波束のぼやけ(量子論覚書き)
ちょっとCoffee-breakです。といっても数式話ですが。。。
40年以上前に大学で受けた量子力学のN先生の講義の板書を私が
授業中に手書きで綴った式だけのノートに注釈をつけて,自由粒子
の波束のぼやけ(ambiguity of wave-packet9),あるいは自由波の
拡散(diffusion)についての覚書きにします。
1次元xの方向に自由進行する平面波は,
pk≡hck,Ek=hc2k2/(2m)とすると,
ψk(x,t)≡exp{i(kx-ωkt)です。
ただしωk=Ek/hc=hck2/(2m)で,hc≡h/(2π);
hはPlanck定数です。
(-ihc∂/∂x)ψk(x,t)=hckψk(x,t),
Hψk(x,t)=(ihc∂/∂t)ψk(x,t)=hcωψk(x,t)より,
これは運動量:px=-ihc∂/∂xの,固有値:pk=hckに属する
固有関数,かつエネルギー:H=ihc∂/∂tの,固有値:
Ek=hc2k2/(2m)に属する固有関数です。
しかし,量子力学では,波動関数ψk(x,t)に対して確率密度関数
は,ρk(x,t)=c|ψk(x,t)|2 (cは確率規格化のための正定数)
なる形で与えられるのに対して,
この平面波の関数による密度は積分が発散するという性質(ⅰ):
c-1∫-∞∞ρk(x,t)dx=∫-∞∞|ψk(x,t)|2dx
=∫-∞∞dx=∞
を有します。
それ故,ψk(x,t)は粒子の物理的状態を表わす状態関数としては
不適切です。
とはいっても,性質(ⅱ):
c-1ρk(x,t)=|ψk(x,t)|2=1(一定) for ∀x∈(-∞, ∞)
を有しますから,
任意の時刻tに全ての位置xに粒子が存在する確率が等しい,
すなわち,一様密度であるという理想的な拡がりを持つ波を
表わすという,意味は持っています。
目の前から宇宙の果てまで,どこにでも一様に拡がった理想的な
平面波ではなく,現実の局在化した粒子描像をも示す物理的状態
を意味する確率波は,
ψ(x,t)=(2π)-1/2∫-∞∞φ(k)ψk(x,t)dk
=(2π)-1/2∫-∞∞φ(k)exp{ikx-ihck2t/(2m)}dk
のように,
平面波:ψk(x,t)≡exp{i(kx-ωkt)に(2π)-1/2φ(k)
という重みをつけた重ね合わせで表現されるはずです。
このψ(x,t)であれば,確率密度ρ(x、t)=|ψ(x,t)|2に対し,
∫-∞∞ρk(x,t)dx=∫-∞∞|ψ(x,t)|2dx<∞ とできるので
確率波として問題ありません。
こうした平面波の重ね合わせを波束(wave-packet)といいます。
特に初期時刻:t=0 で,
ψ(x,0)≡(aπ1/2)-1/2exp{-x2/(2a2)}exp(ik0x)とおけば,
∫-∞∞|ψ(x,0)|2dx=1ですから,t=0 での
確率密度は,ρ(x,0)=|ψ(x,0)|2=(aπ1/2)-1exp(-x2/a2)
で与えられます。
この確率分布はGauss分布,あるいは正規分布:N[0,a2]です。
また,確率の流速密度は,
J(x,t)=Re{ψ*(x,t)(-ihc/m)∂ψ(x,t)}
ですから,初期時刻のそれは,
J(x,0)=(hck0/m)(aπ1/2)-1exp(-x2/a2)=v0ρ(x,0);
v0≡hck0/m) です。
そしてψ(x,0)=(2π)-1/2∫-∞∞φ(k)exp(ikx)dkの
Fourier逆変換から,重み関数(展開係数)の表現:
φ(k)=(2π)-1/2∫-∞∞ψ(x,0)exp(-ikx)dx
を得ます。
さらに,∫-∞∞|φ(k)|2dk=1 です。
このφ(k)の積分表現に,上記のGauss型のψ(x,0)を代入すると,
φ(k)=(2π)-1/2(aπ1/2)-1/2∫-∞∞2exp{-x2/(2a2)}
exp{-i(k-k0)x}dx を得ます。
右辺の積分計算に,公式:∫-∞∞exp(-αx2+iβx)dx
=(π/α)1/2exp{-β2/(4α)}を適用すれば,
φ(k)=(a/π1/2)1/2exp{-a2(k-k0)2/2}
です。
故に,|φ(k)|2=(a/π1/2)exp{-a2(k-k0)2} を得ます。
初期時刻t=0 での波束の位置の期待値は,
<x>=∫-∞∞ψ*(x,0)xψ(x,0)dx=0 であり,
波数の期待値は,
<k>=∫-∞∞ψ*(x,0)(-i∂/∂x)ψ(x,0)dx
=∫-∞∞φ*(k)kφ(k)dk=k0 です。
この意味で,|φ(k)|2=φ*(k)φ(k)は,波数kの空間における
確率密度と解釈されます。
よって,φ(k)は波数の波動関数とでも呼ぶべきものです。
また,|φ(k)|2dk=hc-1|φ(k)|2dpなので,hc-1/2φ(k)は
運動量波動関数とでも呼ぶべきものです。
さて,先の積分公式:∫-∞∞exp(-αx2+iβx)dx
=(π/α)1/2exp{-β2/(4α)}の両辺をαで微分すると,
∫-∞∞x2exp(-αx2+iβx)dx
=[(1/2)π1/2α-3/2-(1/4)π1/2α-5/2β2]exp{-β2/(4α)}
となります。
そこで,x2の期待値は,
<x2>0≡∫-∞∞ψ*(x,0)x2ψ(x,0)dx
=(aπ1/2)-1∫-∞∞x2exp(-x2/a2)
=(aπ1/2)-1(1/2)π1/2a3=a2/2
であることがわかります。
故に,初期時刻t=0 における位置xの不確定性(標準偏差)は,
Δx0=<(x-<x>0)2>01/2=a/√2で与えられます。
同様に,波数kの不確定性(標準偏差)を求めると,
Δk0=<(k-<k>0)2>01/2=<(k-k0)2>01/2
=1/(√2a)です。
以上から,このGauss波束は,初期時刻には不確定性関係の最小値:
Δx0Δk0=1/2 or Δx0Δp0=hc/2 を満たす状態に対応して
いることがわかります。
そして,自由波の伝播式:
ψ(x,t)=(2π)-1/2∫-∞∞φ(k) exp(ikx-iωkt)dk
によって,t>0 における波動関数を求めると,
ψ(x,t)
=(2π)-1/2∫-∞∞φ(k)exp{ikx-ihck2t/(2m)}dk
=(2π)-1/2(a/π1/2)1/2∫-∞∞exp{-a2(k-k0)2/2}
exp{ikx-ihck2t/(2m)}dk です 。
これに,先の公式:∫-∞∞exp(-αx2+iβx)dx
=(π/α)1/2exp{-β2/(4α)}を適用すると,
ψ(x,t)
={π1/2a(1+iαt)}-1/2exp[-(x-v0t)2/{2a2(1+iαt)}]
exp{i(k0x-ω0t)}
を得ます。
ただし,α≡hc/(ma2),v0=hck0/m,ω0=hck02/(2m)
です。
そこで,ρ(x,t)=|ψ(x,t)|2
=[π1/2a{1+(αt)2}1/2]-1
exp[-(x-v0t)2/{a2(1+(αt)2)}],
J(x,t)=Re{ψ*(x,t)(-ihc/m)∂ψ(x,t)}
=ρ(x,t)v0{1+(αt)2x/(v0t)}/{1+(αt)2}
です。
もちろん,
∫-∞∞ρ(x,t)dx=∫-∞∞|ψ(x,t)|2dx=1
が成立しています。
ここで,a(t)≡a{1+(αt)2}1/2とおけば,
ψ(x,t)={π1/2a(t)}-1/2exp[-(x-v0t)2/{2a(t)2}]
exp{i(k0x-ω0t)}ですから,
時刻tにおける位置xの期待値は,
<x>=∫-∞∞ψ*(x,t)xψ(x,t)dx=v0t
です。
つまり確率分布の中心は一定速度v0で進みます。
そして中心のまわりのゆらぎ(偏差)は,
Δx=<(x-v0t)2>1/2=a{t)/√2
です。
これらを基にして時間に伴なう波束のぼやけを論じます。
初期時刻t=0 には,ρ(x,0)=(aπ1/2)-1exp(-x2/a2),
J(x,0)=ρ(x,0)v0であった波束が,
時刻t>0 には,ρ(x,t)=[π1/2a{1+(αt)2}1/2]-1
exp[-(x-v0t)2/{a2(1+(αt)2)}],
J(x,t)=Re{ψ*(x,t)(-ihc/m)∂ψ(x,t)}
=ρ(x,t)v0{1+(αt)2x/(v0t)}/{1+(αt)2}
になります。
位置の不確かさ,つまりぼやけ幅は,
Δx=Δx0{1+(αt)2}1/2, or a(t)=a{1+(αt)2}1/2
です。
時間が経過しても,確率分布とx軸の囲う面積は同じなので,
初期時刻には中心のまわりに密度が集中してGauss分布をして
いた波束は,その幅Δxが時間につれて拡がると,
中心付近の平均の"高さ=|振幅|2"は時間tと共に,
1/a(t)=1/{1+(αt)2}1/2 の率で下がります。
つまり,最初aの程度に拡がって速さv0で進行していた波束は,
束の中心は常にv0の速さで進行しますが,
時間tの後の波束の広がり幅は{1+hct/(ma2)}1/2倍に拡がり,
"高さ=|振幅|2"は,1/{1+hct/(ma2)}1/2程度に
減少するといえます。
式によれば,この波束のぼやけの程度は,粒子の質量mが小さいほど,
そして最初の幅aが小さいほど急激になります。
t=0 ではΔx0 ~ a/√2,Δk0 ~ 1/(√2a)ですが,
t>0 ではΔx ~ a{1+(αt)2}1/2/√2,
Δk=Δk0 ~ 1/(√2a)なので,
ΔxΔk≧Δx0Δk0=1/2 とぼやけていきます。
例えば,電子では,α=hc/(ma2)
~ (2.36×10-11cm)(3×1010cm.sec-1/a2)
=1.16(cm/a)2sec-1より,αt=1.16tsec-1(cm/a)2
です。
故に,幅が2倍になって半分の薄さにぼやける時間は,
{1+(αt)2}1/2~ 2,αt~√3~1.7320508..より
t ~ 1.5(a/cm)2secです。
例えばa=2Å=2×10-8cmなら,t=6×10-16cm秒ですから,
電子であろうと,粒子描像は,ほぼ瞬時で急激にくずれていき
ます。
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