プルーム上昇のモデル式(3)
プルーム上昇式の残りです。このシリーズはこれで終わりです。
§5.逆転層貫通の条件
プルームが逆転層(inversion layer)を貫通する条件を考察します。
※(補足):逆転層とは通常大気と逆に高度zが上昇するにつれて気温が増加していくような層のことです。
断熱冷却されながら上昇していく周辺大気より暖かいプルームが上昇しても,こうした層があると自身よりも暖かい周辺大気に遭遇してプルームが浮力を失なうために,反射されて層を貫通できない可能性があります。
こうした事情は,2006年9/25の記事「ベナール対流の安定性とレイリー数」の序論では次のように書いています。
層の底z=0 では温度がT=T0 天井でT=T1 として定常熱伝導の方程式∇2T= 0 の解はT(z)=T0-βz=T0+{(T1-T0)/H}z です。
ここでβ>0 ,つまりT0>T1としないと地球上の重力場の中では対流が起きません。そればかりでなく対流が起きるためにはβの値が断熱温度減率(湿度によって変化)よりも大きくないと対流は起きません。(例えばランダウ「流体力学1」を参照)
(補足終わり)※
さて,本題に戻ります。
z=ziに微小厚さΔziの鋭い逆転層があって,大気はこの高さz=zi(と厚さΔziの極く薄い層)を除けば中立,つまり層の上下では共にs=(g/Ta)(∂θa/∂z)=0 であるとします。
そして逆転層より下:z<ziの中立状態の温位はθa=θであり,逆転層より上のz>ziの同じく中立状態の温位はθa=θ+Δθiであるとします。
(ⅰ)鉛直浮力プルームの場合
z=ziの層を通過できたと仮定したときにθp≧θa,つまりθp≧θ+Δθiが満足される,すなわちθ'≡θp-θと置いたときにθ'≧Δθiが満足されるならプルームは逆転層を貫通できるはずです。
何故なら,プルームが逆転層を貫通する仮想変位を行ったとき,受ける浮力は上向き,つまりg(θ'-Δθi)/Ta≧0 なので,それは下には押し戻されないからです。
(ただし,θ'≧Δθiは十分条件であって必要条件ではありません。つまりθ'<Δθiで浮力が負の向きであっても上向きの運動量が十分であれば貫通します。)
微小厚さ:Δziの逆転層に対して,逆転層の強さ:biを,(32)bi≡gΔθi/θa=∫Δzi(g/θa)(∂θa/∂z)dz=∫Δzisdzによって定義します。
また,改めてθ'≡θp-θに対する浮力流束:Fzと容積流束:Vを定義し直しておきます。Fz≡∫P(gρpθ'w'/Ta)dxdy/(πρa),V=∫Pρpw'dxdy/(πρa)です。
こう定義すると,プルーム断面上でのθ'の平均値は,<θ'>=(Ta/g)(Fz/V)で与えられます。
すぐ上で述べた逆転層貫通の(十分)条件θ'≧Δθiはプルーム断面について,<θ'>≧Δθi,つまり(Ta/g)(Fz/V)≧Δθi⇔ (Fz/V)≧(gΔθi/Ta)と解釈されます。
一方,bi=gΔθi/θaですから,θa~Taより結局逆転層の貫通条件は(Fz/V)≧biと表わせることがわかります。
ところで,中立大気ではs=(g/Ta)(∂θa/∂z)=0 ですから方程式の1つ:(22)dFz/dt=-s(wV)からFz=F (一定)です。
そこで,z=zi~zi+ΔziでもFzi=F(一定)と考えられます。
すると,(23)d(wV)/dt=Fzは,d(wV)/dt=F(一定)となりますから,これもすぐに解けてwV=Ft+Fmを得ます。
それ故,最後の(24)dV/dt=2α(wV)3/2/Vはd(V2/2)/dt=2α(Ft+Fm)3/2となります。
t=0でV=0 の点源なら,解はV2/2=(4α/5)F-1{(Ft+Fm)5/2-Fm5/2},すなわちV=(8α/5)1/2F-1/2{(Ft+Fm)5/2-Fm5/2}1/2と書けます。
今の場合は浮力プルーム(Fm=0)を想定しているので,wV=Ft+Fm=Ftであり,V=(8α/5)1/2F3/4t5/4です。
したがってw=Ft/V=(8α/5)-1/2F1/4t-1/4を得ます。
これが,t=tiでz=ziに到達するとすれば,zi=∫0tiwdt=(8α/5)-1/2(4/3)F1/4ti3/4ですから,ti=(8α/5)2/3(3/4)4/3F-1/3zi4/3です。
そこで,Vi=(8α/5)1/2F-1/4ti5/4=(8α/5)4/3(3/4)5/3F1/3zi5/3を得ますから,結局Vi=(4・35α4/54)1/3F1/3zi5/3です。
そして,実験によればVi~ 0.0717F1/3zi5/3 ⇔ α~ 0.125です。
以上から,浮力プルームの貫通条件:(Fzi/Vi)≧biは,{54/(4・35α4)}1/3F2/3zi-5/3≧biと書けることがわかります。
したがって,無風時(calm)に中立状態で浮力プルームが逆転層(z=zi)を貫通する条件として,(32)zi≦(4・35α4/54)-1/5F2/5bi-3/5が得られました。
(ⅰ)折れ曲がりプルームの場合
この場合も,浮力プルームについては(Fzi/Vi)≧biを逆転層貫通の条件であるとします。
周辺大気は中立(s=0)なのでFzi=F(一定)です。
そして,前記事で書いたように,(21)dV/dz=2β(uV)1/2のz=0(t=0)でV=0 の解は,V=u(βz)2ですからVi=u(βzi)2より,Fzi/Vi={F/(uβ2)}zi-2です。
そこで,折れ曲がり浮力プルームの逆転層貫通条件は,F/(β2u)}zi-2≧biと表現できます。
したがって,有風時に中立状態で浮力プルームが逆転層(z=zi)を貫通する条件として(33)F≧β2ubizi2~ 0.25ubizi2, or (33)'zi≦β-1{F/(ubi)}1/2~ 2.0{F/(ubi)}1/2が得られました。
(ⅲ)鉛直プルームで浮力がゼロのジェット・プルーム,および浮力流束は不足だが十分な運動量の鉛直流束を持つ場合
初期浮力がゼロのジェット(F=0)の場合を考えると,s=0 なら(22)dFz/dt=-s(wV)=0 よりFz=F=0 です。
そこで,z<ziではFz=0 (一定)ですがz=ziで浮力流束:-biVi=-(∫Δzisdz)Viを獲得して,z>ziではFz=-biVi(一定)と考えることができます。
逆転層:z=ziより上ではプルーム内部の温位θpが外気のそれθ+Δθiよりも小さく,エントレインメントが無視できてV=Vi(一定)と仮定すれば次のように書けるはずです。
z<zi(t<ti)ではFz=0 (一定),wV=Fm(一定),dV/dt==2α(wV)3/2/Vであり,一方,z>zi(t>ti)ではFz=-biVi(一定),wV=-biVi(t-ti)+Fm,V=Vi(一定)です。
そこで,t>tiではw=-bi(t-ti)+Fm/Viより,w=0 となるのはtmax=ti+Fm/(biVi)のときです。
このときの高さ:z=zmaxは,zmax=zi+∫titmaxwdt=zi-(bi/2)(tmax-ti)2+(Fm/V)(tmax-ti)で与えられます。よってzmax-zi=Fm2/(2biVi2)です。
さらに,ViをFm,ziで表わすためt<tiでのVを求めます。
従う方程式はdV/dt=2α(wV)3/2/V or d(V2/2)/dt=2α(wV)3/2=2αFm3/2です。
t=0 でV=V0≡Fm/w0の解は,V2/2=2αFm3/2t+(Fm/w0)2, or V={αFm3/2t+(Fm/w0)2}1/2で与えられます。
そして,w=Fm/V=よりzi=∫0ti(Fm/V)dt=2Fm(Vi-V0)/(4αFm3/2)ですからVi=2αFm1/2zi+V0です。
点源ならV0=0 なので,Vi=2αFm1/2ziより,zmax-zi=Fm2/(2biVi2)=(1/2)(Fm/bi)(2α)-2zi-2です。
よって,(34)zmax/zi=1+(1/8)α-2(Fm/bi)zi-3を得ます。
このケースでは,zmax≧3ziを貫通条件として採用します。そして,そして,α~ 0.125としてその条件を求めることにします。
無風時(calm)に中立状態でジェット・プルームが逆転層(z=zi)を貫通する条件として,(35)Fm≧16α2bizi-3 ~ 0.25bizi-3, or (35)'zi≦(4α)2/3(Fm/bi)1/3~ 1.59(Fm/bi)1/3が得られました。
もしも,わずかの浮力Fを持つプルームならz<zi(t<ti)ではFz=F(一定),wV=Ft+Fm,d(V2/2)/dt=2α(Ft+Fm)3/2であり,一方,z>zi(t>ti)ではFz=F-biVi(一定),wV=-biVi(t-ti)+Ft+Fm,V=Vi(一定)です。
t>tiでは,w=-bi(t-ti)+Ft/Vi+Fm/Viより,w=0 となるのはt=tmax=(biViti+Fm)/(biVi-F)のときです。
このときの高さ:z=zmaxは,zmax-zi=∫titmaxwdt=(Fti+Fm)2/{2Vi(biVi-F)}で与えられます。
ここで,Vi=(8α/5)1/2F-1/2{(Fti+Fm)5/2-Fm5/2}1/2,かつ(Fti+Fm)2={5Vi2F/(8α)+Fm5/2}4/5なのでzmax-zi={5Vi2F/(8α)+Fm5/2}4/3/{2Vi(biVi-F)}なる式を得ます。
以下,この場合もzmax≧3ziを貫通条件として中立状態大気中の逆転層(z=zi)を貫通する条件式が得られます。
何故か,ここまででノートが終わってるので,この項はこれでおしまいにします。
参考文献:G.A.Briggs “Plume Rise",U.S.Atomic Energy Commision Division of Technical Information(1969)
PS1:土曜日4日午後に,4~6日に文京区春日の文京シビックセンターで開催されていた「障害者ふれあいの集い」に行ってきました。
11/30に出席した手話講習会での情報によると,豊島区や北区でも同時に開催されているらしいです。
実は私もつたない作品="牛乳などの紙パックから再生紙を作り折り紙などを切り貼りしてパウチしたコースター"を何枚か出品していて,1枚30円也で販売されてたりしていました。
PS2:鈴木宗男さん。がんばれ。
一緒にしたら迷惑かもしれないけど高知のスクールバス運転手の件といい,理不尽だと思いますね。
ちまたでウワサの市川海老蔵氏とそのケンカ相手も世論に負けないでくださいネ。。
有名人といえども酒癖はしょうがない面ありますね。
不特定の乗客を乗せるタクシー運転手と同じく(尤もこちらは遊びじゃなく仕事ですが),常識があろうとなかろうと外での個人的飲酒はキケンと背中合わせなのは.大人なんだから覚悟の上でしょう。
男でも女でも,普段は物静かだったりリッパに見える方でも,酒の席では基本的に無礼講です。
酔っ払うと自慢話やホラ話のテンコ盛り,酒乱,泣き上戸,怒り上戸,裸になるなどなど,性格が変わる(実は本性?)ような方々,いっぱい見てきています。本当は羨ましい限りです。
本気で酒でストレス解消しようとに飲みにきているのなら,その解消法はヒトさまざまです。まあ,そうした愚行のお相手も込みで飲み屋の代金を払ってるのだと思っています。
有名人とはいえ,かつての草薙つよポンのケースと同じく,普段の姿と重ねて批判されるのはカワイソーですね。
私だって他人の一方的なストレス解消を迷惑だと感じて,ケンカは弱いけれど思うだけなら「こいつ,どついたろか?」と考えることもしばしばですが。。。
| 固定リンク
「202. 気象・地学・環境」カテゴリの記事
- 記事リバイナル②(台風の進路(コリオリの力))(2018.10.27)
- 地震に関する過去の科学記事(バックナンバー)(2011.03.14)
- 水滴の成長と蒸発(2)(2010.12.20)
- 水滴の成長と蒸発(1)(2010.12.12)
- プルーム上昇のモデル式(3)(2010.12.05)
コメント