線型代数のエッセンス(10)(ユニタリ空間-1)
線型代数のエッセンスの続きです。§4.ユニタリ空間に入ります。
そろそろ別テーマの科学記事も書きたいと思っていますが,これまでの経験から途中で複数のシリ-ズなどを同時進行すると一方に興味が移って半永久的に中断する可能性があるので,もう少しこのテーマだけを続けようと思います。
今日は,午後に事務的というかボランティア的用事をするためにお休みを取っています。
今,通っているところは無償のボランティアの種がいっぱいある宝の山なので,もしも私が最後の死に場所を探すならもってこいですね。
(イヤ,積極的にやるなら例えば今ならニュージーランドまで行って活動するとかもあるけれど,恐らく今の私ではお荷物になるだけです。
消極的ですが現在可能なことを精一杯やるだけです。
とはいっても,張り切ってヤルぞーとひとりよがりにテンパッテるツモリはありませんが。。何なんだ??
なさけは他人のためでなく自分のためなんです。。。)
§4.ユニタリ空間
[定義4-1](ユニタリ内積,ユニタリ空間):線型空間Lの2つの元a,bに対して以下の性質を持つ演算(combination)(a,b)を定義する。
(a,b)は,(L×L) → Cの写像で(a,b)∈Cである。
(ⅰ)(b,a)=(a,b)*,(ⅱ)(αa,b)=α(a,b),(ⅲ)(a+b,c)=(a,c)+(b,c),(ⅳ)(a,a)は非負の実数,
(ⅴ)(a,a)=0 ⇔ a=0
ただし,α∈C,a,b,c∈Lである。
複素数λ∈Cに対して,λ*はλの複素共役(complex conjugate)を意味する。
この演算(a,b)をaとbのスカラー積,またはユニタリ内積(unitary inner-product)といい,ユニタリ内積が定義された線型空間Lを(複素)ユニタリ空間(unitary space)と呼ぶ。
特に,(a,b)が常に実数(real)でαも実数の場合には,Lを実ユニタリ空間と呼ぶ。
[定理4-2](ユニタリ内積の性質Ⅰ):ユニタリ空間Lの元a,b,cとα,β∈Cに対して次の性質が成り立つ。
1.(αa,βb)=αβ*(a,b),2.(a,b+c)=(a,b)+(a,c),
3.(a,0)=(0,a)=0
(↑自明なので証明略)
[定義4-3]:Lをユニタリ空間とするとき,∀a∈Lに対し(a,a)1/2をベクトルaの長さ(length),またはノルム(norm)と呼び,記号|a|で表わす。
[定理4-4](ユニタリ内積の性質Ⅱ):ユニタリ空間Lの元a,b,cとα,β∈Cに対して次の性質が成り立つ。
1. |0|=0 2.|αa|=|α||a|:|α|はαの絶対値:(αα*)1/2
(↑自明)
[定理4-5](Schwartzの不等式):ユニタリ空間Lの任意の2つのベクトルa,bに対して|(a,b)|≦|a||b|が成立する。この不等式をSchwartzの不等式という。
(証明) ユニタリ内積の定義から∀λ∈Cに対して(a-λb,a-λb)≧0 です。それ故,(a,a)-λ*(a,b)-λ(a,b)*+λλ*(b,b)≧0 です。
b≠0 の場合,特にλ≡(a,b)*/(b,b)とおけばλ*≡(a,b)/(b,b)です。
これを上式に代入すると|a|2-|(a,b)|2/|b|2≧0,すなわち,|(a,b)|2≦|a|2|b|2,つまり|(a,b)|≦|a||b|を得ます。
また,b=0 の場合には明らかに|(a,b)|=|a||b|=0 です。
そして,もしもaとbが1次独立なら,∀λ∈Cに対してa-λb≠0 より(a-λb,a-λb)>0 ですから不等号が成立して|(a,b)|<|a||b|となります。
一方,aとbが1次従属で,ある複素数αに対してa=αbと書けるなら,|(a,b)|=|α||(b,b)|=|a||b|となって等号が成立します。(証明終わり)
[定理4-5の系]:ユニタリ空間Lの任意の2つのベクトルa,bに対して不等式:|a+b|≦|a|+|b|が成立する。
(証明)|a+b|2=(a+b,a+b)=(a,a)+(a,b)+(a,b)*+(b,b)=|a|2+2Re(a,b)+|b|2ですが,Schwartzの不等式よりRe(a,b)≦|(a,b)|≦|a||b|なので|a+b|2≦|a|2+2|a||b|+|b|2=(|a|+|b|)2が成立します。
(証明終わり)
[定義4-6]:ユニタリ空間Lの任意の2つのベクトルa,bに対して|a-b|をaとbの間の距離(distance or metric)といい記号ρ(a,b)で表わす。ρ(a,b)≡|a-b|である。
[定理4-7](距離の性質):ユニタリ空間Lの任意のベクトルa,b,cに対して次の性質が成り立つ。
1.ρ(b,a)=ρ(a,b),および,2.ρ(a,b)+(b,c)≧ρ(a,c)(三角不等式)
↑この定理はユニタリ内積,ノルムの性質を距離によって置き換えたに過ぎないので証明は省略します。
[定義4-8]:ユニタリ空間Lのベクトルa,bに対して(a,b)=0 が成立するとき,aとbは直交する(orthogonal)という。
[定理4-9]:ベクトル 0 は∀a∈Lと直交する。また,逆に∀a∈Lと直交するLのベクトルは 0 のみである。
(証明)定理の前半は明らかです。そして後半もほぼ自明です。
つまり,"∃b∈L:(a,b)=0 for ∀a∈L"と仮定すれば,(a,b)=0 にa=bを代入すると(b,b)=0 となるため,ユニタリ内積の定義:[定義4-1]の(ⅴ)によりb=0 を得ます。(証明終わり)
[定義4-10](直交系):ユニタリ空間Lのベクトルの集合:{a1,a2,..,am}において,異なる全てのj,k(j,k=1,2,..,m)に対し(aj,ak)=0 が成立するとき,このベクトル系:a1,a2,..,amをユニタリ空間Lの直交系という。
[定理4-11]:ユニタリ空間Lのゼロ(零:0)でないベクトルが作る任意の直交系の元は全て1次独立である。
(証明)a1,a2,..,amをユニタリ空間Lのゼロでないベクトルが作る直交系とし,1次関係式:α1a1+α2a2+..+αmam=0 (α1,α2,..,αm∈C)を仮定します。
j=1,2,..,mの各々のjについて,ajと上式の両辺との内積を取れば,(aj,α1a1+α2a2+..+αmam=0 (j=1,2,..,m)です。
そして,k≠jのakとの直交性:(aj,ak)=0を用いると,結局αj(aj,aj)=0 (j=1,2,..,m)となりますが,ajがゼロでないという仮定から(aj,aj)≠0 です。
したがって,αj=0 (j=1,2,..,m)を得ます。(証明終わり)
[定義4-12](直交基):ユニタリ空間Lの次元がnのとき,n個のゼロでないベクトルのつくる直交系が存在すれば,これはLの基底となる。この直交系をLの直交基(orthogonal basis)と呼ぶ。
[定理4-13]:任意のユニタリ空間Lにおいてゼロでないベクトルのつくる任意の直交系は,これに適当なベクトルを補足して空間Lにおける直交基となるようにできる。
この定理の証明のため,次の補題(Schmidtの直交化法)を示します。
[補題]:(Schmidtの直交化法)
まず,a1≠0 なるベクトルa1∈Lを適当に選びます。
このとき,(b,a1)≠0 を満たすb∈Lが存在すればbを用いてベクトルa2∈Lをa2≡b-{(b,a1)/(a1,a1)}a1で定義します。
すると,明らかに(a2,a1)=0 です。
しかし,もしもbがa1に従属,つまり適当な複素数αに対してb=αa1と書けるならa2=αa1-{(αa1,a1)/(a1,a1)}a1=0となってa2が零ベクトルになってしまいます。
そこで,bとしてはa1に独立:a1に平行でないものを選びます。
こうすると,a2≠0 であり,かつ(a2,a1)=0 ですから,[定理4-11]によってa1とa2は1次独立です。
次に,a1,a2に独立で(c,a1)≠0,(c,a2)≠0 を満たすc∈Lが存在すれば,cを用いてベクトルa3∈Lを,a3≡c-{(c,a1)/(a1,a1)}a1-{(c,a2)/(a2,a2)}a2によって定義します。
こう定義すると(a3,a1)=0,(a3,a2)=0 です。こうして3個のベクトルから成る直交系:a1,a2,a3が得られました。
この方法(Schmidtの直交化法)を繰り返して,さらにa4,a5,..,amと定義してゆき,これ以上はa1,a2,..,amに独立でどれとも直交しないゼロでないLのベクトルが存在し得ないなら,系:a1,a2,..,amをLの極大直交系と呼びます。
Lが有限次元ならこの方法による1次独立なベクトルの創生には限りがありますから,極大直交系が存在することは明らかです。
(定理4-13の証明)n次元ユニタリ空間Lにおいて直交系a1,a2,..,amが与えられているとします。
これにLのゼロでないベクトルam+1,..,asを適当に補足してa1,a2,..,asがLの極大直交系となるようにします。
そして,∀x∈Lに対してξk≡(x,ak)/(ak,ak)(k=1,2,..,s)とおいてベクトルy≡ξ1a1+ξ2a2+..+ξsasをつくります。
このとき,(y,ak)=ξk(ak,ak)=(x,ak),つまり(x-y,ak)=0 (k=1,2,..,s)が得られます。
故に,a1,a2,..,asが極大直交系であるという仮定により,x-y=0,すなわちx=yです。
したがって,∀x∈Lはx=ξ1a1+ξ2a2+..+ξsas (ξk≡(x,ak)/(ak,ak)(k=1,2,..,s)と常にa1,a2,..,asの1次結合で表わされるので,a1,a2,..,asはLの基底であり,それ故s=nであってLの直交基をなします。(証明終わり)
[定義4-14](正規直交系):ユニタリ空間Lの単位長さ(ノルムが1)のベクトルのみからなる直交系を正規直交系(orthonormal system)という。
特にLの基底(base)をなす正規直交系を正規直交基(orthonormal basis)と呼ぶ。
[定理4-15]:ユニタリ空間Lの任意の正規直交系は,これに適当なベクトルを補足して空間Lにおける正規直交基となるようにできる。
これの証明は[定理4-13]で用いたSchmidtの直交化法:a2≡b-{(b,a1)/(a1,a1)}a1,a3≡c-{(c,a1)/(a1,a1)}a1-{(c,a2)/(a2,a2)}a2..で,途中にノルムを1に正規化する手続きを挿入して変更するだけでいいので割愛します。
すなわち,a2'≡b-{(b,a1)/(a1,a1)}a1,a2≡a2'/|a2'|,a3'≡c-{(c,a1)/(a1,a1)}a1-{(c,a2)/(a2,a2)}a2,a3≡a3'/|a3'|,..とすれば証明できます。
[定理4-15の系]:有限次元ユニタリ空間には必ず正規直交基が存在する。(証明略)
[定義4-16](座標系):ユニタリ空間Lのベクトル系e1,e2,..,enがLの基底をなすとき,一定の順序を着けた系:(e1,e2,..,en)をLの座標系(coordinate system)という。
a∈Lに対してa=α1e1+α2e2+..+αnenを与える数の組(α1,α2,..,αn)をaの座標(coordinate)といい,αjをaの座標成分(component)という。
特に,e1,e2,..,enがLの正規直交基であるとき,座標系(e1,e2,..,en)をLの正規直交座標系(orthonormal coordinetes)という。この場合,(ei,ej)=δijである。
[定理4-17]:(e1,e2,..,en)をユニタリ空間Lの正規直交座標系とするとa∈Lの座標は(a,e1),(a,e2),..,(a,en)に等しい。
(証明)a=α1e1+α2e2+..+αnenとすると(ei,ej)=δijより(a,ej)=αj,(j=1,2,..,n)です。(証明終わり)
[定理4-18]:(e1,e2,..,en)をユニタリ空間Lの正規直交座標系としa,b∈Lがa=Σj=1nαjej,b=Σj=1nβjejと表わされるとき(a,b)=Σj=1nαjβj*である。
(↑自明)
[定理4-19](Besselの不等式):e1,e2,..,em(m≦n)をn次元ユニタリ空間Lの任意の正規直交系としa∈Lに対してαk=(a,ek)(k=1,2,..,m)とおけば,Besselの不等式:|a|2=(a,a)≧Σj=1mαjαj*=|α1|2+|α2|2+..|αm|2が成立する。
(証明)x≡α1e1+α2e2+..+αmemと置けば,0≦(a-x,a-x)=(a,a)-(x,a)-(a,x)+(x,x)です。
そして,(x,x)=(Σj=1mαjej,Σk=1mαkek)=Σj=1mαjαj*,(a,x)=(a,Σj=1mαjej)=Σj=1mαj*(a,ej)=Σj=1mαjαj*,(x,a)=(Σj=1mαjej,a)=Σj=1mαj(ej,a)=Σj=1mαjαj*です。
故に,0≦(a-x,a-x)=(a,a)-Σj=1mαjαj*を得ます。
したがって,|a|2=(a,a)≧Σj=1mαjαj*=|α1|2+|α2|2+..|αm|2です。(証明終わり)
[定理4-19の系](Parsevalの等式):e1,e2,..,enがユニタリ空間Lの正規直交基ならa∈Lに対してαk=(a,ek)(k=1,2,..,n)とおけば, Parsevalの等式:|a|2=(a,a)=Σj=1nαjαj*=|α1|2+|α2|2+..|αn|2が成立する。(自明)
[定理4-20]:e1,e2,..,enをユニタリ空間Lの正規直交系とする。
任意のa∈Lに対しαk=(a,ek)(k=1,2,..,n)とするとき,|a|2=(a,a)=Σj=1nαjαj*=|α1|2+|α2|2+..|αn|2が成立するならe1,e2,..,enはLの基底をなす。
(証明)x≡α1e1+α2e2+..+αnenと置けば(a-x,a-x)=(a,a)-Σj=1nαjαj* ですから(a,a)=Σj=1nαjαj*なら(a-x,a-x)=0 です。
したがって,a-x=0,つまりa=x=α1e1+α2e2+..+αnenとが成立しますが,a∈Lは任意なのでe1,e2,..,enは空間Lの基底をなすことがわかります。(証明終わり)
今日はここまでにします。
参考文献:ア・イ・マリツェフ(柴岡康光訳)「線型代数学」(東京図書)
PS:無償のボランテイアなどといいながら,昨日は3/8の修了式を含めあと3回(3週)の手話講習会が終わって椎名町から池袋まで4人の女性と5人で帰り,最後に池袋駅で若い看護士さんとツーショットになったので飲みに誘いました。
OKだったのですが,つい自分好みの飲み屋と嗜好が違ったのでまた次の機会と述べて別れてしまいました。次があるかどうかもわからないのにどこでも良かったですね。
たまたま,女性に1軒おごるくらいの金はあったのですが,やはりフーテンの寅さんモドキですかね。。
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コメント
どもhirotaさん。ありがとうございます。TOSHIです。
>最初に(a,b)∈C
を書かなくては。
うーん,元ノートにも書いてませんでしたが,
やはり,結合(combination)(a,b)がa,b∈LからCへの関数(写像)の1つであるということも書くべきでしたね。
なおしておきます。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2011年3月 1日 (火) 15時19分
最初に
(a,b)∈C
を書かなくては。
投稿: hirota | 2011年3月 1日 (火) 11時59分