線型代数のエッセンス(13)(ユニタリ空間-4)
線型代数のエッセンスの§4.ユニタリ空間の続きです。
[定義4-46](ユニタリ変換):ユニタリ空間のそれ自身の上への同型写像をこの空間のユニタリ変換(unitary transformation)という。
すなわち,ユニタリ空間Lの正則な1次変換U^がLのユニタリ内積を保存するとき:つまり∀a,b∈Lに対して(U^a,U^b)=(a,b)を満足するとき,U^をLのユニタリ変換という。
[定理4-47](ユニタリ変換):U^がユニタリ変換ならU^+=U^-1である。逆も成立する。
(証明) U^がユニタリ変換なら∀x,y∈Lに対して(x,y)=(U^x,U^y)=(x,U^+U^y)ですから,U^+U^=E^を得ます。
そこでU^+=U^-1でありU^U^+=E^も成立するのでU^は正規変換でもあります。
逆に,U^+=U^-1ならU^+U^=E^より,∀x,y∈Lに対して(U^x,U^y)=(x,U^+U^y)=(x,y)なのではユニタリ変換です。
(証明終わり)
[定理4-48]:ユニタリ空間Lにおいて正規直交座標系を任意に選ぶとき,これに対するユニタリ変換U^の行列をUとすればU+U=UU+=E,つまりU+=U-1である。
逆に,U+=U-1ならU^=U^-1である。
(↑同型対応によって自明なので証明略)
[定理4-49]:ユニタリ空間Lの1次変換U^がベクトルの長さ(ノルム)を変えないならU^はユニタリである。
(証明)U^がベクトルの長さを変えないなら∀a,b∈L,∀λ∈Cに対して(a+λb,a+λb)=(U^(a+λb),U^(a+λb)),かつ(a,a)=(U^a,U^a),(b,b)=(U^b,U^b)です。
(a+λb,a+λb)=(U^(a+λb),U^(a+λb))は(a,a)+λ(b,a)+λ*(a,b)+λλ*(b,b)=(U^a,U^a)+λ(U^b,U^a)+λ*(U^a,U^b)+λλ*(U^b,U^b)と変形されます。
これはλ(b,a)+λ*(a,b)=λ(U^b,U^a)+λ*(U^a,U^b)を意味します。
λ=1とおけば(b,a)+(a,b)=(U^b,U^a)+(U^a,U^b),λ=iとおけば(b,a)-(a,b)=(U^b,U^a)-(U^a,U^b)が得られます。
したがって,(a,b)=(U^a,U^b)を得ますから[定義4-46]によってU^がユニタリ変換であることがわかります。(証明終わり)
[定理4-50]:ユニタリ空間Lの1次変換U^がユニタリである⇔ U^は正規直交基を正規直交基にうつす。
(証明)ベクトル系:e1,e2,..,enをユニタリ空間Lの正規直交基とすると,U^がユニタリなら(U^ei,U^ej)=(ei,ej)=δij(i,j=1,2,..,n)より系:U^e1,U^e2,..,U^enもLの正規直交基です。
逆に(U^ei,U^ej)=δij(i,j=1,2,..,n)なら,Lの任意の2元:a=α1e1+α2e2+..+αnen=Σj=1nαjej,b=β1e1+β2e2+..+βnen=Σj=1nβjejについて(U^a,U^b)=Σj=1nαjβj*=(a,b)が成立するため,U^はユニタリです。(証明終わり)
[定理4-51]:(ⅰ)恒等変換はユニタリである。(ⅱ)ユニタリ変換の積はユニタリである。(ⅲ)ユニタリ変換の逆変換はユニタリである。
(証明)(ⅰ),(ⅲ)は自明です。(ⅱ)U^,V^をユニタリ変換とするとU^+=U^-1,V^+=V^-1ですから,(U^V^)+=V^+U^+=V^-1U^-1=(U^V^)-1よりU^V^もユニタリです。
(証明終わり)
[定義4-52](ユニタリ同値):L,L1を2つのユニタリ空間としA^,およびA^1をそれぞれL,およびL1の上の1次変換とする。
A^をA^1にうつすLからL1への同型写像が存在するとき,A^とA^1とは同型または相似,あるいはユニタリ同値(unitary-equivalent)であるという。
特に,L=L1のとき,同型写像はユニタリ変換:U^でA^1=U^A^U^-1である。
これは正規直交基に対する行列の形ではUがユニタリ行列でA=UAU-1と表現される。
この場合,行列AとA1は相似,またはユニタリ同値であるという。
※(注):すなわち,∀x∈Lに対しy=A^xのときx1=f(x),y1=f(y)なるLからL1への同型写像f:L→L1があって,y1=A^1x1が満たされるならA^とA^1は相似,または同型であるというわけです。
L,L1はユニタリ空間なのでfが同型写像という意味は線型写像であるだけでなく,ユニタリ内積を保存することを意味します。
つまり,(x,y)=(f(x),f(y))1です。ただしL1におけるユニタリ内積をLにおけるそれと区別するために( , )1と表現しました。
L=L1のとき,x1=f(x),y1=f(y)なる同型写像fは"内積を保存する同型写像=ユニタリ変換":U^に置き換えられx1=U^x,y1=U^yです。
∀x∈Lに対しy=A^xでかつx1=U^x,y1=U^yであり,y1=A^1x1が満たされるなら,y=A^xU^y=A^1U^x,かつU^y=U^A^xなので,A^1U^x=U^A^x or A^1U^=U^A^,つまりA^1=U^A^U^-1です。(注終わり)※
[定理4-53]:ユニタリ空間Lの1次変換A^,B^が同型である。⇔ Lに適当な2つの正規直交基が存在してその一方によるA^の行列が他方によるB^の行列に一致する。
(証明)(→)A^,B^が同型:ユニタリ変換U^が存在してB^=U^A^U^-1と書けるとします。このときA^=U^-1B^U^です。
そこで,正規直交基e1,e2,..,enによる行列Aは(A^e1,A^e2,..,A^en)=(e1,e2,..,en)Aで与えられます。
これは(U^-1B^U^e1,U^-1B^U^e2,..,U^-1B^U^en)=(e1,e2,..,en)A,つまり,(B^U^e1,B^U^e2,..,B^U^en)=(U^e1,U^e2,..,U^en)Aを意味します。
最後の等式は,正規直交基(U^e1,U^e2,..,U^en)=(e1,e2,..,en)Uに対する変換B^の行列が(e1,e2,..,en)によるA^の行列Aに一致することを示しています。
(←)2つの正規直交基e1,e2,..,en,およびe1',e2',..,en'に対して(A^e1,A^e2,..,A^en)=(e1,e2,..,en)A,および(B^e1',B^e2',..,B^en')=(e1',e2',..,en')Aが成立するとします。
そこで(e1',e2',..,en')=(e1,e2,..,en)U=(U^e1,U^e2,..,U^en)とおけば,U^-1B^U^=A^が成立しますが,(e1,e2,..,en),および(e1',e2',..,en')が共に正規直交基なのでU^はユニタリです。(証明終わり)
[定理4-54]:ユニタリ空間Lの2つの正規な1次変換A^,B^が同型(ユニタリ同値)であるためには,それらの固有多項式が一致することが必要かつ十分である。
(証明)(必要性):ユニタリ変換U^が存在してB^=U^A^U^-1と書けるため固有多項式は|λE-B|=|λE-UAU-1|=|λE-A|です。
(十分性):A^とB^の固有多項式が同じなら両者の固有値は全て一致します。さらに共に正規変換ならLの適当な2つの正規直交基によって,A^B^には同一の対角線型行列が対応します。
したがって,上記の[定理4-53]により正規変換A^とB^は同型(ユニタリ同値)であることがわかります。(証明終わり)
[定理4-54の系]:A,Bがそれらの共役A+,B+とそれぞれ可換な行列(正規行列)であってAとBがユニタリ同値である。⇔A,Bの固有多項式(全ての固有値)が一致する。(← 自明)
[定理4-55]:ユニタリ空間Lの正規変換A^(A^A^+=A^+A^)に対しては,ユニタリ行列Uが存在してUAU-1=UAU+を対角線型にすることができる。
(証明)前記事最後に記した [定理4-44]:"ユニタリ空間Lにおいては正規変換A^の各々に対し,A^の固有ベクトルからつくられる正規直交基が存在し,この基底においてA^の行列Aは対角線型となる。"
によって正規変換A^に対しては固有ベクトルからつくられる正規直交基:e1',e2',..,en'による行列表現:(A^e1',A^e2',..,A^en')=(ρ1e1',ρ2e2',..,ρnen')=(e1',e2',..,en')BではBは対角成分がA^の固有値(ρ1,ρ2,..,ρn)で与えられる対角行列です。
他方,別のある正規直交基:e1,e2,..,enに対しては行列Aにより((A^e1,A^e2,..,A^en)=(e1,e2,..,en)Aと書けます。
このとき,A^が正規変換:A^A^+=A^+A^なので,それに同型対応するA,Bも行列としてそれらの共役A+,B+とそれぞれ可換,つまりA,Bは共に正規行列です。
しかもA,Bの固有多項式は一致します。
そこで,上記の[定理4-54の系]:"A,Bがそれらの共役A+,B+とそれぞれ可換な行列(正規行列)であってAとBがユニタリ同値である。⇔ A,Bの固有多項式(全ての固有値)が一致する。"
によってAとBはユニタリ同値ですから,あるユニタリ行列UによってB=UA^U-1と書けます。(証明終わり)
[定理4-55の系]:ユニタリ行列A(AA+=A+A=E)に対してはユニタリ行列Uが存在してUAU-1=UAU+を対角線型にすることができる。
(↑ユニタリ行列Aは正規行列なので[定理4-55]から明らかです。)
[定理4-56]:ユニタリ変換の固有多項式の根の絶対値は1である。
(証明)Lをユニタリ空間,U^をユニタリ変換とします。a∈Lが固有値αに属するU^の固有ベクトルならU^a=αaですから,(a,a)=(U^a,U^a)=αα*(a,a)です。
したがってαα*=1ですが,これは|α|2=1,つまり|α|=1なることを意味します。(証明終わり)
※ユニタリ変換の固有値αは全てα=exp(iθ)(θは実数)の形です。
[定義4-57](対称変換):ユニタリ空間Lの1次変換をA^とする。
A^+=A^のとき,この変換A^を対称(symmetric),またはHermite(エルミート)であるという。
すなわち,"(Ax,y)=(x,Ay) for ∀x,y∈L"⇔ A^が対称である。
※対称変換は明らかに正規変換です。
[定理4-58](対称変換の性質):A^,B^はユニタリ空間Lの対称変換:A^+=A^,B^+=B^とする。
このとき,(ⅰ)(A^+B^)+=A^++B^+=A^+B^ (ⅱ)α∈R(実数)に対して(αA^)+=α*A^+=αA^ (ⅲ)(A^B^)+=A^B^⇔ A^B^=B^A が成立する。
(証明)(ⅰ),(ⅱ)は自明,(ⅲ)も(A^B^)+=B^+A^+ですから明らかです。(証明終わり)
[定理4-59](対称変換の性質):A^がユニタリ空間Lの対称変換:A^+=A^ならA^の固有値は実数である。
(証明)a∈Lが固有値αに属するA^の固有ベクトルならA^a=αaですから,(a,a)=(a,A^a)=α*(a,a)=(A^a,a)=α(a,a)が成立します。
よってα*=αですが,これはαが実数なることを意味します。
(証明終わり)
[定理4-59の系]:Hermite行列の固有多項式の根は全て実数である。(正規直交基に対しては対称変換はHermite行列に同型対応するので自明)
[定理4-60]:ユニタリ空間の対称変換は適当な正規直交基に対して実対角行列をもつ。
すなわち,任意のHermite行列A(A+=A)は適当なユニタリ行列UによってUAU-1が対角行列になるようにできる。(←自明)
[定義4-61](反対称変換):ユニタリ空間Lの1次変換をA^とする。
A^+=-A^のとき,変換A^を反対称(anti-symmetric),または交代(alternative)という。
すなわち,"(x,Ay)=-(Ax,y)=for ∀x,y∈L"⇔ A^が反対称である。
※反対称変換は明らかに正規変換です。
[定理4-62](反対称変換の性質):A^がユニタリ空間Lの反対称変換:A^+=-A^⇔A^=iB^なる対称変換B^(B^+=B^)が存在する
(証明)(←)A^+=(iB^)=-iB^=-A^です。(→)B^≡-iA^とおくとB^+=iA^+=-iA^=B^です。(証明終わり)
[定義4-63](反Hermite):A+=-Aを満たす行列を反Hermite行列,あるいはHermite反対称行列という。
[定理4-64](反対称変換の性質):A^がユニタリ空間Lの反対称変換:A^+=-A^ならA^の固有値はゼロまたは純虚数である。
(証明)a∈Lが固有値αに属するA^の固有ベクトルならA^a=αaですから(a,a)=(a,A^a)=α*(a,a)=-(A^a,a)=-α(a,a)です。
したがってα*=-αですが,これはαがゼロまたは純虚数なることを意味します。(証明終わり)
途中ですが長くなったので,ここでまた一休みです。
参考文献:ア・イ・マリツェフ(柴岡康光訳)「線型代数学」(東京図書)
PS:たまの「寝てようび」なのに貧乏症が出ていますが,そろそろ毎週日曜だけ飲める飲み屋で骨休めしようと思います。
ところで,前にどこかで聞いたことがありますが,日本の庶民の食文化が一汁一菜の質素なものであり,欧米のようなものでないのは,パン等に比べ主食の"米=銀シャリ"があまりにウマ過ぎるためだそうです。
おかずが塩だけのおにぎりでもウマいためであるということですが,これはよく実感しています。
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