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2011年11月11日 (金)

水素様原子の微細構造(補遺4)

 「水素様原子の微細構造(補遺3-1,3-2)」の続きです。

 今のところ,水素様原子とは直接関わりのない自由粒子のDirac方程式の解の話を続けています。

 これらの自由粒子解 をできるだけ詳細に観察して,Diracの空孔理論(hole theory)(反粒子の存在理論)へと至る過程での負エネルギー粒子解の解釈等のさらなる深化を目指します。

 さて,座標系のLorents変換に呼応してスピノール(spinor)を変換させる線形演算子は,S=exp{-(i/4)ω(σμνμν)}= exp{(1/8)ω[γμν]Iμν}で与えられることを見ました。

 変換が慣性系間にゼロでない相対速度があるブースト(boost)を伴わない単なる3次元空間の角度φの回転という特別な場合なら,

 S=SR=exp{-(i/4)φ(σijij)}=exp{(1/8)φ[γij]Iij}です。

(※ここでは,ギリシャ文字の添字μ,νについては0から3まで,ラテン文字i,jについては1から3の和を取る規約を採用しています。)

 それ故k=-γkが2行2列のPauli行列σ(2)kと-σ(2)kを反対角要素とする反対称行列で与えられる表示では,σij=i/2[γij]=σijはσ(2)kを対角成分とする4行4列細胞対角行列です。

 何故なら,Pauli行列の交換関係は,[σ(2)i(2)j]=[σ(2)i(2)j]=2iεijkσ(2)kだからです。

 そこで,改めてσ(2)kを対角成分とする4行4列細胞対角行列をσkと定義します。

 そうして,4行4列に拡張されたPauli行列のベクトルをσ=(σ123)とします。

 また,この表示ではChiral行列とも呼ばれる行列:γ50γ1γ2γ3≡γ5は,次の表現を有することになります。

   

 特に,z軸(x3軸)の周りの角度φの回転では,I12=-I21=-1以外はゼロなので,SR==exp{-(i/4)φ(σ1212+σ2121)=exp{(-i/2)φσ21}=exp{(i/2)φσ3}です。

 静止系でのスピン方向単位ベクトル(s1,s2,s3)に対して,の向きをz軸に取れば,スピノールに対する変換をS=SR=exp{(i/2)φ(σs)}と書くことができます。

(注):t(x,y,z)→’=t(x',y',z')がz軸の回りのxy平面上の角度φの回転なら,x'=xcosφ-ysinφ,y'=xsinφ+ycosφ,z'=zです。(座標系の方が回転します。)

 これはφが無限小回転角のΔφなら,x'=x-yΔφ,y'=xΔφ+y,z'=zと書けます。

 これを行列形で,t(x',y',z')=t(x,y,z)+Δφt(-y,x,0)={1+Δφ(Tz)}t(x,y,z)と書きます。

 これが3×3(直交)行列Tzの定義であるとします。

 すると,これは行列要素が12=-T21=-1以外はゼロの行列です。

 これに,それぞれ成分がゼロの行,および列を上,および左に付け加えて4行4列にすると,上記の4行4列の回転行列Iが得られます。

 (注終わり)※

そこで,静止してz方向に分極した電子に対する基本解:(r)(0);

(1)(0)=t(1,0,0,0),w(2)(0)=t(0,1,0,0),

(3)(0)=t(0,0,1,0),(4)(0)=t(0,0,1,0) に対して,

回転演算子:SR=exp{(i/2)φ(σs)}を適用することにより,任意方向分極した1粒子状態の解を作ることができます。

 

特に,スピノールwが単位ベクトル:方向に分極した粒子に対応するとき,wがそうした状態にあることを関係:(σs)w≡wで定義します。

 

つまり,これはwの分極(polarization)がであることの定義です。

 

この記述により,これまでとは異なる基本解のnotationを導入します。

 

まず,4元運動量pμとスピン(spin)sμを持つ自由Dirac方程式の正エネルギー解を示す運動量表示スピノールをu(p,s)で記述します。

 

こう定義すれば,これは(-m)u(p,s)=0を満足します。

ただし,≡γp=γμμです。

 

スピンベクトル:sμ=(s0,)は,sμ=aμνs^ν;s^μ=(0,^)によって静止系での分極ベクトル^から定義されます。

 

ただし,aμνは静止系に対するLorentz変換の係数です。

 

これに対応して4元運動量はpμ=aμν^ν;p^μ=(m,0)です。

 

そこで,sμμ=s^μs^μ=-^^=-1,かつpμμ=p^μs^μ=0 なる性質が常に成立します。

 

定義により,u(p,s)は

  

静止系で(σs^)u(p^,s^)=u(p^,s^)を満たします。

 

(注):静止系では,Dirac方程式は,i(∂ψ/∂t)=βmψです。

 

[βm,σs^]=ms^k0k]=0 より,[H,σs^]=0 ですから,

 

静止系では,σs^は保存量です。

 

よってHとの同時固有状態を取ることができます。

 

これがu(p^,s^)が存在すること,故にu(p,s)が常に存在して,これが定義できることの根拠です。(注終わり)※

 

同様に,4元運動量pμとスピン:-sμを持つ自由Dirac方程式の負エネルギー解を示す運動量表示のスピノールをv(p,s)で記述します。

 

つまり,v(p,s)は(+m)v(p,s)=0を満足し,静止系で分極:-^を持つとします。

 

すなわち,σs^v(p^,s^)=-v(p^,s^)とします。

 

このように定義すると,u(p,s)とv(p,s)はw(r)()と次式で関係付けられます。

 

(1)()=u(p,uz),w(2)()=u(p,-uz),

(3)()=v(p,-uz),w(4)()=v(p,uz) 

 

です。

 

ここで,uzμは静止系ではuz^μ(0,z^)=(0,0,0,1)なる形を取る4元ベクトルです。

 

かくして,任意のスピノールは運動量pμとエネルギーの符号,および静止系の分極s^μによって完全に指定されます。

 

さて,実際計算においては.エネルギーの符号と分極を持つスピノールの射影演算子(projection operator)が便利です。

 

非相対論の2成分の射影演算子:P±=(1±σ3)/2の4成分のアナロジーを考えます。

 

上記のP±は非相対論で任意の状態(2成分spinor)から,spin-up,またはspin-down部分を取り出して投影します。

 

同様に,Dirac方程式の解に対しては,与えられた運動量がの平面波解(4成分spinor)から,正,負エネルギー,および与えられた方向に対しspin-^up,spin-downに対応する4つの独立な解へと射影する4つの演算子を捜します。

 

こうした演算子を,実際計算に有用な異なるLorentz系の間で容易に変換できるような共変形で求めたいと考えます。

 

この4つの射影演算子:Pr()≡P(p,uzr)(r=1,2,3,4)は,

 

r()w(r')()=δr'(r)(),または,同じことですが,

r()Pr'()=δrr'r()を満たす演算子と定義されます。

 

(注):Pr()w(r')()=δrr'(r)()が成立すれば,運動量を持つ任意のスピノ―ル:Σrc(r)w(r)()に対して,Pr(){Σqc(q)w(q)()}=c(r)w(r)()が成立します。

 

そして,Pr()Pr'(){Σqc(q)w(q)()}

=Pr()c(r')w(r')()=δrr'c(r)w(r)()

=δrr'r(){Σqc(q)w(q)()}ですから,

 

r()Pr'()=δrr'r()を得ます。

 

逆に,Pr()Pr'()=δrr'r()なら,

式の等号は全て同値変形なので上記等式を逆にたどることで,

r()w(r')()=δrr'(r)()を得ます。

 

r()が射影演算子であるという意味は,上記のように,運動量

持つ任意のスピノ―ル:Σrc(r)w(r)()が,唯一のエネルギー

の符号とスピンを持つc(r)w(r)()に射影されることです。

 

(注終わり)※

 

与えられたに対して正,負エネルギーとspin-up,spin-downの状態に

投影するこうした演算子:Pr()は,

(-εrm)w(r)()=0,および,(r)~()(-εrm)=0 から

見出すことができます。

 

これらの関係式は既に共変形です。

 

そして,まずΛr()≡(εr+m)/(2m)と定義します。

 

特に,これらを選択的にΛ±(p)≡(±+m)/(2m)とも

記述します。

 

Λ(p)≡Λ1()=Λ2(),Λ(p)≡Λ3()=Λ4()です。

 

このときr()w(r)()=(εr+m)w(r)()/(2m)

={εr(-εrm)/(2m)+1}w(r)()=w(r)()です。

 

また,r=1,2,r'=3,4;またはr=3,4,r'=1,2なら,

Λr()w(r')()=(εr+m)w(r')()/(2m)

=εr(-εr'm)w(r')()/(2m)=0 です。

 

pp=p2=m2を用いると,

Λr(r'()=(εr+m)(εr'+m)/(4m2)

={(1+εrεr')m2+(εr+εr')m}/(4m2)

={(1+εrεr')/2}(εr+m)/(2m) です。

 

つまりr(r'()={(1+εrεr')/2}Λr()を得ます。

 

したがって()2=Λ(),Λ()2=Λ(),

かつΛ(()=0 です。

 

次に,スピンsに対する同様な演算子を表現するため,スピンが最も

容易に記述できる粒子の静止系において,共変形にすることが可能な

射影演算子を見つけます。

  

Spin-up粒子に対するこれの自然な候補は,(1+σ3)/2です。

 

非相対論でのスピン射影演算子:(1+σ(2)3)/2 が,3次元空間の

スカラーとして(1+σ(2)z^)/2と書き直されることによって,

陽なz軸(3-軸)への依存性から解放されるのと同様な方法で,

 

Diracスピン射影演算子を4元ベクトルuz^μを用いてLorents

スカラー形に書くことを試みます。

 

これは,(1+σ3)/2=(1+iγ1γ2)/2=(1+iγ0γ1γ2γ0)/2

=(1-iγ0γ1γ2γ3γ3γ0)/2=(1+γ5γ3z^3γ0)/2

=(1+γ5z0)/2 なる変形によって実行されます。

 

ただし,γ50γ1γ2γ3≡γ5を用いました。

 

演算子:(1+σ3)/2=(1+γ5z0)/2 から最後の行列因子γ0

削除すれば共変な形になります。

 

何故なら,静止系においてγ0をDirac基本スピノールに作用させると

±1の固有値を与えるからです。

 

それ故,σs^u(p^,s^)=u(p^,s^),および,

σs^v(p^,s^)=-v(p^,s^)なる規約に従って,

 

求める共変なDiracスピン射影演算子は,

∑(uz^)≡(1+γ5z^)/2,または,一般のsμμ=0を満たす

スピンベクトルsμについて(s)≡(1+γ5)/2 であると

考えます。

 

 すると,静止系では,(uz^)(1)(0)

 =(1+γ5z^)w(1)(0)/2=(1+σ3)w(1)(0)/2=w(1)(0)

 となります。

 

同様に,(-uz^)(2)(0)=(1-γ5z^)w(2)(0)/2

=(1-σ3)w(2)(0)/2=w(2)(0)です。

 

 他方,(-uz^)(3)(0)=(1-γ5z^)w(3)(0)/2

 =(1+σ3)w(3)(0)/2=w(3)(0),かつ

 (uz^)(4)(0)=(1+γ5z^)w(4)(0)/2

 =(1-σ3)w(4)(0)/2=w(4)(0)です。

 

 そこで,先の基本スピノールの別のnotation:u,vとの関連付け

 w(1)()=u(p,uz),w(2)()=u(p,-uz),

(3)()=v(p,-uz),w(4)()=v(p,uz)から,

 

 ∑(uz^)u(p^,uz^)=u(p^,uz^),

 (uz^)v(p^,uz^)=v(p^,uz^)

  

 を得ます。

  

 一方,(-uz^)u(p^,uz^)=(-uz^)v(p^,uz^)=0

 です。

  

 これは,(-uz^)(1)(0)=(1-σ3)w(1)(0)/2=0

 (-uz^)(4)(0)=(1-σ3)w(4)(0)/2=0 etc.から

 得られます。

 

 ところが,(-uz^)は共変形の演算子:(s)=(1+γ5)/2

 の静止系での特別な場合の表現です。

 

 よって,sμμ=0を満たす任意の分極ベクトルsμに対して,

 (s)u(p,s)=u(p,s),(s)v(p,s)=v(p,s),

 および, (-s)u(p,s)=(-s)v(p,s)=0 を得ます。

 

 以上から,4元スピノールに対する求める射影演算子が,

 

 P1()≡Λ()∑(s),P2()≡Λ()∑(-s),

 P3()≡=Λ()∑(-s),P4()=Λ()∑(s)

 

 で定義される4行4列の行列表示の演算子:r()(r=1,2,3,4)

 で与えられるという結論となります。

  

 何故なら, 

 [∑(s),Λ±()]=[(1+γ5)/2,(±+m)/(2m)]

={±1/(4m)}[γ5,]={±1/(4m)}sμν5γμν]

=-{±1/(4m)}sμνμν}=-{±1/(2m)}sμμ

 より,

  

 sμμ=0を満たす任意のsμ,pμに対して,

 [∑(s),Λ±()]=0 が満たされるため,

  

 これらの表現が射影演算子の条件:r()w(r')()

=δr'(r)() or r()Pr'()=δrr'r()を

確かに満足するからです。

  

 さて,共変的な定式化を遂行するため,運動量演算子:^の固有値が

での固有状態であるような負エネルギー解を導入してきました。

 

 同様に,(s)=(1+γ5)/2,および,

  

 ∑(uz^)(1)(0)=(1)(0),(-uz^)(2)(0)=(2)(0),

 ∑(-uz^)(3)(0)=(3)(0),(uz^)(4)(0)=(4)(0)

  によって,

 

 負エネルギーのspin-up,およびspin-down状態は,静止系において,

 それぞれ固有値-1,および+1のσ3の固有関数になります。

  

 負エネルギー解に対する固有関数の見かけ上の関連付けについての

 物理的に合理的な動機付けは空孔理論で明らかになります。

  

 今日はここで終わりますが,まだ続きます。

 

参考文献:J.D.Bjorken S.D.Drell「Relativistic Quantum Mechanics」(McGrawHill)

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