線型代数のエッセンス(9)(1次変換(補遺))
線型代数のエッセンスの§3.1次変換の残りです。
[定義3-47](固有多項式):線型空間Lのある1次変換A^について適当な座標系を取ればA^の行列Aが作られる。この行列Aの固有多項式:φ(λ)=|λE-A|を変換A^の固有多項式(characteristic polynomial)という。
※座標系を変えてもAは変換行列Tにより相似な行列A1=TAT-1に変わるだけなのでφ(λ)は座標系の選び方には依りません。すなわち,|λE-A1|=|λE-TAT-1|=|T(λE-A)T-1|=|λE-A|=φ(λ)です。※
[定理3-48]:線型空間Lの1次変換A^の固有多項式の次数はA^の作用する空間Lの次元に等しい。
(証明)固有多項式φ(λ)=|λE-A|の次数は正方行列(λE-A)の次数,すなわち正方行列Aの次数に等しくこれは空間Lの次元に等しいのは明らかです。(証明終わり)
[定理3-49]:線型空間Lがその上の1次変換A^に関して不変な部分空間の直和に分解されるならば,A^の固有多項式は誘導される変換A1^,A2^の固有多項式の積に等しい。
(証明)A=A1+A2によりλE-A=(λE1-A1)+(λE2-A2)ですから|λE-A|=|λE1-A1||λE2-A2|です。(証明終わり)
[定理3-50]:線型空間Lの各1次変換A^はその固有多項式の根である。すなわち,λの多項式:φ(λ)=|λE-A|に形式的にλ=A^を代入すると,作用素の恒等式としてφ(A^)=O^が成立する。
(証明)φ(λ)=|λE-A|=α0+α1λ+..+αnλnと多項式を陽に表わすと「線型代数のエッセンス(1)(行列)」で証明した「Hamilton-Cayleyの定理」より,行列の恒等式としてφ(A)=α0+α1A+..+αnAn=Oが成立することがわかっています。
したがって,A→A^の同型対応によりφ(A^)=α0+α1A^+..+αnA^n=O^が得られます。(証明終わり)
※(注):φ(A^)=α0+α1A^+..+αnA^n=O^というのは∀x∈Lに対してφ(A^)x=0が成立することを意味します。(注終わり)※
[定義3-51](最小多項式):線型空間Lの1次変換A^を根とする最高次係数が1の多項式で次数が最小のものをA^の最小多項式(minimal polynomial)という。
[定理3-52]:線型空間Lの1次変換A^の最小多項式はA^の行列Aの最小多項式に等しい。
(↑自明)
[定義3-53](固有値,固有ベクトル):線型空間Lの1次変換A^に対して数ζ∈Cと零でないベクトルa∈Lが存在してA^a=ζaが成立するときζをA^の固有値(eigenvalue),aをA^のζに属する固有ベクトル(eigenvector)という。
[定理3-54]:線型空間Lの1次変換A^の1つの固有ベクトルだけによって張られるLの1次元部分空間はLの1つの不変部分空間である。(←自明)
[定理3-55]:線型空間Lの1次変換A^の固有値ζは全てその固有多項式φ(λ)=|λE-A|の根である。逆にζがA^の固有多項式の根ならζはA^の固有値である。
つまり,ζが1次変換A^の固有値 ⇔ φ(ζ)=|ζE-A|=0である
(証明)「線型代数のエッセンス(1)(行列)」の内容の一部を再掲して証明とします。
(再掲記事): [定義1-20](固有多項式):Aをn次の正方行列とするとき,n次多項式;φ(λ)≡|λE-A| or φ(λ)≡det(λE-A)をAの固有多項式という。そしてφ(λ)の零点,or 方程式φ(λ)=0 の根λ1,λ2,..,λnを行列Aの固有値という。
※(注):列ベクトルxがAの固有値λに属する固有ベクトルであるとは,x≠0であってAx=λxなる関係式が成立することです。そして,Ax=λxは行列形式では(λE-A)x=0と表現できます。
このn元連立1次方程式:(λE-A)x=0 が自明な解(x=0)以外の解(x≠0)を持つための必要十分条件がφ(λ)=|λE-A|=0です。(注終わり※)(再掲終わり)
そしてLの適当な座標系におけるA^⇔A,およびa⇔[a]の同型対応によりA^a=ζaはAa=ζ[a]に同型対応しますから定理が成立します。(証明終わり)
[定義3-56]:線型空間Lの1次変換A^の固有値ζの固有多項式の根としての重複度を固有値ζの重複度という。
[定理3-57]:n次元線型空間Lの1次変換A^がn個の1次独立な固有ベクトルを持つならば,これらのベクトルを座標系に取ることによって変換A^の行列Aを対角行列形にすることができる。
逆に行列Aがある座標系において対角行列形を取るならその基底ベクトルはのA~の固有ベクトルである。
(証明)A^aj=λjaj(j=1,2,..,n)が成立してa1,a2,..,anが1次独立で座標系にとることができるなら,(A^a1,A^a2,..,A^an)=(a1,a2,..,an)A,
と書くことができます。逆の成立も自明です。(証明終わり)
[定理3-58]:線型空間Lの1次変換A^の異なる固有値に属する固有ベクトルは1次独立である。
(証明) A^a1=λ1a1,A^a2=λ2a2,a1≠0,a2≠0で,かつλ1≠λ2とします。このとき,a1,a2についての1次関係式をα1a1+α2a2=0 と書けばA^(α1a1+α2a2)=λ1α1a1+λ2α2a2=0が成立します。
λ1α1a1+λ2α2a2=0にα2a2=-α1a1を代入するとα1(λ1-λ2)a1=0ですがa1≠0,かつλ1≠λ2よりα1=0を得ます。それ故,α2a2=0,かつa2≠0よりα2=0も得られますからa1とa2は1次独立です。(証明終わり)
[定理3-58の系]:線型空間Lの1次変換A^の固有多項式がn個の相異なる根を持てばその変換の行列Aは適当な座標系において対角行列の形である。(←自明)
短いですが,これで§3は終わりなので今日はここまでにします。
参考文献:ア・イ・マリツェフ(柴岡康光訳)「線型代数学」(東京図書)
PS:一般に人は,環境との関わり,特に同じ"人間=他人"とのコミュニケーション自体にストレスを感じます。
これは,まだ物心もつかない乳幼児でも人見知りをすることにも見られるように人に限らず犬や猫なども持つ性質であろうと思われます。
動物,いや生き物の防衛本能に帰属するものかも知れません。
特に,日本では私よりも老人の方によく見られる現象ですが,英語圏で"Excuse me"に相当するであろう"失礼"とか,"失礼します","すみません"etc.とかの断りも云わず(云えず),人にぶつかったりして,さらに何も云わずにサッと過ぎて行く方がおられ,時には私でさえ少しムカつくことがあります。
私は,これを社会性がない人と呼んでいます。
社会性がない人の典型は,女性であれば,駅で切符を買う際に混雑して行列ができているときでも自分の番が来てからゆっくりと運賃表を探しておもむろにバッグから財布を取り出しコインを探して,さらに切符を購入後もその場をドかずに財布とバッグを直すなど,後に続く他人など全く気にしないような,かつては"オバタリアン"と称された人のことです。
まあ,昔の女性は家庭に押し込められていて社会に出て働く人は希少であったという理由で,他人を配慮することも含めた社会性が身についていないことはある程度理解できます。
また,かつての典型的な田舎の朴訥な人柄で「モノ言えば本当に唇が寒い」という人々や,戦後の自分が生きていくのがやっとの焼け跡・闇市の時代に育って他人とのコミュニケーションではイヤなこと,イヤな人ばかりに遭遇して人間不信になったという"トラウマ"がある人たちもいるでしょう。
でも,老人とは限らず,他人と関わりを持つ,会話をすることのフラストレーションやストレスと,他方,他人とは関係せず孤独であることの寂しさ,ストレスを比較して,後者の方が大きくい,あるいは少しのストレスやリスクはあっても他人の温もり,癒し,人肌の方がより恋しいこともありますね。
私の場合は,ときに孤独であることも嫌いではないですが今は若い頃ほど他人とのコミュニケーションが苦にならない,というより関係を持つことにより喜びを感じるようになりました。
当たり前のことなんですが,他人を含む環境との関わりは生老病死のストレスをもたらすだけではなくて,歓びをも与えてくれます。
そのことを今さらながら,実感しているんですね。生きていることは悪いことばかりではないですよ。
土曜ですがこれから出勤します。。
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