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2011年4月 4日 (月)

量子電磁力学の輻射補正(1)

今日から科学記事の新シリーズとして,「散乱の伝播関数の理論」の続編

を書こうと思います。

 主として量子電磁力学(QED)における"輻射補正

(radiative correction)=くりこみ(renormalrization)"の具体的計算に入る

ので,ここからシリーズ題名を変えることにしました。

 
 ただし,Feynman,朝永(Tomonaga),Schwinger,およびDysonらによって

展開された場の量子論的方法論に従うのではなく,,量子力学の摂動展開

をグラフ化したFeynman-diagramと伝播関数を用いた直観的手法で計算

します。

 これも,前シリーズと同じく学生時代のBjorken-Drellのテキスト

の勉強ノートから,わかりにくい部分を埋めて再構成したものです。

 
学生時代は"Advanced Quantum Mechanics(J.J.Sakurai)

(中間的量子力学?)"も参照しました。

 さて,参考文献というより,ほぼ種本の,Bjorken-Drellの

テキスト第8章の

"Higher-order correction of scattering matrix

(散乱行列における高次補正)" の解説に入ります。

 §8.1 Electron-Positron Scattering in Fourth Order

 (4次の電子-陽電子散乱)

 
これまで展開してきた"S行列要素を導く規則=Feynman-rules"

は,結合定数(coupling constant)のより高次の評価にも適用

できます。

 その例として電子-陽電子散乱のe4の寄与を考えます。

 
その振幅をつくるため,この散乱過程に対応する4つの電子

頂点を持つ可能な全てのFeynman-diagramを描きます。→下図8.1

 
そして,低次の例で論じたのと同じ規則に従って求める行列要素

を書き下します

 

グラフ(a)の寄与は,電子-陽子散乱のS行列要素:

fi(2)=-ie2∫d4xd4y[ψf~(x)(x)SF(x-y)(y)ψiy)]

および,Aμ(x)Aν(y)=iε0-2p2∫d4wd4z[DF(x-w)

F(y-z)ψpf~(w)γμpF(w-z)γνψpi(z)] 

のアナロジーから,次のように書けます。

 
電子-陽電子間に2光子を交換するグラフ(a)の振幅への寄与は

fi(4a)=-(-ie)4ε0-2∫d4wd4xd4yd4

(+)f~(x)γμiSF(x-y)γνψ(+)i(y)]iDF(x-w)iDF(y-z)

(-)i'~(z)γνiSF(z-w)γμψ(-)f'(w)] 

となります。

 
ここで,添字のiとf,およびi'とf'はそれぞれ電子,および陽電子

の量子番号を表わします。

 次に(b)は,消滅項で上式に比べ相対的に(-)符号で寄与します。

すなわち,fi(4b)=+(-ie)4ε0-2∫d4wd4xd4yd4

(+)f~(x)γμiSF(x-y)γνψ(-)f'(y)]

iDF(x-w)iDF(y-z)[ψ(-)I'~(z)γνiSF(z-w)

γμψ(+)i(w)] です。

 2つのグラフ間の相対的(-)符号の源は,より低次の計算と同じく

初期の正エネルギーと負エネルギーの波動関数の反対称性に由来

します。

(※(a)と(b)の場合はi⇔f'の交換に対して符号が変わります。)

 グラフ(c)の振幅は対消滅でできた(仮想)光子(virtual photon)

から対創生された電子-陽電子ペアが終状態に出現する前に散乱

されるプロセスに対応します。

 今までの既知の規則は,"各頂点(vertex)に因子(-ieγμ)と

不変積分∫d4xを挿入すること,および,各内線にはFeynman

伝播関数(propagator)iSF or iDF,各自由入射粒子,および

終状態粒子には波動関数を対応させる。"というものです。

 
この規則によれば,(c)のプロセスの振幅は

fi(4c)=+(-ie)4ε0-2∫d4wd4xd4yd4

iDF(x-w)iDF(y-z)[ψ(+)f~(x)γμiSF(x-y)

γνiSF(y-w)γμψ(-)f'(w)])[ψ(-)i'~(z)γνψ(+)i(z)]

となります。

 
この式での全体にかかる符号選択については説明の要があります。

 
この符号も"自由電子状態は電子の交換の下で反対称であるべき"

というFermi-Dirac統計の要請に由来します。

 
これを説明するため,次の図8.2(Pending)に,(a)の4頂点の可能

な項の順序の1つを(c)の対応するものと並べて示します。

 

 

 

これら2つのグラフはラベルⅠとⅡの部分の電子線の交換のみ

が異なっています。

fi(4a)とSfi(4c)の式の右辺の相対的(-)符号も同種粒子の交換

の下での全行列要素の反対称性を保証するものです。

下に前記事の2次の電子-陽電子散乱の図7.15を再掲します。

図7.15の振幅の運動量空間での表現は,

fiB(e2202)(Ep1p1'q1q1')-1/2

[{u~(p1')(-iγμ)u(p1)}{v~(q1')(-iγμ)v(q1)}

(-i){(p1-p1')2+iε}-1-{u~(p1')(-iγμ)v(q1')}

{v~(q1)(-iγμ)u(p1)}(-i){(p1+q1)2+iε}-1]

(2π)4δ4(p1'+q1'-p1-q1) でした。

 
そして,(c)の寄与:Sfi(4c)の右辺の符号は上のSfiBの式の右辺

の[ ]内で図7.15(b)に対応する第2項の寄与と同じです。

 タイプ(d)のグラフもまた2つの光子の交換の下で振幅を対称化

する過程に含まれるものです。

 つまり,図8.1(c)でwとyに終端を持つ光子は同様にzまたはx

から始まることも可能です。

 
そこで結局次の形の寄与となります。全体符号は(a)と同じです。

 
fi(4d)=+(-ie)4ε0-2∫d4wd4xd4yd4ziDF(x-y)

iDF(w-z)[ψ(+)f~(x)γμiSF(x-y)γμiSF(y-w)

γνψ(-)f'(w)])[ψ(-)i'~(z)γνψ(+)i(z)] です。

 
グラフ(e)の振幅は対消滅で生じた光子から生成されたペアが

相互作用して再び消滅し,さらに最終的にはペアとして出現する

過程に対応しています。

 頂点yの上では図8.1の(c)と(e)のグラフは,2次の電子-陽電子

散乱の2つの過程:図7.15の(a)と(b)と同様に関連しています。

 
再び,SfiB=(e2202)(Ep1p1'q1q1')-1/2

[{u~(p1')(-iγμ)u(p1)}{v~(q1')(-iγμ)v(q1)}

(-i){(p1-p1')2+iε}-1-{u~(p1')(-iγμ)v(q1')}

{v~(q1)(-iγμ)u(p1)}(-i){(p1+q1)2+iε}-1]

(2π)4δ4(p1'+q1'-p1-q1)です。

 
この式と同様,図8.1の(c)と(e)のグラフのS行列要素への

寄与は互いに反対の符号です。

 
このことから次の結果が得られます。

 
すなわち,Sfi(4e)=-(-ie)4ε0-2∫d4wd4xd4yd4

(+)f~(w)γνψ(-)f'(w)]iDF(w-x)[γναβ

iSF(y-x)βλγμλτiSF(x-y)τα]iDF(w-z)

(-)i'~(z)γνψ(+)i(z)] です。

 
(注1):真空偏極(vacuum polarization)の部分の行列については

添字を明示しましたが,これは,

γναβiSF(y-x)βλγμλτiSF(x-y)τα

=Tr[γμiSF(x-y)γνiSF(y-x)]

=Tr[γμiSFγνiSF]=Tr[γνiSFγμiSF] です。※

 Sfi(4e)の右辺の全体の符号についても図8.2のような適切な

 時間順序をつくることで独立にも証明可能です。

 ここまで導かれてきた振幅の対称性,反対称性の要求から,

 4頂点グラフとして,さらに図8.3に示す(ツリー+泡)のグラフ

 (tree & bubble diagram)を追加する必要性に導かれます。 

 これは,8.1(e)の2つの光子の対称化から生じるグラフです。

 つまり,yに到達する光子は同様にx or wから始まることも

 できるからです。

 
 このような内線で連結していない2つの孤立した連結グラフ

 (connected-diagram)から成る非連結グラフ(disconnected diagram)

において,右側に描いたような始粒子,終粒子のいずれも出現しない

(外線のない)泡グラフの全ての寄与は,正当な理由であらゆる計算

で無視されます。

 図8.3の右側の泡グラフは,まずyからxに伝播する1つの電子描像

を示しています。

 それからxで1つの光子を放出して後方(過去)のyに散乱され元

の自分自身と光子に壊れます。

空孔理論(hole theory)の言葉では,これは電子が負エネルギー

の海(真空)から仮想光子を放出して正エネルギー状態に遷移し,

その後再び光子を吸収して負エネルギーの海(真空)に落ちる,

ゆらぎの効果です。

こうしたゆらぎ(fluctuation)は常に生じています。

全体が個々の孤立連結グラフ因子の積となるように因数分解

すると,個々の泡グラフもまた明らかに当面の計算の要である

連結グラフに掛かる1因子です。

しかし,観測にかかる意味のある散乱振幅は真空で生じる効果

に相対的な効果として見出されるものなのでこの寄与は無視

できるのです。

※(注2):場の理論,またはQEDの言葉では,これは("くりこみ"では

ないけれど)散乱のS演算子の再規格化で説明されます

すなわち,確率が1になるように.S^new≡S^/<0|S^|0> で,

新S演算子:S^new,または,<out|in>=<in|S^new|in>

=<in|S^|in>/<0|S^|0>で,新S行列要素を再定義する際,

"泡グラフの全ての寄与=分母の真空のゆらぎ:<0|S^|0>"

は,分子の<in|S^|in>における全ての非連結グラフのうちの

全泡グラフ因子と相殺されることで説明されます。※

 以上から,高次過程に対して振幅を構成する規則を要約すると

次のようになります。

1. あらゆる連結グラフを書く。
2.
各々のグラフに関して各頂点xに因子:(-ieγμ),および,

 ∫d4xを対応させる。

3. 頂点xとyに端点を持つFermi粒子,および光子を表示する

 各内線に,それぞれ伝播関数iSF(x-y),およびiDF(x-y)

 を含ませる。

 なお,光子に対しては,連結されたγμとγνを結びつけるために,

 付加因子:gμνを挿入する。


 4.
各外線,つまり入射または散乱粒子を代表する1つの線に

 1つの波動関数を導入する。

 
(注3):量子論で昔から使用されているの伝統的単位では不要

 なものですが,ここでは私が独自にMKSA単位(or SI国際単位)で

 記述しているため,1つの光子内線ごとにε0-1因子を追加する

 必要があります。※

 
これらの規則は低次の計算でも展開してきたものです。新しい

 条件は連結グラフのみが計算対象になるということです。

 最後に5番目として符号条件を付け加えます。

 
まず,2つの正エネルギー電子に対する図7.13を再掲します。

 

 これの表現式:

 SfiM=(e2202)(E121'E2')-1/2

 [{u~(p1')(-iγμ)u(p1)}{u~(p2')(-iγμ)u(p2)}

 (-i){(p1-p1')2+iε}-1-{u~(p1')(-iγμ)u(p2)}

 {u~(p2')(-iγμ)u(p1)}(-i){(p1-p2')2+iε}-1]

 (2π)4δ4(p1'+p2'-p1-p2),

 
および,正,負エネルギー電子に対する図7.15の表現式:

fiB(e2202)(Ep1p1'q1q1')-1/2

[{u~(p1')(-iγμ)u(p1)}{v~(q1')(-iγμ)v(q1)}

(-i){(p1-p1')2+iε}-1-{u~(p1')(-iγμ)v(q1')}

{v~(q1)(-iγμ)u(p1)}(-i){(p1+q1)2+iε}-1]

(2π)4δ4(p1'+q1'-p1-q1) におけるように,

5. 同種Fermi粒子の交換だけ違う2つのグラフは相対的(-)符号

がなければならない。

さらに,
6.
. Sfi=δfi-iεfie∫d4yψf~(y)(y)Ψi(y)に従って,

始状態に現われる陽電子の個数をnとすると全体として因子:

(-)nがある。

 かくして,残された大きな問題は,実験結果と比較するために特に

4次の相互作用に対する積分をどのように計算し,その具体的数値

を如何にして得るかということです。

 Diagrams(a),(b)はxとyの間で交換することにより得られた

2つの縦横交叉の光子を伴っています。

 電子-陽子散乱のよく似た寄与に対しては,

 (ε0-24/V2){m2/(Efi)}1/2{M2/(Epfpi)}1/2∫d4142

4pd4Pδ4(-q1+pf-p)δ4(-q2+p-pi4(q2+Pf-P)

δ4(q1+P-Pi)(q12+iε)-1(q22+iε)-1

[u~(pf,sfμ(-m+iε)-1γνu(pi,si)]

[u~(Pf,Sfμ(-M+iε)-1γνu(Pi,Si)]

 で与えられる型の容易でない4次元積分があります。

しかし,今ここでは具体的計算には入りません。

 図8.1のdiagram(c)から(e)を論じるには,運動量空間に入って

fiBの式の右辺の第2項に寄与する図7.15(b)の最低次グラフ

にそれらを関連付けるのが便利です。

 今やおなじみの運動量空間での展開を作ります。

 
グラフ(c)の寄与:Sfi(4c)=+(-ie)4ε0-2∫d4wd4xd4yd4

iDF(x-w)iDF(y-z)[ψ(+)f~(x)γμiSF(x-y)γν

iSF(y-w)γμψ(-)f'(w)])[ψ(-)i'~(z)γνψ(+)i(z)]

の運動量表現は,次のfiBの第2項とは,そのcurrent因子への

置換だけ異なることがわかります。

 
つまり,(SfiBの第2項)=-(e2202)(Ep1p1'q1q1')-1/2

{u~(p1')(-iγμ)v(q1')}{v~(q1)(-iγμ)u(p1)}(-i)

{(p1+q1)2+iε}-1](2π)4δ4(p1'+q1'-p1-q1) ですが,

 
置換:~(p1')(-ieγμ)v(q1') → u~(p1')ε0-1

∫d4k(2π)-4(-i)(k2+iε)-1(-ieγν)(1'--m+iε)-1

(-ieγμ)(-1'--m+iε)-1(-ieγν)v(q1')

を施せば,Sfi(4c)になります。

 また,Sfi(4d)fiBの第2項に電子波動関数の置換:

u~(p1')

→ u~(p1')ε0-1∫d4k(2π)-4(-i)(k2+iε)-1(-ieγν)

(1'--m+iε)-1(-ieγν)(1'-m+iε)-1

を行なうだけ異なります。

 
最後に,Sfi(4e)はグラフ内線の光子伝播関数について,

(-igμν){(p1+q1)2+iε}-1

→ (-i){(p1+q1)2+iε}-1μν(p1+q1){(p1+q1)2+iε}-1

≡(-1)ε0-1[(-i){(p1+q1)2+iε}-1]2∫d4k(2π)-4

{Tr(-ieγμ)(-m+iε)-1(-ieγν)

(11-m+iε)-1  なる挿入だけ異なります。

(※最後の(e)での挿入:gμν → (q2+iε)-1Iμν(q)は,

(q2+iε)-1が余分の光子内線に,Iμνが,1-loopの寄与に

対応します。※)

ここに寄与する部分のグラフを次の図8.4に示します。

残りの4次グラフの全て,これらclosed-loopの寄与がk→ ∞まで

の積分に対して発散するのは残念なことです。

 
以下.これらを順次計算していく予定です。

 
今日はここで終わります。

 
参考文献: J.D.Bjorken & S.D.Drell

“Relativistic Quantum Mechanics”(McGraw-Hill)

 PS:
今日4月4日は,昔から"おカマ(ホモ)"(とレズ?)の節句

ですね。

 息抜きに土曜日昼頃新宿駅東口付近で見た花です。↓

 

    

    

 

  そして,その帰りに巣鴨駅南口の信号待ちで

 

    

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