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2010年10月30日 (土)

赤外発散の初期論文(1)

科学記事を再開するに当たり,これまでの連載記事の続きは

後まわしにして,この休止中に再読した赤外発散除去に関する

1937年のBloch・NordsieckのQEDの古典論文の紹介から

始めたいと思います。

 
もっとも,赤外発散問題については最終的解決を与えたと

思われる1961年のYennie-Frauchi-Suuraの70ページ以上

の記念碑的な解析論文があります。

 

(D.Yennie S.Frauchi H.suura

"Infrared Divergence Phenomena and High-Energy

Processes" Ann.Phys.Vol.13 pp379-452 (1961)) 

 

(2006年12/16の記事「電流によって発生する光子の個数分布」,

および2006年12/19の記事

赤外発散の問題(エネルギーゼロの光子)」も参照して

下さい。)

 
私自身はその長い総合的論文も過去に結構苦労して読了

しましたが,恐らく赤外発散除去の手続きを正しく述べた

最初の論文であろうと思われる上記古典論文については,

ずっとQEDの重要論文集の1つとして所持していただけで

ざっと眺めた程度でした。

 
しかし,かつて心臓病で1ヶ月入院したとき,その期間中に

「フックス群と線形常微分微分方程式の関係」についての

入門部分を詳しく勉強したように,今回のPCのない短い生活

の機会に,上記論文をじっくり読んでみました。

(※↑転んでもタダでは起きない性格なので。。。)

 
以下では,それをまとめたノートを見て紹介しますが短い

論文でもあり,内容のほとんどは単なる翻訳に過ぎないかも

しれません。

 論文の表題は「Note on the Radiative Field of the Electron

 (電子による輻射場に関するノート)」著者はF.Bloch and

  A.Nordsieck (Stanford Univ.California) です。

 

 掲載はPhys.Rev,Vol72,p241(1937)(Receieved May14.1937)

です。

 

(※以下本文) 

(Abstract):原子場の中の1電子散乱やβ線の放出のような

非定常過程において,その輻射補正をe2/(hcc)のベキ展開で

扱うこれまでの手法は遷移確率への無限大の低振動数補正に

対しては不完全でした。

 

(注):hc=h-cross≡h/(2π),hはPlanck定数です。※

 

 ωを輻射(光子)の角振動数,Δpを電子の運動量変化として

 e2ω/(mc2),hcω/(mc2),hcω/(cΔp)が1に比べて

 小さいときには,こうした困難は以下に展開する方法で避ける

 ことができます。

 
この手法では,e2/(hcc)のベキ展開の手法とは対照的に

c=0 の古典極限への移行が許されます。

電子についての外的摂動はBorn近似で扱います。

 

その結果,上の3つのパラメータが無視できるような振動数

に対し,量子力学計算は丁度古典公式の再解釈を生み出すこと

がわかります。

 

つまり,"電子の運動変化の総確率は輻射相互作用によって

影響を受けず,放出される光量子の平均個数は無限大ですが,

平均輻射エネルギーは丁度対応する電子軌跡中で古典的に

放射されるエネルギーに等しい。"という再解釈を得ます。

 Ⅰ
.Introduction(序)

 
輻射の量子論は,輻射(光子)の放出と吸収過程を適切に示す

ことに成功してきました。

 

しかし,こうした結果を導いた方法をより一般的な輻射補正

に用いると,ある種の困難が生じます。

 
この困難は,単一光子の放出を伴なうCoulomb場での電子散乱

の確率に対してMott,Sommerfeld,およびBethe,Heitlerにより

与えられた式の中に明確に見られます。

 
これらの公式では,ωの値が小さいとき輻射光量子の角振動数

がωとω+dωの間にある確率は散乱角に依らずdω/ωに

比例します。

 
これらを文字通りに採用して任意の光量子放出を伴なう全散乱

確率を求めると,ωについての積分結果から低振動数では対数

発散するという結果を得ます。

 
同様な困難は,β崩壊や他の非定常過程の確率の輻射補正

においても見られます。

 
ただし,こうした

"赤外破局(infrared-catastrophe:赤外発散)"

は,量子電磁力学(QED)の根本的困難である

"紫外発散(ultravioret-divergence)"

とは明らかに無関係です。

 
後者(紫外発散)は既に古典論にも内在していますが

(※電子の自己エネルギーetc.),赤外発散には古典論

で対応するものはありません。

 

しかし,古典論でも赤外発散の困難の原因を示すと考えられる

性質はあります。

 
簡単のため,衝突時間の逆数に比べて小さい振動数の電磁波

のみを想定すれば放出メカニズムは次のように記述できます。

衝突前の電子場のFourier成分の振幅は衝突後も保持されます。

 

衝突後の新しい運動における新しい電子場と元の電子場との差

が放出される輻射(光子)場です。

 

重要な点は,単位振動当たりの輻射の強さ(輻射エネルギー):

ωがω→ 0 の極限でゼロにはならないということです。

 

そこで,単位振動(=1周期)に放出される光量子の平均個数を

示すと考えられる量:Iω/(hcω)はω→ 0 の極限では無限大

になります。

 

これは厳密な量子論による扱いで予期されるのと同じ結果

なので,無限に多くの光量子の同時的放出の確率のみがゼロ

でない有限な値を取ると考える必要があります。

 

つまり,任意個数の光量子放出の確率は個数が有限個なら

消えなければなりません。

 
こうした状況下では,電子の電荷のベキ級数展開による電子

と輻射場の相互作用という取扱い手法では明らかに不十分

です。

 

何故なら,ベキ級数展開の摂動手法は光量子を多重放出する

確率が放出量子数の増加と共にそのベキのオーダーで減少

するという仮定に基づいているからです。

 
実際,電子の速さをv,その運動エネルギーをEとして,ある

最小角振動数ω0より大きい振動数のみ考えると,そうした

扱いでのベキ級数展開のパラメータは,

{e2/(hcc)}×(v/c)2log{E/(hcω0)}ですが,これは

ω0→ 0 の極限でそのベキが小さいという仮定を破ります。

 
こうした難点を避けるため,以下では電子と低振動数電磁波

との相互作用の結合を小さい摂動と考えない手法を展開して

いきます。

 
この方法では,第1近似で電子の運動は予め与えられていると

仮定します。

 

そこで,電磁場による電子への反応が高次でも考慮される

ような波長に対する電子半径の比:e2ω/(mc2)の古典的展開

に似ています。

 
さて,以下では,これが量子力学では如何に定式化されるかを

2つの連立微分方程式系の逐次近似解として表現します。

 
そして,(電子+電磁場)の系をこうしたやり方で処理した後

では,この系の電子への外力による遷移はこれまでの通常の

小摂動の方法で扱うことが可能になります。

.Formulation of the Method(手法の定式化)

電場の縦成分を除いた後の(電子+電磁場)の全系の

Hamiltonianは,=c{(α,-e/c)+βmc}

+{1/(8π)}∫{(tr)22}dVで与えられます。

(※単位はc.g.s静電単位です。)

 
ここで,ベクトルポテンシャルを次の形に展開します。

2c(πhc/Ω)1/2Σs-1/2ε{Pcos(s)

+Qsin(s)}]です。

 
ただし,Ωは円筒境界条件が適用される体積であり,添字sは

場の縦方向を特徴付けるもので角振動数ωsの波がベクトルs

で伝播することを示します。

 

またλは波の偏極(polarization)状態に対応する添字で,

ε(λ=1.2)は伝播方向がsの波の偏光単位ベクトル

を表わします。

 
上式の展開係数として定義された力学変数:PとQ,次式

によって量子振幅:a^(λ,),a^+(λ,)と関係付けられます。

 

すなわち,(1/√2)(P+iQ)

=a^(λ,s),(1/√2)(P-iQ)=a^+(λ,s)です。

 

ここで力学変数PとQは正準交換関係:

[P,Qs'λ']=-iδss'δλλ',

[P,Ps'λ']=[Q,Qs'λ']=0  

に従います。

これから,

=c[(α,-Σ{Pcos(s)

+Qsin(s)})+βmc]+(1/2)Σ{(P,2+Q2)hcωs}

..(1) を得ます。

 

 ただし,≡2e{πhc/(Ωωs)}1/2εsλ ..(2) です。

 ところで,Dirac行列αは物理的には電子速度を光速cで

割ったものと解釈されます。

 また,古典論の方法に従って第1近似で電子運動への電磁場

の反動を無視します。

そこで,の表現式(1)において行列ααμ/c(3)

のようにc-数で置き換えます。ただし,は電磁場の摂動を

受ける前後の一定の電子速度です。

同時に,Dirac行列:βを(1-μ2)1/2で置換します。

 

こうして,(1)においてαとβをc-数に置換すると,この力学

問題は直ちに解けます。

実際,(1)の右辺の相互作用エネルギーは数学的困難を

生じません。何故なら,これは各場の調和振動子へ一定の力

がかかる場合に非常に類似していますが,それは単にP,Q

 の関数を加えることで考慮できるからです。

もちろん,上記のDirac行列のc-数への置換は近似であって

厳密には正しくありません。

そこで,この逐次近似と厳密な扱いとの許される誤差を考慮

できるように,次のような手順を考えます。

まず,波動方程式ψ=Eψ(4)の解:ψ=ψ(,Q)は

ψ=ψ++ψ-(5)と,2つの部分に一意的に分割できます。

 ψ+-は演算子:Λ≡(α,μ)+β(1-μ2)1/2(6)による条件

Λψ+=ψ+,Λψ-=-ψ-(7)で定義されます。

(注1):何故なら,Λ≡(α,μ)+β(1-μ2)1/2より

Λ2=μ2+(1-μ2)=1 なので,ψ+≡(1+Λ)ψ/2,

ψ-≡(1-Λ)ψ/2と置けばψ=ψ++ψ-,で,かつ,

Λψ+=(Λ+1)ψ/2=ψ+,Λψ+=(Λ-1)ψ/2=-ψ-

となるからです。(注1:終わり)※

このΛに対しては,関係:

Λα=2μαΛ,Λβ=2(1-μ2)1/2-βΛ(8)

が成立します。

これをψ=Eψ(4)に代入し,Λψ=EΛψ(4a)

を用いれば,

[c(μ,-Σ{Pcos(s)+Qsin(s)})

+mc2(1-μ2)1/2±(1/2)Σ(P2+Q2)hcωs-(±E)]

×ψ+,-=-c(μ±α,-mc(1-μ2)-1/2μ

-Σ{Pcos(s)+Qsin(s)})ψ-,+(9)

を得ます。

(注2):(証明){Λ,α}=2μ,{Λ,β}=2(1-μ2)1/2,かつ

=c(α,-Σ{Pcos(s)+Qsin(s)})

+βmc2+(1/2)Σ(P2+Q2)hcωsより,

Λ2c(μ,-Σ{Pcos(s)+Qsin(s)})

+2mc2(1-μ2)1/2

-[c(α,-Σ{Pcos(s)+Qsin(s)})

+βmc2]Λ+(1/2)Σ{(P2+Q2)hcωs

 

一方,Λψ=EΛψより,Λψ+,-=±Eψ+,-です。

故に,Λψ+,-=±Eψ+,-

[2c(μ,-Σ{Pcos(s)+Qsin(s)})

+2mc2(1-μ2)1/2+,-

-[c(α,-Σ{Pcos(s)+Qsin(s)})

+βmc2]Λψ+,-+(1/2)Σ(P,2+Q2)hcωsΛψ+,-

を得ます。

それ故,±Eψ+,-

=[c(μ,-Σ{Pcos(s)+Qsin(s)})

+mc2(1-μ2)1/2+,-+[c(μ±α,p-Σ{Pcos(s)

+Qsin(s)})+mc2(1-μ2)1/2±βmc2-,+

±(1/2)Σ{(P2+Q2)hcωs+,- です。

 
ところが,Λ=(α,μ)+β(1-μ2)1/2によって,

mc2(1-μ2)-1/2Λ=mc2(1-μ2)-1/2(α,μ)+βmc2

ですから,βmc2ψ+,-=-mc2(1-μ2)-1/2(α,μ+,-

±mc2(1-μ2)-1/2ψ+,- です。

 

よって,±βmc2ψ+,-=-mc2(1-μ2)-1/2{-1±(α,μ)}ψ+,-

mc2(1-μ2)1/2ψ+,-+mc2(1-μ2)-1/2μ2ψ+,-±(α,μ-,+,

 

つまり,-(±βmc2ψ-,+)

mc2(1-μ2)1/2ψ-,++mc2(1-μ2)-1/2μ2ψ-,+±(α,μ-,+

mc2(1-μ2)1/2ψ-,++mc2(1-μ2)-1/2(μ±α,μ-,+

です。

 

したがって,{mc2(1-μ2)1/2±βmc2-,+

=-mc2(1-μ2)-1/2(μ±α,μ-,+ です。

 

 以上から,[c(μ,-Σ{Pcos(s)+Qsin(s)})

+mc2(1-μ2)1/2+,-±(1/2)Σ{(P,2+Q2)hcωs-(±E)}×ψ+,-=-c(μ±α,p-Σ{Pcos(s)+Qsin(s)}

-mc(1-μ2)-1/2μ-,+ を得ます。(証明終わり)


(注2終わり)※

 
(9)の2つの関数ψ+,およびψ-は電子と電磁場の相互作用

がゼロに近づくとき,それぞれエネルギーが±mc2(1-μ2)-1/2

で運動量がmc(1-μ2)-1/2μの状態に対応しています。

※式(9)を再掲すると,

[c(μ,-Σ{Pcos(s)+Qsin(s)})

+mc2(1-μ2)1/2±(1/2)Σ{(P2+Q2)hcωs}-(±E)]ψ+,-

=-c(μ±α,-mc(1-μ2)-1/2μ

-Σ{Pcos(s)+Qsin(s)})ψ-,+ (9)

です。

 
前述したように,電子がc-数の速度=cμを持つと仮定して

αμで置き換える近似は,自由粒子極限でエネルギー:

mc2(1-μ2)-1/2を持つ状態ψ-をゼロとし,(9)の右辺を無視

した近似に相当します。

 
この,ψ-をゼロとする仮定は電子のエネルギーは正の状態を取る

べきという物理的要請からなされたものです。

 この近似解をψ~ψ+=uと書くと,式(9)は

[c(μ,-Σ{Pcos(s)+Qsin(s)})

+mc2(1-μ2)1/2+(1/2)Σ(P,2+Q2)hcωs-E]u=0

..(10) となります。

 まだ,先が長いので,今日はひとまずここで終わります。

(参考文献): F.Bloch and A.Nordsieck,

"Note on the Radiative Field of the Electron"

Phys.Rev,Vol.52,p241(1937)

 

(↑edited by J.Schwinger「(selected papers on)QUANTUM ELECTRODYNAMICS」:Dover books on engineering and

engineering physics)より)

 

PS:土曜日も出勤でしたが,台風のせいか雨がきつくて寒いので帰宅

後閉じこもってるとつい眠ってしまったようで起きると夜中でした。

 

ブログの方は慌てずボチボチ進めようと思います。

 

PS2:野沢那智さんが肺がんで亡くなられましたね。72歳でした。

 →ニュース

 (http://news4vip.livedoor.biz/archives/51640329.html)

      

 

 パックイン・ミュージックでしたか?? 

 白石冬美さん(チャコちゃん)とのかけ合いなどが

 なつかしいです。

 ご冥福を祈ります。 合掌!!

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114 . 場理論・QED」カテゴリの記事

コメント

 どうもコメントありがとうございます。TOSHIです。

 Gandhiさん="高校同窓のふっくん"ですよね。

 学園(金光学園)時代はお互い課外では陸上部と卓球部でしたかね。。。

 上の記事のような薀蓄は,高校出てからのせいぜい数年程度の学生時代の勉強は下地にはなってるけど。。

 都で15年宮仕えした後の不惑より後に興味本位で再開した20年の方大きいかなあ?

 いずれにしても他人からは高尚?に見えても単に私の変態的な趣味です。

 こうしたインドアのことよりも長野なんかにでかけてアウトドアで行動するのもある意味うらやましいですね。

              TOSHI

投稿: TOSHI | 2010年11月 1日 (月) 08時41分

読んでも解らないオイラの頭では、トホホ!
学園時代、学校休むばっかししよったからやろうか?
どないしたら解るようになるやろか?
それとも…No cure for a fool?

週末は長野は車山高原へフレンチ・ブルー・ミィーティングにいってました、四畳半IT企業主は、おバカをやりに、汗・笑!
ずっと雨でした。

投稿: Gandhi | 2010年11月 1日 (月) 04時54分

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