散乱の伝播関数の理論(21)(応用6補遺)」
今日はかなり前の2010の9/6の記事「散乱の伝播関数の理論(20)(応用6)」の続きです。
前の記事はずいぶん中途半端なところで終わっています。
それからPCクラッシュなどももあって半年余りが経ってますが続きを記述します。
以下は前と同じくBjorken-Drellのテキストの内容に関する自分自身のノートからのまとめですが,まずは必要な部分を再掲します。
※(再掲開始)
電子-電子散乱(Möller散乱)では電子の同等性のため2つのgraphがあります。これらの過程に対するgraphsを下図7.13に示します。
電子-電子散乱の振幅はSfiM=(e2m2/ε0V2)(E1E2E1'E2')-1/2[{u~(p1')(-iγμ)u(p1)}{u~(p2')(-iγμ)u(p2)}(-i){(p1-p1')2+iε}-1-{u~(p1')(-iγμ)u(p2)}{u~(p2’)(-iγμ)u(p1)}(-i){(p1-p2')2+iε}-1](2π)4δ4(p1'+p2'-p1-p2)で与えられます。
ただし,便宜上スピン添字:si,sj'etc.は伏せました。
これには,交換項が入ったときに (1/√2)や1/2のような追加の規格化因子は導入されていません。
つまり,Sfiから微分断面積を作る法則は始状態,または終状態に同種粒子が存在することによっては変わりません。
ただ,既に対消滅過程で述べたように,終状態に同種粒子が存在するとき全断面積を得るための積分においてはσ~=(1/2)∫(dσ~/dΩ)dΩのように1/2因子が含まれる必要があることには注意を要します。
始状態(初期状態)では同種粒子に対して特別な因子は現われません。何故なら,入射流束(flux)は粒子が異種か同種かを問わず不変だからです。電子・電子散乱はこの法則の明確で単純な例になっています。
なお,SfiMの右辺"第2項=交換項"は移行運動量(momentum-transfer: p1'-p1)が小さい前方散乱の近傍では無視できます。この極限では散乱は正確にCoulomb散乱振幅に等しくなり粒子の統計には依りません。
さて,今まで通りのやり方で偏りのない電子の散乱に対する微分断面積が得られます。
すなわち,慣性中心系(重心系)では,dσ~=ε0-2e4m4/{E4(2β)}∫d3p1'd3p2'(2π)-2δ4(p1'+p2'-p1-p2)(1/4)(16m4)-1[{1/(p1'-p1)2}2{Tr(p1'+m)γμ(p1+m)γν}{Tr(p2'+m)γμ(p2+m)γν}-(p1'-p1)-2(p2'-p1)-2{Tr(p1'+m)γμ(p1+m)γν(p2'+m)γμ(p2+m)γν}+(p1'⇔p2'の交換項)]です。
Eは慣性中心系での各粒子のエネルギー,βはその速度です。2つの初期電子の相対速度は2βです。
相対論的エネルギーではこの2βは光速の2倍の値に近づきますが,特殊相対性理論と矛盾するものではありません。事実,1つの電子の速度を他の電子から見るなら決して光速は超えません。
そして,(p1'⇔p2'の交換項)はdσ~における右辺最初の2項からp1'とp2'を交換して得られる2つの付加項の存在を示しています。
直接散乱と交換散乱の双方において出現する干渉項は唯1つの長いトレース因子を含みます。
2010年6/14の「散乱の伝播関数の理論(11)(応用1-1)」で与えたγ行列に関する定理を用いて具体的にトレース因子を評価すると,
{Tr(p1'+m)γμ(p1+m)γν}{Tr(p2'+m)γμ(p2+m)γν}=32{(p1p2)2+(p1p2')2-2m2(p1p1(-m2)}を得ます。
故に,dσ~=ε0-2e4m4/{E4(2β)}(1/2)∫d3p1'd3p2'(2π)-2δ4(p1'+p2'-p1-p2)[{1/(p1'-p1)2}2{(p1p2)2+(p1p2')2-2m2(p1p1'-m2)}+(p1'-p1)-2(p2'-p1)-2(p1p2)(p1p2-2m2)+{1/(p2'-p1)2}2{(p1p2)2+(p1p1')2-2m2(p1p2'-m2)}+(p2'-p1)-2(p1'-p1)-2(p1p2)(p1p2-2m2)]です。
そこで,散乱の微分断面積として(dσ~/dΩ)M={α2/(4E2)}{(E2+p2)/p2}2[4/sin4θ-3/sin3θ+{p2/(E2+p2)}2(1+4/sin4θ)]を得ます。
特に,E>>mでp~Eの高エネルギー極限では(dσ~/dΩ)M~{α2/(4E2)}(3+cos2θ)2/sin4θとなります。
(dσ~/dΩ)M={α2/(8E2)}[{1+cos4(θ/2)}/sin4(θ/2)+2/{sin2(θ/2)cos2(θ/2)}+{1+sin4(θ/2)}/cos4(θ/2)]とも書けます。
これはm2が無視できるときにのみ正しい式です。
これらはメラー(Möller)の公式と呼ばれています。(再掲終了)※
次に電子-陽電子散乱です。
Möllerの公式から,これの断面積を得るために代入則に訴えます。
前の2010年8/27の記事「散乱の伝播関数の理論(19)(応用5)」では次のような代入を実行しました。
すなわち,(ε,k)⇔(ε1,-k1),(ε',k')⇔(ε2,+k2),かつ(pi,si)⇔(p-,s-),(pf,sf)⇔(-p+,s+)なる交換 or 代入です。
これによってCompton散乱の振幅:SfiCompと対消滅の振幅:SfiPairが互いに変換し合うことを見ました。
電子-陽電子散乱の過程はBhaBha散乱と呼ばれていますが,これのFeynman-diagramは以下の図7.15に示されるものです。
先述の電子-電子散乱の振幅:SfiM=(e2m2/ε0V2)(E1E2E1'E2')-1/2[{u~(p1')(-iγμ)u(p1)}{u~(p2')(-iγμ)u(p2)}(-i){(p1-p1')2+iε}-1-{u~(p1')(-iγμ)u(p2)}{u~(p2')(-iγμ)u(p1)}(-i){(p1-p2')2+iε}-1](2π)4δ4(p1'+p2'-p1-p2)において,
前例に習ってp1⇔p1,p1'⇔p1',p2⇔-q1',p2'⇔-q1なる交換(代入)を行ないます。
さらに,以前の規則:S=1-iεf∫d4yψf~(y)A(y)ψi(y)に従って全体にかかる符号のチェンジを行ないます。
すると,BhaBha散乱振幅としてSfiB=(e2m2/ε0V2)(Ep1Ep1'EqiEq1')-1/2[{u~(p1')(-iγμ)u(p1)}{v~(q1')(-iγμ)v(q1)}(-i){(p1-p1')2+iε}-1-{u~(p1')(-iγμ)v(q1')}{v~(q1)(-iγμ)u(p1)}(-i){(p1+q1)2+iε}-1](2π)4δ4(p1'+q1'-p1-q1)が得られます。
上式の右辺第1項はSfiMの右辺第1項に類似した電子-陽電子の直接散乱を表わし,"第2項=消滅・生成項"は交換散乱に対応しています。
これら2つの間の相対的(-)符号はSfiMへの代入に起因します。
SfiMの式における終状態での電子の交換反対称性は,SfiBの式では入射正エネルギー電子(p1)と(時間に逆行する)"入射"負エネルギー電子(-q1'),または散乱電子p1'と(-q1)の反対称性になります。
この反対称性を空孔理論の言葉で理解するため,相互作用前の時刻の初期状態が正エネルギー電子p1を含み負エネルギーの海が負エネルギー状態(-q1)の空孔以外には全て満たされていることに着目します。
特に,負エネルギー電子は状態(-q1')にあり,そこで Fermi統計によって初期状態はp1と(-q1')の交換の下で反対称です。
同様なことは終状態にもいえます。
電子陽電子の質量中心系(重心系)での散乱断面積を得るために,代入p1⇔p1,p1'⇔p1',p2⇔-q1',p2'⇔-q1を以下の電子-電子散乱の式に適用します。
すなわち,電子-電子散乱ではdσ~M=ε0-2e4m4/{E4(2β)}∫d3p1'd3p2'(2π)-2δ4(p1'+p2'-p1-p2)(1/4)(16m4)-1[{1/(p1'-p1)2}2{Tr(p1'+m)γμ(p1+m)γν}{Tr(p2'+m)γμ(p2+m)γν}-(p1'-p1)-2(p2'-p1)-2{Tr(p1'+m)γμ(p1+m)γν(p2'+m)γμ(p2+m)γν}+(p1'⇔p2'の交換項)]です。
電子-陽電子散乱ではdσ~B=ε0-2e4m4/{E4(2β)}∫d3p1'd3q1'(2π)-2δ4(p1'+q1'-p1-q1)(1/4)(16m4)-1[{1/(p1'-p1)2}2{Tr(p1'+m)γμ(p1+m)γν}{Tr(m-q1)γμ(m-q1')γν}-(p1'-p1)-2(p1+q1)-2{Tr(p1'+m)γμ(p1+m)γν(m-q1)γμ(m-q1')γν}+(p1'⇔-q1の交換項)]です。
Möller散乱,つまりE>>mとしてトレ-ス計算を実行すれば,(dσ~/dΩ)B={α2/(8E2)}[{1+cos4(θ/2)}/sin4(θ/2)-2cos4(θ/2)/sin4(θ/2)+(1+cos2θ)/2]を得ます。
※(注):{Tr(p1'+m)γμ(p1+m)γν}{Tr(m-q1)γμ(m-q1')γν}=-32(p1q1')(p1q1'+2m2)です。
これの最右辺は明らかにp1'⇔-q1に対して変化しません。
よって,{Tr(m-q1)γμ(p1+m)γν}{Tr(p1'+m)γμ(m-q1')γν}=-32(p1q1')(p1q1'+2m2)です。
また,Tr(p1'+m)γμ(p1+m)γν(m-q1)γμ(m-q1')γν=-32{(p1p2)2-2m2(p1p2)-m4+m4}=-32(p1q1')(p1q1'+2m2)です。
これもp1'⇔-q1に対して変化しません。
そして,E>>mの相対論的極限での質量中心系:p1=q1=p,p1'=q1'では(p1'-p1)2=2m2-2p1'p1~2(m2+E2-p2cosθ)~p2(1-cosθ) ~ -4E2sin4(θ/2)です。
また,(p1+q1)2=2m2+2p1q1~2(m2+E2+p2) ~ 4E2,そしてp1q1'~E2+p2cosθ~2E2cos2(θ/2)です。
したがって,(dσ~/dΩ)B={α2/(2E2)}{1/(16E4)}[4E4{1+cos4(θ/2)}/sin4(θ/2)-8E4cos4(θ/2)/sin4(θ/2)+4E4{cos4(θ/2)+sin4(θ/2)}]です。
故に(dσ~/dΩ)B=={α2/(8E2)}[{1+cos4(θ/2)}/sin4(θ/2)-2cos4(θ/2)/sin4(θ/2)+(1+cos2θ)/2]です。(注終わり)※
このシリーズはこれで終わりますが,続いて題名を変更して輻射補正(繰り込み)の最低次の計算に移る予定です。
参考文献: J.D.Bjorken & S.D.Drell "Relativistic Quantum Mechanics" (McGrawHill)
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