量子電磁力学の輻射補正(4)(真空偏極-3)
輻射補正の続き,真空偏極補正の残りを記述します。
余談ですが,約40年前の学生時代には.ほぼ専門としていたQED
のくりこみ関連についての覚書きを,2006年3月の本ブログ開始
からこれまで具体的に書かなったのは,次のような理由からです。
すなわち,単に説明に必要不可欠と思われる図,
特にFeynmamn図を描くスキルが私自身には無くて,それらを
描く努力をするのが煩わしかった。。というのが主な理由
ですね。
しかし,今は前より少しはましな図が描けるようになったと
思うし,時間的にも,気持ち的にも,これをやってみようかな?
という余裕があるので.トライしています。
さて,本文に入ります。
先の電子閉ループによる光子伝播関数(propagator)の補正:
(-igμν/q2)[1-{α/(3π)}log(M2/m2)
+(2α/π)∫01dz[z(1-z)log{1-q2z(1-z)/m2}]
をさらに考察します。
これは,大きい運動量遷移(momentum transfer)
(|q|2=-q2>>m2)の散乱に対しては,対数的に増加して
非くりこみ電荷(bare charge)eの最低次のオーダーでは,
(-igμν/q2)[1+{α/(3π)}log(|q|2/m2)]
×[1-{α/(3π)}log(M2/m2)] となります。
※(注1):何故なら,|q|2=-q2>>m2では,
1-{α/(3π)}log(M2/m2)
+(2α/π)∫01dz[z(1-z)log{1-q2z(1-z)/m2}
~ 1-{α/(3π)}log(M2/m2)
+(2α/π)log(|q|2/m2)∫01dzz2(1-z)2 です。
そして,∫01dzz2(1-z)21=1/6なので,これは
1-{α/(3π)}log(M2/m2)+{α/(3π)}log(|q|2/m2)
~ [1+{α/(3π)}log(|q|2/m2)][1-{α/(3π)}log(M2/m2)]
と書けるからです。 (注1終わり)※
運動量遷移:|q|2=-q2が切断質量M2に到達すれば,この補正は.
(-igμν/q2)[1+{α/(3π)}log(M2)][1-{α/(3π)}log(M2/m2)]
~ 1-{α/(3π)}log(M2/m2)+{α/(3π)}log(|q|2/m2) ~1
となって,くりこみ因子を補償します。
そこで,|q|2=-q2 ~ M2 (=切断(上限))の"無限大エネルギー
の運動量遷移"では,相互作用が下図のように,裸の電荷で測定
されることが示唆されます。これは興味深いことですが検証
されてはいない推測です。(図はPerding)
さて,仮想光子の運動量qが時間的(q2>0)のときには,
1-q2z(1-z)/m≧1-q2/(4m2) です。
このことから,q2>4m2のとき,つまり下図8.1(e)の対生成
ダイアグラムで,
q2=(pf+qf)2=2m2+2(pf2+m2)1/2(qf2+m2)1/2>4m2のとき,
1-q2z(1-z)/m2の下限が負になることがわかります。
それ故,因子(-i)を除いた光子伝播関数:
(gμν/q2)[1-{α/(3π)}log(M2/m2)
+(2α/π)∫01dz[z(1-z)log{1-q2z(1-z)/m2}
は,虚数部も有する複素数になります。
虚数部は,具体的には,(gμν/q2)(2α/π)
∫01dz[z(1-z)(-iπ)θ{z(1-z)-m2/q2}]
=(igμν/q2)(α/3)(1-4m2/q2)1/2θ(1-4m2/q2)
で与えられます。
※(注2):1-q2z(1-z)/m2}≦0 のとき,
log{1-q2z(1-z)/m2}=log|1-q2z(1-z)/m2|
+iang(1-q2z(1-z)/m2) です。
ただし,angは偏角であり,偏角部分(=虚数部分)の積分
は,∫01 ang(1-q2z(1-z)/m2)dz ~ (-iπ) です。
z(1-z)-m2/q2=-(z-α)(z-β)と書けば,
∫01dzz(1-z)θ{z(1-z)-m2/q2}の被積分関数が
ゼロでないzの範囲は,
[α,β]=[{1-(1-4m2/q2)1/2}/2,{1+(1-4m2/q2)1/2}/2]
です。
そして,∫01dzz(1-z)θ{z(1-z)-m2/q2}
=∫αβdzz(1-z)=(β-α)3/6です。 (注2終わり)※
この虚数部が出現した源を理解するためには,散乱の伝播関数
の議論で考えた,S行列がユニタリ(unitary)であるべきという
ことを思い起こす必要があります。
ユニタリの条件(確率保存の条件)は,S演算子がS^+S^=1を
満たすこと,つまりΣnSnf*Sni=δfiであることです。
これにより与えられた初期状態に対してのあらゆる遷移確率
の和が1になるべき,という散乱解の確率解釈が保証されます。
※(注3):実際には,
<f|S^+S^|i>=Σn<f|S^+|n><n|S^|i>
=ΣnSnf*Sni が成立するためには,中間状態nの完全性:
Σn|n><n| が要求されます。
散乱理論では,incoming漸近状態:{|in>},および,outgoing
漸近状態:{|out>}を導入して,Sfi=<f;out|i;in>
=<f;in|S^|i;in>
=Σn<f;in |S^+|n;in><n;in|S^|i;in> と書き,
incomingの漸近状態は完全系(complete set)をなすと仮定
します。
しかし,incoming漸近状態は,on-shell(質量殻上)の自由粒子の
方程式に従う実粒子の状態のみのセットなのに対し,一般に中間
状態として取り得るものはその他の束縛状態,共鳴状態etc.が
あって,謂わゆるoff-shell(質量殻以外)の伝播関数の分母がゼロ
にならない仮想粒子状態も存在しています。
すなわち,不確定性原理の結果として中間状態には光子質量がゼロ
でないような仮想光子状態をも許される状態として想定できます。
ただ,これらは単に線型理論(重ね合わせの原理が有効でそれ故
級数展開が可能な理論)においてのみ有効な摂動論という計算
の便宜上出現するツールの1つに過ぎないという意味もあります。
しかし,これらのことはある意味どうでもいいことなのです。
間に挟む完全系:1=Σn|n><n|としてΣn|n;in><n;in|
を採用しようが,
あるいは,ΣB|B:束縛><B:束縛|+Σ|R;共鳴><R;共鳴|
+..etc.を採用しようが,。。。
また,物理的状態だろうが非物理的状態だろうが,結局,
{|n>}が系の状態を定義するHilbertt空間のベクトルの集合
であって, Σn|n><n|=1を満たしさえすればいいわけ
ですから。。。
そして,もしも幾つかの|n>は非物理的存在であったり.
当該散乱においては存在し得ないものなら,
<f|S^+|n>=0,または<n|S^|i>=0 が成立して
<f|S^+S^|i>=Σn<f|S^+|n><n|S^|i>の
右辺には寄与しないだけのことです。
さらに,incoming漸近状態の全ての集合:{|in>}が完全系
を作るというのは,もちろんΣn|n;in><n;in|=1を意味
します。
そこで,S行列(S演算子)の定義:<n;out|≡<n;in|S^
により,S^がユニタリである:S^+S^=1を満たすことと,
{|out>}が完全系を作ることは全く等価(equivalent)です。
間に挟む完全系(=1)として全てのincoming漸近状態の
セットを採用して,<f;in|S^|i;in>
=Σn<f;in |S^+|n;in><n;in|S^|i;in>と表現する
のは,理論の基礎付けなどには便利なようですが,実際に左辺
のS行列要素の値を評価計算するには有効でないことが多い
ようです。
そのため,実務計算の際には,例えば摂動計算に便利な伝播関数
を用いるために別の中間状態の完全系1=Σn|n><n|を挿入
して,同じS行列要素を,<f;in|S^|i;in>
=Σn<f;in |S^+|n><n|S^|i;in> と表現したりする
わけです。
互いに,ユニタリ変換で移行し合うHilbert空間のベクトルの種々
の完全系は,普通の空間において向きの選び方が自由な座標軸,
または直交変換(=実ユニタリ変換)で移行し合う空間の基底
ベクトルの系に相当するものです。 (注3終わり)※
さて,陽電子の理論では粒子達は生成,消滅されます。
そして,ユニタリ性を示す式での和:Σ|n><n|の状態|n>
としては,与えられた初期状態が散乱可能な電子,陽電子,光子
の終状態(遷移確率がゼロでないもの)の全てを含む必要が
あります。
S行列のユニタリ性の式:ΣnSnf*Sni=δfiは,散乱過程での
確率保存を記述するという意味を持つことが見てとれます。
この式はeのベキ展開における恒等式ともとれるので,相互作用
の摂動のeのベキの各オーダーにおいて等式が成立する必要が
あります。
そこで,S行列要素Sfiのeのベキ展開を,
Sfi=δfi+Sfi(1)+Sfi(2)+.. と書けば,上記のユニタリ
性の条件:ΣnSnf*Sni=δfiは,
(1)Sfi(1)+Sif(1)*=0,
(2)Sfi(2)+Sif(2)*=-ΣnSnf(1)*Sni(1),
(3)Sfi(3)+Sif(3)*=-Σn{Snf(1)*Sni(2)+Snf(2)*Sni(1)},
(4)Sfi(4)+Sif(4)*=-Σn{Snf(1)*Sni(3)+Snf(2)*Sni(2)
+Snf(3)*Sni(1)},etc.
となります。
初期状態|i>が自由な電子-陽電子状態を表わす場合には,
eの1次の振幅Sfi(1)は全てゼロです。
何故なら反応:e-+e+ → γ(光子1個)というのは右辺が質量
ゼロの実光子ならエネルギー・運動量の保存則により禁止される
からです。
(※電子-陽子対に光子が1個のみ接続する頂点グラフは.質量
がゼロでない光子=仮想光子に対してのみ可能です。※)
そこで,(2)はSfi(2)+Sif(2)*=0 :すなわちSfi(2)が反エルミート
(純虚数)となることを意味します。
特にSfi(2)が電子-陽電子散乱の2次の振幅SfiBに等しい場合,
つまり,Sfi(2)=SfiB=(e2m2/ε0V2)(Ep1Epi’Eq1Eq1')-1/2
[{u~(p1')(-iγμ)v(q1)}{v~(q1)(-iγμ)u(p1')}
(-i){(p1-p1')2+iε}-1-{u~(p1')(-iγμ)v(q1')}
{v~(q1)(-iγμ)u(p1)}(-i){(p1+q1)2+iε}-1]
×(2π)4δ4(p1'+q1'-p1-q1) の場合,
これは確かに,Sfi(2)が満たすべき上記条件を満足しています。
そして,ユニタリ性の条件(4)は,Sfi(4)+Sif(4)*=-ΣnSnf(2)*Sni(2)
です。
これは4次振幅:Sfi(4)=(Sfi(4)+Sif(4)*)/2+(Sfi(4)-Sif(4)*)/2
のエルミート部分(実数部):(Sfi(4)+Sif(4)*)/2は2次の振幅Sfi(2)
の寄与に依存することを示しています。
そして,今問題としている伝播関数の虚数部:
(igμν/q2)(α/3)(1-4m2/q2)1/2θ(1-4m2/q2)は,
伝播関数×(-i)の因子として散乱振幅の4次補正の実数部:
(Sfi(4)+Sif(4)*)/2に寄与し,丁度,この条件:
Sfi(4)+Sif(4)*=-ΣnSnf(2)*Sni(2) を体現しています。
q2の閾値(Threshold)を与えるHeaviside関数:θ(1-4m2/q2)
は,電子閉loopの仮想電子-陽電子対に加え最終状態として,
実の電子-陽電子対の状態を実現し得る運動量:(q2>4m2)に
対してのみ,この4次補正が存在することを示しています。
S行列が任意次数でユニタリであることの証明は,場の理論の
枠内で最もうまく遂行されることがわかっています。
§8.3 Renormalization of External Photon(光子外線のくりこみ)
真空偏極の輻射補正の寄与については,これまでは仮想光子の
伝播関数(内線)に対してのみ論じてきました。
しかしながら,電子線の閉ループは"実光子=外線"にも寄与する
はずです。
これを見るため,図8.6に示すようなある離れた
源(Distant source)によって生成される光子を想定します。
今対象としている系の外線に挿入された真空偏極泡が,図に追加
された黒影部分に入ると仮想すると,その光子線に繋がる両頂点の
電荷の積:eR2=Z3e2~e2[1-{α/(3π)}log(M2/m2)]によって,
非補正行列要素に対して積因子:Z3が生じます。
しかし,今のところ,超遠方にあるであろう光子源のcurrent
については,まだ"くりこまれてないまま"です。
もしも,この遠方currentの方に因子Z31/2を結び付け,残りの
因子:Z31/2を対象としている系に結び付けるなら,各頂点の裸
の電荷eが,Z31/2e=eRで置き換えられることになります。
既に示したように,
この一貫した電荷の補正は内線に対する伝播関数の補正と同等
の意味を持ちます。そこで,内線については今のままで全く問題
なしとします。
そして,外線についても真空偏極の寄与として内線と同じ補正
の実務的法則が適用できると考えます。
つまり,あらゆる外線についても直接の外線補正は無視して,
各頂点でeの代わりにeR=Z31/2eで置き換える法則を採用
します。
これは,実際には外頂点が足りない外線については補正の
し過ぎですから,上の真空偏極泡を含むあらゆるグラフを内線
扱いで計算した後に,外線については1本ごとにZ31/2で割る
ことで.合理的に対処します。
(※場の理論での漸近場でのZの扱いとLSZのReductionなど参照)
以降では次のように仮定します。
すなわち,式を書く際には既に"くりこみ"がなされてしまって
いるとしてeRを改めてeと書きます。
したがって,eR2/(4πε0)でなくe2/(4πε0)が微細構造定数:
α~1/137を表わすとします。
そして必要なときには裸の電荷をe0で記述します。
今日は短かいですがこれで終わります。
これで"真空偏極(vacuum polarization)=電荷のくりこみ"
による輻射補正の項目については終わります。
次回からは,"電子の自己質量(self-mass of electron)
=質量のくりこみ"に入る予定です。
参考文献: J.D.Bjorken & S.D.Drell
“Relativistic Quantum Mechanics”(McGrawHill)
PS:ほとんど見えない右目の診察のため帝京大病院眼科に行かねばならない
ので,上記記事も取り合えずのアップです。
新マシン(=中古)のブラウザでは何故かブログの原稿が
ずれるなど不具合が多いので毎回,後編集で苦労します。
PS2:今,4月21日夜中の3時です。
疲れて爆睡していましたが目が覚めてしまいました。
昨日は朝10時半~11時の予約だったのに,眼科の診察が終わった
のは午後3時半でした。
それから,院内のローソンでおにぎりを買って我慢していた遅い
昼食を取り帰宅すると,もう午後5時でした。
いつもの眼科主治医は急遽出張ということで,診察は代わりの若い
先生でした。そして検査では右目の視力が前回は0.4だったのに,
今回はゼロつまり測定不可能でした。
しかし医者には行ってみるもんですね。
一応,超音波で網膜剥離を調べてもらい異常なしでした。
気休めという話でしたが,1日3回服用の眼底出血した血の吸収
を促進して止血する飲み薬を頂き,今のところ2回飲んで,瞳孔を
開く検査薬も消えたところですが,気のせいか?うっすらと見える
ようです。
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