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2011年4月20日 (水)

量子電磁力学の輻射補正(4)(真空偏極-3)

 輻射補正の続き,真空偏極補正の残りを記述します。
 

 余談ですが,約40年前の学生時代には.ほぼ専門としていたQED 

くりこみ関連についての覚書きを,2006年3月の本ブログ開始 

からこれまで具体的に書かなったのは,次のような理由からです。

 すなわち,単に説明に必要不可欠と思われる図,

 特にFeynmamn図を描くスキルが私自身には無くて,それらを

 描く努力をするのが煩わしかった。。というのが主な理由

 ですね。

 
しかし,今は前より少しはましな図が描けるようになったと

 思うし,時間的にも,気持ち的にも,これをやってみようかな?

 という余裕があるので.トライしています。

 
さて,本文に入ります。

 
 先の電子閉ループによる光子伝播関数(propagator)の補正: 

 (-igμν/q2)[1-{α/(3π)}log(M2/m2) 

 +(2α/π)∫01dz[z(1-z)log{1-q2z(1-z)/m2}] 

 をさらに考察します。

 
これは,大きい運動量遷移(momentum transfer)

 (||2=-q2>>m2)の散乱に対しては,対数的に増加して

 非くりこみ電荷(bare charge)eの最低次のオーダーでは,

 (-igμν/q2)[1+{α/(3π)}log(||2/m2)]

 ×[1-{α/(3π)}log(M2/m2)] となります。

 
※(注1):何故なら,||2=-q2>>m2では,

 1-{α/(3π)}log(M2/m2)

 +(2α/π)∫01dz[z(1-z)log{1-q2z(1-z)/m2}

 ~ 1-{α/(3π)}log(M2/m2)

 +(2α/π)log(||2/m2)∫01dzz2(1-z)です。

 
そして,∫01dzz2(1-z)21=1/6なので,これは

  1-{α/(3π)}log(M2/m2)+{α/(3π)}log(||2/m2)

 ~ [1+{α/(3π)}log(||2/m2)][1-{α/(3π)}log(M2/m2)]

と書けるからです。  (注1終わり)※ 


  運動量遷移:||2=-q2が切断質量M2に到達すれば,この補正は.

 (-igμν/q2)[1+{α/(3π)}log(M2)][1-{α/(3π)}log(M2/m2)]

~ 1-{α/(3π)}log(M2/m2)+{α/(3π)}log(||2/m2) ~1

 となって,くりこみ因子を補償します。


 
そこで,||2=-q2 ~ M2 (=切断(上限))の"無限大エネルギー

 の運動量遷移"では,相互作用が下図のように,裸の電荷で測定

 されることが示唆されます。これは興味深いことですが検証

 されてはいない推測です。(図はPerding)

 
さて,仮想光子の運動量qが時間的(q2>0)のときには,

  1-q2z(1-z)/m≧1-q2/(4m2) です。

 
このことから,2>4m2のとき,つまり下図8.1(e)の対生成

 ダイアグラムで,

 q2=(pf+qf)2=2m2+2(f2+m2)1/2(f2+m2)1/2>4m2のとき,

 1-q2z(1-z)/m2の下限が負になることがわかります。

    

 それ故,因子(-i)を除いた光子伝播関数:

(gμν/q2)[1-{α/(3π)}log(M2/m2)

+(2α/π)∫01dz[z(1-z)log{1-q2z(1-z)/m2}

は,虚数部も有する複素数になります。

 
虚数部は,具体的には,(gμν/q2)(2α/π)

01dz[z(1-z)(-iπ)θ{z(1-z)-m2/q2}]

=(igμν/q2)(α/3)(1-4m2/q2)1/2θ(1-4m2/q2)

で与えられます。

 
(注2):1-q2z(1-z)/m2}≦0 のとき,

 log{1-q2z(1-z)/m2}=log|1-q2z(1-z)/m2|

 +iang(1-q2z(1-z)/m2) です。
 

  ただし,angは偏角であり,偏角部分(=虚数部分)の積分

 は,∫01 ang(1-q2z(1-z)/m2)dz ~ (-iπ) です。

 z(1-z)-m2/q2=-(z-α)(z-β)と書けば,

 01dzz(1-z)θ{z(1-z)-m2/q2}の被積分関数が

ゼロでないzの範囲は,

 [α,β]=[{1-(1-4m2/q2)1/2}/2,{1+(1-4m2/q2)1/2}/2]

 です。

 
そして,01dzz(1-z)θ{z(1-z)-m2/q2}

 =αβdzz(1-z)=(β-α)3/6です。 (注2終わり)※

 
この虚数部が出現した源を理解するためには,散乱の伝播関数

 の議論で考えた,S行列がユニタリ(unitary)であるべきという

 ことを思い起こす必要があります。

 
ユニタリの条件(確率保存の条件)は,S演算子がS^S^=1を

 満たすこと,つまりΣnnf*ni=δfiであることです。

 
これにより与えられた初期状態に対してのあらゆる遷移確率

の和が1になるべき,という散乱解の確率解釈が保証されます。

※(注3):実際には,

<f|S^+S^|i>=Σn<f|S^|n><n|S^|i>

=Σnnf*ni  が成立するためには,中間状態nの完全性:

Σn|n><n| が要求されます。

 
散乱理論では,incoming漸近状態:{|in>},および,outgoing

 漸近状態:{|out>}を導入して,fi=<f;out|i;in>

 =<f;in|S^|i;in>

 =Σn<f;in |S^+|n;in><n;in|S^|i;in> と書き,

 incomingの漸近状態は完全系(complete set)をなすと仮定

 します。

 
しかし,incoming漸近状態は,on-shell(質量殻上)の自由粒子の

 方程式に従う実粒子の状態のみのセットなのに対し,一般に中間

 状態として取り得るものはその他の束縛状態,共鳴状態etc.が

 あって,謂わゆるoff-shell(質量殻以外)の伝播関数の分母がゼロ

 にならない仮想粒子状態も存在しています。

 
すなわち,不確定性原理の結果として中間状態には光子質量がゼロ

でないような仮想光子状態をも許される状態として想定できます。

 
ただ,これらは単に線型理論(重ね合わせの原理が有効でそれ故

 級数展開が可能な理論)においてのみ有効な摂動論という計算

 の便宜上出現するツールの1つに過ぎないという意味もあります。

 
しかし,これらのことはある意味どうでもいいことなのです。

 
間に挟む完全系:1=Σn|n><n|としてΣn|n;in><n;in|

 を採用しようが,
 あるいは,
ΣB|B:束縛><B:束縛|+Σ|R;共鳴><R;共鳴|

 +..etc.を採用しようが,。。。

 
また,物理的状態だろうが非物理的状態だろうが,結局,

 {|n>}が系の状態を定義するHilbertt空間のベクトルの集合

 であって, Σn|n><n|=1を満たしさえすればいいわけ

 ですから。。。

 
そして,もしも幾つかの|n>は非物理的存在であったり.

 当該散乱においては存在し得ないものなら,

 <f|S^|n>=0,または<n|S^|i>=0 が成立して

 <f|S^+S^|i>=Σn<f|S^|n><n|S^|i>の

 右辺には寄与しないだけのことです。

 
さらに,incoming漸近状態の全ての集合:{|in>}が完全系

 を作るというのは,もちろんΣn|n;in><n;in|=1を意味

 します。

 
そこで,S行列(S演算子)の定義:<n;out|≡<n;in|S^

 により,S^がユニタリである:S^+S^=1を満たすことと,

 {|out>}が完全系を作ることは全く等価(equivalent)です。

 
間に挟む完全系(=1)として全てのincoming漸近状態の

 セットを採用して,<f;in|S^|i;in>

 =Σn<f;in |S^+|n;in><n;in|S^|i;in>と表現する

 のは,理論の基礎付けなどには便利なようですが,実際に左辺

 のS行列要素の値を評価計算するには有効でないことが多い

 ようです。

 
そのため,実務計算の際には,例えば摂動計算に便利な伝播関数

 を用いるために別の中間状態の完全系1=Σn|n><n|を挿入

 して,同じS行列要素を,<f;in|S^|i;in>

 =Σn<f;in |S^+|n><n|S^|i;in> と表現したりする

 わけです。

 互いに,ユニタリ変換で移行し合うHilbert空間のベクトルの種々

 の完全系は,普通の空間において向きの選び方が自由な座標軸,

 または直交変換(=実ユニタリ変換)で移行し合う空間の基底

 ベクトルの系に相当するものです。  (注3終わり)※

 
さて,陽電子の理論では粒子達は生成,消滅されます。

 
そして,ユニタリ性を示す式での和:Σ|n><n|の状態|n>

 としては,与えられた初期状態が散乱可能な電子,陽電子,光子

 の終状態(遷移確率がゼロでないもの)の全てを含む必要が

 あります。

 
S行列のユニタリ性の式:Σnnf*ni=δfiは,散乱過程での

 確率保存を記述するという意味を持つことが見てとれます。

 
この式はeのベキ展開における恒等式ともとれるので,相互作用

 の摂動のeのベキの各オーダーにおいて等式が成立する必要が

 あります。

 
そこで,S行列要素Sfiのeのベキ展開を,

 Sfi=δfi+Sfi(1)+Sfi(2)..  と書けば,上記のユニタリ

 性の条件:Σnnf*ni=δfiは,

 

(1)Sfi(1)+Sif(1)*=0,

(2)Sfi(2)+Sif(2)*=-Σnnf(1)*ni(1), 

(3)Sfi(3)+Sif(3)*=-Σn{Snf(1)*ni(2)+Snf(2)*ni(1)},

(4)Sfi(4)+Sif(4)*=-Σn{Snf(1)*ni(3)+Snf(2)*ni(2)

+Snf(3)*ni(1)},etc.

 

となります。

 

初期状態|i>が自由な電子-陽電子状態を表わす場合には,

eの1次の振幅Sfi(1)は全てゼロです。

 

何故なら反応:e-+e+ → γ(光子1個)というのは右辺が質量

ゼロの実光子ならエネルギー・運動量の保存則により禁止される

からです。

 

(※電子-陽子対に光子が1個のみ接続する頂点グラフは.質量

がゼロでない光子=仮想光子に対してのみ可能です。※)

 

そこで,(2)はSfi(2)+Sif(2)*=0 :すなわちSfi(2)が反エルミート

(純虚数)となることを意味します。

 

特にSfi(2)が電子-陽電子散乱の2次の振幅SfiBに等しい場合,

 

つまり,Sfi(2)=SfiB=(e2202)(Ep1pi’q1q1')-1/2

[{u~(p1')(-iγμ)v(q1)}{v~(q1)(-iγμ)u(p1')}

(-i){(p1-p1')2+iε}-1-{u~(p1')(-iγμ)v(q1')}

{v~(q1)(-iγμ)u(p1)}(-i){(p1+q1)2+iε}-1]

×(2π)4δ4(p1'+q1'-p1-q1) の場合,

 

これは確かに,Sfi(2)が満たすべき上記条件を満足しています。

 

そして,ユニタリ性の条件(4)は,fi(4)+Sif(4)*=-Σnnf(2)*ni(2)

です。

 

これは4次振幅:Sfi(4)=(Sfi(4)+Sif(4)*)/2+(Sfi(4)-Sif(4)*)/2

のエルミート部分(実数部):(Sfi(4)+Sif(4)*)/2は2次の振幅Sfi(2)

の寄与に依存することを示しています。

 

そして,今問題としている伝播関数の虚数部:

(igμν/q2)(α/3)(1-4m2/q2)1/2θ(1-4m2/q2)は,

伝播関数×(-i)の因子として散乱振幅の4次補正の実数部:

(Sfi(4)+Sif(4)*)/2に寄与し,丁度,この条件:

fi(4)+Sif(4)*=-Σnnf(2)*ni(2) を体現しています。

 

2の閾値(Threshold)を与えるHeaviside関数:θ(1-4m2/q2)

は,電子閉loopの仮想電子-陽電子対に加え最終状態として,

実の電子-陽電子対の状態を実現し得る運動量:(q2>4m2)に

対してのみ,この4次補正が存在することを示しています。

 

S行列が任意次数でユニタリであることの証明は,場の理論の

枠内で最もうまく遂行されることがわかっています。


 
§8.3 Renormalization of External Photon(光子外線のくりこみ)

 真空偏極の輻射補正の寄与については,これまでは仮想光子の

伝播関数(内線)に対してのみ論じてきました。

 しかしながら,電子線の閉ループは"実光子=
外線"にも寄与する

はずです。

 
これを見るため,図8.6に示すようなある離れた

源(Distant source)によって生成される光子を想定します。

 

 対象としている系の外線に挿入された真空偏極泡が,図に追加

された黒影部分に入ると仮想すると,その光子線に繋がる両頂点の

電荷の積:R2=Z32~e2[1-{α/(3π)}log(M2/m2)]によって,

非補正行列要素に対して積因子:Z3が生じます。

 しかし,今のところ,超遠方にあるであろう光子源のcurrent

 ついては,まだ"くりこまれてないまま"です。

 もしも,この遠方currentの方に因子Z31/2結び付け,残りの

 因子:31/2を対象としている系に結び付けるなら,各頂点の裸

 の電荷eが,Z31/2e=eRで置き換えられることになります。

 既に示したように,

 この一貫した電荷の補正は内線に対する伝播関数の補正と同等 

 の意味を持ちます。そこで,内線については今のままで全く問題 

 なしとします。

 そして,外線についても真空偏極の寄与として内線と同じ補正
 

 の実務的法則が適用できると考えます。

 
つまり,あらゆる外線についても直接の外線補正は無視して,
 

 各頂点でeの代わりにeR=Z31/2で置き換える法則を採用 

 します。

 
これは,実際には外頂点が足りない外線については補正の

 し過ぎですから,上の真空偏極泡を含むあらゆるグラフを内線

 扱いで計算した後に,外線については1本ごとにZ31/2で割る

 ことで.合理的に対処します。

 
(※場の理論での漸近場でのZの扱いとLSZのReductionなど参照)

 
以降では次のように仮定します。

 
すなわち,式を書く際には既に"くりこみ"がなされてしまって
 

 いるとしてeRを改めてeと書きます。

 
したがって,eR2/(4πε0)でなくe2/(4πε0)が微細構造定数:
 

 α~1/137を表わすとします。

 
そして必要なときには裸の電荷をe0で記述します。

 
今日は短かいですがこれで終わります。
 

 

これで"真空偏極(vacuum polarization)=電荷のくりこみ" 

による輻射補正の項目については終わります。

 
次回からは,"電子の自己質量(self-mass of electron)

=質量のくりこみ"に入る予定です。

  
参考文献: J.D.Bjorken & S.D.Drell
 

 “Relativistic Quantum Mechanics”(McGrawHill)

  PS
:ほとんど見えない右目の診察のため帝京大病院眼科
行かねばならない

 ので,記記事も取り合えずのアップです。

  
新マシン(=中古)のブラウザでは何故かブログの原稿が

 ずれるなど不具合が多いので毎回,後編集で苦労します。

  PS2
:今,4月21日夜中の3時です。
 

 疲れて爆睡していましたが目が覚めてしまいました。

 
 昨日は朝10時半~11時の予約だったのに,眼科の診察が終わった
 

 のは午後3時半でした。

 それから,院内のローソンでおにぎりを買って我慢していた遅い
 

昼食を取り帰宅すると,もう午後5時でした。

 
いつもの眼科主治医は急遽出張ということで,診察は代わりの若い
 

先生でした。そして検査では右目の視力が前回は0.4だったのに, 

今回はゼロつまり測定不可能でした。

 
しかし医者には行ってみるもんですね。

 
一応,超音波で網膜剥離を調べてもらい異常なしでした。

 
気休めという話でしたが,1日3回服用の眼底出血した血の吸収
 

を促進して止血する飲み薬を頂き,今のところ2回飲んで,瞳孔を 

開く検査薬も消えたところですが,気のせいか?うっすらと見える 

ようです。

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