« 久しぶりの雑感 | トップページ | 小さな親切,大きなお世話 »

2011年1月 6日 (木)

線型代数のエッセンス(2)(行列補遺)

 線型代数の続き,§1.行列の残りです。

[定義1-44](最小多項式):与えられた正方行列Aに対し,このAを根とするゼロでない多項式f(λ)のうち,次数が最小でかつ最高次の係数が1のもの(monic)をAの最小多項式(minimal polynomial)という。

[定理1-45]:任意の正方行列に対して最小多項式が唯一つ存在する。

(証明)先に証明した[定理1-43](HamiltonCayleyの定理)より任意の正方行列Aに対して固有多項式:φ(λ)≡|λE-A|を考えると,これはゼロではなく最高次係数が1の多項式でφ(A)=O を満たします。

そこで,任意のAに対してAを根とするゼロでない多項式が少なくとも1つは存在することがわかります。

次に,"Aを根とするゼロでない次数が最小の多項式=最小多項式"が2つ存在すると仮定して,それらをψ1(λ),ψ2(λ)と書けばψ1(A)=O,かつψ2(A)=O よりψ1(A)-ψ2(A)=Oです。

それ故,ψ(λ)≡ψ1(λ)-ψ2(λ)とおくとψ(λ)はψ1(λ),ψ2(λ)より次数が低いλの多項式であって,ψ(A)=O を満たします

 

故に,もしもψ(λ)が恒等的にゼロでないならψ12がAの最小多項式であるという仮定に矛盾します。

したがって,ψ(λ)≡0 であるべきでありψ1(λ)とψ2(λ)は同一の多項式です。(証明終わり)

[定理1-46]:行列Aを根とする任意の多項式f(λ)はAの最小多項式ψ(λ)で割り切れる。(※特に行列Aの固有多項式:φ(λ)=|λE-A|は最小多項式で割り切れます。)

(証明)f(λ)をψ(λ)で割ったときの商をq(λ),余りをr(λ)とすると,これはf(λ)=ψ(λ)q(λ)+r(λ)と表わされます。

これはλをAに置き換えても成立します。すなわち,f(A)=ψ(A)q(A)+r(A)です。

 

これにf(A)=ψ(A)=Oを代入するとr(A)=Oを得ます。

ところが多項式r(λ)の次数は最小多項式ψ(λ)より低いのでr(λ)≡0 なることが必要です。

 

したがって,f(λ)=ψ(λ)q(λ)となってf(λ)がψ(λ)で割り切れることが示されました。(証明終わり)

[定理1-47]:相似な行列は同一の最小多項式を有する。

(証明)行列A,Bが相似:すなわち,|X|≠0 なるあるXが存在してA=X-1BXと書けるとします。

このとき,もしもf(B)=Oならf(A)=f(X-1BX)=X-1f(B)X=Oです。逆に,f(A)=OならB=XAX-1なのでf(B)=f(XAX-1)=Xf(A)X-1=Oです。

そこで,任意のfについてf(A)=Oなることとf(B)=Oなることが同値ですから,AとBが同一の最小多項式を持つことは明らかです。(証明終わり)

[定義1-48](細胞状行列):行列Aを何本かの水平線と垂直線によって部分に分割する。こうした部分をAの細胞(cell)と呼び,細胞に分割された行列を細胞状行列と呼ぶ。

[定理1-49]:行列A,Bがその細胞を構成するブロック行列をそれぞれAij,Bijとして次のように細胞に分割されているとする。

  このとき

 (↑自明なので証明は略)

[定理1-50]:行列U,Vが細胞に分割されているとする。

(証明) U=[urs],V=[vst]とすると(UV)rt=Σsrsstです。

 Uの第r行は(Ui1 i2 .. Uin)の中に含まれ,Vの第t列はt(V1k 2k .. Vnk)の中に含まれるとします。

 

 ursがUijに含まれるならvstはVjkに含まれ,Uの第s列とVの第s行がUijとVjkの同じ番号の列,行に対応することから,ursstはUijjkの対応する成分の1項です。

よって,ΣsrsstはΣjijjk=Wikの細胞が作る行列の第r項第t列成分となります。(証明終わり)

[定義1-51](直和分解):Aを正方行列とし,A1,A2,..,Asを正方細胞として下のようにかけるとき,Aを細胞対角行列という。

 あるいは,Aは部分A1,A2,..,Asに分解する。

 

 またはAはA1,A2,..,Asの直和(direct-sum)であるといい,A=A12..sと書く。

[定理1-52]:直和分解された行列の演算は,主対角線上の細胞による演算に帰着する。

 

 特にA=A12..sであるとき,f(λ)をλの多項式とすればf(A)=f(A1)f(A2)..f(As)である。

(証明) A=A12..s,B=B12..sでAiとBiの次数が等しいとするとA+B=(A1+B1)(A2+B2)..(As+Bs)は明らかです。また,αA=αA1αA2..αAsも自明です。

また,AB=(A12..s)(B12..s)=(A11)(A22)..(Ass)となることは次のように示されます。

 です。

  

 よって,明らかにAk=A1k2k..sk,..が成立し,結局f(A)=Σk=1nαkk=(Σk=1nαk1k)k=1nαk2k)..k=1nαksk)=f(A1)f(A2)..f(As)を得ます。(証明終わり)

[定理1-53]:直和分解されている行列の固有多項式は,その主対角線上の細胞の固有多項式の積に等しい。

(証明) A=A12..sのとき,λE-A=(λE1-A1)(λE2-A2)..(λEs-As)です。

ところで,B=[bij]=B12..sのとき,その行列式は定義により|B|=ΣP(-)P1i12i2..bninです。

  

Pは(1 2 ..n)→(i1,i2,..in)なる任意の置換ですが,右辺の和のうち|B|にゼロでない寄与をするのは,brirがゼロでない項の積のみです。

 B1,B2,..Bsの次数をそれぞれr1,r2,..rsとすると,まず,1,2,..,r1に対してはi1,i2,..isが全て{1,2,..,r1}に属する置換の場合にのみb1i12i2..briir1がゼロでない値を持ちます。

そこで,1,2,..,r1のみ置換を行ない,r1+1,r1+2,..,nについては全く置換しないn次の置換をP1とします。次に,r1+1,r1+2,.., r1+r2のみ置換を行なうn次の置換をP2とします。以下,同様にP3,P4,..,Psを作ることができます。

すると,|B|にゼロでない寄与をする置換Pは,こうしたP1,P2,..,Psに対してP=P12..,Psなる積に対応するものだけですから,(-)P=(-)P1(-)P2.. (-)Psより,|B|=ΣP1ΣP2,.., ΣPs(-)P(-)P1(-)P2.. (-)Ps1i12i2..bnin=|B1||B2|..|Bs|です。

 したがって,先の直和:λE-A=(λE1-A1)(λE2-A2)..(λEs-As)に対して,|λE-A|=|λE1-A1||λE2-A2|..|λEs-As|を得ます。(証明終わり)

[定理1-54]:直和分解されている行列の最小多項式は,その対角線上の細胞の最小多項式の最小公倍式(least common mulitiple)に等しい。

(証明)正方行列AがA=A12..sと直和分解されているとし,細胞A1,A2,..,Asの各々の最小多項式をψ12,..,ψsとします。そしてAの最小多項式はψとします。

多項式f(λ)に対してf(A)=O が成立するなら,[定理1-52]よりf(A)=f(A1)f(A2)..f(As)=Oです。

 

よって,直和行列の定義からf(A1)=f(A2)=..=f(As)=Oですからf(λ)はψ1(λ),ψ2(λ),..,ψs(λ)の全てで割り切れます。

 

そこで,Aの最小多項式ψについてもψ(A)=Oによってψ(λ)はψ1(λ),ψ2(λ),..,ψs(λ)の全てで割り切れます。言い換えるとψはψ12,..,ψsの公倍式です。

逆にfがψ12,..,ψsの公倍式であれば,f(λ)はψ1(λ),ψ2(λ),..,ψs(λ)の全てで割り切れます。そして,ψi(Ai)=O(i=1,2,..,s)により,f(A1)=f(A2)=..=f(As)=Oですからf(A)=Oです。

したがって,任意のψ12,..,ψsの公倍式は最小多項式ψで割り切れることがわかります。

以上から,ψ(λ)はψi(λ)(i=1,2,..,s)の最小公倍式であることが示されました。(証明終わり)

[定義1-55](細胞三角行列):Aを正方行列とするとき,これが次のようにAijを正方細胞とする細胞の三角行列の形に書けるならAを細胞三角行列という。

  

[定理1-56]:s行s列の細胞三角行列A,Bの積C=ABはやはり細胞三角行列であって対角線上の細胞はCii=Aiiii(i=1,2,..,s)で与えられる。

 

(証明は細胞対角行列と同様なので省略します。)

[定理1-57]:細胞三角行列の固有多項式は,その主対角線上の細胞の固有多項式の積に等しい。(証明略)

短かいですが今日はここまでにします。

 

次回は§2.線型空間に入ります。

参考文献:ア・イ・マリツェフ(柴岡康光 訳)「線型代数学」(東京図書)

 

PS:しかし寒い。6日の夜8時頃今年1つ目の新年会に行くために10分くらい歩いたのですが,風が冷たくてこたえました。帰りは酒が入ってたせいか往きよりも少しはましでしたが。。。

 

 気温が低くても風がなければ体感温度はさほどでもないと思うのですがいかんせん風が強くて。。。

 

 東京の年間平均気温は高々毎年±0.5度くらいの間の変動しかないし,夏が猛暑でしたから帳尻合わせで冬が寒いのは予想通りで覚悟してましたが,私の主要な病気である心不全では気温は高すぎても低すぎても心臓の動きに影響あるようで今年度は確かにきついです。

|

« 久しぶりの雑感 | トップページ | 小さな親切,大きなお世話 »

306. 線型代数学」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 線型代数のエッセンス(2)(行列補遺):

« 久しぶりの雑感 | トップページ | 小さな親切,大きなお世話 »