強い相互作用(湯川相互作用)(2)(π中間子のスピンとパリティ)
強い相互作用(1)からの続きです。
π-mesonのspinとパリティ(内部偶奇性)の議論のみを分離しました。
まず,deuteron(重陽子=同位体水素:重水の原子核)dのspin角運動量Jが1であることを示します。
Deuteronは2つの核子(nucleon=陽子,or中性子)から成る束縛状態(共鳴状態:resonance)を形成している複合粒子です。
核子はFermionなので,2核子の束縛状態の波動関数は核子の交換に対して反対称です。
これは,Pauliの排他原理によって,2つの同種Fermionが同じ状態を占めることはできないからです。
高エネルギー現象ではない束縛状態の考察は,非相対論的近似で十分で,波動関数は軌道部分とspin部分の直積に分解できます。
さらに.核力はIsotopic-spin(荷電スピン or アイソスピン)対称性を持つので,totalの波動関数はIsospin部分との直積にもなっています。
よって,2体波動関数Ψ(1,2)は(軌道部分)×(spin部分)×(Isospin部分) という形をしています。
つまり,Ψ(1,2)=ψ(x1,x2)χS(1,2)χI(1,2)です。
そこで,Ψ(2,1)=ψ(x2,x1)χS(2,1)χI(2,1)ですが,
Pauliの排他原理により,2つの同種Fermionが同じ状態を占めることはできないという要請:
つまり,Ψ(1,2)において引数1と2が全く同じ:1=2:
x1=x2 etc.なら,Ψ(1,2)=0 であるべき,という要請から,
1と2の交換反対称であるべきなので,Ψ(2,1)=-Ψ(1,2)
です。
重心系では総軌道角運動量は相対軌道角運動量ですが,これをlと表記すれば,
(ⅰ)l=0(S状態)では,軌道部分は対称:ψ(x2,x1)=ψ(x1,x2)
なので,(spin部分)×(Isospin部分)が反対称です。
ところで,核子1個のIsospinは1/2なので,2核子束縛状態のIsospin:
I^=(I1^,I2^,I3^)の大きさの2乗I^2の固有値:I(I+1)において
I=0 か,またはI=1 のみが許されます。
(a)I=0 (アイソ1重項:singlet)のとき,
Isospin部分の波動関数:χL(1,2)は,
|0,0>=(1/√2)(|p>|n>-|n>|p>)と表現されます。
ここで,|p>|n>は,χI(1,2)において,粒子1が|p>,粒子2が|n>であることを示し,|n>|p>は粒子1が|n>,粒子2が|p>であることを示しています。
また,|0,0>というのは,Isospinの固有値:I=0,I3=0 に
属する固有状態を,|I,I3>という表記で表わしたものです。
この表記では,|p>=|1/2,1/2>,|n>=|1/2,-1/2>です。
つまり,最初の,|0,0>=(1/√2)(|p>|n>-|n>|p>)は,
|0,0>=(1/√2){|1/2,1/2>|1/2,-1/2>-|1/2,-1/2>|1/2,1/2>}
なる表現の略です。
(b)I=1 (アイソ3重項:triplet)のとき,
Isospin部分の波動関数:χI(1,2)は,
|1,1>=|p>|p>,|1,0>=(1/√2)(|p>|n>+|n>|p>)),
|1,-1>=|n>|n>と表現されます。
ところが,dueteron(重陽子)の電荷は+1ですから,これはI3=0
を意味しますから,対応するのは|0,0>か,|1,0>,および,その
重ね合わせ状態だけですが,
Isospin対称性が存在するとき,超選択則(superselection-ru;e)
によって重ね合わせ状態というものは存在しません 。
(※例えば,I=1/2の核子1個の状態でも陽子pと中性子nの重ね合わ
せであるα|p>+β|n>のような状態は存在せず,1核子状態は
必ず,純粋な陽子状態:|p>か,中性子状態:|n>です。※)
そして,π+=|1.1>,π-=|1,-1>ですから,d=|1.0>なら
π++d→p+pは,
|π+>+|d>=|1,1>+|1.0>→|p>|p>=|1,1>,
π-+d→n+nは,
|π->+|d>=|1.-1>+|1.0>→|n>{n>=|1,-1>
です。
|1.1>+|1.0>からは,他に|2,1>.|1.-1>+|1.0>からは,
他に|2,-1>となる反応があるはずですが,こうした反応は全く
観測されていません。
またdのBaryon(重粒子)数Bは,B=2なので,I=1なら,電荷Qが
Q=I3+B/2=2,1,0 の3重項の組になるはずです
しかし,deuteronnの電荷は+1のみで,電荷が2 や0 のdeuteronは発見
されていません。
一方,d=|0.0>なら,|1.1>|0.0>→|1,1>,
|1.-1>|0.0>→|1,-1>は自明です。
そこで,dのIsospin状態は|0.0>,つまりdについては,I=0
と考えられます。
したがって,|0,0>=(1/√2)(|p>|n>-|n>|p>)より,
Isospin波動関数は核子の交換に対して反対称ですから,
spin波動関数は対称でなければならず,
こちらは,s=1の3重項でなければなりません。
したがって,l=0,s=1より,S軌道の3重項:3S1状態というう基底状態が得られ,dのtotalの角運動量としてJ=1を得ます。
(ⅱ)l=2(D状態)でも,軌道部分が対称:ψ(x2,x1)=ψ(x1,x2)
なので,l=0 (S状態)と同じくI=0 からs=1を得ます。
(ⅲ)l=1(P状態)では軌道部分が反対称ψ(x2,x1)=-ψ(x1,x2)
ですから,I=0 からs=0 を得ます。
しかし,別の議論から,deuteronが飽和(saturate)するためには,
s=1であることが望ましいという仮説が存在し,実験によれば3S1が
大勢を占め,わずかに3D1が混在していることがわかっています。
したがって,deuteronの角運動量はJ=1と結論されます。
次に,反応(A)p+p→π++dと,その逆反応(B)π++d→p+pを比較します。
片方のpの運動量をpとします。また,π+の運動量をqとします。
反応(A)の断面積は,
dσA=(L3/vpp)(2π/hc)|<d,π,s'|T^|p,p,s>|2ρπd
と書けます。
ただし,Lは実験室を立方体でモデル化したときの1辺の長さです。
s,s'は,そっれぞれ始状態,終状態の系のspin,vppは2個の陽子が互いに近づく速度です。
系全体のエネルギーをEとすると,重心系(慣性中心系)では,始状態のp-p系の運動量はp,-pで,終状態のπ,dの運動量はq,-qです。
故に,重心系ではvpp=2vp=dE/dpです。
何故ならE=2(p2c2+mN2c4)1/2より,
dE/dp=2c2p/(p2c2+mN2c4)1/2 =2c2p/(E/2)
=2vpです。
さらに,ρπdは反応(A)の終状態密度で,
ρπddE=q2dqdΩ/(2πhc)3ですから.
ρπd={q2/(2πhc)3}(dq/dE)dΩです。
それ故,
dσA=dσ(p+p→π++d)
=(1/4)Σs’Σs|<d,π,s'|T^|p,p,s>|2{L3hc4/(2π)2}
×(dp/dE)(dq/dE)q2dΩ
です。
なお,係数1/4は,入射するp-pのspinを特定しない実験では,その4通りのspin状態についての平均が観測されるために付けた因子です。
前の法で述べたように,重陽子dのspinはJ=1なので,始状態のπ++dのspin状態は,3(2sπ+1)個存在することになります。
そこで,観測される平均微分断面積は,
dσB=dσ(π++d→p+p)
={3(2sπ+1)}-1Σs’Σs|<p,p,s|T^|d,π,s'>|2
×{L3hc4/(2π)2}(dq/dE)(dp/dE)p2dΩ
です。
ここで,S行列(S^=1+iT^)には,時間反転不変という対称性があることに留意すると.
<d,π,s';q|T^|p,p,s;p>
=<p,p,-s;-p>|T^|d,π,-s';-q>です。
(※↑反ユニタリ性:詳細釣り合い:detailed-balance
衝突面(p,sの作る面)に垂直な軸のまわりにπだけ回転すると,
-p → p,-q → qであり,行列要素は回転に対して不変なので,
結局,<d,π,s';q|T^|p,p,s;p>
=<p,p,s;p|T^|d,π,s';q>です。
したがって,
dσ(π++d→p+p)/dσ(p+p→π++d)
=(4/3)(q2/p2)/(2sπ+1) を得ます。
そして,(A),(B)2つの反応を重心系で同じエンルギーについて測定して断面積を比較することにより,当時,実際の実験結果からsπ=0が得られました。
これによってπ+のspinはゼロです。同様にπ-のspinもゼロです。
さて,次は,これら荷電π中間子π+,π-のパリティです。
π-がdのK殻に捕獲されるとき,それがdのS軌道に入るのが観測されます。
そのときは,π-+dのtotalの角運動量はJ=1です。
π++d→p+pと同様,π-+d→n+nですが, Isospin部分は|n>|n>でこの部分は交換対称ですから,残りの(軌道部分)×spin部分)が反対称である必要があります。
さて,角運動量保存則;J=l+sが成立し,J=|J|=1ですから,2個のn(中性子):|n>|n>のspin:sは,s=0,or s=1 です。
Wigner-Eckartの定理から,|l-s|<J-1<l+sなので,s=0ならl=1ですが,s=1ならl=0,1,2のいずれかです。
そこで,以下,l=0,1,2のそれぞれの場合を考察します。
(ⅰ)l=0(S状態)のとき,軌道部分は対称 → spin部分は反対称です。
そこでl=0なら,s=1の対称3重項は禁止されます。
(ⅱ)l=1(P状態)のとき,軌道部分は反対称 → spin部分は対称です。
そこでl=1ならs=0の反対称1重項は禁止され,s =1の対称3重項のみ許されます。
(ⅲ)l=2(D状態)のとき,軌道部分は対称 → spin部分は反対称です。
そこでl=1ならs=1の対称3重項は禁止されます。
以上から,j=1の状態としては,2S+1LJ=33P1のみが可能です。
p,nそれぞれ単独の内部パリティ(Intrincic Parity)は(+)(偶:even)であることは既知ですから,それらの2粒子系のパリティは軌道角運動量lからの(-)lだけで決まります。
そこで,|n>|n>はP状態なのでパリティは(-)(奇:odd)です。
また,deuteronは,3S1なのでパリティは(+)(偶:even)です。
それ故,π-+d→n+nにおけるパリティ保存の要求から,π-の内部パリティは(-)であると結論されます。
同様にして,π++d→p+pから,π+の内部パリティも(-)です。
最後に,中性π中間子π0です。
π0のメインの崩壊反応は,π0→ 2γです。
ただし,γは光子(Photon)です。
π0の静止系では2つのγは互いに反対向きに進みます。
これらの一方の向きをz方向の正の向きに取ると,
それらのhelicityは+1と-1 の2種類のみ:
|1,1>,または|1,-1>です。
z軸の正の向きの右旋光(+1)光子をR,左旋光(-1)光子をLと表記すると,2γ=γ+γの状態は,R+R-,R+L-,L+R-,L+L-の4種類です。
ただし.例えばz方向の+の向きに進む光子が右旋光:Rであることを
R+と表記しています。
ここで空間座標をz軸のまわりにθだけ回転すると,
R+→ exp(iθ)R+,R-→ exp(-iθ)R-,および,
L+→ exp(-iθ)L+, L-→ exp(iθ)L-となりま>す。
何故なら,角運動量がJの状態では,回転θに対し,状態|Ψ>は
|Ψ>→ |Ψ'>=exp(iJθ)|Ψ>と変換されますが,
光子γのspinはJ=1であるからです。
θは,大きさがθ=|θ|で,回転軸の向きを持つベクトルです。
そこで,,R+R-→R+R-, R+L-→ exp(2iθ)R+L-,
L+R-→ exp(-2iθ)L+R-,L+L-→L+L-となります。
これは,z方向の角運動量が,Jz=0,2,-2,0 であることに,それぞれ対応しています。
そこで,もしもπ0のspinが1なら,z成分は1,0,-1ですから,
π0→ 2γにおける角運動量保存則から,R+R-とL+L-,のみ
が可能です。
ところが,spinが1でz成分がゼロの状態は球面調和関数:
Y00(θ,φ)={3/(4π)}1/2cosθと同じ変換性を持ちますから,
特にθ=π=180°の回転では状態は符号を変えるはずです。
しかし,この回転でR+R-および,L+L-はそのまま不変ですから
これは矛盾です。
したがって,π0のspin:Sπ0は1では有り得ません。
それ故,Sπ0=0,2,..です。
しかし,電気的に中性の粒子π0は,荷電粒子π±とほぼ同一の質量を持ち,電荷を持たないこと以外はπ0とπ±は同じ性質を持つため,
Isospin対称性が成立して,π+,π-,π0がI=1の3重項を形成すると想定すれば,Sπ0=0 と結論されます。
(※ 素粒子の属性などは,純粋に理論(仮説)だけで決定することは所詮不可能で,こういうのは実験で裏打ちされない限り無意味です。「Isospin対称性を持つ」という仮説が誤りなら,以後の実験で否定されたでしょうが,そういうことはないようです。※)。
次に,π0のパリティです。
まず,角運動量は空間の擬(軸性)ベクトルですから,空間反転ではspinの向きは変わらないのでR+→L-です。
(※古典力学における角運動量の定義はL≡r×pですが,空間反転:r→- -rに対してはp→-pよりL→Lです。
角運動量ベクトルが向きを変えない場合,空間反転ではzの向きが逆:(r→ -r)なので,+→-であり,helicityもR→Lです。※)
そこで,R+R-→L-L+,L+L-→R-R+ですが,光子γは交換対称で判別不可能なBosonなのでR+R-→L+L-,L+L-,→R+R-と解釈してもかまいません。
それ故,パリティの固有状態は固有値+1に属する状態が,
(1/√2)(R+R-+L+L-)で,固有値-1に属する状態が,
(1/√2)(R+R--L+L-)であり,これらは直交します。
これらは,それぞれ,
(2√2)-1{(R++L+)(R-+L-)+(R+-L+)(R--L-)}
(2√2)-1{(R++L+)(R--L-)+(R+-L+)(R-+L-)}
とも表わせます。
(R+L)/√2は,電場がx方向に直線偏光なので,これをX,
(R-L)/√2は,電場がy方向に直線偏光なので,これをY
と,それぞれ表記します。
そこで,パリティ:P=+1は(1/√2)(X+X-+Y+Y-)で,2個の光子 の電場は平行です。
一方,パリティ-P=-1は(1/√2)(X+Y-+Y+X-)で,2個の光子の電場は垂直です。
したがって,π0→ 2γ→e++e-なる反応において,陽子-電子対の多くが,同一平面内にあればP=+1であり,多くの電子,多くの陽電子のそれぞれが作る平面が垂直ならP=-1です。
そして,実験によれば後者が観測されたので,π0の内部パリティも(-)と結論されます。
(参考文献):J.D.Bjorken,S.D.Drell "Relativistic Quantum Mechanics" (McGrawHill)
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投稿: hirota | 2013年2月20日 (水) 18時01分