線型代数のエッセンス(11)(ユニタリ空間-2)
線型代数のエッセンスの§4.ユニタリ空間の続きです。
[定義4-21](同型写像):2つのユニタリ空間LとL1が線型空間として同型であり,その同型写像において,"スカラー積=ユニタリ内積"が保存されるとき,ユニタリ空間LとL1は同型であるという。
[定理4-22]:2つのユニタリ空間LとL1が同型 ⇔ dimL=dimL1
(証明)十分性(LとL1が同型ならdimL=dimL1)は明らかです。.
必要性を示すため,dimL=dimL1=nと仮定します。
そしてL,およびL1の正規直交座標系をそれぞれ(e1,e2,..,en),および(e'1,e'2,..,e'n)と選びます。
a∈Lとa'∈L1は,ここで選んだ座標系に対して座標が同一であるとき,aとa'が対応するということにします。
このとき,この対応は1対1であって,加法と乗法(スカラー倍)が保存されることは既に示しました。
また,Lの任意の2つのベクトルをa=α1e1+α2e2+..+αnen,b=β1e1+β2e2+..+βnenとすると,これらに対応するL1のベクトルはa'=α1e'1+α2e'2+..+αne'n,b'=β1e'1+β2e'2+..+βne'nです。
このとき,明らかに(a,b)=Σj=1nαjβj*=(a',b')が成立しますから,ユニタリ内積も保存されることがわかります。(証明終わり)
[定義4-23](集合の直交性):ユニタリ空間の集合MとNにおいて,∀a∈Mと∀b∈Nが直交する:(a,b)=0 のとき,MとNは直交するといいM⊥Nと書く。
また,あるa∈Lが∀x∈Mと直交する:"(a,x)=0 for ∀x∈M "のとき,aとMは直交するといいa⊥Mと書く
[定理4-24]:M⊥NならM∩N={0}である。
(証明)a∈M∩Nなら(a,a)=0 なのでa=0 です。(証明終わり)
[定義4-25]:ユニタリ空間Lの線型部分空間の和:A1+A2+..+As={a1+a2+..+as∈L|a1∈A1,a2∈A2,..,as∈As}において,Aj⊥Ak(j≠k)なら,この和を直交和(orthogonal sum)という。
[定理4-26]:ユニタリ空間の部分空間の直交和は常に直和である。
(証明)A≡A1+A2+..+Asとし直交和であるとします。
そして,a=a1+a2+..+as=0;a1∈A1,a2∈A2,..,as∈Asとします。
両辺にajを掛けてユニタリ内積をとると,(aj,aj)=0 となるためaj=0 (j=1,2,..,s)です。
したがって,Aj∩Ak={0}(j≠k)ですからA=A1+A2+..+Asが直和(direct sum)であることがわかります。(証明終わり)
[定理4-26]:ユニタリ空間の部分空間A=A1+A2+..+Asが直交和でa=a1+a2+..+as;a1∈A1,a2∈A2,..,as∈As,かつb=b1+b2+..+bs=0;b1∈A1,b2∈A2,..,bs∈Asなら,(a,b)=(a1,b1)+(a2,b2)+..+(as,bs)である。
(↑自明なので証明略)
[定義4-27]:ユニタリ空間Lの空でない部分集合Mと直交するベクトルの全体をMの直交補空間(orthogonal complement)といいM⊥で表わす。M⊥≡{a∈L|a⊥M }である。
[定理4-28]:ユニタリ空間Lの任意の空でない線型部分空間Mの直交補空間M⊥はLの線型部分空間である。
(証明)a,b∈M⊥,α,β∈Cに対し(αa+βb,c)=α(a,c)+β(b,c)=0 よりαa+βb∈M⊥ですから,M⊥はLの線型部分空間です。(証明終わり)
[定理4-29]:ユニタリ空間Lはその任意の部分空間Aとその直交補空間A⊥の直和としてL=A+A⊥と表わせる。
(証明)n=dimL,m=dimA,s=dim(A+A⊥としてAの正規直交基をe1,e2,..,em,A⊥の正規直交基をem+1,em+2,..,esとします。
系e1,e2,..,em,em+1,em+2,..,esがLの基底ではないと仮定すると,(e,e)=1,(e,ej)=0 (j=1,2,..,s)を満たすe∈Lが存在します。
このeは明らかにA⊥に直交しますから,e∈A⊥であり,しかもゼロではないのでem+1,em+2,..,eの全てと直交することは不可能ですから,矛盾を生じます。
よって,系e1,e2,..,em,em+1,em+2,..,esはLの基底であり,s=nでL=A+A⊥です。(証明終わり)
(別証明)Aの正規直交基をe1,e2,..,emとするとき,任意のa∈Lに対してa’≡a-{(a,e1)e1+(a,e2)e2+..+(a,em)em}と置けば,任意のb∈Aについて(a',b)=(a,b)-{(a,e1)(b,e1)+(a,e2)(b,e2)+..+(a,em)(b,em)}=0 です。
何故なら,b=(b,e1)e1+(b,e2)e2+..+(b,em)emなので(a,b)=(a,e1)(b,e1)+(a,e2)(b,e2)+..+(a,em)(b,em)であるからです。
故に,a'∈A⊥であり∀a∈Lが常にa=(a-a')+a';a-a'∈A,a'∈A⊥の形に書けるのでL=A+A⊥です。(証明終わり)
[定理4-29の系]:(A⊥)⊥=Aである。(←自明)
[定義4-30]:ユニタリ空間Lがその部分空間Aと直交補空間A⊥の直和としてL=A+A⊥と表わされるとする。
∀x∈Lはx=a+b;a∈A,b∈A⊥と一意的に分解されるが,このaをxのAへの射影(projection),bをxのA⊥への射影という。
x=a+b;a∈A,b∈A⊥のときa=PrA^x,b=PrA⊥^xと表わす。PrA^(またはPrA⊥^)を射影変換,または作用素として射影演算子(projection operator)という。
[定理4-31]:PrA^はLにおける1次変換であり,PrA^L=Aである。特にPrL^=E^(恒等変換)である。 (←自明)
[定理4-31の系]:ユニタリ空間の2つのベクトルの和の部分空間への射影はそれぞれの射影の和に等しく,ベクトルと数の積の射影はベクトルの射影と数の積に等しい。
すなわち,L=A+A⊥のとき,∀x,y∈L,∀α∈Cに対してPrA^(x+y)=PrA^x+PrA^y,PrA^(αx)=αPrA^xである。
(↑自明)
短かいですが今日はここまでにします。
参考文献:ア・イ・マリツェフ(柴岡康光訳)「線型代数学」(東京図書)
PS:エリカ様,ちょっとイメージ変わったかな?変わらなくていいのに,様がとれたらツマンナイ。。。
京大の入試,私も現役,浪人と理学部を2回受けて2回とも落ちたのでちょっと懐かしいですネ。
安田講堂事件で東大入試中止の年の2回目(1969年3月)は,京大も封鎖中だったので受験会場は京都工繊大でしたが,現役(1968年3月)のときは学部は覚えてないけど確か京大構内で試験を受けました。
私も数学の試験でカンニング,といっても机の右端に座っててそれとなく右隣の離れた席の解答が見えたので1問だけ答合わせをして,ほぼ同じだったので安心した,という記憶があります。
当時は,今と違ってまだ両目とも視力が2.0でしたからね。(母子家庭で貧乏だったので私立は受けてません。。)
| 固定リンク
「306. 線型代数学」カテゴリの記事
- 線型代数のエッセンス(13)(ユニタリ空間-4)(2011.03.06)
- 線型代数のエッセンス(12)(ユニタリ空間-3)(2011.03.03)
- 線型代数のエッセンス(11)(ユニタリ空間-2)(2011.02.28)
- 線型代数のエッセンス(10)(ユニタリ空間-1)(2011.02.23)
- 線型代数のエッセンス(9)(1次変換(補遺))(2011.02.19)
コメント