fredholmの自由エネルギーFをカノニカル分布の分配関数Z

で表現すると,F=E-TS=-NkBTlnZであり,磁化

=-∂F/∂で与えられます。

 

任意の物理系で分配関数Zがによらないという上記結果は,

統計力学に従う熱平衡系では,磁化 or 磁気モーメントは常に

ゼロであることを意味します。※

さて,本ブログの2008年4/9の過去記事

磁場の中の原子(ゼーマン効果)(2)」で述べたように,

Larmor(ラーモア)の定理というものがあります。

すなわち,トルクτが存在するとき電子の角運動量が従う

方程式は,/dt=τです。

 

そして,外部磁場が存在するとき,磁化:={-e/(2m)}

が存在すればトルクはτ×{-e/(2m)}×です。

このゼロでないトルクの存在により,の従う方程式は,

/dt={-e/(2m)}×となります。

 

電子系が力を受けるため,はもはや一定の向きを保持できません。

この運動では,磁場の方向をz軸にとればdLz/dt=0

となり,Lzは時間的に一定で保存されますから,の運動は

磁場の向きを歳差の回転軸とする歳差運動(precession)

です。

 

   

 

この歳差運動によるLarmorの反磁性理論は次の通りです。

電子質量をmとするとその角運動量は×=m×です。

半径a,角速度をωで円運動する場合にはL=ma2ωです。

特に磁場が全くないとき,電子の同じ円軌道の角速度を特にω0

とするとCoulombの法則によって:maω02=e2/(4πε02)

です。

 

この運動では,L=ma2ω0です。

 磁場が存在する場合には,上記のLarmorの歳差運動の式:

/dt={-e/(2m)}×に代入すると,

ma2(dω/dt)={-e/(2m)}ma2ωBsinθ,

dω/dt=-{e/(2m)}ωBsinθ となります。

 

 θは歳差運動しているとなす角です。

最後の式は,(dv/dt)=-eaωBsinθですから,

Coulomb電気力と磁場の両方があれば,

maω22/(4πε02)-eaωBsinθなる等式が

成立するはずです。

 

故に,ω2-ω02=(-e/m)ωBsinθですからの存在に

よる角速度の変化:Δω=ω-ω0は,1次近似で,

Δω~ -{e/(2m)}Bsinθ です。

 

この角速度の変化は磁気モーメント:

μ={-e/(2m)}LをΔμ={-e/(2m)}Δ

={-e/(2m)}(ma2Δω)=-{22/(4m)}Bsinθ

だけシフトさせます。

 

L=m2ω,224ω2ですから,

Δμ=-{e/(2m)}ΔL=-{e/(2m)}(ma2Δω)

=-{22/(4m)}Bsinθ です。

 

結局,Δμ=-{22/(4m32ω2)}Bsinθ

が得られました。

 

この効果をLarmorの反磁性といいます。

ところで,統計力学の熱平衡でのエネルギー等分配則によれば,

平均値として,(1/2)<mv2>=(1/2)<ma2ω2>=(3/2)kB

なので,熱平衡では,

 

Δμ=-{22/(12m2B)}sinθと結論されます。

 

よって,系全体の反磁性効果は,

Δ=NΔμ=-{Ne22/(12m2BT)}B ですね。

一方,常磁性の話は,2008年4/15の記事

磁性の話(キュリーの法則) 」で書いた,

=χ=(χ/μ0)の比例係数で定義される磁化率:χに

対するCurie(キュリー)の法則:χ=C/T;

C≡NμB2μ0J 2(J+1)/(3kB)の古典論版で

与えられます。

 

ただし,μBはボーア磁子(Bohr magneton)です。

 

μ=-gJμBμ=-{e/(2m)}とを比較して,

J=1,-μB →e/(2m)として,さらにJ(J+1)をL2

置き換えて古典論に翻訳すると.

χ/μ0Ne22/(12m2B)なる表現を得ます。

 

しかし,横着をせず直接に熱平衡での統計的平均値としての

古典的磁化M(B,T)を計算してみます。

 

古典論では軌道角運動量に対してその磁場方向の成分

はLz=Lcosθであり任意の角度θを連続的に取ることが

可能です。

  

M(B,T)

=N∫-11d(cosθ){-eLcosθ/(2m)}

exp{-eLBcosθ/(2mB)}

/∫-11d(cosθ)exp{-eLBcosθ/(2mB)}

=NB-1(∂/∂β)ln∫-11d(cosθ)exp{-eβLBcosθ/(2m)}]

です。

 

すなわち,

M(B,T)=NB-1(∂/∂β)ln{(ieβLB/m)sin{eβLB/(2m)}]

です。

 

χ/μ0を得るためB→0 の極限での

M(B,T)/B

=NB-2(∂/∂β)ln{(ieβLB/m)sin{eβLB/(2m)}

=NB-2[1/β-{eLB/(2m)}cos{eβLB/(2m)}

/sin{eβLB/(2m)}を求めます。

 

結局,M(B,T)/B→χ/μ0

=NB-2[1/β-(1/β)(1-(1/3){eβLB/(2m)}2]

=Ne22β/(12m2)

=Ne22/(12m2B) です。

 

こうして,先の量子論でのCurieの法則の古典論への置き換え

と同じ結果を得ました。

 

こうした常磁性に対する理論は基本的にLangevin(ランジュバン)

理論と呼ばれます。

 

これは,Pierre Curie(ピエール・キュリー)が

Curieの法則:χ=C/Tを実験的に発見した後,

Paul Langevin(ポール・ランジュバン)がその法則を裏付ける

ために発見した理論です。

 

上記の導出からわかるように,このCurie-Langevinの法則は,

,またはが小さいときにだけ成立する法則です。

 

こうした常磁性磁化:=(χ/μ0)は,先に述べたLarmorの

反磁性の磁化シフトΔ=-{Ne22/(12m2BT)}(1次近似)

によって相殺されゼロとなります。

 

よって,この結果はこうした型の反磁性,常磁性の存在を古典的

には説明できないことを示すもので,先述の

Bohr-Van・Leeuwenの定理を一部裏付けるものです。

 

さて,以上の古典論ではスピン(spin)角運動量の存在を考慮

していません。


 
スピンがあると仮定した場合には,束縛電子の全角運動量は

です。

 

そこで,対応して原子内電子による全磁気モーメントも

μμLμと分解表現してみます。

 

それぞれの型の磁気モーメントと角運動量の比例関係を古典論

との対応でμL={gLe/(2m)},μs={gse/(2m)}

と表わして磁気回転比(gyromagnetic-ratio)gL,gsを定義

するとgL=1,gs~ 2です。

 

したがって,スピンを考慮すると電子の磁気モーメントは

μ~ {e/(2m)}(+2)となって単純に角運動量:

との比例関係では表わせません。

 

(スピンの磁気回転比が2であることの古典的根拠に関しては

2008年4/5の記事「磁場の中の原子(ゼーマン効果)(1)

のThomas歳差運動の関連の話を参照して下さい。)

 

スピンが存在する理論と古典論との対応を考えると,磁気回転比

の相違のため量子論では上記の意味での反磁性と常磁性の相殺

は起きず,反磁性か常磁性のいずれかが発現する可能性が

考えられます。

 

最初は強磁性の古典的話も書くつもりでしたが,後の機会に

まわすことにします。

(参考文献):R.P.Feynman(戸田盛和訳):ファインマン物理学Ⅳ

「電磁波と物性」(岩波書店),

久保亮五著 大学演習「熱学 統計力学」(裳華房),

 

砂川重信著「理論電磁気学」(第2版)(紀伊国屋書店),

志村史夫監修,中村久理真著「したしむ磁性」(朝倉書店)

 

ブックオフオンライン 

iconオンライン書店 boople.com(ブープル) 

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