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2012年1月 5日 (木)

相対論的場の量子論(正準定式化)(1)

そろそろ,今年も科学記事の掲載を始めなければ,このブログでそうした科学テーマの記事も書くということを忘れられそうです。

 

まだ,昨年の「空孔理論(Hole Theory)」シリーズの続きとして真空偏極を電子-空孔,あるいは電子-陽電子対による効果として述べることなどが残っていますが,

 

昨年の初めも1月2日から「線型代数のエッセンス」という新しいテーマの記事から開始してるようなので,今年も新しい?テーマとして院生の頃,勉強した場の量子論のノートを参照した記事から始めることにします。

 

 そして,今日は当時の種本であったBjorken-DrellのFieldのテキストの導入部の紹介を書きます。

 

 実は,37年前(1974年4月の24歳)の学生当時は,この数式がほとんどなく日本語でない専門用語を含む序文は,実際の本文よりもさらに理解困難でしたので,スキップして直接本題に入ったのでした。

 

 したがって,今日書いた文章は40歳くらいで最初の会社を退職して比較的暇になってから勉強を再開したときに追加したものを,今読み返んで少し訂正し手を加えたものです。

  

 学生時代のノートには,時間がなくてところどころスキップしたところがありましたが,40歳からの数年で全てを埋めています。

 

 さて,以下,本題である序文(Introduction)です。

 

ここまでの相対論的量子力学の考察では,伝播関数アプローチを展開して相対論的粒子の相互作用を摂動法で計算する実際的なルール(Feyman-rule9を与える際,もっぱら直感や対応原理に頼ってきました。

 

 しかし,以下では,量子化された場を定式化することから,直感的に得られたルールを系統的に導出するという作業に移ります。

 

場の理論を求める動機は,まず第一には量子論への伝播関数アプローチにおける論理の穴を埋めること,

 

そして中間子と核子の強結合プロセスのような摂動論が適切ではないと思われる問題にも適用さるべき定式化を獲得したいということです。

 

 こうしたアプローチは,電磁場を見ることで最も良く描写されます。

  

電磁ポテンシャル:Aμ(x)は,Maxwellの波動方程式を満足し,無限自由度を持つ動力学系を記述すると考えられます。

 

すなわち,空間の各点でのAμ(x)=Aμ(,t)は系の独立な連続無限個の一般化座標を意味すると考えます。

  

※(注1):電磁場を力学系と考えたときの場:Aμ(x)=Aμ(,t)は,多体粒子系の解析力学において与えられる,一般化座標:{qn(t)}={q1(t),q2(t),..}の離散添字nを連続的な空間座標添字に置き換えた,{qx(t)}の座標成分qx(t)であると考えます。

  

電磁場の場合,一般化座標が4元ベクトル:{qxμ(t)}で与えられ,qxμ(t)=Aμ(,t)である考えるのです。(注終わり)※

  

古典論から量子論へ乗り移るためには,量子力学における一般原理に従って,一般化座標とその共役運動量を物理状態を示すHilbert空間のベクトルに作用する演算子(operator;作用素)へと昇華させる必要があります。

 

 さらに,それらの演算子には,量子条件が課される必要があります。

 

こうした手続きは正準量子化(canonical quantization)の手法であって,場を表わす関数の直線的な拡張です。

 

この手法は,非相対論的な力学の通常の量子化でもなされた手続きです。

 

こうして量子化が実行されると,Bohrの相補性原理の意味で電磁場の粒子解釈が出現します。

 

 もしもMaxwellの電磁場μ(x)の量子化がなされて,それから自然に光子(photon)という粒子の描像が出現するなら,自然界で存在を確認されている他の粒子もまた,同じ量子化の方法で力場と関連付けできるのでは?という疑問が生じます。

 

 こうした発想に基づいて,湯川(Yukawa)は核力という相互作用の存在の知見から,π-meson(パイ中間子)が存在すると推測しました。

 

逆に,この観点からは自然界で観測される各種の粒子は,それぞれある仮定された波動方程式を満たす場(力場)φ(x)に関連付けられるのが当然という発想になります。

 

ともあれ,場φの1粒子解釈は,こうした正準量子化プログラムを最後までやり通したときに得られます。

 

 そうした量子化手法のプログラムでは,まず場の座標φ(x)の共役運動量π(x)を定義する必要があります。

 

 これは系のLagrangianを与えることによって実行されます。

 

このLagrangianからは,φ(x)の共役運動量π(x)が導かれるだけでなく,変分原理からφ(x)の従うべき波動方程式を導き出すことができます。

 

そして,φ(x)とπ(x)に正準交換関係(canonical commutation-relation)を与えることで正準量子化法を適用すれば,光子のようなBose統計に従う場の量子の描像が得られます。

 

 同様な量子場形式で,電子のようにPauliの排他原理に従うFermi粒子をも記述できますが,ただ量子交換関係を反交換関係(anticommutation-relation)に置き換えることが必要となります。

 

 こうした場の量子化の手法で,同種粒子の記述の基盤となる統一した定式化を構成できます。

 

以下で見るLagrangianによるアプローチにおいて,さらに魅力的な特徴はそれが直接にさまざまな保存則を導き出すことです。(※Noetherの定理)

 

§1.1 Implication of a Description in Terms of Local Field

   (局所場の記述の意味するもの)

 

波動方程式を満たす古典場の量子化手続きの実行にトライする前に,そうしたプログラムの意味を論じることには幾莫かの価値があるはずです。

 

 まず,第一には,波動という意味で微分的な波動伝播を有する理論に誘導されるということがあります。

 

粒子に付随する波動場を示す関数:φ(x)=φ(,t)は連続パラメータと時刻tの連続関数ですから,ある1点における場の変動はその点に無限に近い隣の点での場の性質によって決定されます。

 

 しかし,大部分の古典的波動(例えば音波や弦,膜の振動etc.)の場では,そうした記述は媒質の粒子性が現われる特性長さよりも大きい距離でのみ正しく,原子や分子の集まりを連続体に理想化したものです。

 

より小さい距離では,こうした弾性(流体)理論は,より微視的な方法に修正される必要があります。

 

 ところが,電磁場の波(光波)はこれらと異なる注目すべき例外です。 

 

事実,特殊相対性理論が,光波については力学的解釈の必要性が除外されることを示すまでは,輻射場=光波"であろうと例外なくその力学的記述を見出そうとするために物理学者たちが多大な努力を重ねていました。

 

しかし,結局,"光波を伝播させる媒質=エーテル"の必要性が捨てられた後では,逆に電子の波動性が観測されたときには,これに伴なう新しい場ψ(x)の導入が示唆された際に同様なアイディアを受け入れるときの困難は,はるかに小さいものでした。

 

実際,電子波:ψ(x)=ψ(,t)の基になる"力学的波動を与える媒質=エーテル"が存在するという根拠はありません。

 

 そうして,大きい距離(原子の大きさ~10-8cm)で成功している波動の記述が,より小さい距離(原子核の大きさ~10-12cm)まで拡張できると仮定するのが現在の実験による知見に対してなされる推定です。

 

 しかし,相対論的な場の記述が任意に小さい時空間距離において正しいという仮定が,摂動論による計算での電子の自己エネルギーや"裸の電荷(bare chare)"の発散表現をもたらす原因であることが既にわかっています。

 

くりこみ理論(Renormalization theory)は,こうした発散の困難を一応回避することに成功しましたが,こうした発散の存在は摂動展開法の失敗を示すものと考えられます。

 

 しかしながら,発散は摂動論という方法論に留まらず,理論の微小距離の挙動における本質的で慢性的な特異性の反映であることは,既に広範な研究者に実感されていることです。。

 

 にも関わらす,何故,局所場,つまり波動伝播の微分法則によって記述される場の理論が現在も広範に用いられ,受容されているのか?を問うてみる必要があります。

 

それが受容されているのには幾つかの理由があります。

 

 その理由の重要な1つは,それの助けで計算値と観測値の重要で精確な一致が見られる領域が多々見られることです。

 

しかし,最も重要な理由はこの理論がとても単純明快なことです。

 

つまり,こうした場の微分方程式を避けるほどの納得できる他の理論形式が,今のところ存在しないことが受容されている大きな理由です。

 

 そうして,相対論的粒子の相互作用の理論は大きな数学的な優雅さを伴なっています。

 

 そして,生成,消滅のプロセスが存在するため,それは直ちに1つの多体問題の理論を与えます。

 

現時点では,多体問題としては,単純な近近解をどのようにして発展させるか?ということのみが知られています。

 

そこで,理論の任意の予測は,未だ幾分不完全で曖昧なものです。

 

 こうした状況に直面したとき,理論を構築する上で進むべき最も合理的なコースは,より制限された具体的問題の領域に入る前に,既知の一般原理を維持することを考えることです。

 

今の理論への入門を考えるケースでは,既知の原理として考えるのはHamiltonian:Hの存在を強く含む量子化の処方です。

 

 しかし,Hamiltonian:HはSchroedinger方程式に従って無限小時間のずれを生成させる作用なので,時間の微分的発展に関する記述へと誘導します。

 

ところが,系がLorentz不変なら,時間だけでなく空間においても同様な微分的発展が要求されます。

 

そこで,HamiltonianHによる記述は,相対論的非局所粒子の理論に対しては,必ずしもうまい具合に作用するとは限らないと考えられます。

 

 しかし,そうしたHのような存在がないと,非相対論的量子化法と連結したリンクは破綻してしまいます。

 

そして,もしも,単純に連続座標,tとLorentz不変な微視的記述の考え方を保持するなら,相互作用の影響は光速cよりも速い速度で時空を伝播することはないと予測されます。

 

この微視的因果律(microscopic causality)は,相対論的場の概念には強く課せられる条件です。

 

たとえ,微小距離の領域であっても微視的因果律が常に保持されるということにすれば,1つの粒子状物質が次の空間点へ影響するのは瞬時ではなく遅延する必要があります。

 

これを記述する最も自然な方法は,Hamiltonian:Hの代わりに付加場φでもって理論を構築することです。

 

このような理解に対応する明確な指標がなければ,系統的な量子論を創るという問題はより複雑になります。

 

(注2):時間発展を与えるSchroediger方程式:i(∂/∂t)|t>/∂t=H|t>は,時空座標":xμ=(,t)のうちで,時間パラメータtだけを特別扱いした表現です。

 

これを,相対論的共変な形にするには,i(∂/∂t)|t>/∂t=H|t>を

i(∂/∂xμ)|xμ>=Pμ|xμ>へと修正して,Hの代わりに4元運動量:

μを用いた形にすればいいだけです。

 

そして,Heisenberg表示に移ると,Schroedinger表示の状態|t>を時間依存でないベクトル:例えば,0>=exp(iHt)|t>とユニタリ変換し,それに伴なって演算子AをA(t)≡exp(iHt)Aexp(-iHt)と変換して,Aの期待値が<t|A|t>=<0|A(t)|0>と不変になるようにします。

 

(特に,H自身は普通はtに依らないので,H(t)=Hです。)

 

この結果,時間発展のSchroedingerの運動方程式は,状態の発展でなく演算子の発展を示すものとして,i(dA/dt)=[A(t).H]となります。

 

これは,Heisenbergの運動(波動)方程式です。

 

こうした表示をLorentz7不変な表示へ拡張するには,例えば|0,0>=exp(iHt-iPx)|,t>=exp(iPx)| xμ>で時空座標に依存しない|0,0>を状態ベクトルとし,

 

任意演算子はA(,t)=A(x)=exp(iPx)Aexp(-IPx)とします。

 

Heisenbergの方程式も i(∂A/∂xμ)=[A(x).Pμ] となります。

 

この演算子Aを電磁場の演算子:μ(x)と考えれば,

i(∂Aν/∂xμ)=[Aν(x).Pμ]ですね。

 

光子(電磁波)のようなベクトル粒子ではなく,他のスカラー粒子に付随する力場:φ(x)のケースなら,i(∂φ/∂xμ)=[φ(x),Pμ]です。

 

自由粒子の場合には,i(∂Aν/∂xμ)=[Aν(x).Pμ]が真空中のMaxwellの方程式になり,i(∂φ/∂xμ)=[φ(x),Pμ]が,Klein-Gordon方程式:(□+m2)φ=0 となるように,場のLagranjgianをφの関数で構成し,

 

演算子;Pμ=(H,)も,それから構成すればいいという指針が得られることになります。(注2終わり)※

 

 ところでこうした波動場が核子半径よりも小さいような微小距離でも粒子状であるという,具体的な実験的証拠はありません。

 

同様に,非常に高エネルギーの領域でも特殊相対論が正しいという積極的な証拠はありません。

  

さらに微視的因果律が正しい前提であるということの何か確実な証拠があるわけでもありません。

 

 しかしながら,これまでのところ,こうした理論にとって代わるような納得できる別の理論が存在しないという消極的理由から,

  

 これ以後では局所的,かつ因果的な場の理論の定式化に限定して考察することにします。

 

 このように修正された理論が,より大きい適切な距離での近似に対応するものとしての局所場の理論を持つ必要があることは疑いもない真実です。

 

 しかし,以下で展開する定式化は,かなり異なる微視的性質を持つ物理領域の大きい距離での極限(距離(>10-13cm)のみ記述をできるに過ぎない,という限界性があることを,ここで再び強調しておきます。

 

今日は導入部でしたが,次からは§1.2正準定式化に入ります。

 

参考文献:J.D.Bjorken S.D.Drell 「Relativistic Quantum Fields」(McGrawHill)

 

PS:今日は今年の初出勤です。

 

 2日の初詣以後は,食料の買物以外には外出せず,もちろん酒もタバコもやらず,コーヒー,お茶,甘酒にお餅を食べて一日中ベッドでゴロゴロ寝てばかりしていたので,

 

 もともと弱い身体がさらになまってると思いますが能天気なせいか鬼の霍乱もなく,とにかくもうすぐ一週間ぶりに会社の人々と再会できるのが何よりの楽しみです。

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コメント

(Feyman-rule9→(Feyman-rule)

投稿: 凡人 | 2013年3月21日 (木) 23時10分

i(∂/∂t)|t>/∂t=H|t> ⇨ i(∂/∂t)|t>=H|t>
A(x,t)=A(x)=exp(iPx)Aexp(-IPx) ⇨ A(x,t)=A(x)=exp(iPx)Aexp(-iPx)

投稿: hirota | 2013年3月21日 (木) 13時31分

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