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2012年6月17日 (日)

強い相互作用(湯川相互作用)(1)

 場の理論の話題から少し離れて,Bjorken-Drellの2つのテキスト

 のうち,Fields(場の理論)ではなく,Mechanics(量子力学)の方から,

 

 最終章(Chapter.10)の非電磁相互作用

 (Nonelectromagnetic Interaction)の内容を紹介します。

 

§10.1.序文(Introduction)

 

 電磁相互作用に対して展開したPropagator理論で武装した結果を,

 spinがゼロの粒子とspinが1/2の粒子の電磁相互作用以外の既知の

 相互作用に応用します。

  

 こうした相互作用は3つの異なるタイプに分類されます。

 

 第1のタイプは重力相互作用(gravitation)です。

  

 これは,慣習的に実験室のエネルギー領域で無次元化した結合定数

 =M12G/hcc~10-40の値で特徴付けられますが,

  

 これは電磁相互作用を含む他の3つの相互作用と比べ,極端に小さい

 ので,ここでは無視します。

 

 ただし,c≡h/(2π):hはPlanck定数,cは光速です。

 

また,第2のタイプは,弱い相互作用です。

 

これは原子核のβ崩壊やπ,K,μの崩壊のような粒子間の変質へと

誘導するものです。

 

この相互作用は,低エネルギ-,または中間のエネルギー領域:

≦1BeV=109eVで無次元化した結合定数で,10-5から10-6の値で

特徴付けられます。

 

最後に,大きな無次元結合定数≧1で特徴付けられる強い相互

作用があります。

 

これは,原子核を結合させる力:核力相互作用に他ならず,

反応によってπ,Κ,Λ,Σ,Ξを生み出すメカニズムに寄与

しています。

 

弱い相互作用,強い相互作用への現時点での理解は,重力場の

「等価原理と一般共変性」や,

 

置換:pμ^→pμ^-eAμ^により,電磁相互作用が導入できること

教える「極小相互作用(minimal interaction)の原理」などのよ

に,その効果が一般原理から導かれるレベルまでには,まだ進化して

いません。

 

そうした高遠な出発点が無いので,相互作用の可能な形式を限定する

ためには,対称性原理や明白なLorentz不変性と共に,直接,利用できる

実験事実に訴えることが必要です。

 

(※訳注:↑これは,本テキストが出版された1960年~1970年当時の

 話です。)

 

 そして,"Vertex(バーテックス=相互作用頂点)とは何か?"

 ということが,弱い相互作用,強い相互作用を論じる際の当面

 の中心課題です。

 

 今から,取り合えず,それの追求に向かいます。

 

ここでは,伝播関数(Propagator)によるアプローチの枠組みの中で

論議を進め,結合定数の最低次の計算に話を限定します。

 

詳細な実験と比較対照する観点からは,これは厳しい限定です。

 

まず,強い相互作用にとっては,摂動展開のパラメータが1を越えて

いるのは,摂動級数での近似という意味で厳しい状況です。

 

また,現在の原始的な形の弱い相互作用にとっては,高次diagram

では,テキスト第8章の「電磁相互作用の高次補正」で示された

ような,"発散をくりこみ定数の中に分離すること",が許されない

ような,望ましくない方法で閉ループの運動量積分がなされるため,

計算結果が切断に依存してしまうという状況です。

   

※本記事では,以下,初期の強い相互作用の理論を紹介します。

  

§10.2 Strong Interactions(強い相互作用)

 

1935年,Yukawa(湯川秀樹)は,粒子間の短距離核力と電磁力との間に

類似性があると推量しました。

 

電磁相互作用のCoulomb力が仮想量子(仮想光子:virtual photons)

の交換によるものであるなら,核力は恐らく核子の間の(必然的に

整数spinの)仮想粒子の交換に依存するであろうと推定したのです。

 

spinがゼロで質量がμの粒子に対しては,Klein-Gordon伝播関数

使用すれば,図10.1のdiagramに対応する1次の散乱振幅は,

~g02/(q2-μ2+iε) と書けます。

 

この式を書くに当たっては,下図の点線で示される粒子が2つの核子

(Nucleon)によって吸収されたり放出されたりするVertex(頂点)では,

全ての効果による因子を伏せて,ひとまとめにしています。

 太線では,始点(始状態),および,終点(終状態)の4元運動量を,

 それぞれ,p1,p2,および,p1',p2'と記述しました。

  

 不変運動量遷移(momentum transfer)q2=(p1-p1')2

 =(p2'-p2)2は,空間的(spacelike:q2<0)です。

 

(注2-1):q2=(p1-p1')2=p12+p1'2-2p11'

 =2MN2-2{(12+MN2)(1'2+MN2)}01/2-2|1||1'|cosθ

 ≦2[MN2+|1||1'|-{(12+MN2)(1'2+MN2)}1/2]です。

 

ところが,(MN2+|1||1'|)2-(12+MN2)(1'2+MN2)

=-MN2(|1|-|1'|)2≦0 です。

 

したがって,

2=2MN2-2{(12+MN2)(1'2+MN2)}1/2-2|1||1'|cosθ≦0

 となります。

 

 この式において,等号は(|1|=|1'|,かつcosθ=1のとき:

 11'のときにのみ成立します。

 

しかし,考察対象は主に一般の11',cosθ≠1⇔θ≠0 のケース

なのでq2<0 です。

 

ただし,記号:MNは,近似的に等しい陽子質量と中性子質量を核子質量として表現したものです。(注2-1終わり)※

 

 非相対論的極限では,核子の反跳の運動エネルギーは静止エネルギーに比して無視できます。

 

 つまり,q0<<MNより,q2 ~ -||2です。

 

(※何故なら,q0=MN{(1+12/MN2)}1/2-(1+1'2/MN2))1/2

 ~ {2/(2MN)}(11')2<<MNです。※)

 

したがって,振幅:~g02/(q2-μ2+iε)は,

~ -g02/(2+μ2)と近似できます。

 

これをFourier変換して座標表示にすると,Yukawaポテンシャル:

(r)~g02exp(-μr)/rによる散乱のBorn近似となります。

 

Born近似は,中心力ポテンシャルV(r)=V(|21|)を持ち,

1静止している標的粒子1に,エネルギーE2,運動量2を持った

粒子2が衝突して弾性散乱した場合の散乱振幅の場合,

 

散乱後粒子2のエネルギーをE2',運動量2'とすると,

  

(2πi)δ(E2'-E2)<2'|V|2

{-i(2π)-2∫d3V(r)exp(-iqr)}δ(E2'-E2)

 

で与えられます。

 

ただし,21,r=||,2'-2です。

 

(注2-2):まず,座標表示の規格化された波動関数は,

 <|>=(2π)-3/2exp(ipx)です。

 

 (注意)※同じ座標の位置ベクトルを場合によってと表記したり,

 と表記したりで,,紛らわしい表現となってますが,これらは同一の

 ものに付けたラベルの違いに過ぎないので,混乱しないでください。 

   

そして,完全性条件:1=∫d3|><|

=|>∫d3| により,

 

2'|V|2

=<2'|>∫d3|V|∫d3|2 です。

 

通常,ポテンシャルVは,<|V|>=V(3()と

座標で対角化された表示で与えられます。

  

さらに,Vが中心力:V()=V(r):r≡||という形なら,

 

2'|V|2(2π)-3∫d3exp(-i2')V()exp(i2)

 =(2π)-3∫d3V(r)exp(-iqx)となります。

 

他方,∫d3{g02/(2+μ2)} exp(iqx)

=g020||{||2/(||2+μ2)}

×∫0dφ∫-11(cosθ)exp(i||rcosθ)

 

(-2πig02/r)∫0d||{||/(||2+μ2)

×{exp(i||r)- exp(-i||r)}

(-2πig02/r)∫-∞dq{q/(q2+μ2)}exp(iqr)

 

(4π202/r)llim q→iμ{q/(q+iμ)}exp(iqr)}

202exp(-μr)/r

 

となります。

 

そこで,これのFourier逆変換により,

(2π)-3∫{2π202exp(-μr)/r}exp(-iqx)d3

=g02/(2+μ2) となるはずです。

 

実際,(2π)-3-∞3{2π202exp(-μr)/r}exp(-iqx)

(2π)-3-∞3exp{i(q'-q)}

 ∫-∞3'{g02/('2+μ2)}

 

=∫-∞3'{g02/('2+μ2)}δ('-)

=g02/(2+μ2) を得ます。

そこで, V(r)≡-2π202exp(-μr)/rとすれば,

2'|V|2>=(2π)-3∫d3V(r)exp(-iqx)

=-02/(2+μ2) です。

 

したがって,-(2πi)δ(E2'-E2)<2'|V|2

{-i(2π)-2∫V(r)exp(-iqx)d3}δ(E2'-E2)

(2πi)δ(E2'-E2){g02/(2+μ2)}

となります。

 

それ故,式の前の定数係数はともかく,ポテンシャル散乱で近似したとき,ポテンシャルVがYukawa型 ~ exp(-μr)/rであることは間違いないです。(注2-2終わり)※

 

 実験によれば核力の到達範囲(range)は10-13cm程度,

 つまり核力がCoulomb力で相殺されるオーダーになる

 中心の核からの距離は10-13cm程度なので,

 

 r=10-13cm でμr~1となって,

 exp(-μr)/r~ (1/e)(1/r)となるため,

 μ~1013cm-1と評価されます。

 

これをエネルギー(質量)の単位に直すと,

μ~hcc×1013cm-1

=(6.6×10-27erg・sec)×(3.0×1010cm)×1013cm-1

~ 2.0×10-3 ergですが,

1MeV~1.6×10-5 erg なので,μ~120MeV を得ます。

 

この粒子は,π-meson(パイ中間子)と同定されます。

 

実測されたπの質量は約140MeVであり,ほぼ等しい質量と等しい

性質を持つ3種類のパイ中間子:π+0があります。

 

π-mesonのspinはゼロ,パリティ(偶奇性)は奇 or (-)である

ことが実験からわかっています。

 

すなわち+d→p+pと逆反応p+p→π+dの反応が

進む比率と統計の関係から,spinゼロが得られます。

 

そして,また,内部偶奇性(Intrincic Parity)は,d(deuteron)

のK殻によるπの捕獲:π+d→π+πの考察から得られます。

(※dはdeuteron(重陽子)で,原子核がpでなくp+nの水素同位体

 の重水素の原子核です。)

 

最後の,π中間子がspinがゼロでパリティ(内部偶奇性)が(-)の

擬スカラー粒子である理由の詳細については,長くなるので次回

にまわし,今日はここで終わりにします。

 

(参考文献:J.D.Bjorken S.D.Drell "Relativistic Quantum Mechanics" (McGrawHill)

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