赤外発散の初期論文(2)
赤外発散(infrared-catastroph:赤外破局;赤外異変)の初期論文
紹介の続きです。
前回最後の,近似解をψ~ψ+=uとすると,
[c(μ,p-Σsλasλ{Psλcos(ksr)+Qsλsin(ksr)})
+mc2(1-μ2)1/2+(1/2)Σsλ{(Psλ2+Qsλ2)hcωs}-E]u=0
..(10) となります。
というところから続けます。(※hc≡h/(2π);hはPlanck定数)
序文では,"単にPsλ,Qsλにrの関数を加えることで考慮する
ことができます。"と書かれていましたが,それに相当してPsλ,Qsλ
に次のような正準変換を施します。
すなわち,Psλ=P'sλ+σsλcos(ksr),
Qsλ=Q'sλ+σsλsin(ksr),r=r',および,
p=p'-Σsλhcksσsλ{P'sλcos(ksr)+Q'sλsin(ksr)
+(1/2)σsλ} (11) とします。
(※正準変換ですから,P'sλとQ'sλもPsλとQsλの正準交換
関係を保存して[P'sλ,Q's'λ']=-iδss'δλλ',
[P'sλ,P's'λ']=[Q'sλ,Q's'λ']=0 に従います。※)
対応して,波動関数uも,
u(r,Qsλ)
=exp[iΣsλσsλcos(ksr){Q'sλ+(1/2)σsλsin(ksr)}]
u'(r,Q'sλ)(12)としてプライムのついたu'で表現します。
そして,変数σsλについては,
σsλ=(μ,asλ)/[hc{ks-(μ,ks)}](13)と選択します。
すると,u'に対する簡単化された方程式:
[c(μ,p')+mc2(1-μ2)1/2+(1/2)Σsλ(P'sλ2+Q'sλ2)hcωs
-{c/(2hc)}Σsλ(μ,asλ)2/{ks-(μ,ks)}-E]u'=0 (14)
を得ます。
※(注3):実際,
[c(μ,p-Σsλasλ{Psλcos(ksr)+Qsλsin(ksr)})
+mc2(1-μ2)1/2+(1/2)Σsλ{(Psλ,2+Qsλ2)hcωs}-E]u=0
..(10)に,単純に上記の正準変換を代入すると,
[c(μ,p'-Σsλhcksσsλ
{P'sλcos(ksr)+Q'sλsin(ksr)+(1/2)σsλ}
-Σsλasλ
[{P'sλ+σsλcos(ksr)}cos(ksr)+{Q'sλ+σsλsin(ksr)}
×sin(ksr)])+mc2(1-μ2)1/2 +(1/2)Σsλ
[(P'sλ2+Q'sλ2+2σsλ{P'sλcos(ksr)+Q'sλsin(ksr)}+σsλ2)
hcωs-E]u'=0 となります。
さらに,σsλ=(μ,asλ)/[hc{ks-(μ,ks)}](13)より
(μ,asλ)=hcksσsλ-(μ, hcks)ですから,
hcωsσsλ2-c(μ,hcksσsλ2)=c(μ,asλσsλ)
です。
そこで,[c(μ,p')-(c/2)Σsλ(μ,asλσsλ)+mc2(1-μ2)1/2
+(1/2)Σsλ(P'sλ2+Q'sλ2)hcωs-E]u'=0 を得ます。
再び,σsλ=(μ,asλ)/[hc{ks-(μ,ks)}]を代入すること
により,結局
[c(μ,p')+mc2(1-μ2)1/2+(1/2)Σsλ(P'sλ2+Q'sλ2)hcωs
-{c/(2hc)}Σsλ(μ,asλ)2/{ks-(μ,ks)}-E]u'=0 (14)
を得ます。(注3終わり)※
(14)の解は,u'=u'(μ,msλ,g)
=γ(μ)Ω1/2exp[(i/hc)(mc(1-μ2)–1/2μ+g,r)]
Πsλhmsλ(Q'sλ) (15),
および,E=E(μ,msλ,g)
=mc2(1-μ2)-1/2+c(μ,g)+Σsλ(msλ+1/2)hcωs
-{c/(2hc)}Σsλ(μ,asλ)2/{ks-(μ,ks)}(16)
で与えられます。
ただし,γ(μ)はΛγ=γなる関係式を満たす規格化された
4成分振幅(4元スピノ-ル)であり,
gは固定されたμに対して,(15)の関数u'が完全直交系をなす
よう導入された任意ベクトルです。
※(注4):(14)を
[c(μ,p')+mc2(1-μ2)1/2+(1/2)Σsλ(P'sλ2+Q'sλ2)hcωs
-{c/(2hc)}Σsλ(μ,asλ)2/{ks-(μ,ks)}u'=Eu'
と書けば,これはEを固有値とする固有値方程式です。
u'は元々演算子:Λ≡(α,μ)+β(1-μ2)1/2(6)に対し,
Λψ+=ψ+を満たす正エネルギー解:ψ+=uに指数因子を
掛けただけの,u'(r,Qsλ)
=exp[-iΣsλσsλcos(ksr){Q'sλ+(1/2)σsλsin(ksr)}]
u(r,Q'sλ)(12')ですから,Λu'=u'を満たします。
そこで,Λγ=γを満たすΛの固有ベクトル:γ=γ(μ)
によってu'(r,Qsλ)=γ(μ)f(r,Qsλ)と表わせる
はずです。
また,正準交換関係:[p,q]=-iによって特徴付けられる
力学変数p,qによるHamiltonian:H=(1/2)(p2+q2)を
持つ1次元調和振動子の運動方程式:H|ψ>=E|ψ>
を考えます。
これの一般解:|ψ>は,H|n>=En|n>を満たす固有値:
En=n+1/2に属するHの固有ベクトル|n>(n=0,1,2,..)
の線形結合:|ψ>=Σncn|n>で与えられることがわかって
います。
特に,q-表示(座標表示)を考えてpについてはSchrodinger表現
p=-i(d/dq)を採用し,固有ベクトル:|n>の波動関数hn(q)
つまり固有関数をhn(q)≡<q|n>で与えると,
方程式H|n>=En|n>,は定常状態のSchrodinger波動方程式:
(1/2)(-d2/dq2+q2)hn(q)=Enhn(q) を意味します。
hn(q)の座標変数をqの代わりにxとして波動関数をhn(x)
と書けば,これは(1/2)(-d2/dx2+x2)hn=(n+1/2) hn,
つまり,hn"-x2hn+(2n+1)hn=0 に帰着します。
(hn(x)=(定係数)×exp(-x2/2)Hn(x)(Hn(x);は
Hermite多項式)と表わせることが知られています。)
それ故,調和振動子の総和に相当する電磁場部分の
固有値関係式は,
(1/2)(P'sλ2+Q'sλ2)hmsλ(Q'sλ)=(msλ+1/2)hmsλ(Q'sλ)
を満たす全ての固有関数の積:{Πsλhmsλ(Q'sλ)}により,
(1/2)Σsλ(P'sλ2+Q'sλ2){Πsλhmsλ(Q'sλ)}
=Σsλ(msλ+1/2){Πsλhmsλ(Q'sλ)},(msλ=0,1,2,..)
と表わされます。
以上から,
[c(μ,p')+mc2(1-μ2)1/2+(1/2)Σsλ(P'sλ2+Q'sλ2)
hcωs-{c/(2hc)}Σsλ(μ,asλ)2/{ks-(μ,ks)}u'=Eu'
の完全な変数分離解がu’=γ(μ)Πsλhmsλ(Q'sλ)φ(r)
と書けることがわかります。
残りの因子:φ(r)は,
[c(μ,p')+mc2(1-μ2)1/2+Σsλ(msλ+1/2)hcωs
-{c/(2hc)}Σsλ(μ,asλ)2/{ks-(μ,ks)}φ(r)
=Eφ(r) の解です。
パラメータgを導入して,エネルギー固有値を
E=E(μ,msλ,g)=mc2(1-μ2)-1/2+c(μ,g)
+Σsλ(msλ+1/2)hcωs
-{c/(2hc)}Σsλ(μ,asλ)2/{ks-(μ,ks)}と定めれば,
残るφ(r)の方程式は,[c(μ,p')+mc2(1-μ2)1/2]φ(r)
=[c(μ,g)+mc2(1-μ2)-1/2]φ(r) に帰着します。
そこでp'φ(r)={mc(1-μ2)-1/2μ+g}φ(r)を,
p'=(-ihc)(d/dr)なる表現とした線形微分方程式を
解けば,φ(r)=exp[(i/hc){mc2(1-μ2)-1/2μ+gr}]
を得ます。
そこで,規格化因子Ω1/2を付加してu'=u'(μ,msλ,g)
=γ(μ)Ω1/2exp[(i/hc)(mc(1-μ2)–1/2μ+g,r)]
Πsλhmsλ(Q'sλ)(15) を得るわけです。
(注4終わり)※
以下では,g=0 に対する関数u'(μ,msλ)≡u'(μ,msλ,0)
=γ(μ)Ω1/2exp[(i/hc)(mc(1-μ2)–1/2μ)]Πsλhmsλ(Q'sλ))
のみを考えます。
E=E(μ,msλ)
=mc2(1-μ2)-1/2+Σsλ(msλ+1/2)hcωs
-{c/(2hc)}Σsλ(μ,asλ)2/{ks-(μ,ks)} です。
電子と電磁場の間に相互作用がないときには,
E=mc2(1-μ2)-1/2で,これは運動量がmc2(1-μ2)-1/2μ
の自由電子に相当します。
関数hm(x)は,調和振動子の方程式:
hm"-x2hm+(2m+1)hm=0 の規格化された解です。
そして,u'から元のuに戻し,Q'sλも元のQsλに戻すと,
これは(11),(12),(13)からu=u(μ,msλ)
=γ(μ)Ω1/2exp[(i/hc)(mc(1-μ2)–1/2μ,r)
+iΣsλσsλcos(ksr){Qsλ-(1/2)σsλsin(ksr)}]
Πsλhmsλ(Qsλ-σsλsin(ksr)) (17) です。
この解:(17)の近似的正当性は,微細構造定数:e2/(hcc)
が小さいという条件に依存していないことに着目します。
電磁波放出の反作用(=電子の運動の変化)のみを無視する
近似をしており,(17)にはより大きな質量mを付与することも
可能だからです。
(17)を正当化するために小さいと仮定する必要のある数は,
最初の近似においてψ-を計算し,そのノルム(norm)をψ+の
ノルム(=1)と比較することで評価できます。
実際に,ψ-のノルムを評価すると,
norm(ψ-)~ {e2ω1/(mc2)}[f(μ)hcω1/(mc2)
+g(μ)e2ω1/(mc2)] となります。ただし,ω1はここで
考慮すべき高角振動数です。
また,f,gはμ=v/cだけの関数でありμが小さいとき
にはf~ 1/(3π),g~ {4/(9π2)}μ2,
また,(1-μ2)-1/2が大きいときには,
f~ {1/(4π)}(1-μ2),g~{1/(4π2)}(1-μ2)2log{1/(1-μ2)}
のように評価されます。
これを見ればわかるように,今の近似展開でのパラメータは決して
微細構造定数:e2/(hcc)ではなく,hc→ 0 の古典極限も可能です。
そして,hc→ 0 の極限では(17)におけるPsλ,Qsλへのシフト
σsλcos(ksr),σsλsin(ksr)は,実際に外場の中を一様運動
する電子により生成される電磁場の横波部分を正しく記述して
います。
切りがいいので今日はここまでにします。
次章では近似解の(17)式を応用して遷移確率と輻射の平均
エネルギーの計算に入ります。
(参考文献): F.Bloch and A.Nordsieck,
"Note on the Radiative Field of the Electron " Phys.Rev,Vol.52,p54(1937)
(edited by J.Schwinger「(selected papers on) QUANTUM ELECTRODYNAMICS」:Dover books on engineering and
engineering physics)より。
PS:依然としてマシン(PC)は不安定です。
中古保証は1ヶ月ですからそろそろ考えないとネ。とはいえ
メチャ安物のマシンですから,ある程度仕方ないか。。
さて,腹がヘッタから夜食でも?と冷蔵庫内を見ても卵が4つ
しかなかったので,2つを使って醤油味の玉子焼きを作りそれを
おかずにご飯を茶碗1杯食べたら眠くなりました。
まだ寝るには早いけど。。
PS2:11月5日はMさん(=K.Sさん)の誕生日です。会えないけれど
おめでとう。中旬には岡山県にいる私の母も90回目の誕生日を迎える
予定です。。
| 固定リンク
「114 . 場理論・QED」カテゴリの記事
- くりこみ理論第2部(1)(2020.11.11)
- くりこみ理論(次元正則化)16)(2020.06.13)
- くりこみ理論(次元正則化)(15)(2020.06.07)
- くりこみ理論(次元正則化)(14)(2020.05.31)
- くり込み理論(次元正則化)(13)(2020.05.31)
コメント