輻射補正の頂点補正;Λμ(p',p)(下図)の続きです。
何回か通ってきた道とはいえ,計算が複雑で手間取っています。
前回得た式:
Λμ(p',p)={α/(4π)}γμ{log(Λ2/m2)+O(1)}
+{α/(2π)}γμ∫0∞∫0∞∫0∞dz1dz2dz3
δ(1-Σi=13zi)log[{m2(1-z1) 2+λ2z12}
/{m2(1-z1)2+λ2z12-q2z2z3-iε}]
-{α/(4π)}∫0∞∫0∞∫0∞dz1dz2dz3
δ(1-Σi=13zi)[γν{p'(1-z2)-pz3+m}γμ
{p(1-z3)-p'z2+m}γν]
/{m2(1-z1)2+Λ2z12-q2z2z3-iε},
あるいは,その直前の式(全記事の※(注)を参照):
Λμ(p',p)={α/(4π)}γμ{log(Λ2/m2)
+{α/(2π)}γμ∫01dz1∫01-z1dz2
log([m2z1+m2{m2(1-z1)2-q2z2z3-iε+λ2z12}/Λ2]
/{m2(1-z1)2+λ2z12-q2z2z3})
-{α/(4π)}∫0∞∫0∞∫0∞dz1dz2dz3
δ(1-Σi=13zi)[γν{p'(1-z2)-pz3+m}γμ
{p(1-z3)-p'z2+m}γν]
/{m2(1-z1)2+Λ2z12-q2z2z3-iε}
から再出発です。
この式の段階でpとp'の反交換性を利用して最後の項を縮めます。
その際,暗黙のうちにΛμ(p',p)はDiracの自由電子スピノルに
挟まれた状態で,pまたはp'が質量殻上で(つまり,外線波動関数
として)作用することを利用します。
これには謂わゆるGordon-Deconposition(ゴルドン分解),
すなわち,恒等式:
ψ2~γμ^ψ1
={1/(2m)}[ψ2~p^μψ1-(p^μψ2~)ψ1]
-{i/(2m)}p^ν{ψ2~σμνψ1}
を用います。
ただし,σμν≡(i/2)[γμ,γν]=(i/2)(γμγν-γνγμ)
です。
また,p^μ=i∂μ=i(∂/∂xμ)=(i(∂/∂t),i∇),
p^μ=(i(∂/∂t),-i∇)であり,ψ1,ψ2は自由Dirac方程式の解:
(p^-m)ψj=0 (j=1,2),そして,
σμν≡(i/2)(γμγν-γνγμ)] です。
(↑※テキスト(Bjorken-Drell Mechanics)第3章を参照)
これらによって,最後の積分項:
-{α/(4π)}∫0∞∫0∞∫0∞dz1dz2dz3
δ(1-Σi=13zi)[γν{p'(1-z2)-pz1+m}γμ
{p(1-z1)-pz1+m}γν]
/{m2(1-z1)2+Λ2z12-q2z2z3-iε}
の被積分関数における分子は次のようになります。
すなわち,
γν{p'(1-z2)-pz1+m}γμ{p(1-z1)-pz1+m}γν
=-γμ[2m2(1-4z1+z12)+2q2(1-z1)(1-z2)
-2mz1z2[q,γμ] となります。ただしq≡p'-pです。
※(注1):まず,Gordon-Deconposition:
ψ2~γμ^ψ1={1/(2m)}[ψ2~p^μψ1-(p^μψ2~)ψ1]
-{i/(2m)}p^ν{ψ2~σμνψ1};σμν≡(i/2)(γμγν-γνγμ)
を証明します。
(証明) 自由 Dirac方程式(p^-m)ψ2=(γμp^μ-m)ψ2
=(iγμ∂μ-m)ψ2=0 のHermite共役を取れば
-i∂μψ2+γμ+-mψ2+=0 です。
右からγ0を掛けると,(γ0)-1=γ0,かつ,γ0γμ+γ0=γμ
ですから.(
-i∂μψ2~γμ―mψ2~)=(-p^μψ2~γμ-mψ2~)=0
を得ます。
他方,(γμp^μ-m)ψ1=0 です。
それ故,aμを任意の4元ベクトルとして,
0=(-p^μψ2~γμ-m)aψ1+ψ2~a(p^νγν-m)ψ1
=―2mψ2~aψ1+ψ2~aμp^νγμγνψ1
-aν(p^μψ2~)γμγνψ1
が成立します。
ただし,a=aμγμです。
そして,任意の4元ベクトルaμ,bμに対して公式:
ab=aμbνγμγν=aμbν
×[(1/2){(γμγν+γνγμ)+(γμγν-γνγμ)}
=aμbμ-iaμbνσμν
が成立します。
これは,aμ,またはbμが微分演算子p^νである場合にも成立
するので,aμp^νγμγν=aμp^μ-iaμp^νσμν
と書けます。
故に,2mψ2~aψ1=aμ{ψ2~p^μψ1-(p^μψ2~)ψ1μ}
-iaμ{ψ2~σμνp^νψ1+iaν(p^μψ2~)σμνψ1}
が成立します。
したがって,2maμψ2~γμψ1
=aμ[ψ2~p^μψ1-(p^μψ2~)ψ1μ-ip^ν{ψ2~σμνψ1}]
を得ます。
aμは任意の定ベクトルであったので,これを除いた係数のみ
で等式が成立します。
そして,その両辺を2mで割ると求める
ψ2~γμψ1={1/(2m)}[ψ2~p^μψ1-(p^μψ2~)ψ1]
-{i/(2m)}p^ν{ψ2~σμνψ1} が得られます。(証明終わり)
さて,
γν{p'(1-z2)-pz3+m}γμ{p(1-z3)-p'z2+m}γν
を簡単にすることを考えます。
まず,(1-z2)(1-z3)の係数は
γνp'γμpγν=-2pγμp'であり,
z2z3の係数はγνpγμp'γν=-2p'γμp
です。
γνpγμp',γν=-2p'γμpはこのままで,
γνp'γμpγν=-2pγμp'の右辺のpとp'を反交換
させます。
pγμp'=2pμp'-γμpp'
= 2pμp'-2γμpp'+ γμp'p
=2pμp'-2γμpp'+2p'μp-p'γμp です。
これら反交換操作を行なう目的は,今の左からp'=mの波動関数
右からp=mの波動関数で挟む場合に,p',pのそれぞれをmと
同一視できるようにするためです。
次に,-z2(1-z2)の係数については
γνp'γμp'γν =-2p'γμp'
=-4p'μp'+2 γμp'p'=-4p'μp'+2γμp'2
です。
同様に,-z3(1-z3)の係数は
γνpγμpγν=-4pμp+2γμp2 となります。
最後に,γνp'γμγν=γνγμp'γν=4p'μ,および.
γνpγμγν=γνγμpγν=4pμ,
そしてγνγμγν=-2γμ です。
以上から,
γν{p'(1-z2)-pz3+m}γμ{p(1-z3)-p'z2+m}γν
=-2(1-z2)(1-z3)(2pμp'-2γμpp'+2p'μp-p'γμp)
-2z2z3p'γμp+2z2(1-z2)( 2p'μp'-γμp'2)
+2z3(1-z3)( 2pμp-γμp2)
+4m(1-z2)p'μ+4m(1-z3)pμ
-4mz2p'μ-4mz3pμ-2m2γμ
となって少し簡単になります。
この式で,左側からはp'=m,右側からはp=mとして,
さらにp'2=p2=m2を用いると,
与式=-2(1-z2)(1-z3)(2mpμ-2γμpp'+2mp'μ-m2γμ)
-2z2z3m2γμ+2z2(1-z2)( 2mp'μ-m2γμ)
+2z3(1-z3)( 2mpμ-m2γμ)+4m(1-z2)p'μ
+4m(1-z3)pμ-4mz2p'μ-4mz3pμ-2m2γμ
と書けます。
ここで,Pμ≡p'μ+pμ,qμ≡p'μ-pμとおけば,
今のp'=p=mを満たすDiracの自由波動関数で挟むときには,
P2+q2=4m2より,P2=4m2-q2 です。
さらに,先のGordon-Deconposition:
ψ2~γμψ1={1/(2m)}[ψ2~p^μψ1-(p^μψ2~)ψ1]
-{i/(2m)}p^ν{ψ2σμνψ1} を用います。
今のケースでは,これは2mγμ=(p+p')+i(p'-p)σμν.
つまり,2mγμ=Pμ+iqνσμν を意味します。
よって,p'μ=(Pμ+qμ)/2,pμ=(Pμ-qμ)/2を代入し,
その後でPμ=2mγμ-iqνσμν を用います。
すると,与式=(P+q)(P-q)γμ(1-z2)(1-z3)
-2m(Pμ-qμ)(1-z2)(1-z3)-2m(Pμ+qμ)(1-z2)(1-z3)
+2m2γμ(1-z2)(1-z3)
-2z2z3m2γμ+2m(Pμ-qμ)(z3-z32)
+2m(Pμ+qμ)(z2-z22)-2m2γμ(z2-z22+z3-z32)
+2m(1-2z2)(Pμ+qμ)+2m(1-2z3)(Pμ-qμ)-2m2γμ
=(P2-q2)γμ(1-z2)(1-z3)-4mPμ(1-z2)(1-z3)
+2m2γμ(1-z2)(1-z3)-2z2z3m2γμ
+2mPμ(z3-z32+z2-z22)+2mqμ(z2-z22-z3+z32)
-2m2γμ(z2-z22+z3-z32)+4mPμ(1-z2-z3)
+2mqμ(-2z2+2z3)-2m2γμ
ここで,P2-q2=4m2-2q2,
-4mPμ(1-z2)(1-z3)
=-4m2(1-z2)(1-z3)+4imqνσμν(1-z2)(1-z3),
4mPμ(1-z2-z3)=4mz1Pμ
=8m2z1γμ-4imqνσμνz1,
および,-2m2γμ(1-z2)(1-z3)-2z2z3m2γμ
+4m2γμ(z3-z32+z2-z22)-2m2γμ(z2-z22+z3-z32)
+8m2z1γμ-2m2γμ
=2m2γμ(-z1-2z2z3+z2+z3-z22-z32+4z1-1)
=2m2γμ(2z1-z22-2z2z3-z32)
=2m2γμ{2z1-(1-z1)2}
より,
与式=-2q2γμ(1-z2)(1-z3)+2m2γμ(4z1-1-z12)
+4imqνσμν(1-z2)(1-z3)
-2imqνσμν(z3-z32+z2-z22)-4imqνσμνz1
+2mqμ(z2-z22-z3+z32-2z2+2z3)
となります。
よって,
与式=-2q2γμ(1-z2)(1-z3)-2m2γμ(1-4z1+z12)
-mz1(z2+z3)[q,γμ]+2mqμ(z3-z2)(z3+z2-1)
です。
ただし,σμνに関わる項では,
2iqνσμν=2iqνσμν=qν[γμ,γν]
=[γμ,q]=-[q,γμ] なる式変形をしました。
ところで,∫0∞∫0∞∫0∞dz1dz2dz3の積分の中では上式
を分子とする項の分母:{m2(1-z1)2+Λ2z12-q2z2z3-iε},
およびデルタ関数の因子:δ(1-Σi=13zi)は共にz2とz3の交換
について対称です。
そこで,積分後には分子(=与式)のうちで,
{(z2-z3)の1次の項}×(z2とz3について対称項)の項の寄与
は消えます。
また,z1z2とz1z3の積分後の値は同一ですから,
z1(z2+z3)は2z1z2と同一視してよいことになります。
あるいは,z1(z2+z3)に,寄与がゼロのz1(z2-z3)を加えた
と考えても同じです。
以上から,
γν{p'(1-z2)-pz3+m}γμ{p(1-z3)-p'z2+m}γν
=-γμ{2m2(1-4z1+z12)+2q2(1-z2)(1-z3)}
-2mz1z2[q,γμ]
と書けることがわかります。 (注1終わり)※
さて,z1にわたる積分は非常に難しいものです。しかし,
その解析的な計算結果は多くの場所で得られ参照されています。
ここでは,|q2|<<m2,または|q2|>>m2のいずれかの制限下
での計算のみを対象として考察します。
まず,|q2|<<m2の場合の計算は直線的で,オーダーq2まででは
次の結果が得られます。
すなわち,
γμ+Λcμ(p',p)
~ γμ[1+{α/(3π)}(q2/m2)
×{log(m/λ)-3/8]+{α/(8πm)}[q,γμ]
です。
(※Λcμ(p',p)は切断(cut-off)された頂点補正
(vertex-correction)の部分で,
Λμ(p',p)=(Z1-1-1)γμ+Λcμ(p',p)
です。
くりこみ理論では,真の頂点部分:
Γμ(p',p)=γμ+Λμ(p',p)=Z1-1Γcμ(p',p)
=Z1-1{γμ+Λcμ(p',p)} という定式化です。)
※(注2):最初に述べたように,
Λμ(p',p)
={α/(4π)}γμlog(Λ2/m2)
+{α/(2π)}γμ∫01dz1∫01-z1dz2
log([m2z1+m2{m2(1-z1)2-q2z2z3-iε}/Λ2]
/{m2(1-z1)2+λ2z1-q2z2z3-iε})
-{α/(4π)}∫0∞∫0∞∫0∞dz1dz2dz3
δ(1-Σi=13zi)[γν{p'(1-z2)-pz3+m}γμ
{p(1-z3)-p'z2+m}γν]
/{m2(1-z1)2+Λ2z12-q2z2z3-iε}
です。
|q2|<<m2の場合を想定して,ζ≡q2/m2としu=1-z1
とおけば,
Λμ(p',p)
~ {α/(4π)}γμ{log(Λ2/m2)
+{α/(2π)}γμ∫01du∫0udz2log[(1-u)
/{u 2-(λ2/m2)u+(λ2/m2)+ζz22-ζuz22}]
-{α/(4π)}∫01du∫0udz2(-2γμ)
{(u2+2u―2)+ζ(1-u)-ζz22+ζuz22}
/{u 2-(λ2/m2)u+(λ2/m2)+ζz22-ζuz22}
+{ε0α/(4π)}[q,γμ]∫01du∫0udz2{u(1-u)}
/{u2-(λ2/m2)u+(λ2/m2)}
です。
上式の右辺2項×(2π/α)γμ-1
=∫01du∫0udz2
log[(1-u)/{u 2-(λ2/m2)u+(λ2/m2)+ζz22-ζuz22}]
=∫01ulog(1-u)du
-∫01ulog{u2-(λ2/m2)u+(λ2/m2)}du
+∫01du[(ζz23/3-ζuz22/2)
/{u2-(λ2/m2)u+(λ2/m2)}] 0u
=[(1/2)(u2-1) log(1-u)-u2/4-u/2]01
-[{u2-(λ2/m2)u+(λ2/m2)}log{u2
-(λ2/m2)u+(λ2/m2)}-(1/2){u2-(λ2/m2)u+(λ2/m2)}]01
-{λ2/(2m2)}∫01log{u2-(λ2/m2)u+(λ2/m2)}du
+(ζ/6)∫01duu2/{u2-(λ2/m2)u+(λ2/m2)}
=-3/4+1/2+(ζ/6)∫01udu+O(λ2/m2)
~ -1/4+ζ/12 です。
また,右辺第3項×(-4π/α)(-2γμ)-1
=∫01du∫0udz2
[-1+{2u2+(2-ζ-m2/λ2)u-(2-ζ-m2/λ2)}
/{u2-(λ2/m2)u+(λ2/m2)}
-{2u2+(2-ζ-m2/λ2)u-(2-ζ-m2/λ2)}
(ζz22-ζuz2)/{u2-(λ2/m2)u+(λ2/m2)}]
~ [-u2/2]01+(1+ζ/6)∫01du[{2u2+(2-ζ-m2/λ2)}u
/{u2-(λ2/m2)}]+O(ζ,λ2/m2)
~ -1/2+(1+ζ/6)∫01(2u+2-ζ)du
-(1+ζ/6)∫01[(2-ζ)/{u2-(λ2/m2)u+(λ2/m2)}]du
+O(ζ,λ2/m2)
= -1/2+1+ζ/6+2-ζ+ζ/3
-(1/2)(2-2ζ/3)[log|u2-(λ2/m2)u+(λ2/m2)|]01
+O(ζ,λ2/m2)
~ 5/2-ζ/2+(1-ζ/3)log(λ2/m2)
です。
右辺第4項×(4π/α)[q,γμ]-1
=∫01du∫0udz2{(1-u)/u}+O(ζ,λ2/m2)
~∫01du(u-1)=[u2-u/2]01=1/2 です。
故に,第2項+第3項+第4項
={α/(4π)}γμ
[-1/2+ζ/6+10/2-ζ+2log(λ2/m2)-(2ζ/3)log(λ2/m2)]
+{α/(8πm)}[q,γμ]
=-{α/(4π)}γμ[-9/2+5ζ/6+2log(m2/λ2)
-(4ζ/3)log(m/λ)+{α/(8πm)}[q,γμ]
となります。
したがって,第1項+第2項+第3項+第4項
=[{α/(4π)}{log(Λ2/m2)+9/2-2log(m2/λ2)}
+{α/(3π)}(q2/m2){2log(m/λ)-5/8}]γμ
+{α/(8πm)}[q,γμ]
を得ます。
ここでZ1-1-1={α/(2π)}{log(Λ/m)+9/4-2log(m/λ)}
={α/(4π)}{log(Λ2/m2)+9/2-2log(m2/λ2)}
を用いると,
Λμ(p',p)
~(Z1-1-1)γμ+γμ{α/(3π)}(q2/m2){log(m/λ)-5/8]
+{α/(8πm)}[q,γμ]
と書けます。
Λμ(p',p)=(Z1-1-1)γμ+Λcμ(p',p)ですから,
γμ+Λcμ(p',p) ~ γμ[1+{α/(3π)}(q2/m2)
{log(m/λ)-5/8]+{α/(8πm)}[q,γμ]
が得られました。
しかし,証明すべきγμ+Λcμ(p',p)
~ γμ[1+{α/(3π)}(q2/m2){log(m/λ)-3/8]
+{α/(8πm)}[q,γμ]とは
{α/(3π)}(q2/m2)の係数(-3/8)と(-5/8)が微妙に
くい違っています。
どこか計算ミスかな??
Schwingerの異常磁気モーメントに寄与するのは最後の項:
{α/(8πm)}[q,γμ]なので,これが間違っていなければ,
他は主として定性的な理論の話には取り合えずは影響無し
ですが。。 (注2終わり)※
短いですが,かなり疲れたので休憩です。
参考文献: J.D.Bjorken & S.D.Drell "Relativistic Quantum Mechanics"(McGraw-Hill)
最近のコメント