共形場理論(4)
共形場理論の続きです。
今日は量子論ではスピンが半奇数のFermi粒子に対応するグラスマン(Grassmann)代数の話です。
以下には,古典的反可換量という記述がありますが量子論の反可換量(Grassmann数)に対応する古典量は存在しないはずです。
ベクトル積(外積):a×bや面積要素:dSz=dx∧dyのような微分形式を想像すれば古典的対応物が無いとは言い切れませんが。。
1.5 反交換子
量子論では[A,B]=AB-BAは古典的には可換な量A,Bの量子論的非可換性の度合いを表わしていました。このように,古典的には可換な量はbosonといわれます。
これに対してfermionといわれる古典的には反可換な量も重要です。ただしA,Bが反可換であるとはBA=-ABなることをいいます。
量子化されたfermionの非反可換性を表わすものとして,ある代数Aに属する任意のA,Bの反交換子(anti-commutator):[A,B]+を,[A,B]+≡AB+BAで定義します。
反交換子も交換子と似た次の基本性質を持ちます。
◎(反交換子の性質):A,B,C∈A,およびa,b,c∈Cに対して次式が成立する。
(ⅰ)双線形性:[aA+bB,C]+=a[A,C]++b[B,C]+,[A,bB+cC]+=b[A,B]++c[A,C]+,
(ⅱ)対称性:[A,B]+=[B,A]+,
(ⅲ)Jacobiの恒等式:
[A,[B,C]+]+[B,[C,A]+]+[C,[A,B]+]=0,
(ⅳ)Leibniz則:[A,BC]=[A,B]+C-B[A,C]+
交換子の場合同様,成立は自明なのでこれらの証明はしません。
A,B,Cが全て互いに反可換な量なら,ABC=-ACB=CABなのでABとCは可換になります。
そこで,偶数個のfermionの積はbosonと考えるのが自然です。
次に,写像δ:A→Aが線形でδ(AB)=δ(A)B+(-1)|A|Aδ(B)を満たすとき,δを代数Aの反微分(anti-derivative)といいます。
ただし,Leibnitz則に対応する式での記号|A|はAの偶奇性(パリティ)を示すものです。この数|A|はAのパリティが±=(-1)|A|となるように定義されます。
つまり,Aがboson的なら|A|=0,fermion的なら|A|=1です。
bosonにおける微分で述べた演算:adA:B→[A,B]をfermionを含む場合に拡張して,adA:B→AB-(-1)|B|BA と書けば,この演算は1つの微分,または反微分と見なせます。
そして,一般公式:δ(B1B2..Bn)=Σi=1n{(-1)|B1..Bi-1|B1..Bi-1δ(Bi)Bi+1..Bn}も得られます。
bosonやfermionを同時に含む系をまとめて扱うために,想定している代数Aをboson(偶)とfermion(奇)の2つの階級に分けます。
すなわち,A≡A0+A1と直和分割します。ただし,A0,およびA1は,それぞれ,fermion生成元を偶数個,および奇数個含む項のみの和からなる代数です。
こうすれば,A∈Ai (i=0,1)に対して|A|=iとなります。
この一般的設定の下で,再度Wickの定理を述べておきます。
Aの生成元:ai^ (i∈J)には,それぞれ偶奇性:|ai^|∈{0,1}が定まっているとし,それらは交換関係,または反交換関係:[ai^,aj^]±=hijに従うとします。
ただし,[A,B]±≡AB-(-1)|B|BAであり,hij∈Cは|ai^||aj^|の偶奇に応じ,添字について反対称,または対称です。
すなわち,hijはhji=(-1)|ai^||aj^|hijなる対称性を持ちます。
Aの生成元:ai^ (i∈J)の線形結合全体をWとし,W+の元同士は反可換,W-の元同士は可換であるようなWの直和分解:W=W++W-があるとします。
全てのhijをゼロとおいてAを反可換化,かつ可換化した代数をAcとします。(※AcはAの元に対応する古典的量から成る代数です。※)
そして,AcからAへの線形な写像: :をP∈Ac,a^±∈W±に対して:a-^P:=a-^:P:,:Pa+^:=:P:a+^, :1:=1 なる性質によって定義します。
この写像: :を改めて正規積(normal-ordering)と呼びます。
さらに,∀a^∈WのW±への分割をa^=a+^+a-^ (a±^∈W±)と表わして,縮約c(a^,b^)をc(a^,b^)≡[a+^,b-^]±と定義します。
これらを用いると,一般的なWickの定理を述べることができます。
※共形場理論(2)で述べたWickの定理は次のようなものでした。
[Wickの定理]:Pi,Qiの任意の線形結合A,Bに対して:exp(A)::exp(B):=exp{c(A,B)}:exp(A+B):が成立する。
そして,これのより便利な形式は次の系です。
(系):Ar(r=1,2,..)をPi,Qi(i∈I)の線形結合とする。xr,yr∈CをパラメータとしてA≡ΣrxrAr,B≡ΣryrArと置くと,:exp(A)::exp(B):=:exp(ΣrxrAr)::exp(ΣsysAs):=exp{Σr,sxrysc(Ar,As)}:exp{Σr(xr+yr)Ar}:である。※
さて,互いに反可換,可換なパラメータxr,ys (r,s∈J)を用意します。r∈Jに対してxr,yrはar^と同じ偶奇性を持ち,かつ[xr,as^]=[yr,as^]=0とします。
このとき,xr,ys (r,s∈J)はboson的作用素と考えることができて,:exp(Σrxrar^)::exp(Σsysas^):=exp{Σr,sxrysc(ar^,a-s^)}:exp{Σr(xr+yr)ar^}:が成り立ちます。
これは上記のWickの定理の系と全く同じものです。
前と同様,:exp(Σrxrar^)::exp(Σsysas^):=exp{Σr,sxrysc(ar^,as^)}exp{Σr(xr+yr)ar^}の両辺をxr,ys etc.で何回か微分してx=y=0と置けば,
:ar^::as^at^:=c(ar^,as^):at^:±c(ar^,at^):as^:±:ar^as^at^:,そして,:ar^as^::at^au^:=±c(ar^,as^)c(at^,au^)±c(ar^,au^)c(as^,at^)±c(ar^,at^):as^au^:±c(ar^,au^):as^at^:±c(as^,at^):ar^au^:±c(as^,au^):ar^at^:±:ar^as^at^au^:などを得ます。
ここで,±はar^ etc.の順序の違いによって生ずる符号です。
例えば,±c(ar^,at^)c(as^,au^)では左辺の:ar^as^::at^au^:と比べas^,at^の順序が変わっているので,対応する符号±は(-1)|as^||at^|で与えられます。
このように,fermionを含む場合でもWickの定理はbosonの場合とほぼ同じであり,違いはfermion(Grassmann数)の順序の違いによる符号のみに現われます。
今日はここまでです。
参考文献:山田泰彦 著「共形場理論入門」(培風館)
PS:今日も暑かったです。帰宅途中の小石川植物園の世界最大の花は今日も咲かなかったとの掲示がありました。(※その後,夕方から23日朝にかけて開花したらしいですね。)
昨日が仕事に通い始めてから1ヶ月でした。今のところ皆勤です。
そして,なんと高校野球岡山県予選準々決勝で私の母校金光学園も父の母校岡山東商も共に1点差で惜敗しました。
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コメント
Terrific work! This is the type of information that should be shared around the web. Shame on the search engines for not positioning this post higher!
投稿: pharmacy tech | 2010年8月 9日 (月) 05時06分
T_NAKAさん,ありがとうございます。TOSHJです。直しました。
前の「共形理論(3)」のレスで書き漏らしましたが頂点については2008年11/23の記事「超弦理論(7)(弦の相互作用と頂点演算子)」を参照してください。
http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2008/11/7-cae2.html
記事を書いた当時はまったく図を入れてませんがおいおい図を入れて修正する予定です。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2010年7月23日 (金) 18時04分
[ , ]+ というのが表現し難いので、{ , }と表現させていただきますが、
(ⅰ)双線形性: … , {A,bB+cC}=b{A,B}+c{A,C},
ではないでしょうか?
なにが言いたいかと言うと、[ , ]の下添え字としての+が抜けているのではないか?という疑問です。
投稿: T_NAKA | 2010年7月23日 (金) 12時22分