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2010年6月22日 (火)

波束のぼやけ(量子論覚書き)

 ちょっとCoffee-breakです。といっても数式話ですが。。。

 

40年以上前に大学で受けた量子力学のN先生の講義の板書を私が

授業中に手書きで綴った式だけのノートに注釈をつけて,自由粒子

の波束のぼやけ(ambiguity of wave-packet9),あるいは自由波の

拡散(diffusion)についての覚書きにします。

 

 1次元xの方向に自由進行する平面波は,

 pk≡hck,Ek=hc22/(2m)とすると,

 ψk(x,t)≡exp{i(kx-ωkt)です。

 

 ただしωk=Ek/hc=hc2/(2m)で,hc≡h/(2π);

 hはPlanck定数です。

 

(-ic∂/∂x)ψk(x,t)=hckψk(x,t),

ψk(x,t)=(ic∂/∂t)ψk(x,t)=hcωψk(x,t)より,

 

これは運動量:px-ic∂/∂xの,固有値:k=hckに属する

固有関数,かつエネルギー:ic∂/∂tの,固有値:

k=hc22/(2m)に属する固有関数です。

 

 

しかし,量子力学では,波動関数ψk(x,t)に対して確率密度関数

は,ρk(x,t)=c|ψk(x,t)|2 (cは確率規格化のための正定数)

なる形で与えられるのに対して,

 

この平面波の関数による密度は積分が発散するという性質(ⅰ):

-1-∞ρk(x,t)dx=∫-∞k(x,t)|2dx

=∫-∞dx=∞ 

を有します。

 

それ故,ψk(x,t)は粒子の物理的状態を表わす状態関数としては

不適切です。

 

とはいっても,性質(ⅱ):

-1ρk(x,t)=|ψk(x,t)|2=1(一定) for ∀x∈(-∞, ∞)

を有しますから,

 

任意の時刻tに全ての位置xに粒子が存在する確率が等しい,

すなわち,一様密度であるという理想的な拡がりを持つ波を

表わすという,意味は持っています。

 

目の前から宇宙の果てまで,どこにでも一様に拡がった理想的な

平面波ではなく,現実の局在化した粒子描像をも示す物理的状態

を意味する確率波は,

 

ψ(x,t)=(2π)-1/2-∞φ(k)ψk(x,t)dk

=(2π)-1/2-∞φ(k)exp{ikx-ihc2t/(2m)}dk

のように,

 

平面波:ψk(x,t)≡exp{i(kx-ωkt)に(2π)-1/2φ(k)

という重みをつけた重ね合わせで表現されるはずです。

 

このψ(x,t)であれば,確率密度ρ(x、t)=|ψ(x,t)|2に対し,

-∞ρk(x,t)dx=∫-∞|ψ(x,t)|2dx<∞ とできるので

確率波として問題ありません。

 

こうした平面波の重ね合わせを波束(wave-packet)といいます。

 

 

特に初期時刻:t=0 で,

ψ(x,0)≡(aπ1/2)-1/2exp{-x2/(2a2)}exp(ik0x)とおけば,

-∞|ψ(x,0)|2dx=1ですから,t=0 での

確率密度は,ρ(x,0)=|ψ(x,0)|2=(aπ1/2)-1exp(-x2/a2)

で与えられます。

 

この確率分布はGauss分布,あるいは正規分布:N[0,a2]です。

 

また,確率の流速密度は,

J(x,t)=Re{ψ*(x,t)(-ihc/m)∂ψ(x,t)}

ですから,初期時刻のそれは,

J(x,0)=(hc0/m)(aπ1/2)-1exp(-x2/a2)=v0ρ(x,0);

0≡hc0/m) です。

 

 そしてψ(x,0)=(2π)-1/2-∞φ(k)exp(ikx)dkの

 Fourier逆変換から,重み関数(展開係数)の表現:

 φ(k)=(2π)-1/2-∞ψ(x,0)exp(-ikx)dx

 を得ます。

 

 さらに,∫-∞|φ(k)|2dk=1 です。

 

このφ(k)の積分表現に,上記のGauss型のψ(x,0)を代入すると,

φ(k)=(2π)-1/2(aπ1/2)-1/2-∞∞2exp{-x2/(2a2)}

exp{-i(k-k0)x}dx を得ます。

 

右辺の積分計算に,公式:∫-∞exp(-αx2+iβx)dx

=(π/α)1/2exp{-β2/(4α)}を適用すれば,

φ(k)=(a/π1/2)1/2exp{-a2(k-k0)2/2}

です。

 

故に,|φ(k)|2=(a/π1/2)exp{-a2(k-k0)2} を得ます。

 

初期時刻t=0 での波束の位置の期待値は,

<x>=∫-∞ψ*(x,0)xψ(x,0)dx=0 であり,

波数の期待値は,

<k>=∫-∞ψ*(x,0)(i∂/∂x)ψ(x,0)dx

=∫-∞φ*(k)kφ(k)dk=k0 です。

 

この意味で,|φ(k)|2=φ*(k)φ(k)は,波数kの空間における

確率密度と解釈されます。

 

よって,φ(k)は波数の波動関数とでも呼ぶべきものです。

  

また,|φ(k)|2dk=hc-1|φ(k)|2dpなので,hc-1/2φ(k)は

運動量波動関数とでも呼ぶべきものです。

 

さて,先の積分公式:∫-∞exp(-αx2+iβx)dx

=(π/α)1/2exp{-β2/(4α)}の両辺をαで微分すると,

-∞2exp(-αx2+iβx)dx

=[(1/2)π1/2α-3/2-(1/4)π1/2α-5/2β2]exp{-β2/(4α)}

となります。

 

そこで,x2の期待値は,

<x20≡∫-∞ψ*(x,0)x2ψ(x,0)dx

=(aπ1/2)-1-∞2exp(-x2/a2)

=(aπ1/2)-1(1/2)π1/23=a2/2

であることがわかります。

 

故に,初期時刻t=0 における位置xの不確定性(標準偏差)は,

Δx0=<(x-<x>0)201/2=a/√2で与えられます。

 

同様に,波数kの不確定性(標準偏差)を求めると,

Δk0=<(k-<k>0)201/2=<(k-k0)201/2

=1/(√2a)です。

 

以上から,このGauss波束は,初期時刻には不確定性関係の最小値:

Δx0Δk0=1/2 or Δx0Δp0=hc/2 を満たす状態に対応して

いることがわかります。

 

そして,自由波の伝播式:

ψ(x,t)=(2π)-1/2-∞φ(k) exp(ikx-iωkt)dk

によって,t>0 における波動関数を求めると,

 

ψ(x,t)

=(2π)-1/2-∞φ(k)exp{ikx-ihc2t/(2m)}dk

=(2π)-1/2(a/π1/2)1/2-∞exp{-a2(k-k0)2/2}

exp{ikx-ihc2t/(2m)}dk です 。

 

これに,先の公式:∫-∞exp(-αx2+iβx)dx

=(π/α)1/2exp{-β2/(4α)}を適用すると,

 

ψ(x,t)

={π1/2a(1+iαt)}-1/2exp[-(x-v0t)2/{2a2(1+iαt)}]

exp{i(k0x-ω0t)}

を得ます。

 

ただし,α≡hc/(ma2),v0=hc0/m,ω0=hc02/(2m)

です。

 

 そこで,ρ(x,t)=|ψ(x,t)|2

 =[π1/2a{1+(αt)2}1/2]-1

 exp[-(x-v0t)2/{a2(1+(αt)2)}],

 

 J(x,t)=Re{ψ*(x,t)(-ihc/m)∂ψ(x,t)}

 =ρ(x,t)v0{1+(αt)2x/(v0t)}/{1+(αt)2}

 です。

 

 もちろん,

 ∫-∞ρ(x,t)dx=∫-∞|ψ(x,t)|2dx=1

 が成立しています。

 

ここで,a(t)≡a{1+(αt)2}1/2とおけば,

ψ(x,t)={π1/2a(t)}-1/2exp[-(x-v0t)2/{2a(t)2}]

exp{i(k0x-ω0t)}ですから,

 

時刻tにおける位置xの期待値は,

<x>=∫-∞ψ*(x,t)xψ(x,t)dx=v0

です。

 

つまり確率分布の中心は一定速度v0で進みます。

 

そして中心のまわりのゆらぎ(偏差)は,

Δx=<(x-v0t)21/2=a{t)/√2

です。

 

これらを基にして時間に伴なう波束のぼやけを論じます。

 

初期時刻t=0 には,ρ(x,0)=(aπ1/2)-1exp(-x2/a2),

J(x,0)=ρ(x,0)v0であった波束が,

 

時刻t>0 には,ρ(x,t)=[π1/2a{1+(αt)2}1/2]-1

exp[-(x-v0t)2/{a2(1+(αt)2)}],

J(x,t)=Re{ψ*(x,t)(-ihc/m)∂ψ(x,t)}

=ρ(x,t)v0{1+(αt)2x/(v0t)}/{1+(αt)2}

になります。

 

 位置の不確かさ,つまりぼやけ幅は,

 Δx=Δx0{1+(αt)2}1/2, or a(t)=a{1+(αt)2}1/2

 です。

 

 時間が経過しても,確率分布とx軸の囲う面積は同じなので,

 初期時刻には中心のまわりに密度が集中してGauss分布をして

 いた波束は,その幅Δxが時間につれて拡がると,

 

 中心付近の平均の"高さ=|振幅|2"は時間tと共に,

 1/a(t)=1/{1+(αt)2}1/2 の率で下がります。

 

 つまり,最初aの程度に拡がって速さv0で進行していた波束は,

 束の中心は常にv0の速さで進行しますが,

 時間tの後の波束の広がり幅は{1+hct/(ma2)}1/2倍に拡がり,

 "高さ=|振幅|2"は,1/{1+hct/(ma2)}1/2程度に

 減少するといえます。

 

式によれば,この波束のぼやけの程度は,粒子の質量mが小さいほど,

そして最初の幅aが小さいほど急激になります。

 

t=0 ではΔx0 ~ a/√2,Δk0 ~ 1/(√2a)ですが,

t>0 ではΔx ~ a{1+(αt)2}1/2/√2,

Δk=Δk0 ~ 1/(√2a)なので,

 

ΔxΔk≧Δx0Δk0=1/2 とぼやけていきます。

 

 例えば,電子では,α=hc/(ma2)

 ~ (2.36×10-11cm)(3×1010cm.sec-1/a2)

 =1.16(cm/a)2sec-1より,αt=1.16tsec-1(cm/a)2

 です。

 

 故に,幅が2倍になって半分の薄さにぼやける時間は,

 {1+(αt)2}1/2~ 2,αt~√3~1.7320508..より

 t ~ 1.5(a/cm)2secです。

 

 例えばa=2Å=2×10-8cmなら,t=6×10-16cm秒ですから,

 電子であろうと,粒子描像は,ほぼ瞬時で急激にくずれていき

 ます。

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