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2011年4月13日 (水)

量子電磁力学の輻射補正(3)(真空偏極-2)

 輻射補正の続き,真空偏極補正の残りです。

 

 2が大きいときに,

μν(q)~{iα/(3π)}(qμν-q2μν)[log(M2/m2)

-6∫01dz[z(1-z)log{1-q2z(1-z)/m2}] 

の物理的意味を理解するため,図8.1(e)におけるように散乱への

電子線の閉loopの寄与を考えます。

      

 

 まず,電子-陽電子散乱の2次の振幅:

 SfiB=(e2202)(Ep1pi'q1q1')-1/2

 [{u~(p1'')(-iγμ)v(q1)}{v~(q1)(-iγμ)u(p1')}(-i)

 {(p1-p1')2+iε}-1-{u~(p1')(-iγμ)v(q1')}

 {v~(q1)(-iγμ)u(p1)}(-i){(p1+q1)2+iε}-1]

 ×(2π)4δ4(p1'+q1'-p1-q1)

 を再掲します。

 

 これの第2項:

 -{u~(p1')(-iγμ)v(q1()}{v~(q1)(-iγν)u(p1)}

 (-igμν){(p1+q1)2+iε}-1(2π)4δ4(p1'+q1'-p1-q1)

 に4次の真空偏極補正を加えた振幅は,

 

 光子伝播関数(propagator)を元の(-igμν){(p1+q1)2+iε}-1

 から,これとこれの置換; (-igμν){(p1+q1)2+iε}-1

 → {(p1+q1)2+iε}-1μν(p1+q1)2(p1+q1)2+iε}-1 

 の総和へと変更する,光子伝播関数因子の修正で表現されます。

 

 補正項を加え修正された光子伝播関数は,

 -igμν/q2+(-i/q2)Iμν(q)(-i/q2) です。

 

 これに,具体的に,

 Iμν(q)={iα/(3π)}(qμν-q2μν)[log(M2/m2)

 -6∫01dz[z(1-z)log{1-q2z(1-z)/m2}]

 を代入し,さらに電子頂点(vertex)におけるcurrent(電流)の保存

 によって消えるqμとqνに比例する項を全て落とします。

 

 (※↑ 光子の縦波成分は散乱振幅には,一切寄与しません。)

 

 すると,光子伝播関数の寄与は,

  (-igμν/q2)[1-{α/(3π)}log(M2/m2)

+(2α/π)∫01dz[z(1-z)log{1-q2z(1-z)/m2}]

と書き換えられます。

 

 これは,αの1次のオーダーまで補正された光子伝播関数を

表わしています。

 

(注1):ここまで一貫して使用している自然単位系:

c=h/(2π)=1 でのcurrent:jμ(x)=(ρ(x),(x))の保存

は,μμ=∂jμ/∂xμ=0 (連続方程式:∂ρ/∂t+∇=0)

で与えられます。

 

 具体的には,電荷eの因子を除くcurrent(電流)は,状態1→状態2

の流れでは,jμ(x)=ψ2~(x)γμψ1(x)で与えられます。

 

 ただし,ψ~(x)≡ψ+(x)γ0です。

 

 特に12が共に正エネルギーなら,

μ(x)=Cu~(p2μu(p1)exp{-i(p2-p1)x}より,

μμ=Ciu~(p2)(21)u(p1)exp{-i(p2-p1)x}

=iCu~(p2){(2-m)-(1-m)}u(p1)exp{-i(p2-p1)x}

=0 です。(ただし,Cは規格化定数で≡pμγμです。) 

 

 そこで保存則:μμ=0 は,運動量空間では(p2-p1) μμ=0

を意味します。

 

 一方1が正エネルギー,ψ2が負エネルギーq2なら

 jμ(x)=Cv~(q1μu(p1)exp{-i(q2+p1)x}より,

 ∂μμ=Civ~(q2)(21)u(p1)exp{-i(q2+p1)x}

 =iCu~(p2){(-q2-m)-(1-m)}

 u(p1)exp{-i(-q2-p1)x}=0 です。

 

 この場合にも保存則:∂μμ=0 の運動量空間での表現は.

 (q2+p1) μμ=0 です。(注1終わり)※

 

 したがって,任意のFeynman-diagramにおいて2つの保存current

 の間を結ぶ1光子交換に対する振幅の電子閉ループの効果は

 ,(-igμν/q2)[1-{α/(3π)}log(M2/m2)

 +(2α/π)∫01dz[z(1-z)log{1-q2z(1-z)/m2}]

 で与えられます。

 

 そこで,運動量遷移が小さい極限のq20 (実光子:on-shell)

 では,光子伝播関数は-igμν/(q2+iε)から,積因子:

 Z3≡1-{α/(3π)}log(M2/m2)だけの変更を受けます。

 

 それ故,例えば小さい運動量遷移に対する電荷-Ze>0 の原子核

 による電子のCoulomb散乱振幅は,最低次の近似で

 

 iZe2u~γ0u/(ε02)から,

ieR2u~γ0u/(ε02)≡iZ3Ze2u~γ0u/(ε02)

  ~ {iZe2u~γ0u/(ε02)}[1-{α/(3π)}log(M2/m2)]

へと修正されます。

 

 Zは原子番号で,これと似た記号で紛らわしいのですが,修正因子

3一般にはαの2次以上の全ての高次補正を考慮して

31-{α/(3π)}log(M2/m2)]+O(α2)と書きます。

 

 (※Z3を真空偏極での"くりこみ係数"と呼びます。)

 

 したがって,電磁相互作用を含むDirac方程式:

 {γμ(i∂μ-eAμ)-m}ψ=0 に現われるパラメータeの二乗は 

 実は4πε0α~ 4πε0/137ではなく,これより幾らか大きい値で

 あると結論されます。

 

 何故なら実際に4πε0αの測定にあずかるのはe2ではなく

 eR2=Z32なので,e2>eR2=4πε0αであると考えられるからです。

 

 eRはくりこまれた電荷(renormalised charge)と呼ばれ,eは裸の

 電荷(bare charge)と呼ばれます。

 

 裸の電荷という呼称に対応して,くりこまれた電荷eRは着物を着た

 電荷(dressed charge)と呼ばれることもあります。

 

 以上から,光子が交換される任意のプロセスでは積因子Z3が存在

 することがわかります。

 

 そしてeR2=Z32~e2[1-{α/(3π)}log(M2/m2)]ですが,

 これは運動量遷移qには無関係です。

 

 このことから真空の静的分極性から生じる電子の電荷にも同じ"

 くりこみ(renormalization)"が存在すると思われます。

 

 それ故,裸のeの代わりに観測電荷eRによって断面積を書き直

 せばe2のオーダーでの発散は消えます。

 

 このとき,観測(observable)である運動量依存の補正はq2 → 0

  の静的極限では消える項:

 (2α/π)∫01dz[z(1-z)log{1-q2z(1-z)/m2}]

 に由来しますが,この寄与は有限ですから計算のために採用された

 切断方法には独立です。

 

 裸の物理的電荷間の関係だけが切断に依存するわけです。

 

 低エネルギー遷移の極限:|q2/m2|<<1では,例えば2次の

 Coulomb散乱振幅因子:{ie2u~γ0u/(ε02)}は次の係数だけ

 変わります。

 

 すなわち,

 {ie2u~γ0u/(ε02)}[1-{α/(3π)}log(M2/m2)

 -{α/(15π)}(q2/m2)]

 ~ {ieR2u~γ0u/(ε02)}[1-{αR/(15π)}(q2/m2)+O(αR2)]

 と書けます。

 

 何故なら,元の裸のαはくりこみ後ではもはや観測される微細構造

定数 ~ 1/137 に対応するものではなく,

αR≡eR2/(4πε0) ~1/137 であり,

1/137 ~ αR=α[1-{α/(3π)}log(M2/m2)]<<αである

からです。

 

※(注2):|q2/m2|<<1ではlog{1-q2z(1-z)/m2}

  ~ -q2z(1-z)/m2で∫01dzz2(1-z)2=1/30なので,

(2α/π)∫01dz[z(1-z)log{1-q2z(1-z)/m2}]

~ -{α/(15π)}(q2/m2)です。  (注2終わり)※

 

 {ieR2u~γ0u/(ε02}[1-{αR/(15π)}(q2/m2)]は

座標空間では[1-{αR/(15πm2)}∇2]eR2/(4πε0r)

=eR2/(4πε0r)+{eR2αR/(15πε02)}δ3() なる形の

相互作用として表現されます。

 

※(注3):何故なら,

2010年6/14の記事「散乱の伝播関数の理論(11)

によれば,電荷がZの原子核によるCoulomb散乱の2次の振幅

(S行列要素)は,fi=(iZe2m/(ε0V)(Efi)-1/2

[{u~(pf0u(pi)}/||2]2πδ(Ef-Ei) ですが,

 

 このケースでは,q0=q0=Ef-Ei=0 よりq2=-||2であり,

∫d4xexp(iqx)/(4πr)=2πδ(Ef-Ei)(1/||2) です。

 

 それ故,∫d4x{2exp(iqx)}/(4πr)=2πδ(Ef-Ei)(-||2/2)

 =q2∫d4xexp(iqx)/(4πr)です。

 そして,∇2{1/(4πr)}=-δ3()であるからです。※

 

 そこで,原子番号がZの水素様原子のエネルギー準位の最低次

の輻射補正は,αRを元の記号αに戻せば

 

 ΔEnl=-ZeR2α/(15πε02)|ψnl(0)|2

 =-{4πε0Zα2/(15πε02)}(1/π)(mZα/n)3δl0

 =-(Z2α2m/2){8Z2α3/(15πn3)}δl0

 で与えられます。 

 

※(注4): V(r)=ZeR2/(4πε0r) → -ZeR2/(ε0||)

-ZeR2α/(15πε023()であり.

 <ψnlδ3(nl>=∫d3xψnl*(3(nl()=|ψnl(0)|2,

 eR2α=α/(4πε0),です。

 

 そして,水素原子の波動関数に対する通常の量子力学から

 l=0 では|ψnl(0)|2=(1/π)(mZα/n)3であり,

 l≠0 ならψnl(0)=0 なることが既知です。(注4終わり)※

 

 特に,Z=1(水素原子),n=2,l=0 に対しては,光スペクトル

 の振動数変化として,

 ν=ΔE20/hc=-27(mc/s)=-27(megacycles per second)

 です。(hc≡h/(2π)hはPlanck定数)

 

(※ΔE20=-1.8×10-26JよりΔE20/hc=-27.3MHMHzです。※)

 

 低運動量遷移q2<<m2の電子散乱に対しては相互作用は全電荷

に比例します。小さい衝突径数の大きい運動量遷移:q2=-||2

散乱に対しては,電子が分極雲の中を貫通するので相互作用の強さ

はより増加します。

 

(※(入射運動量)×(衝突径数)=角運動量=一定ではpib=pff

 ={hcl(l+1)}1/2=一定で,bが小さいならpi=|i|が大きい

 ので=||=|fi|も大きいわけです。※)

 

 この結果によるCoulombの法則の修正はUehlingによって1935年

 に初めて計算されました。これが水素原子内で分離する

 2S1/22P1/2のLamb shift(ラムシフト)の最初の測定の目標

 でした。

 

 1947年には-27(mc/s)のほかに~1000(mc/s)までのシフト

 が発見されました。

 

 最近(Bjorken-Drellがテキストを執筆した当時=1960~1970)の

大変精密な測定値と精密な計算値は水素原子のn=2のLamb-shift

について0.2mc/s以内で一致しており,真空偏極のために

-27(mc/s)のシフトが存在するという仮説の妥当性が高精度で

確認されています。

 

 これは閉ループの寄与を生起させたDirac方程式の空孔理論

 と電子と光子の相互作用に用いた単純な点結合の双方に支持

 を与える1つの印象的な証拠であると考えられます。

 

※なお,Lamb shift(ラム・シフト)については後に一節を設けて

(§8.7で)詳述する予定です。※

  

 本節では,まだ大きいq2(短距離特性の相互作用)に対する計算

の妥当性を検証する実験に基づいて理論への幾らかの修正を施す

必要性を提示するという作業が残っていますが,今日はここまで

にします。

 

参考文献: J.D.Bjorken & S.D.Drell "elativistic Quantum Mechanics"(McGraw-Hill)

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コメント

以上から,光子が交換される任意のプロセスでは積因子Z3が存在することがわかります。

以上から,仮想光子が交換される任意のプロセスでは積因子Z3が存在することがわかります。

投稿: 凡人 | 2013年4月19日 (金) 22時05分

∫d4x{2exp(iqx)}/(4πr)= ⇨ ∫d4xq2exp(iqx)}/(4πr)=

投稿: hirota | 2013年4月19日 (金) 00時12分

またまた、引用させて頂きました。
内容をでなく、式のコピペにで、タグが落ちるなんて記事で、恐縮です。

ラムシフトは、ファインマンと朝永、
シュインガー(かな?)が、
計算を競ったことで有名ですね。
結局、朝永の超多時間理論以外の計算には、間違いがあって、
朝永のノーベル賞を決定づけたと
聞いています。

投稿: kafuka | 2011年4月15日 (金) 04時26分

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