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2010年7月14日 (水)

共形場理論(1)

 昨日(7/13)に記事予告として次のように書きました。

※たまには私自身の60の手習いということで,はじめて読む本で勉強する過程をそのままブログ記事にします。

 山田泰彦著「共形場理論入門」(培風館)を読みます。

 ただし,今から早い夕食を取って主話教室に行く予定です。

 それが終わって帰宅して,テキストを読みつつワードに草稿を書いた後にアップする予定なので初稿は恐らく明日です。※

と書きました。

 今日(7/14)に,上記に予定した記事を開始します。

 まず,唐突に共形場理論(conformal field theory)と言われても何のこと?と思われる諸兄もおられるかと思います。まあ,私自身もこれは定義からして,ややあやふやな概念です。

共形場の定義は,"共形変換(conformal transformation)に対して不変な場を共形場という。"というものですが,これは単に共形場を共形変換に言い換えたに過ぎません。

 

これでは単に,"共形変換とは何か?"という疑問に置き換えられただけです。

共形というのは形を保存すると読めますから,共形変換とは小さい円を大きい円に写す,あるいはその逆のような単なるスケール変換(Weyl変換)と平行移動のことではないか?と想像されます。

 

しかし,これは大域的意味の形保存であり局所的には複素関数論で御馴染みの等角写像のことを指します。

つまり,空間のある点で交わる任煮の2曲線の交角(=接線同士のなす角)が変換の前後で保存されるような写像(等角写像)を与える変換のことを共形変換と呼び,これはスケール変換,平行移動も含みます。

複素関数論によれば,2次元の複素平面上での解析関数と等角写像は同義でしたね。

 

さて,これ以上の話は先走ることなく参考テキストの"はしがき"をそのまま引用します。

2次元の共形場理論は1984年にBelavin-Polyakov-Zamolodchikovによる画期的論文以降,多くの数学者,物理学者により集中的に研究が進められ,1990年頃までにはほぼ基本的な結果が出そろったといえます。

その成果は2次元の臨界現象の記述や弦理論などへの物理的応用はもちろん,表現論や可積分系,位相的場の理論などその後の数学に与えた影響も少なくありません。

 

共形場理論そのものの研究は現在では少なくなっていますが,基本的結果や方法は,その後の数理物理の飛躍的進展の中で繰り返し活用されています。

 このように,著者が導入部の序文に述べている要約的内容において読者には曖昧と思える概念があっても,一般にPendingにして疑問を抱いたままで本文を地道に読んで反芻しているうち概念に対する疑問は次第に氷解していくことが多いです。

 

 そこで,とにかく本文に入りましょう。

第1章:作用素の代数(algebra of operators)

1.1交換子(commutator)

非可換な代数(non-Abelian algebla)を考えます。代数(多元環)ですから,をある数体として∀A,B∈,∀c∈に対して和A+B,積AB,スカラー陪cA∈が定まります。

 

そして,これらには結合則,分配則が成り立ちます。

∀A,B∈に対して[A,B]≡AB-BAと書いて.これをA,Bの交換子と呼びます。一般に交換子は非可換代数:の非可換性の度合いを示す量です。

 

ただし,以下ではを複素数体に限定します。すると交換子は以下の性質を有することがわかります。

◎[交換子の性質]:∀A,B,C∈,および∀a,b,c∈に対して次式が成立する。

(ⅰ)双線形性:[aA+bB,C]=a[A,C]+b[B,C],[A,bB+cC]=b[A,B]+c[A,C],

(ⅱ)反対称性:[A,B]=-[B,A],

(ⅲ)Jacobiの恒等式:[A,[B,C]]+[B,[C,A]]+[C,[A,B]]=0,(ⅳ)Leibniz則:[A,BC]=[A,B]C+B[A,C]

 これらは,量子論の計算などにおいて既知の性質であり,ほぼ自明なので証明は省略します。

[定義]:ベクトル空間において,括弧積とよぶ演算:[ , ]:×が与えられ,これが∀A,B,C∈,∀a,b,c∈に対して上記性質(ⅰ),(ⅱ),(ⅲ)を満たすとき,をLie代数という。

 一般のLie代数に対して,[A,B]=AB-BAという式が意味を持つような非可換代数が普遍的に構成されます。これを()と書いて,の普遍包絡環(universal ring)という。

※つまり,元の演算:[ , ]:×に関して定義されたLie環に対して,その元A,B∈の交換子:AB-BAを改めて代数()を定める演算:[A,B]=AB-BA:()→(()と定義して新たなLie代数()が得られます。

  

 これをの普遍包絡環というわけです。※

 次に,線形変換δ:でA,B∈に対してδ(AB)=δ(A)B+Aδ(B)を満たすものをの微分といいます。

普遍包絡環の上では交換子が性質(ⅳ)のLeibniz則を満たすので,交換子のこの性質と線形性から「交換子をとる。」という演算:adA:B→[A,B]を一種の微分と見なせます。(adAはadjoint of Aと読みます。)

実際,交換子は微分と同じ以下の性質を持ちます。

すなわち,[A,B12..Bn]=Σi=1m1..Bi-1[A,Bi]Bj+1..Bnです。そして特に,[A,B2]=[A,B]B+B[A,B],[A,B3]=[A,B]B2+B[A,B]B+B2[A,B]です。

もしも,Bに逆元B-1がある場合には[A,B-1]=[A,B-1BB-1]=[A,B-1]+B-1[A,B]B-1+[A,B-1]により,[A,B-1]=-B-1[A,B]B-1が成立します。

そこで,特にBと[A,B]が可換:[[A,B],B]=0 なら,[A,Bn]=n[A,B]Bn-1です。

これらの性質による次の有用な公式を与え証明しておきます。

:exp(A)Bexp(-A)=exp(adA)(B)=Σn=0(1/n!)(adA)n(B);ただし,(adA)n(B)=[A,[A,..,[A,[A,B]..]](括弧はn重)。

(証明):F=F(t)≡exp(tA)Bexp(-tA)と置くと,dF/dt=exp(tA)[A,B]exp(-tA)=exp(tA)(adA)(B)exp(-tA),d2F/dt2=exp(tA)[A,[A,B]]exp(-tA)=exp(tA)(adA)2(B)exp(-tA)です。

 

 それ故,dnF/dtn=exp(tA)(adA)n(B)exp(-tA)です。よって,[dnF/dtn]t=0=(adA)n(B)です。

 

 したがって,Taylorの展開定理によって,F(t)=Σn=0(tn/n!)(adA)n(B)を得ます。

 

 これにt=1を代入すると,F(1)=exp(A)Bexp(-A)=Σn=0(1/n!)(adA)n(B)=exp(adA)(B)です。(証明終わり)

 そこで,もしもAと[A,B]が可換:[A,[A,B]]=0 ならexp(A)Bexp(-A)=B+[A,B]です。

 また,B∈に対してB≡exp(A)Bexp(-A)=exp(adA)(B)と定義すれば,(B+C)=B+C,(BC)=Bとなり,写像:exp(adA):は代数の1つの同型を与えることがわかります。

 これらのことから,一般の性質の良い関数fについて,[f(B)]=f(B)が成立します。

 したがって,特にexp(A)exp(B)exp(-A)=exp(B)=exp{exp(adA)(B)}=exp{B+[A,B]+(1/2)[A,[A,B]]+..}です。

もしも,Aと[A,B]が可換:[A,[A,B]]=0 なら,exp(A)exp(B)exp(-A)=exp{B+[A,B]}です。

 

さらに,Bと[A,B]も可換:[B,[A,B]]=0 なら,上記の式の右辺はexp[A,B]exp(B)と書けますから,exp(A)exp(B)=exp[A,B]exp(B)exp(A)です。

1.2 微分作用素の代数

行列以外に交換子の活躍する典型的具体例を挙げます。

n変数:x1,x2,..,xnの多項式の全体を[x1,x2,..,xn],または単に[];=(x1,x2,..,xn)と表記します。

 

[]の任意の元:f=f()はf()=Σt1t2..tn≧01t1..xntnなる形の全ての有限和で表わされます。

そこで,空間[]は通常の和とスカラー倍によって無限次元ヒルベルト空間をなします。

 

次に,[]に作用する線形作用素として次のものを考えます。

すなわち,xi:f(x)→xif(x),および(∂/∂xj):f(x)→∂f/∂xjです。これら線形作用素の和やスカラー倍の他に作用素同士の積も定義します。このとき,積は必ずしも可換ではありません。

[]に作用する線形作用素の交換関係をまとめると,[xi,xj]=0,[∂/∂xi,∂/∂xj]=0,[∂/∂xi,xj]=δijです。

 

この関係式は,Heisenberg代数を定義する基本関係式であり量子力学において正準交換関係と呼ばれるものと本質的に同じです。

これらの積和で与えられる任意の作用素は一意的に,D=Σt1t2..tn≧0t1t2..tn(x1,..,xn)(∂/∂x1)t1.. ,(∂/∂xn)tnなる形に表わすことができます。

 

この(掛け算×微分)の和の形は,微分作用素の正規形と呼ばれます。

 

なお,t1,t2,..,tnの全てがゼロの場合は作用は微分ではなく単なる掛け算ですが,これも微分作用素の特別なモノと考えます。

最初でもあり,今日はここまでにします。

参考文献:山田泰彦 著「共形場理論入門」(培風館)

 

PS:解党主義ではないが,この際,たとえは悪いかも知れないけど大政翼賛会のように,小異を無視して大同団結(大連合)して非常時を乗り越えてはいかがでしょうか?

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コメント

>たとえは悪いかも知れないけど大政翼賛会のように,小異を無視して大同団結(大連合)して非常時を乗り越えてはいかがでしょうか?
Is this your nature?

投稿: 凡人(Layman) | 2010年7月18日 (日) 14時16分

どもT_NAKAさん。訂正のコメントありがとうございます。TOSHIです。

 訂正部分はその通りです。これから本文直します。

 この手のコメントが最近なかったので真剣に読まれてないのか,それともこんなことでコメントするのはばかばかしいと思われてるのかと思っていました。

 ありがたいので,これからも見つけたらよろしくお願いします。

             TOSHI

投稿: TOSHI | 2010年7月16日 (金) 18時36分

次の文および題は誤りではないでしょうか?
もしも、私の勘違いでしたらお詫び申し上げます。

>それ故,dnF/dtn=exp(tA)(adA)n(B)exp(-tA)です。よって,[dnF/dtn]t=0=(adA)nです。

正;「よって,[dnF/dtn]t=0=(adA)n(B)です。」

>1.2 微分作用祖の代数

正;「1.2 微分作用素の代数」

投稿: T_NAKA | 2010年7月16日 (金) 08時33分

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