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2011年10月 4日 (火)

水素様原子の微細構造(補遺3-1)

 さて,久しぶりですが「水素様原子の微細構造(補遺2)」の続きです。

 

Dirac方程式の束縛状態の解の議論に移り,特にCoulomb場における電子のエネルギー準位を考えます。

  

 回文のようですが,ここでやっと2011年7/17の記事水素様原子の微細構造(1)」に戻るわけです。

 

 この過去記事の最初の部分を再掲します。

  

(↓再掲記事)

  

(※):水素様原子の電子に対するDirac方程式:{γμ(i∂μ-eAμ)-m}ψ=0,eAμ=(V,0)は,古典的なSchrodingerの形ではi(∂ψ/∂)=Hψ,H=αp+βm+V(r)と書くことができます。

 

γ0=γ0=βでγk=βαkですがkβ2k)2=1なのでαk=βγkです。(※)

 

さらに,自由粒子の相対論的運動方程式の解の明確な形が後の議論に必要なので,それを紹介している2010年5/30の過去記事「散乱の伝播関数の理論(8)」から,Dirac方程式の解の導出部分をやや修正して引用します。

 

(↓再掲記事)

 

(※):自由粒子のDirac方程式:(μμ-m)Ψ(x)=0 の一般解Ψ(x)の導出過程を復習します。

 

2行2列のPauliのスピン行列をσ=(σ123)とします。また,同じく2×2行列ですが単位行列を2とします。

 

Pauli行列σの主要な性質として,[σij]≡σiσj-σjσi=εijkσk,{σij}≡σiσj+σjσi=2δijが成立します。

 

ただし,[A,B]≡AB-BA,{A,B}≡AB+BAです。

 

 4行4列の行列:βを2つの対角細胞が2,-2で非対角細胞が02の対角細胞型行列とします。

 

また,4行4列の行列ベクトル:α=(α123)は,対角細胞が02で,非対角細胞が共にσ=(σ123)である行列とします。

 

 容易にわかるように,{αij}=αiαj+αjαi=2δij,{αi,β}=αiβ+βαi=0,β2=1です。

 

そこで0≡β,γ≡βα,or (γ123)≡(βα1,βα2,βα3)なる表示を採用すると,これは確かにDirac行列{γμ}μ=0,1,2,3の条件:{γμν}=2gμνを満足します。

 

ここでは,Minkowski計量(metric)としてg00=1,g0i=0,gij=-δijを採用しています。

 

さて,Dirac方程式(μμ-m)Ψ(x)=0 の解である波動関数(Diracスピノル)Ψ(x)は4行1列の縦ベクトルです。

   

(※余談ですが,一般に世界がd次元のMinkowski時空なら,その時空でのDiracスピノルは2の(d/2)個の直積(=テンソル)で与えられるため,その次数は 2d/2 です。)

  

 このDirac方程式の変数分離解をΨ(x)=w()exp(-ipx)と書けば,w()も4元スピノルで(γμμ-m)w()=0 を満足します。

 

 粒子の4元運動量pμは自然単位でpμ=(E,)ですが,特にこのDirac粒子と共に運動していて,粒子が静止している(0)と見える"運動座標系=静止系"S0では,pμ=(E,)=p0μ≡(±m,0)です。

 

(↑p0μ=(±m,0)として,負の静止エネルギーのE=-mの解も捨てず,率直に独立解として採用するのがミソです。)

 

 このS0系での変数分離解は,p0μ=(±m,0)の±に応じて,Ψ0(x)=w(0)exp(-imt),またはΨ0(x)=w(0)exp(imt)です。

 

したがって,(μμ-m)Ψ(x)=0;Ψ(x)=w()exp(-ipx)による(γμμ-m)w()=0 は,p00=mならγ0w(0)=w(0),p00=-mならγ0w(0)=-w(0)です。

 

そこで,静止系での変数分離解Ψ0(x)は,γ0±(0)=±w±(0)(復号同順)を満たすγ0の2つの独立な固有ベクトルw±(0)を用いて,

 

Ψ0(x)=w(0)exp(-imt),およびΨ0(x)=w(0)exp(imt)と表わされます。

 

γ0の固有ベクトル:w±(0)のうち,固有値+1の固有ベクトルw(0)は,t(1,0,0,0),t(0,1,0,0)の1次結合で与えられます。

 

また,固有値が-1の固有ベクトルw(0)は,t(0,0,1,0),t(0,0,0,1)の1次結合です。

 

そこで,独立な4つを改めてw(1)(0)≡t(1,0,0,0),w(2)(0)≡t(0,1,0,0),w(3)(0)≡t(0,0,1,0),w(4)(0)≡t(0,0,1,0)と定義します。

 

すると静止系でのDirac方程式の4つの独立解は,Ψ0(r)(x)=w(r)(0)exp(-iεrmt)(r=1,2,3,4)で与えられます。

  

ただし,符号関数εrは,εr≡1(r=1,2),εr≡-1(r=3,4)で定義されています。

 

したがって,結局,粒子静止系での任意の自由粒子解:Ψ0)(x)はΨ0(r)(x)の1次結合で表わせます。

 

一方,Lorentz変換(4次元回転):x'μ=aμνν,または略記法でx'=axに伴なう波動関数のLorentz回転:Ψ'α(x')=Ψ'α(ax)=Sαβ(a)Ψβ(x),またはΨ'(x')=Ψ'(ax)=S(a)Ψ(x)を考えます。

 

すると,x'=axから逆変換-1対してx=a-1x'ですから,Ψ'(x')=S(a)Ψ(a-1x'),つまりΨ'(x)=S(a)Ψ(a-1x)です。

 

他方,Ψ(x)=S(a-1)Ψ'(ax),Ψ(x)=S-1(a)Ψ'(ax)より,S(a-1) =S-1(a)なる関係が成立します。

 

また,∂/∂xμ(∂x'ν/∂xμ)(∂/∂x'ν)ですから,x'ν=aνμμより∂μνμ∂'νです。

 

 そこで,Dirac方程式:(μμ-m)Ψ(x)=0 にx=a-1x',およびΨ(x)=S-1 (a)Ψ'(x')を代入して左からS(a)を掛けると,[iS(a)γμ-1 (a)νμ∂'ν-m]Ψ'(x')=0 を得ます。

 

それ故,νμS(a)γμ-1(a)=γν,つまりνμγμ=S-1(a)γνS(a)であれば,(ν∂'ν-m)Ψ(x')=0 が成立して方程式が相対論的に共変になります。

 

特に,Δωμνが微小でaμνμν+Δωμν;Δωνμ=-Δωμνなる微小Lorents変換x'ν=aνμμを考えます。

 

これに対する4×4変換行列S(a)をΔωμνの1次まで展開して1次の係数行列を-(i/4)σμνと書けば,S(a)=1-(i/4)σμνΔωμν+O(Δω2)を得ます。

 

(Δω2)が無視できる無限小変換では,S(a)=1-(i/4)σμνΔωμν,

-1(a)=1+(i/4)σμνΔωμνより,

 

μνγν=S-1(a)γμS(a)は,Δωμνγν=-(i/4)Δωαβμσαβ-σαβγμ)となります。

 

こで,Δωμνγν=gμαΔωανγν=gμαΔωαββνγν

=gμαΔωαβγβ=gμβΔωβαγαにより,

 

Δωμνγν=(1/2)(gμαΔωαβγβ+gμβΔωβαγα)

=(1/2)Δωαβ(gμαΔγβ-gμβγα)を得ます。

 

故に,(1/2)Δωαβ(gμαΔγβ-gμβγα)=-(i/4)Δωαβμσαβ-σαβγμ)ですから,2i(gμαΔγβ-gμβγα)=[γμαβ]です。

 

結局,無限小変換では,S(a)=1-(i/4)σμνΔωμνμν

=(i/2)[γμν]であることがわかります。

 

 さて,無限小ではなく一般の有限なLorentz変換を,上記の無限小変換を継続的に無限回反復した結果として評価するため,ΔωμνをΔωμν≡Δω(In)μνと表現します。

 

ただし,Δωは軸のまわりの無限小Lorentz回転の回転角を表わす無限小パラメータとし,Inは軸についての単位Lorentz回転を示す4×4行列とします。 

 

(注):3次元空間の回転:例えばz軸の回りのxy平面上の角度φの回転ならx'=xcosφ-ysinφ,y'=xsinφ+ycosφ,z'=zです。

 

これはφが無限小回転角Δφなら,x'=x-yΔφ,y'= xΔφ+y,z'=zと書けますから,行列形で,

 

t(x',y',z')=t(x,y,z)+Δφt(―y,x,0)

={1+Δφ(Iz)}t(x,y,z)となります。

  

これによって3×3行列Izを定義します。

 

ただし,t(x,y,z)は行ベクトル(x,y,z)の転置(transport)である縦ベクトルを意味します。

 

同様に,x軸,y軸のまわりの回転に対してIx,Iyが定義できます。

  

(注終わり)※

  

さて,Δωμν=Δω(In)μνとおいて,Δω≡ω/NとしΔω回転のN回の反復によって回転角がωとなるような変換を考えます。

  

刻みNが無限大の極限では,μν=limN→∞Πn=1N{1+(ω/N)In}μν

={exp(ωIn)}μν,またはxμ=aμνν={exp(ωIn)}μννが得られます。

 

そして,これに伴なうスピノルの変換は,S(a)αβ={1-(i/4)Δω(σμνnμν)}αβより,Δωが一般の有限角度ωなら,

 

S(a)αβ=exp{-(i/4)ω(σμνnμν)}αβ

= exp{-(1/8)ω[γμν]Inμν}αβです。

 

特に,x軸に沿って無限小速度Δv=Δβ=Δωで運動する座標系への無限小変換は,x'0=x0-Δβx1,x'1=x1-Δβx0です。

 

そこで,Lorentz変換:μνμν+Δωμν;Δωνμ=-ΔωμνではΔω01=Δω10=-Δβ以外の全てのΔωμνはゼロです。

 

この場合,有限変換では,x'μ={exp(ωIn)}μννであり,

x'0=x0coshω-x1sinhω,x'1=x1coshω-x0sinhω,

x'2=x2,x'3=x3です。

 

これに対応するLorentz変換は,相対速度がv=β=tanhωの変換です。

 

このとき,coshω=1/(1-β2)1/2,sinhω=β/(1-β2)1/2です。

 

よって,確かに無限小変換ではΔβ=Δωを満たしています。

 

さて,スピノル無限小変換はΔω01=-Δω10=Δω=Δβなので,

S(a)=1-(i/4)σμνΔωμνは,S(a)=1-(iΔω/2)σ01

でσ01=(i/2)[γ01]=-iγ0γ1=-iβ2α1=-iα1です。

 

それ故,S(a)=1-Δωα1/2です。

 

有限変換では,1)2=1ですから,S(a)=exp(-ωα1/2)=cosh(ω/2)-α1sinh(ω/2)です。

 

そして,系Sで粒子が速度v=βで運動することは,粒子に対して静止している系S0に対し系Sが相対速度-v=-βで運動することに同等です。

 

したがって,静止系S0でpμ(m,0)の正エネルギー粒子がS0に対して相対速度-v=-βで運動するS系では,

 

x'0=x0coshω-x1sinhω,x'1=x1coshω-x0sinhω,

x'2=x2,x'3=x3に対応して,

 

μ=(E,)なる表示で,E=m coshω,p1=-m sinhω,

2=p3=0 なので,β=-tanhω=p/Eです。

 

ただし,p=||=p1です。

  

故に,-tanhω=p/Eから,tanh(ω/2)=-p/(E+m),

cosh(ω/2)={(E+m)/(2m)}1/2を得ます。

 

一方,静止系S0で運動量がpμ(-m,0)の負エネルギーの粒子がS0に対し相対速度-βで運動するS系では,

 

μ=(-E,-)(E>0)なるエネルギー表示で,

tanh(ω/2)=p/(-E+m)=-p/(E―m),

cosh(ω/2)={(E-m)/(2m)}1/2です。

 

以上から,自由粒子波動関数の4つの独立な解は,

Ψ(r)(x)=w(r)()exp(-iεrpx),(r)()=S(a)w(r)(0)

={cosh(ω/2)-α1sinh(ω/2)}w(r)(0)であり,

(1)(0)≡t(1,0,0,0),w(2)(0)≡t(0,1,0,0),

(3)(0)≡t(0,0,1,0),w(4)(0)≡t(0,0,1,0)

 

であることがわかりました。(※)

 

S(a)=cosh(ω/2)-α1sinh(ω/2)であり,

  

ですから,S(a)=cosh(ω/2)[1-α1tanh(ω/2)]

です。

   

ところが静止系ではpμ(m,0)の粒子がμ=(E,)で運動する場合,cosh(ω/2)={(E+m)/(2m)}1/2,tanh(ω/2)=-p/(E+m)です。

 

そこで,-sinh(ω/2)={(E+m)/(2m)}1/2tanh(ω/2)

          =cosh(ω/2)p/(E+m)です。

 

したがって,このときのS(a)は,

と書けます。(つづく)

 

参考文献: J.D.Bjorken & S.D.Drell "Relativistic Quantum Mechanics"(McGrawHill)

  

PS:話は変わりますが,ザッケローニ監督は一味違いますね。

 

日本代表のレベルアップのため,代表と相俟って国内のJリーグのレベルアップまで考えているらしいです。

 

海外に移籍しなくても日本国内やアジアでもスペイン,イタリア,イギリス,ドイツetc.や南米クラスのゲームが出来れば確かにいいですね。

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