水滴の成長と蒸発(2)
さて水滴の成長と蒸発の続きです。
色々としあわせな状態にかまけてはいますが,基本的にやることは変わっていません。
水滴が媒質を含む希薄溶液から成る場合について記述します。
§3.希薄溶液の水滴の凝結と蒸発
①定常状態(平衡状態)の熱と質量の関係
蒸発の潜熱をLe(単位質量当たり)とすると,凝結によって単位時間当たり解放される熱量はLe(dm/dt)です。
そこで,この潜熱を熱源とするu=0での熱方程式は(dq/dt)0=-∫r=ajhndS+Le(dm/dt)0 (31)となります。ただし,aは水滴半径,qは水滴の熱量です。
この場合,熱平衡(定常)の条件:(dq/dt)0=0はLe(dm/dt)0=∫r=ajhndS,またはVを水滴の体積として凝結による潜熱の解放が均質に生じるとすれば,∇jh=Le(dm/dt)0/V=∇jhです。
あるいは,jh=-k∇T(25)より
∫r=ajhnrdS=-∫r=aka(∂T/∂r)dS=-4πaka(T∞-Ta)
なので,水滴表面温度Taが一定条件下では,
Le(dm/dt)0=∫r=ajhndS=4πaka(Ta-T∞)
と表現できます。
ただし,前述したようにkaは水滴の熱伝導度です。
最後の式は,(蒸発に必要な熱量)=-Le(dm/dt)0=4πaka(T∞-Ta),または(凝結によって解放される熱量)=Le(dm/dt)0==4πaka(Ta-T∞)=(伝導により流出する熱量)を示しています。
このLe(dm/dt)0=4πaka(Ta-T∞)なる式は,(dm/dt)0=(4πaka/Le)(Ta-T∞)(32),Ta=T∞+{Le/(4πaka)}(33)と書き直すことができます。
故に,蒸発水滴:(dm/dt)0<0 の温度はまわりよりも低く,凝結水滴:(dm/dt)0>0 の温度はまわりよりも高いといえます。
②Clausius-Clapeyronの公式
さて2相(液相,気相)平衡状態の飽和水蒸気esat(T)の温度保存式を求めます。
熱力学によれば,平衡の条件は液相,気相のGibbs自由エネルギーについてGw=Gv(34),またはμw=μvが成立することです。
Gw,Gvは1モル当たりの水,水蒸気のGibbs自由エネルギーです。
また,μw,μvは1モル当たりの水,水蒸気の化学ポテンシャルですが,Gw=μw,Gv=μvであり,同じものを別記号で表わしているだけです。
温度TがT+dT,圧力pがp+dpになっても(34)の関係が維持されるためには,その際のGw,Gvの増加分dGw,dGvについてもdGw=dGv(35)が成立することが必要です。
ところで,熱平衡状態ではdu=Tds-pdvでG=u+pv-Tsですから,dG=-sdT+vdpです。
ただし,u,sはそれぞれ1モル当たりの内部エネルギー,エントロピー,vは1モル当たりの体積です。
したがって,dGw=dGv (35)は-swdT+vwdp=-svdT+vvdpを意味します。
つまりdp/dT=(sv-sw)/(vv-vw)(36)を意味します。
ところが,T(sv-sw)=LeMw (37)ですから,これは
dp/dT=LeMw/{T(vv-vw)}とも書けます。
同じ1モルでは水の体積は水蒸気の体積よりはるかに小さいので,この式の右辺で水蒸気の体積vvに比して水の体積vwを無視します。
左辺のpにp=esat(T),右辺のvvにvv=RT/esatを代入すると,
(1/esat)(desat/dT)=LeMw/(RT2)(38)を得ます。
これが,有名なClausius-Clapeyronの公式(クラウジウス・クラペイロンの公式)です。
念のため,改めて追記するとLeは単位質量当たりの蒸発の潜熱,Mwは水の分子量です。
(↓下図はネット検索で入手した図の転載です。)
※(注):エンタルピー:h≡u+pvを導入するとdu=Tds-pdvよりdh=Tds+vdpです。
2相平衡にあるときの圧力pは,dp/dT=(sv-sw)/(vv-vw)(36)を満たしますから,dh=Tds+vdp=Tds+v(dp/dT)dTと書けます。
そこで,hv-hw=T(sv-sw)+∫v(dp/dT)dTですが,相変化が定温(dT=0)の下で移行する場合の潜熱はエンタルピーの変化として表現されます。
つまり,hv-hw=T(sv-sw)=LeMwです。
したがって,p=esatに対するClausius-Clapeyronの公式:
(1/esat)(desat/dT)=LeMw/(RT2)(38)は,
(1/esat)(desat/dT)=d(lnesat)=(hv-hw)/(RT2)とも表現されることがわかります。(注終わり)※
蒸発の潜熱:LeがTに依らず一定値を取ると仮定して,
(1/esat)(desat/dT)=LeMw/(RT2)(38)を積分すると,
esat(Ta)=esat(T∞)exp[{LeMw/(RT∞)}(Ta-T∞)/Ta](39)
が得られます。
③Kelvinの公式,Raoultの規則
半径aの純水滴と湿潤空気の混合系で,気相と液相が平衡にあるためにはμw=μv(40),かつpw=p+2σ/a(41)が成立する必要があります。
ただし,σは表面張力です。
(このブログのバックナンバーで表面張力について言及しているのは2009年4/28の「水の波(2)(浅水波,深水波,表面張力波)」だけですね。
一般の球でない水面の場合にはpw=p+σ/a1+σ/a2です。)
ここで,p,Tの変化の下で,μw/T=μv/Tの関係が維持されるためにはd(μw/T)=d(μv/T)(42)が成立することが必要です。
ところが(∂μw/∂pw)T=vw,[∂(μw/T)/∂T]pw=-hw/T2より,
d(μw/T)=(-hw/T2)dT+(vw/T)dpwです。
ただしhはエンタルピー:h≡u+pvです。
一方,水蒸気のみの1成分系では,Gv=μvであり,
混合系ではGxa=xaGa+xvGv(xa+xv=1)です。
ここで,xaの添字aは(乾燥)空気(air)のa,
xvのvは水蒸気(vapor)のvです。
そして,水蒸気の分圧はe=xvpですから,Gv=μv=μv+(T)+RTlneよりμv=μv+(T)+RTlnp+RTlnxvです。
これは,μv=μv(T,p,xv)=μv0(T,p)+RTlnxvと書けます。
μv0(T,p)は空気が純水蒸気(xv=1)で,その気圧がpのときの化学ポテンシャル(Gibbs自由エネルギー)です。
(∂μv/∂p)T=vv,[∂(μv/T)/∂T]pw=-hv/T2より,d(μv/T)=(-hv/T2)dT+(vv/T)dp+Rd(lnxv)ですから,
条件d(μw/T)=d(μv/T)(42)は,(-hw/T2)dT+(vw/T)dpw=(-hv/T2)dT+(vv/T)dp+Rd(lnxv)と書けます。
また,pw=p+2σ/a(41)よりdpw=dp+2d(σ/a)でありxv=e/pですから,{-(hv-hw)/T2}dT+{(vv-vw)/T2}dp-(2vw/T)d(σ/a)+Rd{ln(e/p)}=0 です。
つまり,(-LeMw/T2)dT+{(vv-vw)/T2}dp-(2vw/T)d(σ/a)+Rd{ln(e/p)}=0 (43)が成立することが必要です。
ここでのeはe=esat(T)を意味しますが,今の混合系では定温,定圧下で半径aの変化に対してe=esat(T)が変化すると予想されるため,e=esat(T)を,改めてe=ea sat(T)と書きます。
定温,定圧下ではdT=dp=0なので,(43)は-(2vw/T)d(σ/a)+Rd{ln(easat/p)}=0(44)となります。
p=一定ですから,ln{easat(T)}=2vwσ/(RTa)+const.より,
ea sat(T)=e∞sat(T)exp{2Mwσ/(RTρwa)}(45) を得ます。
これがKelvinの公式です。
一方,溶解液に対するRaoult(ラウール)の規則から,e'satをこの溶液の溶媒(水)の飽和蒸気圧とし,mw,ms,mを溶媒,溶質,(溶媒+溶質)の質量,Mw,Msを溶媒,溶質の分子量とすると,
iをvan'tHoff factorとして,
e'∞sat/e∞sat=nw/(nw+ins)=mwMs/(mwMs+imsMw)
=[1+imsMw/{(m-ms)Ms}]-1(46)と書けます。
(45),(46)よりe∞satをesatと書けば,e'asat(T)=
esat(T)exp{2vwσ/(RTρwa)}[1+imsMw/{(m-ms)Ms}]-1(47)
です。
④溶解液の蒸発,凝結
ここまでの公式を以下のように要約します。
すなわち,a(da/dt)0={DvMw/(ρwR)}{e∞/T∞-e'asat(Ta)/Ta}(7)',a(da/dt)0={ka/(Leρw)}(Ta-T∞)(32)',
および,
esat(Ta)=esat(T∞)exp[{MwLe/(RT∞)}(Ta-T∞)/Ta](39)', e'asat(Ta)=esat(Ta)exp{2Mwσ/(RTaρwa)}[1+imsMw/{(m-ms)Ms}]-1 (47)'です。
そして,(32)'をTa=T∞(1+δ),
δ≡{Leρw/(kaT∞)}a(da/dt)0 (48)と表現すれば,
(7)',(39)',(47)',(48)によって,
a(da/dt)0={DvMw/(ρwR)}(e∞/T∞-esat(T∞)exp[MwLeδ/{RT∞(1+δ)}+2Mwσ/{RT∞ρwa(1+δ)}][1+imsMw/{(m-ms)Ms}]-1) (49)が得られます。
δ={Leρw/(kaT∞)}a(da/dt)0ですが,δ<<1なので
exp[MwLeδ/{RT∞(1+δ)}~ 1+MwLeδ/(RT∞),
かつexp[2Mwσ/{RT∞ρwa(1+δ)}]~ exp{2Mwσ/(RT∞ρwa)}
と近似できます。
さらに,
exp{2Mwσ/(RT∞ρwa)}[1+imsMw/{(m-ms)Ms}]-1~ 1+y(50),
y≡2Mwσ/(RT∞ρwa)-im/{Ms(m-ms)}(51)と置くことで,
近似式:e'a sat(Ta)=e sat(T∞)(1+y)(52)
を得ます。
以上から,
a(da/dt)0={DvMw/(ρwR)}{esat(T∞)/T∞}][e∞/esat(T∞)-{1/(1+δ)}{1+MwLeδ/(RT∞)}(1+y)]です。
さらに,δの2次以上とδyを無視すると,
a(da/dt)0={DvMwesat(T∞)/(ρwRT∞)}[e∞/esat(T∞)-(1+y)-δ{LeMw/(RT∞)-1}]
です。
そこで,δ={Leρw/(kaT∞)}a(da/dt)0より,
a(da/dt)0[ρwRT∞/{DvMwesat(T∞)}+{Leρw/(T∞ka)}{LeMw/(RT∞)-1}]
~{e∞-esat(T∞)(1+y)}/esat(T∞),
あるいは,
a(da/dt)0~[{e∞-e'sat(T∞)}/esat(T∞)]/[{Leρw/(T∞ka)}{LeMw/(RT∞)-1}+ρwRT∞/{DvMwesat(T∞)}](53)
を得ます。
ただし,e'sat(T∞)=esat(T∞)exp{2Mwσ/(RT∞ρwa)}[1+imsMw/{(m-ms)Ms}]-1(54)です。もちろん,m=4πa3ρ/3です。
ここまでは,もっぱら(dm/dt)0,a(da/dt)0の静止水滴に関する話でしたが,運動水滴の場合には単にDv→ ShDv/2,ka→ Nukaとすればいいだけです。
内容を思い出すのにてこずりましたが,ノートはここで終わっているので,この項目についてはこれで終わりにします。
PS:一昨年の暮れ頃には観音様の御出現,今年は天使の御出現と,ここのところ浮世離れしたことが続いています。
翌日(21日)も天使がそばにいてとてもよかったです。
夜には今年最後の手話講習(初心コース)に出席,終わって21時頃から椎名町駅近くで応用,上級コース合同の忘年会でした。
初対面のろう(あ)の人との手話もはずみましたが,翌日が早いので夜中の零時半頃には帰宅してそのまま就寝しました。
今日(22日)は,仕事をお休みして朝から眼底出血していた右目を含む両目眼底の総合的検査のため,予約していた帝京病院眼科診療に行ってきます。
しかし,今は右目も左目と同じくらい見えるようですから,医者の予想通り幸い自然に出血が止まって治癒しているようで,レーザー手術もしないで済みそうです。
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