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2010年7月24日 (土)

散乱の伝播関数の理論(16)(応用3-1)

 散乱の伝播関数の理論の続きです。

 

 このシリーズ記事は6/24以来で,丁度1ヶ月の間があきました。

 

§7.6 Bremsstrahlung(制動輻射,または制動放射)

 

※まず,前節の電子-陽子散乱の高次補正のFeynman-diagram

 である図7.6,および図7.7を下に再掲します。※ 

    

 図7.6,図7.7で交換されている2つの量子

 (仮想光子:virtual photons)の一方がEinsteinの条件:2=0

 (実光子条件=質量殻条件:real photon or on mass-shell)

 を満足することは大いに有り得ることです。

 

 この場合,この量子は電子と陽子との間の交換から脱出できて,

 自由輻射,または Bremsstrahlung(制動輻射)として出現します。

 

 散乱過程におけるこの輻射場との相互作用効果を調べるため,

 再びSchiffによって発見されたのと,よく似た発見的議論を進

 めます。

 

 これらは,Bjorken-Drellテキストのcompanion volume

 (場の理論:field theory)で論じる予定の,輻射の厳密に量子論

 的な扱いから得られる答と完全に一致し,実験結果と一致する

 有益な結果を,より小さい労力で与えます。

 

 さて,運動量kμと偏極(polarization)εμを持つ1つの

 "光子(photon)"に相当する4元ベクトルポテンシャルは

 平面波で表現することができて,

 Aμ(x;k)=(2|0V)-1/2εμ{exp(-ikx)+exp(ikx)}

 と書けます。

 

 ただし,k2=kμμ=0 です。

 

 偏光ベクトル:εμは単位ベクトル(ε2=εμεμ=-1)であり,

 横波条件:εk=εμμ=0 を満たします。

 

(注16-1):電磁ポテンシャルAμの波動方程式が□Aμ=0

 (k2=kμμ=0)となるためには,Lorenzゲージ(gauge):

 ∂μμ=0 を取る必要があります。

 

 この条件はεk=εμμ=0 に相当します。

 

また,特別なローレンツ系ではεμは純粋に空間的(space-like):

εμ=(0,ε)であり,|ε|=1ですから,

ε2=εμεμ=-ε2=-1 です。

 

そして,ε2Lorentzスカラーですから,任意のローレンツ系で

ε2=-1(一定:空間的)です。

 

偏極(偏光):εμが単位6クトルに規格化されているとはこういう

意味です。(注16-1終わり)※

 

μ(x;k)=(2|0V)-1/2εμ{exp(-ikx)+exp(ikx)}

における規格化定数:(2|0V)-1/2は,Aμ(x;k)なる平面波

のエネルギーが丁度:ω=k0=||になるよう選んだものです。

(ただし,c=1の自然単位です。)

 

これは,U=(1/2)∫d302+μ0-12)=ε023

を計算すれば得られます。

(※何故なら,μ0-1=c2ε0=ε0(自然単位))

 

すなわち,まず,

=∇×[(2|0V)-1/2ε

{exp(-ikx)+exp(ikx)}]

=i{||/(2ε0V)}1/2(ε){exp(-ikx)-exp(ikx)}

={2||/(ε0V)}1/2(ε)sin(kx) です。

 

ただし,^≡/|| です。

  

そして,(ε)(ε)=-^{(εε}

^{ε2 ^-ε(εk^)}

ε2-(εk^)2ε2-(ε00/||)2ε2-(ε0)2

=-ε2=1 です。

 

 故に,2={2||/(ε0V)}sin2(kx-ωt)ですから,

 確かにU=ε023=||=ω を得ます。

 

 以下,散乱の間にそうした1光子が輻射される現象を記述する

 散乱振幅(scattering amplitude)を考察します。

 

 ただし,簡単のために静電近似に戻って,電子-陽子散乱の自由陽子

 の源による電磁場を静電Coulomb場で置き換えて,eの最低次の寄与

 がゼロでない遷移要素(transition-matrix element):Sfiを計算

 します。

 

 こうした過程に対するFeynman-diagramを図7.8に示します。     

  

 図の1つの頂点(vertex)は,電子とCoulomb場との相互作用に対応し,

 他の頂点は制動輻射の放出につながる2次過程に対応します。

 

 外場がないところでの自由電子による1次のオーダーの光子の輻射

 放出は有り得ません。

 

 つまり,単に自由電子が光子を放出するだけという,

 1次のFeynman-diagramは存在しない,

 または書いても寄与がゼロです。

  

 これは運動学的に禁止されているからです。

 

 何故なら,1次のオーダーの光子放出を仮定すると,

 エネルギー・運動量の保存が不可能であるからです。

 

 つまり,k2=0≠(pf-pi)2となって,k,pf,pi以外にまわりに

 何もない系なら質量がゼロ:k2=0 の実光子では保存則不成立

 です。

 

(注16-2):-(pf-pi)2

 =(fi)2-{(f2+m2)1/2-(i2+m2)1/2}2

 =2{(f2+m2)1/2(i2+m2)1/2-(fi+m2)}

 です。

 

そして,{(f2+m2)1/2(i2+m2)1/2}2-(fi+m2)2

f2i2-(fi)2+(fi)22≧0 です。

 

何故ならf2i2-(fi)2f2i2(1-cosθ)≧0

であるからです。

 

そして,kμ≠0 ですから,(pf-pi)μ=kμ≠0 より,cosθ<1

です。

 

したがって,-(pf-pi)2>0,つまり(pf-pi)2<0 ですから,

2=0≠(pf-pi)2を得ます。(注16-2終わり)※

 

 2次のS行列要素は,

 Sfi=e2∫d4xd4yψ~f(x)[-i(x;k)iSF(x-y)

 (-iγ0)A0Coul(y)+(-iγ0)A0Coul(x)iSF(x-y)

 {-i(y;k)}]ψi(y) です。

 

 ただし,A0Coul(x)は中心電荷が-Zeの静電Coulombポテンシャル

 でA0Coul(x)≡-Ze/(4πε0||)です。

 (e< 0 は電子の電荷)

  

 そして,右辺の2つの項は図7.8に示されているような頂点の2つの

 順序に対応しています。

 

 これまでやってきたように,Sfiの右辺の座標表示の全ての因子

 をFourier展開して座標積分∫d4xd4yを実行して運動量空間

 における表現に変換します。

 

 この型にはまった操作を実行した結果は,

 Sfi{-Ze3/(ε0V)3/2}2πδ(Ef+k0-Ei)(2k0)-1/2

 {m2/(Efi)}1/2(1/||2)

 u~(pf,sf)[(-iε){i/(f-m)}(-iγ0)

 +(-iγ0){i/(i-m)}(-iε)]u(pi,si)

 です。

 

(注16-3):何故なら,

 ψ~f(x)={m/(EfV)}1/2u~(pf,sf)exp(ipfx),

 ψi(y)={m/(EiV)}1/2u(pi,si)exp(-ipiy)

 であり,

   

 また,Aμ(x;k)=(2kε0V)-1/2εμ{exp(-ikx)+exp(ikx)},

 SF(x-y)=∫d4p(2π)-4{exp{-ip(x-y)/(-m+iε)},

 A0Coul(x)=-Ze/(4πε0||) であるからです。

 

 さらに,∫d3{exp(-iqx)/||}=4π/||2です。

 

 それ故,Sfi

 =(-Ze303/23/2)(2k0)-1/2{m2/(Efi)}1/2

 ∫d4xd4yd4p(2π)-4u~(pf,sf)((-iε){i/(-m+iε)}

 (-iγ0)[exp{i(pf-k-p)x+(p-pi)y}

 +exp{i(pf+k-p)x+(p-pi)y}]/(4πε0||)

 +(-iγ0){i/(-m+iε)}(-iε)

 [exp{i(pf-p)x+(p-k-pi)y}

 +exp{i(pf-p)x+(p+k-pi)y}]/(4πε0||))

 u(pi,si) となります。

 

これの座標積分,およびd4p積分を実行すると,確かにSfiに対する

上記の運動量表示表現を得ます。(注16-3終わり)※

 

 さて,Sfi{-Ze3/(ε0V)3/2}2πδ(Ef+k0-Ei)(2k0)-1/2

 {m2/(Efi)}1/2(1/||2)

 u~(pf,sf)[(-iε){i/(f-m)}(-iγ0)

 +(-iγ0){i/(i-m)}(-iε)]u(pi,si)

 から,散乱断面積(cross section)を求めます。

 

そのためには,|Sfi|2を流束密度:|i|/Vで割り,さらに単位時間

当たりにするため,2πδ(0)で割って,観測される光子と終状態電子

の位相空間での区間体積V233f/(2π)6にわたる総和を取り

ます。

 

 {2πδ(Ef+k0-Ei)}2=2πδ(0)2πδ(Ef+k0-Ei)

 に注意すると,

 

 dσ={Z262/(2ε030fi|i|)}∫d33f(2π)-6

 [(2π)δ(Ef+k0-Ei){(εpf)/(kpf)-(εpi)/(kpi)}2|

 u~(pf,sf0u(pi,si)|2/||4]

 を得ます。

 

 そして,d3f=pf2dpfdΩf (pf≡|f|)であり,

 pfdpf=EfdEfですが,

 

 軟光子(soft-photon)放出:k~0 の近似を取ると,

 pf=|f|=|i―k|~|i|=Ei|i|なので,

 d3f=pffdEf~|i|EifdEf です。

 

 また,d3=k2dkdΩk (k≡||),そして,

 δ(Ef+k0-Ei)dEf=θ(∞)-θ(m+k-Ei)

 =1-θ(m+k-Ei)=θ(Ei-m+k) です。

 

 そして,dΩfを残したd3f積分,つまりdEf積分を実行します。

 

すると,dσ/dΩf ~{Z262/(2ε03k)}

{(εpf)/(kpf)-(εpi)/(kpi)}2

|u~(pf,sf0u(pi,si)|2/||4]

2dkdΩk(2π)-5θ(Ei-m+k)

を得ます。

 

これを,先の「散乱の伝播関数の理論(11)(応用1-1)」で得た

弾性散乱(elastic scattering)の最低次の微分断面積:

 (dσ/dΩf)elastic=(4Z2α22/||4)

 |u~(pf,sf0u(pi,si)|2||4

 と比較します。

 

すると,4πα=e20なので,

dσ/dΩf ~ (dσ/dΩf)elastic[e2/{2(2π)3ε0}]

kdkdΩk{(εpf)/(kpf)-(εpi)/(kpi)}2θ(Ei-m+k)

です。

 

 これは,立体角dΩfの中に電子が観測され,運動量を持つ偏極ε

 の光子がdkdΩkの中に出現する断面積を表わしています。

 

 故に,軟光子の極限では,非弾性散乱の断面積は同一のエネルギー

 と同一の散乱角における弾性散乱の断面積の倍数として表現され

 ます。

 

 dσ/dΩfの因子:kdk{(εpf)/(kpf)-(εpi)/(kpi)}2

 よると,k~ 0 で軟光子のスペクトルはdk/kのように挙動する

 ため,k=0 のゼロエネルギー光子を放出する確率は無限大になり

 ます。

 

 これは,赤外発散(infrared divergence)

 or赤外破局(infrared dcatasyrophe)と呼ばれている現象です。

 

 こうした無限大の困難から救済されるためには,制動輻射を観測する

 現実の実験条件の注意深い解析が必要です。

 

 決定的な点は,如何なる検知装置も有限エネルギーの分析しかでき

 ないということです。

 

 もしも検知装置がk=0 を含む有限なエネルギー区間に非弾性的に

 散乱された電子を受けるなら,それは正に弾性的に散乱された電子を

 受け取ることを意味します。

 

 そこで,実験と矛盾しない比較をするためには,散乱の断面積

 として2の同じオーダーまで計算した弾性散乱と非弾性散乱

 の両方の断面積を含む必要があります。

 

 すなわち,制動輻射の寄与は弾性散乱に対してe2培のオーダー

 ですから,(dσ/dΩf)elasticにも同じe2のオーダーまでの輻射

 補正を含める必要があります。

 

 今日はここまでにします。 

 

参考文献: J.D.Bjorken & S.D.Drell "Relativistic Quantum Mechanics"(McGraw-Hill)

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