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2011年5月 4日 (水)

量子電磁力学の輻射補正(7)(頂点補正-1)

 輻射補正の続きです。頂点補正に入ります。

 

§8.6 The Vertex Correction(頂点補正)

 

 

 再々掲の上図8.4のうち,(c)の評価だけが残っています。


 これは光子が頂点γμを橋渡しすることによる補正

示しています。このグラフは2次の頂点(vertex)部分と

いわれます。

 この頂点グラフの物理過程への寄与を計算するために,

 積分量;Λμ(p',p)≡(-ie)2ε0-1∫d4k(2π)-4

 {(-i)(k2-λ2+iε)-1γνi('--m+iε)-1

 γμi(-m+iε)-1γν} を定義します。

 
この計算式では,図8.4(c)において仮想光子によって

生成される電子の運動量をp'とし,陽電子の運動量を

-pとしています。

 同様
に,同じ式は下図8.9に示すようなある外場ポテンシャル

よる電子散乱による輻射補正をも表わしています。

 
このケースにはp'は同じく終状態の電子の運動量ですが,p

は陽電子ではなく,始状態の電子の運動量です。

 というわけで,見かけ上異なる物理過程への補正を同じ関数

Λμ(p',p)で記述します。(← ※向きは違いますが同じ

グラフなので,これは正当化されます。) 

 また,赤外発散にも遭遇するので,
非常に軟らかい光子(k ~ 0 )

の寄与を切断するため,再び光子に微小質量λを充当しておきます。

 
さて,始状態,終状態の自由粒子運動量に対して,q=p'-p=0

 のときのΛμ(p',p)を考慮することから無限大部分を分離します。

 
'=m,=mに対しては,

 u~(p)Λμ(p,p)u(p)=u~(p)(Z1-1-1)γμu(p)

 と書けます。

 ただし,Z1は質量の平方:m2=p22とそれを有限にするに必要

 な,切断に依存する定数です。

 しかし,u~(p)Λμ(p,p)u(p)=u~(p)(Z1-1-1)γμu(p)

 はより普遍的な式です。

 何故なら,他の唯一のパラメータである4元ベクトルpνは,

 スピノルu~(p)とu(p)に挟まれたときは常にmγν

 等しいからです。

 そして,この定数Z1は計算する必要はありません。

 それはμ(p,p)=(-ie)2ε0-1∫d4k(2π)-4

 {(-i)(k2-λ2+iε)-1γνi(-m+iε)-1

 γμi(-m+iε)-1γν}と,

 -iΣ(p)=(-ie)2ε0-1∫d4k(2π)-4

 {(-i)(k2-λ2-iε)-1γνi(-m+iε)-1γν}

 を比較すると,次式の成立が見出されるからです。

 すなわちμ(p,p)=-∂Σ(p)/∂pμです。

 (※この関係式はWardの恒等式(Ward's identity)と呼ばれます。)

 ここで重要な恒等式:

 (∂/∂pμ)(-m+iε)-1=(∂/∂pμ){1/(-m+iε)}

 =-{1/(p-m)}γμ{1/(p-m))}を用いました。

 
(※何故なら(∂/∂pμ){1/(γμμ-m)=-γμ/(γμμ-m)2

 であるからです。)

 この式は,自由伝播関数の運動量による微分が電子線グラフへの

 ゼロエネルギー光子の挿入に等価であることを主張しています。

 具体的には,まず,

 Λμ(p,p)=-∂Σ(p)/∂pμの右辺の微分は前節の表現:

 Σ(p)=δm-{Z2-1-1+C(p)}(-m) から,直接に

 計算できて,

 ∂Σ(p)/∂pμ=-{Z2-1-1+C(p)}γμ

 +{∂C(p)/∂pμ}(-m) となることがわかります。

 したがって,u~(p)Λμ(p,p)u(p)

 =-u~(p){∂Σ(p)/∂pμ}u(p)

 =u~(p)(Z2-1-1)γμu(p) が得られるわけです。

 これと,u~(p)Λμ(p,p)u(p)=u~(p)(Z1-1-1)γμu(p)

 を比較すると,e2のオーダーまでではZ1=Z2と結論されます。

 さて,eの2次のオーダーまでで頂点補正は,

 Λμ(p',p)=(Z1-1-1)γμ+Λcμ(p',p)と表現すること

 ができます。

 
そして,あらゆる切断依存性は定数Z1(=Z2)の中に含まれます。

 他方,残りのΛcμ(p',p)の方は,光子質量λ>0 の保持により

 赤外破局(infrared catastrophe)を避けるなら有限です。

 これはまた一意的で,u~(p)Λcμ(p,p)u(p)=0 を満足します。

 
今のポテンシャル内の電子散乱のケースでは,Z1を頂点における

 電荷の"くりこみ"と見なすか?,それとも外線の波動関数のZ21/2

 の相殺と見るか?のいずれかと考えることができます。

 このことは,電子のポテンシャルによる前方散乱(p'=p)に

 対するオーダーe2のあらゆるグラフを見ることによって理解

 されます。

 
これらのグラフを以下の図8.10 に示します。

 

q→ 0 の極限での上記各グラフの寄与は,それぞれ,

 (a)-ieγμ, (b)-ieγμ(Z1-1-1),  

 (c)+δm{i/(-m)}(-ieγμ)-(Z2-1-1)(-ieγμ)

 が2個,

 
および,(d)-δm{i/(-m)}(-ieγμ)が2個,

 そして.(e)-(-ieγμ)αlog(Λ2/m2)=(-ieγμ)(Z3-1)

 です。

 
(※何故なら,電子自己エネルギーは

 Σ(p)=+δm-{Z2-1-1+C(p)}(-m)であり,=m

 ではC(p)=0 であるからです。) 

 前の議論から,各電子外線はZ21/2で割り,各光子外線はZ31/2

 割る必要があります。(※今のケースは電子外線2本,光子

 外線1本です。)
 
 
 こうして,得られるe2のオーダーでの全ての寄与の和を

 まとめると次式を得ます。


 すなわち,

 Z2-13-1/2(-ieγμ)[1+(Z1-1-1)+2δm/(-m) -1-2(Z2-1-1)

 -2δm/(-m) -1+(Z3-1)] ~ Z2-13-1/2(-ieγμ)[1

 +(Z1-1-1)+1-2(Z2-1-1)(Z3-1-1)]

 =Z2-13-1/2(-ieγμ)[{1+(Z1-1-1){1+(Z3-1)}/{1+(Z2-1-1)}2

 =-ieZ1-1231/2γμ=-ieRγμ  です。

 ここで,最後の段階でeR2≡Z12,およびZ1=Z2を用いました。

 
※(注1):何故なら,

 1/{1+(Z2-1-1)}2 ~ 1-2(Z2-1-1)なので,

 {1+(Z1-1-1){1+(Z3-1)}/{1+(Z2-1-1)}2

 ~ {1+(Z1-1-1)}{1+(Z3-1)}{1-2(Z3-1-1)}

 =1+(Z1-1-1)+(Z3-1)-2(Z2-1-1) です。 


 そして,{1+(Z1-1-1){1+(Z3-1)}/{1+(Z2-1-1)}2

 Z1-1322ですから,

 Z2-13-1/2{1+(Z1-1-1){1+(Z3-1)}/{1+(Z2-1-1)}2

 =Z1-1231/2です。  (注1終わり※)

 
したがって,頂点部分と伝播関数部分の間でZ2のくりこみ

 完全に除去されます。

 
そこで,電荷のくりこみの完全な原因は真空偏極にあると考えます。

 
頂点部分のトータルのくりこみが-ieRγμになるという上記結果

 に到達する際に使用した幾分苦心したとも見える記法は,より高次

 の寄与をも扱うという目で用いたものです。

 特にΛμ(p,p)=-∂Σ(p)/∂pμとZ1=Z2の関係(Wardの恒等式)

 は,あらゆる発散積分がくりこみ定数:1,Z3,Z2に吸収できる結果

 として,実はeの2次だけでなくあらゆるオーダーで真です。

 既に真空偏極グラフの議論において,その有限部分から物理的に

 観測可能な効果を見出してきました。(※Lambシフトの簡単な例)

 頂点部分と電子の自己エネルギー部分の有限部分を調べることで

 また大いに物理的関心をそそる予測の覆いを取ることもできます。

 それらを見るために,

 Λμ(p',p)≡(-ie)2ε0-1∫d4k(2π)-4{(-i)(k2-λ2+iε)-1

 γνi('--m+iε)-1γμi(-m+iε)-1γν}

 の具体的計算に向かいます。

 右辺の積分を実行するのには長い計算が要求されます。

 まず,電子伝播関数を有理化して,スケーリング・トリック

 によって導かれる伝播関数の分母の指数関数化,および

 公式:1/(a12..an)=(n-1)!∫0dz1dz2..dzn

 δ(1-Σii)/(Σjjj)nを用いて分母を結合させます。

 (※Feynmanの積分公式)

 
※(注2):i/a=∫0dzexp{i(az+iε)}によって

 1/(a12..an)=i-n0dz1dz2..dzndz

 exp{i(Σjjj+iε)}です。

 そして,1=∫0dλλ-1δ(1-(Σii)/λ)より

 1/(a12..an)=i-n0dλλ-10dz1dz2..dzndz

 δ(1-(Σii)/λ)exp{i(Σjjj+iε)}

 =i-n0dλλn-10dz1dz2..dzndzδ(1-Σii))

 exp{iλ(Σjjj+iε)} と書けます。

 ところが,Im(c)≡∫0dλλmexp{iλ(c+iε)}とおけば,

 Im(c)=[λmexp{iλ(c+iε)/{i(c+iε)}} 0

 +{im/(c+iε)}∫0dλλm-1exp{iλ(c+iε)}

 =(im/c)Im-1(c)={i2m(m-1)/c2}Im-2(c)

 =..=(imm!/cm)I0(c)=i(m+1)m!/cm+1 です。

 故に,m=n-1と置けば.

n-1(c)≡∫0dλλn-1exp{iλ(c+iε)}=in(n-1)!/cn です。

 以上から,c=Σjjjとして,

 1/(a12..an)=(n-1)!∫0dz1dz2..dzn

 δ(1-Σii)/(Σjjj)nを得ます。  (注2終わり)※ 

 この項目では,Schwingerの異常磁気モーメント

 (anomalous magnetic moment)の導出,赤外発散の考察など,

 まだまだかなり長い計算が含まれています。

 そこで,短いのですが今日のところはここで一旦休憩します。

(
参考文献): J.D.Bjorken & S.D.Drell

 "Relativistic Quantum Mechanics"(McGraw-Hill)

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