量子電磁力学の輻射補正(7)(頂点補正-1)
輻射補正の続きです。頂点補正に入ります。
§8.6 The Vertex Correction(頂点補正)
再々掲の上図8.4のうち,(c)の評価だけが残っています。
これは光子が頂点γμを橋渡しすることによる補正を
示しています。このグラフは2次の頂点(vertex)部分と
いわれます。
この頂点グラフの物理過程への寄与を計算するために,
積分量;Λμ(p',p)≡(-ie)2ε0-1∫d4k(2π)-4
{(-i)(k2-λ2+iε)-1γνi(p'-k-m+iε)-1
γμi(p-k-m+iε)-1γν} を定義します。
この計算式では,図8.4(c)において仮想光子によって
生成される電子の運動量をp'とし,陽電子の運動量を
-pとしています。
同様に,同じ式は下図8.9に示すようなある外場ポテンシャル
による電子散乱による輻射補正をも表わしています。
このケースにはp'は同じく終状態の電子の運動量ですが,p
は陽電子ではなく,始状態の電子の運動量です。
というわけで,見かけ上異なる物理過程への補正を同じ関数
Λμ(p',p)で記述します。(← ※向きは違いますが同じ
グラフなので,これは正当化されます。)
また,赤外発散にも遭遇するので,非常に軟らかい光子(k ~ 0 )
の寄与を切断するため,再び光子に微小質量λを充当しておきます。
さて,始状態,終状態の自由粒子運動量に対して,q=p'-p=0
のときのΛμ(p',p)を考慮することから無限大部分を分離します。
p'=m,p=mに対しては,
u~(p)Λμ(p,p)u(p)=u~(p)(Z1-1-1)γμu(p)
と書けます。
ただし,Z1は質量の平方:m2=p2,λ2とそれを有限にするに必要
な,切断に依存する定数です。
しかし,u~(p)Λμ(p,p)u(p)=u~(p)(Z1-1-1)γμu(p)
はより普遍的な式です。
何故なら,他の唯一のパラメータである4元ベクトルpνは,
スピノルu~(p)とu(p)に挟まれたときは常にmγνに
等しいからです。
そして,この定数Z1は計算する必要はありません。
それは,Λμ(p,p)=(-ie)2ε0-1∫d4k(2π)-4
{(-i)(k2-λ2+iε)-1γνi(p-k-m+iε)-1
γμi(p-k-m+iε)-1γν}と,
-iΣ(p)=(-ie)2ε0-1∫d4k(2π)-4
{(-i)(k2-λ2-iε)-1γνi(p-k-m+iε)-1γν}
を比較すると,次式の成立が見出されるからです。
すなわち,Λμ(p,p)=-∂Σ(p)/∂pμです。
(※この関係式はWardの恒等式(Ward's identity)と呼ばれます。)
ここで重要な恒等式:
(∂/∂pμ)(p-m+iε)-1=(∂/∂pμ){1/(p-m+iε)}
=-{1/(p-m)}γμ{1/(p-m))}を用いました。
(※何故なら(∂/∂pμ){1/(γμpμ-m)=-γμ/(γμpμ-m)2
であるからです。)
この式は,自由伝播関数の運動量による微分が電子線グラフへの
ゼロエネルギー光子の挿入に等価であることを主張しています。
具体的には,まず,
Λμ(p,p)=-∂Σ(p)/∂pμの右辺の微分は前節の表現:
Σ(p)=δm-{Z2-1-1+C(p)}(p-m) から,直接に
計算できて,
∂Σ(p)/∂pμ=-{Z2-1-1+C(p)}γμ
+{∂C(p)/∂pμ}(p-m) となることがわかります。
したがって,u~(p)Λμ(p,p)u(p)
=-u~(p){∂Σ(p)/∂pμ}u(p)
=u~(p)(Z2-1-1)γμu(p) が得られるわけです。
これと,u~(p)Λμ(p,p)u(p)=u~(p)(Z1-1-1)γμu(p)
を比較すると,e2のオーダーまでではZ1=Z2と結論されます。
さて,eの2次のオーダーまでで頂点補正は,
Λμ(p',p)=(Z1-1-1)γμ+Λcμ(p',p)と表現すること
ができます。
そして,あらゆる切断依存性は定数Z1(=Z2)の中に含まれます。
他方,残りのΛcμ(p',p)の方は,光子質量λ>0 の保持により
赤外破局(infrared catastrophe)を避けるなら有限です。
これはまた一意的で,u~(p)Λcμ(p,p)u(p)=0 を満足します。
今のポテンシャル内の電子散乱のケースでは,Z1を頂点における
電荷の"くりこみ"と見なすか?,それとも外線の波動関数のZ21/2
の相殺と見るか?のいずれかと考えることができます。
このことは,電子のポテンシャルによる前方散乱(p'=p)に
対するオーダーe2のあらゆるグラフを見ることによって理解
されます。
これらのグラフを以下の図8.10 に示します。
q→ 0 の極限での上記各グラフの寄与は,それぞれ,
(a)-ieγμ, (b)-ieγμ(Z1-1-1),
(c)+δm{i/(p-m)}(-ieγμ)-(Z2-1-1)(-ieγμ)
が2個,
および,(d)-δm{i/(p-m)}(-ieγμ)が2個,
そして.(e)-(-ieγμ)αlog(Λ2/m2)=(-ieγμ)(Z3-1)
です。
(※何故なら,電子自己エネルギーは
Σ(p)=+δm-{Z2-1-1+C(p)}(p-m)であり,p=m
ではC(p)=0 であるからです。)
前の議論から,各電子外線はZ21/2で割り,各光子外線はZ31/2で
割る必要があります。(※今のケースは電子外線2本,光子
外線1本です。)
こうして,得られるe2のオーダーでの全ての寄与の和を
まとめると次式を得ます。
すなわち,
Z2-1Z3-1/2(-ieγμ)[1+(Z1-1-1)+2δm/(p-m) -1-2(Z2-1-1)
-2δm/(p-m) -1+(Z3-1)] ~ Z2-1Z3-1/2(-ieγμ)[1
+(Z1-1-1)+1-2(Z2-1-1)(Z3-1-1)]
=Z2-1Z3-1/2(-ieγμ)[{1+(Z1-1-1){1+(Z3-1)}/{1+(Z2-1-1)}2
=-ieZ1-1Z2Z31/2γμ=-ieRγμ です。
ここで,最後の段階でeR2≡Z1e2,およびZ1=Z2を用いました。
※(注1):何故なら,
1/{1+(Z2-1-1)}2 ~ 1-2(Z2-1-1)なので,
{1+(Z1-1-1){1+(Z3-1)}/{1+(Z2-1-1)}2
~ {1+(Z1-1-1)}{1+(Z3-1)}{1-2(Z3-1-1)}
=1+(Z1-1-1)+(Z3-1)-2(Z2-1-1) です。
そして,{1+(Z1-1-1){1+(Z3-1)}/{1+(Z2-1-1)}2
Z1-1Z3Z22ですから,
Z2-1Z3-1/2{1+(Z1-1-1){1+(Z3-1)}/{1+(Z2-1-1)}2
=Z1-1Z2Z31/2です。 (注1終わり※)
したがって,頂点部分と伝播関数部分の間でZ2のくりこみは
完全に除去されます。
そこで,電荷のくりこみの完全な原因は真空偏極にあると考えます。
頂点部分のトータルのくりこみが-ieRγμになるという上記結果
に到達する際に使用した幾分苦心したとも見える記法は,より高次
の寄与をも扱うという目で用いたものです。
特にΛμ(p,p)=-∂Σ(p)/∂pμとZ1=Z2の関係(Wardの恒等式)
は,あらゆる発散積分がくりこみ定数:Z1,Z3,Z2に吸収できる結果
として,実はeの2次だけでなくあらゆるオーダーで真です。
既に真空偏極グラフの議論において,その有限部分から物理的に
観測可能な効果を見出してきました。(※Lambシフトの簡単な例)
頂点部分と電子の自己エネルギー部分の有限部分を調べることで
また大いに物理的関心をそそる予測の覆いを取ることもできます。
それらを見るために,
Λμ(p',p)≡(-ie)2ε0-1∫d4k(2π)-4{(-i)(k2-λ2+iε)-1
γνi(p'-k-m+iε)-1γμi(p-k-m+iε)-1γν}
の具体的計算に向かいます。
右辺の積分を実行するのには長い計算が要求されます。
まず,電子伝播関数を有理化して,スケーリング・トリック
によって導かれる伝播関数の分母の指数関数化,および
公式:1/(a1a2..an)=(n-1)!∫0∞dz1dz2..dzn
δ(1-Σizi)/(Σjajzj)nを用いて分母を結合させます。
(※Feynmanの積分公式)
※(注2):i/a=∫0∞dzexp{i(az+iε)}によって
1/(a1a2..an)=i-n∫0∞dz1dz2..dzndz
exp{i(Σjajzj+iε)}です。
そして,1=∫0∞dλλ-1δ(1-(Σizi)/λ)より
1/(a1a2..an)=i-n∫0∞dλλ-1∫0∞dz1dz2..dzndz
δ(1-(Σizi)/λ)exp{i(Σjajzj+iε)}
=i-n∫0∞dλλn-1∫0∞dz1dz2..dzndzδ(1-Σizi))
exp{iλ(Σjajzj+iε)} と書けます。
ところが,Im(c)≡∫0∞dλλmexp{iλ(c+iε)}とおけば,
Im(c)=[λmexp{iλ(c+iε)/{i(c+iε)}} 0∞
+{im/(c+iε)}∫0∞dλλm-1exp{iλ(c+iε)}
=(im/c)Im-1(c)={i2m(m-1)/c2}Im-2(c)
=..=(imm!/cm)I0(c)=i(m+1)m!/cm+1 です。
故に,m=n-1と置けば.
In-1(c)≡∫0∞dλλn-1exp{iλ(c+iε)}=in(n-1)!/cn です。
以上から,c=Σjajzjとして,
1/(a1a2..an)=(n-1)!∫0∞dz1dz2..dzn
δ(1-Σizi)/(Σjajzj)nを得ます。 (注2終わり)※
この項目では,Schwingerの異常磁気モーメント
(anomalous magnetic moment)の導出,赤外発散の考察など,
まだまだかなり長い計算が含まれています。
そこで,短いのですが今日のところはここで一旦休憩します。
(参考文献): J.D.Bjorken & S.D.Drell
"Relativistic Quantum Mechanics"(McGraw-Hill)
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