相対論的場の量子論(正準定式化)(3)
場の量子論の正準定式化の紹介記事の続きです。
まだまだ準備段階です。
前回の最後に例として挙げた1次元調和振動子の量子論を,改めて最初から記述し直します。
単なる量子化の例と書きましたが,実はこれが波動場の理論の基礎となるので,今日は1次元調和振動子に集中して次回からは自由度を多次元に拡張する予定です。
Hamiltonianの中に運動エネルギー項だけでポテンシャル項がない自由粒子のHamiltonianでなく,何故,線型振動するバネに束縛された粒子のようなポテンシャルを持つ振動子を考えるのか?ということの理由は次の通りです。
後に進むに従ってわかるように,謂わゆる光波(電磁波)のような波動方程式に従う場の波動の数学的記述は多くの調和振動子の集まりのそれに等価だからです。
こうした,Heisenberg表示での扱い故,Heisenbergの行列力学(matrix mechanics)によろ1次元調和振動子の記述は,Landauの教科書を初めとして多くの標準的なテキストに載っている事柄ですが,
その離散的固有値を持つ可算個の固有状態を基底として張られるnormを持つ線形空間が完備であり,さらベクトル(元)のスカラー積(ユニタリ内積)が定義され付与されたHilbert空間であること,
そして,この状態の空間は線型空間なので,必然的に物理的状態としては意味不明なnorm(確率)がゼロの零元:0 を持つことetc.が,
後に生成・消滅演算子に対応するエネルギ-準位の昇降演算子による基底状態(場理論では真空)の定義に関わるなど,調和振動子の模型には場の量子論で重要な理論の基礎が含まれています。
私自身も,初学の頃には色々と解釈に悩んだ時期もあったので,躓きやすい項目には特に注を入れて明確な記述をしたいと思います。
さて,本題ですが,1次元調和振動子のHamiltonianH^のHeisenberg表示の座標p(t),q(t)による表現はH^=(1/2)(p^2+ω02q^2)です。
これに,正準量子条件:[p(t),q(t)]=-i が課せられます。
運動方程式は,dp^(t)/dt=p^d(t)=i[H^,p^]=-ω02q^(t),
dq^(t)/dt=q^d(t)=i[H^,q^]=p^(t) です。
それ故,d2q(t)/dt2=q^2d(t)=-ω02q^(t),
かつ,p^(t)=q^d(t)=dq^(t)/dt=q^d(t)です。
これらの式は,古典論の1次元調和振動子の方程式と同じ形です。
微分方程式を座標:p^(t),q^(t)について解くために,
a^(t) ≡(2ω0)-1/2(ω0q^+ip^),かつ
a^+(t)≡(2ω0)-1/2(ω0q^-ip^) とおきます。
すると,da^(t)/dt=a^d(t)=(2ω0)-1/2(ω0q^d+lp^d)
=(2ω0)-1/2(ω0p^-iω02q^)=-iω0(2ω0)-1/2(ω0q^+ip^)
=-iω0a^(t)です。
同様にして,da^+(t)/dt=a^+d(t)=iω0a^+(t)です。
それ故,a^(t)=a0^exp(-iω0t),a^+(t)=a0^+exp(iω0t)
と書けます。a0^,a0^+は時間tに依らない演算子です。
そして,交換関係は[a^(t),a^+(t)]
=(2ω0)-1[ω0q^+ip^,ω0q^-ip^]
=(2ω0)-1[(-iω0[q^,p^]+iω0[p^,q^]),
つまり,[a^(t),a^+(t)]]=1 です。
したがって,[a^(t),a^+(t)]=[a0^,a0^+]=1,
[a^(t),a^(t)]=[a0^,a0^]=0,
[a^+(t),a^+(t)]=[a0+,a0^+]=0
です。
そして,a^(t)=a0^exp(-iω0t),a^+(t)=a0^+exp(iω0t)より,
p^(t)=i(ω0/2)1/2{a^+(t)-a^(t)}
=(ω0/2)1/2{a0^+exp(iω0t)-a0^exp(-iω0t)},
q^(t)=(2ω0)-1/2{a^+(t)+a^(t)}
=(2ω0)-1/2{a0^+exp(iω0t)+a0^exp(-iω0t)}
です。
Hamiltonia:H^は,H^=(1/2)(p^2+ω02q^2)
=(1/4){(ω0q^-ip^)(ω0q^+ip^)+(ω0q^-ip^)(ω0q^+ip^)
と表現されます。
故に,H^=(ω0/2){a^+(t)a^(t)+a^(t)a^+(t)}
=(ω0/2)(a0^+a0^+a0^a0^+)です。
そして,{Ψn}をHamiltonian:H^の全ての固有状態の系として,
これが完全系(complete set)をなすなら,任意の状態ベクトルΨは,
Ψ=∑ncnΨnと展開されます。
(※注3-1):取り合えず,調和振動子の状態全体から成る状態空間の可分性(separable)を仮定し,H^の固有ベクトル系:{Ψn}の個数(濃度)が高々
可算無限個(Almost countable)とした表記をしています。
後の計算で実際に,そうであることがわかります。
そして,Ψ=∑ncnΨnというのは,実際には{Ψn}が状態空間において
稠密(dense)であり,n→ ∞とするとき,強収束(norm収束)の意味で
∑ncnΨnが,いくらでもΨに近づくよう近似することが可能
ということです。(注3-1終わり※)
こうして状態の展開可能性が述べられ,座標演算子の時間依存性も明らかとなったので,後は固有状態Ψnの性質を決める必要性を残すのみです。
まず,[H^,a0^]=(ω0/2)[a0^+a0^+a0^a0^+,a0^]
=(ω0/2)[a0^+a0^,a0^]+(ω0/2)[a0^a0^+,a0^]ですが,
[AB,C]=ABC-CAB=A[B,C]+[A,C]Bなる公式
を用いると,
[H^,a0^]=-(ω0/2)(a0^+a0^)=-ω0a0^を得ます。
同様にして[H^,a0^+]=a0^)=ω0a0^+です。
そこで,H^Ψn=ωnΨnなら,
H^a0^+Ψn=a0^+H^Ψn +[H^,a0^+]Ψn
=ωna0^+Ψn+ω0a0^+Ψn=(ωn+ω0)a0^+Ψn
となります。
故に,a0^+ΨnはH^のエネルギー固有値:(ωn+ω0)に属する(規格化されていない)固有状態です。
同様に,H^a0^Ψn=(ωn-ω0)a0^Ψnです。
a0^ΨnはH^の固有値:(ωn-ω0)に属する固有状態ですね。
そこで,固有値ωnを持つ状態Ψnを基準にして,これにa0^+を連続的に作用させます。
a0^+ΨnがH^の固有値:ωn+1=ωn+ω0に属する固有関数Ψn+1の定数倍になると考えられて,状態にa0^+を作用させる演算を繰り返すと,H^の固有状態の無限個の列を構成できます。
他方,a0^ΨnがH^の固有値:ωn-1=ωn-ω0に属する固有関数Ψn-1の定数倍になると考えられて,状態にa0^を作用させる演算を繰り返すと,やはりH^の固有状態の無限個の列を構成できるように見えます。
しかしながら,この後者の演算は無限に続くわけではありません。
何故なら,H^=(1/2)(p^2+ω02q^2)は,Hermite演算子の平方和の形をしていて,負の固有値を持つことができないからです。
(※つまり,H^は正値(非負値)の演算子です。※)
※(注3-2):A^を任意のHermite演算子とすると,A^2もHermite演算子です。
そこで,φλをA^2の任意の固有状態としてその固有値をλとすると,
A^2φλ=λφλであって,λは実数値です。
一方,A^の固有状態の系:{Ψn}があってA^Ψn=anΨnとすると,
anは実数でA^2Ψn=anA^Ψn=an2Ψnですから,
Ψnは固有値an2に属するA^2の固有状態でもあります。
そして,{Ψn}が完全系を作るという前提から,φλ=∑ncnΨnと
展開可能です。
故に,λ<φλ|φλ>=<φλ|A^2|φλ|>
=<∑mcmΨm|A^2|∑ncnΨn>=∑m,ncm*cnan2<Ψm|Ψn>
ですが,am≠anなら<Ψn|Ψm>=0 です。
例えば,Schmidtの直交化法等により,縮退も含めてm≠nなら
<Ψn|Ψm>=0 となるように直交化することが可能です。
こうすると,λ<φλ|φλ>=∑n|cn|2an2<Ψn|Ψm>≧0 となりますが,
λ<φλ|φλ>≧0 で,かつ<φλ|φλ>>0 により,
λ≧0 が得られます。
"Hermite演算子の平方の固有値は必ず非負である"と結論されます。
(注2-2終わり※)
しかし,H^の固有状態の列:Ψn,a0^Ψn,(a0^)2Ψn,..,に対する
H^の固有値列:ωn-ω0,ωn-2ω0,...,が非負値を保つためには,
固有値に下限が存在する必要があります。
そのH^の最低固有値に属する固有状態を基底状態(groundstate)
と呼び,それをΨ0とします。
これは,a0^Ψ0=0 を満たす状態ベクトルであるということで一意的に定義されます。
このような状態:Ψ0が存在することは,1次元調和振動子にとって
必要条件なのです。
何故なら,Ψ0 はH^の固有状態ですから,もしもa0^Ψ0 がゼロでないなら,これもまたnullではない調和振動が存在すべき1つの固有状態です。
ところが,このゼロでないa0^Ψ0は,Ψ0よりさらに小さいH^の固有値に属しますから,Ψ0 がH^の最低固有値に属する固有状態であるということに矛盾するからです。
Ψ0 がa0^Ψ0=0 を満たすH^の基底状態であれば,
H^Ψ0=(ω0/2)(a0^+a0^+a0^a0^+)Ψ0
=(ω0/2)a0^a0^+Ψ0=(ω0/2)[a0^,a0^+]Ψ0=(ω0/2)Ψ0
です。
Ψ0を基準にしたH^のn番目の固有状態を,改めてΨnと書き,
H^の固有状態を定義し直します。
すなわち,Ψn≡(a0^+)nΨ0 と定義します。
この定義では,Ψn=a0^+Ψn-1ですが,Ψn-1=a0^Ψnではなく
cをある定数として,a0^Ψn=cΨn-1 です。
そして,
H^Ψn=H^a0^+Ψn-1=(ωn-1+ω0)a0^+Ψn-1,
H^Ψn-1=H^a0^+Ψn-2=(ωn-2+ω0)a0^+Ψn-2,
....,
H^Ψ1=(ω0/2+ω0)a0^+Ψ0
H^Ψ0=(ω0/2)Ψ0
ですから,
これをまとめると,H^Ψn=ωnΨn:ωn=(n+1/2)ω0
(n=0,1,2,..)です。
(※ここでは,Planck定数を1とする自然単位を用いています)
もしも,Ψn=(a0^+)nΨ0(n=0,1,2,..)と係数も含めて全く別の,
H^の固有状態が存在すると仮定して,それをΨとし,それが
H^Ψ=ω'Ψを満たすと仮定します。
このとき,H^(a0^)mΨ=(ω'-mω0)(a0^)mΨですから,
mが十分大きいなら,0≦(ω'-mω0)≦ω0 となるはずです。
つまり,mω0 がω'以下で,(m+1)ω0 はω'以上であるような
自然数:mが存在します。
このmに対する(a0^)mΨの固有値(ω'-mω0)が(ω0/2)より小なら,
Ψ0がH^の最低エネルギーの固有状態であるという仮定に反するし,
この固有値が(ω0/2)とω0の間にあるなら(a0^)m+1Ψ=0 となる必要が
あるのでa0^(a0^)mΨ=0 です。
そこで,実際にH^を作用させるとH^(a0^)mΨ=(ω0/2)(a0^)mΨです。
よって,Ψ0と(a0^)mΨは1次元調和振動子の状態を記述する唯一の物理量であるH^の同一の固有状態を示しているので,これらは複素係数を除いて一致します。
以上から,(複素係数を除いて)Ψn=(a0^+)nΨ0 (n=0,1,2,..)よりも
他にエネルギ-H^の固有状態は存在し得ないことがわかりました。
Ψ0が縮退していないことからΨn=(a0^+)nΨ0 もまた非縮退
(non-degenerate)です。
そこで,<Ψn|H^{Ψm>=ωm<Ψn|Ψm>=<H^Ψn|Ψm>
=ωn<Ψn|Ψm>ですから,(ωm―ωn)<Ψn|Ψm>=0 です。
それ]故,m≠nならωm≠ωnなので<Ψn|Ψm>=0 です。
一方,<Ψn+1|Ψn+1>=<a0^+Ψn|a0^+Ψn>
=<Ψn{a0^a0^+|Ψn>=<Ψn{H^/ω0+1/2|Ψn>
={(n+1/2)+1/2}<Ψn|Ψn>=(n+1)<Ψn|Ψn>です。
n
※(注3-3):H^=(ω0/2)(a0^+a0^+a0^a0^+)
=(ω0/2)(2a0^a0^++[a0^+,a0^])
=ω0(a0^a0^+-1/2)です。
故に,a0^a0^+=H^/ω0+1/2です。(注3終わり)※
したがって,<Ψn|Ψn>=n<Ψn-1|Ψn-1>
=n(n-1)<Ψn-2|Ψn-2>=..=n! <Ψ0|Ψ0>ですから,
結局,<Ψn|Ψm>=δnmn!<Ψ0|Ψ0>を得ます。
δnmはKroneckerのデルタ記号です。
これから,以下では,<Ψ0|Ψ0>=1,Ψn=(1/n!)1/2(a0^+)nΨ0と
固有状態ベクトルを再規格化して定義し直して,
<Ψn|Ψm>=δnmとなるようにします。
この定義では,もはやΨn+1=a0^+Ψnではなく,
Ψn+1=(n+1)-1/2a0^+Ψnであることに注意する必要があります。
すると,n+1=<Ψn|H^/ω0+1/2|Ψn>
=<Ψn|a0^a0^+|Ψn>=∑m<Ψn|a0^|Ψm><Ψm|a0^+|Ψn>
=<Ψn|a0^|Ψn+1><Ψn+1|a0^+|Ψn>より
n+1=|<Ψn+1|a0^+|Ψn>|2です。
先の<Ψ0|Ψ0>=1,Ψn=(1/n!)1/2(a0^+)nΨ0の定義では,
<Ψn+1|a0^+|Ψm>=(n+1)1/2=<Ψn|a0^|Ψn+1>で行列要素
は実数です。
調和振動子の昇降演算子:a0^+,a0^の行列要素としてゼロでないのは
<Ψn+1|a0^+|Ψn>,<Ψn|a0^|Ψn+1>以外にはありません。
一般に,全ての行列要素は,<Ψm|a0^+|Ψn>=(n+1)1/2δm,n+1,
<Ψm|a0^|Ψn>=n1/2δm,n-1と書けます。
任意時刻tにおけるHeisenberg演算子の行列要素としては,例えば
<Ψn+1|a^+(t)|Ψn>=exp(iω0t)<Ψn+1|a0^+|Ψn>
=<exp(-iωn+1t)<Ψn+1|a0^+|Ψn exp(-iω0t)>
=<Ψn+1(t)a0^+|Ψn(t)|>となります。
自由度が1の論議は,自由度Nの方程式にそのまま拡張できます。
n個のHermite演算子:qi^(t)(i=12..,N)(Heisenberg表示)と,
そのn個の共役運動量演算子:pi^(t)(i=1,2..,N)による記述
ですが,それは次回にして,
今日はここで終わります。
※(参考文献:J.D.Bjorken S.D.Drell 「Relativistic Quantum Fields」(McGrawHill)
PS:昨日(1/19?),別の区では雪が降ったらしい日に,どうも今度は視力がいい方の左眼から眼底出血したらしく,モヤがかかって虫が飛んだりしています。(白が少し赤いし。。。)
右眼は,視力 0.5くらいで,去年の手術で,既に硝子体がレンズに変わっていて,めったに出血しないようですが,片目が出血すると両眼を開けてるとかえって見にくいですね。
ここ十年以上もインシュリンは拒否してきましたが,歳も食って私自身のインシュリンに対する偏見?も薄れてきたので完全失明しないうちにインスリン注射を始めようかなあ。
私,低血糖を起こしやすいので,数日以上入院して量を調整する必要あるでしょうが,帝京病院ではずっと拒否してたので順天病院にいくかな。。
PS2:しかし,ここのココログの最近のHTMLへの翻訳では,ワードで普通の大きさの上下の添字を単にコピーすると添字だけが必ず3/4に縮小されて見えにくいので1つ1つ直すしていますがめも悪いので閉口してます。
文字全部の大きさなら簡単ですが添字だけなのでね。。
元々オンラインで編集修正してブログHPに反映させると,文字化け起きるのは日常茶飯事ですが「。。
数式じゃなく文章なら正常なので,今更ながら,ブログで数式を書くというのが無理なんでしょうね。
(このPSも行間隔開けて書いても反映すると詰まるとか色々。。)
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コメント
文字化け起きるのは日常茶飯事ですが「。。→文字化け起きるのは日常茶飯事ですが。。
投稿: 凡人 | 2013年3月20日 (水) 00時38分
=<Ψn{a0^a0^+|Ψn>=<Ψn{H^/ω0+1/2|Ψn> ⇨ =<Ψn{a0^a0^+}|Ψn>=<Ψn{H^/ω0+1/2}|Ψn>
=<Ψn+1(t)a0^+|Ψn(t)|> ⇨ =<Ψn+1(t)a0^+|Ψn(t)>
投稿: hirota | 2013年3月19日 (火) 21時30分