場の量子論における摂動論(3)
場の量子論における摂動論の続きです。
ここまでで,DysonのS行列がS=Σn=0∞{(-i)n/n!}{limε→+0∫d4x1∫d4x2..∫d4xnT[Hint(x1)..Hint(xn)]exp(-εΣj=1n|xj0|)}と級数展開で表現されることを見ました。
そこで,Sの行列要素:Sba=<b|S|a>の各項を計算することは,結局<b|T[Hint(x1)..Hint(xn)]|a>を計算することに帰着することがわかります。
こうしたT積の期待値を求めるには,T積になっている演算子を分解して消滅演算子を全て左へ,生成演算子を全て右へ寄せる操作を行なうのが便利です。
このように操作して取り直した積を正規積(normal-product),またはN積といいます。(正規順序(normal-ordering)ともいいます。)
正規積は記号::で表わすことにします。
すなわち,場φj(x)=φj(-)(x)+φj(+)(x)の積:Πφj(x)に,φj(x)=φj(-)(x)+φj(+)(x)を代入し展開して各項について正規積を取ったものを:Πφj(x):と定義します。
ここで,φj(-)(x)は消滅演算子を係数とする場の正振動数部分,φj(+)(x)は生成演算子を係数とする負振動数部分です。
ただし,反可換な項の積については項の順序σに対して符号:sgnσFを乗じます。
例えばスピノルψ(x)の成分については,:ψα(+)(x)ψ~β(-)(y):≡-ψ~β(-)(y)ψα(+)(x) etc.とします。
それ故,例えば:ψα(x)ψ~β(y):=ψα(+)(x)ψ~β(+)(y)+ψα(-)(x)ψ~β(+)(y)-ψ~β(-)(y)ψα(+)(x)+ψα(-)(x)ψ~β(-)(y)=-ψ~β(+)(y)ψα(+)(x)+ψα(-)(x)ψ~β(-)(y)-ψ~β(-)(y)ψα(+)(x)-ψ~β(-)(y)ψα(-)(x)です。
特に,質量がμの中性スカラー場:φ(x),および質量がmのスピノル場:ψ(x)に対しては,φ(x)φ(y)=:φ(x)φ(y):+[φ(+)(x),φ(-)(y)],:ψ^α(x)ψ^β(y):=:ψ^α(x)ψ^β(y):+{ψ^α(+)(x),ψ^β(-)(y)},φ(x)ψ^β(y)=:φ(x)ψ^β(y):と書けます。
ただし,記号ψ^はψ,ψ~の両方を意味します。
ところが,φ,ψは自由場なので,いわゆる不変デルタ関数によって[φ(+)(x),φ(-)(y)]=Δ+(x-y;μ2)=-Δ-(x-y;μ2),{ψα(+)(x),ψ~β(-)(y)}=S+αβ(x-y;m),{ψ~β(+)(y)ψα(-)(x)}=S-αβ(x-y;m)と表わされます。
また,明らかに{ψα(+)(x),ψβ(-)(y)}={ψ~α(+)(x),ψ~β(-)(y)}=0 です。
そこで,T[φ(x)φ(y)]-:φ(x)φ(y):=θ(x0-y0)[φ(+)(x),φ(-)(y)]+θ(y0-x0)[φ(+)(y),φ(-)(x)]=θ(x0-y0)Δ+(x-y;μ2)-θ(y0-x0)Δ-(y-x;μ2)=iΔF(x-y;μ2)=<0|T[φ(x)φ(y)]|0>と書けます。
同様に,T[ψα(x)ψ~β(y)]-:ψα(x)ψ~β(y):=θ(x0-y0){ψα(+)(x),ψ~β(-)(y)}-θ(y0-x0){ψ~β(+)(y),ψα(=)(x)}=θ(x0-y0)S+αβ(x-y;m)-θ(y0-x0)S-αβ(y-x;m)=iSFαβ(x-y;m)=<0|T[ψα(x)ψ~β(y)]|0>です。
※(注6):ΔF(x-y;μ2)=<0|T[φ(x)φ(y)]|0>は自由な中性スカラー粒子の伝播関数(propagator)で(□+μ2)ΔF(x-y;μ2)=-δ4(x-y)を満たします。
そこで,そのFourie表示はiΔF((x-y;μ2)=(2π)-4∫d4p[exp{-ip(x―y)}/(p2-μ2+iε)]です。
これについての詳細は,例えば2009年6/14の記事「電磁場の共変的量子化(2)(中西理論;不変デルタ関数)」を参照してください。
一方,SFαβ(x-y;m)=<0|T[ψα(x)ψ~β(y)]|0>は自由なDirac粒子の伝播関数で,4×4のspinor行列表現ではSF(x-y;m)=(iγμ∂μ+m)ΔF(x-y;m2)です。
SF(x-y;m)は,方程式(iγμ∂μ-m)SF(x-y;m)=-(□+m2)ΔF(x-y;m2)=δ4(x-y)を満たします。
これのFourie表示はSF(x-y;m)=(2π)-4∫d4p[exp{-ip(x―y)}/(γμpμ-m+iε)]=(2π)-4∫d4p[exp{-ip(x―y)}(γμpμ+m)/(p2-m2+iε)です。 (注6終わり)※
一般に,<0|T[φ1(x)φ2(y)]|0>を<φ1φ2>と略記すればT[φ1φ2]=:φ1φ2;+<φ1φ2>と書けることがわかります。
これを3つの積に拡張すると,T[φ1φ2φ3]=:φ1φ2φ3;+<φ1φ2>φ3±<φ1φ3>φ2+φ1<φ2φ3>となることがわかります。
以下,操作を繰り返して帰納すると次のWickの定理が得られます。これは既に過去記事(2010年7/6の記事「場理論におけるS行列とLSZの公式(5)」)でも書いているので証明は省略します
[Wickの定理]:T[φ1φ2φ..φn]=Σσ(sgnσF)<φk1φk2><φk3φk4>..<φk(2m-1)φk(2m)>×:φk(2m-1)φk(2m)..φnkn:が成立する。
ただし,和は(1,2,..,n)の中から0≦2m≦nを満たすm個の数の対を選び出すあらゆる可能な組み合わせσについて取る。
また:φj:≡φj,:1:≡1とする。
(※PS:sgnσFのFはFermionのFの関数を意味していて,Bosonなら如何なるσでもsgnσF≡1と定義しています。(念のため)
このブログはもちろん他人に読まれることを意識してはいますが,初学者の教育や誰かの便宜のためではなく,あくまでも自分自身の覚書きとすることを主眼に書いてる日記です。
私個人の意見,見解や新発見ではなく,既存の知見をくだいて説明していると私が思ってる部分について,もしわかりにくいとか感じられる場合には,他にきちんと書かれた文献や書物があるのでそちらをご参照されることをお勧めします。
あるいは,ご自身で自由に書けるブログやホームページを持たれるのもいいかと思います。※)
さらに,上で定義した正規積を用いて,相互作用:Hint(x)=-Lint(x)を再定義します。
元々,全ての物理変数が可換な古典的量の積から成る相互作用項を量子化して演算子の積として表現する際,一般には非可換な演算子の積の順序については曖昧なものです。
そこで,場の演算子の多項式から成る相互作用:Hint(x)=-Lint(x)においても,その各項は単なる演算子の積ではなく正規積であると定義します。
こう定義すれば真空期待値が<0|Hint(x)|0>=-<0|Lint(x)|0>=0 のようになって物理的に合理的です。
しかし,この定義では初めからHint(x)が同一点xでの場の演算子の正規積で表わされているため,<b|T[Hint(x1)..Hint(xn)]|a>のようなT積が同一の時空点の場の演算子の正規積を含みます。
そこで,Wickの定理:T[φ1φ2φ..φn]=Σσ(sgnσF)<φk1φk2><φk3φk4>..<φk(2m-1)φk(2m)>:φk(2m-1)φk(2m)..φnkn:の両辺で特にφjとφkが同一の時空点の正規積に入る場合には,<φjφk>を全てゼロにするという付帯条件をつける必要があります。
さて,ここで"如何にしてτ関数(T積の真空期待値=Green関数)から具体的なS行列要素:Sba=<b|S|a>が得られるか?"という疑問に答える理論的公式が存在するので,暫し本論を中断してそれを見てみます。
これについて詳述したシリ-ズ記事のうちで2010年7/5に書いた過去記事「場理論におけるLSZの公式(4)」のほぼ全部を再掲します。
※(以下は再掲記事です。)
"The Reduction Formula for Scalar Fields(スカラー場に対する還元公式)"
S行列要素の絶対値の2乗:|Sβα|2は始状態(In-state)αから終状態(Out-state)βへの実験的に観測される遷移確率を与えます。
そこで,以下ではS行列要素を実際に計算する非常に厄介な課題に向かうことにします。
1954年まではS行列の計算への唯一の系統的アプローチは相互作用カレントj~(x)のベキによる摂動展開の理論だけでした。
そのときから後の進歩としては,最初Low,そしてLehmann,Symanzik,およびZimmmermann(LSZ)によって始められた理論展開に由来するものがあります。
彼らは"弱い結合項=摂動"による展開に訴えることなく,S^に含まれる情報の幾つかを表面化する方法を示しました。
それは,物理的に興味あるS行列要素を場の演算子の真空期待値によって表現する方法で,漸近条件:limt→-∞<α|φf(t)|β>=√Z<α|φinf|β>やlimt→+∞<α|φf(t)|β>=√Z<α|φoutf|β>を適用することで成し遂げられました。(Zはくりこみ定数)
既に,場の交換子[φ(x),φ(y)]に対して,有用な式Δ'(x-y)=ZΔ(x-y;m2)+∫mt2∞dσ2ρ(σ2)Δ(x-y;σ2)を導出する際に,真空期待値:iΔ'(x-y)=<0|[φ(x),φ(y)]|0>を扱うことが有利であるという例を見ました。
そこでは,理論のLorentz不変性や他の一般的性質に訴えることによってΔ'(x-y)の簡略な一般形を導きました。
以下ではLSZの方法に従って,Sβα=<β;out|α;in>の形の行列要素より幾らかは扱いやすい場の演算子の積の真空期待値を見出すことから出発します。
別の意味では,場の演算子φ(x)を直接摂動級数で展開する方法で自由なin-field漸近場の演算子の積の真空期待値を用いてS行列要素の展開を作り上げていくことも可能です。
こうした表現の計算規則は既に発見されていて,それは伝播関数アプローチ(propagator-approach)でのFeynmanルールに等しいものです。
すなわち,Δ'(x-y)を研究する上で訴えられたような不変性の論旨はHeisenberg演算子:φを一意的で不変な真空状態に挟まれた行列要素を研究する場合に最も定式化が容易でうまく使用できるわけです。
以下では,これら不変性(対称性)の助けを借りてS行列要素Sβα=<β;out|α;in>における物理状態α,βから情報を引き出し,それを真空状態で挟まれた場の演算子の積に表わすLSZの一般的な"Reduction Teqchnique(還元記述)"を段階的に展開していきます。
まず,S行列要素:Sβαp=<β;out|αp;in>を考えます。
βは終状態|β;out>において散乱されて出現する粒子を記述しており,|αp;in>は入射粒子の集合αに加えてさらに運動量pを持った入射粒子が存在する状態を表わす始状態(In-state)です。
漸近条件を用いてIn-state:|αp;in>から粒子pを差し引く代わりに適当な場の演算子を導入します。
そして,ain^(p)=i∫d3xfp*(x)∂0⇔φin(x),aout^(p)=i∫d3xfp*(x)∂0⇔φout(x)なる表式を用います。
すなわち,<β;out|αp;in>=<β;out|ain^+(p)|α;in>=<β;out|aout^+(p)|α;in>+<β;out|ain^+(p)-aout^+(p)|α;in>=<β-p;out|α;in>-i<β;out|∫d3xfp(x)∂0⇔[φin(x)-φout(x)]|α;in>です。
|β-p;out>は,もしも集合βの中にpが存在するなら,集合βからpを除いたOut-stateを表わします。しかし,βの中にpが存在しないならこの項はゼロであって無くなります。
また.|αp;in>が初期に2粒子がある場合の散乱の始状態なら<β-p;out|α;in>は入射粒子と標的粒子が運動量を含め,それらの量子数を保存する前方弾性散乱にのみ寄与します。
つまり,<β-p;out|α;in>=δα(β-p)です。
※(注):|α;in>が1粒子の場合,<β-p;out|P^2|α;in>=α2<β-p;out|α;in>=(β-p)2<β-p;out|α;in>より<β-p;out|α;in>≠0 なら(β-p)2=α2=m2ですから,|β-p;out>も1粒子Out-stateです。
そして,<β-p;out|P^μ|α;in>=αμ<β-p;out|α;in>=(β-p)μ<β-p;out|α;in>ですから,<β-p;out|α;in>≠0 は(β-p)μ=αμ,つまりβμ=αμ+pμなる弾性散乱を意味し,しかも方向を変えず素通りする前方散乱のみの振幅です。(注終わり)※
さて,<β;out|αp;in>=<β-p;out|α;in>-i<β;out|∫d3xfp(x)∂0⇔[φin(x)-φout(x)]|α;in>の右辺の項:-i∫d3x<β;out|fp(x)∂0⇔[φin(x)-φout(x)]|α;in>はGreenの定理から,時間tに依存しません。
これは,前にもGreenの定理から√Z<α|φinf|β>においてφinf(t)≡i∫d3xf*(x,t)∂0⇔φin(x,t)が時間tに依存しないのでφinfと表現できることを示したのと同様です。
そして,漸近条件limt→-∞<α|φf(t)|β>=√Z<α|φinf|β>,およびlimt→+∞<α|φf(t)|β>=√Z<α|φoutf|β>から,x0→-∞ の極限ではφin(x,x0)を(1/√Z)φ(x,x0)で,x0→+∞ の極限ではφout(x,x0)を(1/√Z)φ(x,x0)で置き換えることが許されます。
それ故,結局<β;out|αp;in>=<β-p;out|α;in>+(i/√Z)(lim x0→+∞-lim x0→-∞)<β;out|∫d3xfp(x)∂0⇔φ(x,x0)|α;in>と書けます。
これが"Reduction(還元)"の手続きの第一歩です。
これから,より便利な形を得るため,恒等式:(lim x0→+∞-lim x0→-∞)∫d3xg1(x)∂0⇔g2(x)=∫-∞∞d4x[∂0{g1(x)∂0⇔g2(x)}]=∫-∞∞d4x[g1(x)∂02g2(x)-{∂02g1(x)}g2(x)]を用います。
また,(□+m2)fp(x)=0 により,得られた式に∂02fp(x)=(∇2-m2)fp(x)を代入します。
(i/√Z)(lim x0→+∞-lim x0→-∞)∫d3x<β;out|fp(x)∂0⇔φ(x,x0)|α;in>=(i/√Z) ∫-∞∞d4x<β;out|fp(x)∂02φ(x)-{∂02fp(x)}φ(x)|α;in>=(i/√Z)∫-∞∞d4x<β;out|fp(x)(∂02+m2)φ(x)-(∇2fp(x))φ(x)]|α;in>=(i/√Z)∫-∞∞d4xfp(x)(□+m2)<β;out|φ(x)|α;in>です。
最後の変形では部分積分に対するGreenの公式を用いました。
こうして最終式として<β;out|αp;in>=<β-p;out|α;in>+(i/√Z)∫-∞∞d4xfp(x)(□+m2)<β;out|φ(x)|α;in>を得ました。
この手続きは,始状態と終状態から全ての粒子を取り除き,場の演算子積の真空期待値のみが残るようになるまで繰り返すことができます。
例えば,<β;out|αp;in>=<β-p;out|α;in>+(i/√Z)∫-∞∞d4xfp(x)(□+m2)<β;out|φ(x)|α;in>の右辺の因子:<β;out|φ(x)|α;in>の集合βがβ=γp'のとき,これから,さらに粒子p'を取り除きます。
<β;out|φ(x)|α;in>=<γ;out|aout^(p')φ(x)|α;in>=<γ;out|φ(x)ain^(p')|α;in>+<γ;out|aout^(p')φ(x)-φ(x)ain^(p')|α;in>=<γ;out|φ(x)|α-p';in>+<γ;out|aout^(p')φ(x)-φ(x)ain^(p')|α;in>です。
故に,<β;out|φ(x)|α;in>=<γ;out|φ(x)|α-p';in>-i∫d3y<γ;out|φout(y)φ(x)-φ(x)φin(y)|α;in>∂y0⇔fp'*(y)を得ます。
漸近条件によって再びy0→-∞ の極限ではφin(y)を(1/√Z)φ(y)で,y0→+∞ の極限ではφout(y)を(1/√Z)φ(y)で置き換えることが許されます。
このとき,項-i∫d3y<γ;out|φout(y)φ(x)-φ(x)φin(y)|α;in>∂y0⇔fp'*(y)を時間順序積(T積;T-product)で表現することができます。
まず,<γ;out|φout(y)φ(x)-φ(x)φin(y)|α;in>=(1/√Z){lim y0→+∞<γ;out|φ(y)φ(x)|α;in>-lim y0→-∞<γ;out|φ(x)φ(y)|α;in>}です。
これは,<γ;out|φout(y)φ(x)-φ(x)φin(y)|α;in>=(1/√Z){lim y0→+∞<γ;out|θ(y0-x0)φ(y)φ(x)+θ(x0-y0)φ(x)φ(y)|α;in>-lim y0→-∞<γ;out|θ(x0-y0)φ(x)φ(y)+θ(y0-x0)φ(y)φ(x)|α;in>}=(1/√Z)(lim y0→+∞-lim y0→-∞)<γ;out|T(φ(y)φ(x))|α;in>とも書けます。
最後に,恒等式(lim x0→+∞-lim x0→-∞)∫d3xg1(x)∂0⇔g2(x)=∫-∞∞d4x[g1(x)∂02g2(x)-{∂02g1(x)}g2(x)],および自由平面波の方程式(□y+m2)fp'*(y)=0 の助けを借ります。
結局,<γp';out|φ(x)|α;in>=<γ;out|φ(x)|α-p';in>+(i/√Z)∫d4y<γ;out|T(φ(y)φ(x))|α;in>←(□y+m2)fp'*(y)なる式を得ます。
ただし,記号:g(y)←(□y+m2)は,演算子:(□y+m2)が前の関数g(y)に作用すること,つまり(□y+m2)g(y)を意味します。
単純に後者のように書けば問題ないのですが,Out状態からの粒子除去をIn状態からのそれと区別してfp'*(y)を後ろに置く表現を際立たせるためにこう表現します。
このReduction(還元)テクニックを繰り返し適用して,行列要素の両側の状態から全ての粒子を除き,場の演算子のT積の真空期待値に到達する道は今や明らかです。
すなわち,全ての運動量対についてpi≠qjの場合には,<p1,..,pn:out|q1,..,qm:in>=(i/√Z)m+nΠi=1m∫d4xiΠj=1n∫d4yjfqi(xi)(□xi+m2)→<0|T(φ(y1)..φ(yn)φ(x1)..φ(xm))|0>←(□yj+m2)fpj*(yj)となります。
これを書くに当たって簡単のために全ての{pi},{qj}についてpi≠qjを仮定して前方散乱の項を落としました。
しかし,これには何の問題もありません。
というのは,これら落とした項もまた同じ還元テクニックをうまく適用すれば,同様な場の演算子のT積の真空期待値に帰着させることが可能だからです。
最終式:<p1,..,pn:out|q1,..,qm:in>=(i/√Z)m+nΠi=1m∫d4xiΠj=1n∫d4yjfqi(xi)(□xi+m2)→<0|T(φ(y1)..φ(yn)φ(x1)..φ(xm))|0>←(□yj+m2)fpj*(yj)は場の量子論の散乱振幅の全ての計算の基礎となる役割を果たします。
上図16-2は,(z1,..,zr)でr個の粒子が消滅,または生成するあらゆるFeynman-diagramを表現していることに着目します。
この図は<0|T(φ(z1)..φ(zr))|0>を表現していますが,これはr粒子に拡張された完全なGreen関数と見なすことができます。
ReductionFormula:<p1,..,pn:out|q1,..,qm:in>=(i/√Z)m+nΠi=1m∫d4xiΠj=1n∫d4yjfqi(xi)(□xi+m2)→<0|T(φ(y1)..φ(yn)φ(x1)..φ(xm))|0>←(□yj+m2)fpj*(yj)における因子(□i+m2)の役割を考えます。
この演算は,伝播関数 i/(pi2-m2+iε)に(□i+m2)~ (m2-pi2)を掛けることで互いに相殺させて,Feynman-diagramの相互作用Black-Box部分へと入っていく外線の足から伝播関数を除去します。
そして,伝播関数の代わりに外線因子として自由平面波fpi(xi)またはfpj*(yj)を付与するわけです。
Reduction Formula(還元公式)から,S行列要素は完全なr粒子Green関数<0|T(φ(z1)..φ(zr))|0>から外線の足を取り除かれ,質量殻pi2=qj2=m2に置かれた外線運動量を持ったr=n+m個の粒子のGreen関数であることがわかります。
もしも,r粒子Green関数:<0|T(φ(z1)..φ(zr))|0>のFeynman-diagram に(□i+m2)~(m2-pi2);(pi2=m2)を作用させたとき,
相殺すべき相手の i/(pi2-m2+iε)の因子が存在せず,p2≠m2の質量殻外の内線仮想粒子の伝播関数因子 i/(p2-m2+iε)が存在するだけなら,m2-pi2=0 が掛かる結果,このdiagramのS行列への寄与はゼロとなって消えます。
参考文献:J.D.Bjorken & S.D.Drell "Relativistic Quantum Fields" (McGraw-Hill)
(再掲記事終わり)※
今日はここまでにします。
参考文献:中西襄 著「場の量子論」(培風館) ),J.D.Bjorken & S.D.Drell "Relativistic Quantum Fields"(McGraw-Hill),J.D.Bjorken & S.D.Drell "Relativistic Quantum Mechanics"(McGraw-Hill)
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この記事へのコメントは終了しました。
コメント
冷蔵庫です。なんだか記事が右にずれて表示されてますね。
ところで、Wickの定理の式の右辺にsgnσFが現れていますが、フェルミオンのときだけですよね?
投稿: 冷蔵庫 | 2010年11月24日 (水) 19時27分