散乱の伝播関数の理論(17)(応用3-2)
散乱の伝播関数の理論,制動輻射(Bremsstrahlung)の続きです。
さて,弾性散乱断面積因子:(dσ/dΩf)elasticのe2のオーダー
の輻射補正は次の2つのタイプの項から生じます。
すなわち,Coulomb場による電子2次散乱において,電子-陽子散乱
の図7.4,図7.5に対応する項 → 下の参考図
および,電子の輻射場を媒介とする自分自身との相互作用
の項です。
後者の自己相互作用の寄与に対応するFeynman-diagramは下の
図7.9に示すように,電子から出発した2つの仮想光子
(virtual photons)のうちの1つが,Coulomb源(=陽子)に着地
する代わりに電子自身に戻ってくるようなグラフです。
実は,これらのグラフによる遷移振幅を計算すると,これも発散し,
丁度,先のk=0 の実光子による赤外発散(infrared catastrophe)
を正確に相殺する寄与を与えることがわかり,
結局,これによってe2ののオーダーでの赤外発散の困難は除去
されます。
しかし,そうした項を計算するという非常に扱いにくい課題に取り
組むには,より多くの訓練,経験で武装する必要があります。
ここでは,これ以上深入りしません。
(※これら赤外発散の除去についての本ブログでのレヴューは,
2006年12/16の記事「電流によって発生す光子の個数分布」,
2006年12/19の記事「赤外発散の問題(エネルギーゼロの光子)」
の中などに示唆しています。よかったら,ご参照ください。※)
さて,軟光子(soft-photon)制動輻射の微分断面積の式:
dσ/dΩf ~ (dσ/dΩf)elastic{(2π)-3e2/(2ε0)}
kdkdΩk{(εpf)/(kpf)-(εpi)/(kpi)}2θ(Ei-m+k)
を離れる前に,この式で弾性極限のk=0 を除く光子のエネルギー
の区間ΔEに対する断面積の値を評価します。
まず,Feynmanによる非常に便利な技巧を使って光子の偏極
(polarization;偏光)にわたる総和を取ることから始めます。
正確な散乱行列要素を再記すると,
Sfi={-Ze3/(ε0V)3/2}2πδ(Ef+k0-Ei)(2k0)-1/2
{m2/(EfEi)}1/2(1/|q|2)
u~(pf,sf)[(-iε){i/(pf+k-m)}(-iγ0)
+(-iγ0){i/(pi-k-m)}(-iε)]u(pi,si)
です。
もしも,右辺の各項で因子ε=γμεμにおける光子の偏極(偏光):
εμを4元運動量:kμに置き換えると,右辺は消えることに着目
します。
これは,軟光子近似の断面積:
dσ/dΩf =(dσ/dΩf)elastic{(2π)-3e2/(2ε0)}
kdkdΩk{(εpf)/(kpf)-(εpi)/(kpi)}2θ(Ei-m+k)
においても正しい性質です。
これらはカレントの保存:∂μjμ=0 からの帰結です。
すなわち,カレント保存の運動量空間での表現:kμjμ(k)=0
に起因しています。
あるいは,電磁場のゲージ不変性(gauge-invariance)から要求される
ことであると言ってもいいです。
何故なら,ゲージ変換(gauge transformatin):Aμ → Aμ-∂μΛ
の運動量空間での表現は,Aμ(k) → Aμ(k)+kμ{-iΛ(k)}
であり,場にkμに比例する因子を付け加えても最終の物理的結果
には何の変化も起こさないからです。
この結果を利用するために,
εμενJμν={(εpf)/(kpf)-(εpi)/(kpi)}2
と書きます。
{(εpf)/(kpf)-(εpi)/(kpi)}2
=εμ{pfμ/(kpf)-piμ/(kpi)}
×εν{pfν/(kpf)-piν/(kpi)}
ですから,
Jμν={pfμ/(kpf)-piμ/(kpi)}
×{pfν/(kpf)-piν/(kpi)} です。
このJμνは,確かにkμJμν=kνJμν=0 を満たします。
そして,εμενJμν={(εpf)/(kpf)-(εpi)/(kpi)}2
はLorentzスカラーであって,εμはベクトルですから,Jμνは
2階のテンソルです。
そこで,これらの表現は任煮のLorent系で共変的に評価できます。
特に,座標系の向きをkμ=(k0,k1,0,0);k0=k1=kとなる
ように取ります。
そして∂μAμ=0 or εμkμ=0 ですから,A0(x)=0
となるようにして,横波:A(x) (∇A=0)の2つの独立な
偏光ベクトルが,ε(1)μ=(0,ε(1))=(0,0,1,0),および,
ε(2)μ=(0,ε(2))=(0,0,0.1)となるように座標系の空間軸を
選択します。
すると,ΣpolεμενJμν=J22+J33=J00-J11-Jμμ
と書けます。
(※何故なら,Jμμ=ημνJμν=J00-J11-J22-J33 です。)
ところが,kμJμν=kνJμν=0 であって,
kμ=(k,k,0,0)より,kμ=(k,-k,0,0)
ですから,J0ν=J1ν,Jμ0=Jμ1 です。
よって,J00=J11により,ΣpolεμενJμν=-Jμμです。
右辺-Jμμは,任意のLorentz系で一定のスカラーです。
こうして偏光の総和は明白に共変な表現に置換されました。
これは,単に,
ka(k)=kμaμ(k)=0,kb(k)=kμbμ(k)=0 を満たす
任意の保存カレントaμ(k),bμ(k)に対して,
Σpol{εμ(k)aμ(k)}{εν(k)aν(k)}=-abが成立する
という意味です。
そこで,Σpol{(εpf)/(kpf)-(εpi)/(kpi)}2
=Σpol[εμ{pfμ/(kpf)-piμ/(kpi)}]
×[εν{pfν/(kpf)-piν/(kpi)}]
=-pf2/(kpf)2+2(pfpi)/{(kpf)(kpf)}-pi2/(kpi)2
=2(pfpi)/{(kpf)(kpf)}-m2/(kpf)2-m2/(kpi)2
が得られます。
したがって,観測される全偏光成分の軟光子の総和としての
制動輻射断面積は,
dσ/dΩf =(dσ/dΩf)elastic{α/(4π2)}kdkdΩk
Σpol{(εpf)/(kpf)-(εpi)/(kpi)}2θ(Ei-m+k)
=(dσ/dΩf)elastic{α/(4π2)}kdkdΩk
[2(pfpi)/{(kpf)(kpf)}-m2/(kpf)2-m2/(kpi)2]
θ(Ei-m+k)
となることがわかりました。
これを,全ての光子立体角Ωk,および,区間:
0<kmin≦k≦kmax<<Ei にわたるkで積分すると,
dσ/dΩf =(dσ/dΩf)elastic{α/(4π2)}
∫kminkmaxkdk∫dΩk
[2(pfpi)/{(kpf)(kpf)}-m2/(kpf)2-m2/(kpi)2]
=(dσ/dΩf)elastic(ε0α/π)ln(kmax/kmin)∫dΩk(4π)-1
[2(1-βfβi)/{(1-k^βf)(1-k^βi)}-m2/{Ef2(1-k^βf)2}
-m2/{Ei2(1-k^βi)2}]
を得ます。
ただし,βi=vi/c,βf=vf/cで,これらは今の自然単位(c=1)
では,入射電子と散乱電子の速度です。
そして,軟光子の極限:k=0 ではβf=βiなので,これをβと書くと
βfβi=β2cosθ (θは電子の散乱角)です。
そして,∫dΩk(4π)-1[m2/{E2(1-k^β)2}
=(m2/E2)(1/2)∫-11dz(1-βz)-2
=m2/{E2(1-β2)}=1です。
何故なら,β2=p2/E2より,1-β2=m2/E2だからです。
一方,Feynmanによって導入され,開発されたもう1つのトリック
の助けで,∫dΩk(4π)-1[2(1-βfβi)/{(1-k^βf)(1-k^βi)}
も容易に評価できます。
すなわち,このトリックは,容易に確かめられるように,
∫01dx{ax+b(1-x)}-2=1/(ab) なる公式です。
そこで,
∫dΩk(4π)-1[2(1-βfβi)/{(1-k^βf)(1-k^βi)}
=2(1-β2cosθ)∫01dx∫dΩk(4π)-1
[1-k^{βfx+(1-x)βi}-2
=2(1-β2cosθ)∫01dx[1-{βfx+(1-x)βi}2]-1
=2(1-β2cosθ)∫01dx{1-β2+4β2x(1-x)sin2(θ/2)}-1
を得ます。
したがって,低エネルギー散乱β<<1なら,
∫dΩk(4π)-1[2(1-βfβi)/{(1-k^βf)(1-k^βi)}
=2{1+(4/3)β2sin2(θ/2)}+O(β4) です。
一方,高エネルギー散乱:-q2>>m2,つまりm2/|q2|<<1の場合
なら,∫dΩk(4π)-1[2(1-βfβi)/{(1-k^βf)(1-k^βi)}
=2ln(-q2/m2)+O(m2/|q2|) です。
※(注17-1):β<< 1 なら,
{1-β2+4β2x(1-x)sin2(θ/2)}-1
=1+β2-4β2xsin2(θ/2)+4β2x2sin2(θ/2)+O(β4)
です。
故に,cosθ=1-2sin2(θ/2)より,
2(1-β2cosθ){1-β2+4β2x(1-x)sin2(θ/2)}-1
=2{1+(4/3)β2sin2(θ/2)}+O(β4) です。
一方,軟光子極限:Ef=Ei=Eでは,
q2=(pf-pi)2=-(pf-pi)2=-4E2β2sin2(θ/2)
です。
そこで,|p|=βEより,-q2>>m2のように運動量遷移
(momentum transfer):qが非常に大きいというのは,
p2>>m2を意味しており,このとき,E>>mです。
そこで,|p|=(E2-m2)1/2 ~ Eなので,
β=|p|/E ~ 1です。
正確な積分から,
2(1-β2cosθ)∫01dx{1-β2+4β2x(1-x)sin2(θ/2)}-1
=4(1-β2cosθ)[4β2sin2(θ/2){4β2sin2(θ/2)+4(1-β2)}]1/2
×ln|(4β2sin2(θ/2)+[4β2sin2(θ/2){4β2sin2(θ/2)
+4(1-β2)}]/2)/(4β2sin2(θ/2)-[4β2sin2(θ/2)
{4β2sin2(θ/2)+4(1-β2)}]1/2)| です。(数学公式集による。)
すなわち,2(1-β2cosθ)∫01dx
{1-β2+4β2x(1-x)sin2(θ/2)}-1
=4(1-β2cosθ)[4β2sin2(θ/2){4β2sin2(θ/2)+4(1-β2)}]-1/2
ln|(1+[1+(1-β2)/{β2sin2(θ/2)}]1/2)2β2sin2(θ/2)/(1-β2)|
となります。
ここで,δ2≡1-β2<<1とおきます。すると,β2=1-δ2です。
故に,2(1-β2cosθ)∫01dx{1-β2+4β2x(1-x)sin2(θ/2)}-1
=4{2sin2(θ/2)+δ2cosθ}[1/{4sin2(θ/2)
+O(δ2)ln|{2+O(δ2)}2β2sin2(θ/2)/δ2|
=2ln|4β2sin2(θ/2)}/δ2|+O(δ2)
を得ます。
また,δ2=1-β2=1-p2/E2=m2/E2であり,
O(δ2)=O(-m2/q2)ですから,
2(1-β2cosθ)∫01dx{1-β2+4β2x(1-x)sin2(θ/2)}-1
=2ln|4p2sin2(θ/2)]/m2|+O(δ2)
=2ln(q2/m2)+O(-m2/q2)=2ln(-q2/m2)+O(m2/|q2|)
です。
(注17-1終わり)※
こうして,軟光子放出の制動輻射の断面積は,
非相対論的エネルギー(N.R)では,
dσ/dΩf =(dσ/dΩf)elastic(2α/π)ln(kmax/kmin)
{(4/3)β2sin2(θ/2)+O(β4)} となり,
超相対論的エネルギー(E.R)では,
dσ/dΩf =(dσ/dΩf)elastic(2α/π)ln(kmax/kmin)
{ln(-q2/m2)-1+O(m2/|q2|)}
となることがわかります。
ここではこれ以上論じないですが,
kmin→ 0 におけるln(kmax/kmin)因子の赤外発散を相殺して
断面積の有限な値を得るために,因子(dσ/dΩf)elasticが
(dσ/dΩf)elastic→ (有限値)×{O(ln(kmax/kmin))}-1となる
ような弾性散乱の仮想光子輻射補正が必要です。
今日はここまでにします。
参考文献:J.D.Bjorken & S.D.Drell "Relativistic Quantum Mechanics"(McGraw-Hill)
PS:昨日は珍しく週末なのに,前夜,酒を飲み歩くことをしなくて,
今朝7時頃に目が覚めて,体が元気であると感じました。
そこで,急に将棋チェスネットの2チームが参加している社団戦
の応援にでも行こうと思い立ち,開始時間の朝10時を目指して会
場の浜松町へと向かいました。
10時20分過ぎにやっと目的地に着いて,知っているメンバーを見
つけたので観戦していました。
7人対戦して4人勝てばチームは勝ちなので4人いれば参加可能
ではあるのですが,どうもBチームは正式メンバーが5人しかいな
いみたいなので急遽2局目から飛び入りしました。
もう1人の飛び入りもあって,これは,将棋チェスネット1の方の
メンバーのお子さんで小学2年生の男児です。
実は,そんなこともあろうかと多少の色気もあって見に行ったの
ですが,結局,久しぶりの緊張感にちょっとハマってしまいました。
はじめの2番はすぐ負けましたが,最後の対戦だけは私の勝ちも
あってチームが4対3勝ちしたので少し貢献できたようです。
2次会は私はどうもおチャラケ気分の異端児なので,おジャマ虫
だったかも知れませんが。。。
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