相対論的場の量子論(正準定式化)(20)
ちょっと相対論的量子力学の方にに寄り道しましたが,相対論的場の量子論の続きです。
Feynman 伝播関数(Feynman propagator)の項目に入ります。
§2.6feynmanの伝播関数(The Feynman Propagator)
荷電Klein-Gordon粒子の理論への伝播関数(Green関数によるアプローチでは,正振動数解のみが相互作用から時間的未来に伝播するという物理的な境界条件によってFeynmanのGreen関数へと導かれました。
荷電Klein-Gordon粒子の場の量子論的叙述においては,相対論的量子力学の考察において直感的に導入したFeynman伝播関数の役割を場の何が果たしているのか?を見るため,1量子を含む2つの状態の時空的発展を,この定式化の中で見てゆきます。
まず,chage+1を持ち,まだ規格化されていない1つの1粒子状態Ψ+を作るため,真空にφ*^(x,t)を作用させます。
すなわち,Ψ+(x,t)≡φ*^(x,t)|0>です。
この式では,φ*^が真空に作用するため,その"生成演算子部分=負振動数部分"のみが残り,他の "消滅演算子=正振動数部分"は消えて寄与はゼロです。
そこで,Ψ+(x,t)=φ*^(-)(x,t)|0>と書けます。
ただし,φ*^(-)(x,t)
=∫d3k(2π)-3/2(2ωk)-1/2a+^+(k)exp(ikx)
=∫d3k(2π)-3/2(2ωk)-1/2a+^+(k)exp(iωkt-ikx)
です。
また,φ^(-)(x,t)
=∫d3k(2π)-3/2(2ωk)-1/2a-^+(k)exp(ikx)
=∫d3k(2π)-3/2(2ωk)-1/2a+^+(k)exp(iωkt-ikx)
です。
これら生成演算子部分は負振動数部分を記述しており,他方φ*^(+)
とφ^(+)は対応する正振動数部分を記述します。
φ*^(+)(x,t)
=∫d3k(2π)-3/2(2ωk)-1/2a-^(k)exp(-ikx)
=∫d3k(2π)-3/2(2ωk)-1/2a-^+(k)exp(-iωkt+ikx),
φ^(+)(x,t)
=∫d3k(2π)-3/2(2ωk)-1/2a+^(k)exp(-ikx)
=∫d3k(2π)-3/2(2ωk)-1/2a+^(k)exp(-iωkt+ikx)
です。
1粒子状態:Ψ+(x,t)=φ*^(x,t)|0>=φ*^(-)(x,t)|0>が,
未来の時空点(x',t')(t'>t)に伝播する振幅は,以下のような射影で与えられます。
すなわち,θ(t'-t)<Ψ+(x',t')|Ψ+(x,t)>
=θ(t'-t)<0|φ^(x',t')φ*^(x,t)|0>
=θ(t'-t)<0|φ^+)(x',t')φ*^-)(x,t)|0>
です。
(※何故なら,<0|φ^(x',t')
=<0|φ^+)(x',t')+<0|φ^-)(x',t')ですが,
<0|φ^-)(x',t')=∫d3k(2π)-3/2(2ωk)-1/2 exp(ikx')
× <0|a-^+(k)=0 であるからです。※)
,
θ(t'-t)<Ψ+(x',t')|Ψ+(x,t)>は,(x,t)においてchageが+1の量子を生成し,後の時刻t'>tに x'で真空に再吸収される行列要素(確率振幅)を示しています。
※(注20-1):θ(t'-t)<0|φ^+)(x',t')φ*^-)(x,t)|0>は,
φ^+)(x',t')φ*^-)(x,t)という演算子を真空で挟んだ行列要素を表わしています。
φ^-)(x,t)は(x,t)においてchageが+1の量子を生成させる演算子であり,φ^+)(x',t')は)(x',t')においてchageが+1の量子を消滅させる演算子です。
そこでφ^+)(x',t')φ*^-)(x,t)は,そうした操作を右から左へと連続して行なわせる演算子であると考えられます。
それ故,<0|φ^+)(x',t')φ*^-)(x,t)|0>は,そうした生成,再吸収過程の物理量としてのφ^+)(x',t')φ*^-)(x,t)の真空対角要素(真空期待値)です。
そうして,物理的な境界条件から,θ(t'-t)なる因子があり,そうした行列要素の実際に生じる値を示しています。(注20-1終わり)※
この振幅は,(x,t)においてchargeを+1単位だけ増加させ,そして伝播した後に,(x',t')で,同じ+1単位だけchargeを減少させます。
これらの複素場がたどることができる,もう1つな道は,(x',t')においてchargeが(-1)の量子が生成し,それがxまで伝播した後,
時刻t>t’において真空に再吸収される過程です。
後者の振幅は,θ(t-t')<Ψ-(x,t)|Ψ+(x',t')>
=θ(t-t')<0|φ*^(x,t)φ*^(x',t')|0>
=θ(t-t')<0|φ*^+)(x,t)φ^-)(x',t')|0>
で与えられます。
Feynmanの伝播関数(Feynman Propagator)は,これら2つの振幅を重ね合わせたもので形成されます。
これは,iΔF(x'-x)
≡θ(t’-t)<0|φ^(x')φ*^(x)|0>
+θ(t-t')<0|φ*^(x)φ^(x')|0>です。
これに,運動量による展開表現:
φ^(x)=∫d3k(2π)-3/2(2ωk)-1/2[a+^(k)exp(-ikx)
+a-^+(k)exp(ikx)],および,
φ*^(x)=∫d3k(2π)-3/2(2ωk)-1/2[a+^+(k)exp(ikx)
+a-^(k)]exp(-ikx)] を代入すれば,
<0|φ^(x')φ*^(x)|0>=∫d3kd3k'(2π)-3(4ωkωk’)-1/2
exp|i(k'x'-kx)}<0|a+^(k)a+^+(k')|0> です。
ところが, <0|a+^(k)a+^+(k')|0>=
<0|[a+^(k)a+^+(k')]|0>=δ3(k-k')ですから,
<0|φ^(x')φ*^(x)|0>
=∫d3k(2π)-3(2ωk)-1exp|ik(x'-x)}です。
同様に,<0|φ*^(x)φ^(x')|0>
=∫d3k(2π)-3(2ωk)-1exp|-ik(x'-x)} を得ます。
したがって,iΔF(x'-x)=∫d3k(2π)-3(2ωk)-1
[θ(t'-t)exp|ik(x'-x)]+θ(t-t')exp|-ik(x'-x)}]
です。
これは,iΔF(x'-x)=∫d4k(2π)-4|i/(k2-m2+iε)}
exp|ik(x'-x)} と表わすことができます。
これから,ΔF(x'-x)は,(□x’+m2)ΔF(x'-x)=-δ4(x'-x)
を満足することがわかります。
※(注20-2):k0を複素数として,k0のつくるGauss平面上での単純閉曲線に[沿っての積分を考えるとき,下図のようにωk,-ωkのまわりを反時計回りにまわる積分路を,それぞれ,C+,C-とすれば,
留数定理から,
exp(-iωkx0 )/(2ωk)
={1/(2πi)}∫C+|exp(-ik0x0 )/(k2-m2)]dk0
exp(iωkx0 )/(-2ωk)
={1/(2πi)}∫C-|exp(-ik0x0 )/(k2-m2)]dk0
です。
ところが,
iΔF(x)=∫d3k(2π)-3(2ωk)-1
[θ(x0)exp(-ikx)+θ(-x0)exp(ikx)]
ですから,
x0>0なら,iΔF(x)
=∫d3k(2π)-3(2ωk)-1exp(-iωkx0+ikx)
x0<0なら,iΔF(x)
=∫d3k(2π)-3(2ωk)-1exp(iωkx0-ikx)
です。
それ故,x0>0なら,
iΔF(x)=-i∫C+dk0∫d3k(2π)-4{exp(-ikx)}/(k2-m2)}
x0<0なら,
iΔF(x)=+i∫C-dk0∫d3k(2π)-4{exp(ikx)}/(k2-m2)}
です。
そこで,積分路CFを次のように取り,
さらにx0>0ならk0Gauss平面の実軸より下半面に半径Rが無限大の反 時計回り半円を追加して閉曲線をつくり, x0<0ならk0Gauss平面の実軸より上半面に半径Rが無限大の反時計回りの半円を追加して閉曲線をつくれば.
R→∞のとき,
|∫0πdφexp{Rexp(iφ)}iRexp(iφ)/{R2exp(2iφ)-ωk2}|
≦πR/R 2→0 ですから,
半円上での積分はゼロとなって消えるため,
iΔF(x)=i∫CFdk0∫d3k(2π)-4{exp(-ikx)}/(k2-m2)}
+ilimR→∞∫d3k(2π)-4exp(ikx)
×∫0±πdφexp{-iRexp(iφ)}iRexp(iφ)/{R2exp(2iφ)-ωk2}
=i∫CFdk0∫d3k(2π)-4{exp(-ikx)}/(k2-m2)}
です。
いずれにしても,
iΔF(x)=i∫CFdk0∫d3k(2π)-4{exp(-ikx)}/(k2-m2)}
です。
CFのような積分路を取る代わりに,2つの極±ωkを実軸から無限小の距離ηだけ平行移動して±(ωk-iη)として,
iΔF(x)=i∫CFdk0∫d3k(2π)-4{exp(-ikx)}/(k02-ωk2)}
=i∫d4k(2π)-4[exp(-ikx)/{k02-(ωk-iη)2}]
=i∫d4k(2π)-4{exp(-ikx)/(k2-m2+1ε)}
とも書けます。
結局, iΔF(x)=i∫d4k(2π)-4{exp(-ikx)/(k2-m2+1ε)}と表現されることがわかりました。
最後に,ΔF(x'-x)に,(□x’+m2)を作用せると,
(□x’+m2)ΔF(x'-x)
=i∫d4k(2π)-4[exp{-ik(x'-x)}
{(―k2+m2)/(k2-m2+1ε)}]
=-∫d4k(2π)-4exp{-ik(x'-x)}
=-δ4(x'-x)
を得ます。(注20-2終わり)※
この形のFeynman Propagator:iΔF(x’-x)
=∫d4k(2π)-4|i/(k2-m2+iε)}exp|ik(x’-x)}では.
Lorentz不変性が陽に表現されています。
何故なら, d4k,k2,m2,exp|ik(x'-x)}は全てLorentzスカラーで
あり,積分領域は任意のLorentz系において無限大なので,Lorentz変換によってこの積分は変化しないからです。
ここで,演算子の時間順序積(time-ordered product)を与える演算子の略記法として,便利なT積を導入します。
すなわち,T(a(x)b(x'))
≡θ(t-t')a(x)b(x')+θ(t'-t)b(x')a(x)
です。
このT演算子は,最も早い時刻における場の演算子が最も右に位置し,任意個数の演算子を時間の順に間に挟むことで容易に任意個数の積に一般化できます。
このT積を用いるとFeynman伝播関数は,
iΔF(x'-x)=<0|T(φ(x')φ*(x)|0>と書けます。
あるいは,Hermite場について,
iδijΔF(x'-x)=<0|T(φi(x')φj(x)|0> です。
1粒子量子力学の理論と同じく.場の量子論においてもFeynman伝播関数は遷移理論において中心的役割を担っています。
t'>tのときの粒子のxからx'への伝播,および,t>t'のときの反粒子のx'からxへの伝播が,伝播関数ΔF(x',x)によって記述されるわけです。
今日はこれで終わり,次回はDirac場の量子化に移ります。
(参考文献:J.D.Bjorken S.D.Drell "Relativistic Quantum Fields" (McGrawHill)
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