水素様原子の微細構造(補遺3-2)
「水素様原子の微細構造(補遺3)」は10/4にアップして以来,Pendingのまま少しずつ追加しながらほぼ1ヶ月が経ちます。
どうもサイズが大きくなり過ぎたのが原因らしく,書き加えるたびにフリーズするようになったので二つに分割しました。
以下↓は,「補遺3」を分割した前半の「補遺3-1」の続きです。
さて,ここまでは粒子の速度v=βがx軸(x1軸)に平行で,pμ=(E,p)=(E,p,0,0)の特別な場合でした。
これを,速度vの方向が任意で,pμ=(E,p)=(E,p1,p2,p3)の場合に一般化することを考えます。
時空座標:xμ=(x0,x)に対するLorentz変換x'μ=aμνxνは,
粒子の速度v=βがx1軸に平行な場合には,
x'0=γ(x0-βx1),x'1=γ(x1-βx0),
x'2=x2,x'3=x3 ですが,
粒子の速度v=βの方向が任意の場合には,
x'0=γ{x0-(βx)},x'=x-γβx0+(γ-1)(βx)β/β2
と書けます。
ただし,γ≡1/(1-β2)1/2です。
それ故,速度が無限小速度Δβで与えられる無限小Lorentz変換:
aμν=gμν+Δωμν;Δωνμ=-Δωμνでは,
Δβがx1軸に平行な場合には,
x'0=x0-Δβx1,x'1=x1-Δβx0,x'2=x2,x'3=x3
より,Δω01=Δω10=-Δβで,それ以外のΔωμνはゼロですが,
Δβの方向が任意の場合は,速度v=Δβの方向余弦を
v/v=Δβ/Δβ=(cosA,cosB,cosC)とすると,
x'0=x0-ΔβcosAx1-ΔβcosBx2-ΔβcosCx3,
x'1=x1-ΔβcosAx0,x'2=x2-ΔβcosBx0,
x'3=x3-ΔβcosCx0
です。
したがって,
そこで,変換行列:S=exp{-(i/4)ω(σμνIμν)}
= exp{-(1/8)ω[γμ,γν]Iμν}において,σμνIμνは,
σμνIμν=-σ01I01-σ02I02-σ03I03+σ10I10+σ20I20+σ30I30
=2(σ01cosA+σ02cosB+σ03cosC) と書けます。
ここで,σ0k=-σk0=iγ0γk=-iγ0γk=-iαkですから,
σμνIμν=-2i(αv)/|v|=-2i(αβ)/|β|であることがわかります。
ω=tanh(-β)=-tanhβ,つまり速度vとして-v=-βをとることにすると,
S=exp{-(i/4)ω(σμνIμν)}=exp{-(ω/2)(αβ)/|β|}
=Σn=0∞{-{(ω/2)(α1β1+α2β2+α3β3)/|β|}nです。
ところが,(α1β1+α2β2+α3β3)2=|α|2|β|2+{α1,α2}β1β2+{α2,α3}β2β3+{α3,α1}β3β1=|β|2です。
故に,{-{(α1β1+α2β2+α3β3)/|β|}2k=1,かつ
{-{(α1β1+α2β2+α3β3)/|β|}2k+1=-(αβ)/|β|です。
そこで,S=cosh(ω/2)-{(αβ)/|β|}sinh(ω/2)
=cosh(ω/2)[1-{(αβ)/|β|}tanh(ω/2)]
を得ます。
なので,特にβ±≡β1±iβ2とおけば,
です。
このとき,cosh(ω/2)={(E+m)/(2m)}1/2,-tanh(ω/2)=p/(E+m)であり,
-sinh(ω/2)={(E+m)/(2m)}1/2{p/(E+m)}です。
粒子の運動量は,p=(p1,p2,p3)=mvγ=mβγ;γ≡1/(1-β2)1/2ですが,
特に,p±≡p1±ip2とおけば,
一般のLorentz変換の行列:S=S(a)の陽な表現として,
を得ます。
したがって,これに伴う4つの独立な規格化された変数分離解:
Ψ(r)(x)=exp(-iεrpx)w(r)(p)
=exp(-iεrpx)Sw(r)(0) (r=1,2,3,4)
ただし,εr=+1(r=1,2),εr-=-1(r=3.4)
を陽に書けば,
Ψ(1)(x)={(E+m)/(2m)}1/2exp(-ipx)
t(1,0,p3/(E+m),p-/(E+m)),
Ψ(2)(x)={(E+m)/(2m)}1/2exp(-ipx)
t(0,1,p+/(E+m),-p3/(E+m)),
Ψ(3)(x)={(E+m)/(2m)}1/2exp(+ipx)
t(p3/(E+m),p-/(E+m),1,0),
Ψ(4)(x)={(E+m)/(2m)}1/2exp(+ipx)
t(p+/(E+m),-p3/(E+m),0,1)
となります。
これらの解:Ψ(r)(x)=exp(-iεrpx)w(r)(p)の因子w(r)(p)は,
(γμpμ-εrm)w(r)(p)=0 を満たします。
そこで,w(r)~(p)≡w(r)+(p)γ0とおけば,
w(r)~(p)(γμpμ-εrm)=0 が成立します。
さらに,これらは,性質:w(r)~(p)w(r')(p)=δrr'εr,
および,Σr=14εrwα(r)(p)wβ(r)~(p)=δαβを持ちます。
さて,r=1,2についてはεr=1で,これらは正エネルギーの方程式:
(γμpμ-m)w(r)(p)=0 の解です。
そして,今の表示では,
w(1)(p)={(E+m)/(2m)}1/2 t(1,0,p3/(E+m),p-/(E+m)),
w(2)(p)={(E+m)/(2m)}1/2 t(0,1,p+/(E+m),-p3/(E+m)),
です。
これらの第3,4成分は非相対論近似での小成分です。
E~mのとき,これらw(1),w(2)は,w=t[ψ,χ]なる2成分×2の表現に対して,外場のない自由場の非相対論的方程式:χ=(σp)ψ/(2m)
;ψ=t(1,0) or t(0,1)に帰着します。
※(注):以前書いたように,
電磁場のある場合のDirac方程式:{γμ(i∂μ-eAμ)-m}Ψ=0 or
i(∂Ψ/∂t)={α(p-eA)+βm-eΦ}Ψにおいて,
4成分スピノールΨをΨ≡t[ψ~,χ~]と書いて,
2つの2成分スピノール:ψ,χに分解すると,
i(∂/∂t)t[ψ~,χ~]=(σΠ)t[χ~,ψ~]+eΦt[ψ~,χ~]+mt[ψ~,χ~]となります。ただし,Π≡p-eAです。
それ故,正エネルギーの静止状態に近いE~mの場合には,
さらに,t[ψ~,χ~]≡exp(-imt)t[ψ,χ]と書けば,
i(∂/∂t)t[ψ,χ]=(σΠ)t[χ,ψ]+eΦt[ψ,χ]-2mt[0,χ]
となります。
このとき,小成分χは,i(∂χ/∂t)=(σΠ)ψ+eΦχ-2mχより,
2mχ=(σΠ)ψ+eΦχ-i(∂χ/∂t)を満たします。
ただし,eΦχ-i(∂χ/∂t)<<(σΠ)ψと考えられるので,
χ≡(σΠ)ψ/(2m)とおき,これを大成分の満たす方程式:
i(∂ψ/∂t)=(σΠ)χ+eΦψに代入します。
すると,i(∂ψ/∂t)={(σΠ)(σΠ)/(2m)+eΦ}ψとなります。
これは,結局,i(∂ψ/∂t)=[(p-eA)2-e(σB)/(2m)+eΦ]ψ
となって非相対論的な方程式に帰着するわけです。(注終わり※)
他方,r=3,4ではεr=^1で,これは負エネルギーの方程式:
(γμpμ+m)w(r)(p)=0 の解です。
そして今の表示では,
w(3)(p)={(E+m)/(2m)}1/2 t(p3/(E+m),p-/(E+m),1,0),
w(4)(p)={(E+m)/(2m)}1/2 t(p+/(E+m),-p3/(E+m),0,1)
です。
これは,r=1,2の正エネルギー解とは,大成分と小成分が交替しています。
さらに,性質:w(r)~(p)w(r')(p)=δrr'εr,および,Σr=14εrwα(r)(p)wβ(r)~(p)=δαβから以下の考察が可能です。
すなわち,w(r)~(p)w(r')(p)は1つのLorentzスカラーですが,運動量空間での確率密度:w(r)+(p)w(r)(p)はLorentz不変ではなく,運動量空間でのLorentz収縮を補充する4元ベクトルの第0成分として変換します。
つまり,w(r)+(εrp)w(r')(εr'p)=(E/m)δrr'です。
(m/E)=(1-β2)1/2ですが,これはLorentz収縮の因子ですから,
β=0 での微小体積をΔV0とすると,この領域の確率は,
w(r')(εr'p)(1-β2)1/2ΔV0=δrr'ΔV0となって,
密度でなく確率の方は確かに不変量(スカラー)です。
w(r')(εr'p)=(E/m)δrr'ですから,これは同じ空間運動量pを持ち,エネルギーだけが正負反対符号の平面波解が,r=1,2,かつr'=3,4,またはその逆なら直交すること:Ψ(r)+(x)Ψ(r')(x)=0 を意味します。
(※:何故なら,例えばΨ(1)(x)=w(1)(p)exp{-i(Et-px)},Ψ(3)(x)=w(3)(-p)exp{-i(-Et-px)}は直交します。
次に,Σr=14εrwα(r)(p)wβ(r)~(p)=δαβですが,これは静止系のw(r)(0)では明らかに真です。
w(r)(p)=Sw(r)(0)なので,Σr=14εrwα(r)(p)wβ(r)~(p)=εrSαγwγ(r)(0)wλ(r)~(0)S-1λβ=SαγδγλS-1λβ=δαβが従います。
この完全性関係に,w~が現われてw+が現われないのは,Lorentz変換S:がユニタリでなくS+=γ0S-1γ0であることの反映です。
(※具体的に計算すればわかりますが,空間回転:S=SRに対しては,SR+=SR-1(unitary)ですが,運動座標系のブースト変換:S=SLに対しては,SL+≠SL-1です。ただしS+=γ0S-1γ0は常に成立します。)
中途半端ですがここで終わります。まだまだ補遺4に続きます。
参考文献:J.D.Bjorken & S.D.Drell "Relativistic Quantum Mechanics" (McGrawHill)
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コメント
or
http://t-ikeda.akira.ne.jp/enter/science/phys/relativity/relativity18.pdf
によると、
密度でなく確率の方は確かに不変量(スカラー)です。
↓
密度でなく確率の方は確かにスカラー(不変量)です。
投稿: 凡人 | 2013年4月 4日 (木) 09時40分
密度でなく確率の方は確かに不変量(スカラー)です。
↓
密度でなく確率の方は確かにスカラー不変量です。
投稿: 凡人 | 2013年4月 4日 (木) 00時35分
=Σn=0∞{-{(ω/2)(α1β1+α2β2+α3β3)/|β|}n ⇨ =Σn=0∞{-(ω/2)(α1β1+α2β2+α3β3)/|β|}n
{-{(α1β1+α2β2+α3β3)/|β|}2k=1 ⇨ {-(α1β1+α2β2+α3β3)/|β|}2k=1
{-{(α1β1+α2β2+α3β3)/|β|}2k+1=-(αβ)/|β| ⇨ {-(α1β1+α2β2+α3β3)/|β|}2k+1=-(αβ)/|β|
εr=^1 ⇨ εr=-1
投稿: hirota | 2013年4月 3日 (水) 22時34分