散乱の伝播関数の理論(18-2)(応用4:補遺)
先ほど,8月17日の17時にやっとNTT東日本のフレッツ光が開通して
ネットを再開しました。
電話も含めて光配線方式にするということで,さっきの工事,外まで
来ていた光信号を部屋の内部に引き込んだということでしょう。
同じフレッツ光でも,前のマンションでのVSDL方式とは異なり,
電話線のモジュラーは全く無関係で,スプリッターも不要でした。
むしろ,加入電話など無かった方がよかったらしいですね。
ともあれ,引っ越し2週間の今日で元のネット中毒に戻りそうです。
新居での開通記念の手初めとして,このくそ暑い中を仕事に出かけ
る前,早朝に書いておいた科学草稿を以下にアップします。
これは,すぐ前7/30の記事「散乱の伝播関数の理論(18)」の
Compton散乱断面積の計算の補足です。
前回の記事でCompton散乱に対するKlein-Nishina
(クライン・仁科の公式):
dσAve/dΩ
={α2/(4m2)}(k'/k)2{k'/k+k/k'+4(εε')2-2}
を導く際に,"途中計算を省略して,
Tr[(pf+m){ε'εk/(2kpi)+εε'k'/(2k'pi)}(pi+m)]
{kεε'/(2kpi)+k'ε'ε/(2k'pi)}]
=2{k'/k+k/k'+4(εε')2-2} です。
と書きました。
しかし,"私独自に行間を埋めた部分=計算の詳細"を省略しては,
本記事が単に参考テキストの垂れ流しに過ぎず,画龍天晴を欠く
と感じたので,計算結果の証明として詳細内容を書くことにしま
した。
以下,式の証明です。
(証明):まず,T1≡Tr(pf+m)ε'εk(pi+m)kεε'と置けば,
右辺のトレースにおいて,因子としてmを1個含む項は奇数個の
γ行列の積なのでその寄与はゼロです。
また,m2に比例する項はkk=k2=0 を因子に持つので消えます。
結局,T1=Trpfε'εkpikεε' を得ます。
(何故なら,ab=2ab-baよりaa=2a2-aaなので,
aa=a2です。)
それ故,T1=Trpfε'εkpikεε'
=Trpfε'ε(2kpi-pik)kεε'
=2kpiTrpfε'εkεε'
=2kpiTrpfε'(2εk-kε)εε'
と書けます。
そして,εk=0,かつε2=-1なので,
T1=-2kpiTrpfε'kεεε'
=-2kpiTrpfε'kε2ε'
=2kpiTrpfε'kε'
=8kpi[pfε'(kε')+pfε'(ε'k)-(pfk)ε'2]
=8kpi{kpf+2(kε')(pfε')}
=8kpi{k'pi+2(kε')2}
を得ます。
ただし,Trpfε'kε'を展開する変形では,2010年6/14の記事
「散乱の伝播関数の理論(11)(応用1-1)」で与えた.
※(付録):γ行列のトレース中心の公式集における
[性質4]を用いました。
また,最後の式変形では,エネルギー・運動量の保存:
k+pi=k'+pf or k-pf=k'-pi
を用いました。
すなわち,(k-pf)2=(k'-pi)2,かつ,
pf2=pi2=m2 より,kpf=k'pi,
および.ε'k+ε'pi=ε'k'+ ε'pfにおいて,
ε'k'=0 であり,準拠系の実験室系ではpi=(m,0),
ε'=(0,ε')よりε'pi=0 ですから,
pfε'=kε' となるからです。
同じやり方で,T2≡Tr(pf+m)εε'k'(pi+m)k'ε'ε
を評価します。
エネルギー・運動量の保存則:
k+pi=k'+pf ⇔-k'+pi=-k+pf も含めて.
T1≡Tr(pf+m)ε'εk(pi+m)kεε'との違いは,
(ε,k) ⇔ (ε',-k') なる置換のみです。
よって,T2=8k'pi{kpi-2(k'ε)2} です。
第3のトレースT3は,T3≡Tr(pf+m)ε'εk(pi+m)k'ε'ε
で定義します。
これは,pf=pi+(k-k')により,
T3=Tr(pi+m)ε'εk(pi+m)k'ε'ε+Tr(k-k')
ε'εk(pi+m)k'ε'ε と書けます。
そして,piε'=-ε'pi,かつ,piε=-εpiより,
T3=Trε'ε(pi+m)k(pi+m)k'ε'ε
+Trkε'εkpik'ε'ε-Trk'ε'εkpik'ε'ε
=Tr(pi+m)k(pi+m)k'ε'εε'ε
+Trkε'εkpik'ε'ε-Trk'ε'εkpik'ε'ε
です。
そこで,T3=Tr(2kpi-kpi+mk)(pi+m)k'ε'εε'ε
+2kε'Trεkpik'ε'ε-2k'ε'Trεkpik'ε'ε
となります。
何故なら,まずTrkε'εkpik'ε'ε
=2kε'Trεkpik'ε'ε-Trε'kεkpik'ε'εですが,
これの右辺第2項はkεkなる因子を含んでいて,この因子は
(2kε)k-k2ε=0ですから,これの寄与はゼロです。
同様に,Trk'ε'εkpik'ε'ε=Trε'εkpik'ε'εk'
=2εk'Trε'εkpik'ε'-Trε'εkpik'ε'k'εですが,
これの右辺第2項もk'ε'k'=0 を因子に持つためゼロです。
したがって,T3=2kpiTrpik'ε'εε'ε
-Trk(pi2-m2)k'ε'εε'ε
+2kε'Trεkpik'ε'ε-2k'εTrε'εkpik'ε'
=2kpiTrpik'ε'εε'ε-2kε'Trkpik'ε'
+2k'εTrεkpik' です。
故に,T3=2kpi(2ε'εTrpik'ε'ε-Trpik')
-8(kε')2(pik')+8(kε')2(pik) です。
よって,T3=2kpi(k'pi){2(ε'ε)2-1}
-8(kε')2(k'pi)+8(kε')2(kpi)
を得ます。
したがって,Tr[(pf+m){ε'εk/(2kpi)
+εε'k'/(2k'pi)(pi+m){kεε'/(2kpi)
+k'ε'ε/(2k'pi)}]
=(1/4)[T1/(kpi)2+T2/(k'pi)2+2T3/{(kpi)(k'pi)}]
=2{k'/k+k/k'+4(ε'ε)2-2}
を得ました。(証明終わり)
今日は新居でネットが復活したばかりなので,ブログを書く気力
も少なくてこれだけで終わります。
参考文献も下に示してはいますが,今日の部分は35年くらい前の
学生のとき自力で計算したものです。
参考文献: J.D.Bjorken & S.D.Drell "Relativistic Quantum Mechanics" (McGraw-Hill)
PS:下は引越し後に粗品を持ってあいさつに行ったお返しに,お隣の
部屋のモンゴル人の留学生夫婦に頂いた鉢植えです。
鉢植えは"根付く"ので入院患者へのお見舞いにはご法度らしいのです
が引越しにはピッタリでしょう。
取り合えず,まだ整理中で重ねただけのオーデイオの上に置いたので
右にヘッドホンが写っています。
PS2:ネットを休んでるうちに,やや被フォロー数の増えたTwitterは,
やはり?というべきか物理系の現役大学生のフォローが多いですね。
昔からいつも思っていることですが,
「知識があるとかないとかいっても,高々知ってるか知らないかの
違いだ。」とかね。。
でも,こういうことを偉そうにこう述べること自体が,思い上がり
でしょうか?
かつて,奥の院の面接試験で.結構偉い先生に
「引力があるから質量が小さいなんて言ってるけど,どうせ
アインシュタインか誰かの受け売りだろ?」と言われ,
よほど「アンタだってそうだろ」と言ってやろうかと思ったのを
グッとこらえたことなど思い出しました。
バカだね。>自分。。
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