相対論的場の量子論(正準量子化)(36)
相対論的場の量子論シリーズ,電磁場の量子化の続きです。
今日は,電磁場を量子化した際に付随する場の量子である光子
の性質に言及する節に入ります。
§4.5 光子のspin(Spin of the Photon)
光子(Photons)は,幾つかの意味でKlein-Gordon量子とは異なって
います。
まず,光子に同定される電磁場の量子は,Einsteinの条件:
k2=kμkμ=0 を満足するため,静止質量がゼロです。
さらに,電磁場のベクトルポテンシャルA(x)は実なので,
それが量子化された場A^(x)はHermite演算子です。
そして,"この量子=光子"は,charge(電荷)を伴なわないので,
実Klein-Gordon理論を量子化する際に出現する中性中間子に
類似しています。
しかし,実 Klein-Gordon場に比較して自由電磁場が持つ新しい
1つの特徴は,偏極(polarization)ベクトル:ε(k,λ)の存在
です。
これは,各光子を分類するもので,spin角運動量に関わる量です。
そして,特に,場A^(x)がベクトルであることから,spinが1の
光子という描像が導かれます。
ただし,横波(transverse wave)という制限があることから空間
ベクトルの3つの自由度から1つが除かれます。
つまり,光子はspin角運動量が1であり,しかもそれの波の伝播
方向に沿った射影は決してゼロになることができず,±1のみを
取るという特徴を有するわけです。
このことを具体的に示すため,前に与えた角運動量演算子の表現:
Mij=∫d3x:Ar d^(xi∂j-xj∂i)Ar^
-(Ai d^Aj^-Aj d^Aj^):
を用いて,1光子状態の角運動量の第3成分 M12^
の値を調べます。
すなわち,状態:Φ1.k,λ=a^+(k,λ)Φ0=a^+(k,λ) |0 >
について,M12^Φ1.k,λ=[M12^,a^+(k,λ)]|0 >を計算します。
ここで,計算の便宜上,この状態:Φ1.k,λ=a^+(k,λ)|0 >の
波動ベクトルkは第3軸に沿っているとします。
つまり,kとしてk0≡(0,0,ωk0)を採用して1光子状態:
Φ1.k,λが,そのkμがk0μ≡(ωk0,k0)=(ωk0,0,0,ωk0)に
等しい状態;Φ1,k0,λ0=a^+(k0,λ0)|0 >であるケース
を考えます。
このとき,ik0x=iωk0(t-x3) です。
空間は等方的なので,その座標軸の向きをどのように選択しよう
と自由ですから,この仮定で一般性を失なうことはありません。
そして,
全角運動量:J^=(J1^,J2^,J3^)=(M23^,M31^,M12^)
の第3成分:M12^=∫d3x:Ar d^(x1∂2-x2∂1)Ar^
-(A1 d^A2^-A2 d^A1^):を,軌道角運動量の第3成分
L3^とspin角運動量の第3成分S3^の和に分解し,
M12^=L3^+S3^;L3^≡∫d3x:Ar d^(x1∂2-x2∂1)Ar^:
S3^≡-∫d3x:(A1 d^A2^-A2 d^A1^):
と書いてみます。
まず,軌道角運動量部分:L3^のみの寄与を評価します。
L3^≡∫d3x:Ar d^(x1∂2-x2∂1)Ar^:
の右辺の表現に,A^(x)=∫d3k(2π)-3/2(2ωk)-1/2Σλ=12
ε(k,λ){a^(k,λ)exp(-ikx)+a^+(k,λ)exp(ikx)}
なる運動量展開を代入して計算すると,
結局,L3^|0 >=0,かつ,L3^a^+(k0,λ)|0 >=0 なること
が示され,真空,および,自由1光子状態への軌道角運動量の寄与
は無いことがわかります。
※(注36-1):何故なら,
まず上記のA^(x)の運動量展開式から,
Ad^(x)=∂A^(x)/∂t
=i∫d3k(2π)-3/2(2ωk)-1/2Σλ=12ε(k,λ)
{a^(k,λ)exp(-ikx)-a^+(k,λ)exp(ikx)}
を得ます。
そこで,L3^=∫d3x:Ar d^(x1∂2-x2∂1)Ar^:
=-(1/2)∫d3x∫d3kd3k'(2π)-3(ωk/ωk')1/2
(x1k'2-x2k'1)Σλ,λ'=12
×[εr^(k,λ)εr^(k',λ')f^(k,λ,k',λ')]
と書けます。
ただし,f^(k,λ,k',λ')は変数:k,λ,k',λ'のみに
依存し,xには依存しない因子の部分です。
これはさらに,
G1^≡-(1/2)∫d3kd3k'(2π)-3(ωk/ωk')1/2k'1
×Σλ,λ'=12[εr^(k,λ)εr^(k',λ')f^(k,λ,k',λ')],
および,
G2^≡-(1/2)∫d3kd3k'(2π)-3(ωk/ωk')1/2k'2
×Σλ,λ'=12[εr^(k,λ)εr^(k',λ')f^(k,λ,k',λ')]
とおけば,
L3^=∫d3x(x1G2^-x2G1^)なる形になることがわかります。
そこで,L3^を任意の状態^|Ψ>に作用させると,
L3^|Ψ>=∫d3x(x1G2^-x2G1^)|Ψ>ですが,
G1^|Ψ>,G2^|Ψ>が,何らかの演算結果で軌道パラメータ
座標xと関連性を持たぬ限り被積分関数 (x1G2^-x2G1^)|Ψ>
はxの奇関数となるので,
L3^|Ψ>=∫d3x(x1G2^-x2G1^)|Ψ>=0 と
結論されます。
したがって,L3^|0 >=0,かつ,L3^a^+(k0,λ0)|0 >=0
を得ました。(注36-1終わり)※
一方,spin角運動量部分:
S3^≡-∫d3x:(A1 d^A2^-A2 d^A1^):の寄与を評価すると,
まず,[S3^,a^+(k0,λ0)]
=-∫d3x:A1 d^(x)[A2^(x),a^+(k0,λ0)]
+[A1 d^(x),a^+(k0,λ0)]A2^(x)
-A2 d^(x)[A1^(x),a^+(k0,λ0)]
-[A2 d^(x),a^+(k0,λ0)]A2^(x):
です。
ところが,A^(x)=∫d3k(2π)--3/2(2ωk)-1/2Σλ=12
ε(k,λ){a^(k,λ)exp(-ikx)+a^+(k,λ)exp(ikx)}
ですから,
[Ai^(x),a^+(k0,λ0)]
=∫d3k(2π)-3/2(2ωk)-1/2exp(-ikx)Σλ=12εi(k,λ)
[a^(k,λ),a^+(k0,λ0)]
=(2π)-3/2(2ωk0)-1/2εi(k0,λ0) exp(-ik0x) です。
また,[Ai d^(x),a^+(k0,λ0)]
=(∂/∂t)[Ai^(x),a^+(k0,λ0)]
=-i (2π)-3/2(ωk0/2)1/2εi(k0,λ0) exp(-ik0x)
です。
したがって,[S3^,a^+(k0,λ0)]
=-∫d3x(2π)-3/2(2ωk0)-1exp(-ik0x)
[ε2(k0,λ0)A1 d^(x)-iωk0ε1(k0,λ0)A2^(x)
-ε1(k0,λ0)A2 d^(x)+iωk0ε2(k0,λ0)A1^(x)]
=∫d3x(2π)-3/2(2ωk0)-1[ε1(k0,λ0)exp(-ik0x)∂⇔0A2^(x)
-ε2(k0,λ0)exp(-ik0x)∂⇔0A1^(x)]
を得ます。
ところが,
ia^+(k0,λ0)=∫d3x(2π)-3/2(2ωk0)-1/2
ε(k0,λ0)exp(-ik0x)∂⇔0A^(x) であり,
今のk0の向きを第3軸の向きとする右手系の空間座標軸選択
では,A1^(x)=ε(k0,1)A^(x),かつ,
A2^(x)=ε(k0,2)A^(x) ですから,
結局,[S3^,a^+(k0,λ0)]
=iε1(k0,λ0)a^+(k0,2)-iε2(k0,λ0)a^+(k0,1)
が得られます。
ここで,,右回り(right-handed),および,左回り(left-handed)
の円偏光(circularly polarization of light)の,波数ベクト
ルがkの波を生成する演算子を,それぞれ,aR^+(k),および,
aL^+(k)として,
それらを,線偏光の波を生成する演算子a^+(k,1),a^+(k,2)
の重ね合わせ(1次結合)として,次のように定義します。
すなわち,
aR^+(k)≡(1/√2){a^+(k,1)+ia^+(k,2)},
aL^+(k)≡(1/√2){a^+(k,1)-ia^+(k,2)}
と定義します。
すると,[M12^,aR^+(k0)]=[S3^,aR^+(k0)]=aR^+(k0),
[M12^,aL^+(k0)]=[S3^,aL^+(k0)]=-aL^+(k0)
が得られます。
したがって,一般のkについて,
M12^aR^+(k)|0 >=aR^+(k)|0 >,
M12^aL^+(k)|0 >=-aL^+(k)|0 >
が成立します。
これらは,右回りの波は波が伝播するk方向に+1,左回りの波
は同じk方向に正反対の-1のspinを伴なうことを示している,
と考えられます。
※(注36-2):[S3^,a^+(k0,λ0)]
=iε1(k0,λ0)a^+(k0,2)-iε2(k0,λ0)a^+(k0,1)
ですから,
[S3^,aR^+(k0)]
=(1/√2)[S3^,a^+(k0,1)]+i(1/√2)[S3^,a^+(k0,2)]
=(1/√2)[iε1(k0,1)a^+(k0,2)-iε2(k0,1)a^+(k0,1)
-ε1(k0,2)a^+(k0,2)+ε2(k0,2)a^+(k0,1)
です。
ところが,ε1(k0,1)=ε2(k0,2)=1,ε1(k0,2)=ε2(k0,1)=0
なので,[S3^,aR^+(k0)]=(1/√2){ia^+(k0,2)+a^+(k0,1)}
=aR^+(k0)です。
同様にして, [S3^,aL^+(k0)]=-aL^+(k0)
を得ます。
(注36-2終わり)※
少し短かいですが.今日はここで終わります。
(参考文献:J.D.Bjorken S.D.Drell "Relativistic Quantum Fields" (McGrawHill)
PS: 11/11の記事:「相対論的場の量子論(正準定式化)(32)」では,
現在,実行している定式化段階での共変性を犠牲にした輻射ゲージ
での量子化手法を,「Gupta-Bleulerの方法」に基づいているという誤解
した前置きを書いてしまいました。
昔のノートですから予め内容を全て把握してなくても大体の記憶に頼
って,大前提,,前置きくらいは現在のブログ向きに修正したり,それらしく
体裁を整えたつもりだったのですが。。
ここに至って,自身の原稿ノートのこの先を見ると,
後はこの定式化での光子のFeynman伝播関数を与えて,最後
にS行列を与える振幅のdiagramsの計算ルールを与えればこ
の自由電磁場の項目は終わることになってました。
謂わゆる不定計量の空間を設定し,その中から∂μAμ^の期待値
がゼロとなるという,期待値の意味で共変性を維持する
補助条件(Subsidary-condition)を課す,という
有名な「Gupta-Bleulerの方法」に関する論議が文章だけと
しても,私の過去ノートには全く出てきてないことに
気付きました。
<Phys|∂μAμ^|Phys>=0,あるいは同義ですが,
∂μAμ^の正振動数部分:∂μAμ(+)^に対して,
∂μAμ(+)^|Phys>=0 を満足するベクトル|Phys>のみ
が物理的に許される状態であるとするのが,
私の記憶している「Gupta-Bleulerの方法」のミソです。
今,記述しているB-Dテキストの輻射ゲージ方法は,理論の
整合性に拘泥するより,現実の観測事実を正確に予測できる
公式さえ得られればいい,とする有効理論(対症療法)に近い
手法でした。
(※ QEDのくりこみ理論も,未だ,有効理論ですね。)
なお,シリーズ記事(32)での誤解を生む記述は既に
削除しました。
時間があれば別記事で「Gupta-Bleulerの方法」
も書こうと思います。
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コメント
-iωk0ε1(k0,λ0))A2^(x) → -iωk0ε1(k0,λ0)A2^(x)
投稿: hiota | 2012年12月17日 (月) 17時20分
=(2π)-3/2(2ωk0)-1/2ε1(k0,λ0) exp(-ik0x) → =(2π)-3/2(2ωk0)-1/2εi(k0,λ0)exp(−ik0x)
投稿: hiota | 2012年12月15日 (土) 20時15分
(A11 d^A2^-A2 d^A1^) → (A1 d^A2^-A2 d^A1^)
G1^|Ψ>,G2^^|Ψ> → G1^|Ψ>,G2^|Ψ>
-x2G1^^)|Ψ> → -x2G1^)|Ψ>
A2^^(x) → A2^(x)
A1^^(x) → A1^(x)
=(2π)-3/2(2ωk0)-1/εi → =(2π)-3/2(2ωk0)-1/2εi
=-i (2π)-3/2(ωk0/2)1/εi → =−i(2π)-3/2(ωk0/2)1/2εi
今のk0の向き第3軸お向きとする → 今のk0の向きを第3軸の向きとする
ここで,,右回り → ここで,右回り
投稿: hiota | 2012年12月12日 (水) 17時30分