« 将棋社団戦2日目 | トップページ | 松田が死んだ。。他人事とは思えない。 »

2011年8月 1日 (月)

水素様原子の微細構造(3)

 「水素様原子の微細構造」の続きです。

 まず,ここまでの流れを要約します。

水素様原子内の電子の波動関数ψ(x)は,

Dirac方程式:{γμ(i∂μ-eAμ)-m}Ψ=0 

or {γμ(pμ^-eAμ)-m}Ψ=0 を満たします。

  

ただし,eAμ(x)=(V(r),0),

V(r)=-Zα/r です。

 

これは,H^=αp^+βm+V(r)として,

i(∂Ψ/∂t)=H^Ψの形に書けますが,エネルギーが一定値E

の定常状態ではH^Ψ=EΨです。

 

解の4成分spinorΨを,2成分のψ,χでΨ=t[ψ,χ]と表わすと,

 

成分ψ,χが動径関数と角変数の関数の積の形の変数分離型解は,

Ψjml t[(iGlj/r)ψjml,(Flj/r){(σr)/r}ψjml]

となります。

 

そして,動径関数Glj(r),Flj(r)の満たすべき方程式は,

 

(E-m+Zα/r)Glj(r)

=-dFlj(r)/dr+(κ/r)Flj(r),および,

(E+m+Zα/r)Flj(r)

=+dGlj(r)/dr+(κ/r)Glj(r)

 

です。

 

lj,Fljを単にG,Fと略記しa=(1/2)(m2-E2)-1/2,ρ=ar

として変数変換すれば,

G=(1+E/m)1/2(f+g)exp(-ρ/2),

F=(1-E/m)1/2(f-g)exp(-ρ/2)

と書くことができます。

 

すると,f,およびgの満たすべき方程式は,

df/dρ=(1-εα1/ρ)f-(κ+μα1)g/ρ

dg/dρ=(μα1-κ)f/ρ+εα1g/ρ 

です。

 

ただし,μ≡m(m2-E2)1/2,ε≡E(m2-E2)1/22+ε2=1)

であり,α1≡Zαです。

 

第2式をρで微分して第1式を代入することでfを消去すれば,

gに対する方程式が得られます。

 

すなわち,d2/dρ2-(1-1/ρ)(dg/dρ)

+{εα1/ρ+(α12-κ2)/ρ2}g=0 です。

 

今日はこれらを具体的に解きます。

 

gにργを代入して,級数解のργ-2の係数が満たすべき決定方程式

を求めると,γ(γ-1)+γ+12-κ2)=0 です。

 

よって,γ2κ2α12を得ます。

 

つまり,g(ρ)≡ργw(ρ)≡ργΣk=0kρkとすると,

w(0)=a0≠0なら,γ2κ2α12でが満たされる必要があります。

 

(注3-1):級数解の決定方程式等については,2007年3月末から4月

初めに心臓病で入院中に勉強したものを退院直後にまとめた記事

シリーズのうちの一つ,

 

2007年4/28の記事:2階線形常微分方程式と確定特異点

 の中のFrobeniusの方法を参照してください。

 

(注3-1終わり)※

  

さて,g(ρ)=ργw(ρ)より,

dg/dρ=γργ-1w(ρ)+ργ(dw/dρ),

2g/dρ2=γ(γ-1)ργ-2w(ρ)+2γργ-1(dw/dρ)

+ργ(d2w/dρ2)ですから,

 

(ρ)=ργw(ρ),γ2κ2α12方程式:

2g/dρ2-(1-1/ρ)(dg/dρ)

+{εα1/ρ+(α12-κ2)/ρ2}g=0 に代入すると,

 

γ(d2w/dρ2)+2γργ-1(dw/dρ)+γ(γ-1)ργ-2w}

-(1-1/ρ){ργ(dw/dρ)+γργ-1w}

+{εα1/ρ-γ22γw=0 となります。

 

 左辺のwの係数は,γ(γ-1)ργ-2-γργ-1w+γργ-2

 +εα1ργ-1wρ-γ2ργ-2

 ={γ(γ-1)+γ-γ2+(εα1-γ)ρ}ργ-2

 =(εα1-γ)ργ-1 です。

 

これからγ-1{ρ(d2w/dρ2)+(2γ+1-ρ)(dw/dρ)

+(εα1-γ)w}=0,

 

すなわち,

{ρd2/dρ2+(2γ+1-ρ)d/dρ-(γ-εα1)}w=0

を得ます。

 

これは既知の合流型超幾何微分方程式です。

 

これの原点ρ=0 で正則な解は,

w=F(γ-εα1,2γ+1;ρ)ですから,定数係数を除いて

g(ρ)=ργF(γ-εα1,2γ+1;ρ)と書けます。

 

 ところで,g(ρ)によるρ~ 0 付近での電子存在確率の動径依存

 部分は∫|g(ρ)/ρ|2ρ2dρ ~ ρ2γ+1 に比例します。

 

 そこで,ρ~ 0 付近で確率が無限大になるという不合理が生じない

 ためには,2γ+1≧0,つまり,γ≧-1/2 であることが必要です。

 

 そこで,γ=±(κ2-α12)1/2のうち,γ=-(κ2-α12)1/2は物理的

 値としては許されないので,以下ではγ=+(κ2-α12)1/2とします。

 

さらに,このときg=ργF(γ-εα1,2γ+1;ρ)が,ρ→ ∞の

遠方でこれにかかる因子:exp(-ρ/2)を打ち消さないためには,

 

γ-εα1=-n'(n'=0,1,2,..)となって,ベキ級数はその項が

途中で終わる有限和の多項式となる必要があります

 

すると,ε=E/(m2-E2)1/2=(n'+γ)/α1

={n'+(κ2α12)1/2}/α1 となります。

 

これに対応して,E=mε/(1+ε2)1/2=m(1+1/ε2)-1/2,

つまり,E=m[1+α12/{n'+(κ2-α12)1/2}2]-1/2 です。

 

ところが,n'=0 のときには,ε=γ/α1=(κ2α12)1/21より,

κ2=α12(1+ε2)=μ2α12です。

 

 しかし,γ2κ2α12=(μ2-1)α12=-ε2α120 でγが虚数に

なるため,束縛状態の解として不適です。

 

 それ故,n'=0 に対する状態関数は存在しないことがわかります。

  

したがって,n'の取り得る値はn'=1,2,..です。

  

先に,gの解をg(ρ)=ργF(γ-εα1,2γ+1;ρ)と書きました

が,これは,γ-εα1=-n'を代入し,α1をZαに戻して規格化す

ると,便宜上,規格化係数をN0,N1で表現して,次のようになります。

 

(ρ)=N01ργF(-n',2γ+1;ρ) (n'=1,2,..)

 

一方,fに対する非同次線形1階方程式:

df/dρ=(1-εα1/ρ)f-(κ+μα1)g/ρは,

 

g=ργwより,df/dρ-(1-γ/ρ)f+(κ+μα1γ-1

です。

 

これに,上記gに対する,w=N01F(-n',2γ+1;ρ)

を代入して解きます。

 

すると,fの正則な解として,

(ρ)=n'N0/N1ργF(-n'+1,2γ+1;ρ) (n'=1,2,..)

が得られます。

 

今は,解そのものよりエネルギ-準位Eの方に興味があるので,

詳細計算は取り合えず省略しますが,N0とN1の具体的な値は,

  

0≡{Γ(2γ+n'+1)}2/{Γ(2γ+1)n'1/2}

×[{a-1/(4Zα)}{1-(E/m)2}1/2]1/2,

1≡[-κ+Zα/{1-(E/m)2}1/2]1/2 です。

 

対応するエネルギ-準位を与えるエネルギー固有値Eとしては,

既にE=m(1+1/ε2)-1/2

=m[1+α12/{n'+(κ2-α12)1/2}2]-1/2 (n'=1,2,..)

を与えました。

 

この式で,κ2(j+1/2) 21=Zαとして量子数nを,

n'≡n-(j+1/2)で定義すればEは,

nj=m(1+Z2α2/[n-(j+1/2)+{(j+1/2)2-Z2α2}1/2]2)-1/2

と表現されます。

 

これを(Zα)のベキで展開してみると,

nj ~ m(1-Z2α2/(2n2)[1+{(Zα)2/n}{(j+1/2)-3/(4n)}

+O{(Zα)5}])となります。

 

※(注3-2):nj/m=[1+α12/{n'+(κ2-α12)1/2}2]-1/2

(ただし,n'=n-(j+1/2) or n=n'+|κ|)

α12で微分すると,

 

(nj/m)/d(α12)

=(-1/2)[1+α12/{n'+(κ2-α12)1/2}2]-3/2

×[{n'+(κ2-α12)1/2}-2

+α12{n'+(κ2-α12)1/2}-32-α12)-1/2]

ですから,

 

α12=0ではd(nj/m)/d(α12)=-1/(2n2)です。

さらにα12で微分すると,

 

2(nj/m)/d(α12)2

=(3/4)[1+α12/{n'+(κ2-α12)1/2}2]-5/2[{n'+(κ2-α12)1/2}-2

+α12{n'+(κ2-α12)1/2}-32-α12)-1/2]2

-(1/2)[1+α12/{n'+(κ2-α12)1/2}2]-3/2

×[2{n'+(κ2-α12)1/2}-12-α12)-1/2+(α12に比例する項)]

 

となります。

  

かなり複雑ですが,α12=0 では,

2(nj/m)/d(α12)2=(3/4)(1/n4)-(1/2)2/{n3(j+1/2)}

です。

 

故に,nj=m[1-(Zα)2/(2n2)

-(1/2)(Zα)4-3{1/(j+1/2)-3/(4n)}+O{(Zα)5}

と書けます。

 

(注3-2終わり)※

  

ところで2008年1/11の記事「水素様原子の波動関数」によれば,

非相対論的量子論での同じ水素様原子の束縛エネルギー準位は,

角運動量には依存せず主量子数nだけで決まります。

 

n=-mZ24/{(4πε0)2(2c22)}(n=0,1,2,,)

です。

 

ただし,ここでのnは主量子数です。

 

この非相対論での固有値Eを改めてEN.Rと書き,エネルギーの基準

を揃えるため静止質量エネルギーmc2を加え,さらに,自然単位

(c=c=1)にすると,

  

非相対論での水素様原子内電子のエネルギーは,

nN.R.=m{1-Z2α2/(2n2)} と書けます。

 

そこで,n≡n'+(j+1/2)で定義される量子数nを慣用的に

同じ記号nで記述される上記の非相対論の主量子数と同一視

すると,

 

相対論的に計算したエネルギー:

nj ~ m(1-Z2α2/(2n2)[1+{(Zα)2/n}{(j+1/2)-3/(4n)}

+O{(Zα)5}])の最低次の近似が,非相対論的エネルギーnN.R.

一致することがわかります。

 

ここで,n=1,2..∞;j+1/2≦n;l=0,1,2,..,n-1です。

 

"これら相対論と非相対論の差=微細構造(finestructure)":

ΔEは,理論的には,

ΔE=Enj-EnN.R ~ -mZ4α4/(2n3)[(j+1/2)-3/(4n)]

で与えられることがわかりました。

 

nj

=m(1+Z2α2/[n-(j+1/2)+{(j+1/2)2-Z2α2}1/2]2)-1/2

から,

 

特にn=1,j=1/2の基底状態のエネルギー固有値は, 

E=g=m{1+Z2α2/(1-Z2α2)}-1/2=m(1-Z2α2)1/2

です。

近似式は,Eg=m(1-Z2α2)1/2

~ m-(1/2)m2α2-(1/8)m4α4+..

です。

 

対応するspin-up(↑),spin-down(↑)の規格化された固有関数は,

Ψn=1j=1/2↑(r,θ,φ)=Aγ(4π)-1/2(2mZαr)γ-1

exp(-mZαr)×

[1,0,i(1-γ)cosθ/(Zα),i(1-γ)sinθexp(iφ)/(Zα)],

 

Ψn=1j=1/2↓(r,θ,φ)=Aγ(4π)-1/2(2mZαr)γ-1

exp(-mZαr)×

[0,1,i(1-γ)sinθexp(iφ)/(Zα),-i(1-γ)cosθ/(Zα)]

 

となります。

 

ただし,Aγ≡(2mZα)3/2{2-1(1+γ)/Γ(1+2γ)}1/2 です。

 

特に,n=1,j=1/2の基底状態では,

γ={κ2-(Zα)2}/2=(1-Z2α2)1/2 です。

 

これは,非相対論極限では,γ→ 1,

つまり,Eg=m(1-Z2α2)1/2=mγ → m

となります。

  

(※実際には,古典論で相対論の因子をγ=(1-β2)-1/2と書くと,

運動量,=mγの非相対論的極限は→mですが,エネルギー

はE=mγに対して,E→ mではなく,E→ m+(1/2)mv2です。

 

対応して,量子論でも,g=mγ→ m(1-Z2α2/2)です。

これはエネルギーについては,v=βまたはZαの2次まで効くからです。)

 

故に,固有関数の非相対論極限は,γ=1 を代入して,

 

水素原子のBohr半径:0≡1/(mα)を用いると,

係数因子が,Aγ→A1=(2mZα)3/2{2-1(1+γ)/Γ(1+2γ)}1/2

=(4m33α3)1/2=2Z-3/20-3/2となりますから,

  

,非相対論極限の波動関数は,

 

Ψn=1j=1/2↑(r,θ,φ)=(πZ303)-1/2

exp{-r/(Za0)}t[1,0,0,0],

 

Ψn=1j=1/2↓(r,θ,φ)=(πZ303)-1/2

exp(-r/(Za0)}t[0,1,0,0]

 

となって,普通に非相対論的Schroedinger方程式を解いて得られる

ものと一致します。

  

さて,相対論的ケースでは,γ=(1-Z2α2)1/2~1-(1/2)2α2-..

なので,波動関数ψはr→ 0 で,

(2mZαr)γ-1~(2mZαr)(Zα)2/2の弱い特異性を示します。

 

これは距離r ~ (2mZα)-1exp(-2/Z2α2)でのみ重要です。

 

何故なら,(2mZαr)(Zα)2/2が,exp(-mZαr)を打ち消す

くらい大きいのは,(2mZαr)(Zα)2/2がe程度,

つまり2mZαr~ exp(-2/Z2α2)のときだけ,だからです。

 

また,α ~ 1/137より,Z≧137ではZα≧1でγは純虚数となる

ので,この解はKleinのparadoxに見られるような振動性を示します。

 

こうしたケースには,もはや正エネルギーと負エネルギーの部分

に大小のギャップはなく,束縛状態とは違う解の物理的解釈が必要

となります。

 

さて,Zが小さい水素様原子のエネルギー準位:

nj=m(1+Z2α2/[n-(j+1/2)+{(j+1/2)2-Z2α2}1/2]2)-1/2

を分類するに当たり,状態を軌道角運動量lと角運動量jで記述する

非相対論的なラベル付けの慣例に従うことにします。

 

基底状態から最初の数例のエネルギーをリストアップすると,

  

1S1/2(n=1,l=0,j=1/2)でE=m(1-Z2α2)1/2,

2S1/2(n=2,l=0,j=1/2)でE=m{1+(1-Z2α2)1/2/2}1/2,

2P1/2(n=2,l=1,j=1/2)でE=m{1+(1-Z2α2)1/2/2}1/2,

2P3/2(n=2,l=1,j=3/2)でE=(m/2)(4-Z2α2)1/2

  

そこで,n=2,j=1/2でl=0 とl=1のパリティが逆の状態:

2S1/2と2P1/2は,同じエネルギー準位に縮退しています。

 

 しかし,1947年のLamb-Rutherfordの論文によると,この縮退は解け

 ていて,2S1/2のエネルギーが2P1/2より大きいと報告されています。

  

 これが超微細構造(hyper-finestructure)と呼ばれるもので,

 これは一般にLamb-Shiftと呼ばれています。

   

 Pendingの期間が長すぎて,しかも手直しではココログ・エディタ-

 も,うまく機能せずエラーばかりなので,続きは別の記事(4)にして,

 ここで一区切りとします。

 

PS:たかが呼び名(用語の定義)の問題だし,今までウン十年も意識して

 いませんでしたが,自分のノートの続きを読むと,どうも私に些かの

 誤解があったようです。

 

 すなわち,今までは"超微細構造"と"Lamb-Shift"は同じことを意味

 するものと思っていました。

  

 しかし,実際にはエネルギー準位の超微細構造とは核の磁気モーメ

 ントと場との相互作用に関わるものですが,

 

 他方,Lamb-Shiftは輻射補正記事のシリーズで既述したように電子

 自身の異常磁気モーメント等に関わるものです。

  

 本当のところは超微細構造とLamb-Shiftは別物のようです。

   

参考文献:J.D.Bjorken & S.D.Drell "Relativistic Quantum Mechanics"(McGraw-Hill),

 

岩波講座 現代物理学基礎[第2版]3「量子力学Ⅰ」(岩波書店) 

W.E.Lamb and R.C.Rutherford "Fine Structure of the Hydrogen Atom by a Microwave Method" Phys.Rev.Vol.73,pp241-243

|

« 将棋社団戦2日目 | トップページ | 松田が死んだ。。他人事とは思えない。 »

105. 相対性理論」カテゴリの記事

111. 量子論」カテゴリの記事

コメント

エネルギーはE=mγに対して,E→ mではなく,E→ m+(1/2)mv2です。

エネルギーはE=mγに対して,E→ mではなく,E→ m+(1/2)mv2+・・・
です。

投稿: 凡人 | 2013年3月24日 (日) 23時40分

(2mZαr)(Zα)2/2 ⇨ (2mZαr)-(1/2)(Zα)2
exp(-2/Z2α2) ⇨ exp(-2/{Z2α2})

投稿: hirota | 2013年3月24日 (日) 21時32分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 水素様原子の微細構造(3):

« 将棋社団戦2日目 | トップページ | 松田が死んだ。。他人事とは思えない。 »