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2012年6月17日 (日)

強い相互作用(湯川相互作用)(2)(π中間子のスピンとパリティ)

強い相互作用(1)からの続きです。

 

π-mesonのspinとパリティ(内部偶奇性)の議論のみを分離しました。

 

まず,deuteron(重陽子=同位体水素:重水の原子核)dのspin角運動量Jが1であることを示します。

 

Deuteronは2つの核子(nucleon=陽子,or中性子)から成る束縛状態(共鳴状態:resonance)を形成している複合粒子です。

 

 核子はFermionなので,2核子の束縛状態の波動関数は核子の交換に対して反対称です。

 

 これは,Pauliの排他原理によって,2つの同種Fermionが同じ状態を占めることはできないからです。

 

 高エネルギー現象ではない束縛状態の考察は,非相対論的近似で十分で,波動関数は軌道部分とspin部分の直積に分解できます。

 

 さらに.核力はIsotopic-spin(荷電スピン or アイソスピン)対称性を持つので,totalの波動関数はIsospin部分との直積にもなっています。

 

 よって,2体波動関数Ψ(1,2)は(軌道部分)×(spin部分)×(Isospin部分) という形をしています。

 

 つまり,Ψ(1,2)=ψ(1,2S(1,2)χI(1,2)です。

 

 そこで,Ψ(2,1)=ψ(2,1S(2,1)χI(2,1)ですが,

 Pauliの排他原理により,2つの同種Fermionが同じ状態を占めることはできないという要請:

 

 つまり,Ψ(1,2)において引数1と2が全く同じ:1=2:

 12 etc.なら,Ψ(1,2)=0 であるべき,という要請から,

 1と2の交換反対称であるべきなので,Ψ(2,1)=-Ψ(1,2)

 です。

 

 重心系では総軌道角運動量は相対軌道角運動量ですが,これをlと表記すれば,

 

(ⅰ)l=0(S状態)では,軌道部分は対称:ψ(2,1)=ψ(1,2)

なので,(spin部分)×(Isospin部分)が反対称です。

 

 ところで,核子1個のIsospinは1/2なので,2核子束縛状態のIsospin:

 ^=(I1^,I2^,I3^)の大きさの2乗^2の固有値:I(I+1)において

 I=0 か,またはI=1 のみが許されます。

 

(a)I=0 (アイソ1重項:singlet)のとき, 

 Isospin部分の波動関数:χL(1,2)は,

 |0,0>=(1/√2)(|p>|n>-|n>|p>)と表現されます。

 

ここで,|p>|n>は,χI(1,2)において,粒子1が|p>,粒子2が|n>であることを示し,|n>|p>は粒子1が|n>,粒子2が|p>であることを示しています。

 

 また,|0,0>というのは,Isospinの固有値:I=0,I3=0 に

属する固有状態を,|I,I3>という表記で表わしたものです。

 

この表記では,|p>=|1/2,1/2>,|n>=|1/2,-1/2>です。

 

つまり,最初の,|0,0>=(1/√2)(|p>|n>-|n>|p>)は,

|0,0>(1/√2){|1/2,1/2>|1/2,-1/2>-|1/2,-1/2>|1/2,1/2>}

なる表現の略です。

 

 (b)I=1 (アイソ3重項:triplet)のとき, 

 Isospin部分の波動関数:χI(1,2)は,

|1,1>=|p>|p>,|1,0>=(1/√2)(|p>|n>+|n>|p>)),

|1,-1>=|n>|n>と表現されます。

 

 ところが,dueteron(重陽子)の電荷は+1ですから,これはI3=0

 を意味しますから,対応するのは|0,0>か,|1,0>,および,その

 重ね合わせ状態だけですが,

 

 Isospin対称性が存在するとき,超選択則(superselection-ru;e)

 によって重ね合わせ状態というものは存在しません 。

 

 (※例えば,I=1/2の核子1個の状態でも陽子pと中性子nの重ね合わ

 せであるα|p>+β|n>のような状態は存在せず,1核子状態は

 必ず,純粋な陽子状態:|p>か,中性子状態:|n>です。※)

  

そして=|1.1>,π=|1,-1>ですから,d=|1.0>なら 

π+d→p+pは,

>+|d>=|1,1>+|1.0>→|p>|p>=|1,1>,

 

π+d→n+nは,

>+|d>=|1.-1>+|1.0>→|n>{n>=|1,-1>

です。

 

|1.1>+|1.0>からは,他に|2,1>.|1.-1>+|1.0>からは,

他に|2,-1>となる反応があるはずですが,こうした反応は全く

観測されていません。

 

またdのBaryon(重粒子)数Bは,B=2なので,I=1なら,電荷Qが

Q=I3+B/2=2,1,0 の3重項の組になるはずです

 

しかし,deuteronnの電荷は+1のみで,電荷が2 や0 のdeuteronは発見

されていません。

 

一方,d=|0.0>なら,|1.1>|0.0>→|1,1>,

|1.-1>|0.0>→|1,-1>は自明です。

 

そこで,dのIsospin状態は|0.0>,つまりdについては,I=0

と考えられます。

 

したがって,|0,0>=(1/√2)(|p>|n>-|n>|p>)より,

Isospin波動関数は核子の交換に対して反対称ですから,

spin波動関数は対称でなければならず,

こちらは,s=1の3重項でなければなりません。

 

 したがって,l=0,s=1より,S軌道の3重項:31状態というう基底状態が得られ,dのtotalの角運動量としてJ=1を得ます。

 

(ⅱ)l=2(D状態)でも,軌道部分が対称:ψ(2,1)=ψ(1,2)

なので,l=0 (S状態)と同じくI=0 からs=1を得ます。

 

(ⅲ)l=1(P状態)では軌道部分が反対称ψ(2,1)=-ψ(1,2)

ですから,I=0 からs=0 を得ます。

 

しかし,別の議論から,deuteronが飽和(saturate)するためには,

s=1であることが望ましいという仮説が存在し,実験によれば31

大勢を占め,わずかに31が混在していることがわかっています。

 

したがって,deuteronの角運動量はJ=1と結論されます。

 

次に,反応(A)p+p→π+dと,その逆反応(B)π+d→p+pを比較します。

 

片方のpの運動量をとします。またの運動量をとします。

 

反応(A)の断面積は,

dσA=(L3/vpp)(2π/hc)|<d,π,s'|T^|p,p,s>|2ρπd 

と書けます。

 

ただし,Lは実験室を立方体でモデル化したときの1辺の長さです。

 

,s'は,そっれぞれ始状態,終状態の系のspin,ppは2個の陽子が互いに近づく速度です。

 

系全体のエネルギーをEとすると,重心系(慣性中心系)では,始状態のp-p系の運動量は,-で,終状態のπ,dの運動量はq,です。

 

故に,重心系ではvpp=2vp=dE/dpです。

 

何故ならE=2(p22+mN24)1/2より,

dE/dp=2c2p/(p22+mN24)1/2 2c2p/(E/2)

=2vpです。

 

さらに,ρπdは反応(A)の終状態密度で,

ρπddE=q2dqdΩ/(2πhc)3ですから.

ρπd{q2/(2πhc)3}(dq/dE)dΩです。

 

それ故,

dσA=dσ(p+p→π+d)

(1/4)Σs’Σs|<d,π,s'|T^|p,p,s>|2{L3c4/(2π)2}

×(dp/dE)(dq/dE)q2dΩ

です。

 

なお,係数1/4は,入射するp-pのspinを特定しない実験では,その4通りのspin状態についての平均が観測されるために付けた因子です。

 

前の法で述べたように,重陽子dのspinはJ=1なので,始状態のπ+dのspin状態は,3(2sπ+1)個存在することになります。

 

そこで,観測される平均微分断面積は,

dσB=dσ+d→p+p)

{3(2sπ+1)}-1Σs’Σs|<p,p,s|T^|d,π,s'>|2

 ×{L3c4/(2π)2}(dq/dE)(dp/dE)p2dΩ

です。

 

ここで,S行列(S^=1+iT^)には,時間反転不変という対称性があることに留意すると.

 

<d,π,s';|T^|p,p,s;

=<p,p,-s;->|T^|d,π,-s';->です。

(※↑反ユニタリ性:詳細釣り合い:detailed-balance

 

衝突面(,の作る面)に垂直な軸のまわりにπだけ回転すると,

,であり,行列要素は回転に対して不変なので,

 

 結局,<d,π,s';|T^|p,p,s;

=<p,p,s;|T^|d,π,s';>です。

 

 したがって,

 dσ(π+d→p+p)/dσ(p+p→π+d)

 =(4/3)(q2/p2)/(2sπ+1) を得ます。

 

そして,(A),(B)2つの反応を重心系で同じエンルギーについて測定して断面積を比較することにより,当時,実際の実験結果からsπ=0が得られました。

 

 これによってπspinはゼロです。同様にπのspinもゼロです。

 

さて,次は,これら荷電π中間子πのパリティです。

 

πがdのK殻に捕獲されるとき,それがdのS軌道に入るのが観測されます。

 

そのときは+dのtotalの角運動量はJ=1です。

 

π+d→p+pと同様+d→n+nですが, Isospin部分は|n>|n>でこの部分は交換対称ですから,残りの(軌道部分)×spin部分)が反対称である必要があります。

 

さて,角運動量保存則;が成立し,J=||=1ですから,2個のn(中性子):|n>|n>のspin:sは,s=0,or s=1 です。

 

Wigner-Eckartの定理から,|l-s|<J-1<l+sなので,s=0ならl=1ですが,s=1ならl=0,1,2のいずれかです。

 

そこで,以下,l=0,1,2のそれぞれの場合を考察します。

 

(ⅰ)l=0(S状態)のとき,軌道部分は対称 → spin部分は反対称です。

 

そこでl=0なら,s=1の対称3重項は禁止されます。

 

(ⅱ)l=1(P状態)のとき,軌道部分は反対称 → spin部分は対称です。

 

そこでl=1ならs=0の反対称1重項は禁止され,s =1の対称3重項のみ許されます。

 

(ⅲ)l=2(D状態)のとき,軌道部分は対称 → spin部分は反対称です。

 

そこでl=1ならs=1の対称3重項は禁止されます。

  

以上から,j=1の状態としては,2S+1J331のみが可能です。

 

 p,nそれぞれ単独の内部パリティ(Intrincic Parity)は(+)(偶:even)であることは既知ですから,それらの2粒子系のパリティは軌道角運動量lからの(-)lだけで決まります。

 

 そこで,|n>|n>はP状態なのでパリティは(-)(奇:odd)です。

 

 また,deuteronは,31なのでパリティは(+)(偶:even)です。

 

それ故+d→n+nにおけるパリティ保存の要求から,πの内部パリティは(-)であると結論されます。

 

同様にして,π+d→p+pから,πの内部パリティも(-)です。

 

最後に,中性π中間子π0です。

 

π0のメインの崩壊反応は0→ 2γです。

 

ただし,γは光子(Photon)です。

 

π0の静止系では2つのγは互いに反対向きに進みます。

 

これらの一方の向きをz方向の正の向きに取ると,

それらのhelicityは+1と-1 2種類のみ:

|1,1>,または|1,-1>です。

 

z軸の正の向きの右旋光(+1)光子をR,左旋光(-1)光子をLと表記すると,2γ=γ+γの状態は,,R,L,Lの4種類です。

 

ただし.例えばz方向の+の向きに進む光子が右旋光:Rであることを

と表記しています。

 

ここで空間座標をz軸のまわりにθだけ回転すると,

→ exp(iθ)R,R→ exp(-iθ)R,および,

→ exp(-iθ)L, L→ exp(iθ)Lとなりま>す。

 

何故なら,角運動量がの状態では,回転θに対し,状態|Ψ>は

|Ψ>→ |Ψ'>=exp(iJθ)|Ψ>と変換されますが,

光子γのspinはJ=1であるからです。

 

θは,大きさがθ=|θ|で,回転軸の向きを持つベクトルです。

 

そこで,,R→R, R→ exp(2iθ)R,

→ exp(-2iθ),L→Lとなります。

  

これは,z方向の角運動量が,Jz=0,2,-2,0 であることに,それぞれ対応しています。

 

そこで,もしもπ0のspinが1なら,z成分は1,0,-1ですから,

π0→ 2γにおける角運動量保存則から,RとL,のみ

が可能です。

 

ところが,spinが1でz成分がゼロの状態は球面調和関数:

00(θ,φ)={3/(4π)}1/2cosθと同じ変換性を持ちますから,

特にθ=π=180°の回転では状態は符号を変えるはずです。

 

しかし,この回転でRおよび,Lはそのまま不変ですから

これは矛盾です。

 

したがって,π0のspin:Sπ0は1では有り得ません。

 

それ故,Sπ0=0,2,..です。

 

しかし,電気的に中性の粒子π0は,荷電粒子π±とほぼ同一の質量を持ち,電荷を持たないこと以外はπ0π±は同じ性質を持つため,

 

Isospin対称性が成立して,π0がI=1の3重項を形成すると想定すれば,Sπ0=0 と結論されます。

 

(※ 素粒子の属性などは,純粋に理論(仮説)だけで決定することは所詮不可能で,こういうのは実験で裏打ちされない限り無意味です。「Isospin対称性を持つ」という仮説が誤りなら,以後の実験で否定されたでしょうが,そういうことはないようです。※)。

 

次に,π0のパリティです。

 

まず,角運動量は空間の擬(軸性)ベクトルですから,空間反転ではspinの向きは変わらないのでR→Lです。

 

(※古典力学における角運動量の定義は×ですが,空間反転:→- -に対しては→-よりです。

 

角運動量ベクトルが向きを変えない場合,空間反転ではzの向きが逆:(→ -)なので,+→-であり,helicityもR→Lです。※)

 

そこで,R→L,L→Rですが,光子γは交換対称で判別不可能なBosonなので→L,L,→Rと解釈してもかまいません。

 

それ故,パリティの固有状態は固有値+1に属する状態が,

(1/√2)(R+L)で,固有値-1に属する状態が,

(1/√2)(R-L)であり,これらは直交します。

  

これらは,それぞれ,

(2√2)-1{(R+L)(R+L)+(R-L)(R-L)}

(2√2)-1{(R+L)(R-L)+(R-L)(R+L)}

とも表わせます。

   

(R+L)/√2は,電場がx方向に直線偏光なので,これをX,

(R-L)/√2は,電場がy方向に直線偏光なので,これをY

と,それぞれ表記します。

  

そこで,パリティ:P=+1は(1/√2)(X+Y)で,2個の光子 の電場は平行です。

 

一方,パリティ-P=-1は(1/√2)(X+Y)で,2個の光子の電場は垂直です。

  

したがって,π0→ 2γ→e+eなる反応において,陽子-電子対の多くが,同一平面内にあればP=+1であり,多くの電子,多くの陽電子のそれぞれが作る平面が垂直ならP=-1です。

 

そして,実験によれば後者が観測されたので,π0の内部パリティも(-)と結論されます。

 

(参考文献):J.D.Bjorken,S.D.Drell "Relativistic Quantum Mechanics" (McGrawHill)

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投稿: hirota | 2013年2月20日 (水) 18時01分

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