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2010年11月 4日 (木)

赤外発散の初期論文(2)

 赤外発散(infrared-catastroph:赤外破局;赤外異変)の初期論文

紹介の続きです。

 前
回最後の,近似解をψ~ψ+=uとすると,

[c(μ,-Σ{Pcos(s)+Qsin(s)})

+mc2(1-μ2)1/2+(1/2)Σ{(P2+Q2)hcωs}-E]u=0

..(10) となります。

 
というところから続けます。(※hc≡h/(2π);hはPlanck定数)

 
序文では,"単にP,Qの関数を加えることで考慮する

ことができます。"と書かれていましたが,それに相当してP,Q

に次のような正準変換を施します。

すなわち,P=P'+σcos(s),

=Q'+σsin(s),',および,

'-Σcsσ{P'cos(s)+Q'sin(s)

+(1/2)σ} (11) とします。

 
(※正準変換ですから,P'とQ'もPとQ正準交換

関係を保存して[P',Q's'λ']=-iδss'δλλ',

[P',P's'λ']=[Q',Q's'λ']=0 に従います。※)

 対応して,波動関数uも,

u(,Q)

=exp[iΣσcos(s){Q'+(1/2)σsin(s)}]

u'(,Q')(12)としてプライムのついたu'で表現します。

 そして,変数σについては,

 σ=(μ,)/[hc{ks-(μ,s)}](13)と選択します。

 すると,u'に対する簡単化された方程式:

[c(μ,')+mc2(1-μ2)1/2+(1/2)Σ(P'2+Q'2)hcωs

-{c/(2hc)}Σ(μ,)2/{ks-(μ,s)}-E]u'=0 (14)

を得ます。

(注3):実際,

[c(μ,-Σ{Pcos(s)+Qsin(s)})

+mc2(1-μ2)1/2+(1/2)Σ{(P,2+Q2)hcωs}-E]u=0

..(10)に,単純に上記の正準変換を代入すると,

 [c(μ,'-Σcsσ

 {P'cos(s)+Q'sin(s)+(1/2)σ}

 -Σ

 [{P'+σcos(s)}cos(s)+{Q'+σsin(s)}

 ×sin(s)])+mc2(1-μ2)1/2 +(1/2)Σ

[(P'2+Q'2+2σ{P'cos(s)+Q'sin(s)}+σ2)

cωs-E]u'=0  となります。

 さらに=(μ,)/[hc{ks-(μ,s)}](13)より

 (μ,)=hcsσ-(μ, hcs)ですから,

 hcωsσ2-c(μ,hcsσ2)=c(μ,σ)

 です。

そこで,[c(μ,')-(c/2)Σ(μ,σ)+mc2(1-μ2)1/2

+(1/2)Σ(P'2+Q'2)hcωs-E]u'=0 を得ます。

再び=(μ,)/[hc{ks-(μ,s)}]を代入すること

により,結局

[c(μ,')+mc2(1-μ2)1/2+(1/2)Σ(P'2+Q'2)hcωs

-{c/(2hc)}Σ(μ,)2/{ks-(μ,s)}-E]u'=0 (14)

を得ます。(注3終わり)※

 (14)の解は,u'=u'(μ,m,)

 =γ(μ1/2exp[(i/hc)(mc(1-μ2)–1/2μ,)]

 Πmsλ(Q') (15),

 

 および,E=E(μ,m,)

 =mc2(1-μ2)-1/2+c(μ,)+Σ(m+1/2)hcωs

 -{c/(2hc)}Σ(μ,)2/{ks-(μ,s)}(16)

 で与えられます。

 ただし,γ(μ)はΛγ=γなる関係式を満たす規格化された

4成分振幅(4元スピノ-ル)であり,

は固定されたμに対して,(15)の関数u'が完全直交系をなす

よう導入された任意ベクトルです。

※(注4):(14)を

[c(μ,')+mc2(1-μ2)1/2+(1/2)Σ(P'2+Q'2)hcωs

-{c/(2hc)}Σ(μ,)2/{ks-(μ,s)}u'=Eu'

と書けば,これはEを固有値とする固有値方程式です。

u'は元々演算子:Λ≡(α,μ)+β(1-μ2)1/2(6)に対し,

Λψ+=ψ+を満たす正エネルギー解:ψ+=uに指数因子を

掛けただけの,u'(,Q)

=exp[-iΣσcos(s){Q'+(1/2)σsin(s)}]

u(,Q')(12')ですから,Λu'=u'を満たします。

 
そこで,Λγ=γを満たすΛの固有ベクトル:γ=γ(μ)

によってu'(,Q)=γ(μ)f(,Q)と表わせる

はずです。

 
また,正準交換関係:[p,q]=-iによって特徴付けられる

力学変数p,qによるHamiltonian:=(1/2)(p2+q2)を

持つ1次元調和振動子の運動方程式:|ψ>=E|ψ>

を考えます。

 
これの一般解:|ψ>は,|n>=En|n>を満たす固有値:

n=n+1/2に属するの固有ベクトル|n>(n=0,1,2,..)

の線形結合:|ψ>=Σnn|n>で与えられることがわかって

います。

 
特に,q-表示(座標表示)を考えてpについてはSchrodinger表現

p=-i(d/dq)を採用し,固有ベクトル:|n>の波動関数hn(q)

つまり固有関数をhn(q)≡<q|n>で与えると,

方程式|n>=En|n>,は定常状態のSchrodinger波動方程式:

(1/2)(-d2/dq2+q2)hn(q)=Enn(q) を意味します。

 
n(q)の座標変数をqの代わりにxとして波動関数をhn(x)

と書けば,これは(1/2)(-d2/dx2+x2)hn=(n+1/2) hn,

つまり,hn"-x2n+(2n+1)hn=0 に帰着します。

(hn(x)=(定係数)×exp(-x2/2)Hn(x)(Hn(x);は

Hermite多項式)と表わせることが知られています。)

 
それ故,調和振動子の総和に相当する電磁場部分の

固有値関係式は,

(1/2)(P'2+Q'2)hmsλ(Q')=(m+1/2)hmsλ(Q')

を満たす全ての固有関数の積:{Πmsλ(Q')}により,

(1/2)Σ(P'2+Q'2){Πmsλ(Q')}

=Σ(m+1/2){Πmsλ(Q')},(m=0,1,2,..)

と表わされます。

 
以上から,

[c(μ,')+mc2(1-μ2)1/2+(1/2)Σ(P'2+Q'2)

cωs-{c/(2hc)}Σ(μ,)2/{ks-(μ,s)}u'=Eu'

の完全な変数分離解がu’=γ(μmsλ(Q')φ()

と書けることがわかります。

 
残りの因子:φ()は,

[c(μ,')+mc2(1-μ2)1/2+Σ(m+1/2)hcωs

-{c/(2hc)}Σ(μ,)2/{ks-(μ,s)}φ()

=Eφ() の解です。

 
パラメータを導入して,エネルギー固有値を

E=E(μ,m,)=mc2(1-μ2)-1/2+c(μ,)

+Σ(m+1/2)hcωs

-{c/(2hc)}Σ(μ,)2/{ks-(μ,s)}と定めれば,

残るφ()の方程式は,[c(μ,')+mc2(1-μ2)1/2]φ()

=[c(μ,)+mc2(1-μ2)-1/2]φ() に帰着します。

 
そこで'φ()={mc(1-μ2)-1/2μ}φ()を,

'=(-ihc)(d/d)なる表現とした線形微分方程式を

解けば,φ()=exp[(i/hc){mc2(1-μ2)-1/2μ+g}]

を得ます。

 

そこで,規格化因子Ω1/2を付加してu'=u'(μ,m,)

=γ(μ1/2exp[(i/hc)(mc(1-μ2)–1/2μ,)]

Πmsλ(Q')(15) を得るわけです。

(注4終わり)※

 以下では,=0 に対する関数u'(μ,m)≡u'(μ,m,0)

=γ(μ1/2exp[(i/hc)(mc(1-μ2)–1/2μ)]Πmsλ(Q'))

のみを考えます。

 
E=E(μ,m)

=mc2(1-μ2)-1/2+Σ(m+1/2)hcωs

-{c/(2hc)}Σ(μ,)2/{ks-(μ,s)} です。

 電子と電磁場の間に相互作用がないときには,

E=mc2(1-μ2)-1/2で,これは運動量がmc2(1-μ2)-1/2μ

の自由電子に相当します。

 
関数h(x)は,調和振動子の方程式:

"-x2+(2m+1)h=0  の規格化された解です。

 そして,u'から元のuに戻し,Q'も元のQに戻すと,

これは(11),(12),(13)からu=u(μ,m)

=γ(μ1/2exp[(i/hc)(mc(1-μ2)–1/2μ,)

+iΣσcos(s){Q-(1/2)σsin(s)}]

Πmsλ(Q-σsin(s)) (17) です。

 この解:(17)の近似的正当性は,微細構造定数:e2/(hcc)

が小さいという条件に依存していないことに着目します。

 

 電磁波放出の反作用(=電子の運動の変化)のみを無視する

近似をしており,(17)にはより大きな質量mを付与することも

可能だからです。

 
(17)を正当化するために小さいと仮定する必要のある数は,

最初の近似においてψ-を計算し,そのノルム(norm)をψ+

ノルム(=1)と比較することで評価できます。

 実際に-のノルムを評価すると,

 norm(ψ-)~ {e2ω1/(mc2)}[f(μ)hcω1/(mc2)

 +g(μ)e2ω1/(mc2)] となります。ただし,ω1はここで

 考慮すべき高角振動数です。

 
また,f,gはμ=v/cだけの関数でありμが小さいとき

にはf~ 1/(3π),g~ {4/(9π2)}μ2,

また,(1-μ2)-1/2大きいときには,

f~ {1/(4π)}(1-μ2),g~{1/(4π2)}(1-μ2)2log{1/(1-μ2)}

のように評価されます。

 
これを見ればわかるように,今の近似展開でのパラメータは決して

微細構造定数:e2/(hcc)ではなく,hc→ 0 の古典極限も可能です。

そして,hc→ 0 の極限では(17)におけるP,Qへのシフト

σcos(s),σsin(s)は,実際に外場の中を一様運動

する電子により生成される電磁場の横波部分を正しく記述して

います。

 
切りがいいので今日はここまでにします。

 

次章では近似解の(17)式を応用して遷移確率と輻射の平均

エネルギーの計算に入ります。

 (
参考文献): F.Bloch and A.Nordsieck,

"Note on the Radiative Field of the Electron "  Phys.Rev,Vol.52,p54(1937) 

(edited by J.Schwinger「(selected papers on) QUANTUM ELECTRODYNAMICS」:Dover books on engineering and

engineering physics)より。

 

PS:依然としてマシン(PC)は不安定です。

 

 中古保証は1ヶ月ですからそろそろ考えないとネ。とはいえ

メチャ安物のマシンですから,ある程度仕方ないか。。

 

 さて,腹がヘッタから夜食でも?と冷蔵庫内を見ても卵が4つ

しかなかったので,2つを使って醤油味の玉子焼きを作りそれを

おかずにご飯を茶碗1杯食べたら眠くなりました。

 

 まだ寝るには早いけど。。

 

PS2:11月5日はMさん(=K.Sさん)の誕生日です。会えないけれど

おめでとう。中旬には岡山県にいる私の母も90回目の誕生日を迎える

予定です。。

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