場の量子論における摂動論(1)
今日の記事も10月のブログ休止中に作ったノートからです。ほぼ1ヶ月もありましたからね。。
当面個人的関心を持って作業中の課題に関連してφ4理論を詳しく考察したいという動機があり,それに際して紫外発散のくりこみ(renormlization)において正則化すべきFeynman積分が現われる過程など,摂動論の基礎を復習したいと考えたわけです。
主として培風館から出ているシリーズの中西襄さんが書かれた「場の量子論」を参考にしました。したがって,経路積分による定式化ではなく伝統的な理論を記述します。
まず,相互作用表示(interaction-picture)の話から始めますが,最初に朝永振一郎氏が創案したといわれる超多時間形式について述べます。
n個の粒子がそれぞれ空間座標:x(1),x(2),..,x(n)をもつ場合,一般にはそれらに共通な時間(時刻)tというものはなく,それぞれに対応する時刻:x0(1),x0(2),..,x0(n)を導入する必要があります。
そして,全ての相異なるj,kに対して性質:(x(j)-x(k))2<0 (2点間の距離が空間的(space^like))が成立しているなら,Einsteinの微視的因果律(microscopic causality)のために,こうした多時間で矛盾なく定義可能です。
これを利用した4次元座標による共変的定式化を多時間形式(many-time formalism)といいます。
(※(注):空間的:(x(j)-x(k))2=(x0(j)-x0(k))2-(x(j)-x(k))2<0 というのは2事象:x(j),x(k)が同時刻:x0(j)=x0(k)に異なる空間点:x(j)≠x(k)をとるような慣性座標系が存在可能なることを意味しています。※)
多時間形式の考え方を場の量子論に拡張したものが超多時間形式(super-many-time formalism)です。(朝永振一郎(S.Tomonaga)(1943)による。)
これにおいては,nという有限個の時間の代わりに空間的超曲面σなる概念を導入します。
すなわち,σをある連続関数:fσに対してx0≡fσ(x)を満たす点(x0,x)の全体と定義します。ただし,fσはこの超曲面σ上の任意の2点x,yが互いに空間的位置にある,つまり(x-y)2<0 を満たすように与えられた関数とします。
特に,fσがfσ(x)=(一定)なる定数値関数なら,σはx0=(一定)の超平面なので,このときには普通の時間tに同一視できます。
そして,超多時間形式での状態ベクトルを|σ>と表記します。
σxを超曲面σ上の点x=(xμ)=(x0,x)の近傍だけでσと僅かに異なる空間的超曲面とし,σxとσで挟まれた微笑部分の4次元体積をωxとします。つまり,ωx≡∫d3x[fσx(x)-fσ(x)]です。
そして,時間微分に相当する超多時間形式での微分をσの変分:δ|σ>/δσ(x)≡limωx→0[{|σn>-|σ>}/ωx]で定義します。
次に,相互作用のある多体系に対して相互作用表示(Interaction picture)を導入します。
系のHamiltonian:HはH=H0+Hintのように自由場のHamiltonian:H0と相互作用のそれ:Hintの和に分割できます。(※(注):むしろ,Hint≡H-H0でHintを定義すると考えるべきかも知れません?)
なお,以下,Plank定数:hc≡h/(2π)と光速cを1とする自然単位を採用して論じます。
さて,通常のSchrödinger方程式は|t>Sを時刻tにおけるSchrödinger表示(Schrödinger- picture)の状態ベクトルとして,i(∂|t>S/∂t)=H|t>Sと表現されます。
一方,同じ状態の相互作用表示:|t>Iを|t>I≡exp(iH0t)|t>Sで定義します。
すると,i(∂|t>I/∂t)=exp(iH0t)(H-H0)|t>S=exp(iH0t)Hint|t>S=exp(iH0t)Hintexp(-iH0t)|t>Iですから,相互作用Hamiltonianの相互作用表示をHint(t)≡exp(iH0t)Hintexp(-iH0t)と定義すれば,Schrödinger方程式はi(∂|t>I/∂t)=Hint(t)|t>Iなる形に変形されます。
相互作用が微分結合を含まないなら,相互作用Hamiltonian:Hintはいくつかの場φjの多項式を3次元空間積分したもので与えらx+れます。
Schrödinger表示では演算子は時間tによらないため,それぞれの場をφj(x)(j=1,2,..,n)と書けば,HintはHint[φ1(x),φ2(x),..,φn(x)]なる関数形を持ちます。
そこで,Hint(t)=Hint[φ1(t,x),φ2(t,x),..,φn(t,x)]と書けます。ただし,φj(t,x)≡exp(iH0t)φj(x)exp(-iH0t)で,この演算子φj(t,x)は自由場の演算子φj(x)と同定されます。
※(注1):Schrödinger表示での演算子をOS,Heisenberg表示での演算子をOH(t)とすると,OH(t)=exp(iHt)OSexp(-iHt),またはOS=exp(-iHt)OH(t)exp(iHt)と書けます。
OSが全く時間tに依存しないとき,OH(t)は∂OH/∂t=i[H,OH],またはi(∂OH/∂t)=[OH,H]なる時間発展の方程式を満たします。これをHeisenbergの運動方程式といいます。
一方,相互作用表示では同じ演算子はOI(t)=exp(iH0t)OSexp(-iH0t)で与えられますから,形としては自由Hamiltonianに対するHeisenbergの運動方程式:∂OI/∂t=i[H0,OI],またはi(∂OI/∂t)=[OI,H0]を満たします。
直接,相互作用表示とHeisenberg表示の関係はOI(t)=exp(iH0t)exp(-iHt)OH(t)exp(iHt)exp(-iH0t)です。
また,Hamiltonianは Schrödinger表示では,H=H0+Hintであり,特に相互作用部分であるHintは,相互作用表示ではHint(t)≡exp(iH0t)Hintexp(-iH0t)と表わされます。
特に,粒子場の演算子は空間xと時間tに依存するHeisenberg演算子ですから,それをφjH(x)=φjH(t,x)(j=1,2,..,n)と書き,OH(t)≡φjH(t,x)と置くとそのHeisenbergの運動方程式:i(∂φjH/∂t)=[φjH,H]は相互作用する粒子場の方程式に一致するはずです。
そして,Schrödinger表示のtに依存しない場の演算子φjSはφjS(x)=exp(-iHt)φjH(t,x)exp(iHt)で与えられますが,これは本文の中で与えたφj(x)=φjH(0,x)と同じものです。
したがって,相互作用表示の場の演算子:φj(t,x)≡exp(iH0t)φj(x)exp(-iH0t)は,自由Hamiltonianに対するHeisenbergの運動方程式:i(∂φj/∂t)=[φj,H0]を満たします。
この自由粒子の運動方程式:i(∂φj/∂t)=[φj,H0]は自由場の方程式に一致するので,結局φj(x)=φj(t,x)を自由場の演算子と同定できるわけです。(注1終わり)※
故に,Hint(t)=Hint[φ1(t,x),φ2(t,x),..,φn(t,x)]=Hint[φ1(x),φ2(x),..,φn(x)]は自由場の演算子φ1(x),φ2(x),..,φn(x)の関数で表現した相互作用Hamiltonianである,といえます。
※(注2):HH(t)=exp(iHt)HSexp(-iHt)=exp(iHt)H[φ1(x),φ2(x),..,φn(x)]exp(-iHt)=H[φ1H(x),φ2H(x),..,φnH(x)]=H0[φ1H(x),φ2H(x),..,φnH(x)]+Hint[φ1H(x),φ2H(x),..,φnH(x)]です。
また,HI(t)=exp(iH0t)HSexp(-iH0t)=exp(iH0t)H[φ1(x),φ2(x),..,φn(x)]exp(-iHt)です。あるいはHI(t)=exp(iH0t)exp(-iHt)H[φ1H(x),φ2H(x),..,φnH(x)]exp(-iHt)exp(-iH0t)です。H=H0+Hint,
Schrödinger表示でのHamiltonian:H=H0+Hint=H[φ1(x),φ2(x),..,φn(x)]に対して,相互作用部分:Hint[φ1(x),φ2(x),..,φn(x)]はHeisenberg表示ではHint[φ1H(x),φ2H(x),..,φnH(x)]=H[φ1H(x),φ2H(x),..,φnH(x)]-H0[φ1H(x),φ2H(x),..,φnH(x)]です。
そして,HIint(t)=exp(iH0t)Hint[φ1(x),φ2(x),..,φn(x)]exp(-iH0t)=Hint[φ1(t,x),φ2(t,x),..,φn(t,x)]ですが,これは先に与えたHint(t)=Hint[φ1(x),φ2(x),..,φn(x)]と同じものです。
そこで.Hint(t)は確かに自由場の演算子φ1(x),φ2(x),..,φn(x)の関数で表現した相互作用Hamiltonianといえるわけです。(注2終わり)※
さて,時刻tにおける相互作用Hamiltonian:Hint(t)に対して,Hint(t)≡∫d3xHint(t,x)で定義されるHamiltonian密度:Hint(x)=Hint(t,x)を考えます。
相互作用に微分結合がないときには,相互作用Lagrangian:Lint(t)に対してLint(t)≡∫d3xLint(t,x)で定義されるLagrangian密度をLint(x)=Lint(t,x)とすると,Hint(x)=-Lint(x)です。
そこで,微分結合がないときは相互作用表示の運動方程式:i(∂|t>I/∂t)=Hint(t)|t>Iを超多時間形式の変分:δ|σ>/δσ(x)≡limωx→0[{|σn>-|σ>}/ωx] (ωx≡∫d3x[fσx(x)-fσ(x)])で表わすとiδ|σ>I/δσ(x)=Hint(x)|σ>Iとなります。
この最終形:iδ|σ>I/δσ(x)=Hint(x)|σ>IをTomonaga-Schwinger方程式といいます。この方程式は明確に共変形です。(以下では,簡単のためにTomonaga-Schwinger方程式をT-S eq.と略記します。)
方程式:T-S eq.は無限自由度の連立偏微分方程式ですが,これの解が存在するためには(xσ-yσ)が空間的距離の任意の2点xσ,yσに対して,δ2|σ>I/{δσ(x)δσ(y)}=δ2|σ>I/{δσ(y)δσ(x)}が成立することが必要です。
この条件は,T-S eq.では,"(x-y)2<0 を満たす任意のx,yに対して[Hint(x),Hint(y)]=0 が成立する。"という条件と同値です。これをT-S eq.の微分可能条件(integrability-condition)といいます。
この微分可能条件は因果律,つまり局所可換性が満たされていれば少なくとも形式的には常に満たされます。
ただ,相互作用に微分結合がある場合には,Hint(x)=-Lint(x)が成立せず, T-S eq.が共変とは限りません。
しかし,空間的超曲面σ上の点x=(xμ)におけるσの法線方向単位ベクト:n(x)=(nμ(x))を導入して,Hint(x)の代わりにHint(x,n(x))のような量を採用すれば共変的定式化が可能らしいです。
以下では,相互作用には微分結合がない場合,つまり相互作用Hamiltonianは場の多項式のような直接結合だけを含むと仮定します。
さて,先に得られたT-S eq.は空間的超曲面σ上を用いることにより基本方程式を共変な形に表現しています。
しかし,実際問題を扱う場合,最終結果は特定のσには依存せず,結果にσが残ることはないので,T-S eq.iδ|σ>I/δσ(x)=Hint(x)|σ>Iを解く代わりに,i(∂|t>I/∂t)=Hint(t)|t>Iを解いても結果は同じです。
そこで,以下では超多時間形式は意識せず,専ら後者の方程式i(∂|t>I/∂t)=Hint(t)|t>Iを基本方程式と考えて,これを解くことに集中します。
さて,U行列と呼ばれる量:U(t,t0)を導入して基本方程式:i(∂|t>I/∂t)=Hint(t)|t>Iの解を|t>I≡U(t,t0)|t0>Iと表現すれば,元の微分方程式はi{∂U(t,t0)/∂t}=Hint(t)U(t,t0),U(t0,t0)=1と書き直せます。
これと,Hint(t)のHermite性からU(t,t0)はU(t,t1)U(t1,t0)=U(t,t0),およびU(t,t0)=U(t,t0)-1=U(t,t0)+なる性質を持つことがわかります。
さらに,Hint(t)=exp(iH0t)Hint exp(-iH0t)を微分方程式に代入するとi[∂{exp(-iH0t)U(t,t0)}/∂t]=(H0+Hint)exp(-iH0t)U(t,t0),すなわちi[∂{exp(-iH0t)U(t,t0)}/∂t]=H{exp(-iH0t)U(t,t0)}となります。
これは形式的に解けてexp(-iH0t)U(t,t0)=exp{-iH(t-t0)}exp(-iH0t0)より,U(t,t0)=exp(iH0t)exp{-iH(t-t0)}exp(-iH0t0)を得ます。
しかし,これでは解を求めたというより単にSchrödinger表示に戻っただけで共変形でもありません。
そこで,Hint(t)の具体的な形は既知としてi{∂U(t,t0)/∂t}=Hint(t)U(t,t0),U(t0,t0)=1を解く必要があります。
それ故,等価な積分方程式:U(t,t0)=1-i∫t0tdt1Hint(t1)U(t1,t0)を考えます。もしもHint(t)が量子演算子でなくただのc-数なら,これはVoltera型の積分方程式の特殊ケースです。
これを形式的な逐次近似法で解きます。
まず,U(t,t0)=1+(-i)∫t0tdt1Hint(t1)+(-i)2∫t0tdt1Hint(t1)∫t0t1dt2Hint(t2)U(t2,t0)です。
これを無限回繰り返せば,U(t,t0)=Σn=0∞(-i)n∫t0tdt1∫t0t1dt2..∫t0tn-1dtn[Hint(t1)Hint(t2).. Hint(tn)]=Σn=0∞(-i)n∫t0tdt1∫t0tdt2..∫t0tdtnθ(t1-t2)..θ(tn-1-tn)[Hint(t1).. Hint(tn)]を得ます。θ(τ)はHeaviside関数です。
この無限展開式は右辺の級数が収束するときに限り意味を持ちますが,もしもHint(t)がc-数なら右辺は常に収束します。
今日はここまでにします。
参考文献:中西襄 著「場の量子論」(培風館) ),J.D.Bjorken & S.D.Drell "Relativistic Quantum Fields"(McGraw-Hill),J.D.Bjorken & S.D.Drell"Relativistic Quantum Mechanics"(McGraw-Hill)
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コメント
>※(注2):HH(t)=exp(iHt)HSexp(-iHt)=exp(iHt)H[φ1(x),φ2(x),..,φn(x)]exp(-iHt)=H[φ1H(x),φ2H(x),..,φnH(x)]=H0[φ1H(x),φ2H(x),..,φnH(x)]+Hint[φ1H(x),φ2H(x),..,φnH(x)]です。
冷蔵庫です。細かいことですが、H^H=H^Sということも書いたほうがいいのではないでしょうか?今のままだと一見別のもののように見えます。それと、H^H(t)と書いてしまうと、H^Hがtに依っていると初学者が勘違いする恐れがあります。
投稿: 冷蔵庫 | 2010年11月21日 (日) 18時08分