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2010年7月26日 (月)

散乱の伝播関数の理論(17)(応用3-2)

 散乱の伝播関数の理論,制動輻射(Bremsstrahlung)の続きです。

 

さて,弾性散乱断面積因子:(dσ/dΩf)elasticのe2のオーダー

の輻射補正は次の2つのタイプの項から生じます。

 

すなわち,Coulomb場による電子2次散乱において,電子-陽子散乱

図7.4,図7.5に対応する項 → 下の参考図  

および,電子の輻射場を媒介とする自分自身との相互作用

の項です。

 

 後者の自己相互作用の寄与に対応するFeynman-diagramは下の

 図7.9示すように,電子から出発した2つの仮想光子

 (virtual photons)のうちの1つが,Coulomb源(=陽子)に着地

 する代わりに電子自身に戻ってくるようなグラフです。   

 実は,これらのグラフによる遷移振幅を計算すると,これも発散し,

 丁度,先のk=0 の実光子による赤外発散(infrared catastrophe)

 を正確に相殺する寄与を与えることがわかり,

  

 結局,これによってe2ののオーダーでの赤外発散の困難は除去

 されます。

  

 しかし,そうした項を計算するという非常に扱いにくい課題に取り

 組むには,より多くの訓練,経験で武装する必要があります。

 

 ここでは,これ以上深入りしません。

 

(※これら赤外発散の除去についての本ブログでのレヴューは,

 2006年12/16の記事「電流によって発生す光子の個数分布」,

 2006年12/19の記事「赤外発散の問題(エネルギーゼロの光子)

 の中などに示唆しています。よかったら,ご参照ください。※)

 

 さて,軟光子(soft-photon)制動輻射の微分断面積の式:

 dσ/dΩf ~ (dσ/dΩf)elastic{(2π)-32/(2ε0)}

kdkdΩk{(εpf)/(kpf)-(εpi)/(kpi)}2θ(Ei-m+k)

を離れる前に,この式で弾性極限のk=0 を除く光子のエネルギー

の区間ΔEに対する断面積の値を評価します。

 

 まず,Feynmanによる非常に便利な技巧を使って光子の偏極

 (polarization;偏光)にわたる総和を取ることから始めます。

 

 正確な散乱行列要素を再記すると,

 Sfi{-Ze3/(ε0V)3/2}2πδ(Ef+k0-Ei)(2k0)-1/2

 {m2/(Efi)}1/2(1/||2)

 u~(pf,sf)[(-iε){i/(f-m)}(-iγ0)

 +(-iγ0){i/(i-m)}(-iε)]u(pi,si)

 です。

 

 もしも,右辺の各項で因子ε=γμεμにおける光子の偏極(偏光):

 εμを4元運動量:kμに置き換えると,右辺は消えることに着目

 します。

 

これは,軟光子近似の断面積:

dσ/dΩf =(dσ/dΩf)elastic{(2π)-32/(2ε0)}

kdkdΩk{(εpf)/(kpf)-(εpi)/(kpi)}2θ(Ei-m+k)

においても正しい性質です。

 

 これらはカレントの保存:∂μμ0 からの帰結です。

 

 すなわち,カレント保存の運動量空間での表現:kμμ(k)=0

 に起因しています。

 

 あるいは,電磁場のゲージ不変性(gauge-invariance)から要求される

ことであると言ってもいいです。

  

何故なら,ゲージ変換(gauge transformatin):Aμ → Aμ-∂μΛ

の運動量空間での表現は,Aμ(k) → Aμ(k)+kμ{-iΛ(k)}

であり,場にkμに比例する因子を付け加えても最終の物理的結果

には何の変化も起こさないからです。

 

 この結果を利用するために,

 εμενμν{(εpf)/(kpf)-(εpi)/(kpi)}2

 と書きます。

  

 {(εpf)/(kpf)-(εpi)/(kpi)}2

 =εμ{pfμ/(kpf)-piμ/(kpi)}

 ×εν{pfν/(kpf)-piν/(kpi)}

 ですから,

 

 Jμν={pfμ/(kpf)-piμ/(kpi)}

 ×{pfν/(kpf)-piν/(kpi)} です。

  

このJμνは,確かにkμμν=kνμν=0 を満たします。

 

そして,εμενμν{(εpf)/(kpf)-(εpi)/(kpi)}2

はLorentzスカラーであって,εμはベクトルですから,Jμν

2階のテンソルです。

  

そこで,これらの表現は任煮のLorent系で共変的に評価できます。

 

特に,座標系の向きをkμ=(k0,k1,0,0);k0=k1=kとなる

ように取ります。

 

そして∂μμ0 or εμμ=0 ですから,A0(x)=0

となるようにして,横波:(x) (∇=0)の2つの独立な

偏光ベクトルが,ε(1)μ=(0,ε(1))=(0,0,1,0),および,

ε(2)μ=(0,ε(2))=(0,0,0.1)となるように座標系の空間軸を

選択します。

 

するとpolεμενμν=J22+J33=J00-J11-Jμμ

と書けます。

 

(※何故なら,Jμμ=ημνμν=J00-J11-J22-J33 です。)

 

ところが,kμμν=kνμν=0 であって,

μ=(k,k,0,0)より,kμ=(k,-k,0,0)

ですから,=J,Jμ0=Jμ1 です。

 

よって,J00=J11により,Σpolεμενμν=-Jμμです。

 

右辺-Jμμは,任意のLorentz系で一定のスカラーです。

 

こうして偏光の総和は明白に共変な表現に置換されました。

 

これは,単に,

ka(k)=kμμ(k)=0,kb(k)=kμμ(k)=0 を満たす

任意の保存カレントaμ(k),bμ(k)に対して,

Σpolμ(k)aμ(k)}{εν(k)aν(k)}=-abが成立する

という意味です。

 

そこで,Σpol{(εpf)/(kpf)-(εpi)/(kpi)}2

=Σpolμ{pfμ/(kpf)-piμ/(kpi)}]

×[εν{pfν/(kpf)-piν/(kpi)}]

=-pf2/(kpf)2+2(pfi)/{(kpf)(kpf)}-pi2/(kpi)2

=2(pfi)/{(kpf)(kpf)}-m2/(kpf)2-m2/(kpi)2

が得られます。

 

したがって,観測される全偏光成分の軟光子の総和としての

制動輻射断面積は,

dσ/dΩf =(dσ/dΩf)elastic{α/(4π2)}kdkdΩk

Σpol{(εpf)/(kpf)-(εpi)/(kpi)}2θ(Ei-m+k)

=(dσ/dΩf)elastic{α/(4π2)}kdkdΩk

[2(pfi)/{(kpf)(kpf)}-m2/(kpf)2-m2/(kpi)2]

θ(Ei-m+k)

となることがわかりました。

 

これを,全ての光子立体角Ωk,および,区間:

0<kmin≦k≦kmax<<Ei にわたるkで積分すると,

 

dσ/dΩf =(dσ/dΩf)elastic{α/(4π2)}

kminkmaxkdk∫dΩk

[2(pfi)/{(kpf)(kpf)}-m2/(kpf)2-m2/(kpi)2]

 

=(dσ/dΩf)elastic0α/π)ln(kmax/kmin)∫dΩk(4π)-1

[2(1-βfβi)/{(1-^βf)(1-^βi)}-m2/{Ef2(1-^βf)2}

-m2/{Ei2(1-^βi)2}]

を得ます。

 

ただし,βii/c,βff/cで,これらは今の自然単位(c=1)

では,入射電子と散乱電子の速度です。

  

そして,軟光子の極限:=0 ではβf=βiなので,これをβと書くと

βfβi=β2cosθ (θは電子の散乱角)です。

 

そして,∫dΩk(4π)-1[m2/{E2(1-^β)2}

=(m2/E2)(1/2)∫-11dz(1-βz)-2

=m2/{E2(1-β2)}=1です。

 

何故なら,β22/E2より,1-β2=m2/E2だからです。

 

一方,Feynmanによって導入され,開発されたもう1つのトリック

の助けで,∫dΩk(4π)-1[2(1-βfβi)/{(1-^βf)(1-^βi)}

も容易に評価できます。

 

すなわち,このトリックは,容易に確かめられるように,

01dx{ax+b(1-x)}-2=1/(ab) なる公式です。

 

そこで,

∫dΩk(4π)-1[2(1-βfβi)/{(1-^βf)(1-^βi)}

=2(1-β2cosθ)∫01dx∫dΩk(4π)-1

[1-^{βfx+(1-x)βi}-2

=2(1-β2cosθ)∫01dx[1-{βfx+(1-x)βi}2]-1

=2(1-β2cosθ)∫01dx{1-β2+4β2x(1-x)sin2(θ/2)}-1

を得ます。

 

したがって,低エネルギー散乱β<<1なら,

∫dΩk(4π)-1[2(1-βfβi)/{(1-^βf)(1-^βi)}

=2{1+(4/3)β2sin2(θ/2)}+O(β4) です。

 

一方,高エネルギー散乱:-q2>>m2,つまりm2/|q2|<<1の場合

なら,∫dΩk(4π)-1[2(1-βfβi)/{(1-^βf)(1-^βi)}

=2ln(-q2/m2)+O(m2/|q2|) です。

 

(注17-1):β<< 1 なら,

 {1-β2+4β2x(1-x)sin2(θ/2)}-1

 =1+β2-4β2xsin2(θ/2)+4β22sin2(θ/2)+O(β4)

 です。

 

 故に,cosθ=1-2sin2(θ/2)より,

 2(1-β2cosθ){1-β2+4β2x(1-x)sin2(θ/2)}-1

 =2{1+(4/3)β2sin2(θ/2)}+O(β4) です。

 

一方,軟光子極限:Ef=Ei=Eでは,

2=(pf-pi)2=-(fi)2=-4E2β2sin2(θ/2)

です。

  

そこで,||=βEより,-q2>>m2のように運動量遷移

(momentum transfer):qが非常に大きいというのは,

2>>m2を意味しており,このとき,E>>mです。

 

そこで,||=(E2-m2)1/2 ~ Eなので,

β=||/E ~ 1です。

 

正確な積分から,

2(1-β2cosθ)∫01dx{1-β2+4β2x(1-x)sin2(θ/2)}-1

=4(1-β2cosθ)[4β2sin2(θ/2){4β2sin2(θ/2)+4(1-β2)}]1/2

×ln|(4β2sin2(θ/2)+[4β2sin2(θ/2){4β2sin2(θ/2)

+4(1-β2)}]/2)/(4β2sin2(θ/2)-[4β2sin2(θ/2)

{4β2sin2(θ/2)+4(1-β2)}]1/2)| です。(数学公式集による。)

 

すなわち,2(1-β2cosθ)∫01dx

{1-β2+4β2x(1-x)sin2(θ/2)}-1

=4(1-β2cosθ)[4β2sin2(θ/2){4β2sin2(θ/2)+4(1-β2)}]-1/2

ln|(1+[1+(1-β2)/{β2sin2(θ/2)}]1/2)2β2sin2(θ/2)/(1-β2)|

となります。

 

ここで,δ21-β2<<1とおきます。すると,β2=1-δ2です。

 

故に,2(1-β2cosθ)∫01dx{1-β2+4β2x(1-x)sin2(θ/2)}-1

=4{2sin2(θ/2)+δ2cosθ}[1/{4sin2(θ/2)

+O(δ2)ln|{2+O(δ2)}2β2sin2(θ/2)/δ2|

=2ln|4β2sin2(θ/2)}/δ2|+O(δ2)

を得ます。

 

また,δ21-β2=1-2/E2=m2/E2であり,

O(δ2)=O(-m2/q2)ですから,

2(1-β2cosθ)∫01dx{1-β2+4β2x(1-x)sin2(θ/2)}-1

=2ln|42sin2(θ/2)]/m2|+O(δ2)

=2ln(2/m2)+O(-m2/q2)=2ln(-q2/m2)+O(m2/|q2|)

です。

 

(注17-1終わり)※

 

 こうして,軟光子放出の制動輻射の断面積は,

 

 非相対論的エネルギー(N.R)では,

 dσ/dΩf =(dσ/dΩf)elastic(2α/π)ln(kmax/kmin)

 {(4/3)β2sin2(θ/2)+O(β4)} となり,

 

 超相対論的エネルギー(E.R)では,

 dσ/dΩf =(dσ/dΩf)elastic(2α/π)ln(kmax/kmin)

 {ln(-q2/m2)-1+O(m2/|q2|)}

 となることがわかります。

  

 ここではこれ以上論じないですが,

 

 kmin→ 0 におけるln(kmax/kmin)因子の赤外発散を相殺して

 断面積の有限な値を得るために,因子(dσ/dΩf)elastic

 (dσ/dΩf)elastic→ (有限値)×{O(ln(kmax/kmin))}-1となる

ような弾性散乱の仮想光子輻射補正が必要です。

 

今日はここまでにします。

 

参考文献:J.D.Bjorken & S.D.Drell "Relativistic Quantum Mechanics"(McGraw-Hill)

 

PS:昨日は珍しく週末なのに,前夜,酒を飲み歩くことをしなくて,

 今朝7時頃に目が覚めて,体が元気であると感じました。

   

 そこで,急に将棋チェスネットの2チームが参加している社団戦

 の応援にでも行こうと思い立ち,開始時間の朝10時を目指して会

 場の浜松町へと向かいました。

  

 10時20分過ぎにやっと目的地に着いて,知っているメンバーを見

 つけたので観戦していました。

 

 7人対戦して4人勝てばチームは勝ちなので4人いれば参加可能

 ではあるのですが,どうもBチームは正式メンバーが5人しかいな

 いみたいなので急遽2局目から飛び入りしました。

  

 もう1人の飛び入りもあって,これは,将棋チェスネット1の方の

 メンバーのお子さんで小学2年生の男児です。

 

 実は,そんなこともあろうかと多少の色気もあって見に行ったの

 ですが,結局,久しぶりの緊張感にちょっとハマってしまいました。

 

 はじめの2番はすぐ負けましたが,最後の対戦だけは私の勝ちも

 あってチームが4対3勝ちしたので少し貢献できたようです。

 

 2次会は私はどうもおチャラケ気分の異端児なので,おジャマ虫

 だったかも知れませんが。。。

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