台風の進路(コリオリの力)(再々掲)
丁度,台風シーズンです。
そこで,私自身の息抜き(手抜き?)として,4年前に書いたテキストだけの解説記事:「台風の進路(コリオリの力) 」に図を入れて再掲してみます。
(※再掲記事):2006年8月16日(水)
そろそろ台風が頻発する季節になりました。
今日は,北半球では赤道付近で発生し,海域から多量の水分やエネルギーを吸収しながら発達して北上する台風が,なぜ右(東)の方に進路を変えていくのか?そして,なぜ上空から見て左巻き(反時計回り)の風が吹くのかという,ごくありふれた疑問について解説してみます。
例として,ちょっと古いけど左回転しているLPレコードがあり,その上に"一寸法師"よりも小さい小人が乗っているという仮想的な状況を考えてみます。(左回転は仮定であって実際のLPレコードは裏から見ない限り右回転(時計回り)です。)
レコードの中心は地球の北極に相当し,レコードの最大半径の部分は地球の赤道に相当します。
まず,レコードの回転している"最大半径=赤道"の上にいる小人が"レコードの中心=北極"めがけて真っ直ぐに小石を投げたとします。
本人は真っ直ぐ中心に向かって投げたつもりでも,小石が手を離れた瞬間には慣性によって小石はレコードの回転スピードと同じ速度で右に向かう接線速度を持ちますから,実はそれは中心の方向に向かって真っ直ぐに飛ぶのではなくて,次第に右の方に逸れていくということになりますね。
↑ここで右というのは,小石を投げた小人にとっての右です。(わかっているとは思いますが念のため))
次に逆に"中心=北極"の上に小人がいて今度は"最大半径=赤道"めがけてやはり小石を投げたとします。
今度は北極で小人は自転しているかもしれませんが,スピンの回転半径はゼロなので,その慣性による小石の左右方向への速度はゼロですから確かに"真っ直ぐ"進むはずです。
ところが,レコードの上,つまり北半球の地球上にいる人は"左から右=西から東"に回転しています。その人から見ると"上=北"から真っ直ぐ飛んでくる小石は"下=南"から見て"左に左に(西に西に)"逸れていくように見えます。
逆に"小石を投げた方=北"から見ると,見かけ上はやはり右の方に逸れていくわけですね。
小石を台風だとみなし地球の自転の角速度をΩとすると Ωは"360度=2πラジアン(rad)"を24時間で回転する角速度です。
地球の半径をRとし,緯度をθとすると,そこでの回転半径はRcosθですから,回転の接線速度はΩRcosθです。
したがって"赤道"での接線速度は最大速度"ΩR=時速1667km=秒速463m"ですが,日本付近の緯度:θ=35度での接線速度は"ΩRcosθ=秒速379m"で,日本付近では回転速度は赤道より"約2割=秒速80m"くらい減少しています。
したがって,赤道付近で発生した台風は地球のまさつにより"ΩR=時速1667km=秒速463m"の地球にひきずられて慣性による右向きの速度を持っていて,その右向き速度は北上しても全く変わらないものです。
しかし,地球自身の回転速度は緯度が上がるにつれて次第に小さくなるものですから,日本付近では1秒間に80mくらいの割合で,右(東)へ右へと逸れていくことになります。
先にLPレコードの例で述べたように仮に北極で台風が発生して南下したとしてもそれは右に逸れていきます。
実は北半球ではどこから投げた石も見かけ上,右に逸れていくわけです。
例えばスナイパー:ゴルゴ13が1km遠方の標的を狙って狙撃しても,弾丸は僅かに右に逸れていくのでそれを勘定に入れて狙う必要があるわけです。
もしも南半球なら逆に左に逸れるわけですね。
こうした北半球で右にそれる現象は結局,遠心力などと同じく"見かけの力=慣性力"が働いていると考えることができて,それを発見者の名前にちなんでコリオリ(Coriolis)の力と言います。
そして北半球での台風を考えると,台風ですから"中心=目の部分"の気圧が最低でまわりの気圧は目の部分のそれより高いわけです。
風はどのように吹くか,というと水が高いところから低いところへと流れるように,風も気圧の高いところから低いところ目指してその気圧のスロープに沿って吹いていくわけです。
もしもコリオリの力がなければ,風は"外周部から中心に向かって一直線に進む=落下していく"はずなのですが,コリオリの力によって気圧のスロープも右にねじれてしまっています。
それ故,風は外周部から中心に向かっていくときに,右にフックして逸れていきながら,最後は中心の気圧最低の目に向かっていくことになり,そのために左巻き(反時計回り)になるのです。
南半球での台風は逆に右巻き(時計回り)ですね。
どこかの"バカな大学教授"は,風呂の水が排水口へと流れていき排水されるときに,北半球では左巻き(反時計回り)ですが,赤道を越えて南半球に入ったとたんに右巻き(時計回り)に変わる,などと主張したと聞きましたが,それは誤りですね。
風呂の水程度の規模では地球自転の影響などは出てきません。
たまたま排水口付近で左巻きの角運動量を持っていたら左巻きになり,逆なら右巻きになるというだけで,それはカオス現象,つまり偶然の産物でしかありません。
しかし台風くらいの規模になると地球の自転がもろに効いてきます。
遠心力の加速度は緯度θでΩ2Rcosθですから,最大でも重力の加速度の0.3%程度です。
北極で体重100kg重の人が赤道で体重を測っても300g重くらいしか軽くはなりません。一方,コリオリの力の加速度は台風の北上の速度をvとして2Ωsinθ×vです。
Ω=7,2×10-5/sですから,緯度θが35度で台風の北上速度が100mを10秒で走る程度の時速36km程度なら,加速度a=8.3×10-4m/s2であり,重力g=9.8m/s2の約0.01%程度です。
そこで,コリオリの力の加速度は最大で重力加速度の0.3%程度しかない遠心力のさらに1/30程度にすぎませんが,台風程度の規模だとそれがかなり効いてきます。
地球自転の証拠であるとされるフーコー(Foucault)の振り子をこのコリオリ力で説明することもできます。
ニュートン(Isac Newton)は"慣性系の同等性=ガリレイの相対性原理"は認めても"回転系を含む非慣性系の同等性=マッハ(Mach)原理 → 一般相対性原理"を認めることをあきらめました。
そして,彼が"絶対座標系=絶対空間"に固執せざるを得なかったのも,こうした"遠心力やコリオリ力の絶対性"を解消する道はない,という考えからだったという話もあります。
こうした"見かけの力=慣性力"の扱いはとても悩ましいところがあります。
※以上,再掲記事です。
PS:この連休では,2008年11/23の記事「超弦理論(7)(弦の相互作用と頂点演算子)」を再編集するため,図1-5から図1-12まで都合8個も図を入れましたが,これは私には慣れない作業なので疲れました。出来映えはいかに?。。。
| 固定リンク
「202. 気象・地学・環境」カテゴリの記事
- 記事リバイナル②(台風の進路(コリオリの力))(2018.10.27)
- 地震に関する過去の科学記事(バックナンバー)(2011.03.14)
- 水滴の成長と蒸発(2)(2010.12.20)
- 水滴の成長と蒸発(1)(2010.12.12)
- プルーム上昇のモデル式(3)(2010.12.05)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント