共形場理論(2)
共形場理論の続きです。
1.3 Wickの定理
AをP=∂/∂x,Q=xの生成する非可換代数とします。他方,p,qを可換な変数としてF(p,q)をp,qの任意の多項式とします。
F(p,q)においてp→P=∂/∂x,q→Q=xに置き換えてFをAの元として読み直すことがSchrödingerに始まる伝統的な量子化の方法です。
ただし,この量子化は一意的ではなく例えばF=pqならFをpqと見るか,またはqpと見るかによってpq→PQ=QP+1,またはqp→QPという違いが生じます。
こうした不定性を固定する1つの処方箋として記号: :で表わされる正規積(normal-ordering)があります。
正規積とは,可換量F(p,q)に対して非可換量:F(p,q):∈Aを定義して対応させるものです。この対応F→:F:はP,Qそれぞれに対する線形性,および次の関係式によって定義されます。
すなわち,:qF(p,q):=Q:F(p,q):, :F(p,q)p:=:F(p,q):P,:1:=1 なる関係式です。
上記においては,説明の都合上,可換量p,qと非可換量P,Qの記号を小文字と大文字で区別しました。
しかし,今のp,qとP,Qのみの作用素代数Aの場合,正規積を取るとはp,qをそれぞれP,Qに置き換えながらQを左にPを右にという順序にする操作を行なうことなので,混乱のおそれがないなら両者に同じ記号を用いて差し支えないです。
以下では,全ての変数をP,Qのみで表わします。
例えば,:(P+Q)2:=:P2+2PQ+Q2:=P2+2QP+Q2といった具合いです。
以上の話は,変数が{Qi,Pi}(i∈I)から成るときのように,変数P,Qの組が複数ある場合も同様です。
そして,A≡Σi∈I(uiPi+viQi) (ui,vi∈C)について,これをA=A++A-,A+≡Σi∈IuiPi,A-≡Σi∈IviQiと分解します。
この記号を,Pi,Qjの任意の線形結合A,Bに適用したとき,c(A,B)≡[A+,B-]と定義して,これをA,Bの縮約(contraction)といいます。
ここで,正規積と縮約に関する重要な"Wickの定理"を与えます。
[Wickの定理]:Pi,Qiの任意の線形結合A,Bに対して:exp(A)::exp(B):=exp{c(A,B)}:exp(A+B):が成立する。
(証明):正規積の定義から:exp(A):=:exp(A++A-):=exp(A-)exp(A+)です。
同様に:exp(B):=exp(B-)exp(B+)です。
それ故,:exp(A)::exp(B):=exp(A-)exp(A+)exp(B-)exp(B+)が成立します。
そして,Pi,Qiの線形結合A,Bについては[A+,B-]がA+,B-の両方と可換なので,既に求めた公式によりexp(A+)exp(B-)=exp[A+,B-]exp(B-)exp(A+)={c(A,B)}exp(B-)exp(A+)です。
また,A-とB-,およびA+とB+は明らかに可換なので:exp(A+B):=exp(A-+B-)exp(A++B+)=exp(A-)exp(B-)exp(A+)exp(B+)です。
よって,定理の結論である:exp(A)::exp(B):=exp{c(A,B)}:exp(A+B):が得られました。(証明終わり)
(系):Ar(r=1,2,..)をPi,Qi(i∈I)の線形結合とする。
xr,yr∈CをパラメータとしてA≡ΣrxrAr,B≡ΣryrArと置くと,:exp(A)::exp(B):=:exp(ΣrxrAr)::exp(ΣsysAs):=exp{Σr,sxrysc(Ar,As)}:exp{Σr(xr+yr)Ar}:である。
この命題は自明なので証明は省略します。
得られた式:exp(ΣrxrAr)::exp(ΣsysAs):=exp{Σr,sxrysc(Ar,As)}exp{Σr(xr+yr)Ar}の両辺をxr,ys etc.で何回か微分してx=y=0 と置けば,次の便利な関係式も得られます。
:Ar::AsAt:=c(Ar,As):At:+c(Ar,At):As:+:ArAsAt:,:ArAs::AtAu:=c(Ar,As)c(At,Au)+c(Ar,Au)c(As,At)+c(Ar,At):AsAu:+c(Ar,Au):AsAt:+c(As,At):ArAu:+c(As,Au):ArAt:+:ArAsAtAu:などです。
また,Wickの定理の結論式:exp(A)::exp(B):=exp{c(A,B)}:exp(A+B):から,:exp(A1)::exp(A2)::exp(A3):=exp{c(A1,A2)}:exp(A1+A2)::exp(A3):=exp{c(A1,A2)}exp{c(A1+A2,A3)}:exp(A1+A2+A3):=exp{c(A1,A2)+c(A1,A3)+c(A2,A3)}:exp(A1+A2+A3):です。
したがって,一般にΠr=1n:exp(Ar):=[Πs<texp{c(As,At)}]:{Πr=1nexp(Ar)}:を得ます。
この式で,Ar→xrArなる置き換えをした後,両辺のx1x2..xrの係数を比較すると,A1A2..Ar=Σ{Π対c(Ai,Aj):Π残りAr:}なる恒等式が得られます。
ただし,右辺の和は{1,2,..,r}を幾つかの対(i1,j1),(i2,j2),..と残りの{r1,r2,..}に分割する全ての分け方にわたって取ります。
短いですが今日はここまでです。
参考文献:山田泰彦 著「共形場理論入門」(培風館)
PS:7/17,18は毎年恒例の将棋チェスネットのお泊りオフです。
今年は三保の「三保園ホテル」です。17日朝8時20分に東京駅八重洲口から出る東名高速バスで向かう予定です。
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コメント
アマサイさん
>相手にしてほしくて仕方がない、かまってオジサンなのですから、凡人という奴は。
相手にしていただいて、ありがとうございます。
>また、読めもしない解説URLをもってきて、くだらない文章を翻訳ソフトにかけて貼り付けるのでしょう。
リクエストにお答えします。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jps/jps/butsuri/50th/50%282%29/50th-p90.html
>ネットホームレスです。
You aren't despising the persons who were dropped to the network homeless by the Internet, are you?
投稿: 凡人 | 2010年7月31日 (土) 15時34分
サンガツさん、もういいですよ。相手にしてほしくて仕方がない、かまってオジサンなのですから、凡人という奴は。坂田博士、益川博士の名前は知っていても、業績など何も知らないのです。というと、また、読めもしない解説URLをもってきて、くだらない文章を翻訳ソフトにかけて貼り付けるのでしょう。もう、それでいくつものブログ、掲示板の出入り禁止になっているのですから。ネットホームレスです。
投稿: アマサイ | 2010年7月31日 (土) 13時47分
サンガツさんの為に一応いっておきますが、「小鼻ふくらましてる」のは、寧ろサンガツさんのほうではないですか?
↓には、「小鼻をふくらませる」は、「いかにも不満な様子。」と書いてありましたよ。
http://www.h3.dion.ne.jp/~urutora/kannyouku2.htm
投稿: 凡人 | 2010年7月31日 (土) 00時30分
そういうのを独りよがりと言うんですよ。あなたは深い教養に裏打ちされた冗談!オレカッコイイ! と思って小鼻ふくらましてるのかもしれませんが冗談は相手に伝わらないと意味が無いです。マイナーな話題を出して、それが相手に伝わらなければ相手の知識不足のせいにするのはナンセンス。あなたのはただの知識のひけらかしです。
投稿: サンガツ | 2010年7月29日 (木) 12時10分
>九条についての講演をきいてQCDについて理解できると考えるなんて馬鹿げてます。冗談にもなってません。
一応冗談になっていたんですねー。これが・・・
私が先にTOSHIさんに質問していた、
>こちらの講演会を聴講すると、QCDを理解し易くなるというような事は有り得ますでしょうか?
といっていたQCDというのは、Que Clause Declarationの略だったんですねー。
そして、
>少なくとも、坂田学派と益川敏英博士を尊敬している人であれば、私が言いたい内容は、理解出来るはずですよ。
というのは、「物理」を目差していて、且つ、坂田学派と益川敏英博士を尊敬していれば、このレベルの冗談はご理解頂けると思ったんです。
TOSHIさん、サンガツさん、大変申し訳ございませんでした。
投稿: 凡人 | 2010年7月28日 (水) 22時26分
僕は理解したい理論があれば教科書や論文をよみます。誰かを尊敬することと理論の理解が進むことは全くべつです。大体下に書いてある講演の内容は九条についてでしょう? 九条についての講演をきいてQCDについて理解できると考えるなんて馬鹿げてます。冗談にもなってません。
投稿: サンガツ | 2010年7月28日 (水) 18時20分
少なくとも、坂田学派と益川敏英博士を尊敬している人であれば、私が言いたい内容は、理解出来るはずですよ。
もしかして、私と意志が疎通しないのは、サンガツさんが、坂田学派と益川敏英博士を尊敬していないからではないですか?
投稿: 凡人 | 2010年7月28日 (水) 07時12分
ひとりよがりな思わせぶりな文で意思疎通できると思ってんですか?終わっとる
投稿: サンガツ | 2010年7月28日 (水) 02時11分
サンガツさん
>その鬱陶しい質問と胸のむかつくような返事はワザとなんですか?
「物理」を志してるなら、坂田学派と益川敏英博士を尊敬してますよね?
http://www.phys.nagoya-u.ac.jp/ex/2008/kobayashi-maskawa.html
投稿: 凡人 | 2010年7月27日 (火) 09時20分
>いずれにしろそういう講演会があるかも知りませんが,
ソースはこちらです。
http://www.google.co.jp/search?hl=ja&q=%E3%81%8A%E3%81%97%E3%81%88%E3%81%A6%E7%9B%8A%E5%B7%9D%E3%81%95%E3%82%93%EF%BC%81%E7%A7%91%E5%AD%A6%C3%97%EF%BC%99%E6%9D%A1+%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%AB%E7%89%A9%E7%90%86%E5%AD%A6%E8%B3%9E+%E7%9B%8A%E5%B7%9D%E6%95%8F%E8%8B%B1%E6%95%99%E6%8E%88%E8%AC%9B%E6%BC%94%E4%BC%9A&aq=f&aqi=&aql=&oq=&gs_rfai=
投稿: 凡人 | 2010年7月22日 (木) 23時38分
↓その鬱陶しい質問と胸のむかつくような返事はワザとなんですか?
投稿: サンガツ | 2010年7月20日 (火) 10時28分
TOSHIさん
何処にも当たり障りが無いご回答をいただき、有難うございました。
投稿: 凡人 | 2010年7月19日 (月) 21時46分
凡人さん,いつもコメントありがとうございます。TOSHIです。
>こちらの講演会を聴講すると、QCDを理解し易くなるというような事は有り得ますでしょうか?
わかりません。
いずれにしろそういう講演会があるかも知りませんが,そうした事が100%有り得ないという自信はありません。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2010年7月19日 (月) 19時43分
T_NAKAさん,Kimballさん。またまた訂正コメントありがとうございます。直しておきました。
旅のご心配もありがとうございました。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2010年7月19日 (月) 19時25分
TOSHIさん
共形場理論は難しすぎてチンプンカンプンなんですが、こちらの講演会を聴講すると、QCDを理解し易くなるというような事は有り得ますでしょうか?
おしえて益川さん!科学×9条 ノーベル物理学賞 益川敏英教授講演会
とき 2010年7月31日(土)14時~
ところ 〒101-8301 東京都千代田区神田駿河台1-1 御茶ノ水駅 下車徒歩3分
明治大学(駿河台校舎)リバティタワー1階 リバティホール
資料代 一般 500円 学生 300円
主催 「おしえて益川さん!~科学×9条~」実行委員会・明大学生9条の会・明大九条の会
共催 千代田九条の会・Peace Night 9 実行委員会
投稿: 凡人 | 2010年7月18日 (日) 22時49分
正規積(normal-ordring)は"ordering"のタイプミスですね?
----
つまらんことですみません。
でも、初学者としては、そういう
用語もあるのかもと思ってしまうので。
m(__)m
投稿: Kimball | 2010年7月17日 (土) 11時08分
なるほど、縮約を機械的に「微視的因果」としてしていましたが、交換関係という本来の意味で括り出すというのが良く理解できました。やはり、基礎から考えないといけないようですね。しかし、我流では exp で考えるという方法論は出てこないですね。
さてちょっと、遅れましたが、良い旅になることをお祈りいたします。いってらっしゃい。
なお、以下がタイプミスと思われます。
>例えば,:(P+Q)2:=:P2+2PQ+Q2:=:P2+2QP+Q2といった具合いです。
正「=P2+2QP+Q2」
「:」が余分
>==exp{c(A1,A2)+c(A1,A3)+c(A2,A3)}:exp(A1+A2+A3):です。
正「=exp{c(A1,A2)+c(A1,A3)+c(A2,A3)}:exp(A1+A2+A3):」
「=」が余分
投稿: T_NAKA | 2010年7月17日 (土) 09時19分